【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 モチベーションも充分に回復しましたので、投稿させていただきます。

 ランキング入り&お気に入り登録者1000人越え、ありがとうございますッ!

 千子村正当たったっチャッ! キャストリアと合わせると士郎(セイバー)アルトリア(キャスター)が支援している絵が出来てエモいンバッ! 福袋で来なかったのが悔しいッチャ。

 セイバーウォーズⅡの高難易度クエストも村正とキャストリアのお陰でクリアできました。キャストリアはフレンド鯖ですが、本当に助かって……。

 ストーリーの方だと最後にXが「次あたりは私もオトナになって、凛々しくも可憐なセイバーになっているでしょう」と言ってましたが、そんな彼女が資本という名の邪神に取り憑かれたり孤独を紛らわす為に犬を飼い始める哀しきOLになる未来を知ってるのでちょっと辛かったです。正直イマジナリ・スクランブルで色んな意味で一番戦い辛かった相手です。あれ、マスター君と結ばれたら絶対依存症になりますよね。そのままずぶずぶと愛という名の沼にハマっていって子どもたくさん生まれてそう(小並感)。



征け、春風の吹く未来へ

 

「……なんです、あれ」

 

 

 核爆弾に匹敵するエネルギーを誇る雷雲で構成された嵐の壁を、まるで飴細工のように容易く破壊して北欧異聞帯に侵入してきた龍に瞠目する。

 

 遠目で見てもわかる。あれは“災厄”だ。カイニスがこの異聞帯から足早に去った理由が何となく理解できた。彼は、あの龍を知っていたのだ。それも知識としてではなく、実際に戦い、その上であれの強さを認識したのだろう。

 

 あのキリシュタリアがカイニスをシュレイド異聞帯の偵察に向かわせる際にディオスクロイを同行させる理由もわかった。あの龍は、カイニス一人ではまるで太刀打ちできない存在だからだ。ディオスクロイを加えても、全力の全力を出してようやく撤退にこぎ着けられるほどの実力を、あの龍は有している。

 

 さらに、コヤンスカヤは本能的に理解した。自分が大元(オリジナル)――――――天照大神の転生体である玉藻の前から切り離された存在であるにも関わらず、あの龍に恐怖している。

 

 天照大神との繋がりはほとんど失われているというのに、あの龍はこの身に宿る微かな神性を呼び起こし、あまつさえ恐怖を覚えさせている。

 

 コヤンスカヤは知らない。()の龍が、かつてどう呼ばれていたのかを。

 

 

 ――――――“神をも恐れさせる最強の古龍”。

 

 

 神との繋がりが僅かでもある者は、その姿に恐怖を抱かざるを得ない。その古龍は、それほどの力を有しているのだから――――――

 

 

 

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 こちらを見上げるスルトに、アヴェンジャーは目を細める。

 

 元は、ただの巨人だったのだろう。元は、北欧世界を終わらせるただの終末装置(巨人王)に留まっていたのであろう。

 

 だが――――――

 

 

(嗚呼……。なんだ、その不快な臭いは)

 

 

 その左腕は、なんだ。そこに宿る神気は、なんだ。

 

 アヴェンジャーは、それがなんなのかは知らない。それが、かつて異聞の巨人王が喰らいし、神の血を引く者の力が具現したものであると。

 

 フェンリル――――――こことは異なる世界の聖杯戦争においては“ヴァナルガンド”として召喚された存在。汎人類史の伝説では、邪神ロキと巨人アングルボザの子として語り継がれ、ラグナロクの際には主神オーディンを喰らった魔狼。

 

 北欧異聞帯では汎人類史とは異なり、暴走したスルトに喰われるという末路を辿ったが、その体に流れている血には、ロキの神性が確かに存在していた。そのフェンリルを喰らった影響で、スルト自身気付かぬほどの微細な神性が、彼の血肉となっている。特にフェンリルの力を表す左腕は、その吐き気を催す臭いが強かろう。

 

 こいつよりも強い、遥かな臭気を放つ存在もいるようだが、こいつは真っ先に滅ぼさねばならぬ、との命令を受けた。

 

