【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

31 / 152
 
 先週は更新できず、申し訳ございませんでした。少し家族とYAMAに行ってましてね。パソコンが使えない中、美味い空気を吸いながらご飯食べたり温泉入ったりしてました。

 マガイマガドが倒せにゃい(大技で常に死亡)。


緋銀の頭、狩人の剣舞

 

「グルオオオオォォォッ!」

 

 

 ハルドメルグが高らかに吼え、空気中の流体金属の濃度を高めて無数の槍を形成し、空中から雨のように大量に振らせてくる。怒涛の勢いで降り注ぐ槍雨を掻い潜りながらストレオが叫ぶ。

 

 

「ハルドメルグの弱点は操核だ。あいつの体にある茜色の場所を狙えッ!」

 

 

 走り出したストレオのアドバイスに頷き、各自がそれぞれ別方向からハルドメルグに攻撃を仕掛ける。

 

 赤兎馬の槍とストレオの剣を躱したところに陳宮が召喚した投石器が投げた岩石が迫るが、これも躱したハルドメルグは翼に水銀を充填し、クナイのように放ってくる。

 

 空を切り裂いて振るわれた赤兎馬の槍が翼爪を打ち払い、すぐさま跳躍してハルドメルグに肉薄する。

 

 振るわれる剛槍。轟音と共に叩きつけられた一撃にハルドメルグの態勢が大きく揺らいで地面に叩き付けられる。

 

 起き上がろうとするハルドメルグに追撃を仕掛けんとばかりに蘭陵王と、彼が率いる護衛兵達が古龍を囲み、袋叩きにせんと疾走する。

 

 

「―――ッ!? 離れろッ!」

 

 

 しかし、一瞬ゾッとするような感覚に襲われた蘭陵王が叫んだ瞬間、頭上から彼ら目掛けて槍の雨が降り注いできた。全方位から来る攻撃からハルドメルグを護るように降り注いだ銀色の雨は、逃げ遅れた護衛兵達を貫いたかと思えば、再び液体状になって起き上がったハルドメルグの身を覆う鎧と化す。

 

 間髪入れずにハルドメルグが飛びかかってくる。蘭陵王は即座に横へ転がって回避するが、彼はその瞬間、ハルドメルグの尻尾に水銀が充填されている事に気付いた。

 

 回転と同時に振るわれた尻尾が蘭陵王に叩きつけられそうになったが、死を前にした本能が彼の体を動かし、当たるか当たらないかのギリギリの瞬間に上空へ跳躍させ、なんとか直撃を避けた。さらに、ハルドメルグの背中に飛び乗り、その背中に剣を突き刺した。

 

 背中に乗っている蘭陵王を振るい落とそうとがむしゃらに暴れるハルドメルグだが、その隙を突いて陳宮が召喚した破城槌とストレオの斬撃、そしてマシュの打撃が繰り出され、大きく吹き飛ばされた。その隙に蘭陵王が離れる。

 

 逃がさんと言うかのように吼えたハルドメルグが目の前に出現させた水銀の球から無数の武具を形成して放ち、前方にいる者達をまとめて掃討しようとしてくるが、

 

 

「そうは」

「させないよッ!」

 

 

 青年と少女の声が聞こえ、スポットライトのような光線と弾丸のようなエネルギー弾が無数の武具を相殺した。

 

 

「ホームズさんッ! ダ・ヴィンチちゃんッ! それに荊軻さんもッ!」

「待たせたね、ミス・藤丸。ミス・キリエライト」

「ここからは私達も参戦するよッ!」

「ゴルドルフ達は避難させておいた。私も参加させてもらおう。お前にも参加してもらうぞ」

「はぁ~? なぁんで私も手伝う必要があるんですか? ……と、いつもなら言ってますが、今回ばかりは助かりました。あれ以上あんな目には遭いたくありませんでしたし。受けた恩はキッチリお返しする、これ社会人の基本☆」

 

 

