ドーモ=ミナサン。
新しいストーリーが追加され、涙ながらに別れるしかなかったオルガマリー所長と一緒に過ごせるようになり感極まったseven774です。
いやもう、本当に嬉しかったです……。あんな形でお別れなんて嫌だと思っていたので、ああしてワイワイしながら一年楽しめるのかと思うと、これからのストーリーに対してワクワクが止まりませんッ! 新しい経営顧問も加わった事ですし、彼が今後どういう形でストーリーに関わっていくのかも楽しみですね。尤も、ロリンチちゃんについては少し気がかりなところもあるのですが……。
とにもかくにも、本編、どうぞッ!
凄まじい勢いで迫ってくる地面。そこに激突する前に体を回転させ、両足を突き出す。
丁度、落下していく私の背後にあった木の枝を消し飛ばす程の勢いで突き出された両足は私の体を上空へと打ち上げ、態勢を整えた私は前宙返りをしながら前方の木の頂上に着地するが―――
「わ、わわわわッ!?」
全身に走る痛みによって体勢が崩れ、落下。ガサガサと枝や木の葉に揉まれながら情けなく地面に落ちた結果、強くお尻を打ち付けてしまった。
「い、たたた……。やっちゃったなぁ……」
ジンジンと痛むお尻を摩りながら立ち上がるも、次に感じるのは、先程も私を襲ってきた全身の痛みだ。あの巨人から受けた攻撃による傷が今の落下でより深まってしまったのか、尻餅をついた時とは違うズキズキとした痛みに顔を顰める。
(立香ちゃんと、あのクルーみたいな子……それとストーム・ボーダーについても気になるけど、今は傷を癒さないと……)
呼吸を行い、取り込んだ空気を基に体内で生産されていく魔力で治癒魔術を行使。全身の傷―――特にザックリと裂かれてしまった背中の完全な治療には至らないまでも、所々から感じる痛みが和らいでいく。応急処置程度のものだが、私の自然治癒力も含めればあと数分もすれば完治するだろう。
(……うん。体の傷はこれぐらいでいいかな。次は―――)
『上姉上ッ! ご無事ですかッ!』
「わッ!? もう、アルバ……そんなに心配しなくとも大丈夫だよ。なんともな……くはないけど」
完全に油断していたところにいきなりアルバからの念話が入り、その場で少し飛び上がってしまう。だが、すぐに気を取り直してそう返すと、アルバの声に宿っていた険しさ に深みが増した。
『……今すぐそちらへ向かいます。真体であれば時間もかけずに到着しますので、動かずに待っていてください』
「待って待って待って。さっきまで私が真体になってたのに、君まで真体になったら本当にマズいから。この異聞帯の勢力に集中され過ぎたら絶対に厄介な事になるから。それに、傷ももうしばらくすれば治るから、そこまで気にしなくていいんだからね?」
先程の私とU-オルガマリーの戦闘は、短時間ながらもかなりの規模で行われたものだった。外界での巨人出現も考えれば、この異聞帯にいる敵対勢力には絶対に目を付けられているはず。そんな状況でアルバまで“煌黒龍”の姿になってしまえば、より事態が厄介な方向に発展してしまう可能性が高い。これ以上事態を悪化されるとどうしようもなくなってしまう事を伝えると、アルバはようやく理解してくれたのか『……わかりました』と渋々返してくれた。
『ですが、もしなにかあれば必ず呼んでください。すぐに駆け付けます』
「うん。その時は頼りにさせてもらうよ。……そうだ。君に聞きたい事があるんだけど、今大丈夫?」
『はい。なにか?』
「君が言ってた現地民の事。彼らはこの世界の人類なの?」
『人類……と言えばそうなのですが、上姉上の想像するものとはかなり異なるかと』
「……? どういう事?」
アルバの返答に首を傾げながら、周囲の地形や様子を確認する為に使い魔を複数召喚する。私が軽く手を振るって召喚された、手のひらサイズのワイバーンや蛇などが散開していく様子を見ながら歩を進め、アルバからの報告に耳を傾ける。
