「え? イナガミが?」
『えぇ。つい昨日、襲われたわ』
眉を顰めるアンナに、ホログラムのヒナコが頷いた。
ヒナコの話によると、ガイアに召喚されたであろうイナガミの襲撃によって深手を負った項羽を修復すべく、彼女達は一度咸陽に帰還したのだという。これはヒナコの報告を受けた始皇帝直々の勅令であり、この時ばかりはヒナコも始皇帝に心からの感謝したのだとか。流石の始皇帝も、自軍の最高戦力を失いたくないらしい。
「旦那さんの様子は?」
『修復は順調よ。しばらくすれば直るみたい』
「ならよかった。……で、イナガミの事なんだけど、私の仕業じゃないからね」
『貴女の性格を考えれば、そのくらいわかるわよ。大方、ガイアが動いたんでしょう?』
「そう考えるのが妥当だよね。
人類、または星の無意識の願望によって誕生した抑止力に意思はない。ただ起こった事象に対するカウンターとして、それに絶対に勝利できる数値で出現するだけだ。今回は惑星そのものの化身である禁忌種を始めとした古龍種の大半が侵略者側についたため、己の身に蓄積された生命のデータから、それに対抗する為の古龍を構築し、派遣してきたのだろう。いや、抑止力が彼らを召喚して終わりなはずがない。まだアンナはヒナコを除いたクリプター達の管理する異聞帯にモンスターが出現したという話は聞いていないが、これからはガイアによって次々とモンスター達が召喚されるだろう。もしかしたら、彼の天廊の番人も召喚される可能性がある。辿異種としての姿を持たない奴が出現するとなると、それは極限の境地に至った個体だろうか。
嫌だなぁ、とアンナは心中で頭を抱える。あれはもしかすると禁忌に匹敵するような奴だ。時間はかかれど、奴の使う毒ならば世界を滅ぼす事など造作もない。こちらに出現した場合は古龍種を三体、いや、五体向かわせればいいだろうか? だが、毒というのは大抵の生物に通るものだ。如何に強力な存在だろうと、内側から攻められれば堪ったものではない。ヘラクレスにヒュドラ毒が塗られた矢で誤射されたケイローンの話を知っていれば尚の事。しかも、番人が使う毒はヒュドラ毒など比にならないものだ。それこそ、歴戦の古龍種すら軽く殺してしまえるほどに。
ここまで考え、アンナはいずれ現れる可能性が高い天廊の番人の討伐を最優先事項に決定する事とした。こちらに出現してくれれば古龍種総動員で迎え撃てるが、他の異聞帯に出現した場合は弟妹を派遣しよう。そのせいでその異聞帯の一部が消し飛ぶと思うが、そこは後で頭を下げて謝るしかない。
『アンナ?』
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
『珍しく真剣な表情をしてると思いきや、そういう事だったの。……って、そんな事はどうでもいいの。項羽様が完治次第、すぐにそっちに行きたいわ。始皇帝の奴、ここに出現した古龍がイナガミだけじゃない事を把握してるみたいだったし』
「ん? そっちの始皇帝はイナガミの事を知ってるの?」
『そんなわけないじゃない。始皇帝はイナガミの名前を知らないし、その存在についても“いきなり現れた変な生物”程度にしか思ってなかっただろうけど、項羽様と同格という事実に無視できなくなったみたい。他にもイナガミみたいな生物はいないかと異聞帯内部を観察したら、もう一体見つけたらしいのよ。なんでも、銀色の球を浮遊させてた奴だったとか。貴女なら知ってるでしょう?』
「銀色の球っていうと、あの子かぁ……」
あらゆる竜種の祖であるアンナは、ヒナコの話からイナガミと共に中国異聞帯に出現した古龍種の正体にすぐに気付いた。
なるほど、確かに汎人類史の始皇帝の逸話を参考にガイアが召喚したのなら納得だ。異聞の始皇帝は機械の体を得ているので効くかはわからないが、もし効くのならこれ以上の戦力はない。
『始皇帝は修復と並行して項羽様を改良後、そいつの討伐に向かわせるつもりよ。より勇ましくなった項羽様のお姿なんて爆散ものだけど、こればかりは看過できないわ』
