アンケート回答、ありがとうございました。皆さんの意見を募集した結果、強力な個体だけ強化するという事になりました。よって、これまでに登場したイナガミとハルドメルグを通常種に戻させていただきました。
今回で一先ずシュレイド異聞帯現地人の話はおしまいです。次回は幕間ですね。
あっ、今回一万文字突破しました。ヤバいですね☆
なぜこんな事になった。
自分達がなにをしたというのか。
絶望の悲鳴が響き渡る中、物陰に身を隠したエリシオの脳裏にはこの二つの言葉しかなかった。
自分が生まれ育った地に突如として出現したその怪物―――“恐暴竜”イビルジョーが一歩踏み出せば、その分全身から冷や汗が溢れ出し、決して開けまいとキツく結んでいた口から絶叫を上げそうになる。
「お兄ちゃん……ッ!」
「大丈夫だ……。しっ、静かに」
ボロボロと大粒の涙を零す、最後の肉親である妹の体を強く抱き締めた途端、魂を揺さぶるような咆哮が轟いた。
逃げ惑う人々の絶叫を獰猛な咆哮が塗り潰し、それに気圧された男がすぐそこで転んだ。涙に塗れ、とてつもない恐怖にガチガチと歯を鳴らす、見覚えのある男性は、次の瞬間には怪物の足に踏み潰された。
目の前で知人が殺された。今朝までは夢にも思わなかった出来事を前にし、エリシオはただ絶句するしかない。咄嗟に妹の目を塞いでおいて正解だった。この子があんな光景を見てしまえば、きっと絶叫していたに違いない。
そうこうしている間にも、怪物は蹂躙と破壊を繰り返す。
ドス黒いブレスが人々を家屋ごと消し飛ばし、それが過ぎ去った後には木っ端となった木材と、ぐちゃぐちゃになった肉塊が残される。怪物は仕留め損ねた獲物を遠くに見つけたのか、そのまま地面を揺るがしながら遠退いていった。
「……行った?」
「……行ったみたい」
物陰からこっそり様子を窺い、イビルジョーがいないのを確認した後、妹を引っ張り出す。
「みんなは……」
「……」
「あぁ……そんな……」
兄に聞かなくともこの惨状から理解できたはずなのに、それでもと一縷の望みを賭けるように呟いた妹に、エリシオはただ首を横に振るだけだった。
「……行こう。ここはもう、僕達の住める場所じゃない」
「……うん」
可能ならば、無念の死を遂げた知人達を埋葬したい。しかし、イビルジョー以外の肉食モンスターが彼らの血肉に引き寄せられてやって来たら、今度こそ自分達は終わりだ。
少し前にこの村を訪ねてきた旅団を名乗る者達が、ここから大分遠いが、モンスターや自然災害によって故郷を失った難民達を受け入れている場所があると教えてくれた。
距離は定かではないが、方角ならば覚えている。いつ頃到着するかはわからないが、ここで足踏みしているよりはマシだろう。
涙を拭って立ち上がった妹と頷き合い、歩き出そうとした刹那―――
パキリ、となにかを踏み砕くような音が背後から聞こえた。
殺気。飢餓の視線。獲物を狙う、捕食者の眼光。
本能的に察せた。今自分達の背後にいるのは、まさしく
見たくない。幻聴だ。こんなに早く来るはずがない。そう何度も言い聞かせるように反芻させるが、生物というものは視界の外からの音には敏感だ。その音の根源が己にどのような影響を齎すのか把握しなければならないと、無意識にそちらへと視線を動かしてしまう。
どうか幻であってくれと祈る。しかし―――それは徒労に終わった。
「グルルルル……」
涎をだらだらと垂らしながらも、ギャアギャアと姦しく吼える子分達を制止させている鳥竜が、そこにはいた。
イビルジョーがいなくなった隙を突いて現れたのか、それとも血肉の臭いに引かれてやって来たのか、定かではない。しかし、これだけはわかる。
