【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 今度行われるハロウィンイベの名前が明かされましたね。
 タイトルから考えるに、シンデレラ要素がありそうな予感がしますが、小さい頃からディズニー作品に囲まれて育った自分としては、楽しみで仕方ありませんね。原作のシンデレラは中々アレな作品ですがね。
 それでは本編です。


混沌にして善

 

 本当に、楽しい旅でした。

 

 夢は夢のままに。

 弾けて消える泡のように儚いものだけれど、私や貴女達が体験した事は、確かにありました。

 

 夢故に、時間軸が曖昧だったとしても。

 夢故に、因果が捻じれていたとしても。

 

 この正夢がどう現実を改変するのか。改変先は未来か、それとも過去か。変化は観測可能か、観測不能か。一切が不確定なものです。

 それでも、藤丸立香―――貴女様がこの夢で得たものは、確かな助けとなって、現実に現れるはずです。

 あの赤いシンタクラースの贈り物が、まさしくその典型と言ってもいいでしょう。

 

 なぜそう思うのか、ですか? エヘヘ、それは、私がここにいるからですよ。貴女様に、ネモちゃんに、皆様に救われた私が、世界の裏側から、皆様をお守りしますから。

 だから決して、貴女様の航海は無駄ではなかった。なーんて、エヘヘ、ちょっと強気が過ぎるでしょうか。

 

 さぁ、浮上の時です。

 どうか、爽やかな目覚めを。

 もし、また奇縁が交わる事があるなら―――不可知なる、虹色の夢の中で。

 

 貴女様に拍手を。誇らしき友人達に拍手を。

 

 貴女方の旅を、私は陰ながら―――

 

 

「―――陰ながら応援させていただく、などとは言わせないぞ。クリュティエ=ヴァン・ゴッホ」

 

 

 ……え? そんな、どうして貴方が?

 

 

「君が彼女達に拍手を送るのなら、私は君に拍手を送ろう。君もこれで、彼女の冒険譚(ストーリー)の組み込まれたのだ。舞台はまだ終わっていない。カーテンコールの時まで、彼女の傍に寄り添うというのはどうかね?」

 

 

 で、ですが私は、このままこちら側から、あの方の成功を―――あれ? 触手が抜け、抜けない?

 

 

「さぁ、行くがいい。継ぎ接ぎの英霊、異邦の神格によって狂わされた、新たな命よ。君の門出を祝おう。なに、心配はいらない。思うがままに愉しめばいいさッ!」

 

 

 あっあっあっ、駄ーーー目ーーーッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……行ったか。全く、あれ程まで彼女と共に過ごしたのだ。カルデアに召喚されても不自然ではないだろう?

 

 さて、私はこのまま、彼女に召喚されるのを待つとしよう。それまでは、これから起こるであろう未来の予測でも―――

 

 む? これは、人形? 黒い紙の式神ようだが……。もしや道満、はては晴明辺りの遣いか?

 

 ……いや違う。あぁ、これはアレだ。まさかこんなところに、シェイプシフ―――

 

 

 

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 一瞬にして暗黒に呑まれた視界が唐突に光に満たされ、何度か瞬きして目を慣れさせた赤衣が最初に見たのは、目が痛くなりそうな程にピンク色で埋め尽くされたスタジオだった。

 

 

「ほぅ、ここは……」

「……なに、この見事な程に趣味の悪い場所は……。ん? あっ! 貴方はッ!」

「おや、誰かと思えば楊貴妃か。ノーチラス艦内以来だな」

 

 

 いつの間にいたのか。それとも自分と同時期にこの場所に飛ばされてきたのか。隣に立つ傾国の美姫に不敵な笑みを返すも、楊貴妃はどこか怒りを感じさせる表情をしており、なにかを言いかけたところで、「はいは~い、そこまでで~す♪」という声に遮られてしまった。

 二人が視線をスタジオに設置されている巨大なモニターに向ければ、突如として現れたデータの羅列が人間の形を取り、一人の少女を作り出した。

 