『彼らの名はディノス。この世界では、
「恐竜人類……ディノス……。アルバ、続けて」
『わかりました。このディノスというのは―――』
そうしてアルバから聞かされた情報に、私は驚きが隠せなかった。
ディノス。この南米異聞帯で繫栄した、この歴史の霊長。彼らは総じて強靭な身体能力と生命力を持ち、アルバから見た限りでは、肉体スペックならサーヴァントにも引けを取らないと考えられるらしい。加えて、彼らは皮膚組織に植物の葉緑体に近い組織を持っており、水と太陽光さえあれば生存可能らしく、食事はあくまで娯楽の範囲に留まっているようだ。しかし、絶対に食事を取らないというわけではなく、草食は可能。だが肉食を行った場合、そのディノスは理性を失って暴走、最悪の場合はそのまま死に至る可能性すらあるという。
知性も高く、試しにアルバが自身の武器であり分身でもある槍を見せてみれば、彼女が保護したディノス達は即座にそれがアルバの分身だと気付いたらしい。ただの武器として認識するのではなく、それを持つ彼女とその槍が同一の存在である事に気付いた……これだけでも、彼らが高度な知能と有しているのがよくわかった。
気性は穏やかだが、温厚すぎる故か、物事への執着は低い。だが、全てのディノスがそうであるというわけではなく、アルバの出会った彼らは『サッカ』と呼ばれるスポーツに熱中しているようだ。それについては個体差と言う他ないだろう。これに関しては、私の知る人類と同じらしい。
(大抵の物事に対する執着こそ薄いけど、これと決めたものに対してはひたすら邁進する……か。スポーツ以外にもそういった『自分のやりたい事』を見つけたディノスもいるだろうし……なにより、恐竜か……)
視界を遮る巨大なシダの葉を退かしながら、歩を進めていく。
恐竜とは、モンスター達が環境の変化によって進化していく中で得た姿だ。後に人類が台頭するまでこの星の霊長として君臨していた種族だった。そんな彼らが現代まで生存し、人類と名乗るまで成長するなんてね。この星で最初に生まれた生命として、竜の母として嬉しいという気持ちがあるな。私この世界の子達の母龍じゃないけど。
それからも色々とアルバからディノスについてや、彼らから聞いたこの地底世界―――ミクトランについての情報を教えてもらった私は、「ありがとうね、アルバ」と伝えた。
「この世界の人類について知れたし、ミクトランの事も大体わかった。距離もシグルド達と比べれば近いし、そう遠くない内に会えるかもね」
『なにも問題がなければ、ですが』
「そうだね。君が保護したディノス達を襲った連中……オセロトルがまた来るかもしれない。君達の方にも、私の方にも」
アルバから受け取った情報の中にあった、オセロトルという種族。ディノスと比べればより人間に近しいフォルムの種族らしいが、完全な人類ではないようだ。アルバがディノスと出会ったのは彼らがオセロトルから逃げてしばらくした頃だったのでまだ遭遇していないそうだが、サーヴァント級の身体能力を持つ彼らに傷を与えられる存在だ。尤も、その傷もオセロトル達が持っていた銃火器によるものらしいが、警戒するに越した事はないだろう。
それに、オセロトル達の目的も気になる。ディノス達の話によれば、彼らは神への供物としてディノス狩りや捕獲を行っているそうだ。神への供物として動物を捧げるのは昔からよくあったからまだ許せるけど、今回はその対象がなぁ……正直言うと滅茶苦茶嫌だ。それに、狩猟だけじゃなくて捕獲もしているとなると……正直、嫌な予感しかしない。偶然とはいえ、アルバが彼らを保護できて本当に良かった……。
とりあえず、オセロトルは敵対行動を取り次第始末して、情報が引き出せそうなら引き出そう―――そう思っていると、放っていた使い魔達から送られてきた情報の中に幾つか気になるものがある事に気付いた。
