【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 アンケート回答、ありがとうございました!
 完全な私情による質問でしたが、お付き合いいただきありがとうございます! アンケートの結果ですが、主人公はぐだ子になりました。
 それでは、本編の方どうぞです!


花の邪神

 

 刑部姫、楊貴妃、赤衣の男、そして北斎の助力の甲斐もあって、外殻による防御を無視して巨大化したゴッホの内部へ一気に侵入する事が出来たフランとラムダリリス。彼女達が最初に目にしたのは、蔦や葉などで覆われた洞窟のような場所だ。

 ゴッホがフォーリナークラスの英霊として成立させる為に、クリュティエと共に彼の魂に織り交ぜたのは、『花』という点で彼らと共通している存在なのだろうか。これといった違和感などは全く感じられず、むしろこれが正しいものだと考えさせられる。

 尤も、画家と神話の存在を混ぜるだけでも狂気の沙汰だというのに、そこに異邦の神格を組み込むなど、決して認められる行為ではないのだが。

 

 ダウナーな様子は相変わらずだが、やる気は充分にあるフランが大剣を振りかざして蔦で覆われた壁を切り裂き、体内に侵入してきた外敵を排除しようと現れた怪物達はラムダリリスが華麗な動きで薙ぎ払っていき、遂に彼女達は、悠久の時を経て植物に覆われた石造のように、蔦や葉で覆われた壁から突き出ていた、辛うじてゴッホのものだと認識できる腕を発見した。

 

 すぐに彼女を救出しようとした二騎の前に立ちはだかったのは、ゴッホをフォーリナークラスとして確立させている異邦の神格。本来の姿ではなくとも、フラン達が認識できる姿(かたち)を以て顕現したそれは、底冷えするような無機質な声色で、フラン達の努力は無駄だと告げた。

 

 邪神曰く、宝具解放には失敗したが、ここまで成長した自身は通常の手段では駆除不能らしく、仮にこのまま放置された場合は、漂白された地上のある表面世界への侵入は千年先送りされるそうだ。その場合は地上の知的生命には全くの無痛、あるいは快楽すら伴う共生の形で遂行する事を約束する、とまで言ってきた。

 邪神は、己を受け入れる事こそが次善の結末だと続けたが、それを聞いたフランは、すぐに邪神の意見を否定した。

 なぜか、と問いかける邪神に対し、フランは告げる。

 

 ゴッホが苦しそうだからだと。

 

 継ぎ接ぎの英霊という共通点を持つ彼女だからこそ、ネモとはまた別の視点でゴッホを見る事が出来た。

 その彼女が目の前の少女を見捨てる事など出来るはずもなく、ゴッホもまた、そんな彼女に対して、苦し紛れに感謝の言葉を述べた。

 

 しかし、だからと言って引き下がる邪神ではない。

 対話による解決に失敗した邪神は、フラン達を捕縛し、拷問する事で再度交渉を図ろうと襲い掛かって来たのだ。

 フラン達はすぐに迎撃を開始。

 仮の姿といえども、流石は異邦の邪神と言うべきか。凄まじい猛攻に苦しめられるも、辛うじて二騎の渾身の一撃が邪神に直撃し、なんとか辛勝する事が出来たのだった。

 

 

「想定外でした。戦闘能力。技術力。生命心理の掌握。それをこの異空間において徹底的に抽出し活用せんとする、悪質なまでの執拗さ」

 

 

 フラン達の攻撃を受けて膝をついた邪神が、軽く押せば簡単に倒れてしまいそうな、頼りない動きで浮かび上がる。

 

 

「ところで、我が本体は未だ健在ですが、逃げられると思っていますか?」

 

 

 しかし、邪神の言う通り、今フラン達が撃破したのは邪神であって、ゴッホではない。

 邪神が軽く手を上げれば、足元や天井、壁から幾本もの蔦や蔓が蛇のように動き、フラン達を絞め殺す機会を窺うように待機し始める。

 

 

『フラン、彼女をッ! ラムダは護衛をお願いッ!』

「あいあい~」

「了解」

 

 

 彼女達が動き出すと同時、蔦や蔓も一斉に二騎目掛けて襲い来る。

 フランを攻撃しようとした蔦をラムダリリスが切り裂いて彼女を護る中、フランは構えた大剣に雷を纏わせ、ゴッホの腕を傷つけないよう気を付けながら一閃。落雷によって山火事が起こるように、ゴッホの周囲の植物が瞬く間に焼かれ、すかさずフランがゴッホの腕を掴む。