「了解。じゃあこの後、サーヴァントを送るね。すぐ到着するから、待つ必要はないよ」
『頼んだわよ』
頷いて通信を切ってから「ボレアス」と一言言うと、瞬時に彼女の背後にボレアスが現れた。
「ぐっちゃんの話によると、項羽は人馬型のロボットらしくてね。輸送なんてまず出来ないから、君の力でここに連れてきてね。ぐっちゃん達の部屋は見てるでしょ?」
「もちろんだ」
ボレアスの胸を中心に発生した黒い霧のようなものが彼の体を包み込み、それが消えた頃には、そこに彼の姿はなかった。
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通信を終えた直後、ヒナコは背後に強大な気配が出現したのを感じた。こちらに害意はないとわかっていても、いきなり背後に立たれるのは恐ろしい。ましてや、それが“黒龍”ともなれば。
「……驚いたわ。まさか、一瞬でここに転移してくるなんてね。最早魔法じゃない」
「
汎人類史に生きていた頃は得られなかった力。それを会得していた異聞の禁忌を討ち果たした事でその力を手に入れたボレアスは、その能力の一つである瞬間移動能力で、南アフリカにあるシュレイド異聞帯から中国異聞帯までやって来たのである。ヒナコとしても彼が瞬間移動してきたのは驚いたが、彼が大っぴらに嵐の壁を破壊してこの地に侵入してくるよりも大分マシだと考える事にした。
「お前の話は聞いていた。時が来たら私を呼べ。こちらの王に感づかれる前にここから連れ出す」
そう言って霊体化しようとしたボレアスだが、ふと目を細めてあらぬ方向を見る。
「ほぅ……? これはまた、懐かしい気配だ。なるほど、“運命”とはよく言ったものだ」
“運命”の名を冠する姉弟を持ち、己もまたその名を持つボレアスは、突如として出現した気配に口角を吊り上げた。
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カルデアが訪れた中国異聞帯は、初見で見れば“平和な世界”と呼ぶ者がほとんどであろう。なにせそこに生きる人間達は病魔に侵されず、戦という概念を知らず、ただ己がすべき作業を行ってこの世を去っていくのだから。闘争と鮮血に塗れた汎人類史とは比べ物にならぬ、まさしく平穏そのものだ。
だが、それがこの歴史が剪定される理由であった。この世界は、
人々が獣と融合しなければ繁栄できなかった、永久凍土という過酷な環境を持つロシア異聞帯。人類を生き長らえさせる為、最大でも25歳になった頃には殺されなければならなかった北欧異聞帯とも違う、カルデアが初めて対面する“上手く行き過ぎてしまった”世界がこの中国異聞帯である。
さらに、この歴史では人間があらゆる苦しみから解放されているために“祈り”という概念が存在せず、それと直結する英霊召喚の術式が成り立たない。それどころか、藤丸立香が使役する
伝説に曰く、始皇帝は儒学というものを厭んでいた。蒙昧なままであれば、民はそのまま安らかに、平穏に過ごして行けたのだ。なのに、それをカルデアが壊してしまった。
秦良玉の報告によって、カルデアが召喚したサーヴァントの一騎の荊軻が、現地の少年に詩を教えたという事を知った始皇帝は、完全にカルデアを排除すべき敵と認識してしまった。敵として定義した以上、始皇帝に容赦などない。
秦良玉にシャドウ・ボーダーを奪わせた後、始皇帝はカルデアに儒を学んでしまった民諸共に滅ぼすべく、地球外からの侵略を阻む為に作った長城の一つをパージしたのである。
しかしそれは、カルデアがなんとか召喚に成功した三騎のサーヴァントの一騎、スパルタクスによって阻まれた。
スパルタクス―――トラキアの剣闘士にして、第三次奴隷戦争の指導者。叛逆の体現者。そして、此度のカルデアの危機に駆けつけてくれた英霊の一人。