 ――――――ならば応えよう。我が姉よ。我が(マスター)よ。貴女の障害となる者は、この“煌黒龍”が討ち滅ぼしてくれよう。

 

 

「ガアアアアアアアアアッ!」

 

 

 暗闇を連想させる翼を羽ばたかせる。それだけでアヴェンジャーの下方に存在する白銀の大地が一瞬でマグマが煮え立つ、火山地帯と見紛うものへと変貌していく。さらには快晴であったはずの空にも瞬く間に暗雲が立ち込め、吹雪が吹いたかと思いきや轟雷が降り注ぎ、さらには炎の豪雨まで降り始めていく。

 

 

「馬鹿な……。我が領域を塗り替えただと……ッ!?」

『な、ななななんだねあれはッ!? 吹雪が吹くどころか雷も落ちて、あまつさえ炎の雨だとッ!? 滅茶苦茶にも程があるだろうッ!? 古龍種とは皆あんな化け物なのかねッ!?』

「そんなはずは……………ッ! 古龍種は自然を司る存在ですが、あそこまでの異常気象を引き起こす事は――――――」

「――――――“煌黒龍”」

 

 

 ポツリと零したオフェリアに、アンナを除いた周囲の視線が集まる。

 

 

「知っているのか? オフェリア」

「……はい。そこにいる者から聞いたものです。古龍種の中には、そこにいるだけで神の領域と呼べる場所を作り上げてしまう存在がいる、と」

 

 

 人類どころか、下手すれば神でも迎え撃てないような存在を見ても、まるで平然としているアンナに目を向ける。その瞳に、明らかな畏怖を宿して。

 

 

「あの“黒龍”どころか、“煌黒龍”もサーヴァントとして従えているだなんてね……。貴女って、いったい何者なの?」

「私は私よ。しつっこい男から君を護る為にやって来た、オフェリア・ファムルソローネの親友。そこに変わりはないわ」

 

 

 よく見た人懐っこい笑顔とは違う、大人びた微笑みを浮かべ、アンナは優しくオフェリアの頭を撫でた。

 

 

「今までよく頑張ったね。ここからは、私に任せて」

 

 

 慈しむように頭を撫でられ、オフェリアはふと思う。

 

 そういえば私は、両親に褒められる事はあれど、こうして頭を撫でられる事は無かった、と。

 

 

(頭を撫でられるだけで、こんなに幸せになるなんてね……)

 

 

 初めて味わう幸福感に、思わず笑みが零れた。

 

 

「貴女は……」

「ん? あら、懐かしい顔ぶれがいるわね。まさか、君達もサーヴァントになっていたとは」

「久しいな、祖なる者よ。再び貴殿と出会えた事、大神オーディンに感謝せねばなるまい」

「えッ!?」

 

 

 カルデア一行もオフェリアも、三人の会話にぎょっとする。今、シグルドはなんと言った? 『久しい』? シグルドとブリュンヒルデは神代に生きた者達だ。そんな彼らと面識があるアンナにあり得ないものを見るような視線を向ける。

 

 しかし、彼らの視線を気にする様子は見せず、アンナは申し訳なさげに目を伏せる。

 

 

「貴方達の結末は聞いたわ。私がいたら、あんな事にはならなかったのに……。ごめんなさい」

「いいんです。あの者達への怒りは未だ尽きる事はありませんが、貴女まで責めるつもりはありません。貴女は流浪の者。いつまでも私達の都合に付き合ってもらうわけにはいかなかったのですから」

「生前こそ引き裂かれてしまったが、こうして英霊の身となり、再び我が愛と巡り合う事が出来た。貴殿が気に病む必要はない」

「……そう言ってくれると、ありがたいよ」

「ア、アンナ……。貴女、生前の二人と面識があるの……? いったいいくつ……」

「正確な年齢は覚えてないわね。数える事すら億劫になるくらい長生きしてるって答えでいい?」

 

 

 そう答えるアンナを見て、マシュは過去に出会ったとある英雄を思い出す。

 

 

