【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 申し訳ありませんッ!
 前回、最後のところで「狩人の敵討ち」とあったと思いますが、間違ってそう記入してしまったものなので、すぐに編集させていただきましたッ!
 本当にすみませんッ!

 それでは本編です。


神代の海洋

 

 シャドウ・ボーダーの中を、重苦しい空気が支配する。

 誰もが言葉を出す事を躊躇うような空気の中、意を決して口を開いたのはマシュだった。

 

 

「いよいよですね、マスター」

「そうだね……」

「ウォッホン。なんだなんだ、その辛気臭い顔はッ!」

 

 

 頷いた立香の耳に、ゴルドルフの声が届く。

 

 

「ショボそうな第六と第七の異聞帯はともかく、第八の異聞帯こそまだ残っているが……これは『異星の神』の降臨を阻止する為の戦いなんだぞッ!」

「だからこそ、ですよ。おっさんだって緊張感から黙りこくってたでしょ」

「フッ。これだからちょっと魔術の世界を齧っただけのキドニーパイは」

 

 

 冷静に突っ込みを入れるムニエルだが、しかしゴルドルフはその顔に笑みさえ浮かべて返した。

 

 

「いいかね。私の緊張はお前達とは次元の違う緊張……即ち、本気のビビりなのだよ。一緒にされては困るというもの。……カドック・ゼムルプスは魔術師としての技量も血筋も覚悟も並み以下の凡人だった。オフェリア・ファムルソローネは魔眼こそ脅威だが、非情さに欠けた淑女だった。芥ヒナコは……途中で離脱してしまったのか正直よくわからんが、そもそも魔術師ではなかった事は間違いない。だが殺気こそ本物だった。ペペロンチーノは……ううむ、あの男は摑み所が無さ過ぎて評価できん。例外としよう。そんな四人のクリプター達と、キリシュタリアは格が違う」

「おや、魔術協会で面識でもあったのかな?」

「あるものか。まぁ、家庭的には私とほぼ同じランクの名門だったが。いいかね。時計塔には天才が集まる。並大抵ではない才能も、あそこでは『普通』なのだ。その中で頭角を現す事自体が、『世界を変える』程の才人である事を示している。キリシュタリア・ヴォーダイム。貴族主義(バルトメロイ)派の上流貴族でありながら、民主主義(トランベリオ)派からも、どっちつかずの中立(メルアステア)派からも、衰退していく世界の『魔術基盤』を立て直すのでは、と注目されていた“期待の星”だ。カルデアになぞ所属しなければ、時計塔に13個目の学科を作っていたかもしれない、とも言われていた。ふんっ」

「それは驚きです。ロンドンではそこまで評価されていた方だったのですね」

 

 

 人理焼却前は同じAチームではあったが、周りと必要以上の関りを持とうとは考えていなかったマシュは、初めて知る彼の素性に目を見開いた。

 

 

「なのに、ゴルドルフ君は面識がなかったんだね~」

「当然だ。私は妬ま……こほん、慎重を期してコンタクトを取る事はしなかったからねぇ。それに、彼の隣にはアンナ・ディストローツがいたという話も多く聞いていた。片や時計塔の期待の星、片や単独でアルビオンに侵入し、あまつさえ一晩寝て帰ってきた“狂気の生還者(マッドサバイバー)”にして、古龍種の関する知識では右に出る者はいない専門家。魔術世界においてこれほど有名な人物はそういない。そんな二人の前に出られる奴は、よっぽどの度胸の持ち主か、ただの愚者のどちらかしかいないだろう。少なくとも、私はそのどちらでもない。……む、話が逸れてしまった」

 

 

 話の腰を折ってしまった事に気付いたゴルドルフは、小さく咳払いした後に、再び自分が知り得るキリシュタリアの情報を口にし始めた。

 

 曰く、キリシュタリアはいずれは家を継ぎ、貴族階級の後継者となる青年層からの絶大な支持を集めていたそうだ。

 魔術世界において、“父親”という存在は偉大な存在であると同時に、子ども達にとっては恐怖の対象でもある。中には数百年を生きる怪物もいると言われている“前時代の魔術師”達に対し、キリシュタリアは決して臆さず、真正面から対峙し、自らの意見を主張し続けた。