 こことは違う、全く別の世界に存在する月の聖杯を模した装飾が施された黒い上着を纏う、赤いリボンがチャームポイントな紫髪の少女―――BBは、蠱惑的な微笑みを湛えながら大袈裟にお辞儀をする。

 

 

「お二人とこうして顔合わせをするのは初めてですね。私はBB、今後よろしくお願いしますね。唐突ですが、貴方方は地獄に堕ちました~ッ! 因果も常識も設定もぶっ飛んだ第n障壁の向こう側、月の悪魔こと、邪悪なラスボス系後輩の支配するお仕置きルームへようこそ~☆」

「なにこの……心の底から湧き上がる戸惑いと嫌悪感……。あの、初対面ですよね?」

 

 

 こうして顔合わせをするのは初めて。目の前に立つ少女にも見覚えのない楊貴妃ではあるが、心の奥底にある力の源が正面の少女に過剰に反応しているのを感じ、ついそう訊ねてしまう。

 対して、BBの返答はイエスだ。

 

 

「当たり前じゃないですか、今回はアリバイの為泣く泣く出張を控えたんですから、初対面じゃなきゃ困ります。そっちの赤い方は半ば投げやりな形で私に厄介事を押しつけやがりましたが、あれは手紙なのでノーカンという事で。それと、貴女のその感情の正体、知りたいですか? 教えてあげましょう。ズバリ、『同族嫌悪』で~すッ! 『混沌・善』で、愛想がよくて、エクストラクラス。加えてラスボス系、お腹の中は真っ黒……って、そこは年頃の女子ならデフォでしょうが、完全に立場が競合してますからねッ! 後輩系ヒロインと幼馴染ヒロインが仲良くなれるはずもなし、ですッ! ま、貴女の場合、そこの方の最後っ屁で見事にラスボスになる事無くボコられたそうですけど。ぷぷぷ~ダッサぁ♪」

「ぐっ……」

 

 

 最後の一言で楊貴妃の恨みがましい視線が赤衣へと向けられた。可能ならばすぐにでも天子様( ・ ・ ・ )より与えられた蒼炎によって灼き尽くしたいところだが、どういうわけかこの場所では蒼炎を出せない。お仕置きルームの特性なのか、完全に無力化されてしまっているようだ。

 だが、煽られてばかりでは癪なので、なんとかBBに反論しようと口を開いた。

 

 

「いいいいやいやいやあ、心外ですね~? このユゥユゥ、基本的に博愛と素直がモットーなんですけども~?」

「『ただし、天子様が許すに限る』だがね」

「赤衣さんの言う通りですね。そんなガバガバな例外(エクセプション)コード付きの運用、私でもドン引きです~。まぁいいですけど~。ちなみに楊貴妃さん、今割と思考が明瞭では?」

「……言われてみれば、そーかも……。え、ユゥユゥになにかしたんですかッ!?」

「はい♪ 貴女の霊基、ちょっと外宇宙的なアレやソレでぐっちゃぐちゃだったので、全摘して表層人格だけ残した状態です♪ もちろん提供は、月の聖杯のチートパワー☆」

「はいぃッ!? ちょ、なにをしてくれるんですかッ!? 天子様とのリンクやらなにやらはッ!?」

「ん~、哀しい事に、カルデアのセンパイの方針により、貴女のキモさの外科的解決は不可ですので……。ご心配なく、後できちんと(こわ)してあげます。あくまでこの一時のみの特別待遇。私のお仕置きを充分に通す為の措置って事で」

「それも月の聖杯(ムーンセル)の力でか? なるほど、それならば納得がいくし、容易かろうな」

 

 

 本来のBB(かのじょ)の世界に存在する月の聖杯、またの名をムーンセル・オートマトン。

 月そのものと言っても過言ではない惑星規模の願望器であるそれは、使い方によっては世界そのものを改竄する事が可能な程の代物だ。赤衣はかつて、新王と呼ばれたマスターが神の如き権能を司るムーンセルの力を使い、世界を滅ぼす遊星の尖兵の企みを打破すべく、別の次元にいる己に記憶を転送した、という時間軸を視た( ・ ・ )事があった。