 試しに引っ張ってみるが、やはり壁に遮られている状態故に、ゴッホを引き抜く事は出来そうにない。

 ならばと大剣を振って自分達を隔てる壁を破壊すると、ガラガラと崩れていく壁の向こうからゴッホの姿が現れた。

 

 

「すみ、ませ……」

「あやまりきんし。わらえ」

「……エヘヘ」

 

 

 開口一番に謝罪しようとしたゴッホだが、(かぶり)を振ったフランにそう言われ、はにかむような笑みを浮かべた。

 それに満足したように頷いたフランは、大剣を消滅させて自由になった両腕でゴッホを抱え上げる。

 

 

「はしるから、くちとじる。おりゃあ~」

 

 

 所謂、お姫様抱っこと言われる形でゴッホを抱えたフランが走る。

 しかしそれを、邪神が見逃すはずもない。すぐさま指揮者のように手を振ると、周囲から蔦などが鞭のようにフランの身を叩こうとする。すぐにラムダリリスが阻止するが、続いて振るわれた蔓の攻撃は防げず、それはフランの頭部を殴打した。

 

 

『フランッ!』

「だい、じょうぶ。このていど、もんだいない」

「立香。癪だけど、可能な限り支援しなさいッ!」

『わかったッ! キャプテンッ!』

『待ってて、今ラムダリリス経由でなにかリソースを―――』

「そうはさせません」

 

 

 リソースを送ろうとしたネモの声が途中で途切れる。背後からゆっくりと追随してくる邪神の仕業だ。

 

 

「通信も経路も遮断しました。貴女方は逃がせません」

 

 

 再び邪神が手を振れば、今度はフラン達が進もうとした通路を植物が覆い、瞬く間に障壁となって彼女達の前に立ちはだかった。

 別の通路を探そうとするも、既に他の道も植物によって覆われ、唯一通り抜けられる道には邪神が立ち塞がっている。

 

 

「追い詰められたわね……」

「……ぜったいぜつめい?」

 

 

 退路を失ったフラン達に、獲物を前に舌なめずりする猛獣のように邪神がじりじりと近づいてくる。

 

 

「……フラン、ちゃん……。宝具を、使う……」

「えー。だめでは?」

 

 

 ゴッホが提案した直後にフランがムッとした表情になる。

 彼女の宝具、『星月夜(デ・ステーレンナフト)』はフォーリナーを強化するものだ。それを発動しては、目の前にいる邪神を撃退どころか、さらに強化してしまう。先の戦いでフラン達が負わせた傷も完治してしまうだろう。

 

 

「……エヘヘ、大丈夫。これは、別の、だから。この霊基でも使えそうな、もう一つの宝具……。一分で描き上げる……ッ! 時間を頂戴、フランちゃんッ!」

「……うッ! わかったッ!」

「やめなさいッ!」

 

 

 ゴッホがしようとする行為がどんなものかを把握したのか、邪神が焦った様子で植物の鞭を振るう。

 再度出現させた大剣を回転させて鞭を切り裂き、フランが対処できない壁から伸びた鞭はラムダリリスが蹴り伏せていく。

 

 

「……ウフフ……ウフフ……。ゴッホの希望と絶望の入り口……虚しく散った夢の軌跡……。それで私は……これを描く……。ゴッホの名において……これを使う……ッ!」

 

 

 瞬間、ゴッホの全身から眩い光が放たれ始め、暗い通路を明るく照らしていく。

 

 

「私は描かなければ。外は黄色で中が白、陽光溢れるこの部屋で、仲間と共に希望の図画を。影無き地、ミストラルを遮る暖かな壁の中より、あえかなる友誼(ゆうぎ)の望みと共に、君に拍手を送ろう。家とその住まう(ともがら)、街路ッ! またの名を、『黄色い家(ヘット・ヒェーレ・ハイス)』ッ!」

 

 

 それは、『星月夜(デ・ステーレンナフト)』とは異なる、ゴッホが保有する第二宝具。

 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの才能を開花させる転機となり、彼の夢の破綻の舞台ともなった、南仏アルルの居宅を絵で再現する力。そしてそれは、目の前の邪神とは別の、かつてゴッホの手が届いたもう一つの外なる力( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )があってこそ為せる業。

