【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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秘匿者(クリプター)

 

 “星間都市山脈オリュンポス”。

 

 古の時代、遥か遠くの地に栄えた文明が造り上げた、機械仕掛けの神々が治める世界。

 

 その上部に位置する神々の居城とも呼べる場所にある大広間が映し出され、同時に他の異聞帯を管理する、人類を裏切ったマスター達の姿も映し出される。

 

 

『全員揃ったね。では、定例会議を始める』

 

 

 ホログラムの一つ―――元Aチームのリーダーであるキリシュタリア・ヴォーダイムが口を開くと、彼に七人分の視線が集まった。

 

 

『空想樹の発芽から90日。三ヶ月もの時間が経過した。濾過異聞史現象―――異聞帯の書き換えは無事終了した。まずは第一段階の終了を祝おう。これも諸君らの尽力によるものだ、と』

『うん? そいつは大袈裟だ、キリシュタリア。オレ達はまだ誰も労われるような事はしちゃあいない。宇宙からの侵略も、テクスチャの書き換えも、全部“異星の神”様の偉業だからな。オレ達がした事といえば、異聞帯の王のご機嫌取りだけさ。本番はここからだろう?』

 

 

 開口一番にキリシュタリアの言葉に首を振ったのは、ベリル・ガット。しかし、そんな彼に眉を顰める者が一人。

 

 

『わかっていないのね、ベリル。異聞帯の安定と“樹”の成長は同義よ。キリシュタリア様は異聞帯のサーヴァントとの契約と、その継続に全力を注げと言っているのです。貴方のように、まだ遊び気分が抜けていないマスターに対して』

 

 

 言い聞かせるように最後の一言を強めて言い放つのは、オフェリア・ファムルソローネ。右目を眼帯で隠している、北欧異聞帯の管理者である。

 

 

『おいおい、睨むのは勘弁だぜ、オフェリア。お前さんの場合、シャレになってないだろう? ……というか、キリシュタリア()、ね。目が覚めてから随分と変わりようで。ま、そのあたりは茶化さないさ。こんな状況だ。誰かに縋りたい気持ちもわかる。なんで、誤解だけ正しておこうか』

 

 

 そこで先程までの楽観的な表情を消したベリルは、いつになく真剣な表情で続けた。

 

 

『オレはかつてないほど真剣だよ、お嬢さん。なにしろ一度死んできたわけだしな? 遊び半分でいられるほど大物じゃあない。こうして蘇生に成功したものの、異星の神とやらの恩情が二度あるとは思えない。なら生きているうちに、やりたい事はやっておきたい。殺すのも奪うのも、生きていてこその喜びだ。―――なぁ、アンタもそう思うだろ、デイビット?』

『同感だ。作業のような殺傷行為はコフィンの中では体験できない感触だった。オレの担当地区とお前の担当地区は原始的だからな。必然、その機会に恵まれる』

「ちょっと待ちなさいな。それを言ったら私の異聞帯だって負けてないよ?」

 

 

 デイビット・ゼム・ヴォイドが頷くのを見て、静かに彼らの話を聞いていたアンナは口を挟まずにはいられなかった。

 

 

『そういえばそうだったな。アンタの異聞帯も、オレ達のと同じだったわ。てかなんだよ、アンタの管理する異聞帯。なんでも幻想種の最上位―――竜種が闊歩してる魔境なんだろ? しかもそのほとんどが、アンタのサーヴァントに( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )従っている( ・ ・ ・ ・ ・ )。いったいどんな奴を喚んだんだ?』

「秘密~。私達は今でこそ各々の空想樹を育てる立場にあるけど、その後はお互いの異聞帯を潰し合うんだからね。手札は隠しておかなきゃ」

『隠しても無駄だろう、ディストローツ。大量の竜もそうだが、そのさらに上位に君臨する存在―――“古龍種”すらも支配できる存在など、お前の異聞帯を考えれば自ずと判明する』

「ありゃ、バレちゃってるの? それなら隠す意味もないかぁ。なんか馬鹿らしく思えてきちゃった」

『……………』

『あら。平常運転のベリルに比べて、元気が無いんじゃない、カドック?』

 

 

 どこか神妙な顔つきで黙っているカドック・ゼムルプスを見かねたスカンジナビア・ペペロンチーノが声をかける。

 

 