一つはディノスの痕跡。巧妙に隠されているが、微かに使い込まれている形跡が見受けられる道に刻まれたわかる足跡から、それなりの体躯を持つディノスのものだろうと推測できる。
もう一つは立香ちゃん達だ。どうやらあの少年も無事だったようだけど―――その傍らにいる存在に眉を顰めた。
(U-オルガマリー……? でも、この様子は……)
使い魔の視界越しに捉えたU-オルガマリーの様子は、これまでとは全く違った。
私と戦っていた時の虚ろな瞳には理性の光が戻り、至ってなんともない様子で立香ちゃん達と接している。敵対関係であるはずの彼女達と行動を共にしているとなると、理性を取り戻したと同時に、敵対する意思そのものが失われている? 試しにその情報を送り続けている使い魔に聴覚も付け加えてみれば、「あぁ」と納得がいった。
(記憶喪失か。自分の名前と目的以外は全部忘れて―――あっ)
バツン、と。立香ちゃん達を視ていた使い魔との繋がりが途切れた。どうやら気付かれてしまったらしい。こうなった以上向こうも警戒しているだろうから、欲張るのはやめておこう。
会話を途切れさせてしまった私を訝しむように『上姉上?』と声をかけてくる末妹に、今手に入った情報を伝える。
『記憶喪失、ですか。では、手出しは控えるべきですか?』
「そうだね。いつ記憶が戻るのかについてはちょっと気になるけど、今はそれぐらいかな。あの子達と一緒ならたぶん大丈夫だろうし。―――U-オルガマリーについてはこれでいいとして、君は保護したディノス達を安全な場所に連れて行ってあげて」
『わかりました。その後はカドック達との合流に向かっても?』
「そこは君の判断に任せるよ」
『では、そのように』
「気を付けてね」
『はい。では、失礼します』
その言葉と共にアルバとの念話が終了すると、私は「ふむ」と腕を組み、思考を巡らせていく。
U-オルガマリーはあの神の眷属による肉体支配から脱していた。私の力もそうだけど、解除の最後のキッカケになったのは、恐らくあの巨人の一撃だろう。彼女が腕に纏わせていた翡翠の雷は私の緋雷と酷似した力が宿っていたから、彼女もまたU-オルガマリーにかけられた術を解除しようとしていたのだろうか。
けれど、だからといってすぐに接触するのは違うだろう。私と会った影響で変に記憶を取り戻されたりしたら困る。
両膝を曲げ、跳躍。目の前に聳える巨木の上に降り立った私は、広大な森林の奥に見える山に目を向ける。
凄まじい高さの山だ。まるで大小様々な針が合わさって形成されたような山脈を眺めながら、私は比較的そこに近い場所にいる使い魔に、その山を越えるよう指示を飛ばす。
私の指示を受けた使い魔が小さな翼を広げて山を飛び越えようとしたが……次の瞬間には、その使い魔は山に差し掛かる前に下方から飛んできたなにかによって砕かれ、魔力となって霧散していった。
(なに、今の……?)
使い魔では捉えきれない速度。すぐにその攻撃が飛んできた場所に視線を移すと、そこには私がこの世界に侵入した際に見た巨大な河があった。
試しにもう一度使い魔を飛ばしてみる。今度は五体をほぼ同時に、しかし密集はさせずバラバラに向かわせてみるが、結果は同じだった。
次に気配による探りを入れてみる。こちらでは、その河になにかがいるのは掴めたが、詳細を探ろうとするとノイズがかかったようにわからなくなる。私がいた時には攻撃を受けなかったから、たぶん私とU-オルガマリーが戦った後に居着いたのだろう。
(気軽に真体に戻れたらよかったんだけど、残りの令呪は一画……。気にはなるけど、使い時じゃないな)
私が“祖龍”の姿に戻る為には、今はまだ令呪に宿った魔力を使うしかない。しかし、その令呪も残り一画。使い時は慎重に見極めなければ……。
(でも、あの河を越えないと先には進めない。使い魔だと無駄なら、やっぱり私自身で確認した方が……ん?)