「という事は、スカサハさんのような、長い年月を生きて半ば神霊に変質してしまった……? でも、それらしい感じは……」

「ちょっと違うかしら。でも、あのちびっこと同格に扱われるなんてね。私の方がお姉さんなのに」

「って事は、師匠よりおば――――――」

「――――――あ゛?」

「すんませんっしたッッ!!」

 

 

 土下座までしそうな勢いで立香が頭を下げると、うんうんとアンナが頷いた。

 

 

「レディに年齢について口にするのはご法度よ。以後気を付ける事ね」

「 アンナ・ディストローツッ! 」

 

 

 灼熱と絶凍の風が吹き、アンナがその根源を一瞥する。

 

 アルバトリオンから苛烈な攻撃を受け続けたのだろう。全身を覆う傷は惨たらしいものになっており、炎の剣を持つ右腕は辛うじて無事だが、左腕はもう影も形もない。アンナを睨んでいる間にも、アルバトリオンの様々な属性を宿した攻撃がスルトの体を穿っている。

 

 

「 よりにもよって貴様などにッ! 貴様のような化け物にッ! オフェリアを渡してなるものかッ! 」

「酷い言い草だ。化け物は君の方じゃない? 星を滅ぼす終末の剣……。誰かを護る為ならいざ知らず、全てを()き尽くす為に振るうのなら、到底見過ごせるものじゃない」

「 ならば受けてみるかッ! 我が剣をッ! 総てを()き尽くす――――――炎の剣(星の終わり)をッ! 」

 

 

 とうに満身創痍。瀕死とも言える状態だというのに、スルトは己の頭部を穿った弓兵と同じように、自らの霊基を犠牲に過剰出力(オーバーロード)を引き出す。

 

 

「 星よ、終われ。灰燼と帰せッ! 」

 

 

 猛々しく吼え、今こそ炎の剣(星の終わり)が顕現する。

 

 

「 『太陽を超えて耀け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)』ッッ!! 」

 

 

 対神、対生命、対界特攻。最果ての王が振るう聖槍と同じ、星のテクスチャを剥がす神造兵器。

 

 ラグナロクで荒れ果てた北欧神話世界にトドメの一撃を見舞った、世界を焼き尽くす劫火。生命に対する優先権を有しており、形ある生物であれば神代の神ですら滅ぼすとされる、終焉の剣。

 

 全身全霊とまではいかないが、それでもこの北欧異聞帯を焼却せしめるには充分すぎる威力。

 

 だからこそ、誰もが驚愕する。

 

 

「 な――――――ッ!? 」

 

 

 炎の剣が、半ばから真っ二つに砕ける。

 

 命さえも勘定に入れて振るった絶技。それを真っ向から迎え撃ち、尚且つ破壊まで行える者など、この世に在るのか。そんな者など――――――

 

 

「ガアアアアアアアアアッ!」

 

 

 ここにいる。真の“災厄”が。終焉を告げる、暗黒の王(アルバトリオン)が。

 

 ほんの一瞬の出来事だった。スルトが神剣レーヴァテインを振り下ろした直後、アルバトリオンは自らの体内に宿る全属性を纏い、真っ向から迎撃。その身に一つの傷を負う事もなく、炎の剣を打ち砕いてみせた。 

 

 それだけに留まらず、不遜にも我が(マスター)を刃を向けた不届き者への憤怒を晴らすべく“煌黒龍”は、そのままスルトの胸部に直撃。彼の胴体に、巨大な風穴を開けた。

 

 

「 ガ――――――アアアアァァッ! 」

 

 

 遂に明確な致命傷を受けたスルトが想像を絶する痛みに悶える隙を、厄災の(マスター)は逃さない。

 

 

「――――――龍腕、発現」

 

 

 アンナの足元から緋色の雷と共に突風が吹き荒れ、彼女の両腕が人間のそれとはまったく異なる、白銀の腕へと変貌していく。

 

 

「――――――龍脚、発現」

 

 

 次に両足が白銀のそれへと変化し、彼女の意識が切り替わる。

 