『目の隈とか最悪よ? 寝不足? それともストレスかしらね?』

『……その両方だ。僕の事は放っておいてくれ。仕事はきっちりこなしているんだから』

『それはちょっと無理ね。すごく無理。放っておいてほしいなら、せめて笑顔でいなさいな。友人が暗い顔をしていたら、私だって暗くなる。当たり前の事でしょ? 私は私の為にアナタの心配をしちゃうのよ。アナタの事情とか気持ちとか関係なくね』

 

 

 あくまで自分の為、と言うあたり、如何にもペペロンチーノらしいとアンナは考える。その点は、この場にいる誰もが当てはまるだろう。

 

 

『わかる? 独りでいたかったら、それに相応しい強さを身につけないと。ストレスが顔に出ているようじゃまだまだよ。なにか楽しい事で緩和しないと。そうねぇ……』

 

 

 そこで少し考え込んだペペロンチーノは、あっとなにかに気付いて口を開く。

 

 

『定番で悪いけど、お茶はどう? こっちの異聞帯でいいお茶の葉を見つけたの。アナタのところにもわけてあげるわ。皇女様もきっと喜ぶわよ?』

「あ、それなら私もいいものあるよ~。飲めば気分スッキリな一品、元気ドリンコっていうんだけど、どうかな?」

『余計な気遣いだ。こんな世界になっても、アンタらは変わらないな』

 

 

 呆れたような声色でカドックが返すと、静かに彼らの話を聞いていた芥ヒナコが微かに苛立った様子で口を開いた。

 

 

『無駄話はそこまでにして。キリシュタリア、用件はなに? こちらの異聞帯の報告は済ませたはず。私の異聞帯は領土拡大に適していない。私は貴方達とは争わない。この星の覇権とやらは貴方達で競えばいい。そう連絡したわよね、私』

『……そんな言葉が信用できるものか。閉じ籠っても争いは避けられないぞ、芥。最終的に、僕達は一つの異聞帯を選ばなければならない。アンタが異聞帯の領域拡大を放棄しても、そのうち他の異聞帯に侵略される。それでいいのか? 座して敗者になってもいいと?』

『……別に。私の異聞帯が消えるなら、それもいい。私はただ、今度こそ最後まであそこにいたいだけ。納得の問題よ。それができれば他のクリプターに従うわ』

「わかるよ、それ。大好きな場所からは離れたくないよね。ましてやそこに、自分にとっての大切ななにかがあると、その気持ちはもっと強くなるよね。芥ちゃんの場合はあの人かしら?」

『……からかってるつもりなら、いくら貴女でも殺すわよ?』

「わぁ、怖い。私、仮にも先輩なんだけどなぁ」

『異聞帯の勢力争いに興味はない、か。まぁ、結果が見えてるゲームだからなぁ、こいつは』

 

 

 そこでベリルが口を挟んでくる。その言葉には、どこか諦めているかのような感情が込められていた。

 

 

『オレ達は束になってもキリシュタリアには及ばない。地球の王様決めゲーム( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )はほぼ出来レース状態だ。オレとデイビットとアンナのところなんざ酷いもんだしな? あれのどこが“あり得たかもしれない人類史”なんだよ。その点、キリシュタリアの異聞帯は文句なしだ。下手をすると汎人類史より栄えている( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )ッ! ズルいよな。初めから依怙贔屓されてるときた。やっぱり生まれつきな高貴な奴は運が違うぜッ!』

『……………』

「そんな顔しないの。貴方は自分の力だけでオリュンポスを攻略した。そっちの王様に認められたのも、貴方の努力が実を結んだ結果よ。なんなら誇ってもいいんじゃない? 神霊を三体も従えるなんて偉業を成し遂げたのは、貴方だけなんだから」

 

 

 素晴らしい功績を挙げた者は、それがどのような者であろうと称賛するのがアンナだ。人懐っこい表情でそう言うと、オフェリアもアンナに続いてきた。

 

 

『アンナの言う通りです。口を慎みなさい、ベリル』

『……いや、君達には申し訳ないが、ベリルの言葉も的外れではない。なに、最終的に私が勝利する事は自明の理だ。その過程をどう語られようが、事実は変わらない。とはいえ、私は君達にも世界の覇者になれる素質があると考えている。だからこそ、君達の蘇生を願ったのだ』

 

 

 本来であれば、異聞帯を管理するクリプターはキリシュタリア一人だけだったが、彼は同じAチームのマスター全員に各々の未来を掴み取る資格があると考え、異星の神に彼らの蘇生を願い出たのだ。