一先ずの目的は定まった。まずはあの河を越える事を目指そうと思った時、視界の端に轟音と共に砂煙が巻き上がった。
木々を足場にそこへ向かっていくと、その砂煙を起こした者の姿が見えてくる。
「ヤァ―――ッ!」
近くの木の枝に降り立った私の視線の先で戦うのは、顔上部をバイザーで覆って戦うマシュ・キリエライトだった。
両手で盾を握り締める彼女の眼前に立つのは、ティラノサウルス……ではなく、そこから進化したディノスだ。しかし、その瞳に理性は欠片も宿っておらず、轟かせる咆哮もまた理性を感じさせないもの。アルバが言っていた暴走状態のようだ。既に別のディノスが一体倒れているところを見るに、先の轟音は彼女があのディノスを倒した時に出た音なのだろう。
(ブリテンにいた時と比べてちょっと出力は下がっているけど、それでも強くなっている。お手並み拝見させてもらうよ、マシュ)
「グォオオオオオオッッ!!」
咆哮を上げながらの突進。小さな地響きを起こしながら迫る巨大な質量の塊を、マシュは真正面から受け止めた。
その場で殺し切れなかった衝撃で彼女の体が後方へ押されていくも、彼女は歯を食い縛りながら盾を逸らす。受け流される形となった暴走ディノスの軌道が逸れた瞬間に動いたマシュが、魔力をブーストさせた盾で暴走ディノスの右足を叩いた。
「グルォ……ッ!?」
本来なら曲がるはずのない方向に曲がった右足。そのせいでバランスを取れなくなった暴走ディノスが崩れ落ちていく瞬間には、彼女の姿はその頭上にあって―――
「これで……終わりですッ!!」
再びの魔力ブースト、己の身体機能、そして重力を活かした一撃で、暴走ディノスにトドメを刺した。
脳天に盾を振り下ろされた暴走ディノスは断末魔を上げる事無く、その場に力なく倒れ伏した。マシュは眼前の敵が完全に沈黙した事を確認すると、顔上部のバイザーを外して「戦闘、終了」と、静かに自らの勝利を口にした。
大きな傷を負う事無く暴走ディノス二体との戦闘を終わらせたその姿に口元が綻ぶのを感じながら、私は彼女より少し離れた場所に降り立った。
「お疲れ様、マシュ。また腕を上げたようだね?」
「……ッ! 貴女は……ッ!」
「あぁ、身構える必要はないよ。私に戦う気はないし」
まだ戦闘時の高揚感が消えていなかったのか盾を構える彼女に、両手を軽く上げて戦意がない事を伝える。そうすると彼女も私に戦う気がない事を理解したのか、臨戦態勢を解除してくれた。
「す、すみません。いきなり現れたので、つい……。アンナさんもご無事だったんですね」
「そういう君こそ。よくあの状態で脱出できたね。ストーム・ボーダー、かなり酷い有様だったでしょ?」
「そう、ですね……。あの、先輩……藤丸立香は見ませんでしたか? 私達よりも先に落ちてしまったので……」
「大丈夫だよ、しっかり生きてる。ここからはかなり離れているけどね。そういえば水兵っぽい子もいたけど、あの子も君達の仲間?」
「ッ! マリーンさんもいるんですねッ! よかった……」
本当に心の底から心配していたのだろう、マシュは立香ちゃんの無事を知ると安堵の息を吐いて胸を撫で下ろしていた。
『だから言っただろうマシュ? あの二人なら大丈夫だってッ!』
……? 誰の声……って、あぁ、なるほど。
「今の声、その盾の中にいるんだね?」
「あ、はい。そうなんです。ハベトロットさん、出てこれますか?」
『わかったッ!』
元気よく答えと共に盾から飛び出してきたのは、桃色の服を着込んだ小柄なサーヴァントだった。
彼女には見覚えがある。ブリテンでオベロン・ヴォーティガーン達と戦っていた時、マシュにブラックバレルのレプリカを渡しに来た妖精と瓜二つだ。一瞬あの世界の彼女なのかと思ったが、サーヴァント化した事によって気配が若干違う点も含めてみると、恐らく汎人類史のハベトロットなのだろう。
「自己紹介させてもらうね。ボクの名前はハベトロット。一応ライダーのクラスなんだけど、今はマシュの守護妖精さッ!」
「アンナ・ディストローツよ。よろしくね、ハベトロット」
軽く屈んでハベトロットが差し出してきた小さな手と握手して―――
「そこにいるの、出てきなさい。隠れているのはわかってるよ」
私の背後に聳える木。そこに身を隠している存在に声をかけた。
「おや、気付かれていましたか。念の為保護色をかけ、息を潜めていたのですが……」
木の奥にある気配が、より鮮明に把握できるようになる。
振り返った私と、ハベトロットを盾に戻したマシュの前に現れたのは、小さな眼鏡をかけた、デイノニコサウルスに似たフォルムを持つディノスだった。
今彼が口にしたように、自身の体色を周囲に溶け込ませる事で擬態していたのだろう。これまでマシュ達が彼の潜伏に気付けなかったのも考えると、かなり念入りに隠れていたのだろう。
