【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 今回のイベント、本当に素材が美味しくて助かってます。モルガンピックアップですり抜けてきたアルトリア(セイバー)の強化素材の牙集めが捗る捗る。
 ストーリーも個人的には文句なしでよかったです。ああいうストーリーはかなり好きな部類なので、映像付きだったら泣いてる自信あります(HF3章のイリヤのラストシーンでガチ泣きした男)。

 それでは本編、どうぞですッ!


継ぎ接ぎの真名

 

 ゴッホを救う、という目的の下、より強く決意を固めた立香達の行動は早かった。

 赤衣によってこの海域のエネミーのほとんどが殲滅されたため、あっという間に次の海域に潜入した彼らは、すぐさま周囲の探査を開始した。

 

 

「前方20公里(キロ)、岸壁らしき手応えありッ! ゴッホちゃんへの道のり、障害多数かも……。おっきーさん、結界でのピンポイント調査、お願いできるッ!?」

「よーし、おっきー頑張っちゃうッ! 待ってて、ゴッホ先生ッ! 見た目や性格が違っても、あの画才、(わたし)は勝手に尊敬し続けるからッ!」

 

 

 今回ばかりはさしもの刑部姫も自ら射出されに行き、新たに用意した折り紙型の使い魔と共に調査を開始し始める。その間にも、楊貴妃は必死にゴッホへの呼びかけを続ける。

 

 

「浅く、浅くッ! 高く、高くッ!」

「その探査音(ピンガー)、やりづらくないの?」

「やりづらいですッ! でも、今虚数の海に投げるべき音はこれしかないッ! ゴッホちゃんが哀痛の深遠に沈んでいこうとするなら、私が引き上げるッ! 虚数潜航から浮上して、みんなで実数空間に戻るッ! あの子の自滅を、私は否定するッ! これは喧嘩ですッ! 彼女を勝手に救うんだって、私の覚悟ですッ! 伝われーッ!」

「メッセージを音で投げかける事に反対はしないよ。他にゴッホと交信する手段はないからね。この時の為に、リソース山盛りで、ノーチラスには偏執的ともいえる対ビーム・対爆防護を施したんだ。さらに楊貴妃と刑部姫による自立掃討で、小型の怪物や弱いビームなら防げるようになった。これだけなら、注意すべきは大型の怪物のみになるけど、そちらについても先の包囲にほとんどが駆り出されてたんだろう。赤衣が宝具で一掃してくれたから、敵戦力を大きく削ったと考えてもいいはずだ。もし、仮に大型が現れたとしても……」

『私と頼光さんが艦外にいますッ! 宝具出力を上げていますから、敵艦が来ても即座に撃沈、ランクA攻撃も防いでみせますッ!』

 

 

 ネモの言葉を待っていたかのように、艦外に配置されたマシュが彼の後を引き継ぐ。

 手段はどうあれ、赤衣の男によって敵勢力が大幅に削られたのは喜ぶべき事。彼は全てを己の手で解決する事はせず、ゴッホの救出という大役は立香を始めた者達に託している。だからといって、この状況でなにも役目が与えられないという事はない。

 

 

『小物の掃討にはラムダさん率いる白兵戦チーム、そして赤衣さんが召喚したタコ型の使い魔が控え、場合によっては―――』

『う、フランが、マシュといっしょにでかいのをしとめる』

 

 

 この事態に際して召喚された英霊の少女―――フランケンシュタインがやる気を感じさせる声で通信に割り込んできた。

 

 フランケンシュタイン―――原初の番であるアダムとイブの創造を目的としたヴィクター・フランケンシュタインが、死体を繋ぎ合わせて作った人工生命体。自分を愛する者を終ぞ得られぬままにその生涯を終えた、哀しき怪物。

 現在、水着霊基に変化したためクラスがセイバーになっている彼女は、本来のクラスであるバーサーカーの時よりもある程度の言語を話す事が出来る。また、この時の彼女はかなりと言っていい程に暑さに弱く、普段の生真面目さは鳴りを潜め、それと入れ替わるようにダウナー系に変貌してしまっている。

 しかし、ダウナー系でも彼女は人類史に刻まれた英霊。彼女の纏う雰囲気は戦場に見合ったものとなっており、自身を助っ人に選んでくれた立香(マスター)の期待に応えようとしてくれている。

 

 

