緋雷ノ玉座   作:seven74

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 どうも皆さん。アヴァロン・ル・フェ後半を攻略し、「この異聞帯は滅ぼさねば」と意気込んでいます、seven74です。あの菌糸類に人の心はないのでしょうかね?
 それはそれとして、アヴェロン・ル・フェは是非とも禁忌グループと絡ませたい話でした。某ランサーがあれだったので、彼女との絡みは絶対に書こうと思います。


ふとした違和感

 

 司令室に集められた立香達の前で、ネモは仲間達の力を借りて行った調査から得た情報を共有し始める。

 

 

「楊貴妃、刑部姫、赤衣のお陰で、この海域には敵影が異常に濃密だという事がわかった」

「うん、今までとは段違い。小型も大型も、エネミーがそこらじゅうウヨウヨッ! 最初の最初に出くわした超大型エネミーはあれっきり見ないけど、いつまた出てくるかわかったもんじゃないよッ!」

「ねぇ、その超大型エネミーの事なんだけど、あれってどういうものなの? ヌシ?」

「その見解は中々面白いと思いますが、残念ながら反論させてもらいますぅ~」

 

 

 ほとんどのエネミーはこちらを確認するや否や即座に攻撃を仕掛けてきたが、第三海域に侵入した時に遭遇した超大型エネミーの姿はそれきり確認できていない。ただこちらの様子を遠目に窺っているだけで消えてしまったのだ。あの超大型エネミーと他のエネミーの違いについて、それはあのエネミーがヌシだからなのではないか、という考えを挙げた立香だが、プロフェッサーが即座に否定した。

 

 

「これまで女神様と数多の虚数性エネミーを解剖・解体して研究してきましたが、連中は明らかに動物ではないです。例えて言うなら、バネ仕掛けの玩具みたいな? 刺激に反応して動くだけの、ごく単純な存在かと。操り人形(マリオネット)より少し高度な仕組みで動いているのです。これは大小関わらず同じです。そんな存在が思考や戦略を持ち、社会性を獲得して君主(ヌシ)を頂くとかは、ちょっと考え難いかと~」

「待て教授。ごく単純な部品でも、精緻に並べれば複雑な機構を成すものではないか?」

「それもそ~なのですが、もしそういう方向で虚数海溝の生態系が編まれてるなら、相応の多様性があるはずです」

 

 

 仮にプロフェッサーの言う事が真実だとすれば、この世界にも表層世界の海と同じような、多種多様な生物が生息している事になる。生態系とは、一個の生物で成り立つものではないのだから。

 捕獲し、解剖したエネミーは、どれも同じ刺激に対して同じ反応を返している。捕獲したエネミーの中には探査音(ピンガー)を発するものもいたので、敵が変異または進化している可能性は否定しきれない。が、それでも一貫して『待ち伏せ』と『索敵』の二種類のものしか見つかっていない。よって現状、あれらの行動原理行動の多様性は全くないので、統率個体がいる可能性は皆無と言える。

 

 

「マスターよ、ここまで彼女の話を聞いてみて、なにか思い当たる事は無いかな?」

 

 

 傍らに立つ赤衣に問いかけられ、少し考えた後、絞り出した答えを口にする。

 

 

「誰かに操られてる、とか?」

「よくわかったな、我が主よ」

 

 

 自信なさげに答えた立香を安心させるように、スカサハ=スカディがにこやかに笑った。

 

 

「私も、あれらは何者かに操られている可能性が高いと考える。そう考えれば、不自然さは消えるからだ」

「あくまで推測でしょ、女神様。事実は往々にして、小説より奇なるものだよ。……とにかく、あれの襲撃が考えられる以上、三人には常時、警戒してもらう他ないね。―――これでミーティングを終了する。これからは第三海域の攻略に本腰を入れて乗り出すよ。楊貴妃、刑部姫、赤衣は引き続き周囲の走査をお願い」

 

 

 ネモの言葉を最後に、今回のミーティングは終了した。

 ミーティングが終わったので、各自それぞれに与えられた役割を果たすべく行動を起こし始める。

 現カルデアの最後のマスターである、藤丸立香もその一人だ。彼女もまた、代理司令としての役割を全うすべく行動に出ている。

 

 ―――が、しかし。

 