自分達は、最悪の可能性を引き当ててしまったのだと。
「……ッ!」
走り出す。妹の手を引いて、脱兎の如く駆け出す。
背後で彼らの中でも一際大きな体躯を持つ個体―――“拘竜”ドスジャギィが高く吼えたのが聞こえ、同時に自分達へ注がれる殺気が一層膨れ上がったのを否応なしに感じた。
捕食者に狙われる恐怖に縺れそうになる足を奮い立たせて走る。後の事なんか考えていられない。今はまず逃げるのが最優先事項だと定め、ひたすらに走る。
だが、哀しいかな。彼はこの状況で、さらなる絶望を味わう事になってしまう。
「あ……ッ!」
間の抜けた声と、腕が引っ張られる感覚。思わず後ろを振り向くと、自分の足を見下ろして愕然としている妹の姿があった。
「お兄ちゃん……ごめん、足が……」
「……っ、待ってろ、今―――」
自分はなんとか御せたが、妹はそう出来なかったのだろう。腰を抜かして立ち上がる術を失った妹を抱き上げようとするが、それをジャギィ達の耳障りな鳴き声が遮った。
「あ……」
顔を上げた瞬間、妹を飛び越えて真っ直ぐに自分を押し倒そうと飛びかかってくるジャギィと目があった。それをただ呆然と見つめる事しかできないエリシオ。だが―――
「お兄ちゃんッ!」
背中が地面に叩きつけられ、肺から空気が無理矢理押し出される。噎せながら必死に周囲から酸素を取り込みながら、エリシオは自分が何者かに突き飛ばされたと理解し、次にその『何者か』の正体に行き着き、彼女がいるであろう方向を見ると―――
「あああああッッ!! 痛い痛い痛いッッ!! はなッ、離してえええぇぇッッ!!」
ジャギィに全身を噛みつかれ、激痛に泣き叫ぶ妹が視界に入った。
「あ、あぁ……ッ! リーズッ!」
愛する妹の名を叫んで助けに行こうとするが、彼の行く手を阻むように立ち塞がったジャギィ達が姿勢を低くして威嚇してくる。
「お、にぃちゃ……ッ! にげ……逃げてッ! あ、あああああッ!!」
兄の事なんか考えられないはずの痛みの中にいるのに、それを堪えてリーズが叫ぶが、それはすぐに絶叫へと変わる。
断末魔の叫びを上げるリーズの腹が喰い破られ、内臓が引き摺り出される。邪魔な外皮を剥がして柔らかな肉が出てきた事に喜んだのか、ジャギィ達は我先にとそこへ牙を突き立てていく。
「……ッ! クソッ!」
妹がただ喰われていく様を見る事しかできない自分に腹が立つ。その場で崩れ落ちて泣き叫びたくなる気持ちを押し殺して走り出したエリシオに気づいたジャギィ達が何匹か追ってくる。
「ゴガアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!」
しかしそこへ轟いた咆哮が、彼らの注意を逸した。
獲物の匂いを嗅ぎつけて戻ってきたのか、大地を揺らして来たイビルジョーに気づいたドスジャギィが咆哮を上げ、部下達に命令を下す。
統率者の指示を受けてエリシオを追っていたジャギィ達がイビルジョーに狙いを変えるのを本能で感じながら、エリシオは森の中へ飛び込んだ。
こうして、彼の生まれた村は滅びた。
生存者はただ一人。ただ幸運に恵まれただけの青年のみ。
彼は絶望と己に対する憤怒に挟まれながらも、目的の村へと辿り着き、第二の故郷で日常を送っている。
生まれ故郷を失い、最愛の家族すら喪いながらも、彼はそれを決してモンスターへの憎悪に変えなかった。
弱者が強者に喰われる―――それが自然の摂理だと、自分を律してきた。
だが、もし……もし彼が、その内に封じ込めた激情が再燃する事があれば。
その時、彼は―――
Now loading...