 既に彼女の意識は、アンナ・ディストローツのものから、かつてこの星を支配していた、怪物達の頂点のものへと変わっている。

 

 

「――――――権能、限定励起」

 

 

 オフになっていたスイッチを入れる。悠久の時を超えて、古代に有した力を引き出す。

 

 

「――――――我が意は天に。我が意は星に。我が意は人に。今こそここに、我が威光を知らしめよう」

 

 

 龍の眼が見据えるは、終末の巨人王。“煌黒龍”のものとは違う、アンナ自身が生み出した暗雲が彼の頭上に出現し、渦巻く。

 

 それは、人類が神の御業と見做してきた一撃。何人も逃れられぬ、絶死の輝き――――――

 

 

「――――――『運命の創まり、我は天命を齎す龍(フェイト・アンセスター)』」

 

 

 掲げた手を軽く振り下ろす。渦巻く暗雲から轟音と共に巨大な緋色の雷撃が放たれ、巨人王の肉体を呑み込む。

 

 

「 グオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」

 

 

 受けた落雷は、たった一発。しかしその威力は、天を仰ぐように絶叫を上げる巨人の肉体を、余すところなく緋雷は浸食していき、細胞の一片を残す事無く破壊していく。

 

 

「 オフェリア―――――― 」

 

 

 全身に張り巡らされた感覚がなくなっていくのを感じ取っていく中、スルトは最期に、孤独でいた自分を見つけてくれた少女の名を呼ぶ。

 

 

「 俺はお前に……なに、を―――――― 」

 

 

 助けを求めているのか。それとも、それ以外か。彼女に伸ばした手は、雷撃の牢獄を抜け出す事は叶わない。

 

 数秒の後、炎の巨人王は、己の得物ごと消え失せた。

 

 

「“愛”を知らない巨人、か。君がそれを知っていたら、少しは変わってたのかな」

 

 

 巨人王が立っていた場所を、アンナはどこか哀し気に見つめる。その背中はとても小さく、誰もが静かに見ていると、突然彼女の体が前のめりに倒れる。

 

 

「アンナッ!」

「アンナさんッ!」

 

 

 オフェリアとマシュが駆けつけるが、間に合いそうにない。しかし、彼女達よりも先に、アンナの体を受け止める者が一人。

 

 

「無茶をしてくれたな、マスター」

 

 

 今まで霊体化していたのか、アンナの隣に現れたバーサーカーが、主の体を受け止めた。

 

 

「あ、はは……。そろそろ力を取り戻したかな~って思ってたんだけど、まだまだ時間はかかるみたい。あぁ、おぶろうとしなくて大丈夫。一人で歩けるからね」

 

 

 心配気に見つめてくるバーサーカーにそう言ってから、自分の手を見て苦笑する。両手も両足も、もう人間のものに戻っている。瞳も、最早龍の眼ではなくなっていた。

 

 主を少し見つめ、彼女が本当に疲れているだけという事を把握したバーサーカーは、遠くでこちらに顔を向けているアヴェンジャーを見る。すると、アヴェンジャーは翼を羽ばたかせて彼らの前に降り立つ。

 

 スルトと戦っていた時とは全く違う、落ち着き払った様子で立香とマシュを見たアルバトリオンだったが、神性を宿すシグルド達を視界に収めると、微かにその体から殺気が漏れた。しかし、それも一瞬の事だった。

 

 

「アルバ」

「グル……ッ!?」

 

 

 アンナが軽く握った拳を持ち上げてにっこりと笑ったのを見てぎょっとしたアルバトリオンがざざっと彼女から距離を取った。自分の何倍も小さく、矮小であるはずの彼女が握り拳を作っただけで、生物界の頂点の古龍種が咄嗟に距離を取るシュールな光景には、誰もが唖然とした。

 

 

「おいたはするもんじゃないよ。彼女達が戦うのは、私達じゃないんだから」

「む? そなたらは我が北欧に戦争を仕掛けるつもりはないと?」

「接触しない限りはね。じゃなきゃアルバを止めないよ。貴女諸共、この異聞帯を滅ぼし尽くすまでだから」

「ふむ……。そなたの異聞帯とこの地が衝突していない事は幸運と言えるのかもしれぬな」

 