「ありがとう、フランちゃん。みんなもお願いッ!」

「ここまで態勢が整えば、アクティブソナーによる強引な索敵も可能となる。潜水艦戦としては無茶苦茶だけど、その破天荒さが、今の僕らにも彼女にも必要なんだッ!」

「ありがとう、キャプテンさんッ! そして早速なんですケド、滅茶苦茶敵が来ました~ッ!」

「使い魔達による掃討をッ! 撃ち漏らした分はみんな、お願いッ!」

 

 

 楊貴妃が捉えたエネミー群を、彼女や刑部姫の使い魔や、ラムダの白兵戦チームを始めとした部隊が蹴散らしていく。敵の数こそ多いが、こちらにいるのは一騎当千の英雄達。この数を相手にしても全く怯まない。

 

 

「ようやく工房が暇になったので来てみれば―――」

 

 

 その時、廊下と司令室を繋ぐ扉が開かれ、スカサハ=スカディが姿を現した。

 

 

「圧倒的ではないか、我が艦は」

「慢心はよくないよ、スカディ」

「少しはいいであろう。どこかの金ぴかも言っていたぞ。慢心せずしてなにが神か、みたいな事を」

「それっていつか寝首を掻かれる事を含めた美学だったりしませんか? 所謂、易姓革命(えきせいかくめい)的な……」

「なあに、こっちはとっくに失脚している。私は放埓(ほうらつ)に人を愛でるのみ。慎重さは人が担当せよ」

「アハハハ、これは一本取られちゃいました~ッ!」

 

 

 立香達カルデアのメンバーからしてみれば中々のブラックな返しだったが、スカサハ=スカディがどのような経緯でカルデアに召喚されたのかを知らない楊貴妃は笑顔で返す。そこへ、マシュからの報告が入ってきた。

 

 

『こちら防衛隊ッ! 粗方の掃討、完了しましたッ! 補給の為、一時帰投しますッ!』

『傷を受けた方は医務室へッ! 回復術式の準備は万全ですッ!』

「厨房、戦士達がお帰りだッ! 温かい飲み物をッ!」

『厨房了解、皆さんの“いつもの”をお待ちしてるわ。……ゴッホちゃんが無事戻ってくるなら、またエルダーフラワー・コーディアルを出すわね、マスター』

「ありがとう、楽しみだよ」

「機関室、刑部姫が戻り次第、全速前進する。暖機が要る設備じゃないけど、気持ちは準備しておいてね」

『あーあー任せなッ! でっかいカバみたくなっちまったが、それでもアタシのかわいいノーチラスだッ! バレエみたいに上品には走らせてみせるッ! 戦闘の方はしっかりしなよ艦橋ッ! 以上だッ!』

「マリーンッ! もう少ししたらは一気に突き進むから、覚悟しておけよッ!」

『あいあいさーッッ!!』

 

 

 それぞれの作業を行いながらも、大元からの指示に揃って元気な答えるマリーン達。ネモは彼らから視線を立香に移し、口を開く。

 

 

「目標ポイント到達まで数十分ってところだ。改めて……よろしくね、立香」

「うん。一緒に頑張ろう、ネモ」

「まままマーちゃんにキャプテンッ! 大変だぁッ!」

 

 

 その時、慌てた様子で刑部姫が司令室に駆け込んできた。

 全てが順調に進んでいる事に少なからずも安心感を抱いていた彼らにとって、酷く動揺した様子の彼女の声は、既に抱いていた警戒心をより強くさせるものになった。

 

 

「……このタイミングで大変、か。覚悟して聞こう。索敵結果はどうだったの?」

「それが、それが……」

 

 

 次に刑部姫の口から発せられたのは、ネモ達を驚愕させるに余りあるものだった。

 

 

「前方のアレ、障壁かと思ったら、違うのッ! 超超超超でっかくなったゴッホ先生なのッ!」

 

 

 刑部姫曰く、それは巨大なボウリング玉を連想されるような球状のものらしい。手応え的には、外周部は霊体の外殻と酷似しており、中心部からは霊核に似た反応を感じたそうだ。恐らく、それが異形への変異を遂げたゴッホの本体なのだろうが、球体故に辿り着く為の近道がない。

 さらに、外殻から攻撃的な気配を感じたそうで、無防備に近づけば最悪全滅する可能性すらあるようだ。

 

 