 

 決して自らの力に驕り、他者を見下ろす事を目的としているわけではない。本心から、自分はこの中の誰かに負けるかもしれない、と考えているのだ。

 

 

『……さて、遠隔通信とはいえ、私が諸君らを招集したのは異聞帯の成長具合を確かめる為ではない。一時間ほど前、私のサーヴァントの一騎が霊基グラフと召喚武装(ラウンドサークル)の出現を予見した』

 

 

 その一言で、少し緩んでいたその場の空気が一気に張り詰めた。

 

 

『霊基グラフはカルデアのもの。召喚サークルはマシュ・キリエライトが持つ円卓だろう。南極で虚数空間に潜航し、行方を晦ませていた彼らがいよいよ浮上する、という事だ』

「流石、()の魔神王ゲーティアを倒した集団だこと。今度はどんな快進撃を見せてくれるのかな?」

『そこは面白がるところじゃないわ。あの虚数空間で三ヶ月も生き永らえていたなんて、到底信じられないわね……』

 

 

 壊滅していたと思われていたカルデアが再びこの星に姿を現すという事態に、オフェリアは難色を示す。

 

 女狐(コヤンスカヤ)が魔術協会に手を回し、扱いやすい人物をカルデアの新所長に選んだ後、カドックが契約したサーヴァントとオプリチニキの集団が襲撃。それでカルデアは完全に破壊できたと思っていたのだが、まさか生き残りがいたとは。

 

 気まずそうな顔をするカドックだったが、彼に非は無いとキリシュタリアがカドックを擁護する。

 

 カルデアの護りは強固ではないが万全。館内から手引きしてもらえなければ、レイシフトで対応されていただろう。故に、まずはレイシフトを行うのに必要不可欠な存在のカルデアスを停止させる必要があったのだ。そして作戦の結果、カルデアスはカドックのキャスターによって凍結させられ、その機能を停止させる事に成功した。

 

 しかし、問題なく成功したというわけではない。今回の作戦のおり、要となるキャスターが積極的に働かなかった事だ。だが、これはカドック(マスター)の責任ではない。

 

 使者としてカルデアに向かった二騎のサーヴァント―――あの神父やコヤンスカヤはクリプター(こちら)側のサーヴァントではないのだから。

 

 

『……それで、連中がどこに出るのかは判明しているのか』

『そこまでは予言されてはいない。あと数時間でこちらに出現する、という事だけだ』

『なんだいそりゃ。じゃあ各自、自分の持ち場で警戒しろって―――』

『出現場所はロシアだ。異聞帯の中に出現する』

 

 

 ベリルの言葉を遮ったデイビットに、「あぁ、なるほど」とアンナがポンと手を叩いた。

 

 

「“縁”を辿った、というわけね。考えてみればそっか。“今の地球”においてカルデアが知っているのは、自分達を襲ったサーヴァントとオプリチニキだけだもんね」

『他に縁が無い以上、カルデアが浮上する異聞帯はそこしかない、って事か。因果応報とはこの事だな』

 

 

 どこか自嘲するように笑ったカドックだが、その表情は一層引き締まっている。既に覚悟は出来ているという事か。

 

 

『復讐か、そいつは厄介だ! 話し合いは望めそうもない! なんならオレが助太刀に行こうか? お前さんは荒事には不慣れだろう? オレでよければレクチャーしてやるぜ?』

『結構だ。アンタはアンタの異聞帯に引っ込んでろ。兄貴分を気取るのはペペだけで充分だよ』

『え~? 本気で心配してんだけどなぁ、オレ。っていうか、ペペロンチーノは兄貴っつーより親父役だろう』

「だったら、私が手を貸してあげようか? 君の異聞帯は極寒のロシアらしいけど、それに見合うモンスターなら何頭か送れるよ?」

『やめてくれ。アンタが助太刀として送ってくるとしたら、アンタのサーヴァントが従えている古龍種だろう? そんなのがこっちに来たらどれだけの被害が出るか考えたくもない。僕は僕だけの力で、カルデアを撃退してみせるさ』

「おぉ、中々の覚悟。だったら手は貸さないであげる。君がそれを“試練”と定めたのなら、見事それに打ち勝ってみなさい」

 

 

 大袈裟に両手を広げて笑うと、誰かを思い出したのかカドックが僅かに眉を顰めたが、それは一瞬の後に消えた。

 

 