 収容されていたホームズ、ダ・ヴィンチ、そして彼らを救出した荊軻に横目で見られたコヤンスカヤ。始皇帝によって既に正体を見抜かれていた彼女は今の今まで身の毛もよだつ拷問を受けていたのだが、念の為に彼女を救出しておこうというホームズの言葉に従い、荊軻が救い出したのである。

 

 彼らの存在に気付いたハルドメルグに、コヤンスカヤは早速とばかりに他の異聞帯から仕入れてきた魔獣や巨人を召喚しようとしたが、ハルドメルグの視線が己のみに定められている事に気付き、ぶるりと震える。

 

 

「おやっ? なにやら覚えのある寒気が……」

「グルアアアアァァァッッ!!」

「ギィヤアアアアァァァッッッ!!?」

 

 

 ホームズ達など歯牙にもかけずに飛びかかってきたハルドメルグを躱し、全速力で走り出すコヤンスカヤ。そんな彼女に向けて、ハルドメルグが水銀の武具を連射していく。

 

 

「またですかッ! またなんですかッ!? ジンオウガに続いて古龍種までッ! アンナさんの差し金じゃないのになんでッ!? 私、なにか悪い事でもしましたかああああああああッッッ!!?」

 

 

 華麗な動きで背後から飛んでくる武具を躱していく彼女の姿を、誰もが茫然として見ている。

 

 

『……ふむ、ちょっと目を離してみれば、なにやら面白い事になっているな』

 

 

 その時、空からこの地を統べる王の声が響いた。

 

 

「陛下……?」

『まぁ、奴についてはどうでも良い。貴様らが相手にしている魔物は、朕が大嫌いな水銀を用いている。此度は援軍を送ってやろう。―――見るがいい』

 

 

 どこからかエンジン音が聞こえ始め、それを聞きつけたホームズ達が音の聞こえてきた方角を見やる。未だに姿が見えていないにも関わらずに誰もが気付くという事は、これから現れるであろうなにかは、静音性を全く考えていない設計らしい。

 

 

「……うわぁ」

 

 

 それを言ったのは、誰だったのだろうか。今となってはわからない。その場にいた誰もが、地平線の彼方からやってくるそれら( ・ ・ ・ )を見て、同じ事を思っていたのだから。

 

 

「うむ、見覚えがあるような、むしろ見なかった事にしたくなるようなものが見えるぞ」

『ふふふ、これぞ朕がシャドウ・ボーダーの解析ついでに微税車を改造しカルデア風に仕上げた兵器―――名付けて、“多多益善号(ドゥオドゥオイーシャン)”である。見るがよい。この暴力に特化した異界のテクノロジーをふんだんに盛り込んだ兇悪(きょうあく)な面構え。見るからに凄い。怖い。永らく続いた泰平の世において、戦闘兵器など絶えて久しく製造していなかった秦であるが……カルデアの技術を徴用すれば、ほれこの通り。急ピッチとはいえ、ここまで残忍無比なる戦闘兵器の完成である』

 

 

 土煙を上げながら徐々にその姿を大きくしていく、虎の装飾が施されたシャドウ・ボーダー似の戦車の説明を誇らしげに行う始皇帝だが、ダ・ヴィンチの目には明らかな屈辱と怒りがあった。

 

 やるとなったら国力総動員で製造するのがこの歴史の秦である。既に工場はこの如何にもな兵器量産の段階に入っている。今回現れたのは、その中でも出来栄えが良いと始皇帝が感じたものである。

 

 あまりにもこの状況に似つかわしくない存在が徒党を組んでやって来た事に立香達が唖然とし、ハルドメルグですら突如出現した鋼鉄の虎の群れを見て訝し気に目を細めている。

 

 

『ンンンン熱線兵器ッ! 自動擲弾(てきだん)砲ッ! 千五百馬力ガスタービンエンジンッ! 将帥の夢、ここに結実……ィイヤッホォォゥッ! これぞまさしく、ロォォォォォマンッッ!!』