実のところ、彼はなぜ自分がこの地に招かれたのかを疑問に思っていた。なにせ、この地は平和すぎる。叛逆の象徴足る自分が、なぜこの地に喚ばれたのか。だが、今となっては、全てはこの時の為だったと思える。
しかし、今起こっている出来事は、彼がこの地に召喚された理由、そして、為すべき事を彼に気付かせたのだ。
始皇帝は民を己が身として捉えている。その
スパルタクスはこれを、圧制の中の圧制―――大圧制と定義したのだ。
彼の保有する宝具に、『
極限に対する極限。絶大に対する絶大―――『
彼の雄姿は、カルデアにこの先の道を進む勇気を与え、また絶望に打ちひしがれていた村人達の心に希望の光を灯した。
ここにようやく、“祈り”という概念が生まれた。人々の“祈り”はこの地から英霊の座へと繋がる
「ふむ、この懐かしい空気の匂い……彼方の山陰に見覚えがないでもない」
舗装などされていない山中に眩い光と共に現れた男が、遠くに聳える山を見て呟く。
陳宮―――中国後漢時代末期に誕生し、天下動乱の時代に名を馳せた武将の一人。後の覇王である曹操に仕え、その信頼を受けていたがこれに叛逆し、乱世の奸雄と言われた呂布を主君と仰ぎ曹操と覇を競い、そして幾ばくかの敗北の末、曹操直々の問答の後にその生涯を終えた軍師。
「どうやら招かれた先は故国のように見受けられますが、それにしては不可解な景観ですね。およそ戦乱の兆しが見当たらない。マスターらしき人物もおりませんな。つまり、我々は“はぐれ”の扱いでしょうか」
「残念です。出会い頭に『問おう』って始めるあれ、私ちょっと憧れてたのですが」
「……さて。どこから突っ込んだものでしょうか。貴方のその恰好は……」
訝し気に言った陳宮の視線の先にいる“なにか”は、それに対しこう答えた。
「なにを仰る? もちろん、呂布奉先ですともッ!」
彼の名は赤兎馬―――中国の三国志時代に名高い武将である呂布奉先の愛馬として知られる名馬。“人中の呂布、馬中の赤兎”と讃えられ、呂布と共にまさに人馬一体の如く武勇を振るったと言われている馬である。その逸話から、アジア圏においては最も知名度のある馬の一頭と言えるだろう。
それだけならばどれほど良かった事だろうか。どういうわけか、今の彼は馬の頭を持つケンタウロスとでも言うべきような姿を取っており、自身の事を呂布と信じて疑わないモンスターと化してしまっていた。
「ふむ……時に赤兎馬」
「呂布です」
「貴方……“無辜の怪物”のスキルを持っていますか?」
「
「おや、こんなところにニンジンが」
「ヒヒンッ! どこッ!? 美味しいニンジンどこッ!?」
「ふぅむ。やはり貴方、赤兎馬では?」
「呂布ですよ?」
ニンジンという単語に目敏く反応しながらも自身を呂布だと信じて疑わない赤兎馬に陳宮が重い溜息を吐くと、「おや?」と瞬きする。
「赤兎馬。なにやら香ばしい匂いがしませんか?」
「呂布です。……そうですね。
赤兎馬が指差した先には、酷く小さいが明るい光が見える。誰かが焚火でもしているのだろうか。そこから漂うのは、自分達と同じサーヴァントの気配。それを感じた一人と一体はお互いに頷き合い、足を進める。
徐々に光との距離が縮まっていくごとに、新たな情報が視覚と聴覚、そして嗅覚を通して脳に送られてくる。
焚火をしている何者かは、恐らく一人で肉を焼いているらしく、パチパチと火の粉が弾ける音と同時に鼻歌が聞こえてくるが―――
「誰だ?」
自分達の気配を感じ取ったのか、鼻歌を止めた男の声が発せられた。
「
肉焼きセットから手を離し、腰に差していた剣を抜き放つ。
「このストレオが許さねぇ……ぞ?」
バーンエッジ―――空の王者の素材を用いて作られた片手剣を向けた彼に、陳宮と赤兎馬が即座に身構える。
赤を基調とした鎧に、大分若々しい顔立ちをしたその男―――ストレオは最初に陳宮を見、そして赤兎馬に視線を移し、驚愕に目を見開いた。
「うわぁッ!? ななな、なんだテメェッ!?」
「なにって、呂布ですが?」
