【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 蘆屋道満と渡辺綱当たりました( ՞ةڼ◔)


在りし日の景色

 

 ―――“抑止力”。それは破滅の要因を排除し、今ある世界を存続させようとする見えない力。この地球上で最も優れた種族である霊長類の『自分達の世を存続させたい』という無意識の願いが形を成したもの。

 

 人類、ひいては星そのものを滅ぼす要因となる者の出現を感知した後、絶対に勝てる数値( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )で現れる事から、“カウンターガーディアン”とも呼ばれてる。

 

 と言っても、抑止力はたった一つのシステムではなく、優先順位の異なる二種類が存在する。

 

 一つ目は、集合的無意識によって生まれた世界の最終安全装置(セーフティ)であり、人類の持つ破滅回避の祈りである“アラヤ”。二つ目は、地球が願う生命延長の祈りである“ガイア”。

 

 アラヤは人類世界を存続させる為ならば星を滅ぼす事も厭わず、逆にガイアは星の生存を存続させる為ならば人類を滅ぼす事も厭わない。

 

 しかし、それはあくまで究極的に言えばの話であり、現代では星の大部分を支配領域とする人類が崩壊する事はこの星の“成長の(終わり)”に直結する可能性があり、また星が滅びれば現状人類も生存する事ができないため、結果的に相互に人類と星を守るべく発動する事もある。

 

 そんな抑止力の片割れ、ガイアの一部として生み出されたのが“幻想種”を始めとした、現代では空想の存在として語られる者達であり、アンナが管理する異聞帯ではこの幻想種の頂点に位置する“竜種”が闊歩し、そのさらに上位に君臨する“古龍種”の中でも最強の存在達が、彼女のサーヴァントとして従っている。しかし、彼らが忠誠を誓う相手はこの世においてたった一人しか存在しないだろう。

 

 今でこそ“英霊の座”に招かれ、触媒などを用いれば召喚可能とされている彼らであるが、たとえこの世界でもう一度聖杯戦争が起きて、その参加者が彼らのうちの誰かを召喚したとしても、次の瞬間、彼あるいは彼女はあの世にいるだろう。

 

 人類の管理者となる事を是とした彼らが人類という存在を認めているのは確かだが、だからといって人類に忠誠を誓う理由にはならない。そんな彼らが真に忠義を尽くすと決める相手こそ、彼らにとっての“王”なのだから。

 

 そんな彼らの“王”こそ、アンナ・ディストローツである。

 

 現代まで生き続けた影響で、彼女はまだかつての環境そのままな異聞帯においても本領を発揮するのは不可能だ。一時的になら本来の姿( ・ ・ ・ ・ )に戻れるだろうが、戻ったら戻ったで体に負荷がかかってしまう。

 

 話を戻そう。つまり抑止力とは、今ある霊長の世を存続させる為だけに存在する機構(システム)であり、その特性上、現在地球上に出現している八つの異聞帯も、抑止力にとっては抹殺対象に他ならず、自らの手を伸ばせぬ場所を除き、数多くの英雄達が各異聞帯に召喚されている。

 

 

「く……ッ!」

 

 

 そして、ここに一人、星の叫びに応えて異聞帯に足を踏み入れたサーヴァントが一人。

 

 長い銀髪に胸部と腹部が露わになっている黒い鎧、何者をも容易く切り裂けそうな大剣を握るのは、ジークフリート。ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に語られる、竜殺しの大英雄である。

 

 そんな彼は今、凍り付きそうな冷気に身を晒しながら攻撃を躱していた。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 竜殺しの大英雄の眼前で咆哮を轟かせたのは、“冰龍(ひょうりゅう)イヴェルカーナ”。極寒の冷気を司る、古龍種の一体である。

 

 イヴェルカーナから放たれる冷気にじわじわと体の自由が奪われていく中、自分を刺し貫こうとしてくる尻尾をギリギリで受け流し、一気に懐に取り込んで大剣―――バルムンクで斬り払う。

 

