【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 どうも、皆さん。先週の金曜日、感染予防をしっかりした上でディズニーを楽しんできたseven774です。
 いや、凄いですね、今のディズニー。来場者数を限定しているのもあって、待ち時間がゼロ分のアトラクションがほとんどでしたよ。
 美女と野獣のアトラクション、とても素敵でした。機会があればまた行きたいですねぇ。

 戦人さん、Ruinさん、誤字報告、ありがとうございます。

 今回、少し文章構成を変えてみました。


悲劇の巨匠

 

 マシュ達が虚数空間で漂流した英霊―――ゴッホを救出してから五時間が経過した。

 

 ゴッホ―――現代に生きる人間ならば誰もが知っている、世界有数の男性だったはずの( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )画家。生きていた頃に売れた作品は一枚しかなかったという、生前は一切日の目を見る事はなかったものの、その死後には「ひまわり」を始めた作品が次々と評価されていき、巨匠とまで言われるようになった、理解されなかった悲劇の画家。

 

 この時空においても、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホは男性であったという明確な物的証拠が残っているため、ゴッホの性別が男性である事は明白だったのだが、なぜかマシュ達が救出したゴッホは少女の姿をしていた。

 

 この事実には流石の立香達も頭を悩ませる。

 これまで様々な英霊と出会ってきた以上、彼らの性別が史実と違っている事例などよく目にしてきた。

 ブリテンの王、アーサー王もといアルトリア・ペンドラゴン。外来の武器の鉄砲をいち早く取り入れて戦国の世にその名を轟かせた武将、織田信長。そしてあまりにも自分の作品が良すぎて、その姿を借りて現界していたダ・ヴィンチなどが主な例であろう。

 

 なのに、ゴッホは男性であったという証拠があるのに、あろう事か彼は少女の姿で現界した。しかも、彼女が完全に女性であるという情報は、ネモ・シリーズの中でも医療スキルに特化したナースのお墨付きだ。

 

 気になる事はまだあるが、まずはこれからの事を考えなければならない。

 幸い、マシュ達によって救出されたゴッホは、現在立香達が置かれている状況を把握するや否や、すぐに協力すると言ってくれた。

 最初こそ絶体絶命の窮地から始まった事件ではあったが、そこから脱する手段が少しずつ揃い始めているのは喜ばしい事だ。

 

 召喚の制御プログラムがバグって直接座から召喚された楊貴妃の助けもあって、ノーチラスを襲った敵性体にも対処できるようになった。また、ネモはマシュ達が戦っている間に楊貴妃とプロフェッサーに頼み込んで、マシュ達とエネミーの戦闘の際に生じた音を基に周囲の地形を確認してもらい、口頭で説明された情報を何度も頭の中で確認しながら簡易的な地図を作った。楊貴妃には戦闘のサポートと地形把握という、二つの仕事を一気にやらせる事になってしまったが、「それで助けになるなら楽勝ですよ」と、彼女はにこやかに許してくれた。

 

 さらに彼女は、自分も艦外作業に加わりたいと言い出してくれた。これには流石のネモや立香が反対し、そちらの作業は自分がやる方がいいと言い出してくれた赤衣が請け負う事となった。

 

 

「ところで気になっていたんだけど、水着霊衣を着た英霊がどうして虚数空間で活動できるのかな? あのシオンでも、流石にそんな芸当はできないと思うんだけど」

 

 

 ふと気になった事を口にするネモ。

 現在マシュ達が着ている水着霊衣には、元々虚数空間で活動できる機能など搭載されていなかった。BBが上手く調整してくれた事は知っているが、具体的にはどうやっているのだろうという、細やかかな好奇心故である。

 

 そんな彼の疑問に答えてくれたのは、この中では断トツで魔術の扱いに長けているスカサハ=スカディだ。

 

 “B”の文字が刻まれたピンク色のメモリーチップには、長年北欧異聞帯を支え続けていた女神であるスカサハ=スカディを以てしても理解できない魔術式が焼き込まれていたが、なんとか解析できた部分を鑑みるに、恐らく虚数魔術かそれに近しいものであるらしい。