朝日が昇り始めた頃。無銘から与えられた家屋で一夜を明かした蘭陵王が外に出ると、たちまち早朝の少し冷えた風が、短く整えられた彼の髪の毛を弄び始める。
彼がここを訪ねて、今日で一週間。その間の生活は多忙を極めたと言ってもいい。
来たばかりの頃は無銘とエリシオと共に昼食を作った後、無銘と同じくこの村に滞在するサーヴァントのレオニダスに挨拶した。
細すぎず太すぎない、程よく鍛え上げられた肉体を惜しみなく晒す彼は、若者や腕っぷしが強い相手に、彼らがギリギリ乗り越えられるラインの訓練を受けさせる事で、少しずつだが、着実に強力な戦士へと育て上げていた。
この村が結界によって護られている事を知らない彼らは、いつモンスターにこの日常が壊されるかわからない、という危機感を持って生活しているためか、誰も彼もが必死に力を身につけようと努力している。戦う力を持たない女達は、狩りや訓練で疲れた男達に料理を振舞ったりしている。難民達が滅びた故郷から僅かに運び出せた穀物は、畑仕事に秀でた大人達の指導を受けた子ども達が頑張って育てている。
皆が、己に出来る事に全力で取り組んでいる。秦にも彼らのような存在はいたが、あの者達は始皇帝を神のように崇める事のみを優先しており、自分達の事など全く勘定に入れていなかったが、ここにいる彼らは違う。彼らが忙しなく働き続けるのは、
蘭陵王も、今は芥ヒナコのサーヴァントであるという事を一旦忘れ、人類の守護者として立つ一騎の英霊として彼らの生活を支えた。
自分が駆け抜けた汎人類史とも、不変の女人によって召喚された秦帝国ともまるで異なる環境。そこで暮らす、絶望の中を足掻く人間達―――本来の人類の在り方とは、こういうものなのかもしれない、と蘭陵王は感じていた。
まだ誰も起きていないのか、シンとした静寂の中で心地よい風を感じながら道を歩いていると、ふと誰かの声が聞こえてきた。
「よしよし、いい子だ」
声が聞こえてきた方角―――厩舎らしき場所にいる男性が、ポポ達に食事を与えているのが見えた。
「おはようございます、エリシオ殿」
「あっ、おはようございます、蘭陵王さん。今日もいい天気ですね」
「えぇ。……彼らに食事を?」
「はい。この子達は、この村を支える存在ですからね。栄養のある食事を取ってもらわないと」
「私も手伝っても?」
「もちろん。そこに餌がありますので、こちらの子達にあげてください」
隅に置かれていた桶に蓄えられた干し草をポポ達に差し出すと、彼らは待ってましたと言わんばかりに食べ始める。
さて、今日はなにをしようか。男達に剣の使い方を教えるか、畑仕事を手伝うか。それとも狩りに同行し、彼らの生活をより快適なものにする物を作ろうか。
そう思った時だった。
突然ポポ達が警戒の鳴き声をあげ、慌ただしく柵の中をウロウロし始めたのだ。彼らの行動を不審に思った蘭陵王がエリシオと視線を交わした直後、なにかが爆発するような轟音と獰猛な咆哮が木霊となって響き渡った。
「今のは……ッ!?」
「……まさか」
脳裏に過ぎった考えに取り憑かれたように零れんばかりに目を見開いたエリシオが厩舎から飛び出していく。それを追って蘭陵王も外に出ると、遠くに黒煙が上がっているのが見えた。
(あの場所は確か……ッ!)
