今日モンスターハンターライズの公式Twitterアカウントでヤツカダキの防具の説明を見つけたんですよ。
『人に化けた八つ腕の女と、その正体を知りつつも傍らにいることを選んだ男…。ふたりの悲恋を伝える妖しい防具』というものなんですが、泣かせてくれますね。こういう人間と人外の恋愛話が好きな私的にドストライクです。
「そっかぁ、ストレオ君が来たかぁ」
シュレイド城地下。淡い青色の輝きを放つ結晶が四方八方に存在する空間に、アンナの声が木霊する。
中国異聞帯に派遣したバーサーカーからの報告で、そちらに最高の狩人の一人が召喚された事を知ったアンナは「それもそうか」と心中で納得する。
今もこのシュレイド異聞帯各地には数多くのサーヴァントが存在している。各々が伝説に名を遺した歴戦の猛者達。その中にはもちろん、我々の時代に生きた狩人達も含まれている。
……いや、『含まれている』と言うよりは、『含まれていた』と言った方がいいかもしれない。既にこの地に召喚されたハンター達は禁忌の龍達によって滅ぼされている。今回中国異聞帯に出現したハンターと共にかつての“黒龍”を討ったハンターもまたその一人である。
悠久の時を生きた祖なる女に再び集った禁忌の龍達はこの異聞の大地に生きていた己を殺し、喰らい、その能力を獲得した。
しかし、結局討伐は叶わず、彼らは“黒龍”の前に敗北を喫した。そのメンバーの中には、汎人類史で“黒龍”を討伐せしめた者もいた。彼が“黒龍”に焼き尽くされた以上、その片割れたるストレオが召喚されるのも納得だ。
だが、ここで疑問が生じる。あの弓使いが倒れ、ストレオがシュレイド異聞帯に召喚されたのならわかる。だが、なぜ中国異聞帯に? ヒナコからの報告で、ここにはいなかった二体の古龍種が出現している事は知っているが、まさかそれを狩る為に抑止力が遣わせた?
……いや、それはないだろう。人理漂白という一大事に対し、ガイアとアラヤが互いの足を引っ張り合うはずがない。放っておけば共倒れなのだ。異聞帯を滅ぼす為にガイアが古龍種を召喚したのなら、それを討伐しようとアラヤがハンターを召喚するはずがないだろう。
となると第三者? それこそあり得ない。地球の意識そのものに介入するような存在がこの世に存在するはずがない。そんな事が出来る奴など、この世に一人たりとも―――
(……え? まさか、あいつってそんな事まで出来るの?)
出来そうな奴が一人いた事に気付き、顔を手で覆って嘆息する。
今でも脳裏に焼き付いている、あの目が悪くなりそうな深紅の衣を纏った男。如何なる方法を用いたか、異邦の存在とリンクして常識外の力を手に入れた人間。彼ほどの男が英霊に昇華されないはずがない。彼にかかれば、座にいながらも他のサーヴァントを派遣する事すら出来そうなのが怖いところだ。恐るべし、異界の知識。
けれど、負けるつもりはない。着々と異聞帯は拡大していっているし、種もばら撒いている。種が芽吹いた時、この異聞帯は脆弱な歴史から脱却する。
そしてなにより―――
「この子ももう少しで……」
目の前にある、自分の数倍の大きさを持つ巨大な繭を見る。
死に絶えた数多の古龍の生体エネルギーに、汎人類史サーヴァント達の魔力。それらを養分に変えて王を育む揺り籠に触れると、仄かな温もりを感じた。
「早く生まれておいで―――私達の王様」
まるでこれから生まれてくるであろう子に語り掛ける母親のような声で言うと、それに応えるように蒼白色の殻が淡く点滅した。
―――王の誕生は、近い。
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「あぁ、弱い。出会う相手の悉くが弱すぎてお話にならない。というか人ですらありませんね。機械仕掛けの傀儡とは、嗜虐心を持て余してしまいます」
出現させた投石器で複数体の傀儡兵をまとめて圧し潰した陳宮が心底退屈そうに呟く。はぐれサーヴァントとして召喚されてからというものの、主たるマスターと出会えなければいつまでのはぐれのまま。これでは存分に力を振るえないではないか。
「それにしても、流石は伝説の時代の英雄。素晴らしい手際です」
「止してくれ。俺に“英雄”なんて肩書は似合わねぇ。その肩書は、兄ちゃんを含めた俺以外のハンター達にこそ相応しい」