 これを付呪(インストール)した霊衣または水着は、着用者を虚数空間に適応させ、さらにステータスも強化してくれる。この手が使えるサーヴァントは、水着霊衣を有するか、過去にそれを獲得した経験のある者のみ。今この場にいるメンバーでそれが該当するのは、マシュと刑部姫のみ。スカサハ=スカディは、厳密には彼女とは全く異なる存在であるスカサハの水着霊衣を拝借しているだけに過ぎず、宝具を始めとした本来の能力を発揮する事はできない。

 赤衣の男は例外中の例外だ。なんの措置もなく、まともに見れば発狂するしかないはずの虚数の世界で平然と活動できるサーヴァントなど、いる方がおかしいのだから。

 

 満足に戦えないスカサハ=スカディは、自分が戦場に出ても足手纏いにしかならないと把握している為、後方支援に回る事になる。彼女程の術者ならば、今後水着霊衣を持っているサーヴァントが召喚できた時に、彼女達の衣装を虚数空間に対応できるよう調整できるだろう。電子技術は不得手だが、チップをルーン魔術で量産する事には成功しているのだから。

 

 そこへ機関室にいるネモ・エンジンから連絡が入ってきた。なんとなく理解していたが、やはりノーチラスは本調子ではないらしい。不幸中の幸いで致命的損傷こそないが、座礁の影響で駆動系のあちこちにガタが来ているようで、燃費の悪化も相まって急発進や急加速は気楽にできなくなってしまったそうだ。

 

 次は居住区からの報告。そこに配備されたマリーンによれば、一応全員分の寝床は用意できたらしい。最初の襲撃のせいで食事は質素なものになってしまったが、この状況で文句は言えない。食料はマスターである立香が食べるとして、サーヴァント達は魔力で我慢するしかない。

 

 そして、話題は最初のゴッホへと戻る。

 

 論点は、彼女は本当に、あの世界に名を轟かせる画家のゴッホなのか。そして、彼女は本当に味方なのか、である。

 

 協力こそ得られる話となっているが、既にこちら側に協力してくれている赤衣の男と楊貴妃と同じく、ゴッホもまた降臨者の名を背負うサーヴァントだ。異邦の力を振るう彼女が味方になってくれれば心強いが、敵となったら厄介なのは間違いない。

 

 ネモ・ナースの検査の結果、救出されたゴッホの体内に流れている血液は、通常のサーヴァントのような、霊基を駆動させる為の恒常的魔力だけではないらしく、霊子組成と反応は、ある種の植物系霊薬に似ているらしい。

 もしかしたら、彼女はヒトならぬ肉体―――例えば、特殊なホムンクルスなどを依り代に成立した英霊なのかもしれない。

 

 最初のナースの、ゴッホが女性である、という証言も合わせると、以下のような仮説が出来上がる。

 

 一つ、自分をゴッホだと信じている赤の他人。

 二つ、霊基異常で性別や記憶が混乱したゴッホ本人。

 三つ、自分がゴッホだと苦しい嘘を吐いている敵。

 

 恐らく、この中のどれかに彼女は当てはまるとネモ達は推測している。

 

 

「でも、超フレンドリーだったよ?」

 

 

 しかし、立香のこのうち、三つ目の事項は恐らく違うと考えていた。

 

 彼女はこの会議が始まる前に少しゴッホと話す機会に恵まれ、軽くではあるが言葉を交わした。

 その時の彼女に自分が日本出身である事や、カルデアには日本出身の英霊も多く存在する事を告げると、彼女は零れ落ちんばかりに目を見開いて興奮していた。あの時の彼女からは、嘘偽りの気配は全く感じられなかった。誰しも、自分が好きな事を前にしては自分を偽れなくなるのだから、きっとあれがゴッホなのだろうという結論に行き着いていた。

 