 彼のその度胸、気概、そして己への揺るぎない自信は、彼と同じ、しかし怯えるしかなかった青年魔術師達を魅了した。

 彼らが支持する理由の中には、キリシュタリア当人が尊大だが理想家であり、冷酷、冷静な反面人情家だったりといったものもある。

 実際、キリシュタリアには他者を惹きつける才能―――カリスマと呼べるものが備わっていた。それは彼の噂を聞くだけに過ぎなかったゴルドルフをしても、“王”と例える程にだ。

 

 また、マシュやダ・ヴィンチもゴルドルフの言葉に頷く。

 マシュが彼と関りを持ったのは、彼がカルデアに招かれての事だったが、そこでも彼はその才能を発揮し、全てに突出した、正真正銘の天才だったと語り、またダ・ヴィンチは、自分を人類のカテゴリにおける万能の天才ならば、彼は魔術における不屈の天才と評価した。

 そこで立香は、かつて大人のダ・ヴィンチから聞いたAチームの中で“天才”と言われていたのがデイビットだという事を思い出して訊ねてみると、そちらは『出来ない事を行ってしまう』タイプの天才という事だ。対して、キリシュタリアは『出来る事を確実にこなす』タイプとなっている。

 しかし、どちらかの優劣は差し置いて、主な作戦行動を取る予定だったAチームのリーダーは、着実で堅実なプランを立てられるキリシュタリアが適任だろう。それは、カルデアでの彼を知っている誰もが認めている。

 ……時々、アンナとパーティーグッズを身に着けてはしゃいでいたり、ペペロンチーノなどと組んで天才という名にそぐわない、悪く言えばアホな行動をしていた、という噂が広まる事もあったが、今となってはそれが真実かを調べる事は出来なくなってしまった。

 

 また、キリシュタリアは『妥協』という手段に対する嫌悪感、または拒否感とも言えるものから、戦闘シミュレーションでも全力で取り組んでいたそうだ。そう聞くと、彼が努力家のようにも思えるが、努力という点において誰よりも勝っているのはカドックだろう。

 Aチームの中でも最も凡庸な魔術師だったカドックは、他のメンバーに置いていかれないようにと、日夜勉強に明け暮れていた。その時の彼の隣にはアンナの姿もあり、カドックがなにかしらの壁に当たれば、適切なアドバイスを与えて彼を導いていたようだ。

 

 

「キリシュタリアについての考察はここまで。他にこれと言って判断材料がないからね」

 

 

 ここまで話して、ダ・ヴィンチはキリシュタリアについての話を終わらせる。

 ここからは、これから挑むギリシャ異聞帯。そして、今回の作戦についてだ。

 

 

「相手は未知数だけど、こっちだって装備は万全だ。これまでに溜めに溜めた魔力リソースをありったけ放出したし。現在、シャドウ・ボーダーの外殻へと変化したノーチラスによって、海を渡るのも容易になった」

「まだまだノーチラスの本領を発揮してるわけじゃないけど」

「残念ながら、優先すべきはシャドウ・ボーダーの安全でね」

「うむ。十重二十重(とえはたえ)に組み込まれた結界術式。魔力による水流操作によって、高速移動を可能にした新エンジン。衝角として証憑機構(アロニクス・ファンタズム)があれば、たとえ溶岩(マグマ)の中でも突き進めるだろう」

「もちろん、それだけの自信も経験もあるから任せて。艦が傷付くような事は避けたいけどね」

『こちら、シオン。通信状態も良好です。食料飲料、共に満タンになるまで確保しました。文字通り、現段階での最大装備です。これで失敗したら目も当てられません』

「なに、失敗したら来年の予算など考えなくてもいいのだ。ここでありったけ使っておくのが、賢いやり方というものさ」

「うぅ……早く霊脈を発見、サーヴァントを召喚したいものだ。現状の戦力では心許(こころもと)なさ過ぎるッ!」

「仕方ありません。これまでの異聞帯での戦いを考慮するに、現地で召喚した方が相性がいい。マスターが仮契約を結べるサーヴァントもそう多くはない。今は我慢の一手ですよ。―――しかし」