けれど、私はそれ以上に気になる要素に気付き、目を細めた。
(この目は……)
「? 私の顔になにか?」
「……いや、なんでもないよ。あぁ、自己紹介が遅れたね。私はアンナ・ディストローツ。アンナって呼んでくれると嬉しいな。君の名前は?」
「私はテペウ。星詠みのテペウです。これからよろしくお願いします、アンナさん。そちらの方々も、よろしくお願いします」
「あ、は、はいッ! マシュ・キリエライトですッ! よろしくお願いします、テペウさんッ!」
「ボクはハベトロット。よろしくね、テペウッ!」
これが、私とこの世界の人類のファーストコンタクト。彼には聞きたい事が幾つかあるし、これは色々と話を聞けそうで楽しみだ。
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ルーツがテペウ達と出会った頃、第五層トゥーラにて。
「戦闘終了よ。苦戦するまでもないわね」
「……あぁ、お疲れ。アナスタシア」
つい数分程前までは鬱蒼と木々が生い茂った周辺を氷の世界に作り上げたアナスタシアに、カドックが労いの言葉をかけていた。
こちらに振り向いている彼女の前には、氷漬けにされた襲撃者達―――オセロトルの姿がある。全員がヒョウ柄の衣装と豹の面を身に付け、口々に聞き慣れない言語を放ちながらカドック達に襲い掛かってきた彼らであったが、既にアナスタシアによって物言わぬ氷像に変えられていた。
しかし。
「浮かない顔ね、マスター。なにか気になる事でも?」
「あぁ。……こいつを見てくれ」
数歩歩いた先で膝を曲げたカドックの傍に寄ったアナスタシアが、彼の指差すものを見て目を細めた。
そこに落ちていたものは、襲撃者達が使用していた銃器の内の一丁だった。見た目はサブマシンガンタイプのものであり、所々に古傷が見える辺り、かなり使い込まれていたのがよくわかる。
しかし、カドックの目はそこには向けられていない。彼の視線が捉えていたのは、その銃身に刻まれた無数の模様だ。それを見たアナスタシアは、彼がなにを見ているのかを察して「なるほど」と小さく声を零した。
「
「あぁ。それも複数の術式が刻まれている。ただの銃にしては性能が良すぎるとは思ったが……こういう仕組みだったみたいだ」
あの襲撃者達との戦闘時、彼らの手にした銃はカドックの記憶にあるものよりも威力が速度も数倍は上だった。アナスタシアはそれを難なく防いでいたが、もし自分がこれによる集中砲火を受けていたのなら、瞬く間に蜂の巣にされていただろう。
加えて、と、カドックが魔術を発動させる。発動させたのは簡単な分解魔術。基礎的な知識さえ学べば、一般的な魔術師なら誰だって行使できるそれを目の前のサブマシンガンに向けるが……効果は表れない。
「やはりな……
「キャスターですか……。もし貴方の予測が正しければ、面倒な事になりますね」
「あぁ」
もし自分の言葉が事実であれば、そのサーヴァントを消滅させない限り、この改造された銃器は永遠に製造され続けるだろう。試しに他の銃器も確認してみたところ、それらにもそれぞれに適した魔術的な改造が施されているのがわかった。恐らく、製造ラインも確立されているはずだ。
そしてその場合、今はまだ大丈夫でも、長期戦となればこちらが圧倒的に不利になるのは確実。契約したキリン亜種を喚び出すという選択肢もあるが、あれはそう簡単に切っていいものじゃない。しばらくは自分とアナスタシアで行動していく他ないだろう。
「一先ずはここから離れる。こんな目立ちやすい目印が出来たんだ。見つかる前に移動しよう」
「あら、それは私に怒っているのかしら?」
「そういうわけじゃないさ。君とヴィイの力で戦う以上、こうなる事は予測できていた。必要経費、と言うやつさ」
「では、どちらへ行きますか? 不意打ちを避けたいのでしたら、あの山が良さそうですけど」
動いたアナスタシアの視線を追う形で背後を振り返れば、巨大な山麗が見える。
文字通りの針の山を脳裏に連想させるような、頂上が鋭く尖った山脈。生い茂る木々によって視界が遮られるこの森に留まるよりは、彼女の言うようにあの山に入るのがいいだろうが―――
「いや、やめておこう。あそこに入るのはまずい。背筋が凍るような、嫌な感覚がする」
視界を遮る木々や草木がなく、高所に陣取れば下から来る敵にも気付きやすい。今の自分達からすれば魅力的な地形だが、時々そこから吹いてくる冷たい風に、カドックは本能的な恐怖を感じていた。あの山には立ち入らない方がいいと、本能が囁いてくるのだ。
小さく眉を顰めて首を横に振った主に「そう」と答えたアナスタシアは、それ以上山について聞く事は控えた。