「いえ、赤兎馬です。事実から目を背けないでください。貴方は赤兎馬。馬です」
「いえ、呂布です」
「テメェが馬なわけあるかッ! テメェはあれだ。馬じゃなくて
「呂布です」
頑なに自分が呂布だと言い張る赤兎馬に再び溜息を吐く陳宮に、訳がわからず頭を抱えるストレオ。
なにはともあれ、スパルタクスの命を賭した行動によって、人理の守護者達は中国異聞帯に足を踏み入れた。
開始十四話目にしてようやくハンター出せましたッ! 彼についてはシンが終わり次第、幕間にて解説しますので、よろしくお願いしますッ! ちなみに装備はレウス一式です。頭部はこんがり肉を食べようとしてたので外している状態です。
ここから私事な話なんですが、今作で登場させるハンターの数を減らしたいと考えています。オリキャラを多く作ってしまうと、その分の過去話を考えるのが大変になってしまうという理由の他にも、私のスキルではそれぞれにちゃんとスポットライトを当てきれる自信がないと思ったからです。
一応、予定としては四人……無印(G・P)、3(3G)、4G、ワールド(IB)から出そうかと考えています。ストーリー上で禁忌とぶつかったのが彼らなんですよ。これ以外のシリーズの主人公を待っていた方々は申し訳ありません……。こちらも色々頑張って、せめて回想とかで登場させたいと考えています。とりあえず2は無印の回想で出す事は決定しています。
厳密には無印ハンターもストーリーでは禁忌と会っていないんですが、ここは少し事情がありまして。はい、そこは無印ハンターの幕間で説明します。
また、この作品で登場させようと思うハンターの使う武器で悩んでいます。予定としてはそれぞれのハンターが主人公になった作品のメインモンスター、またはラスボスの武器を使わせる予定なのですが、やはり各主人公が活躍した作品で新登場した武器を装備させるべきでしょうか? たとえば今回登場させた主人公の片手剣は、大剣、片手剣、ランス、ハンマー、ライトボウガン、ヘヴィボウガン、双剣の中から選びました。「なんで初代どころかGとPの新武器も入ってるんだ」と考えていると思いますが、大辞典で調べてみると、ストーリー的には無印・G・Pは同じみたいなんですよね。他のハンター達もそんな感じで武器を選んでいこうと考えていたんですがね……。
正直に言います。私はイケオジ太刀使いが書きたいんです。
わかりますか? 太刀を使う青年もいいんですが、私個人としては壮年の人が太刀を振るう姿が大好きなのです。可能ならばそれを書きたいッ! しかし太刀が追加された2であり、そのハンターの設定はもう決まっていると言ってもいいんですよ。現在、『じゃあ他に太刀使いとして使えそうなハンターっている?→ユクモ村のハンターとかどうよ。場所的に太刀は映えるゾ→このハンターストーリーで禁忌に会ってないやんけ→■■■■■■■■■ッッッ!!!(狂化)』という流れに陥っています。
それで、武器についてなのですが、新武器のみ使うとなると幅が利かないんですよね。3(3G)の新武器はスラッシュアックスしかありませんでしたし、ワールドに至っては新武器がありません。まぁ、ここは流石に現段階での全武器の中から選ぼうと考えていますが。でも3Gのハンターにはガンランスを装備させたいんですよね。ラギア装備でもブラキ装備でも似合いそうな気がするんです。こちらは最終再臨でラギア希少種のガンランスを持たせようかと考えています。
そこでなんですが、アンケートを取りたいと思います。内容は、『この作品で登場させるハンターは各作品で新登場した武器を使わせるかどうか』です。遠慮する必要はありません。ここまであーだこーだ言った私ですが、結局は趣味の押し付けですからね。遠慮なく、自分の思う方に投票してください。
私は読者の皆さんに満足してもらえるような作品を目指して執筆しています。どうか、皆さんの意見を聞かせてください。それではまた次回、お会いしましょうッ!