こんがり肉を頬張っていたストレオが答える。
伝説の時代の出来事として、世界各地に伝わるハンターの逸話。数多くいるハンター達の中でも、万物を自然の一部とし、それを制した者達は、等しく“モンスターハンター”の称号を賜る。その称号持ちは全部で十八人いるとされており、各々が十八種の武具の内一つの技術を極限まで鍛え上げている。ストレオは片手剣の使い手だ。
此度の現界に際しての彼の霊基は一段階目だが、それでも世界最高峰のハンターに数えられたその実力には目を見張るものがある。それは彼が腰かけている、大量に積み上げられた傀儡兵の残骸が物語っている。
「ほう。兄君がいらっしゃるのですか。そちらはどのような武器を?」
「弓だ。近距離だろうと遠距離だろうと縦横無尽。いつだって兄ちゃんは俺の憧れのハンターさ」
偉大な先達によって険しい山間で作り上げられた大都市で“英雄”と讃えられた兄の背中を思い浮かべる。“鋼龍”の弓を駆使して数多の強敵を討伐してきた彼も、自分と同じように英霊の座に招かれている事だろう。いつか、英霊の身となった自分達が再会する時が来るだろうか。
「……っていうか、マスターにはいつ会えるのかねぇ?」
「我々がここにいる以上、遅かれ早かれマスターとは出会えるでしょう。ですが我々の上に立つ者であれば、不意の赤兎キックを受けても笑顔でいられる方でないと」
「ヒヒンッ! 千里を駆けた我が蹴撃を受けて生き延びてこそ、我らのマスターに相応しいですねッ!」
「こいつのキックを受けて平気でいられる奴、人間じゃないと思う」
「生身で古龍種と渡り合っていた
軽口を叩き合っていた陳宮がふと遠目に見えるなにかに目を細め、それに気付いたストレオと赤兎馬もそちらの方を見やる。
「あれはもしや……」
「人間……、いや、それ以外の奴もいるな。人間と人間っぽい奴が一人ずつ、もう一人はサーヴァントだ」
「おぉ、ようやくですか。では行きましょうか、お二方」
ストレオと赤兎馬を連れた陳宮が、こちら側に気付いたであろう三人に声をかける。彼に声をかけられたのは、もちろんカルデアの者達である。
現在、カルデアは始皇帝にまとめて殺されない為に他のサーヴァント達と別行動を取っており、今マスターである藤丸立香を護っているのは、マシュと荊軻だ。彼女らとしては是非とも陳宮達の力が借りたいようだが、「まずはそこな魔術師の采配を試す為」として陳宮と赤兎馬を支援する形でカルデアと激突した。摸擬戦を断ったストレオと違って、生前の主への義理立てもある彼らは、幾度転生を果たそうとその在り方を変える事は無い。こういった手合いは話し合うだけ無駄だという荊軻の言葉に従い、立香達も相手を消滅させる気で戦った。
「あいや、そこまでッ!」
そうしてしばらく戦った頃、陳宮が掛け声で双方の動きを止めさせる。
「如何ですか、赤兎? これは我らがお仕えするに相応しき猛者と見て良いのでは?」
「たーのしーッ! まさしく呂公のみならず美髯公をも偲ばせる覇気と威風ッ! この私の背に乗せて不足なしッ! というわけで、私は呂布奉先です。ヨロシクッ!」
「え?」
「あ、そこは無視していただいて結構。凄まじく大した問題ではありませんので。ストレオ殿は如何でしたか?」
「いいんじゃねぇか? 気概があって俺好みだ。だが、俺も俺なりに、こいつを試させてくれ」
今まで胡坐をかいて彼らの戦いを見ていたストレオは、赤い兜の奥にある瞳で立香を見下ろす。
「藤丸立香っていったな? お前は、何の為に戦っているんだ? 返答次第によっちゃ、俺はお前と契約を交わさねぇぞ」
決して脅すつもりはないのだろうが、それでも真正面から見つめられると威圧感がある。これまでの旅の中で多くの存在を目にしてきた立香でも、彼から発せられる緊張感には体が強張る。
それでも、立香の双眸に怯えの色はなかった。
「それは……汎人類史を取り戻す為だよ」
「その為に、他の歴史を滅ぼす事になってもか? 大願の為に、犠牲を積み重ねる事を許容するか?」
その問いかけに対し、立香の瞳が一瞬ブレる。しかしそれも一瞬の事で、次の瞬間には先程までと同じ瞳に戻っていた。
「今まで二つの異聞帯を滅ぼした。そこに住んでた人達の為にも、立ち止まるわけにはいかないんだ」