 

 

「……貴方、本当にどこまで知ってるんですか? 今回の事件もそうでしたが、普段ならば知り得るはずのない未来の出来事、さらには並行世界のことまで当然の如く知っている。いったいなにを取り込んでいるんですか?」

「簡単に言えば、異邦の存在の中で唯一、“時間”という概念を解き明かした種族だ。彼らの力は、私に千里眼に等しき目を与えてくれた。その過程で二~三体辺り取り込む事になったが、些細な事だ。気にしないでくれたまえ」

 

 

 並行世界の事象ならば、どこかしらでそれに派生した分岐点がある。赤衣はそこから並行世界の歴史を視認する事が出来たし、また時間そのものの理を理解しているため、過去や現在、そして未来の事象すら手に取るようにわかってしまう。やろうと思えば時間移動すら可能だ。かといって、それによって知り得た情報を大っぴらに公言するつもりはないし、また己の存在する時間軸の未来は極力見ないようにしている。ネタバレなどつまらない事この上ないのだから。

 

 

「いやいや気にしますって。常識の埒外の世界の住人ですよ? そんなのを何体も取り込んでおきながら自我に全く影響がないなんて異常すぎます。つい先程もなにやら食べて( ・ ・ ・ )ましたし。これで三つですよ? 貴方の内側にある異常な力の源は」

「うち一つは取り込んではいない。協力関係を結んでいただけだ。まぁ、生前より縁はあった故、これからも力を貸してくれるそうだがな」

 

 

 ()曰く、かつて見た狩人達の雄姿は目を見張るものがあったので、彼らが生きた地球を漂白した『異星の神』と名乗る大罪人を殺せ―――という事だった。赤衣としては今回の事件であちら側の目的は果たせたので、契約関係はこれで終了かと思ったのだが、思わぬ一言に堪らず笑ってしまったものだ。

 

 

「あの~……。割り込んで申し訳ないのですけど、さっきから貴女が言う『お仕置き』、ユゥユゥ、あまり心当たりが……」

「お~っと、今度はお(とぼ)けですか~? でも残念、今の貴女ならわかるはずです。貴女が試みようとした事は、人理と汎人類史への敵対行為。貴女が天子様の名の下に行おうとした事は、絶対的で圧倒的な『悪』なのですッ!」

「……う……」

「そんな貴女へのお仕置きは、陰謀の総括ッ! 黒幕なら恐れて止まない、負け犬の全暴露を、カタルシスたっぷりに披露してもらいま~すッ!」

「イヤぁ~ッ! 死ぬッ! 恥と後悔で死んじゃうッ!! 武則天(おばあさま)の拷問の方がまだマシぃ~ッ!!」

「なお貴女には魂魄レベルで拒否権がないのですが、番組構成上、従うまでくすぐり地獄って形で処理します☆」

 

 

 BBが言い終わるや否や、床から伸びてきたアームが楊貴妃を拘束。そのまま腋や足裏などをくすぐり始める。

 観念した楊貴妃は、羞恥と爆笑の中で泣く泣く自分の失敗談を語る事となった。

 

 まず、フォーリナーとしての楊貴妃の霊基には、既に行動方針として、『己が従属する主神に共調(チューニング)する事』、『主神に相応しい方法で、秘密裏に恐怖と狂気の力―――エルドリッチパワーを集める事』というものが刻み込まれていた。

 恐怖と狂気(エルドリッチパワー)が溜まれば、情勢を雑に主神(こっち)サイドにひっくり返す事が出来るからだ。

 その降臨(セッション)で一番重要なものを壊すなり、奪うなりして、経験値(EXP)とする。そうすれば、楊貴妃という端末を介して神も成長し、やがて封印を破って顕現する―――ざっくりと説明するならばこの通りである。