この一週間でこの村の事をよく学んだ蘭陵王は、黒煙が上がる場所がこの村に住まう人々の住宅が密集している場所だと悟る。ならば、先程飛び出したエリシオがどこに向かったのかも自ずと理解できる。
だが、だからこそ連れ戻さなばならない。自分達英霊と違い、彼はただの一般人だ。それに武器もないようでは、あの被害を齎したであろう存在に太刀打ちできない。
彼我の距離はそれほど遠くないため、馬を呼び出さずに走り出した蘭陵王がエリシオを呼び止めようとした刹那、黒煙を巻き込んで竜巻が発生し、その中からエリシオ目掛けて空気の弾が飛んできた。
それに気づいたエリシオが足を止め、蘭陵王が彼を救おうと足に力を込める。しかし彼が跳び上がる直前、真横から飛んできた人影が空気の弾を相殺した。
「馬鹿者ッ!なにをしているッ!」
「む、無銘さん……」
辛うじて使える左手に白い剣を持った無銘に怒鳴りつけられたエリシオが一瞬萎縮するも、すぐにキッと無銘を睨み上げた。
「あそこにはみんながいるんですッ! お願いします、行かせてくださいッ!」
「無理だッ! あの竜巻を見ろッ! あそこにいる者達は……」
「ぐおああぁッ!」
無銘の言葉を遮って、竜巻から一つの人影が吐き出されてくる。咄嗟に動いた蘭陵王がそれを受け止めると、受け止められた男の手から滑り落ちた槍とラウンドシールドが乾いた音を立てて落ちた。
「レオニダス殿ッ!」
蘭陵王が受け止めた相手。それは全身に深手を負い、今にも消えそうなスパルタの王、レオニダスだった。
「も、申し訳ない……ッ! 蘭陵王殿……無銘……殿……ッ! 村人達を、助けられ……」
「レオニダス……? レオニダスッ!」
心の底から悔やむように蘭陵王達に謝罪した後、レオニダスは光の粒子となって消えてしまった。
「え……? レ、レオニダスさん……?」
エリシオは驚愕に見開かれた目で、先程までレオニダスがいた場所を凝視している。彼の反応は当然だろう。ついさっきまで目の前にいた男が、光となって消えてしまったのだから。
「ガアアアアアアァァァァァッッッ!!!」
そして、咆哮が轟く。劈くような叫び声に思わず耳を塞ぎながら上を見ると竜巻が内側から弾け、その奥にいる者の姿が顕になる。
黄金の鎧と煌めく氷の如き蒼い結晶を纏う竜種……その姿を見ただけで、誰もがその竜が古龍種に分類されるものだと察せた。
「エリシオ。君は下がれ。あれは君がどうこうできる相手じゃない」
エリシオを護るように立った無銘にそう言われ、エリシオは悔しげにギリッと歯ぎしりする。
彼は見てしまったのだ。竜巻が消えた先にある、完全に破壊し尽くされた家屋の数々を。あんな光景を見せられてしまっては、最早生存者など確認しなくてもわかる。
皆殺しにされた。あの時と同じく、またモンスターによって殺された。
血が滲み出るほど爪が食い込んだ掌に走る痛みも忘れ、第二の故郷を襲ったモンスターに立ち向かう事すら許されない自分に憤慨する。
しかし、憤慨したところでなにかが解決するわけではない事も重々承知しているため、エリシオは素直に古龍と対峙する無銘達から離れた。
「蘭陵王、行けるか?」
「もちろんです。レオニダス殿、そして村人達の仇討ち……私にもやらせてください」
「フッ、お互い、思うところは同じだったようだ」
シャリンッと鞘から引き抜いた剣を構える蘭陵王と、夫婦剣の片割れを構える無銘。彼らの戦意に反応したのか、古龍―――“金塵龍”ガルバダオラが獰猛な咆哮を轟かせ、ニ騎の英霊に襲いかかってきた。
急降下しながらの突進。それを両脇に跳んで回避すると同時に蘭陵王と無銘が剣を振るう。
双方から襲った斬撃は、しかしガルバダオラの前足を覆う結晶をかけさせる程度で済んでしまい、煩わしそうに翼を羽ばたかせて飛翔すると同時に発生させた風圧で僅かに態勢を崩される。
再び上空へ戻ったガルバダオラが短く吼えると、その周囲に飛んでいた金色の粉塵が散開。無銘と蘭陵王を覆った瞬間、彼らはゾッと背筋に冷たい風が吹き抜ける感覚に襲われ、ガルバダオラが降り立つより早く飛び退く。
瞬間、先程まで彼らがいた場所を鋭利な結晶の槍が突き上げた。あと一瞬遅かったら、無銘と蘭陵王は仲良く串刺しにされていた事だろう。
「
白剣を消し、新たに竜殺しの大剣を投影した無銘が急降下。その勢いを殺さずに頭上から攻撃を喰らわせる。
相手がたとえ古龍といえど、その概念は竜種と然程変わりないものだ。かつて戦った炎を操る番いの古龍にも竜殺しが効いていた。ならばこの古龍にも通じるだろうと思ったのだが、
「ガアアアアアアァァァァァッッッ!!!」
「なに……ッ!?」
ガルバダオラはまるでダメージを受けている様子を見せず、首を振るって無銘を弾き飛ばした。
「チッ! まさか、竜殺しが効かないのか?」
「オォ―――ッ!」
弾き飛ばされた無銘と入れ替わるように出た蘭陵王が流麗な動きでガルバダオラを斬りつける。金色の古龍は軽く切り傷をつけられながらもバックステップで距離を取って吼えると、凄まじい突風が発生して蘭陵王達を己に引き寄せていく。そして地を蹴るようにして飛び上がると同時に竜巻を発生させ、ニ騎を吹き飛ばした。
途轍もない風圧に堪らず吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた彼らが立ち上がろうとした瞬間、不意に自身から力が抜けていく感覚に襲われた。
「な……ッ!?」
「これは……ッ!?」
見れば、なんと自分達の体から結晶が突き出ており、それは血を吸うヒルのように彼らから魔力を奪い、少しずつ巨大化していっているではないか。
「じっとしていろ」
結晶の性質に気づいた無銘が莫耶で蘭陵王に付着する結晶を破壊し、続いて蘭陵王が無銘の結晶を破壊しようとするが―――
(……? いったいどこを……ッ!?)