 彼女が完璧に司令官としての役割を果たせるかどうかと問われれば、それはノーと言わざるを得ないだろう。

 一時的なものでも立香は司令官の立場にあるが、かと言ってその仕事を完璧にこなせるわけではない。

 確かに、彼女はこれまでの戦いの中、数えるのすら億劫になる数の死線をサーヴァント達の司令塔として活動しながら潜り抜けてきた。

 その経験はノーチラス代理司令の仕事にも活かせるだろうが、如何せん彼女は陸上での戦闘ならばともかく、海中での戦闘など全くない。ましてやそれが、潜水艦の司令官とくれば尚更だ。

 

 幸い、状況把握能力は彼女よりも高いマシュ嬢が副司令官の座についている。基本的な事には彼女が対処するという話は訓練前から決められていた事なので、必然的に立香は戦闘面においてサーヴァントを指揮する役割を担う事になった。

 この事については彼女も悔しい気持ちを抱いていたが、悔いていても仕方がない。覚えの早さで言えば彼女の方が早いし、事前に簡単な事は説明されていたそうだが、マシュ嬢以上に出来るかと訊かれたら、彼女自身も首を横に振るに違いない。

 

 司令官という立場上、時には冷酷な判断を下さなければならない場面もある。

 例えば、今回の事件が起きたばかりの頃。浸水してきた虚数からキャプテンの分身達を護る為、令呪を切ってしまった事。一日に一画回復するカルデア仕様のものとはいえ、貴重な手段である令呪をそんな事の為に使ってしまった時点で、彼女に司令官の役目は不向きだと言わざるを得ない。

 だが、彼女からすれば、仲間達の救助は『そんな事』で片付けられる物事ではないはずだ。近くに助ける者がいて、自分にそれを救える力があったなら、迷わずに手を差し伸べるのが藤丸立香という女だ。たとえそれが、自分の命を勘定に入れないものであったとしても。

 これこそが、これまで魔術の『ま』の字すら知らなかった少女がこれまで生きてきた最大の証拠であり、彼女が持つ絶対の善性だった。……が、それ故に、その最大の長所は、最悪の短所にもなり得るのだが。

 

 ざっくばらんに言うなれば、彼女に司令官としての役目は不足している。冷酷な決断を下そうにも、その善性が邪魔をしてしまうのだからな。

 

 しかし、それでも彼女は、自分に出来る事を精一杯やろうとするだろう。それが今、自分に出来る仲間達への支援なのだから。

 

 

「あ、マスターッ!」

 

 

 なにかする事は無いかと思って廊下に出て歩き始めた立香。そこへ声をかける者が一人。

 声がした方角へ視線を寄越してみれば、そこにはネモの分身の一つであるマリーンの姿が。

 

 

「マリーン、君? それとも、マリーンちゃんかな? どうしたの?」

「あはは、どっちでもいいよ~ッ! ちょっと、お礼を言わなきゃって思ってさ」

「?」

 

 

 お礼と言われても、立香には何の事だかわからず首を傾げる。彼女の気持ちを理解したのか、マリーンは自分が彼女にとって、どのようなマリーンなのかを説明した。

 

 

「ボク、一番最初に岩礁にぶつかった時、外に吸い出されそうになったマリーンなんだ~。マスターが助けてくれようとしなかったら、ボクは外でぽっくりいってたかもしれない。もちろん、再構成されれば戻るんだけど、あの時、凄く怖かったから……」

「ん~、それなら、お礼をするのは私じゃなくて、赤衣さんの方じゃないかな。私は確かに君達を助けようとしたけど、その前にあの人が君達を助けたでしょ? それなら……」

「それでもだよ。だって、あの時赤衣さんが間に合ってなかったら、それこそボクは外に放り出されてたかもしれないんだからね。助けてくれようとしてくれた。それだけですっごく嬉しいんだ~ッ! だから、ありがとーッ!」

「はは、どういたしまして」

 

 

 そこまで言われてしまっては反論できない、と内心肩を竦めて、立香は素直にマリーンからの感謝の言葉を受け取った。

 そこで、ふと立香はマリーンの手に握られているものに気付いた。

 

 

「あれ? その人形って、楊貴妃から貰ったやつ?」

「うん、そうだよ。マスターも貰ったんでしょ? ちょっと怖いけど、すっごくよくできててーッ! 気に入って持ち歩いてるのさーッ!」

「持っているけど、私が持ってるやつとはちょっと見た目が違うような……」

 

 