 

 

「くっ、これは……ッ!?」

 

 

 ゴッホが宝具を発動した直後、彼女達を護るように発生した暴風が、邪神を周囲の植物ごと吹き飛ばした。

 

 

「親しき友には庇護と祝福をッ! 敵には暴風の災いをッ! これで、なんとか突破して……ッ!」

「おうし、これならいけるーッ! ちゃーじこんぷりーとッ! でんげきひっちゅうッ! びりびりのどっかんかーんッ!」

 

 

 雷電迸る大剣を掲げ、継ぎ接ぎの英霊が走る。

 邪神は咄嗟に植物の鞭を振るって妨害しようとするが、それはゴッホの宝具によって発生した暴風によって意味を成さない。

 防御策を失った邪神目掛け、フランが跳ぶ。

 

 

「これは、いけない―――」

「『串刺の雷刃(スキュアド・プラズマブレイド)』―――ッ!!」

 

 

 振り上げられた稲妻の大剣が邪神に突き立てられる。

 その英霊を象徴する絶技。その雷撃を無防備な体内で受けた邪神は、遂にその身を維持する力を失い、粒子となって消えていった。

 

 

「じゃしん、げきはー」

「エヘヘ、お疲れ様です。さぁ、副作用がキツイので早く帰りましょう。でなければ死んじゃいますので。エヘヘヘヘッ!」

「洒落にならない事言わないッ! 早く行くわよッ!」

「そうしよう。しぬ」

 

 

 宝具の副作用である呪いを受けている状態の中でも、三騎の中で最も素早い動きを得意とするラムダリリスを先頭に、ゴッホとフランは通路から脱出。ラムダリリスによる脱出報告を受け、外側で待機していた頼光が宝具をした事で、巨大化したゴッホだった( ・ ・ ・ )ものは、完膚なきまでに破壊されるのだった。

 

 

 

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 頼光の宝具、『釈提桓因・金剛杵(しゃくだいかんいん・こんごうしょ)』による轟音がノーチラス艦内にまで響いた頃、次々とサーヴァント達からの通信が開かれる。

 

 

『こちら楊貴妃ッ! 怒涛のような炸裂音ッ! 敵構造体、内部から崩壊しますッ!』

(わたし)の側でも確認ッ! やったねーッ! ところでラムダちゃん、早いとこ回収してぇーッ!! なんか足元崩れそうなんですけどッ! トラウマがががッ!!』

『姫君のエスコートは万事に優先するとわからないかしら。既に回収部隊は送っているから、辛抱なさい? 艦橋、一応言っておくけれど、二騎とも無事よ』

「やった……ッ!!」

『こちらマシュッ! やりました、やりましたね先輩ッ!!』

「うん……本当に良かった……ッ!」

 

 

 ラムダリリスとマシュからの報告に、私とネモは一緒にガッツポーズを取る。後で働いてくれたマシュ達とハイタッチもしよう。誰一人犠牲を出す事無く、ゴッホちゃんの救出に成功したのだからね。

 

 

「―――地球人の皆さん」

 

 

 しかし、そんな私達を嘲笑うかのように、どこからともなく無機質な声が響いてきた。

 

 

「私の想定不足。計算違いにより、私は敗北しました」

 

 

 機械のように、感情を感じさせぬ冷酷な声色。それを聞いて、私はこの声の主が、先程フラン達が戦っていた花の邪神のものだと確信した。

 

 

「貴女方は、次善となる穏やかな滅びを拒絶しました。残念です。さようなら」

 

 

 心底から失望したような、しかし表面だけの言葉を最後に、なにかが消えるような音と共に、二度とその声は聞こえなくなった。

 

 

「……なんだか、嫌な捨て台詞だね」

「……神っていうのは、往々にしてそういう手に出るものさ。だから人間は好悪に関わらず拝むしかないんだ。彼らがなにを言おうと、人類は独力で希望を見出し、(かい)を漕いでいくしかない。赤衣、竜機兵なんていう、人類にとっての禁忌そのものを宝具にしている君なら、これをどう思う?」

 

 

 通信を開いているであろう赤衣さんに問いかけるネモだが、赤衣さんからの返答はない。

 

 

「……赤衣?」

「赤衣さん……?」

 

 