(そうかなぁ……)

 

 

 そんな戦車の中でも一際大きい車輌にて。忠臣の推測を基に始皇帝が可能な限り小型化して開発したインカムから韓信の興奮に満ちた雄叫びが聞こえるが、遠くに見えるハルドメルグを観察していた秦良玉はイマイチピンとこない。多多益善号は全て始皇帝の操作の下進んでいるので、今この場にいるのは彼女だけである。ここにもし韓信と性別を同じくする近衛達でもいれば、彼らの意見を仰げたのだろうが、なぜだろう、みんな揃って韓信と同じような事を言いそうな気がする。

 

 女性の秦良玉にはわかるまい。男はみな、こういったものに憧れるのだ。鋼の体を持つ存在は、いつの時代だって世の男達の子ども心をくすぐってくれる。ロボとかかっこいいよね。多多益善号(これ)はともかくとして。

 

 

『さぁさぁッ! こっから先は戦場ッ! 我らが秦帝国に仇名す魔物を討伐じゃあいッ!』

「承知ッ!」

 

 

 槍を手に秦良玉が飛び出すと同時、多多益善号に装備された擲弾砲から放たれた砲弾がコヤンスカヤを追っていたハルドメルグに命中し、古龍から微かに呻き声が漏れる。

 

 

「ヤァ―――ッ!」

 

 

 共に数々の戦線を潜り抜けてきた相棒とも呼べる槍を振りかぶった秦良玉の一撃がハルドメルグの顔面に直撃し、僅かに隙が生じた。

 

 

「後の事を考える必要が出てきましたが、現状においては心強い味方です。行きなさい、赤兎ッ!」

「ヒヒィンッ!」

 

 

 馬の脚力を活かして飛びかかった赤兎馬がハルドメルグの脳天に槍を叩きつける。それでハルドメルグの頭部が地面に叩き付けられ、続いてマシュがブーストをかけたアッパーを喰らわせる。

 

 後退したハルドメルグに多多益善号の群れによる砲撃が行われるが、ハルドメルグはすぐさま自分の身に纏っていた水銀を盾に変化させて防ぐ。続いて、展開した盾で自身を繭のように覆うと、そこから跳躍。一個の球体と化したハルドメルグが多多益善号群を襲い、次々と撃破していった。

 

 

「む、虚数潜航に耐えうるシャドウ・ボーダーの装甲を模倣されたかと危惧していたが、あの光景を見るに、その心配は無用だったみたいだね」

「英霊達の力を借りて作ったものだからね。そう簡単にパクられるもんかッ!」

 

 

 次は貴様らだとばかりに飛んできた球体を躱す。着弾と同時に炸裂した水銀が周囲に飛び散るが、瞬く間にハルドメルグの鎧を再構成し始めると同時、大きく息を吸い込み始めた。

 

 

「マズイ……ッ! テメェら耳塞げェッ!」

 

 

 鬼気迫った叫びに辛うじて反応できた立香達が耳を塞ぐ。

 

 かつての時代において、“超咆哮”と呼ばれるほどの声量を以て放たれた轟音はハルドメルグの足元の地面を捲り上げ、耳を塞げなかった者達の鼓膜を破り、塞げた者達もまた耳を護る手を貫通してきた大音量に堪らず態勢を崩してしまう。

 

 隙だらけになった彼らに、ハルドメルグが尻尾に水銀を充填させ、サマーソルトと同時に放出してきた。大地を切り裂いて飛んでくる斬撃によって傀儡兵があっという間に両断され、続けて上空から放たれた水銀の棘が、斬撃の範囲外にいた者達を狙ってくる。

 

 

「行きなさい巨人ちゃん達ッ!」

 

 

 コヤンスカヤが抜いた髪の毛を放つと、それは瞬く間に巨大な人型へと変化していく。以前攻略した北欧異聞帯で立香達を苦しめた霜の巨人である。

 