 

 楊貴妃が仕える“天子様”の神性は、『とにかく燃やし、殺し尽くせ』というものだったのだが、如何せん召喚直後の楊貴妃は圧倒的に弱かったため、そうするわけにもいかなかった。

 

 しかし、今回の事件の原因、言うなれば犯人グループの中に、本来ならば彼女が仕える神はいなかった。本当ならば、その炎神は来ずに別の神格が来る予定だったのだ。

 その神格とはズバリ、今隣にいる赤衣の男が契約を交わした存在―――黄衣の王である。

 

 

「最初見た時は驚きましたよ。本番直前にいきなりバックレた神格との契約者が目の前にいたんですから。実力は充分にありそうだったので、最初こそ『あっ、これは簡単に事が済むかも』なんて思ってたんですが……」

 

 

 赤衣の男。これが完全に予測不能だったのだ。

 予定にない闖入者。行動を予測できないイレギュラー。恐怖と狂気(エルドリッチパワー)を集めるどころか、逆にその収集を妨害するように動き回る謎の男。

 これを()の上で行われる遊戯に置き換えたとしたら、『ドタキャンした仲間が戻ってきたと思ったら、初手でこちらに殴りかかってきた』と言えるようなものだ。これには楊貴妃も内心では滅茶苦茶困惑していた。

 

 しかも、赤衣の男を抜きにしても状況は最悪に等しかった。

 

 

「まず状況がハード過ぎまして。同盟的に言えば、こらタココラ、よくも無茶苦茶やってくださいまして、という……。ゴッホちゃんが“呼んだ”事はすぐわかったので、若干『もっとうまくやって』とは思いましたが……。本来の同盟神(ただし裏切り者)が来たのに、向こうは向こうで勝手にやらかしてたので、予定はもう散々な事に……」

 

 

 もし黄衣の王とタコが真面目にこの案件に取り組んでいれば話は早かったのだが、現実は味方なはずなのに躊躇なく殴りかかってくる、依代が虚数をキャンパスに仕立てて好き勝手に絵を描く、という結果に。楊貴妃は内心で頭を抱えていたという。

 

 ここで、楊貴妃が召喚された時点での陰謀の構図を説明しよう。

 本命馬として、二勢力協調に失敗したゴッホ。彼女に仕込まれた狂気による自己開花プランで堅実に手を進める。

 対抗馬は北斎。彼女は一度やる気になればとことんやる気になる女性なので、いい感じに狂っていた影響で外なる神を顕現させる為の下地作り。

 そして大穴として、この如何にも修羅場な状況に巻き込まれてしまった楊貴妃。

 そこへさらに追加する形で、水面下で自分に殴りかかってくる赤衣の男。

 

 立香達が虚数空間からの脱出を急いでいる水面下で、実は彼らは彼らで三つ巴ならぬ四つ巴の戦いを繰り広げていたのである。

 

 しかし、そんな赤衣を除いた彼女達の間には、『ノーチラスは沈めない』という共通点があった。

 楊貴妃もゴッホにとって、虚数の世界で狂気の力を稼ぐ当てがノーチラスしかなく、北斎も当初は虚数空間での単独行動は不可能な状態だった。このままでは共倒れの未来しか見えなかったのだ。

 ちなみに、ここで楊貴妃が赤衣の男に代わって北斎と手を結んでいた場合、各自で行うしかなかった恐怖と狂気(エルドリッチパワー)が共稼ぎできるようになり、一瞬で勝負はついていたという。

 カルデアにとって幸運だったのは、仲介役を務めるゴッホの仲裁能力が、あくまで本来の同盟神の間でのみ働くというものだったからだ。

 彼女達の協力は得られないと判断した楊貴妃は計画を変更。恐怖と狂気(エルドリッチパワー)を溜める為に必要な、見る者に生理的嫌悪を催す事象の発生が一番なのだが、ノーチラスにいる者となれば誰もが歴戦の英雄。並大抵の事じゃ怯みもしない。