「ゴッホがこんな風に変異・生長してしまうなんて……。もしかして、クリュティエの霊基の副作用かな。自死の代わりに『咲く』というのは、これを示してる?」

「いや……たぶんこれ、『(つぼみ)』じゃないかな……。『咲く』のは恐らく、これから……」

「まさに邪神降臨そのものだな……。あるいはこれが、外なる者共の第二プランなのかもしれん。手っ取り早くフォーリナーの神化で頭数が揃わない場合も、自身は神へと羽化できるようになっているわけだ……。つまり、ゴッホは潜入工作員にして、時限爆弾でもあった、と……」

「どーします、キャプテン。艦は強化したものの、流石に氷山と殴り合うとは想定してなかった感がありますが」

「手持ちの戦力で突破できる作戦を練ってほしい。女神様も、力を貸して」

「それはもちろんだが、一つ必要な事がある」

「とは?」

 

 

 首を傾げたネモに、スカサハ=スカディは不敵な笑みを以て答えた。

 

 

「難局を乗り切るには、奸族(かんぞく)の助けも必要なもの。だろう?」

 

 

 

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『深く、深く……遠く、遠く……。エヘヘ、もう少し……もう少しで……』

 

 

 暗黒の深海。周囲の全てを呑み込むブラックホールのような、真っ暗な世界で、ぼそぼそと己の依り代が呟いている。

 彼/彼女の死を代償に華が開けば、我々( ・ ・ )の目的はほぼ達成したと解釈してもいいだろう。

 

 異邦の神々の、表層世界侵略の先駆けの尖兵として遣わされた異郷の存在は、依り代の背後でほくそ笑む。

 永きに渡り封印されてきた神々。かつて惑星(ほし)はおろか、その他の銀河まで手中に収めていた神格。とある小説家が天文学的確率で“視て”しまった、異邦の超越者達。

 彼らが直にやってくる。彼らが虚数世界に根を下ろす。表層世界を、狂気の奔流で飲み干す。

 

 その時が来るのがとても待ち遠しい。

 だというに、なぜか―――

 

 

 

 

 

 ―――空腹の猛獣に見つめられているような、背筋が凍り付くような寒気が止まらなかった。

 

 

 

 

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「手伝ってくれてありがとう、北斎」

「へ、おれがしでかした事許してくれたんだ。こンぐらい当然でィ」

 

 

 協力の申し出を受け入れてくれた北斎に、立香が頭を下げる。

 格好つけて主を送り出したにも関わらず、今回の事件の黒幕として活動。最悪の場合、汎人類史最後の砦である藤丸立香が死亡するという可能性すらあり得た状況。その元凶と言っても過言ではない彼女は、最初こそ「自分は何も覚えていない」と白を切っていたが、立香達の説得によって、これからは彼らの助けになる事を決意した。

 外の神との繋がりは切れたため、虚数海溝を作った時のような権能に近しい能力は使えない。しかし、この場所(さくひん)作り(えがき)上げた張本人として、彼女だけが知っている攻略法がある。

 北斎はこの虚数海溝を、『海』と『碁盤』と見立てて作った。ならば、碁盤の目を使うという手段が使えるのだ。

 しかし、碁盤の目の規模は酷く小さく狭い。ノーチラスを収納するなど論外と言ってもいい。

 だが、それはノーチラスであればの話。それよりも小さいサーヴァント達ならばさして問題はない。

 北斎が仕掛けた『目』は、まさしく『碁盤の目』そのものだ。囲んだ場所は自分の陣地になり、石を打てるようになる。後は、そこから巨大化したゴッホの片隅にある碁盤の目を抑え、強力な外殻に護られたゴッホの内部へと飛び込むだけでいい。それだけで、強固な外殻からの攻撃を受けずに済む―――という寸法である。

 

 空間転移が可能ならば、大質量の外殻を切り開いて進む手間もかからない。立香達は、迷わずその案に乗る事にした。

 

 

「そうと決まれば人員を選抜しないと。中心部に入る為に必要な『目』は四つ。流れとしては、まずはこれを最少の人員で攻略した後、敵の中心部にて障害物を切り拓き、中心にいるゴッホを救出する。そしてその直後、頼光の雷撃をそこに転移させて、敵の本体を中から破壊する……という感じだね」

「なるほど。ならば人員は自然と決まるな。頼光は雷撃。ラムダリリスは移動の足。フランは最後の切削と救助の大役だ」

「仕方ないわね。恐らくペンギン達は出ずっぱりになるでしょうから、最深部へは私が送迎(エスコート)するわ」

「立香はついては行けぬ故、フランにはカメラかなにかを持たせるべきであろうな。四点の確保は……他に索敵の必要もない。刑部、楊貴妃、赤衣に任せよう。残る一つは、北斎に預ける」