突如ガルバダオラが視線をあらぬ方向に向けた事を訝しく思い、その視線の先を見て驚愕する。
ガルバダオラが見つめているのは、自分達に背を向けて走るエリシオだ。なぜ奴が彼に注意を向けたのかはわからない。だが、このままではエリシオが危険だ。
「エリシオ殿ッ!」
開かれた顎門から放たれた突風の槍が、真っ直ぐエリシオを貫こうと疾走する。不可視の攻撃は、そのままエリシオに直撃するかに思われた、その時だった。
「やらせるかァッ!」
魔力を結晶に奪われ続けているのにも関わらず走り出した無銘が、すんでのところでエリシオと風槍の間に割り込んだのだ。
エリシオを穿つはずだった風槍は、己が身を盾とした無銘によって阻まれ、その身を大きく吹き飛ばす結果に終わった。
「うわッ!?」
吹き飛ばされた無銘の体に押され、彼の下敷きになる形で倒れたエリシオ。しかし、その衝撃からすぐ立ち直るや否や、自分を庇って風槍を防いだ無銘に気づく。
「む、無銘さんッ!」
「よ、良かった……無事で……」
元々かつての古龍との戦いで霊核に損傷を受けていたのに、追加で風槍の直撃を受けたのだ。万全でない状態で挑んだ末路だろうか、その身は、少しずつ光の粒子となって消え始めている。
「あ、あぁ……ッ! 無銘さん……無銘さんッ!」
それがなにを意味するのか、エリシオはとうに理解しているはずだ。この現象はレオニダスのそれと似ている。つまり、無銘もまた、この世から消えようとしているのだと。
「そう、泣くな……。オレは、お前に助けてもらったんだ……。これが、オレがお前に出来る……最後の恩返しだ……」
「そんなの……そんなのどうだっていいッ! 消えないで……死なないでくれよッ!」
必死に無銘から光の粒子が出ないようにするエリシオだが、その気持ちを嘲笑うかのように、彼の指の隙間から粒子は昇っていき、そのまま消えてしまう。
「エリシオ……お前は、生きてくれ……。生きて、幸せ……に…………」
その一言を最期に、無銘の体は弾けるように魔力の光となった。
「そ、んな……。あ、ああああああああああッッ!!」
腕の中から逃れ、消えていく、かつての無銘だった光を収める視界が歪む。固く閉じられた瞳から零れ落ちた熱い雫が握り締められた拳に次々に落ち、慟哭が響き渡る。
憎い。憎い。自分が憎い。モンスターが憎い。
無力な自分が許せない。故郷を滅ぼしたモンスターが憎い。
殺さなければ。止めなければ。
これ以上の悲劇を、もう起こさせない為にも。
『―――憎いか? 奴が』
(……ッ!?)
