―――栄光を望むならば蘇生を選べ
―――怠惰を望むのなら永久の眠りを選べ
果たしてそれは、男のものか、女のものか。頭に響く声に、微睡から目を覚ます。
目覚めた矢先にこんな意味不明な問いを投げかけられたのは、これが初めてだ。
初めに浮かんだのは、『困惑』。いきなりの質問に脳が追い付いていないのもそうだが、彼女にとっては、どうしたものか、という悩みも含まれている。
正直言って、今の時代に未練はない。あの輝かしき時代から生き続け、人々の行く末を見届けようとは思っていたが、所詮は
彼らは乗り越えるべき脅威を乗り越えた。自らの時代を作り上げた。自分の役目は、巣立ちした者達を静かに観察する程度に収めていた。
永遠とも言える長い時間を、人類の観察につぎ込んできた。
醜い部分も、美しい部分も、それはそれはたくさんの出来事を見届けてきた。
家族を奪った者達に対して思うところがない、と言えば嘘になる。それでも彼女は、人類の未来というものに興味があった。
故に、彼女は提示された選択肢の一つを選ぼうとした、その時だった。
―――神は、どちらでもいい
……………イラっと来た。
言葉に端々に、明確な傲慢を感じる。自らを強者と信じて疑わず、負けるなど考えていない。あの大戦で目にした、悍ましき人々と同じ、腐り切った醜悪な態度だ。
直感的に理解した。こいつは碌なもんじゃない、と。
先とは違い、微かな苛立ちと共に、彼女は『それ』の問いに頷いた。
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―――アンナ・ディストローツ。
数ある魔術師達が集う場所―――時計塔の“
彼女の魔術世界における異名は数あるが、中でもその名を聞いた者が最初に思い浮かべる単語がある。
―――
時計塔の地下には“霊墓アルビオン”と呼ばれる場所が存在するのは、魔術世界に生きる者達なら誰だって知っていよう。
時計塔の地下に広がる
“
ぽっと出の人物がいきなり
しかし、驚くのはまだ早い。
いきなり
曰く、『眠たかったから』。
とんでもない返答だ。睡魔に襲われたからなどという理由で死が渦巻く大魔境へと足を踏み入れる馬鹿がどこにいるだろうか。
霊墓から生還した、という情報だけならば『とんでもない逸材がやって来た』という結論で済むだろうが、足を踏み入れた理由も聞くとなると、十人中十人の魔術師が間違いなく卒倒する。
彼女が師事を仰ぐ相手であるロード・エルメロイⅡ世は、数日で単身で霊墓に突撃し、そして一日眠って帰ってきた新たな生徒に、『頼むからそういうのはもうやめてくれ』と懇願したそうだが、アンナはそれを断固として断り続けた。
なぜそこまで霊墓内で寝る事にこだわる、とエルメロイⅡ世が胃に穴が開きそうだと思いながら問い質したところ、アンナはこう答えたという。
『だって、落ち着くから』
エルメロイⅡ世の胃がどうなったかは言うまでもない。
兎にも角にも、来て早々とんでもない事件を引き起こしたこの女は無事(?)学業を修め、時計塔から卒業。時計塔にやって来た頃と同じように、マリスビリーの推薦を受けて“人理継続保障機関フィニス・カルデア”に招かれた。
そこでアンナは優秀な成績を収め、カルデア所属の魔術師の中で唯一英霊召喚を認められた特選チーム―――Aチームの八人目のマスターとして選ばれた。
そこから、突如として閉ざされた未来を救う為、七人のメンバーやB、C、Dチームの者達と共にコフィンに入り、いざ人理修復の旅へ―――
―――そこで、彼女の意識は途絶えた。
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「―――まさかまた、この城が見られるなんてね」
雪のように真っ白な長髪に、ルビーのような緋色の瞳。派手過ぎず地味過ぎない装飾が施されたドレスの裾を靡かせながら、アンナ・ディストローツは小さく呟いた。