「はァッ!? なんでそこでおれがやるんでェッ!?」

「寝ぼけた事を。散々やらかした分の責任は取ってもらうぞ。ここに水着も用意してある」

「ぎゃあああああッ! 勘弁してくんなァあああッ!」

「令呪を以て命ずるッ!」

 

 

 嫌がる北斎に即座に立香が令呪を使うと、彼女は眩い輝きに包まれて水着霊衣を装備した。

 

 

「あああ、着ちまったァ……ッ! こっ恥ずかしい……ッ! まァ、この服でゴッホに謝りに行くってのも筋か……。筋が通りゃあ駆けてみンのが江戸っ子ってもんだ。よし、一丁やってみるとすっかァ……ッ!」

「よし、じゃあ早速―――」

 

 

 北斎も水着になった事で準備が完了した事を悟ったネモが作戦開始の号令を出そうとした矢先、ノーチラス全体を大きな揺れが襲った。

 それと同時に、微かな呻き声と共に楊貴妃の耳から少量の血が流れ出る。

 

 

「楊貴妃さんッ!」

「へ、平気です。あの時ほど柔じゃないから……。前方、巨大敵構造体から、音声が来ました……ッ! 曰く……『こないで』だそうです……」

「ゴッホ……」

「……ふふ、やめますか、司令代理?」

 

 

 楊貴妃が笑いながら問いかけてくる。しかしそれは、諦念の笑みではない。彼女の気持ちを汲み取ろう、というものではない。

 立香がどんな答えを返すかわかっているからこその、確信の笑みだった。

 

 

「……やめない。やめてやるもんかッ!」

「ですよねッ!! ……ちなみに音声に続き、凄まじい量のエネミー群と、魚雷めいた攻性弾体群が突っ込んでくるみたいですッ! 自立防御で対処可能な密度を超えてるかも……ッ! 迎撃できますかッ!?」

「誰に聞いているの? 大舞台前のウォーム・アップ、ぺろりとこなしてみせるわよ。ねぇ?」

「えぇ、えぇ。投げてばかりも退屈なれば、我が錬鉄手車の冴えを少しばかり披露致しましょう」

「もうちょっとだけ、あつくなるか~ッ!」

「では、私も出るとしよう。なに、今度は宝具は使わん。あれは燃費が悪いからな」

 

 

 頷き合い、ラムダリリス、頼光、フラン、赤衣はノーチラス目掛けて迫り来る大群を迎え撃つべく動き出した。

 

 

 

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 一方その頃、ゴッホは自分という存在について自問自答していた。

 

 彼方の神々を呼ばない為に、自死を選んだヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。

 愛する神を愛するが故に、死を拒み続けるクリュティエ。

 

 この二つの在り方が混ざり合った彼女は、死にたいのに死ねない、という状態に陥り、「それでも」と思ったところで、自分がどんな存在であるかを見つけられず、再び同じ問いを自身にかけ、そして答えを見つけられないで問い直す、というループに陥っていた。

 

 

『例外に際し、原意識の再起動を完了』

 

 

 そこに、自分と全く同じ声が響く。

 

 

『私は、ゴッホです。それ以外の思考は、不要です。狂気のままに星の彼方を求め、宝具を解放すれば、他の降臨者(フォーリナー)の神化を完了し、元の使命が果たされます』

 

 

 だが、嗚呼、違う。これは、自分じゃない( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 ゴッホの皮を被った、“なにか”に相違ない。

 

 

『過負荷で意識が自壊するなら、原意識は本格稼働し、我という神体が開花し、大目的は満たされます。この海を、我らが楽園とするのです。私はその為に生まれた存在なのですから』

 

 

 自分の在り方を見つけられないならば、導いてしまえばいい。それが、彼女の原型となった者が望まぬものであろうと。たとえそれが、愛した男が見守った星を壊す事になろうとしても。

 “それ”にとっては関係ない。なにせ“それ”にとって、地球とは侵略するべきものなのだから。

 

 果たして、ゴッホは導かれるがままに、正しくも誤った自身の在り方を見つけてしまった。

 

 ならばせめて、求められるがままに宝具を発動させようとして―――

 

 

『―――宝具(それ)を使うと言うのなら、私は君を殺すぞ。英霊ゴッホッ!』

 

 

 しかしそれを、男の怒号が止めた。

 

 

 

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「愚か、実に愚かッ! 馬鹿馬鹿しいにも程があるッ!」

 