『皇女様への男の見せ所だしな。だが無理はするなよ? ヤバいと思ったら変なプライド持たずに逃げろ。オレ達は競争相手だが、憎い敵同士じゃあない。異聞帯を失ったクリプターに価値は無いんだ。ひっそり生き延びる分には誰も手出しはしないさ。そうだろ、ヴォーダイム?』

『……カドック。言うまでもないが、我々には不可侵のルールがある』

 

 

 そこでキリシュタリアが、この場にいる全員に思い出させるように言葉を発する。

 

 クリプターの役目は空想樹を育て、自分達の担当する異聞帯の領土を拡大する事にある。来るべき時には、いずれどこかの異聞帯同士が激突し、どちらかが呑み込まれる( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )。より強い人理を築き上げた異聞帯が、脆弱な異聞帯を養分とするのだ。

 

 しかし原則として、その衝突以外の対決は認められていない。異聞帯同士が激突する時こそが最初で最後の決戦なのだ。

 

 

『ロシアにカルデアが現れるのなら、それはロシアの異聞帯の王が対応するべき事。我々の使命は異聞帯による人理再編。もう一度、人類が神と共に在る世界を作り上げる事にある。“異星の神”による侵略が終わった今、カルデアの抹殺は余分な仕事だ。雑務と言っても差し当たりはない。……しかし、障害である事も否定できない。なにしろ世界を覆すのに慣れている連中だ。カドック、君の手腕に期待している。障害を排し、一刻も早くロシアの樹を育てる事だ。それがカルデアの排除にも繋がるだろう。私は全ての異聞帯に同等の価値を見出したい。人類史の可能性である異聞帯が、矮小な歴史のまま閉じるなど許されまい』

 

 

 地球上の生物の王者とも呼べる地位に就いた種族が紡いだ歴史は、たとえそれが切り捨てられた敗者だとしても、脆弱なまま消えるなど認められないのだろう。

 

 この男は、どこまでも信じている。この場にいる、自分を除いたマスター達の管理する異聞帯が、偉大な神々の住まうギリシャ異聞帯に勝る可能性を秘めていると。

 

 

『アンタに言われるまでもない。僕だって負けるつもりは無いからな。通信はここで切る。奴らが来るなら迎え撃つまでだ』

 

 

 その言葉を最後に、カドックのホログラムは円卓から消える。

 

 

「どうしたものかなぁ」

『断られたくせにまだ助太刀しようと思ってるの? だったらやめておきなさい。第一、貴女自身がカドック単独での撃退に賛成したじゃない』

「まぁ、そうなんだけどさ。みんな、過小評価しすぎじゃない? カルデアの事」

 

 

 アンナがそう言うと、『とか言われてもなぁ』とベリルが腕を組んで唸る。

 

 

『いくら世界を救ったとはいえ、あそこのマスターってサーヴァントの影に隠れてるだけの奴だろ? そんな奴、簡単に倒せると思うけどな』

「そこがいけないのよ。まず、前提が間違ってる( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )。数多の特異点を突破し、遂には魔神王さえも討ち果たしたのが、ただの運だけとは思えない。彼、ないし彼女には、数多の英傑を引き付ける『なにか』があると踏んでいるのだけれど……。これがわからないんだよね」

『……ディストローツの言う事も一理ある。一介のマスターといえど、数多くの英霊と手を取り合うのは不可能に近い。が、カルデアのマスターはそれを成し遂げている』

『ふむ、これは彼らに対する警戒を強めておく方がいいかもしれないな』

『話は終わり? だったら私も玉座に戻らせてもらうわ。こちらの王は探求心と支配欲の怪物(かたまり)だから』

 

 

 そう言ってヒナコは通信を切る。

 

 

『んじゃ、オレもこの辺で。ロシアからSOSがあったら報せてくれ』

『私も失礼するわ。こっちもちょっと様子がおかしいの。報告は上げたけど、デイビットにも意見を聞きたいわ。アナタ、私の異聞帯の‟四角”についてどう思う?』

『情報が欠落している。所感でいいか?』

『もちろん。アナタの直感が訊きたいの』

『アキレス腱だ。これ以上は無い急所だろう。お前にとっても、その異聞帯においても。オレやヴォーダイムであればすぐに切除する。だが、お前であれば残しておけ、ペペロンチーノ。そういう人間だろう、お前は』

