【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 大分間隔を開けてしまいましたね。申し訳ありません。

 最近はどうも忙しくてですねぇ。大学の講義だったり、独学で3Dモデルやイラストの練習をしていました。3Dモデルはまだコップを作る程度ですが、イラストの方は、今アンナちゃんを描こうとしています。とりあえず全身は描いたので、後は服装と髪型ですね。これが完成するまで何日かかるんでしょうか……。ですが、完成したら挿絵として載せようと思いますので、楽しみにしていてくださいッ!

 それでは、どうぞッ!


お互いに隠した真名

 

(さて、これからどうしようかしらね)

 

 

 某国の空港から出て最初に考えたのは、これから先の計画だった。

 

 故郷の日本から離れ、こうして海の彼方にある国までやって来たが、これといった目的など大してない。外国語は日常生活する程度には使えるし、生活費もそれなりにはある。このままホテルを転々としながら生活するか、それとも人目に付かない場所でひっそりと野営するか。

 

 ふと空を見上げれば、燦々(さんさん)と輝く太陽が見え、そこから放たれる光に思わず目を細める。

 

 私の気持ちも考えないで、アナタは輝き続けるのね―――なんて馬鹿げた事を思いながら視線を下げた瞬間、「あら」と言葉が漏れてしまった。

 

 

(あらあらあら、あの子、人間じゃないわねぇ)

 

 

 空港を行き交う人々の中で、当たり前のようにジュースを片手に歩いている女性。日本どころか、この国でも基本見かける事の無い、染め上げた気配ゼロな綺麗な銀髪を持った緋い瞳の女性は、周囲から少なからず注がれる好奇の目線に気付いていないのか、地味過ぎず派手すぎないドレスの裾を靡かせながら歩いていた。

 

 私がそんな彼女の姿を見て人間ではないと確信した瞬間、彼女も私の視線に気付いたのか、こちらに視線を向けてきた。

 

 目が合った彼女にニッコリと手を振ると、彼女もまた朗らかな笑みを浮かべながらこっちに来る。初対面の人間相手に、全然警戒してないわね。

 

 

「君だよね、私に不思議な目線を送ってきたのは。いったい私のなにを視た( ・ ・ )のかな?」

「ごめんなさいね。私、そういうの勝手に視えちゃうタイプなの。プライバシーの侵害ね。嫌だったでしょう?」

「別にいいよ。深いところまで潜り込まれてたら嫌だったけど、本当に軽い程度だったからね。君、どうしてこの国に来たの?」

「そうねぇ。自分探しの旅、ってところかしら。実家から飛び出してきてね。心機一転して、世界中を見てみたいと思ったの」

「旅ッ! うんうん、いいねいいねッ! 旅はするものだよ。色んな文化、色んな景色に直に触れられるからねッ!」

 

 

 ぱぁっとひまわりのような笑みを浮かべた彼女が、何度も頷きながら私の目的を肯定する。咄嗟に出た答えだが、あながち間違っているわけではないためか、あまり罪悪感は感じなかった。それにしてもこの子、本当によく笑うわね。まるで子どもみたい。

 

 

「ねぇ、君が良ければって話なんだけどさ。私も貴方の旅に付き合ってもいいかな? 私も旅をしてるんだけど、なにぶん独りじゃ心細くてね」

「えぇ、いいわよ。私、アナタの事をもっと知りたいし」

「本当? ありがとうッ! それじゃあ、まずは自己紹介だね。私はアンナ・ディストローツ。貴方は?」

「私? 私はみょ―――」

 

 

 名前を問われ、一瞬、妙漣寺鴉郎(本名)を口にしかける。もう故郷の家の事なんて考えたくない。現実から目を背けるわけではないが、ようやくあの家系の枷から解き放たれたというのに、まだあの家の名を口にする必要はあるのだろうか。

 

 いや、そんな必要は皆無だ。本名を知るのは、本当に信用、信頼できる者だけに留めるとしよう。同行者になる彼女には少し申し訳ないけど、今の私が彼女に名乗るべき名は―――

 

 

「スカンジナビア・ペペロンチーノよ。ペペと呼んで頂戴な」

「スカンジナビア……ペペロンチーノ? ふふっ、面白い名前だね。よろしくね、ペペ」

 

 

 それから私達は、色んな国を旅した。

 