 立香が楊貴妃から貰った人形とは、ミーティング前に赤衣が他のマリーンや楊貴妃から見せてもらった人形と同じものだ。しかし、今マリーンが見せてくれている人形は、それとは少し違っていた。

 

 

「あ、バレたー? ほっぺのところ、ぐるぐるって描き足してみたんだー。この方が可愛いかなーって。あと、みんな同じのを持ってるから、違うのがいいかなーって」

「う~ん……私はどっちかって言うと、周りと同じのを持ちたくなっちゃうなぁ」

 

 

 マリーンの言葉に小さく呻いて返す。

 周りの目を気にしすぎてしまい、成否問わずに周りと合わせてしまうのは日本人の特徴の一つだ。作業をする集団の中で、自分だけ違う作業をしていたら……など考えたくもない。例え、自分が行っている作業が正しいものだとしてもだ。“出る杭は打たれる”という言葉が性根に深く刻み込まれている日本人特有の性格だ。立香も、その典型的な日本人というわけである。

 

 

「そうかなーーー? 木版画やリトグラフもいいけど、やっぱり肉筆画の方が欲しいー、とかないー?」

「へぇ、マリーンって和風なものが好きなんだね。肉筆画って、確か日本が主流のものだよね? 私はそこまで絵画に詳しくはないけどさ、あれはなんだか好きなんだよね。日本(ふるさと)を思い出せるからかな」

「あっ、マスターもそう思うかい? いやぁ、やっぱ肉筆画だよなぁーッ! ……あっ」

「? どうしたの?」

「い、いや、なんでもないよー? とにかくッ! この子と一緒にボク頑張るよーッ! マスターの為にもねーッ!」

「ありがとう、私も頑張るねッ!」

 

 

 ぶんぶんと勢いよく手を振りながら、マリーンは曲がり角に消えていった。振っていた手を下ろした立香は、他にも話すべき仲間はいないかと考えながら足を踏み出そうとした時、ふと、その体の動きを止めた。

 

 

「……? なんだろう……今、なにか……。んん……?」

 

 

 先程までの会話の中に何かしらの引っ掛かりがあった事に気付いた立香だが、その違和感の正体は終ぞわからず、ただの気のせいだと区切りをつける。

 考えを改め、立香は歩き出す。その背後、曲がり角に逃げるように飛び込んだマリーンが、ほっと胸を撫で下ろしている事も知らないで……。

 

 

 

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「話があるから、と言われてついてきたけど、なにか僕に質問でも? 源頼光」

 

 

 司令室から少し離れた場所。あまり乗組員が来ない場所に呼ばれたネモ。その視線の先には、自身が密偵の任務を依頼した女性が立っている。

 水着霊衣を装備している事で、今はランサークラスに変化しているが、彼女が本来はバーサーカーである事を忘れていないネモは、少なからず彼女に苦手意識を抱いていた。

 嬉しい事にカルデアに召喚されたバーサーカーは、そのほとんどが意思疎通を可能とするサーヴァントばかりだが、ノーチラスの主としては、いつ暴れ出すかわからない狂戦士の英霊を艦内で自由にしたくはない気持ちもある。その気持ちが普段よりも落ち着いているのは、先述したように、今の頼朝がバーサーカーではなく、ランサーだからだろう。

 

 

「ミーティングの前、赤衣さんと少し話をしていたんです。そこで少し、気になる事が」

「気になる事?」

 

 

 オウム返しに問いながら首を傾げたネモに、頼光はミーティング前に赤衣から告げられたアドバイスの内容を口にした。

 『存在しないはずの幻影に気を付けろ』。最初は、この海に出現した怪物達のどれかに該当するものかと考えたのだが、今まで邂逅してきたエネミー群にそのような敵は存在しなかった。もしかしたらこれから出てくるかもしれないので、それについては後々考える事にし、頼光は別の可能性に目を向ける事にした。

 もし、外側に赤衣の言った条件に値する者がいなかった場合、次に疑うべきは内側―――今自分がいるノーチラス艦内だ。

 愛しの娘にして、人理を取り戻すべく戦う勇気あるマスター、藤丸立香。彼女が安心して過ごせるようにするのが母たる己の務め。彼女の平穏を乱す者が艦内にいるとなれば、見過ごす事など断じて出来ない。

 赤衣から授けられたアドバイスの内容を鑑みるに、恐らく彼が指している存在とは―――

 