 それに、ゴッホが敵ではないという証拠として、彼女がもたらしてくれた虚数空間についての重要な情報を幾つか提供してくれた、というのもある。

 また、情報源以外に、赤衣の男同様に、BBが用意してくれた虚数適応チップが無くとも生身で虚数空間活動が行えるので、即戦力としても期待できる点も大きい。

 

 

「だから、ここは仮契約をするべきだと思う」

「ウミガメの甲羅のように固い意志ですッ! あ……いえ、ついキャプテン・ネモの口癖が……」

「硬さで言うならカサガイの歯が物凄いよ。いやそうじゃなくて。仮契約するんだろ。それはいい。もう一騎分の現界維持リソースはなんとか捻出しよう。ただ……少しだけ、司令代理と二人きりで話したい。他のみんなはちょっと外してほしい」

 

 

 突然ネモが立香と二人きりになりたい、と言い出したので、マシュ達はなぜかと頭上に?マークを浮かべた。

 

 

「悪いけど、これは副司令代理にも秘密だ。他の誰も立ち聞きできないよう、歩哨(ほしょう)をお願いしたい」

「……わかりました」

 

 

 なにか重要な話なのだろうと納得し、マシュを筆頭に、立香とネモを除いたメンバー達は司令室から退室する。

 

 

(わたし)達を追い出して、いったいどんな事を話すんだろうね?」

「さてな。我々には話せない内容なのかもしれない。気にはなるが、ここは我慢するしかない。……む? 赤衣よ、どこへ行くのだ?」

 

 

 刑部姫と話していたスカサハ=スカディが、退室するとそのままどこかへ向かい始めた赤衣の背に声をかける。

 

 

「ん? ゴッホ嬢のところへ行こうと思ってな。聞けば私と同じフォーリナーのサーヴァントのようだからな。挨拶でもしておこうと思ってね。そう睨むな。別に寝込みを襲おうというつもりはない。それではな。話が終わったらマリーンでも使いに寄越してくれたえよ」

 

 

 ひらひらと手を振りながら、赤衣はマシュ達を置いて医務室へと向かった。

 

 

 

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 医務室。ネモ・シリーズの一人であるナースが、いつ怪我人が出ても問題ないように待機している部屋であるが、現在ナースはマシュ達と共にいるため、今そこに彼女の姿はない。

 代わりに、そこにある診察台には一人の少女が寝かされていた。

 

 麦わら帽子を隅に置き、腹部が露わになった服に身を包んだ、すぅ、すぅと一定のリズムを刻みながら寝息を立てる少女。

 彼女こそヴァン・ゴッホ。マシュと赤衣が救い出した、降臨者(フォーリナー)のクラスに属するサーヴァントである。

 

 そんな彼女が眠っていると、肉体をなにかに触られている感覚を覚え、小さな呻き声を上げながら瞼を持ち上げてる。

 すぐさま視界いっぱいに差し込んでくる天井の照明の光に思わず強く目を瞑り、何度か瞬きして目を慣れさせ、自分に触れているなにかの正体を確かめるべく視線を動かす。

 

 

「目覚めたか。まずはおはよう、と言うべきかね? ゴッホ嬢」

 

 

 顔は動かさず、視線だけ寄越してきた男と目が合った。

 深紅の衣で身を覆った、整った顔立ちの青年。彼が持つのは、混じりけの無い、漆黒の瞳。奥底に狂気を湛えたその瞳は、どこかゴッホに深淵を連想させた。

 

 

「起こしてしまって申し訳ない。今は軽く調査をしているところだ。眠りたいのならば、また眠ってもらっても構わないが?」

「で、できるなら、そうしたいところですけど……あの……」

「なにかな?」

「その……そこは、あんまり、触らないでください……。あの、恥ずかしいです」

 

 

 軽く上半身を起こしたゴッホの視線の先。外気に晒されている腹部―――それも女性にとって重要な生殖器官である子宮の真上に触れている手に、ほんのりと頬を朱色に染める。

 目覚めて早々に、見知らぬ男に下腹部を触られている。生前はどうあれ、今は女性であるゴッホにとって、これはあまりにも看過し難い事であろう。

 