 手持ちのお金が無くなってからは、行先々でストリートパフォーマンスをして資金調達を行い、近くのお店で腹を満たし、稼ぎが良かった時はホテルに泊まったりもした。それぐらいのお金がない時は、森の中で採取した果実とかを食べながら焚火を囲んで談笑。お互いに火の番を交換しながら眠りに就いた。

 

 その傍ら、私達は各国の神話や伝承に触れもした。世界各地に散在する、それぞれが全く異なる世界観で構築される伝説。どれもこれも魅力的なものだったけれど、私が特に気に入ったのは、インド神話だった。

 

 何度も滅びては再興し、それを繰り返し続ける世界観に、これから先の未来( ・ ・ )がない私が惹かれないはずがなかった。

 

 自分はなにも遺せない―――生まれた頃から自然と理解していた事だ。この命が尽きても、私の魂は新たな命にならず、そのまま輪廻の枠より外れる。ならばこの生涯のうちになにか遺そう、と考えても、それもまた己自身が「無理だ」と否定する。

 

 本当の意味での、一回きりの人生。生まれた瞬間に『お前に来世などない』と宣告されたようなものだが、私は自分のそういった立場に不満を抱いた事は無い。運命という枠組みから乖離しているなら、私は今在る私として、やりたい事に一生懸命になれる。悔いのないように、という感じかしらね。

 

 私がもっと現地でインド神話について知りたいと言うと、アンナちゃんは嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。

 

 

「創生と滅亡を繰り返す神話、か。なんだか、色々思い出しちゃうな」

「へぇ、なにか思うところがあるの? 良かったら教えてくれる?」

「もちろん。『モンスターハンター』って知ってる?」

「えぇ、もちろん」

 

 

 最古の文明と呼ばれているメソポタミア文明。人類最古の王であるギルガメッシュが治めていた時代よりも遥か昔の、実在が疑われているが故によく御伽噺として扱われる超古代文明の歴史をまとめた叙事詩だ。その実在を裏付ける証拠となる遺跡などは、残念ながら現代に残されてはいない。辛うじてその時代が存在していたと考えられるのは、未だ世界各地にかつてこの星に生息していたであろう古の龍達の伝説が残っているからである。

 

 アンナはその中で、“獄炎の巨神”や“偉大なる破壊と創造”といった異名で畏れられた伝説の古龍について話してくれた。

 

 

「“煉黒龍”グラン・ミラオス……。まさしく神様みたいな古龍ね。当時の人々には感謝しなくちゃね」

「当時の彼らの戦いは、本当に素晴らしいものだったそうだよ。その気になれば世界を滅ぼす事も簡単にできたあの龍を、一致団結して打倒したんだから。うん……本当に、素晴らしかった」

「……一つ訊いてもいいかしら?」

 

 

 首を傾げて「なにかな?」と問いかけてくるアンナちゃんに、本当に質問してもいいのかと一瞬迷う。

 

 もしかしたら、彼女を傷つけてしまうかもしれない。この旅が終わるかもしれない。そんな不安が、喉元まで出てきた言葉を止めるが、それでもと、私は言葉を発した。

 

 

「アナタはどうして、哀しんでいるのかしら」

 

 

 視てしまった。読めてしまったのだ。彼女の心に生まれた、“悲哀”という感情を。

 

 もしかしたら人類が滅びていたかもしれないのに、彼女は“煉黒龍”が討たれたという話に悲しみを抱いていた。それがどうしても、私は知りたかった。

 

 

「“煉黒龍”にとっては……それが役割( ・ ・ )だったから、かな」

「役割?」

「発祥、根幹が異なる伝説でも、必ず倒すべき存在はいる。ギリシャ神話のティターン神族、インド神話のアスラのようなね。“煉黒龍”はそこに分類されていたの。いや、分類されるようにした( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )。自分の意志でね」

「どうして、わざわざそんな事を?」

「…………さぁね」

 

 

 しばし口を閉ざした後に微笑を浮かべる彼女。その笑顔が、無理に作っているものだという事くらい、私じゃなくともわかる。

 

 

「……辛い気持ちにさせちゃったわね。ごめんなさい」

「ううん、いいの。もう、終わった事だからね。さ、次の場所に行こう。今度はどこに行く?」

「そうね。じゃあ、次は―――」

 

 

 それから、私達はまたしばらく旅を続けた。この質問で私達の間に亀裂が入るのではないか、と危惧していたが、アンナちゃんからその気配は感じ取れなかったし、彼女自身もいつも通りの調子で私の話に付き合ってくれた。

 