かつて栄華を極め、その傲慢さ故に龍達の怒りを買い、滅ぼされた王国。その中心に聳え立つ古城には、悠久の時を経ても尚、この場を支配する厄災を滅ぼさんとする者達を援助する為に備え付けられた大砲や撃龍槍、バリスタが、今か今かとその力を振るう時を待ち続けているが、そんな機会など金輪際訪れないだろう。
“人々がモンスターに蹂躙されるのを是とした世界”。それが、アンナに管理を任せられた
この歴史に生きる人々は、もはや自然との調和を図る事を諦め、絶対者であり捕食者である怪物達に服従してしまった者達だ。絶滅はしていないそうだが、それはあくまで『種を絶やしてはならない』という本能が、辛うじて人類の消滅を食い止めているだけに過ぎない。
「こんなのが“人類史”だなんて、そりゃ剪定されるよね」
「マスター?」
声をかけられ、振り返る。
無明の闇を思わせる禍々しい鎧に、オールバックにした漆黒の髪の青年が、そこに立っていた。もちろん、彼は人に非ず。頭部に見える二本の角と、抑え込んでいるにも拘わらず体外へ放出されている桁外れの魔力が、彼をサーヴァントだと証明している。
「もう。確かに私は君のマスターだけど、実の姉相手にその呼び方は止してもらいたいなぁ。それとも、君は私に“バーサーカー”って呼んでほしいの?」
「む……、それは御免被る。貴女に真名で呼ばれぬほど、辛いものはない」
“
―――黒命のバーサーカー。
―――紅災のアルターエゴ。
―――煉海のアーチャー。
―――煌滅のアヴェンジャー。
その内の一騎が彼―――“黒命のバーサーカー”である。
同じ
なぜかというと、彼が一番勤勉だからである。
アルターエゴはひたすら壊すことしか眼中にないし、アーチャーは基本“
「それより、あの“空想樹”の管理はしなくていいのか?」
「サボってるわけないでしょ? ちゃあんと育ててるわよ。それに、抑止力が召喚したサーヴァントが伐採に来たとしても、私達が負けない限り、この異聞帯は安泰よ」
この異聞帯のクリプターである彼女が育てる役目を担った空想樹の名は、“クエーサー”。非常に離れた距離に存在し極めて明るく輝いているために、光学望遠鏡では内部構造が見えず、恒星のような点光源に見える天体の名である。
「……ねぇ、
クラス名ではなく、愛称で
「異星の神って奴の目的は、この世界を人の時代から神の時代へ戻す事らしいの。君はこの目的に賛同する?」
「迷う必要などない。断固拒否しよう。目的がなんであれ、
「でもさ、
既にこの異聞帯には、漂白された地球の最後の抵抗である“抑止力”が発動し、カウンターとして数多くのサーヴァントが召喚されている。いわば彼らこそ、現時点においての地球の代弁者だ。彼らを排除する事は、果たして自分達において『正解』と言えるのだろうか。
アンナがそう言うと、バーサーカーはぐっと黙り込んでしまう。
星の代行者として生まれた自分達の世界が、母なる星を蹂躙する。それは、到底許される事ではないのだろう。しかし―――
「……構わない。我らは確かに
「……えぇ、その通りだわ」
拳を握り締めたバーサーカーに、アンナはふっと微笑む。
異星の神なんぞに従う気など毛頭ない。かといって、
諦めがついていたと思っていたが、やはり死に別れた家族と再会すると、どうしても離れたくないと感じてしまう。
つくづく自分は甘いと自虐したくなるが、この異聞帯を
「余計なものは排しましょう。余分なものは切り落としましょう。そして、あらゆる生命に“価値”を与えましょう」
―――異なる歴史による殺し合い。生き残るのはたった一つ。
―――ならば、戦おう。そして生き残ろう。
―――生と死を循環させよう。それでこそ、“世界”は“世界”足り得るのだから。
主人公が召喚したサーヴァントの真名は既にわかると思いますが、迷ったのがクラスなんですよね。特に“煉海”は火山岩を撃ち出すから、という安直な理由でアーチャーにしましたが、これ以上に適切なクラスがあれば、教えてください。
それではまた次回。