 しかし、コヤンスカヤは彼らをハルドメルグへの攻撃手段と考えていなかった。これまでの戦いからなんとなく理解したが、このモンスターは賢い部類に入る存在だろう。下手に攻撃すれば巨人達の持つ武具を再現して襲ってくるに違いない。

 

 水銀で作り出した槍と身体能力のみでカルデアとヒナコ、そして始皇帝に派遣された秦良玉を相手に互角に渡り合う相手に、これ以上の武器を与えるわけにはいかない。自分が関わっていなければ是非とも試してみたい内容ではあったが、今は自分も古龍の標的に定められてしまっているので、そうはいかない。

 

 召喚された巨人達が殺到する槍に貫かれて崩れ落ちていく。そんな巨人の一体の背を駆け上がり、夜空に浮かぶ満月にそのシルエットを映し出す者が一人。

 

 

「人中に呂布、馬中に赤兎ッ! 今や一つッ!」

 

 

 その手に構えた弓を槍をつがえ、上空からハルドメルグを狙うは、赤兎馬。

 

 

「―――『偽・軍神五兵(イミテーション・ゴッドフォース)』ッ!」

 

 

 彼の無二の相棒、呂布奉先が宝具として所有している『軍神五兵』を意識した大射撃。撃ち放たれた大威力の一撃がハルドメルグに直撃し、爆炎が古龍を包み込んだ。

 

 黒煙が晴れ、崩れ落ちそうになるのを堪えているハルドメルグの姿が現れる。さしもの古龍といえども、歴史に名を刻まれた英雄の象徴たる宝具を受ければ大ダメージを受けるようだ。

 

 

「今だッ!」

 

 

 このチャンスを逃さぬと一斉に動き出す。

 

 各々の武器を構えて向かってくる敵対者達の殺気に反応したハルドメルグが尻尾に水銀を充填し、ブーメランのように飛ばしてきた。

 

 

「マシュ、合わせろッ!」

「はいッ! ハアァッ!」

 

 

 ブーメランの前に躍り出たストレオとマシュが盾にブーメランを触れさせ、その威力に圧し負けぬよう注意しながら上空で軌道を逸らし、仲間達がブーメランの一撃を受けないようにする。

 

 疾走した赤兎馬と蘭陵王、秦良玉の一撃が叩き込まれ、後退ったハルドメルグは彼らの追撃を逃れようと三対の翼で飛翔する。

 

 そこへすかさず陳宮が魔力矢で追撃を仕掛ける。真っ直ぐ吸い込まれるように飛んでくるそれらを、ハルドメルグは咄嗟に周囲に出現させた水銀の球を変化させた盾によって防ぐ。

 

 しかし、彼が魔力矢に注意を向けている隙に、ホームズとダ・ヴィンチがその懐に潜り込んでいた。

 

 ―――光が炸裂する。

 

 赤兎馬達の攻撃に気を取られてしまっていたが故に、古龍には防御手段が無く、超至近距離からサーヴァントニ騎の魔力光をもろに受けた体が打ち上げられ、肺に溜まった空気を無理矢理吐き出させた。

 

 酸素を求めて無意識的に大きく顎門を開くが、補給する暇を与える彼らではない。

 

 

「フ―――ッ!」

 

 

 跳び上がったホームズの右足が下顎に直撃し、ガチンッと閉じられた口内を通して発生した衝撃が脳を揺さぶり、一時的にハルドメルグの視界を真っ白に染め上げる。

 

 これまでとは比べ物にならないほどの、明確な隙。如何に、それぞれがなにかしらの自然現象などを体現している古龍といえども、“生物”という枠組みから外れる事は無い。その証拠に、先のホームズの一撃で脳を揺さぶられた事により、その間だけは完全に無防備になっている。

 

 

「宝具解放―――」

 

 

 駆け出したストレオの剣が眩く輝き始める。夜の世界を灯のように明るく照らし出す輝きを目にした途端、立香の脳裏に一つのビジョンが見えた。

 