 

 遠くにいるアルバトリオンを見る。先の戦いで彼の龍が出現させた領域、あれは己以外の生命の存在を許さぬ地獄そのものだ。白銀の大地の一部をあっという間に浸食したそれは、今となっては嘘のようになくなっているが、再度あの領域を展開させられれば、この北欧異聞帯は瞬時に壊滅させられてしまうだろう。主神オーディンでさえその身を犠牲にしてやっと封印にこぎ着けられたスルトを圧倒する能力を有するアルバトリオンを相手に、自分達が生き残れる術は万に一つもない。

 

 

「私がここに来たのは、オフェリアちゃんの救出と、スルトの討伐。後者に関してはカルデアの“試練”って事で見逃そうと考えていたけど、思ってたより危険だったし、なによりオフェリアちゃんが魔眼を破壊しようとしてたから、やむなく割り込ませてもらったよ」

「……? 貴女、どうしてシグルドの中に彼がいるって知ってたの? スルトの存在は私しか知らなかったはず……」

「魔眼持ちってわけじゃないけど、私は生まれつき目が良くてね。仮にサーヴァントが霊体化していたとしても私の目は誤魔化せないし、シグルドの気配がまるで違ってたからね。これはなにかあるな、って思って、念の為にあの子を連れてきたってわけ」

「やっぱり貴女って、不思議な人だわ……」

 

 

 魔眼じゃないのにも関わらず、霊体化しているサーヴァントを視認する目を持ち、炎の巨人王でさえ太刀打ちできない“煌黒龍”も完全に従えている親友に、オフェリアは小さく笑った。

 

 

「それで、オフェリアちゃん。これからどうする?」

「え? そ、それは……」

 

 

 アンナの問いかけがなにを意味するのか、知らないオフェリアではない。

 

 暴走したとはいえ、スルトはオフェリアのサーヴァント。しかし、彼は既にアンナによってトドメを刺され、オフェリアはサーヴァントを失った。残る北欧異聞帯の戦力は、王であるスカサハ=スカディと、最後のワルキューレであるオルトリンデ。彼女達はこの後、カルデアとの決戦に臨むのだろう。しかし、カルデア陣営には、再起したシグルドとブリュンヒルデがいる。シグルドはブリュンヒルデの宝具を受けて、ブリュンヒルデは大神刻印を最大励起させた影響で全力を出せずにいるが、それでも戦闘を行えるのだろう。神話の時代を生きた二人が、その程度で倒れるはずがないのだから。

 

 オフェリアに提示された選択肢は二つ。

 

 スカサハ=スカディ達の戦いを見てから、この地を去るか。それとも、彼女達の戦いを見ずに、この異聞帯を後にするか。

 

 アンナは何も言わない。これを決めるのは、オフェリア自身なのだから。

 

 けれど、悩む必要はなかった。

 

 

「……アンナ。もう少しだけ、ここにいさせて」

 

 

 小さく、けれどハッキリと答えた親友に、アンナはふっと微笑んだ。

 

 

「私は、キリシュタリア様より北欧異聞帯の管理を任された。最後の戦いを見ずにこの地を去るのは、その責任を放棄する事。そんなの、許せないわ」

「……わかった。それなら私は、なにも言わないよ」

 

 

 アンナとオフェリアが、これから起こる決戦に巻き込まれないように離れる。

 

 彼女達の前では、自らという存在を術式を用いて強化したスカサハ=スカディが、オルトリンデと共にカルデアと戦いを始めようとしている。

 

 

「ねぇ、アンナ」

 

 

 どこか哀し気に、されどそれ以上の殺意を纏って攻撃を仕掛けるスカサハ=スカディ達と、それを迎え撃つ星読みの戦士達を見て、オフェリアは親友に口を開く。

 

 

「私ね……この戦いが、とても哀しいものに見えるの。これが、正しいものであるはずなのに……」

「…………」

 

 