 竜殺しの逸話から竜特攻の力を宿している一撃を受けてイヴェルカーナが何歩か後退するが、翼を羽ばたかせて飛び上がったかと思うと、上空に向けて冷気ブレスを吐き出す。すると、ジークフリートの頭上に氷塊が形成され、彼を圧し潰そうと落下してきた。

 

 咄嗟に前へ飛び出して避けたジークフリートだが、それを読んでいたのかイヴェルカーナの冷気ブレスが襲い来る。

 

 

「しまった―――ッ!?」

 

 

 極低温のブレスはジークフリートを包み込んだかと思うと瞬時に彼の両足を凍り付かせ、動きを封じる。両足の氷を砕こうと足掻くジークフリートだったが、視界の端に映るイヴェルカーナが翼を大きく広げたのを見て、咄嗟に両腕を交差させる。

 

 大きく羽ばたかせた翼によって押し出された冷気が瞬時に固まり、氷槍となってジークフリートに襲い掛かる。

 

 

「ガ……ッ!」

 

 

 無数の氷槍に貫かれた痛みに、口から多少の血が吐き出される。

 

 セイバークラスとして現界したジークフリートには、竜種に対する攻撃力、防御力を大幅に向上させるスキル“竜殺しA++”の他にも、Bランク以下の物理攻撃と魔術を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力を大幅に減少させる“悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”という常時展開型の宝具があるが、この二つを以てしても殺し切れない威力に戦慄する。

 

 もし竜殺しの逸話を持たない英霊がこの攻撃を受けていたら、間違いなくそこで消滅していた事だろう。この異聞帯には他よりも多くの竜殺しの英雄達が召喚されているらしいが、そんな彼らでさえ簡単に退けてしまう古龍種の恐ろしさを、改めて思い知らされる。

 

 対してイヴェルカーナは、明らかに急所を貫いたはずなのに生きている男により強い警戒心を抱いていた。

 

 今まで自分が対峙してきた英霊は、今の攻撃を受ければほとんどがそれで消滅していた。だが、この男は僅かな出血をした程度で済んでいる。先の大剣による一撃も視野に入れると、この男はあの方々( ・ ・ ・ ・ )には遠く及ばないが、古龍種(われわれ)をも討ち果たせる力を持っていると考えていいだろう。

 

 イヴェルカーナは他の古龍種よりも賢い存在だ。こことは違う世界では、とある太刀使いの一撃を氷の壁を張って防ぐといった行動を取った事もあるくらいだ。

 

 そんなイヴェルカーナの思考と、そして本能が同じ結論を導き出すのに、そう時間はかからなかった。

 

 ―――こいつはここで殺す。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 獰猛な咆哮が大地を震わせ、間近でそれを聞いてしまったジークフリートはあまり音量に反射的に耳を塞ぐ。そして次の瞬間、イヴェルカーナから放出された絶対零度の冷気が彼の全身を凍り付かせ始めた。

 

 

(この圧力……ッ! まだ本気ではなかったという事か……ッ!)

 

 

 急いで飛び退いた事で辛うじて氷像になるのを免れたジークフリートにイヴェルカーナが迫る。大地に爪痕を残しながら接近してくる古龍の突進を受け流した勢いをそのままに大剣を振るうが、イヴェルカーナはそれを容易く回避すると同時に尻尾でジークフリートを薙ぎ払う。

 

 振り下ろした隙を突かれたため防御する間もなく弾き飛ばされたジークフリートの体が凍てついた壁に叩き付けられ、すかさずそこへイヴェルカーナの極低温ブレスが飛んでくる。

 

 

「く、オオオオォ―――ッ!!」

 

 

 回避は間に合わないと直感的に理解したジークフリートは、魔力を纏わせた大剣を振るって高密度の魔力の斬撃を繰り出す。斬撃によって切り裂かれたブレスは彼の両脇にあった壁を木端微塵に破壊し、迎撃が間に合っていなかった場合のジークフリートがどうなっていたのかを雄弁に語る。

 