『あらそう。それじゃあ様子を見ましょうか。アンナちゃんはどう思う?』

「貴方が『あ、ヤバいなこれ』って思うものなら切除するべきだと思うよ。けど、デイビットの言葉にも一理ある。私達とは違う見方が出来る貴方なら、自分の感性に従って行動するのも一つの手かもしれない」

『アナタ風に言うのなら、これは私にとっての“試練”ってわけね。貴重な意見、ありがとう。それじゃあ、またね』

『では通信を切る。予定通り、次の会合は一月後だな』

『私もここで失礼します。それでは……』

 

 

 ペペロンチーノとデイビットに続いてオフェリアも通信を切り、残るホログラムはキリシュタリアのみとなる。

 

 

『アンナ、一つ聞いてもいいかな?』

「なにかしら? まぁ、なんとなく予想はついているけどね」

『“異星の神”から、君の異聞帯には王がいない( ・ ・ ・ ・ ・ )と聞いた。これはどういう事だ?』

 

 

 異聞帯には、その歴史の代表者とでも言うべき“王”と呼ばれる者が必ず存在する。しかし“異星の神”の話によると、アンナの管理する異聞帯にそのような存在は見受けられないそうだ。

 

 これはどういう事か、と疑問の眼差しを向けてくるキリシュタリアに、アンナはその原因について口にする。

 

 

「……王はまだいないよ。産まれていないだけ( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

『産まれていない……?』

「そう。……言っとくけど、心配しなくて結構よ。彼と空想樹は密接に繋がっているし、彼が誕生するまで、空想樹を育てるのは私のサーヴァント達の役目だから。私のサーヴァントは優秀でね。王でなくとも、空想樹と接続できる( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

『……古龍種に属する竜達の中でも、最強の力を持つと呼ばれる者達。まさかそこまでの事ができるなんてね』

 

 

 伝説に語られる最強の古龍達に感嘆の息を漏らしたキリシュタリアに、「話は変わるけど」とアンナが言う。

 

 

「もし、そこのサーヴァントを私達の異聞帯の偵察に向かわせるなら、こっちに来る時は用心してもらわないと困るな」

『……気付いていやがったか』

「えぇ、この会合が始まった時から」

『ハンッ、生意気な小娘だ。で? なんでこのカイニス様が、お前の異聞帯に行く時は他の異聞帯以上に用心する必要があるんだ?』

「だって、油断してると殺されちゃうから。あっという間に、ね」

『んだと……!』

 

 

 キリシュタリアの背後に現れた褐色の槍兵の殺意が籠められた視線が向けられるが、アンナはまるで動じていない。この程度の殺気など、左程気にするものでもないからだ。

 

 

「私が召喚したサーヴァントの一騎は、“神”と呼ばれる存在に対して強い憎悪を持ってる。貴方がこの異聞帯に足を踏み入れた瞬間、貴方の神性を感じ取って襲いに来るかもしれない。私達も出来る限り抑え込むよう努力するけど、万が一という事もあるから、念の為にね」

『カイニス。彼女の言い分も尤もだ。君は嫌がるだろうが、彼女の異聞帯の偵察を頼む際はセイバーも同行させてもらう』

『……チッ』

 

 

 心底嫌そうな舌打ちを返事に、カイニスのホログラムが消える。霊体化していないという事は、ホログラムが映し出される範囲外まで行ったという事だろう。

 

 

「長話しちゃったわね。私もここで切らせてもらうわ。お互い、また会える事を祈っているね」

『君がそう簡単にやられるとは思わないがね』

「言ってくれるじゃない。精々足元を掬われないように気を付けなさい」

 

 

 通信を切ると、目の前に浮かんでいたキリシュタリアのホログラムが消え去る。

 

 

「……神の時代を創る、か。本当に悪党ね、彼は」

 

 

 人の時代は終わりを告げ、再び神の時代がやってくる。キリシュタリアの目的はそれで間違いないが、だからこそ、アンナは彼を『悪党』と呼ぶ。

 

 

「だけど、私も負けてられないのよ、キリシュタリア。私には、私の目標がある」

 

 

 今はまだその時ではないが、いずれ自分達が対決する時は来るだろう。その時には、全身全霊で、最大級の敬意を払って、そして完膚なきまでに叩き潰す。

 

 

「あぁ、楽しみ……。みんなもそう思うでしょう?」

 

 

 暗雲が覆う空に問いかけると、どこからともなく無数の竜達の咆哮が轟いた。

 

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