 そして何週間か経った後、私達はそれぞれのやるべき事が出来たため、惜しくも別々の道を歩む事になった。

 

 

「ありがとう、ペペ。ここまでの旅、楽しかったよ」

「それはこっちのセリフよ。アナタと過ごす時間は本当に楽しかったわ」

 

 

 二本に別れた道の前に立った私達は、この旅最後の会話を交わす。私は魔術協会のスカウトを受けたために、アンナちゃんはまたどこかの国に旅立つ為に。もしかしたら、またどこかで出会えるのかもしれないけど、最後に一つだけ、私は彼女に伝えなければいけない事があった。

 

 

「アンナちゃん。最後に一つだけ言わせてほしいの」

「ん? なにかな」

「私の本名」

「え? 本名? スカンジナビア・ペペロンチーノじゃないの?」

「それは偽名。ごめんなさいね、今まで騙しちゃってて」

「別にいいよ。偽名を使うって事は、何かしらの理由があるんでしょ?それを詮索するつもりはないよ。それじゃあ、教えてくれるかな。君の本当の名前」

「えぇ、もちろん」

 

 

 この名前を口にするのは、本当に心から信頼できる者に対してのみ。この旅の中で、彼女は私の中で大きな存在になってくれた。だから、これはお礼よ。

 

 

「私の名前は、妙漣寺鴉郎。この名前を教えるのは、私が本当に信頼できる相手だけよ。言い触らしたりしないでね?」

「妙漣寺鴉郎……。うん、覚えた。それじゃあ、私からもお返し」

「え? わっ、ちょ、ちょっとッ!?」

 

 

 ポカンとする私が反応するよりも早く、アンナちゃんの腕が背中に回され、私のものとは別の体温が、私の体を温める。

 

 親愛のハグなんて嬉しいわねぇ~、なんて思いながら、私も彼女の背中に腕を回そうとして―――

 

 

「私の本当の名前は―――」

 

 

 耳元で囁くように発せられた言葉に、思わず体が硬直した。

 

 え、待って?嘘?彼女が?人間じゃないっていうのは初対面からわかってたけど、そんな大物だったの?

 

 

「私も、今まで騙しててごめんなさい。鴉郎君」

「なに言ってるのよ。いいのよ全然ッ! 私もアナタを騙してたんだもん。これでおあいこよ。それと、この事については誰にも言わないわ。女の子の秘密だもの」

「ふふっ、そう言ってくれると助かるわ。……またね、鴉郎君。元気でね」

「えぇ、アナタも元気で。女王様」

 

 

 最後に握手を交わし、私達はそれぞれの道に向かって歩き出した。

 

 それから数年後。私は時計塔のロードの一人であるマリスビリーのスカウトを受けて、南極にあるカルデアを訪ね、そこで再び彼女と出会ったのだった。

 

 

「随分と血生臭くなっちゃったね、ペペ」

「嘘ッ!?私、もしかして血の臭いとか振り撒きまくってたッ!?」

「違う違う。臭いは大丈夫。寧ろ良い香水の匂い。後でメーカー教えてね。私が言ってるのは、君の雰囲気だよ」

「……やっぱり、貴女にはわかっちゃうのかしら?」

 

 

 如何なる巡り合わせか、こうして南極で再会したアンナちゃんは、やはりと言うべきか私の雰囲気が変わった事に気付いたようだ。

 

 それもそうかもしれない。彼女は私達とは違う。彼女と別れた後、殺しに身を窶す事になった私の体には、洗っても洗い落とせぬ血の臭いがついている事だろう。

 

 

「別に、君にとやかく言う気は無いよ。それが君の選んだ道なら、尚更ね。私、正義の味方ってわけじゃないし」

 

 

 それが、当時の君がするべき事だったなら、私はなにも言わないよ。そう締め括った彼女は、あの旅の最中と変わらない、明るい雰囲気のままだった。

 

 

「……こう言ってはなんだけど。アナタ、意外と狂ってるわよね」

「やっぱりそう思っちゃう? まぁ、私もたまにそう感じる時はあるけどね。けど、いいの。これが私なんだから」

「本当マイペースね。私が言えた義理じゃないけど」

 

 

 再会した時にこんな話をしたが、それ以降は至って普通の、ごくごく当たり前の会話をしながら他のスタッフ達と過ごした。まだAチームが編成される前の時だったが、その頃から私達はカドックにちょっかいをかけたり、キリシュタリアやマシュに声をかけようとしてヘタレを発動していたオフェリアの背を押したりと、色々な事をした。