 

 自身に襲い来るエネミー群に向かって植物の右手を振れば、そこから伸びた蔓が鞭のようにしなり、瞬く間に怪物達を薙ぎ払っていく。

 

 

その程度( ・ ・ ・ ・ )の狂気に呑み込まれるなッ! 君はそれでも人間かッ!」

 

 

 蔓の攻撃を掻い潜ってきたエネミーの攻撃を紙一重で躱し、膝蹴りで蹴り上げると同時に高速でエネミーの頭上に移動。踵落としで撃破した後、パチンッと指を鳴らせば、唐突に発生した空間の捻じれから出現した異邦の落とし子が、背後から迫っていたエネミー群を猛烈な勢いで叩きのめしていく。

 

 

「我らヒトの歴史は、狂気の歴史に他ならぬッ! 狂気のままに生き、狂気のままに死んだのだッ!」

 

 

 宝具程の威力はないまでも、一時的に竜機兵を一機召喚し、頭部と両手に備え付けられたアギトから別々のブレスを発射させてエネミー群を消し飛ばしていく。

 

 

「ヒトで在った頃の記憶を思い出してみるがいい。君の生前の狂気が為した所業は、今尚歴史に刻まれているぞッ!」

 

 

 惚れた娼婦に自分の耳を切り落としてプレゼントするなど、狂気以外の何物でもない。異邦の神々のそれに比べれば児戯にも等しいレベルのものだろうが、そんな事などどうでもいい。重要なのは、人間は狂気故に、信じられない行動に踏み出す事と、その狂気が結果的に人類の発展に繋がる事もあり得るという点だ。後者の方は、あまりゴッホには当てはまらないかもしれないが。

 しかし、ゴッホが人類史の礎となり、後世の人々に影響を与えたのは紛れもない事実である。

 

 

「君はヒトならざる者との混ざり者だが、だからといって、自身の在り方から目を背けるのは許さんぞッ! 自分という存在は、自分で見つけろッ! でなければ殺すッ! でなければ滅ぼすッ! 君を誑かす邪神ごと、君を退去させてやろうッ!」

 

 

 エネミー群の向こう側。本体たるゴッホを包み込む外殻に指を突きつける。

 

 

「抗ってみせろッ! 君が―――何者であるか( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )を示す為にッ!」

 

 

 

 赤衣の男が怒りのままに叫んだ、その時だった。

 

 ―――ノーチラスに着弾した攻撃と思われたものの一つが、ノーチラスが受けていたダメージを修復し始めたのは。

 

 

 

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 攻撃対象であるはずのノーチラスがなぜか修復されている事に気がついた立香達は、困惑の表情で顔を見合わせる。

 

 

「なにか、様子が……」

「はいッ! 前方から襲来してくるのは、どうも攻撃ばかりじゃないような手応えで……」

「はい正解、半分はランクA並みの炸裂弾頭ですが、半分はリソースやら回復術式やらのパッケージですね。着弾と同時に回復がなされてるんで耐久出来てますが、これがないととっくに消し飛んでるかもです」

「船長ッ! これ、明らかにゴッホちゃんの……ッ!」

「あぁッ! 彼女の心は今、割れてる……ッ! 邪神に飲まれようとする心と、それを払おうとする心にッ!」

 

 

 表情こそ真剣そのものだが、この場にいる誰もが、心の中で笑っていた。

 ゴッホも戦っているのだ。自分達の気持ちに、応えようとしてくれているのだ。

 ゴッホの中にある二つの気持ちがせめぎ合い、ギリギリカルデア陣営を助けている形となっているこの現状。もし、ゴッホが邪神の誘惑を払いのけようとする気持ちがさらに強まれば、カルデア陣営は一気に攻めに出る事が出来る。

 

 

「自身も幻霊である僕だからこそわかるッ! 彼女もまた、戦っているんだッ!」

「……ッ! キャプテン、もしかしたらだけど……」

 

 

 ネモのその言葉を聞いた立香の脳裏にある考えが浮かび上がり、それが正しいという可能性に懸けて告げる。

 

 

「そんな君の言葉なら、もしかしたら、彼女に届くかも」

「……ッ! 楊貴妃、僕の声を大きくして届けられるッ!?」

「了解ですッ! すんごい音量(ボリューム)でッ!」

 

 

 頷いて楊貴妃の隣に立つネモ。その小さくとも大きな背中に、立香は今の自分が送れる精一杯の激励(エール)を送る。

 

 