 

 

 そこでホームズの目が細められ、立香に向けられる。

 

 

「ギリシャ異聞帯の戦力もそうだが、我々にはそれとは別に注意しなければならない問題もある。わかるかい? ミス・立香」

「……シュレイド異聞帯」

 

 

 立香の回答に、ホームズが重々しく頷く。

 

 

「そう。今回の異聞帯は、慎重かつ迅速に攻略しなければならない。最悪の場合、我々は現時点で最大規模を誇る二つの異聞帯を同時に相手取る事になるかもしれないのだからね」

 

 

 世界が誇る名探偵が口にした最悪の未来に、この場にいる全員の意識が張り詰めた。

 

 

 

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 時はギリシャ異聞帯攻略へ向けたミーティングまで遡る。

 以前から、地球全体を覆っていると推測されていた空想樹の『枝』に、つい昨日変化が生じた。

 今まで『枝』の中をネットワークのように循環していた魔力が、突如としてギリシャ異聞帯に集まりだした。シオンやホームズは、これを『大規模な魔術儀式の為のエネルギー充填』であると決定づけた。

 現在、推測されているエネルギー量は、かつて私達が相手にした人類悪―――魔神王ゲーティアが為した『人理焼却』に匹敵するものだそうだ。

 シオン達の考えに同調するように、トリスメギストスもこれを『世界災害』と警告し、予定を前倒しにして、ギリシャ異聞帯に存在する空想樹の切除を推奨してきた。

 一度は歴史を丸ごと焼却し、世界を滅ぼしたと言っても過言ではない人理焼却と同規模の魔術儀式を行う―――それはつまり、今回の人理漂白を起こしたであろう『異星の神』の降臨を意味する。

 正体は未だわからないが、『異星の神』の降臨はなんとしてでも阻止しなくてはならない。

 

 しかし、ここで問題が一つ。

 

 

「まずはこちらをご覧ください」

 

 

 シオンが指差した、ホログラムで表示されている現在存在する異聞帯を示した世界地図を見上げる。

 

 最初に出現した異聞帯の数は、全部で八つ。その内の半分―――ロシア、北欧、中国、インド異聞帯は、既に私達の手によって切除されている。よって、残っている異聞帯は、イギリスと南米、大西洋、そして南アフリカ異聞帯だ。

 イギリスと南米はあまりにも小さく、今のところ目立った問題点は見当たらないが、注目すべきは南アフリカ異聞帯―――通称、シュレイド異聞帯の状態だ。

 

 

「これって……」

「はい。シュレイド異聞帯はその規模を日に日に増していった結果、遂にアフリカ大陸を呑み込み、今となってはギリシャ異聞帯と並び得る、あるいは上回るものとなりました。このままいけば、いずれこの二つは衝突し、どちらかが消えるでしょう」

「ん? ならばどちらかが敗北するまで待てばいいのでは? それか、漁夫の利を狙うのもいいと思うのだが……」

 

 

 ギリシャ異聞帯に存在するであろう存在は、地域からして容易に想像できる。対して、シュレイド異聞帯も、そこを担当しているアンナ・ディストローツが“黒龍”と“煌黒龍”をサーヴァントとして従えている事から、“モンスターハンター”叙事詩の時代が現代まで継続してしまった世界だと予測されている。

 もし、この仮説が正しければ、近くに世界最高峰のギリシャ神話と、超古代の地球が生み出した惑星(ほし)の代行者達による戦争が起こるという事だ。

 両者とも、現段階のカルデアの総力を懸けても切除できる可能性が低い異聞帯だ。ならば、両者を争わせてどちらかを消滅させてもらうか、両者が疲弊しているところを突いて両方とも切除に向かうか、という考えが浮かぶ。