 

「む……すまなかった。生前が男性であったという確証があるというのに、なぜか女性として現界した、というケースは私としても実に興味深い。なにか理由はあるものかと思案してみたが、どうしても頭で考えていても埒が明かない。ならば実際に会って確かめてみよう、と思ってな」

「それで子宮、ですか?」

「デリカシーに欠ける行為だった。謝ろう」

 

 

 先程の行動は、流石の赤衣とてデリカシーの欠ける行為だと認識していたようだ。如何に調査の為とはいえ、女性の象徴とも呼べる場所に無断で触れてしまった。これには赤衣も頭を下げる他ない。

 

 英霊に昇華されたとしても、女性にとって子宮というのは変わらず大切な器官の役割を果たしている。

 生きとし生ける人間のものであれば、新たな命を育む揺り籠として。英霊のものであれば、高密度魔力の生成元として。

 

 赤衣が彼女の下腹部に触れていたのは、高純度の魔力を絶えず生成し続けている子宮を調査すれば、なにかしらの情報が得られるかもしれないと思い立っての行動だった。淑女に対する行為としては全く褒められないものだが、そのお陰で見えてきたものもある。

 

 

「フランケンシュタインの怪物……いや、どちらかといえばあの兵器( ・ ・ ・ ・ )に近い、継ぎ接ぎの霊基か。異邦の神格め、なんともまぁ……」

 

 

 面白い事をしてくれる―――と、内心で呟いて不敵な笑みを浮かべた赤衣は、その視線をゴッホに向け、大事な事を忘れていたと口を開く。

 

 

「おぉ、そういえば自己紹介がまだだったな。クラスはフォーリナー、真名は赤衣の男、という者だ。赤衣とでも呼んでくれたまえ」

「あ、ゴッホです。エヘヘ、同じフォーリナー同士、仲良くしましょう……」

 

 

 自分と同じクラスのサーヴァントがいる事が嬉しかったのか、ゴッホはにこやかに笑いながら赤衣の差し出した手を握った。

 

 

「エヘヘ、握手……いい文明……」

「感激しているところ悪いが、早速いくつか質問させてほしい。ゴッホ嬢。君の過去話を聞かせてくれるかな? あぁ、事細かく説明する必要は無い。自分にとって重要だと思える事を口にしてくれればいい」

「……? どうして、ですか?」

 

 

 首を傾げるゴッホ。自分の過去については先程立香達に話したはずだが、彼はまだその話を聞いていないのだろうか。

 彼女の疑問を感じ取ったのか、「いや、聞いたとも」と赤衣は首を横に振った。

 

 

「だがね。私がサーヴァントとして活動するのは今回が初めてでね。生前こそ長年( ・ ・ )旅をしてきた身だが、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの話は左程詳しくはない。良ければ本人から、偉大なる巨匠の人生を聞いてみたくてね」

「エヘヘ、そんな……恐れ多いですよぉ。あんまり褒められた人生じゃ、なかったですから。商売人にも、伝道師にもなれずに、親や(テオ)の脛を齧って、絵ばっかり描いて……でも売れないで……。たくさんの絵描きさんと仲良くなりたかったけど、ゴーギャンちゃんとは上手くいかなくて……。それから、ちょっと病んじゃって……。最後はオヴェールの村で、ばーんとやっちゃいました、ウフフ……。まさか一世紀以上経って、こんなに私の絵が人気だなんて……エヘヘ、すみません、思わずにやけちゃう」

「好意を寄せた人物はいたか?」

「好きな人? いましたよ、ウフフ、とある名言で有名なケーさんとか、シーンちゃんとか……」

「ケー・フォス、それとクラシーナ・マリア・ホールニクか。歴史において、その者達は女性であったと伝えられているが、実際のところは男性だったのかね?」

「ま、まさか。二人共女性ですよ。とっても綺麗だったんですけど、結局フラれちゃいました……エヘヘ」

 

 