 

 そして、マリスビリーによってAチームに選ばれ、いざ人理修復の旅へ……となったところで、視界が真っ白になったのだった。

 

 

 

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 時はカルデアがインド異聞帯を攻略した後。場所はシュレイド城の一室にて。

 

 

「そう……カルデアは貴方の異聞帯も……」

「そんな顔しないの。確かに、私はあの子達に負けたけど、これはこれで悪くはなかったわ。あの子達の意志の強さも再確認できたしね。それに、私は嬉しいのよ? こうしてアナタと再会できるなんて思わなかったからね、オフェリア」

 

 

 キリシュタリア主催の定例会議の時に使用されていたものと酷似した円卓に座した少女にペペロンチーノが微笑むと、少女―――オフェリア・ファルムソローネも小さく笑う。

 

 そして、その背後に立つ一人の騎士に不敵な笑みを浮かべる者が一人。

 

 

「話には聞いてたが、そいつがあの竜殺しか。なぁ、後ででいいから手合わせしてみねぇか? あんたの力、是非とも確かめてみたい」

「アシュヴァッターマン? 今は乙女が話してる最中なのよ? 今はそういった話は控えてくれるかしら」

「おっと、すまねぇな、マスター。オフェリアも悪いな。折角の会話を邪魔しちゃってよ」

「いえ。手合わせの件ですが、後で中庭を借りて模擬戦を行ってもいいですよ。シグルドが了承するかどうかですが」

「当方も貴殿とは一度手合わせしてみたいと思っていた。この会談が終わり次第、始めようじゃないか」

 

 

 この異聞帯についた時に二人が再召喚したサーヴァント達が、お互いに一人の戦士として相対する存在の武を知ろうと視線で火花を散らす。アシュヴァッターマンもシグルドも、この異聞帯でペペロンチーノとオフェリアが再召喚したサーヴァント達だ。アシュヴァッターマンはインド異聞帯を治めていたアルジュナに契約を奪われ、シグルドは召喚時に北欧異聞帯のスルトに体の主導権を奪われ、真の意味でマスターに仕える事ができなかった。ニ騎がペペロンチーノ達の召喚に応じたのは、一度は果たせなかった忠義を、これを機に果たす為である。

 

 

「お前達、僕らがなんの為に呼び出されたのか忘れたのか?」

「そうは言ってもねぇ。アナタに言われても説得力ないわよ? カドック」

 

 

 目を細めて言うカドックに、ペペロンチーノは吹き出したくなる気持ちを抑えながら言う。彼とオフェリア、そしてアンナの視線の先にいるカドックは―――

 

 

「ヴィイ、貴方はそこにリボンをつけなさい。私はこちらからリボンをつけます」

 

 

 現在進行系でアナスタシアとその使い魔であるヴィイによって髪の毛にリボンをつけられまくっていた。

 

 

「……アナスタシア。これから大事な話があるんだ。少し大人しくしてくれないか?」

「そう言われて私が大人しくしてるとでも?思い上がりも甚だしいわね、カドック。やめてほしかったら、今夜私がお風呂から上がった時に髪を梳かすと約束しなさい」

「おかしな交渉だな……。まぁいい。約束する。だからやめてくれ」

「ふふっ、わかったわ」

 

 

 こくりと頷いたアナスタシアが、ヴィイに作業をやめさせて自分の手元に戻す。髪を梳かしてもらう約束をしたのが嬉しかったのか、その表情はどこか晴れ晴れとしている。

 

 

「二人共、見せつけてくれるわねぇ。妬けちゃうわ~」

「別に僕達はそういう関係じゃないぞ……」

「そんな……あの夜私に囁いた愛の言葉は嘘だと言うの? 最低ね、カドック」

「カドック、貴方……」

「嘘だからな? 簡単に騙されないでくれよ、ファルムソローネ」

「はいはい。イチャイチャはそこまで。私の話に耳を貸してくださ~い」

 

 

 パンパンと手を叩いて意識の切り替えを促したアンナに、彼女の背後に立つ漆黒の狂戦士を除いた者達の視線が集まる。

 

 

「今日集まってもらったのは他でもない。近々、このシュレイド異聞帯とギリシャ異聞帯が衝突する。君達には、その時にやってもらいたい事があるの」

 

 

 シュレイド異聞帯もギリシャ異聞帯も、今も尚その規模を拡大し続けている。この調子で行けば、あと数ヶ月も経たないうちに両異聞帯が激突し、異なる歴史同士の生存競争が始まる。