 勝利とは、ただ真正面からぶつかって制するものだけではない。時には自軍以外のものも利用し、的確に敵軍に打撃を入れてからトドメを刺しに行く、という戦略も必要なのだ。

 ……しかし、シオンはそんな考えを真っ向から否定した。

 

 

「『二兎を追う者は一兎をも得ず』、という(ことわざ)をご存じで?」

「なんだ、いきなり。もちろん知っているとも。『二匹の兎を捕まえようと追いかけると一匹も捕まえられない』、というやつだろう? ……あっ」

「はい。まさしくその通りです。今の我々に、この二つの異聞帯を同時に相手取る事は不可能です。それがたとえ、両者が疲弊していたとしても。舐めてかかったら逆にこっちが狩られます。空腹の猛獣同士が争っている中、全裸で突っ込む馬鹿がどこにいると思います?」

「すみません……」

 

 

 よく考えればすぐにわかる事に気付けなかったゴルドルフが頭を下げるも、シオンは「まぁそう考える気持ちもわかりますよ」とにこやかに笑って許した。

 

 

「私もダ・ヴィンチさんにホームズさんも、一度はその考えを思いつきました。両者の戦力を振り返って、すぐに排除しましたけどね。この二つの方法から選ぶとすれば前者なのですが、こちらもこちらで問題があります」

「……領域の拡大、ですか?」

 

 

 恐る恐る訊ねたマシュに頷くシオン。

 

 

「まだ異聞帯同士が激突した場合、そこにどのような変化が起こるのかはわかりませんが、恐らく勝利した異聞帯は、敗北した異聞帯を取り込んで、その分領土を拡大させるでしょう。そして、近いうちに衝突するであろう異聞帯は、残りの異聞帯の中でも一、二位を争う規模を誇っています。ギリシャ異聞帯が勝てば、そこにいるだろう神々の活動範囲が広まりますし、シュレイド異聞帯が勝てば、どこを見ても最強の幻想種である竜種がいる魔境がさらに広がる事になります。共倒れしてくれるのが一番なのですが、それが現実になる確率は限りなく低いので、決着が着くまで待機なんて考えは断固却下です」

「だが、我々はこの事を知っていたとしても、ギリシャ異聞帯に乗り込まなくてはならない。『異星の神』の降臨は最早時間の問題となっている。その前に、ギリシャ異聞帯とシュレイド異聞帯が衝突するとは限らないからね。ならば、我々から行動を起こすべきだ。シュレイド異聞帯が接触してこない間に、ギリシャ異聞帯を切除する。(かね)てからの手順通り、ギリシャ異聞帯にカルデアの全資源を投入し、これを攻略する。その準備は先程整った」

 

 

 立香達の視線を一身に受けたホームズは、ギリシャ異聞帯攻略に向けて整えた“準備”の内容を説明する。

 

 ノーチラス号には宇宙空間まで観測可能な超望遠レンズと、過去最大の魔術障壁を構築。

 シャドウ・ボーダーは新品と言えるレベルまでオーバーホール。

 また、万が一の為に、この二つにはどちらかが自沈した時の相互換装機能も組み込み、マシュが盾として使っている『円卓』には現地にて複数のサーヴァント召喚を行える魔力資源を搭載した。

 本来の予定ならば、ここに霊基外骨骼(オルテナウス)の換装も入っていたのだが、こちらだけは間に合わず、これにはホームズも心残りだと零した。

 しかし、そちらについては、カルデアに残るシオンが設計を継続するという話になっているので、あまり問題にはなっていない。シオンもアトラス院の魔術師。彼女ならば、迅速に設計を完了してくれるだろう。

 『弾丸』に相当する強力な概念は現地で発見/調達できれば、後はキッチリ仕上げてくれるのだそうだ。

 マシュも、その時に向けての射撃訓練は終えている。決戦時には、彼女の存在が必要不可欠になってくるだろう。

 しかし、ここにいるメンバーの中で唯一その事を知らなかった立香だけは首を傾げており、シオンはすぐに「出番があるかは未知数」と答えた。

 