絶対零度の地に生きた男に「生きろ」と言われた。氷雪の女王との戦いを通して、想いの屍を踏み越えて行く覚悟を確固たるものとした。彼らの命を奪い、彼らの世界を滅ぼた責任からは逃れられるものではない。
それは、最早強迫観念に等しいだろう。あと六つの世界を滅ぼし、異星の神なる存在を打倒しない限り、彼女の戦いは続く。二十歳にも満たぬ少女が行うようなものではない。いっそ感情を捨ててしまえば楽になれるだろうに、と考えるが、ストレオは心中で頭を振ってその考えを捨て去る。
「……あぁ、強ぇな。俺なんか足元にも及ばねぇくらい」
俯き、腰に左手を当て、右手で顔を覆うようにして溜息を吐く。
話を聞いてわかった。この少女は、自分なんかより余程人間らしく出来ている。それ故に危ないところもあるが、それは彼女の隣にいる大盾を持つ少女がなんとかしてくれるだろう。ストレオは、彼と少女の間には決して断ち切れぬ絆があると感じたのだ。
「そんな……。私なんて、マシュ達がいないとなにもできないよ」
「そう謙遜すんなって。人間ってのは元々一人じゃなにもできない生き物だからな。いくらでも助け合え。……ところで立香、お前、もしかして体調が悪いのか?」
「うん……。実はね……」
立香の顔色が若干悪い事に目敏く気付いたストレオに、立香は今の自分がどのような状況に置かれているのかについて説明した。
「毒、か。それならこいつを飲んどけ」
そう言ってストレオがポーチから出したのは、紺色の液体で満たされた瓶だ。それを見たマシュは、「もしかして」とストレオに訊ねる。
「それって、解毒薬ですか?」
「おう。例外を除けば、こいつで治せない毒は無いと言ってもいい。苦いだろうけど我慢しろよ。良薬は口に苦しだ」
言われるがままに、立香は瓶に満たされた液体を飲み干す。口内に広がる苦みに思わず吐き出しかけるが、この毒が治るのなら、と我慢して飲み込む。口元を拭った直後、立香は先程まで感じていただるみや熱っぽさが瞬く間に消えていくのを感じた。
「……凄い。体が軽い……ッ!」
「ッ!? ほ、本当ですか、先輩ッ!?」
「うんッ! ありがとう、ストレオッ!」
「いいって事よ」
感謝の言葉を述べる立香にニカッと笑うストレオ。
「驚いたな。まさか扶桑樹を材料にした毒さえも解毒するとは」
「扶桑樹ってのがどんなもんか知らねぇが、俺らが相手にしてきたモンスターの中には喰らったらあっという間に死ぬような毒を使ってくる奴もいたからな。これもその類かと思ったが、そうじゃなかったみてぇでよかったぜ。……それじゃあ、改めて自己紹介だ。サーヴァント・セイバー、ストレオだ。これからよろしくな、マスター」
「よろしく、ストレオッ!」
これにより、陳宮、赤兎馬、ストレオは目出度く立香と契約を交わすのであった。その直後に秦良玉軍によって捕縛されてしまったホームズ達から連絡が入り、彼らが囚われている安康へと向かう事となった。
「ここに手頃な相手が居れば我々の力をマスターに披露する事が出来ましたが、そうなっては仕方ありませんね。では救出と同時に我々の力を確認していただきましょうか。ストレオ殿。貴方と赤兎の武力に私の策。掛け合わせれば絶大な力を発揮すると思うのですが、如何しますかな?」
「嫌だねッ! お前の作戦なんて最後にゃ決まって自爆なんだろ? さっきの赤兎馬見てて『はい、わかりました』って納得できるかッ!」
「ですが“
「んなわけあるかッ! それはあれだ。モンスターハンターの称号を得てるのが人間の常識から外れまくってるだけで……」
ハンターは基本的に人外の集まりである、というのは彼らの後に続いた時代の者達が抱くイメージだ。神の血を引いておらず、ましてやなんらかの加護すら得ていない状態で自然の象徴たるモンスターを相手に奮戦し、中にはストレオのように古龍種すら狩ってしまう存在がいるのだ。そんな彼らを、後の人々が“人外”と呼称しないはずが無い。
「貴方その称号持ちですよね? やっぱり人外じゃないですかヤダー」
「俺以上に人外な奴に人外って言われた……」
がっくりと肩を落とすストレオだが、すぐに意識を切り替えて立香達と共に安康へと向かうのだった。
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日が暮れた頃、カルデア一行が次の目的地と定めた安康では、蘭陵王を伴ったヒナコが始皇帝に今後のカルデアについての話をしていた。