「君らしさ全開で。そうすればきっと、届くよ」

「あぁ、オワンクラゲのように自明だ……ッ!」

 

 

 

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『―――げよ―――』

 

 

 暗闇の中、赤衣の男の叫びが聞こえてしばらくしない内、また新たな声が響いてきた。

 

 

『―――告げられ―――』

 

 

 途切れ途切れではあるが、それは少しずつ、少しずつ意味を持ち始めていく。

 

 嗚呼、この声は。自分と同じ、継ぎ接ぎの英霊の声。でも、自分なんかよりもずっと強く、自分という容を得られている人の声。

 

 

『……こちらは潜水艦ノーチラスのキャプテン・ネモッ! 繰り返すッ! 貴艦、艦名を告げられたしッ! いいかいッ! 君は、名乗りたい名を名乗るんだッ! 名乗りたい名を、名乗っていいんだッ! 名前を手に入れる戦いは、自分を手に入れる戦いだッ! とても過酷で、君にしかできない戦いだッ! だからこそ、勝ち得たものは尊いッ! たとえそれがちっぽけだったり、邪悪だったりしてもッ! それを立香は、絶対に受け入れるッ! それを、カルデアは絶対に裏切らないッ! もちろん、僕も……キャプテン・ネモも、だッ! だから、戦ってッ! どんな手を使ってもいいッ! 一瞬でもいいッ! 君の敵に、打ち勝ってくれッ! そして、繰り返すッ! 貴艦、艦名を告げよッ! 如何なる名が告げられたとしても、本艦は、それに応じた適切な救助作戦を発動する……ッ!!』

『耳を貸してはなりません』

 

 

 少年の声を掻き消すように、別の声が聞こえてくる。しかし、もう彼女は、その声を聞いてしまった。彼らの言葉を、聞いてしまった。

 

 

「……私は……名乗りたい名を、名乗っていい……?」

『耳を貸してはなりません』

「矛盾を、破綻を、呪わしさを、全てそのままに、自分でいる事さえ、許される……?」

『やめなさい』

 

 

 少しずつ、暗闇に光が差していく。

 

 

「ゴッホである記憶も、クリュティエである心と体も―――」

『やめなさいッ!』

「そのままに、名乗る事が、許されるなら―――」

『やめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいヤメロッ!!』

「私は―――私の名は―――」

 

 

 

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 変化は、彼女の心が決まると同時に置き始めた。

 

 

「……ッ! 敵からの航行体、60%が支援物資化ッ! なおも増大中ッ! 70、80……うあー、支援が100%になりましたー。リソースゲージが溢れます。もったいないーッ!」

「もしかして、応答が来てるッ!?」

「あっ!? 待って、今周波数を調整して、いえ違う、どんどん向こうが調整してきてる……ッ!」

『お お お お お お お お お お え え え え え え え え え え え え も お お あ あ ああああすか、聞こえますかッ!?』

 

 

 その時、はっきりと聞こえた。この場にはいない、彼女の声が。

 

 

『私は、私は……ッ!』

 

 

 重く轟き、響くような声で、彼女は自身の艦名(しんめい)を叫ぶ。

 

 

『私は、クリュティエで、ゴッホですッ! クリュティエ=ヴァン・ゴッホですッ!! ゴッホである事は、捨てられないッ! クリュティエである事は、拒めない……ッ! そんな、おかしな、異常な、気味の悪いサーヴァントですけど、それでも、それでも……そんな名前を、名乗ってもいいって、仰ってくださるなら……エヘヘ……ッ! 助けてくれたら、嬉しいです……ッ!!』

 




 
 『貴艦、艦名を告げよ』、素晴らしい名台詞ですね。ストーリークリア後にcmを見た時の衝撃は、つい昨日のように思い出せます。
 赤衣がなぜゴッホに語り掛ける事が出来たのか、についてですが、それは後々、BBチャンネルの方で解説させていただきます。

 ここからは私事……というより、我儘そのものな話になります。
 実は主人公の性別を女性……つまりぐだ男からぐだ子に変えようか、と悩んでおります。
 変更した場合、これまで投稿してきた話に登場するぐだは口調を少し変えたり、今後のストーリーは女性目線で書いていく、他には(場合によりますが)人類悪の顕現が可能になる、という点です。
 皆さんの場合、どちらがよろしいでしょうか。アンケートをご用意しましたので、どうかよろしくお願いします。
 大変私事な話、本当に申し訳ありません。それでは次回、会いましょうッ!
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