 そして、一通りの確認を終えた後、シオンは実行部隊の立香達に号令を飛ばす。

 

 

「状況は大きく変化しました。一分……は言いすぎですが、一日の猶予もない状況です。我々にとって最大の攻略ポイントだったギリシャ異聞帯ですが、それはあちらにとっても同じ事だったようです。“王手をかけた”のはあちらが先になりました。今までで最も困難な戦いになるでしょう。敵の数にしても、辿り着くまでの道程にしても。虚数潜航で送り込めるのは異聞帯の外縁付近であり、空想樹までの距離は過去最大のものとなります。ですので、これまで以上に慎重に、且つ迅速に、しかし極めて冷静であってください。ギリシャ異聞帯では“世界を知る”事そのものがマイナスになるかもしれません。どうか、心を強く持つように。そして同時に、自らの可能性に胸を張って。作戦実行が不可能だと判断したのなら、即座に帰還してもらって構いません。……さぁ、サクッと地球を取り戻しに行きましょうッ! マスター・藤丸立香始め、実行部隊は速やかにボーダーに搭乗。全員のバイタルチェックが完了次第、ノーチラス号を現実退去(サイルカット)。虚数潜航を実行し、状況を開始します。作戦(オーダー)名、ロストベルトNo.5。副作戦(サブオーダー)名、『星の海を渡るもの』。持ち得る全ての能力を駆使して当たられますよう。皆さんの帰還をお待ちしていますッ!」

 

 

 シオンの号令に力強く答え、立香達はギリシャ異聞帯へと向かった。

 

 ―――そして、カルデアの浮上地点を予測していたギリシャ異聞帯の英雄率いる、オリュンポス船団の待ち伏せを受ける事になったのだった。

 

 

 

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 オデュッセウス。それは、ホメロスの叙事詩『イーリアス』に登場するギリシャ英雄の一人の名だ。

 数多の英傑が命を落としたトロイア戦争を生き残り、愛する妻の下へ帰る途中に立ち塞がった幾つもの困難を乗り越えた、ギリシャが誇る大英雄。その名は、後に『オデッセイ』の語源にもなったと語られている。

 ギリシャ異聞帯にいる彼は、抑止力より召喚されたサーヴァントの己を取り込み、汎人類史の知識を奪い取った。そして、崇高なる主神ゼウスの盟友たるキリシュタリア・ヴォーダイムからカルデア撃退の命を受け、長期的な防衛準備を整えてきた。

 そして、カルデアがこの海に侵入したと判断した直後、自らが率いるオリュンポス船団、無限に怪物を産み続ける母たるエキドナ、そしてキリシュタリアが派遣した槍兵(ランサー)のサーヴァント、カイニスを指揮し、異邦からの侵略者達を抹殺すべく動き出した。

 

 カルデアはこれに対し、虚数潜航による離脱は不可能と判断し、逃げ切るまでの防衛戦に出るしかなかった。

 

 

「……存外に粘るな」

 

 

 本拠地にいるサーヴァント達の影とマシュを指揮し、先程エキドナに産ませたケルベロスの迎撃を行う立香に、オデュッセウスはそんな感想を零す。

 このギリシャ以外にも、他に七つの異聞帯と呼ばれるものがあるという話は聞いていたが、なるほど、確かにその内の四つを潰してきただけの事はある。

 今も、艦の衝角による一撃でケルベロスを突き飛ばし、なんとか逃走経路を確保しようとしている。

 しかし、この海の守護を任されたオデュッセウスが、それを許すはずもない。

 

 

「エキドナに怪物を産ませ続けろ。奴らが耐えている間に包囲を狭める」

「ハッ!」

 

 

 近くにいたオリュンポス兵に命令すれば、再びエキドナが悶えながら、成体の怪物達を産み落としていく。

 カルデアが怪物達を撃退している間にも、自分達の他にカイニスが向かっている。連中の息の根を止めるのも、そう時間のかかるものではない。

 ―――そう思った瞬間だった。

 

 

「……なんだ?」

 

 

 突如として、足元が震え始めた。

 最初は軽めの揺れだったものが、少しずつ、しかし確実に大きくなっていき―――

 