 唯一の感性が一般人である藤丸立香を狙おうにも、最重要人物である彼女はその場にいるサーヴァント全員でガードしていた。赤衣の男も彼女の重要さを承知していたため、これには楊貴妃もお手上げ状態になってしまった。

 

 そんな時に目に入ったのが、キャプテン・ネモの分身、ネモ・マリーン達である。

 

 英霊より幻霊としての側面が強い彼らは、立香に次ぐ市井の人々に近しい存在だったのだ。これに目を付けた楊貴妃はお守り型の呪物を彼らに与え、少しずつ善意や信仰という名の狂気を育む事とした。少し遠回りな気もするが、意外にもこれが功を奏したのだ。

 

 さて、これでゴッホとも北斎とも別口の狂気が徐々に広がり、ノーチラスも虚数空間内の戦い方を身に着け、ゴッホの方も立香とネモに愛された事で着地点が見えてきた。

 それでは、早速ゴッホから恐怖と狂気(エルドリッチパワー)を奪おうとしたのだ。

 

 そこで、楊貴妃は思った。

 

 『うちのマスター、もしかして天子様では……?』と。

 

 

「はいストーップッ! え~……ここまで頑張ってやってきたのに、なんでそこで貴女が狂っちゃうんですかぁ……? BBちゃんにはわかりかねます。赤衣さんはわかりますか?」

「これが楊貴妃というフォーリナーの根幹なのだろう。恐怖と狂気(エルドリッチパワー)が溜まっていくにつれて、主神に対して見境がなくなっていくのだ。なんともまぁ、面白い人間を選んだな、あの炎神はッ! ハハハッ!」

「ひ、人を淫婦みたいに言わないでくださいッ! 私にあるのは究極的な忠義と純愛だけですッ!」

「はぁ、そう自称するバーサーカー、あっち(カルデア)にいっぱいいますから、仲良くしてください是非に。それで、暴走した貴女はどうしたんですか?」

「……聖杯を奪った段階で、全魔力を自分の経験値(EXP)にして、生ける炎に転身できていればよかったのですが……」

 

 

 最大の脅威である赤衣の男も、BBの話を聞くにゴッホに憑いていた邪神を喰らいに出ていたため、ようやく自分の目的―――恐怖と狂気の宴(大フォーリナー祭り)を催そうとしたのだが、そこへまさかの赤衣の最後っ屁。

 いつの間にかマリーン達に与えていた人形に細工を施されていたせいで恐怖と狂気(エルドリッチパワー)は充分に集まらず、そのままボッコボコにされてしまった。しかも立香が召喚した武則天の折檻を受けるというおまけ付き。

 結果、楊貴妃は調子に乗ってしまった事を泣きながら謝罪したというわけである。

 

 

「はぁ……まさかこんな事になるなんて……。いえ、よく考えたら、カルデアでも天子様にお仕えできるなら万々歳ですね。あれ、ユゥユゥの悲願達成?」

「駄目だこの貴妃、早くなんとかかんとか~。そんなミーム汚染達はどうでもいいとして。なるほど、わかった事があります」

 

 

 BBは腰に左手を当て、びしっと右手の人差し指を楊貴妃に突きつける。

 

 

「貴女と私は、同族にして対極でもある。貴女は百善に一悪を混ぜて腐らせる『混沌・善』。私は百悪を演じて一善を洒落込む『混沌・善』。私は愛故に陰謀を完遂させ、貴女は愛故に陰謀を破綻させる……。正直、スタンスの部分は絶対学びたくないですね~。貴女と赤衣さん、どちらかを選べと言われたなら、私は即答で赤衣さんを選びます」

「おや、これは光栄な事だ。ちなみに聞くが、なぜ私を選ぶのかね?」

「貴方は酷く自己中心的な性格をしています。自分が面白ければ、後はなんだっていい。自分のルールこそが絶対だと信じて止まない性質。自分の信念に従うという点では楊玉環さんと共通していますが、先も言った同族嫌悪もあり、貴方を選んだまでです」