 走り出したジークフリートに冷気の霧を突き破ってきたイヴェルカーナが迫る。絶対零度の氷で作り上げられた冠角が迫り、ジークフリートはそれを迎え撃とうと大剣を振るおうとするが、長い間絶凍の冷気に身を晒したせいで体が思うように動かず、迎撃は叶わぬまま冠角の刺突を受けてしまった。

 

 

「ぐぅ……ッ!」

 

 

 腹部から背中を貫かれた激痛に呻くジークフリートを首を振って投げ飛ばしたイヴェルカーナが飛び上がり、僅かに開かれたアギトに冷気を集中させていく。

 

 その様子から察するに、あの古龍はこれで勝負を決めるつもりなのだろう。これまで以上の威力、範囲、速度を以て繰り出されるであろうそれを前に、今の自分は為す術もない。

 

 

「一か八かだ……ッ! 宝具―――」

 

 

 この絶望的な状況を打破する為には、切り札を切るしかない。

 

 眼前に構えた大剣が主の膨大な魔力を蒼い火柱として燃え上がらせ、ジークフリートはカッと目を見開くと同時に大剣を大上段で振りかぶる。

 

 

「撃ち落せ……“幻想大剣(バル)―――」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 どこかからイヴェルカーナのものとは違う咆哮が瞬間、ジークフリートの視界が大きく揺らいだ。

 

 宝具の発動を中断されたジークフリートは、全身を襲う浮遊感や絶え間なく動き続ける視界から、自分が吹き飛ばされていると理解した。

 

 そして、彼が真名解放を阻止されたという事は、彼の宝具―――“幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)”発動は失敗に終わったという事。同時に、ジークフリートが予期せぬ乱入者が作り出した竜巻に囚われている間に、イヴェルカーナの準備は整った。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 イヴェルカーナの絶対零度のブレスが竜巻に直撃し、それは暴虐の風の中で氷槍に変化。竜巻の中心に落下したジークフリートが顔を上げた瞬間、全方向から冷たい死の槍が襲い掛かる。

 

 右目、脇腹、背中、肩、足と、氷槍は次々に英雄の体に突き刺さっていき、暴風が晴れた頃には、そこには全身を串刺しにされた男の姿があった。

 

 

「―――お疲れ様。いい戦いっぷりだったよ」

 

 

 串刺しにされた竜殺しの大英雄の姿にパチパチと拍手しながら現れた、漆黒のサーヴァントを従える女性に気付いた二頭の古龍は、揃って彼女の前に降り立って(こうべ)を垂らした。

 

 イヴェルカーナと共に彼女に(こうべ)を垂らしている古龍の名は、“鋼龍(こうりゅう)クシャルダオラ”。冷気を操るイヴェルカーナとは異なり、暴風を司る古龍である。

 

 

「クシャルダオラ、助太刀に来てくれてありがとね。仲間がピンチだと思ったら、また助けてあげてね。それとイヴェルカーナ、この竜殺しを生け捕りにしてくれてありがとう。そいつは王の餌( ・ ・ ・ )になり得るからね、お手柄だよ。それじゃ、各々自由に動いていいよ~」

 

 

 アンナ・ディストローツの指示に唸り声を以て答えた二頭はそれぞれ別の方角へと飛び去っていく。

 

 

「お願いしていいかな、ボレアス」

「構わない」

 

 

 頷いたバーサーカーが串刺しにされたジークフリートの体を持ち上げ、雄々しい翼を広げて飛び立っていき、アンナだけが残される。

 

 

「……隠れても無駄よ? 出てきなさい」

 

 

 しかし、この場にいたのは彼女だけではなかった。アンナが視線を向けた先、イヴェルカーナがジークフリートとの戦闘の際に作った氷柱の影から一人の女性が姿を現した。

 

 

「英霊を餌にするなんて、ここの異聞帯の王はいったいどんな存在なんですかねぇ」

 

 