 

「我が悲願は未だ彼方に在り、我が旅は未だ終わらず」

 

 

 それは、一つの嵐。雷鳴轟く豪雨の中、吹き荒れる突風に吹き飛ばされないように耐える、一人の狩人の姿。

 

 遠く彼方。彼が憧憬を抱く、一人の男がいる。

 

 鈍い銅色の鎧に、同じ色を持つ弓矢を背負った彼は、この嵐の中を、当たり前のように歩んでいる。狩人にとって、その背中は眩しいくらいに輝いていた。

 

 

「我が旅路阻むのなら、その全てを斬り捨てるッ!」

 

 

 男が振り返る。

 

 靄がかかったように朧気な輪郭。しかしその目は、その表情は、狩人(じぶん)を待っているように見えた。

 

 

「―――『夢想を駆けよ、我が剣舞(モンスターハンター)』ッ!」

 

 

 それは―――究極の剣撃だった。

 

 あらゆる無駄を排し、あらゆる雑念を捨て去った、ただ“進む”事のみを追求した剣舞。

 

 彼の生涯を通して積み上げられた、数多の経験。その全てを結集した、彼が保有する最強の攻撃手段(宝具)

 

 

「グオォ……」

 

 

 切り裂かれた箇所から夥しい血を流したハルドメルグが、最後に一矢報いようと周囲に形成させかけるが、数多の英傑達の攻撃を受け続けてきた彼に、水銀を操る余力など残されているはずもない。

 

 心臓もとうにその活動を停止した古龍は、膝を屈して倒れた瞬間に光の粒子となって消え、英傑達の前から姿を消した。

 

 

「……終わった……?」

「……あぁ、終わったよ。俺達の勝ちだ」

 

 

 呆けたように呟いたマシュにそう答え、ストレオは宝具の光が弱まっていく剣を地面に突き立て、片膝をついて瞳を伏せた。

 

 ハンターとは自然の調和を保つ者。決して、外敵であるモンスターを討ち滅ぼす存在ではない。自らの種族の繁栄の為に多くの命を奪った責任を、彼らはその五体に背負い続ける。

 

 これは、ストレオが考えた彼らの弔い方である。奪った命に対して謝罪と感謝の念を抱き、冥福を祈る―――たとえそれが単なる自己満足であろうと、彼……否、彼ら(ハンター)はそうせざるを得ないのだ。

 

 

『……素晴らしき舞であった、異邦の狩人よ。其方、カルデアから我が秦帝国に鞍替えする気は無いか?』

「嫌だね。俺は狩人だ。間違っても臣下にはならねぇよ」

『惜しいな。だが、其方がそう言うのであれば仕方あるまい』

 

 

 惜しい、と呟く始皇帝だが、その声色に心底からの悔しさは感じられない。戯れのつもりで誘ったのだろう。仮にストレオが頷いたとしたら軽く驚いていたところだろうが、どちらにせよストレオはこの帝国に“儒”を広める病原菌(カルデア)の一員。どちらの答えを取っても、彼が始皇帝の敵である事に変わりはない。

 

 

『芥、秦良玉。直ちに咸陽に帰投せよ。此度の褒美を与えねばならぬ』

「お言葉ですが、陛下。共通の敵が存在したとはいえ、この者らは我らの敵。ここで討ち果たすべきでは……」

『長年の凍結で感覚が鈍ったか? 今その場にいる者達は敵味方の区別なく疲弊しておるだろう。多多益善号も魔物によって全滅させられてしまった。疲弊しているのがカルデアだけであれば即刻排除を命じていたところだが、今は其方らも疲弊している。その白杆の槍は今後の為にとっておけ』