 自虐的に己を嗤ったゴッホ。彼女の返答に、赤衣の瞳がギラリと鋭い輝きを湛えた。

 

 

「ほう、女性。女性と来たか。もしや、君はレズビアン―――同性愛者、という事かね?」

 

 

 なにかを確かめるように、鋭い眼光と共に投げつけられた問いかけ。

 しかしゴッホは、なぜかその質問の意味を理解できていないように、こてん( ・ ・ ・ )と首を傾げた。

 

 

「同性、愛者? ウフフ……なにを言ってるんですか。ゴッホは男性……で……あ、あれ……?」

 

 

 微かな笑顔で答えようとしたゴッホが、突然その口を止める。

 なにかを告げようとしているのか、金魚のようにその口をパクパクと開閉し、しかしそこからなにかしらの言葉は出ず。次にその瞳が、動揺しているかのように泳ぎ始める。そして終いには、自分の両手を頭を抱え始めてしまった。

 

 

「あれ……? ゴッホ()は男性で……でも、(ゴッホ)は女性で……あ、れれ、あれれ……?」

 

 

 ぶつぶつと小さく言葉を濁流のように垂れ流す向日葵の少女の姿に、赤衣は顎に指を添えてスッと目を細める。どこか、モルモットに対する実験映像を眺めている研究者のような目で彼女を見つめている彼は今、長年の旅で知り得た伝承・伝説、そして、己が取り込んだとある存在から奪った( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )知恵を統合し、脳内で今の彼女の状態に関連のありそうな情報を羅列していく。

 そして、彼が「もしや」と脳内で整理された情報の中から一つの書物(情報)を抜き出したと同時、先程までぶつぶつと呟いていたゴッホが突然動きを止めた。

 

 

「……エヘヘ、すみません。何の話をしてたんでしたっけ?」

「ッ! なるほどなるほどッ! フッ、フフフ、フハハハハハッ!」

 

 

 先程の問いかけが丸ごとすっぽり頭から抜け落ちたかのように訊ねてくるゴッホだが、その様子に赤衣は笑い声をあげた。

 その笑いは、果たして誰に向けられたものなのだろうか。この場にいる己か、彼女に向けられたものか。それとも―――

 

 ―――ここにはいない、“なにか”に向けた称賛( ・ ・ )だろうか。

 

 

「すまない。つい堪え切れず、笑ってしまったよ。ああいや、君を嘲っているわけではないんだ。勘違いしないでくれたまえよ?」

「は、はい……」

「先の質問の答えは、最早どうでもいい。今の君からでは、答えは引き出せないだろうからな。だから最後に、この質問にだけは答えてほしい」

「?」

 

 

 首を傾げ、静かに赤衣からの質問を待つゴッホ。そんな彼女に、深紅の男は口を開いた。

 

 

「オケアニス、ラヴォルモス。この二つの単語に聞き覚えは?」

 

 

 これは、赤衣が彼女に関連すると予想した、とある二つの存在に深く関係のある単語だ。ゴッホの生前の逸話や、彼女が繋がったと考えられる異邦の存在、そしてネモ・ナースから聞いた情報を合わせて導き出した単語だ。さて、この二つの単語に対する彼女の反応は如何に?

 

 

「……よく、わかりません。でも……」

「でも?」

「……どこか、懐かしい( ・ ・ ・ ・ ・ )ような……そんな感覚に襲われます」

「……ッ! そうか、そうかッ! 君の協力に感謝だッ!」

 

 

 予想的中とばかりに獰猛な笑みを浮かべた赤衣がゴッホの手を握り、ぶんぶんと振る。

 

 

「エ、エヘヘ……。握手……暖かい……人間の文化、好き……フフ、フフフ……」

 

 

 柔らかな自分のそれとは違う、男性特有のごつごつとした手に握られている自身の手に宿る、自分のものとは異なる温もりに、思わずにやけ顔になったゴッホは、彼の気持ちに応えようとその手を握る力を少しだけ強めるのだった。

 

 

「―――さて、するべき事は終えた。私は失礼させてもらうとしよう」

 