その時、エリシオの心臓が一際強く鼓動し、聞き覚えのない声が脳内に響いた。
『憎いか? 憎いか? 殺したいか? 殺したいか? 答えろ。答えろ、人間』
「……あぁ、憎い」
まるで初めて知った言葉を繰り返す子どものように、同じ問いかけをもう一度繰り返した声に返す。
憎いとも。殺したいとも。ただ生きていたいだけだったのに、それを壊していく奴らが憎いとも。
『ククッ、いいな。その憎悪、その憤怒。やはりお前は俺の同類だ。どうだ? 力を貸してやろうか。この俺様が、お前に奴らを殺す力をくれてやる。だが、ただではくれてやらん。代償に、お前はこの星に、その死後を明け渡せ』
いいだろう。あいつを……奴らを殺せる力をくれるなら、代償なんかいくらでも払ってやる。
死後の安寧と引き換えに、奴らを殺す力が手に入るなら、喜んでくれてやる。
『クククッ! 言ったな? 言ったな言ったな言ったな? いいだろうッ! ならば―――』
だから……だから……
『「―――契約だ」』
覚悟を決めた表情で、拳を握り締めて告げた瞬間、エリシオを中心に円形の紋様が浮かび上がる。
『「―――誓いをここに」』
『「―――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」』
『―――されど我が身は幻に過ぎず。汝の器を以てこの地に降臨しよう』
「―――されど我が身は無力に過ぎず。我が器を以て汝を喚ぼう」
『―――我は万物の超越者にして未誕の王』
「―――我は汝が依代にして契約者」
『―――
「―――ジーヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
魔力が爆発する。凄まじく、凶暴なまでの嵐が周囲を吹き飛ばす。
召喚陣から現れたのは、蜃気楼のように揺らめく巨大な影。辛うじて竜種のものと判別できるそれが、強大な魔力の渦となってエリシオを呑み込む。
蒼き竜巻に呑まれたエリシオを蘭陵王がただ眺めるだけしかできないでいると、ガルバダオラが極太のブレスを発射してくる。
竜巻目掛けて真っ直ぐ飛んでいくブレスは、しかしそれ以上の光線によって打ち消され、光線はそのままガルバダオラの顔面を穿った。
「エ、エリシオ殿……?」
竜巻を振り払って現れたエリシオに、蘭陵王が愕然とする。それもそのはず。今の彼の姿は、今は竜巻に呑まれる前とは全く異なる外見をしていたのだから。
所々に竜種を思わせる部位と融合したような形状になっている肉体に、頭部から後方へ伸びる一対の黒い角。その身からは、英霊にも劣らぬ強大な神秘の力が絶えず放出されており、見る者全てを畏怖させていた。
光線の直撃に軽く怯んだものの、ガルバダオラは標的を蘭陵王からエリシオに変更し、翼を羽ばたかせて上空ならブレスを放って攻撃してくる。
自分を消し飛ばそうと迫るブレスを目にしても、エリシオはただ冷ややかな眼差しのまま、軽く腕を振り上げる。
瞬間、地上から間欠泉の如く噴き上げた蒼白色に輝くエネルギーの奔流がブレスを襲い、そのまま喰らい尽くしてしまった。
「オオオオオオォォォォッッッ!!!」
以前の彼からは想像もつかないほどの獰猛な雄叫びを上げて、その背に伸びるベール状の翼を羽ばたかせて飛翔したエリシオは、そのままガルバダオラに肉薄し、握り締めた拳で殴りつけた。
ただ殴りつけただけではない。拳がガルバダオラの顔面に直撃した瞬間、腕に充填されていたエネルギーが解放され、エリシオの体格故か若干小規模ながらも爆発が発生し、ガルバダオラを大地に叩きつけたのだった。
起き上がる暇さえ与えないとばかりに動いたエリシオがその手に片手剣を握ったかと思えば、壊れてしまっても構わないという勢いでガルバダオラに叩きつけた。
再び起きる爆発。今度は先程よりも大きな規模で発生したそれは、片手剣の破壊と引き換えに斬撃と共に黄金の鎧を抉り、その奥にある血肉を焼いた。
「ガアアアァァッッッ!!!」
肉を焼かれる痛みに苦悶の雄叫びを上げたガルバダオラがエリシオを弾き飛ばし、追い撃ちにブレスを放つ。