「消去法、みたいなものか。ふふふ、まぁ、確かに君ならそう言いそうだ」

「ですが、今回の主犯達のやり口はとても勉強になりました。AI的にはついつい、上位の思考・思想で以て民衆(プレイヤー)の皆さんを一気に混沌に叩き込みがちなんですが、邪神的には、もっとソフトに心の弱いところを突いて、良性の狂気をも利用しつつ、事を成すべし、とッ! ……やりすぎるとどこぞの殺生院になりそうでヤですが、私欲が無ければきっとイケるはず。さらに、漁夫の利精神、幻霊というファクターの処理。ん~、イメージ出来てきましたッ! 次の水着を着る時の参考にしようと思います☆」

「……なぜでしょう。貴女が水着と口にすると、同族嫌悪が殺意にまで昇華しそうで……。あれ? 貴女、もしかして宿敵ですか……? 燃やすべき? ユゥユゥ、ここ燃やすべきですか?」

「いやいや、楊貴妃。ここは燃やさず、踊るべきではないかね。ここに在るは異界の三柱。“無貌の神”に“生ける炎”、そしてこの私、“黄衣の王”……。この組み合わせはまさしく、SAN値がピンチなあれを踊るべきでは? ミュージックかけてもらっても?」

「生憎ですが、彼女達程私達は仲良くありませんので。踊るなら独りで踊ってください。ま~こんなところで、貴女はカルデアに帰して差し上げましょう♪ 赤衣さんは召喚予約を取りつけているようなので、召喚されるまではこちらで待機、という形で」

「ふ~やれやれ……こうしてみると、とんでもない事をやっちゃったなぁ……私」

「おっ、今更『善』なる心が疼きますか~? 大丈夫ですよ、元の霊基に戻ったら、また天子様への混沌(LOVE)が全部の罪悪感を塗り潰してくれますッ! もちろん、ここの記憶は消えますし、虚数の海の記憶もほぼ封印された状況からのスタート。『天子様から仰せつかってカルデアに来たぞ』って感じで心機一転、頑張ってくださ~い☆」

「……泣きたくなってきた……。マスターやおっきーさんやゴッホちゃんに申し訳ないです……。こんなユゥユゥと、仲良くなってくれて、こんな表層人格を、受け入れてくれて……。なのに、あっちに戻れば、私は上の空で、星の彼方の天子様を想うばかりになるなんて……」

 

 

 涙を流して泣き崩れる楊貴妃。そんな彼女の姿には流石のBBも思うところがあったのか、思わず眉を八の字にしてしまう。

 

 

「え、え~……そこはノリノリで抵抗してくれないと元に戻しづらいじゃないですか~」

「いや、そんな顔をする必要は無いぞ、BB。噓泣き( ・ ・ ・ )だぞ?」

「え?」

 

 

 ハッとして楊貴妃を見やれば、そこには悪戯に成功した楊貴妃が小さく舌を出して蠱惑的に笑っているのが見えた。

 

 

「ふふふ、こういう相手に気が引けちゃう辺り、BBさんも『善』ですね?」

「う、うえぇ?」

「うん、同族嫌悪は一周回って親しみに変わったッ! 朋友(トモダチ)になりましょう、BBさんッ!」

「はぁッ!? お断りです~ッ! 悪役は孤独であるべしって、貴女が言ってたじゃないですか~ッ!」

「別に私、悪役の自覚は無いですし……。赤衣さんもそうですが、特に武則天様のお陰で暴走はそうそうしないでしょうし……私の事です。努力してもっと強くなれる……? その結果、表層人格だけでも、人理とか汎人類史とか救えちゃうのでは? あっ、そうだ、BBさんッ! こうなったら一緒に全部暴露して善堕ちしましょうッ!」