 

 アンナの頼みとは、自分とキリシュタリアが対決している間に、ギリシャ異聞帯からある情報を入手してもらいたいというものだった。

 

 それはもちろん、今回自分達を蘇生させ、それぞれに剪定された歴史の管理を任せた張本人―――『異星の神』についての情報だ。

 

 あのキリシュタリアの事だ。『異星の神』が使役するアルターエゴに監視されているかもしれない状況の中でも、『異星の神』についての情報をまとめている可能性がある。この戦いでアンナがサーヴァントや古龍種達と大暴れしてギリシャの勢力を引き付けている間に、カドック達にその情報を入手してもらいたいのだそうだ。

 

 

「……わかった。僕も、『異星の神』についての情報は欲しい。僕らをこうして蘇らせたのに、未だに姿を見せず、情報は全てアルターエゴに伝えさせているんだからな」

「えぇ、私もその事について知りたいわ。シグルド、護衛、お願いできる?」

「了解した」

「ねぇ、アンナちゃん。もしあいつ( ・ ・ ・ )がいたらって話で訊くんだけど、あいつがいたら、私に任せてくれないかしら。少しばかり仕返ししたくてね」

「もちろんだよ。君から話は聞いていたけど、このまま好き勝手させるわけにはいかないからね」

「そういえば、芥はどうしたの? 彼女の力を借りるのも一つの手だと思うんだけど」

 

 

 以前、“我らの団”との遠征から戻ってきた時に再会した芥ヒナコ。彼女は自分が召喚したサーヴァント・蘭陵王と、中国異聞帯からやって来た項羽と共に自分達に挨拶してきた。異聞の存在とは言え、中国の歴史に名高い項羽が人馬型の姿になっていた事に驚愕しながらも、カドックとオフェリアは彼女と再会できた事を喜んだ。

 

 

『あ、言っておくけど、芥ヒナコは偽名よ。私の真名(ほんみょう)は虞美人だから、覚えときなさい』

 

 

 去り際に彼女がとんでもない事を言ってきたのは、今でも鮮明に思い出せる。最初こそ信じられなかったが、あの項羽がヒナコの事を“虞”と呼んでいたので、彼女の言った事は真実なのだろう。それはそれで別の驚きが生まれるのだが。

 

 

「あの子は駄目だよ。ここに来る事を条件に、二度と項羽は戦わせないって約束したの。それを破るつもりはないよ」

「……それなら、仕方ないわね」

 

 

 誰だって、愛する存在が戦地に赴く事を進んで望みはしない。キリシュタリア・ヴォーダイムという男を愛しているオフェリアにとって、虞美人の気持ちは理解できないものではなく、むしろ共感できるものだった。

 

 そう思った時、オフェリアは嫌な予感を感じた。

 

 

「……ねぇ、アンナ。キリシュタリア様と戦うという事は……その、彼を……」

 

 

 殺すの?―――その問いかけは、最後まで口に出来なかった。

 

 この八つの異聞帯の戦いは、かつて極東の地で繰り広げられたという聖杯戦争と酷似している。マスターとサーヴァントによって構成された複数のチームが、あらゆる手練手管を用いて互いに殺し合い、勝ち残った者のみが万能の願望器“聖杯”を手に入れるという、人知れず行われる魔術戦争。

 

 聖杯に選ばれたマスターの中には、己と友情を結んだ者がいるかもしれない。もしかしたら、愛する人も。それでも、彼らは戦わなくてはいけない。魔術師にとっての理想、根源への到達への最短距離となる聖杯を求める為に。

 

 

「……優しいね、オフェリアちゃんは」

 

 

 最後まで言えなくとも、彼女がなにを訊ねようとしたのかを把握したアンナの微笑みに、オフェリアはほっと息を吐こうとし―――

 

 

「でも、ごめんなさい。今回ばかりは、彼を殺すわ」

「え……?」

 

 

 予想だにしなかった答えに、思わず絶句した。

 

 

「ど、どうして? 私達は助けたのに、どうしてキリシュタリア様だけが……ッ!」

「今は話せないわ。だけど安心して。悪いようにはしないから」

「オフェリア。ここは怒りを抑えて。アンナちゃんには、アンナちゃんなりの考えがあるのよ」

「ペペ……」

 

 

 自分達とは異なる見方が出来るペペロンチーノの言葉だからか、オフェリアは親友に投げかけようとしていた文句を呑み込み、立ち上がりかけていた体を椅子に戻した。

 