 

「―――グルォアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

 

 遂に、形となって現れた。

 

 突然、海を突き破って現れた巨体。その真下にいた何隻もの船をまとめて呑み込んだそれ( ・ ・ )は、この場にいる全てを喰らえる程の顎門(あぎと)を開いてこちらを睥睨する。

 

 ―――それは、かつてこの星を支配していた種族の一体。

 緑を呑み、生命を呑み、そして、遂には島さえ呑み込んだ竜。

 概算450mを優に超える、黒ずんだ巨躯をしならせる怪物(モンスター)

 

 そう、抑止力は遂に、古の龍どころか、それに匹敵する竜種まで召喚するに至った。

 

 

「グルォアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 その者の名は、“大巌竜(だいがんりゅう)”ラヴィエンテ。生命無き絶島と共にこの海に召喚された、分類不明の超古代生物である。

 

 

 

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 閉じていた瞼を開ける。

 組んでいた腕を下ろして軽く動かせば、ポキポキと小気味良い音が鳴る。

 

 

「どうしたんだい? ラメール」

「モンスターの気配を感じた。狩りに行く」

「モンスター? この海にいるのかい? アンタの時代の怪物が?」

 

 

 目の前にいる、その豊満な胸を大胆に晒している赤髪の女性に答える。この海、この時代に、とうに絶滅したはずの生物が現れた事に僅かに目を見開いた彼女は、それから目を細めて、席を立った、一部が青く染まった黒髪の女性を見る。

 

 

「大丈夫なのかい? ちょっと前のアンタならいざ知らず、今のアンタは……」

「やり辛い事この上ないが、要は海に触れさえしなければいいんだろう? それならば、それなりの戦い方というものがある」

「ハハハ、頼もしいねぇ。流石、歴史に名高いモンスターハンターの一人だ。おい、イアソン。アンタも見送って……ありゃ」

 

 

 赤髪の女性―――フランシス・ドレイクの視線が、少し離れた席にいる金髪の男―――イアソンに向けられるが、生憎と彼は机に突っ伏していびきをかいていた。先程まで酒を浴びるように飲んでいたためだろう、すっかり爆睡中だ。

 

 

「放っておけばいい。彼は友を喪った。再起するには、それ相応の条件が必要だろう。尤も、その条件は我々で果たせるものではないが」

 

 

 手元に出現させた青黒いヘルムを被れば、右手には竜の顔を象った大盾が出現し、背中には巨大な銃槍が姿を現した。

 彼女の武器は、彼女が身に着けている防具と同じ青黒い色を持っており、銃槍からは禍々しい魔力が嫌でも感じ取れる。

 

 

「改めて見るけど、凄い武器だねぇ……。それが“冥海竜”って奴から作られた―――」

「冥銃槍エングルム―――私の武勲の象徴。そして、我が生涯を共にした相棒だ」

 

 

 海底遺跡の奥底に住まう竜の素材から作られた、最愛の武器を背負い、女性―――ラメールはドレイクが運営する酒場の出口へ向かう。

 

 

「行ってきな―――海神殺し( ・ ・ ・ ・ )

「……あぁ、行ってくる」

 

 

 背に投げかけられた短くも頼もしい激励に、この海の支配者すら沈めてみせた最強のハンターは、左手を軽く掲げて答えるのだった。

 




 
 今回のイベント、皆さんはもうクリアしましたか? いやぁ、自分はこのイベントは良い、このイベントは駄目、みたいな事は考えず、純粋にストーリーを楽しむ性格なんですが、今回のイベントは本当に良かったですねッ! 実に私好みのストーリー構成で、龍馬とお竜さんが再起するところなんて手を叩いて喜んじゃいましたよ。
 可能ならばガチャで引きたかったんですけど、そろそろコヤンスカヤ関連のイベントが来るそうですし、そうなるといよいよ安倍晴明が来そうなので……。お金もあんまり無いですし。やはり世の中は金……。

 何はともあれ、次回もお楽しみにッ!
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