 

 数秒ほど握手した後、ゆっくりと手を放した赤衣は踵を返して廊下へと続く扉へと向かい始める。

 

 

「あの……一つ、いいですか?」

「む、なにかね?」

 

 

 背後から投げかけられた声に振り返る。

 

 

「色々質問してきたけど……貴方は、それでなにをするつもり、なんですか……?」

別に( ・ ・ )? どうもしないが( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )?」

 

 

 さも当然かのように、なぜそんな事を聞くのかわからない、と言うように平然と答えた赤衣に、思わず呆気に取られてしまう。

 

 

「私はただ、先に答えを知り得たかっただけさ。私が知っていたのは、どの異邦の存在がこの事件に絡んでいるかだけで、彼らがどの英霊と繋がっているかまではわからなかった。そして、私が知り得た神格の内、二柱は既に理解した。普通ならば、その解を藤丸立香(マスター)へ献上する事こそ従者(サーヴァント)としての役割なのだろうが、それではつまらない( ・ ・ ・ ・ ・ )だろう?」

 

 

 主が真に窮地に陥れば助けるが、現状はその条件には当てはまらない。

 自分はこれから先も真実を隠し続け、彼らがどのようにして、この事件の影に渦巻く陰謀を阻止するかを見届けるだろう。仮に全てを知っていたとしても、それら全てを先に伝えては面白みに欠けるにも程がある。長らく待ち侘びた新ストーリーの攻略に乗り出そうとした矢先に、そこで展開されるストーリーを全てネタバレされるようなものだ。全くもって面白くないッ!

 命あってこその人生。命あってこその冒険だ。ならば、どのような状況であろうと、愉しまなければ損だというものだ。

 

 

「あぁ、だがサポートはしようか。サーヴァントとしての役割を放棄するつもりはないからな」

 

 

 どれだけ自分勝手な人物だと、ゴッホは笑みを浮かべる赤衣を見て思った。

 気を抜けば簡単に命を落とすだろう状況に主が在るのに、この男は自らのエゴを押し付け、尚且つ自分が知り得ている答えを求めて足掻く彼らを見て楽しんでいる。これほどの人間は、如何に過酷な人生を送ってきたゴッホとて見た事がなかった。

 

 

「しかし、私も私で、君の在り方には興味がある。私は自分の在り方を未だ理解できていない者を見るのが好きでね。君はそれに該当していると言っていい。さぁ―――この世界に漂着したフォーリナーのサーヴァントよ」

 

 

 そこで赤衣は、これから始まる物語を楽しみに待つ子どものように瞳を輝かせながら両腕を広げた。

 

 

「存分に迷い、頼り、見つけるがいいッ! 己が何者なのか。己にとっての“使命”とはいったい、何なのかをッ! これから先、君がどのような答えを出すか、今から楽しみで仕方ないッ! フフフ……ハハハハハハハハハッ!」

 

 

 狂気を感じさせる高笑いをした後、赤衣はそのまま医務室を後にし、マシュ達がいるであろう司令室前に辿り着く。

 

 そして、ノンアルコールとはいえカクテルを呑んだマシュが暴走した結果起こした事件で、黒焦げのボンバーヘアーになった彼女達の姿を見るや否や腹を抱えて大爆笑するのだった。

 




 
 子宮のくだりについてですが、これは「Fate/EXTELLA」のアルテラ編のイベントで「子宮が高密度魔力の生成元なのでは?」という話があったので、引用させていただきました。あくまで仮説ですが、この作品ではそれが正しいものである、という設定でいきたいと思います。

 そういえば、EXTRAのリメイクの方はどうなったんでしょうかね? リメイクと軽い予告を発表してからというもの、全く情報はありませんが……。まぁ、気長に待つとしましょう。

 文章構成についてですが、どうでしたでしょうか? 変えたと言えば台詞以外の文章でしかないのですが、こちらの方が読みやすいでしょうか? それとも前回までの方がよかったですか? アンケートを載せますので、どうかよろしくお願いします。
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