「……承知しました」

『芥もだ。其方にとって、カルデアとは是が非でも滅ぼすべき存在なのだろうが、今は撤退せよ。先程、会稽零式の改修が完了した』

「……ッ! それは……」

『不滅なる者よ。真なる者よ。朕はその在り方を尊ぶが故に、その本性を見失う様は見るに忍びぬ。まずは帰還せよ。そして、存分に言の葉を交わすがよい。其方が朕に従う理由はそこに在るのだろう? 悠久を越えて存えた者が、一時の激情に流されるでない。其方が本当に追い求め、手に入れる算段をつけたもの。それを忘却してはならぬ』

 

 

 始皇帝の言葉に、心中で「そうだったな」と呟く。

 

 一時は共闘したとはいえ、カルデアは愛する存在との愛しい時間を奪った敵に変わりはない。奪われた汎人類史を取り戻す為に取るしかなかった行動なのはもちろん把握しているが、そんなのは関係ない。項羽と過ごす時間を奪う者、その全てがヒナコ―――虞美人の敵なのだから。

 

 それに、この場にはいないあのサーヴァントの主も、きっと一時の激情に駆られて行動したりはしないだろう。彼女は目先のものに囚われず、自らの目的を失念しない。

 

 

「承知しました。……セイバー」

「はい」

 

 

 出現させた愛馬に主を乗せ、蘭陵王が「ハイヤッ!」と一声かけると、馬は甲高い嘶きを上げて駆け出す。

 

 

「汎人類史……悍ましき“儒”を撒き散らす者共よ。次(まみ)えた時は、我が槍術を味合わせてあげましょう。さらばッ!」

 

 

 続いて秦良玉が駆け出し、後にはカルデアだけが残された。

 

 

「芥さん、及び秦良玉、撤退しました……。古龍も討伐出来ましたが……」

「あぁ、利害の一致という形で共に討伐したが、今回の戦いは、我々に古龍の脅威を再確認させられるものだった」

 

 

 伝承に語られる古龍種とは、それぞれが“天災”と呼ぶべき能力を備えた化け物揃いだ。先程まで自分達が戦っていたハルドメルグはその一体でしかなく、現代まで伝えられる古龍達の特徴によっては、これよりも強力な者達がまだまだいるのだ。

 

 特にアンナが従えている、北欧異聞帯で巨人王スルトを圧倒した“煌黒龍”や、彼女が別に契約していると考えられる“黒龍”は、その古龍種の中でも別格―――規格外と言ってもいい存在だ。中国異聞帯を入れれば六つある異聞帯を全て攻略し、自分達の歴史を取り戻す為には、あの化け物達を相手取らなければいけないと考えると、誰もが憂鬱な気持ちになってしまう。

 

 

「ふぅ、疲れた。やはり術というのは面倒なものですねぇ。その点、人間の作る兵器は楽でいいです。引き金を引くだけですもの。私、その点だけは人間を評価しますわ。娯楽にしろ兵器にしろ、簡単に人を殺してしまえるところとか、最高です♡ 多多益善号(あれ)だけは百均に並んでても買いませんが」

「君は逃げ回ってただけのように思えるがね」

「言ってくれますね、探偵さん。あの古龍、貴方方がいなかったら間違いなく私だけ狙ってましたよ? そこのマスターやゴルドルフさんに食べさせた毒の解毒方法を知っている私が死ぬのは、貴方方には損にしかならないのでは?」

「その点については問題ない。なにしろ強力な助っ人が来てくれたんでね」

「は?」

 

 

 荊軻が指差した先。訝し気にそちらを見やるコヤンスカヤに、ストレオは紺色の液体で満たされた瓶を揺らして見せるのだった。

 




 
 秦編はあと二話で終わりですね。次回は少しボレアスとストレオの話を出して、次々回はアンナちゃんとパイセンの話を入れて終わりという感じで。

 その後はもちろんペペなんですが、その前にストレオの幕間を入れておこうかと。インド異聞帯のフロンティア古龍はどうしましょうかねぇ。暴れた瞬間オルジュナに消されますし。

 なにはともあれ、次回もよろしくお願いしますッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。