 目の前で繰り広げられる戦いは、弱肉強食の戦い。カルデアは、失われた世界を取り戻す為に。スカサハ=スカディは、希望が見えた北欧を存続させる為に。

 

 この戦いに、善悪は無い。

 

 いや、元よりこの世には、善も悪もないのかもしれない――――――

 

 

「これが、命ある者達の、意志持つ者達の責務よ。自らにある願望を叶えようとする意志が強い方が生き残って、弱かった方が死ぬ」

 

 

 それは、太古の昔から連綿と紡がれてきた、命の伝統。全ては弱肉強食の輪より外れられずに、罪に塗れた歴史を形作っていく。そこに、奇跡などというものは介在しない。

 

 

「だからこそ、私達は生きるのよ。踏み躙った想いに責任を持って、贖罪の旅を続けるしかないのよ」

 

 

 永劫の時を生き続けた祖なる龍は、善も悪もない戦いを見つめ続ける。

 

 

 

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「……見事」

 

 

 決着は、とうに決していたのかもしれない。

 

 スルト戦からほとんど回復していない状態のスカサハ=スカディとオルトリンデに、ほぼ万全の状態に等しいカルデア。北欧異聞帯側に、元より勝ち目など無かったのだ。

 

 この結末を一人予見していたアンナは、なにも言わない。この意地の張り合いは、尊いものだ。神聖、とも言えるだろう。そんな戦いに、水など差せるものか。

 

 

「こうも無様に負けるものか……。オルトリンデさえ、護ってやる事もできぬとは……」

『……女王よ。なぜだ』

 

 

 護るはずの戦乙女でさえ、己を庇わせて死なせてしまった事を嘆く女王に、通信機越しに名探偵が訊ねる。

 

 

『古きルーンを使いこなす貴女だ。刻むだけで我々を死に至らしめるルーンも知っているはず。なのに、なぜ……』

「支配者の矜持だ。私は、私の大地と命達を護らなければならぬ。スルトめによって砕かれてしまった集落、傷ついた命を癒す為に使う魔力を、お前達との戦いに割くわけにはいかぬ……」

 

 

 紫色の刺繍が入った真白のドレスについた汚れを払い落とし、氷雪の女王は立ち上がる。

 

 

「カルデアの者達。最後に一つ、贈り物をしよう。我が異聞帯に根付くはずであったあれなる空想樹。その名を、お前達に教えよう」

 

 

 今まで術式を用いて隠蔽してきた空想樹を見て、スカサハ=スカディはその名を口にする。

 

 

「あれの名は“ソンブレロ”。空想樹ソンブレロである」

『ソンブレロ……? それは……』

「ふふ。神代に生きた私には意味のない名であったが……お前達には、どうかな?」

 

 

 敵にはまず向けないはずの微笑みを、自分が護り通してきた世界を壊しに来た者達(カルデア)に向け、スカサハ=スカディは彼女らに激励を送る。

 

 

「征け、カルデアの者達。戦いに敗れ、地に倒れ伏した我らを……幾百、幾千、幾万の……無間無量の炎と氷、そして想いの屍を踏み越えて。――――――お前達は、征くがいい」

 

 

 その言葉を聞き届け、立香達はこの異聞帯を滅ぼす為、空想樹を伐採すべく動き出す。

 

 そして、ここには、スカサハ=スカディ、アンナ、オフェリア、バーサーカー、アルバトリオンが残される。

 

 

「……オフェリアよ」

 

 

 スカサハ=スカディに声をかけられ、オフェリアは彼女に視線を向ける。

 

 

「そういえば、事あるごとにそなたに求婚していた弓兵がいたな。ナポレオン、といったか」

「は、はい。それがなにか……」

 

 

 スルトの呪縛から自分を救ってくれた英雄が、何度も自分に求婚してきた事を思い出しながら頷く。

 

 

「そなたが断固として奴の求婚を断っていたのが気になってな。もしや、他に好いている者がおるのか?」

「えッ!? あ、えっと、それは……」

「いるのだな? 名はなんという」

 

 