「では、これからどうしましょうか。あの山に入らないのなら、このままこの蒸し暑い森の中で過ごすのかしら」
チラリと自身が凍らせた襲撃者達を見やる彼女に、カドックは「そうだな……」と顎に指を這わせる。
(あの山には入れない。かといって変に動き回れば、またこいつらに見つかる可能性が高い)
それならと、カドックは意識を集中させる。この地に到着した直後に周囲へ散開させた使い魔達のリンクを探れば、彼らの見聞きした情報が流れ込んでくる。それらの中から比較的敵の少ない地点にいる使い魔を操作し、姿を隠しやすい場所を捜索させる。
(……よし、ここにしよう)
使い魔の視界を通して見つけた洞窟。周囲に茂みもある事からすぐに見つかる可能性は低く、立地的にトラップも仕掛けやすい。今はこの洞窟に移動し、身を隠す方がいいだろう。
「洞窟を見つけた。ひとまずはそこに向かう」
「わかりました。その後はどのように?」
「まずはアンナ達に連絡を取る。使い魔なら僕らよりも発見されにくいし、複数体から彼女らとも遭遇しやすいだろう。向こう側も使い魔を放っているはずだろうから、今はそれと合流してくれるのを祈るしかないな。……アナスタシア。ヴィイの瞳で、この銃に組み込まれた魔術避けを解除できるか? 後は僕が解体する」
「可能ですが、よろしいのですか? そうすれば、その魔術銃はただの銃に変わりますが」
「組み込まれた術式や、構築については大凡予想が付いている。後はそれに基づいて解析していけばいい」
「では……」
アナスタシアが持ち上げたヴィイの瞳が妖しい輝きを放つと、カドックの前にあった銃に組み込まれていた魔術的な改造が消え失せた。その後カドックが銃を解体すれば、この銃は先程アナスタシアが口にした『ただの銃』……だったものになった。
よし、と。それを手に取ったカドックが歩き出せば、アナスタシアも彼の後に続いて歩き始める。
「……一つ、聞かせてほしいのだけれど」
先程の戦闘の余波で凍りついた場所から離れた事でジメジメとした湿気を感じるようになったアナスタシアは、ドレスが肌に張り付く嫌な感覚から意識を逸らすかのように、先を歩く主の背に声をかけた。
「貴方は、カルデアへの再戦の為にアンナに協力する事を選んだのよね?」
「いきなりどうした。君もあの場にいたんだから知っているはずだろう?」
カドックがルーツに、彼女の計画に賛同する旨を伝えた時、アナスタシアは彼の傍にいた。であれば当然、自分の主目的がカルデアへのリベンジである事はわかっているはず。なのになぜそのような事を聞いてくるのか、と訊いてみれば、アナスタシアは静かに返してきた。
「貴方は、それが本当に正しいと思っているのかと考えたのよ」
「は……」
思わず、進めていた足が止まる。
カドックが振り返れば、自身をじっと見つめるアナスタシアの瞳と視線が交差した。
「な……なにを言ってるんだ。僕のあの言葉は事実だ。ロシアでは冷静でいられなかったから、僕は一度、君を喪ってしまった。だから今度こそ勝って、僕は君に―――」
「えぇ、貴方のその感情は本物よ、カドック。それは私も理解しています。ですが、貴方の心には、それとは別の感情があるように見えるわ。―――本当はわかっているのではないかしら。自分が本当は、なにをすべきなのかを」
カドックがカルデアへのリベンジに燃えている事は、アナスタシアも当然理解している。それが嘘偽りない事実だという事も。
しかし、彼女は自らの主の内に、それとは別の感情がある事を見抜いていた。
彼がどのような感情を抱いているのか、アナスタシアは大凡の予測はついている。以前カドックと共に戦い契約したキリン亜種も、恐らく彼の心の底にあるそれに気付いているだろう。
だが、それを考えると同時、もう一つ気付く事がある。
(アンナも、知っているのでしょうね。それも、
それは、端から見れば愚かな行為だ。彼がその感情の正体に気付けば、間違いなく自身にとっての障害となる。そんなものを敢えて放置し、
しかし。
『実力不足……? 今の君達は特に問題はなさそうに思えるけど。ブリテンでもアルトゥーラやオベロンを相手に生き残ったんだから、実力は充分にあるんじゃないの?』
『……あの時僕らが出来ていたのは、悔しいがサポート程度だ。目に見える一撃を叩き込む事も出来なかった。……僕がアンタに協力する理由は、この前話したよな?』
『うん。カルデアとの再戦だよね。……そうか、その為に強くなりたいんだね?』
思い出すのは、カドックが自らの力不足を嘆いて彼女に協力を要請した時の会話。もしあの時、彼女の中に『カドックに助力する』以外の目的があったとしたら……?