 

「ネモ・シリーズ……僕の分身か。そして、『存在しないはずの』となると……」

「恐らく、マリーンの事ではないかと」

 

 

 頼光の言葉に首肯する。

 ライダー・ネモは己の分身であるネモ・シリーズを展開する事が出来る。情報専門のプロフェッサー、機関担当のエンジン、烹炊所(ほうすいじょ)担当のベーカリー、医療特化のナース、そしてそれ以外の仕事を担当するマリーン。大まかに五種類に分類される彼らの中で、複数でグループを構成しているのはマリーンのみ。

 幻影が意味するのがマリーンだというのなら、『存在しないはずの』という部分はなにを意味するのか。

 

 

「プロフェッサー」

「はいはい~。艦内の映像記録を確認してみますね~」

 

 

 のんびりとした口調ながらも明確な強い意志を感じさせる瞳で、プロフェッサーが素早い動きで端末を操作し、マリーン達が一堂に会した時の映像記録を表示させる。

 まだ虚数空間に潜航して間もない頃、仮初とはいえマスターとなった立香に説明する為に、ネモが分身達を集合させた時の映像だ。

 

 

『まずは操艦や索敵を司る水兵達だ。ネモ・マリーン、今回は常勤十二名態勢で入ってもらう』

「ストップ」

 

 

 記録内のネモが立香にマリーンの説明をしているところで映像を止め、現代のネモが停止したマリーンの数を数え始める。

 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、……13(・・)

 十二人しかいないはずのネモ・マリーンが、十三人いる( ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 

「う、嘘でしょう……分割思考をしている私達に、よもや偽物が紛れ込むとか……」

「自分の事とは言え、たった一つの異常を見逃すなんて……。僕もまだまだという事か」

 

 

 今となれば理解できる。自分達は盲点を突かれていたのだ。

 キャプテン・ネモは分身のネモ・シリーズと視野や感覚を共有しているが、それに目を捉われすぎていたのかもしれない。自分の能力に甘えていたから、こんな簡単な間違え探しにも気付かなかったのだろう。

 だが、別に彼らが悪いわけではない。

 感覚が繋がっているなら、ネモ・シリーズの内の誰かに異常が発生した時にすぐに気付けただろうが、姿形が同じでも、そもそも仲間でない者からは、何の感覚も共有されない。共有されない以上、気付く手立てもない。

 

 

「これは、私の非でもありますね……」

 

 

 頼光もまた、自分の不甲斐無さを悔いていた。

 立香を護る為にカルデアからやってきた彼女は、虚数空間からの脱出と並行して、彼女に手を出す不埒者はいないかと目を光らせていた。事情によって楊貴妃と刑部姫が二人に分裂するという事態こそ起きたが、一人や二人の分身に誤魔化される彼女ではない。

 が、彼女に出来たのはそれまで。流石にマリーン十三人分の分身までは追い切れなかったのだ。

 

 

「すぐにみんなを集めよう。密航者の正体を暴く」

 

 

 この状況下でマリーンに化けている者が、味方だとは到底思えない。これ以上、この正体不明の密航者を自由に行動させるわけにはいかないと、ネモは艦内にいる者達を呼び集めたのだった。

 




 
 皆さんって、周りに合わせるタイプですか? それとも、周りなんか知った事かと自分の気持ちを押し通すタイプですか? 私は前者です。元々引っ込み思案な人間ですので、どうしても自分の意見を主張する事が出来ないんですよね……。

 赤衣の男ですが、完成しましたッ! 画力は前回のアンナちゃんから全く進化していないという堕落っぷりですが、教科書も買いましたので、それを読んだりYouTubeでイラスト講座動画を見ながら、少しずつ技術を上げていきたいと思います。
【赤衣の男】

【挿絵表示】


 余談ですが、実はアンナちゃんのイラストをもう一枚描いて友達に送りつけたんですが、その友達からは高評価を頂けまして、さらに依頼を受けてしまいました(お金云々の話は無いですよ)。現在はポケットモンスターシリーズのNというキャラクターを描いています。こちらにもアンナちゃんのイラストを載せたいのですが、如何せん、ハーメルンは登録できる挿絵が最大で四枚しかないんですよね……。こうなったら、以前投稿したアンナちゃんのイラストに令呪のイラストを合体させて一枚にしましょうかねぇ。

 それではまた次回、お会いしましょうッ!

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