 じっと見つめられ、堪忍したオフェリアは自分の顔が熱くなるのを感じながら答える。

 

 

「……キリシュタリア・ヴォーダイム。私達クリプターのリーダーです」

「ほぅ……。では、そなたはここに留まり続けるわけにはいかぬな」

「え……? それは……」

 

 

 どういう事か――――――と訊ねようとしたが、オフェリアはスカサハ=スカディの瞳を見て、なにも言えなくなってしまった。

 

 まるで、母親のように安らかな瞳。あらゆる生命を慈しむ、慈愛に満ちた瞳だった。

 

 

「オフェリア。こことは異なる歴史より来たりし女よ。(スカディ)の伝説は知っているか?」

「え? は、はい」

 

 

 頷いたオフェリアは、彼女とは異なる、汎人類史のスカディについて口にする。

 

 スカディ――――――古ノルド語で『傷つくるもの』を意味する、“神々の麗しい花嫁”。汎人類史の彼女は海神ニョルズと離婚した後、主神オーディンと結ばれたという。

 

 

「……そうか。そちらの私は、神々と結ばれたのだな」

 

 

 呟く彼女の顔は、どこか物憂げな表情をしていた。

 

 

「……オフェリアよ。そなたは、私のようになるな」

「ッ! 陛下……」

「この北欧に、神は私しかおらぬ。主神オーディンを始め、全てスルトめの炎に()き尽くされてしまった」

 

 

 本来なら神々と結ばれるはずであったスカディは、スルトがオーディンによって封印されてから、ずっと独りで北欧を見守り続けてきた。その哀しみは、およそ人の見解では計り知れぬものであろう。

 

 

「愛する者と結ばれないのは、中々に堪えるものだ。私はもう、そのような者が増えてほしくはない。そなたは、幸福になるべきなのだ」

 

 

 スカサハ=スカディはオフェリアに歩み寄り、ぎゅっと優しく抱き締めた。

 

 

「オフェリア。我が愛しき娘よ。どうか、達者でな」

「……はい。陛下も――――――」

 

 

 お元気で――――――と言いかけて、口を噤む。

 

 王たる彼女が敗れた以上、最早、この異聞帯に未来はない。空想樹は伐採され、この世界(れきし)は春の訪れに消えてゆく白雪のように消えていくしかないのだ。

 

 そんな世界を見ているだけしかできない彼女に、その言葉は不適切ではないのか――――――そう考えるオフェリアの背を、スカサハ=スカディは軽く叩いた。

 

 

「征け、オフェリア。白雪の道を駆け抜けて、春風の吹く未来へ」

「……はいッ!」

 

 

 力強く頷き、オフェリアはアンナを見る。それに頷き返したアンナは、今まで静かに彼女達の会話を聞いていたアルバトリオンに指示を出し、オフェリアと一緒にその背に跨る。

 

 

「アンナ・ディストローツ」

 

 

 アルバトリオンが羽ばたこうとした刹那、スカサハ=スカディに声をかけられる。

 

 

「オフェリアを、頼んだぞ」

「……任せて。優しい女神様」

 

 

 氷雪の女王の言葉に微笑みを以て返したアンナが体を軽く叩くと、アルバトリオンはその雄々しい翼を広げて、北欧の空を駆け抜けていく。

 

 嵐の壁を打ち砕いて、漂白された世界に飛翔する。

 

 蒼白の天空に、純白の大地。その狭間を翔ぶ龍の背中に跨るオフェリアは、徐々に小さくなっていく北欧の地を眺める。

 

 数分経ったあたりだろうか。やがて、崩壊を始めていく嵐の壁を見て、オフェリアはハッと息を呑む。

 

 

「ぁ……」

 

 

 微かに漏れた声は、オフェリア自身気付かぬほど小さく震えていた。

 

 一陣の風が吹く。それは、春の芽吹きを感じさせる暖かな風。

 

 “愛”に生きた一人の女性の願いを乗せたかのように暖かな風は、“愛”を知った少女が零した雫を拭い、彼方へと消えていった――――――

 




 
 びょーん!(幻聴)
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