 先程の会話を聞いていたのか、この世界にまだ生まれていない王について言及する女性の名は、タマモヴィッチ・コヤンスカヤ。人理救済を成し遂げたカルデアを崩壊へと導く事となった急襲作戦の片棒を担いだ女性だ。

 

 

「貴女に教える道理なんて無いわね。それで? 新しい商品( ・ ・ )でも見積もりに来たのかしら?」

「話が早くて助かりますわ。えぇ、そうですねぇ。貴女さえ良ければ、先程の古龍種の一頭でも譲っていただけたら嬉しいです。あれ、本気出せば神霊級ですよね( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )?」

「……その観察眼は見上げたものだけど、お生憎様、貴女に提供できるものなんて一つもないのよ。他の異聞帯への転移を交渉材料にしても無駄だからね。足は間に合ってるもん」

 

 

 コヤンスカヤの見立ては当たっている。古龍種は一頭の例外もなく、本領を発揮すれば神霊級サーヴァントと同格の力を発揮する。本気を出さなくとも並みのサーヴァントなど者の数に入らない。

 

 

「あらら、歴史に名高い古龍種を手に入れる事ができれば、我がNFFサービスも今まで以上に繁盛できると思ったんですけどねぇ……」

「色んな異聞帯の生物を集めて、彼らが本来いた場所とは違う場所に放って混乱を巻き起こすって未来が見えてるからね。そんな奴にうちのみんなは任せられないよ。ほら、貴女がここにいても出来る事はなにもな……いや、やっぱり待って」

「およ? なんです?」

「もうわかってると思うんだけど、ここの環境は凄い原始的でね。日々弱肉強食の戦いが繰り広げられてる」

 

 

 今こうしている間にも、至るところで今日を生き延びようと足掻く者達が糧を求めて殺し合っているだろう。それこそがこの異聞帯の形であり、彼女にとっては懐かしい時代の風景である。

 

 

「そんな場所に貴女(あなた)が来たら、どうなると思う?」

「おや? なぜだか猛烈に嫌な予感……」

 

 

 急に背筋が凍るような感覚に襲われたコヤンスカヤの鼓膜が、バチバチとなにかが弾けるような音と、何者かの足音を聞きつけた。しかもその二つの音は、ゆっくりとだが徐々にこちら側に近づいているのがわかる。 

 

 そして、それは遂に現れた。

 

 胴体部を覆う青緑の鱗に、頭部や背面、腕部などに立ち並ぶ黄色の甲殻。そして、腹部や首回りなどを中心に生え揃った白色の体毛。背中は青白い輝きを放っており、その眼光は迷う事無く、自らの獲物であるコヤンスカヤを射抜いている。

 

 

「紹介するね。“雷狼竜(らいろうりゅう)ジンオウガ”だよ♪」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!」

「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!???」

 

 

 ジンオウガの狼の遠吠えにも似た咆哮に負けず劣らずの素っ頓狂な声を上げたコヤンスカヤが走り出すと、ジンオウガがそれを追いかけて走り出す。

 

 

「バッカじゃないですかッ!? 狼ぶつけてくるとか頭おかしいんじゃないですかッ!? あ、やめて来ないでッ! 私、食べても美味しくありませんよーーーーーーーーッッ!!??」

 

 

 綺麗なフォームで走っていくコヤンスカヤの絶叫が遠退いていき、残されたアンナはあの女狐の心の底からの叫びが面白くて笑い転げていた。

 

 

「随分といい趣味をしているな」

 

 

 そんな彼女に声をかけるのが一人。彼の存在に気付いたアンナは一頻り笑い終えてから、ドレスについた汚れを払い落としながら立ち上がる。

 

 

「コヤンスカヤに続いて、貴方までここに来るなんてね。いったいどんなご用件かしら?」

「なに、君に報せたい事があってね」

 

 

 深い藍色の法衣を着た、黒髪の神父―――グレゴリー・ラスプーチンが次に放った言葉に、アンナは目を見開く事となる。

 

 

 ラスプーチンの報告内容とは、ロシア異聞帯―――カドック・ゼムルプスが敗れた、というものだった。

 

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