『ふむ……良かろう。その施設への逗留を許す。必要とあらば警備の者らの指揮も委ねよう』
肝心要のシャドウ・ボーダーを奪われても、カルデアのマスターは仲間達を優先して助け出す男であると伝えると、始皇帝もシャドウ・ボーダー内にいたホームズ達を始めとしたカルデアのメンバー達を収容している安康近隣で遭遇戦が起きている事を知っていたので、ヒナコの意見に賛同した。
『ただし会稽零式は派遣せぬ。改修に少し時間がかかっておってな。完了後は咸陽の守護に配する。あくまでこちらが本命だからな。いつ、彼の魔物の同類が襲撃してくるかわからぬ故な』
「……っ。……はい」
『あぁ、其方の前では“項羽”と呼ぶべき決まりであったな』
「……お戯れを。あの方はご自身の呼び名など一顧だにされませぬ」
『もし仮に其方の読みが的中すれば、その時は名誉挽回の好機。必ずや雪辱を果たしてみせよ』
「ははっ、お任せを」
その一言を区切りに通信が終了する。支配欲の権化の「ふぅ……」と軽く息を吐いた後、傍らの剣士を見やる。
「……浮かない顔ね、セイバー」
始皇帝との通信を終えたヒナコが傍らに立つ騎士を見やる。先の会話を聞いていたのだろう。汎人類史を駆け抜けた彼は、この異聞帯と自分が生きた歴史の違いを思い知らされ、驚いている様子だった。
「カルデアの捕虜、それにコヤンスカヤを諸共に一つ所に集め捕虜としているのは……」
「私達の常識で考えれば、敵の捕虜は分散して収監するのが鉄則よね。万が一にも共謀して逃げるようなチャンスを与えない為にも」
しかし、始皇帝は敵対者が結託する事よりも、敵対者が占める面積に脅威を感じている。彼にとってカルデアとは蒙昧な民達に儒学を広める病原菌そのものである。感染源はなるべく狭い範囲に隔離すると考えれば合理的だろう。いざとなれば一手間で一掃できるのだから。
「……もし虜囚達が刃向かうような事になれば、またこの地にも星が堕ちるのですか?」
「えぇ。あの帝であればやりかねない。その時が来れば一切の躊躇もないでしょう」
「……私は恐ろしいのです。不死を得た始皇帝の、民に向ける眼差し。その為政の在り方が」
蘭陵王から見たこの歴史の王が己が民に向ける視線は、まるで家畜を見るようなものだった。それが、かつては民を治める側であった彼には中々堪えるものだったのだろう。
「この異聞帯中国、永世秦帝国の
「人の世の
そこまで叫んで、ヒナコは蘭陵王が苦しそうな表情をしているのに気づき、つい言いすぎてしまったと自重する。
「……ごめんなさい。お前もまた、かつては護るべき国と民を従えた領主でしたね」
「……お気になさらず。貴女の怒りも御尤もです」
「さぞや悍ましい女と思うでしょう。お前程の英霊を、ただ己一人の情念の為だけに使役しているのだから」
「いえ、情念とは儚く移ろうものだからこそ浅ましいと蔑まれるのです。だが、貴女の想いは時を超えても不変のまま。なれば、それは既に“信念”も同然。そして主の信念を奉じて戦場に臨むは武人の誉れにございます。故にこの蘭陵王、貴女のサーヴァントとして振るう刃に一切の悔いはありませぬ」
「……ありがとう。こんな私の為に……」
人間は嫌いだが、自分が召喚したサーヴァントが彼であった事には感謝せねばなるまい。こんな自分にも、生前と変わらぬままに忠義を尽くしてくれる相手などこの世に二人といないのだから。
感謝の言葉を口にしたヒナコにフッと淡い笑みを返した蘭陵王。しかし―――
「ッ! 失礼しますッ!」
「え? ちょ、ちょっと―――」
突然表情を一変させた蘭陵王がヒナコを抱え、彼女が何事かと叫ぼうとした刹那、先程まで彼らがいた場所に銀色の球が穿った。それにハッとしたヒナコが上空を見上げ、そこに滞空する怪物と視線が合う。
全身を覆う銀色の鱗と身体の各部から生えている鋭い棘を持ち、頭部、胸部、尾の先端は茜色を帯び、一際輝いている。翼膜が存在しない三対の翼を羽ばたかせ、周囲に白銀の球を複数浮かべた龍の名は―――
「“司銀龍”ハルドメルグ―――ッ!」
「グルオオオオォォォォォッッッ!!!」
取り逃した標的を今度こそ誅殺せんと、ハルドメルグが夜空に咆哮を轟かせた。