エリシオは弾き飛ばされながらも途中で態勢を立て直しており、新たに出現させた盾でブレスを防いだかと思えば、いつの間にか片手に握られていた剣を盾に突き刺し、巨大な斧に変形させてガルバダオラの左翼を斬り裂いた。
左翼を斬り落とされた痛みに絶叫した古龍が飛び退き、その全身に透明な障壁のようなものを張ったと思いきや、自身の周りを純白の輝きで塗り潰していく。
ガルバダオラの最後の抵抗だろうか。これから来る攻撃を受ければ、自分は文字通り消滅すると本能で察したのか、エリシオは眉を顰めて駆け出す。
常人では捉えられない速度で動くエリシオに対し、ガルバダオラはあらゆる存在を消失させる光を放とうとしたその時……
「グルォッ!?」
突如真下から噴き上げてきたエネルギーを全身に受け、攻撃が阻害されてしまった。外敵を排除するはずだった光は徐々に弱まっていき、その奥から蒼白の復讐者が駆けてくる。
前のめりに倒れるように体を倒したエリシオが両腕で大地を穿ち、獣の如き姿勢で走ると、その身を蒼白の炎が覆う。それは次第に巨大になっていき、それが晴れた頃には、そこにはガルバダオラの二倍以上の体躯を持つ、巨大な龍の姿があった。
「グオオオオオォォォォォォッッッ!!!」
雄叫びを上げた蒼白の龍がガルバダオラの首に喰らいつき、そのまま食い千切らんと言わんばかりに振り回しながら、何度も地面に叩きつける。ガルバダオラは、最早抵抗する術を失ったのかぐったりしており、それを放った龍は僅かに開かれた顎門に蒼白い炎を宿し始める。
臨界まで充填された事で放たれた極太のブレスは逃げる事もできない黄金の龍を呑み込み、その奥にある壁を貫通。一瞬の間を置いて、連鎖的に大爆発を引き起こした。
「グオオオオオォォォォォォッッッ!!!」
直線状に抉られ、融解している破壊痕を見て満足そうに勝利の咆哮を轟かせた龍に、蘭陵王は自分が震えている事に気づく。
このような規模の破壊。まるで災害だ。これが古龍種なのかと、これが災厄の権化なのかと改めて痛感させられ、ただ、ただ恐怖するしかなかった。
やがて日が昇りきった空を見上げた蒼白の龍は、その雄々しい翼を広げて飛び立つ。恐ろしいスピードで飛び上がった龍の姿が青空に紛れて見えなくなる。それを、蘭陵王はただ茫然と眺める事しか出来なかったが、龍の姿が消えた頃に平静を取り戻し、思考する。
結界の内側に現れた古龍。村とそこを守護していたサーヴァントの壊滅。そして、現地人の肉体を依り代に召喚された、蒼白の龍。
この事はアンナに伝えなければならない。そう判断し、蘭陵王は壊滅した村を後にするのだった。
ちなみにこのゼノ・ジーヴァは汎人類史の存在です。普通に成長していれば純粋な英霊として座に登録されていたでしょうが、生まれたばかりのところを調査団のハンターに討たれたため、幻霊止まりになっていました。ですがエリシオの意思と抑止力のバックアップを受け、デミ・サーヴァントと似て非なる存在として顕現する事が出来ています。少しプリズマ☆イリヤの夢幻召喚要素だったりペルソナ5の契約要素を入れてみました。
最近はどんどん忙しくなってきましてね……。大学の講義だったりイラストの練習だったり……。講義はまだちゃんとついていけてますが、問題はイラストですね。
キャラクターデザイナーになるのが私の夢なのですが、それになる為にはやはり画力が必要―――というわけで、ひたすらに書いているわけです。まだ数日かけて一枚、という感じなので、もっとタイムを縮めていかないとですね。もしかしたらこれが原因で更新できない場合があるかもしれませんので、ご了承ください。
今私が描いているのは、私が好きな二次創作作品『異聞帯がロスリックだった件』の主人公ですね。『それやるぐらいならまずアンナ描けや!』って言いたいと思いますが、それは私自身も思っています。でもですね、描き始めた以上、私はもう止まれないんですよ……ッ!
線があれだったり色があれだったり、まだまだ精進する必要がありますが、これからももっともっと練習して、夢を叶えてみせますッ!
それではまた次回ッ!