 私とネモが彼の名を口にしても、彼からの返事が来る気配は無い。

 しかし、突如として背後に途轍もない威圧感を感じ、振り返る。

 

 

「……ッ!! あ、貴方は……」

 

 

 私の前に立つ、巨大な異形を見上げる。

 タコのような八本足を持つ骸骨のような顔を持った存在―――確か、赤衣さんが戦闘の時に使役する使い魔のようなもの、とマシュから聞いている。が、その身から感じられる魔力量は、私達カルデアに所属するサーヴァントにも引けを取らない程のものだ。

 

 

「あ、あの……赤衣さんは……?」

 

 

 一切の気配を感じさせずに背後に立たれた事や、これまで対峙してきた敵達とも違う異様な雰囲気を纏う彼(?)に恐る恐る尋ねると、彼(?)は八本足の内の一本を私の前に差し出してきた。そこになにか大きなものが握られている事に気付いた私が手を差し出すと、彼(?)は私の掌に大きな包みを落とし、そのままスッと闇に溶け込むように消えてしまった。

 荷物の中身を確認してみると、そこには数冊の事典なみに大きな書籍―――“モンスターハンター”シリーズ全巻と、一枚の手紙が入っていた。

 ネモと顔を見合わせながら手紙に書かれた文章を見る。どうやら差出人は赤衣さんのようだ。

 手紙にはこう書かれている。

 

 

親愛なる我がマスター

 

  大変申し訳ないが、野暮用が出来てしまった。

  誰一人の犠牲も出さずに作戦を完了させた君達には敬意を抱かざるを得ない。

  君達とは是非とも勝利の美酒を味わいたかったところだが、こればかりはどうしようもない。

  許してくれたまえ。

  詫びと言っては何だが、これを同梱しておこう。

  このシリーズは私が書いたものでね。勇敢なる狩人達の物語が、歴史に飲まれて消えていくの

  は我慢がならない、という気持ちで執筆したものだが、英霊となった今となっては、私を召喚

  するに足る良い触媒となるだろう。

  藤丸立香。汎人類史を護る、天文台のマスターよ。君との旅路は、中々に愉しめそうだ。いず

  れまた(まみ)えようではないか!

  

                                       赤衣の男

 

 

 ……どうやら、赤衣さんは野暮用が出来たらしく、それを果たした後に戻るつもりはないらしい。

 しかし、大丈夫だろう。きっと、この触媒を使えば赤衣さんとまた会える。今度ははぐれ( ・ ・ ・ )ではなく、れっきとしたカルデアのサーヴァントして。

 

 

「……キャプテン」

「……あぁ」

 

 

 頷いたネモが立ち上がり、どうしたのかと訝し気に見つめてくるマシュ達に視線を向ける。

 

 

「フォーリナー・赤衣の男はたった今、僕らとは別行動を取る事になった。でも、心配はいらない。彼はまた戻ってくる。正真正銘、カルデアのサーヴァントとしてね。さ、早く戻っておいで。カルデアに帰ろう」

 

 

 キャプテンの言葉に、みんなが笑顔で頷く。

 

 ていうか、さらっと言ってたけど、あの“モンスターハンター”シリーズの著者って、赤衣さんなのかよッ!!

 

 ちなみにこの後、虚数海溝からの脱出手段として、ゴッホが肥大化した自分の霊体から剥離した大量のリソースとノーチラスの余剰リソースを用いて聖杯を形成するも、それを強奪した楊貴妃が何故か“大フォーリナー祭り”なんてものを開催しようとしたのは別の話。

 あ、でもなんか赤衣さんがマリーンの一人が持っていた楊貴妃の人形を根源にエルドリッチ・パワーなんてものが楊貴妃に流れないように細工してたらしくて、その事を知った彼女、すっごい悔しそうな顔してたなぁ。

 ついでに言っておくと、事前に計画を阻止されてしまった楊貴妃はその後みんなにフルボッコにされました。可哀想。

 

 

 

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 不可解。あまりにも不可解。

 なぜ、地球人(かれら)は我々による支配を拒絶したのか。なぜ、安寧のままに終焉を迎える事を拒んだのか。

 ……いや、最早その程度の疑問など、考える必要もないだろう。

 