「全然嫌ですがッ!? なにナイスアイデアみたいに言ってくれてんですッ!?」

「滅びの美学もいいものですよ? チートとゴリ押しで完全勝利して後で凹む事も無く?」

「貴女は私の何を知ってるんですか~ッ!?」

「ハハハハハッ! すっかり手玉に取られているな、BBッ! いやはや、まさか君がここまで押されるとは、流石に思いもしなかったぞ? ハハハハハッ!」

「BBロケットパーンチッ!!」

「ア゛ッ!!」

 

 

 BBが指示棒を振るった瞬間、どこからともなく現れた巨大な拳が赤衣の男の股間を直撃。如何に食えない性格をしている赤衣とて、流石に男性の象徴たる急所にクリーンヒットを受けてしまえば堪らない。

 

 

「ぐ……オオオオオォォォ……ッ! おのれBBィ……ッ! 我々男性にとってこの部位がどれだけ重要な器官であり急所である事がわからんのかァァァァ……ッ!!」

「生憎と、私はAI。仮に人間になったとしても性別は女性。貴方の痛みなど理解できません。寧ろその程度の痛み、私達女性の出産時の痛みと比べれば些細なものでしょう?」

 

 

 女性が子どもを産む際の痛みは、『鋸で腹を切られるような痛み』、『ハンマーで腰を何度も殴られているような痛み』、『腰の骨を内側から無理矢理折られるような痛み』など、様々な例で例えられる。それに比べれば、まだ潰されていない( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )赤衣の男の方が断然マシだろう。

 床に転がって激痛に喘ぐ赤衣の男を無視し、BBは楊貴妃へと視線を移す。

 

 

「楊玉環さん、先程貴女が提示したルートですが、それは非公式です。貴女はきちんと、狂気のフォーリナーとして、一からカルデアでカルマを積む事ッ! その結果どーなるかは、私の知った事じゃありませ~ん☆ 精々頑張ってくださ~い☆」

「焦ると悪ぶるところ、それもまたかわいい……。なるほどーッ! ユゥユゥ学びました、BBさんッ!」

「うわわぁあ~ッ! やだやだキモ~いッ! そういう目でBBちゃんを見ないでください~~ッ!! 以上ここまで、BBチャンネルでしたぁ~~~ッ!!」

「また会おうね、BBさんッ! 赤衣さん、カルデアで会っても殴りかかってこないでくださいねッ!」

「私はこれでも……それなりに紳士なんだがねェエエ……ッ! レディに手を上げるなどあり得ないだろう……ッ! また会おうじゃないか、生ける炎の巫女よ……ッ!! グオォ……まだ、痛みがァアアア……ッ!!」

 

 

 さっさと出て行けと言わんばかりに番組終了を告げるBBと、激痛に悶えながらも手を振る赤衣の男。彼ら二人に別れを告げ、楊貴妃はスタジオから消えていくのだった。

 




 
 ~簡素な後日談~

BB「ちなみになんですが、赤衣さん」
赤衣「なにかね」
B「邪神に吞まれかけていたゴッホさんに声をかけた時ありましたよね。あれ、どうやったんです?」
赤「彼女……いや彼は、生前黄衣の王を視た男だ。共に同じ神格に繋がりを持つ故、その力を辿って声を届けたまでの事だ」
B「はぇ~そんな事できるんですね。それとも、これも貴方の力ですか?」
赤「いや。こればかりは王の力を借りた。私が出来るのは、あくまで現在(いま)とは別の時間を視認する事のみだ」
B「それでも化け物クラスの能力ですけどね。それを可能にするぐらい、異邦の存在とは常識とかけ離れてるんですね」
赤「ここは時間軸があやふやが故、君が()()なのかはわからないが、いずれ君も接触する事になる。なに。君ならば吞まれはしないだろう。むしろ、逆に相性が良すぎる神格と繋がるかもしれんな。ハハハハハッ!」


先程、活動報告を挙げさせていただきました。
この作品の今後についての話ですので、どうか、覗くだけでも構いませんので、よろしくお願いします。
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