それに、この考えが正しいと仮定した場合、キリン亜種はそれすら理解した上で、自分たちに協力してくれているのではないかという予測に行き着く。
動揺している主の顔から、その右手首に装着されている宝玉に視線を向ける。アナスタシアの探るような視線に、宝玉はキラリと光を反射して瞬いていた。
(これはきっと、いずれ気付くべきもの。でも……)
その答えに行き着くのは、彼自身でなければならない。自分達はあくまで、その行程を見守るしかないのだろう。
「…………僕、は……」
涼し気な表情の裏で考えを巡らせているアナスタシアに対して、カドックは喉が酷く乾いていく感覚を覚えていた。彼女がどのような答えを求めているのかは……悔しい話、今の自分にはわからない。しかし、それでもなにか答えなくてはならないと、カドックが続けようとした瞬間だった。
「■■■」
「■■■■」
「■■■■ッ!」
くぐもった幾つもの声と共に、ガサガサとこちらに向かってくる者達に気付いた。
この声には覚えがある。先程彼らが交戦したオセロトル達が発していた言語と同じものだ。
「チッ、気付かれたか。話は後だ。迎撃するぞ」
「えぇ。行くわよ。ヴィイ」
飛んできた弾丸をアナスタシアが氷の壁で防いでいる間に、カドックは近くの木陰に身を隠す。
どうやら、落ち着いて話をするのはまだ先のようだ―――そう思いながら、カドックは姿を現したオセロトル達と戦い始めたアナスタシアの援護を始めるのだった。
・『ルーツの神への生贄や供物に対するスタンス』
……特に悪感情はない。昔は信仰する対象に祈りを捧げる際に生贄を捧げるなどよくあった事だし、なんなら自分もされた事がある(当然すぐにやめさせた)から、「文明を持つとこういうのもあるよね」という考え。ただし今回の世界の神となると、予想としてアレが挙がるので例外。
・『この作品の恐竜とモンスターの関係』
……恐竜から進化したのがモンスター。本来の歴史では巨大隕石の衝突や氷河期などで恐竜は絶滅の一途を辿ったが、この作品の世界ではルーツが飛来してきた隕石を欠片も残さず破壊した為隕石関連の諸々の出来事が起きず、恐竜達はそのまま順当に進化していきモンスターとなった。哺乳類も彼らの進化に引き上げられる形で進化していき、やがて人類となって『モンスターハンター』の世界が始まった。
・『オセロトル達の使う銃器』
……カドックが最初に確認したサブマシンガンは、元々の見た目、性能こそSIG MPXと同一のものだが、刻み込まれた魔術式により性能が強化され、見た目も少し変化している。刻まれた魔術式は銃本体の強度の強化、弾速増速、発射時に火属性のエンチャント、
・『アナスタシアが見抜いた、カドックの感情』
……カルデアへのリベンジは間違いなく本心だが、その裏にとある感情がある事を、アナスタシアは見抜いていた。キリン亜種とルーツもこれに気付いているが、前者はそれを理解した上で彼に協力する道を選び、後者はそれが彼の次の“試練”と捉えている。
・『現在のルーツ達の所在地』
……ルーツは第一層トラロカン、アルバは第三層チチェン・イツァー、カドックとアナスタシアは第五層トゥーラ(具体的には第四層イスタウキに近い森林地帯)、シグルドは第五層トゥーラのメヒコシティ付近。
ルーツ視点で執筆してみると、なんだかんだ筆が速くなりますね。不思議な感覚ですが、悪くないのでこの調子で続けていきたいですね。
そういえば本日、ロード・ログレスの絆レベルが10になりましたッ! 召喚してから二週間でここまでいけたのはロウヒ以来ですかねぇ。絆礼装のテキストもかなり好みなものだったので、本当に嬉しかったですッ!
それではまた時間ッ!