 計画は失敗した。

 想定外の出来事の連続で、旧き神々を虚数(こちら)へと招く計画は阻止されてしまった。

 口惜しいが、認めざるを得ない。

 彼らには、我々の予想を上回る力があるのだ、と。ならば仕方ない。一度本拠地へと戻り、同胞達へ通達せねばならない。

 そう結論付け、私は同胞達の待つ次元へと向かおうとし―――

 

 

「―――どこへ行こうと言うのかね?」

 

 

 背筋が凍るような冷たい言葉と共に襲ってきた蔦によって、何者かに拘束された。

 

 

「私が愛した惑星(ほし)に手を出したというのに、あのまま逃げ果せるとでも思っていたのか? フ、フフフフ……ッ! これは滑稽だッ! まさか私の前で、それが果たせるとでもッ!? ハハハハハハッ!」

 

 

 首を締め上げる蔦の拘束に悶えながら振り返ってみれば、そこには狂笑を浮かべる地球人の姿があった。

 初めに脳裏に浮かんだのは、困惑だ。

 なぜ彼がここにいる。ここは英霊の座とも固有結界とも異なる場所だ。いったい、どのような手段を用いてこの場所に干渉できたのか。

 

 

「さて、黄衣の王( ・ ・ ・ ・ )の目的は完遂した。ならば、次は私の番だ。久方ぶりの……数千、数万年越しの馳走だ。腹が減って仕方がない」

 

 

 今、なんと言った?

 黄衣の王? 馬鹿な。あの御方は今回の計画に参加しておられたはず。なぜ、尖兵として派遣した私を拘束する必要がある?

 ―――いや、待て。

 確か、今回の計画では、■■■■様の宿敵であるあの御方も参加しておられたはず。まさか、初めから計画の完遂など眼中になく、あくまであの御方の邪魔をする事のみが目的だったのでは?

 馬鹿な。それこそおかしすぎる。そんな自己中心的な理由で、今回の計画を潰す? ふざけているにも程があるだろう! なにを考えておられるのだ、あの御方は!

 

 しかし、この男の話を聞くに、あの御方の目的は既に完遂されているらしく、今度は自分の目的を果たしに来たらしい。

 そして、その後に続いた“馳走”という言葉―――

 

 

「……ッ!! まさか、お前は……ッ!」

 

 

 脳裏にある情報が浮上した瞬間、全身が凍り付くような感覚に襲われた。

 

 風の噂で聞いた事がある。

 肉体を持つ者と己の精神を交換し、その生物の文化、知識を収集する事を生き甲斐とする種族が観測した、あまりにもその種族とは思えない地球人(にんげん)の話を。

 

 曰く、彼と精神交換を行おうとした者が、その途中段階で死んだと。

 曰く、直接彼とコンタクトを取ろうとした者が消息を絶ったと。

 

 信じられない話だった。彼らは数ある種族の中でも、唯一“時間”という概念の秘密を解き明かした知恵者の集まりだった。そんな彼らが精神交換を行っている間に殺され、また直接会おうとした者もまた消えたなどと。そんな芸当、科学技術も生命としての格も遥かに負けている下等生物に出来るはずが無い。

 

 だが、いつしか彼らはこう考えるようになった。

 

 囚われたのだと。

 奪われたのだと。

 喰われたのだと。

 

 それを為した者が誰なのかまでは、誰もわからなかった。否、見ようとも思わなかったのだ。

 調べようとすれば消されると。奪われると。殺されると。

 もし、偉大なる彼らをそこまで怯えさせた存在が、今目の前にいるこの男だとしたら、嗚呼……!

 

 

火星(マーズ)に信仰された邪神よ。君の狂気の味が楽しみでならない!」

 

 

 やめろ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろッ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ! 消えたくない奪われたくない喰われたくないッ!

 

 助けて、誰か助けて。私はまだ、消えたく―――

 

 

 

 

「嗚呼……実に、実に美味ッ!! この身に染み渡る、狂気の味! どれだけ熟した酒だろうと、この味にはなにもかも劣ってしまうな! フフフフフ……ハハハハハハハハハ! ハーッハハハハハハハハッッ!!」

 




 
 赤衣の男からの手紙、pcの方で書いているので、スマホで呼んだ時におかしくなっていたら申し訳ありません。
 イマジナリ・スクランブル編は来週で終わりですかね。
 その後は赤衣の男のプロフィールと幕間を投稿し、その次はいよいよギリシャ異聞帯です!
 それではまた次回!
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