 

「ありがとう、ペペ。……それじゃあ、この話はこれでおしまい。カドックとオフェリアちゃんはもうお仕事終わってるんだし、ゆっくり休んでね」

「……あぁ」

「……えぇ」

 

 

 二人が頷いたのを最後に、四人のクリプターの会議は終わった。

 

 

「オフェリアちゃんには、酷い事を言っちゃったなぁ」

 

 

 カドックとオフェリアが退室した後、肩を落として溜息を吐くアンナに、ペペロンチーノが優しく声をかける。

 

 

「前に一度、アナタがオフェリアの件でキリシュタリアに怒った時があったでしょ? その時の彼の気持ち、わかった?」

「うん……。これは言った方も傷つくなぁ。後で謝っておこう」

 

 

 あの時、自分はなにも理解せずにキリシュタリアに怒ってしまった。彼の現状を考えれば、あんな事を言う理由なんてすぐわかったのに。今更ながら、アンナはあの時の自分の行動に後悔していた。

 

 顔に手を当てて再び溜息を吐いた時、「それにしても」とペペロンチーノが口を開く。

 

 

「ギリシャ異聞帯対シュレイド異聞帯……いったいどんな戦いになるのかしらね」

「確実な点と挙げるなら、間違いなく尋常じゃない被害が出るだろうね。こっちもそれなりに戦力を失うかもだけど、ギリシャの神々との戦いだもの。それぐらいは覚悟してるよ。それに、キリシュタリアが乗り越えるべき試練としては最高じゃない?」

 

 

 人の時代を終わらせ、神の時代を作る。その理念の元に行動しているキリシュタリアを否定する気はない。しかし、人類をそれ以上の存在に昇華させる気なら、アンナは全霊を以てそれを阻む。それでもと望むのなら、その意志の強さを、我々の打倒という形で証明してもらおうじゃないか。

 

 

「待っていなさい、キリシュタリア。貴方との戦い、楽しみにしているわ」

 

 

 拳を握り締め、アンナは女性とは思えぬ獰猛な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

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 ポッド151からポッド91へ。情報共有を開始する。

 

 

 ―――……お主、なにをしている?

 

 

 そう言わないでくれ。たまには私に合わせてくれてもいいんじゃないか?

 

 

 ―――また“座”から知識を吸い取ったのか? それとも、お主が生前取り込んだ( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )奴から奪った知恵か?

 

 

 今回は前者だ。無数に存在する並行世界。その一つに存在する、とある随行支援ユニットの真似事をしてみた。番号は我々の名を数字に直してみたものだ。あまり上手くはいかなかったがね。

 

 

 ―――知らん。それで? わざわざこちら( ・ ・ ・ )まで通信を繋いで何の用だ。

 

 

 そちらの神が、こちらの世界に攻撃を仕掛けようとしている。今わかっている中でも、■■=■■■■、■■■■■■■■■■、■■■■■、そして、■■■■■。

 

 

 ―――なに……? ■■■■■、だと?

 

 

 如何にも。彼らは尖兵として、■■■■■■の依り代をカルデアに送り込むつもりらしい。そこでだ。偉大なる異邦の神よ。君の力を貸してもらいたい。あぁ、もちろん、君にも対価はあるともッ! 奴らの……■■■■■の目的を潰せるというものだ。等価交換まではいかないが、どうだね?

 

 

 ―――……いいだろう。我が直接出向くのもやぶさかではないが、アルデバランは未だ青き星の中天に座していない。故に、お主に我が権能の一部を与える。生前のお主が取り込んだものよりも強大なものだが、耐え切れるか?

 

 

 無論だとも。私とて、異界の神々に我が故郷を穢されては堪らないからな。

 

 

 ―――くれぐれも悪用してくれるなよ? 欠片とはいえ、我が権能は人を狂死させるには充分すぎる。それがサーヴァントであったとしてもだ。乱用して、そのカルデアとやらを滅ぼすなよ?

 

 

 あぁ、もちろん。

 

 フフフ……ようやく私の出番だ。君に会えるのを楽しみにしているぞ、カルデアのマスター。

 

 深き海の底。虚数の世界にて―――君を待とう。

 




 
 次回からイマジナリ・スクランブル編です。ラストにはSAN値がピンチで這いよれ的な三人(柱)組が揃いますので、お楽しみにッ!

 頑張って二週間以内に更新したいと思います……ッ!
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