昨日から新しくクリスマスイベントが始まりましたね。
ガチャにスカディが来ましたが、自分は今後来るコヤンスカヤイベの備えるため、我慢します。福袋で当たれば嬉しいですねぇ……。
それは、カルデアがギリシャ異聞帯攻略を開始する少し前になる。
いずれ来るであろうカルデアに対する防衛準備を進めている中、オデュッセウスはカルデアが出現すると考えられる場所をピックアップする為、アトランティス全域にオリュンポス船団を派遣した事があった。
その際、ある方角へ向かわせた船団からの通信で、地図に無い島を見つけた、というものがあった。
基本、新たな島が形成される原因となり得るものは海底火山の噴火なのだが、その地域には海底火山なんてものはまず存在しない。出現する経緯が不明な、ある日ポンとその姿を現したその島に不気味な気持ちを抱きながらも、オデュッセウスは兵士達にその島の調査を命じた。
万が一の為にと他の船団を周囲に待機させ、その島に住まう何者かが現れた時にはすぐさま攻撃できるようにしたのだが、そのような事は起きなかった。
結果としてオデュッセウスが知り得たのは、その島には動植物の気配はまるで感じられなかった、という情報だけだった。
脅威となる存在がいないのであれば、捨て置いても問題はない。そう考えて、オデュッセウスはその島を放置する事にしたのだ。
―――彼は気付くはずもなかった。
その島は、この星の抑止力によって招かれた存在が住処としていた場所であった事を。
そして、その島の主は、既にオデュッセウス達でさえ感知出来ぬほどの地下に潜り込んでいた事を。
「な―――ッ!?」
予想外の超巨大生物の出現を前に、オデュッセウスの口から驚愕の声が漏れる。
地震と共に姿を現したラヴィエンテは、彼はおろか、この場にいる誰もが初めて見る存在だ。先程まで彼に追い詰めていたカルデアも、そのカルデアを攻撃すべく海中に潜っていたカイニスでさえも、天にも届かん程の巨体を誇るラヴィエンテを視界に入れてその動きを止めてしまっている。
ラヴィエンテの頭部が下げられ、自分を見上げているであろう者達と目が合う。
『異星の神』なる存在によって地表の全てを漂白された地球がカウンターとして召喚したモンスター達の一体であるラヴィエンテにとって、『出現した異聞帯の破壊』を最優先事項と定められている。
そして、先程自分が吞み込んだ船団や、今まさに自分を見上げている者達が、この偽りの正史に住まう存在である事は、既に理解していた。
ならば、彼が為すべき事は決まっている。
「グルォアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
大きく開かれた顎門からバインドボイスが放たれ、誰もが反射的に耳を塞ぐ。しかし、それでも貫通してきた大音量によって鼓膜を破られる者が多数現れ、また堪らず体勢を崩す者も多く現れた。
オデュッセウスもまた例外ではなく、辛うじて鼓膜は破られなかったが、超巨大モンスターの咆哮によって、その動きを封じられてしまった。
オリュンポス船団もカルデアも関係なく、咆哮のみで動きを封じたラヴィエンテだが、彼にとっては咆哮は攻撃ですらなく、戦闘開始の合図を告げた程度のものだった。
「オデュッセウスッ!」
自分の隣にいる、オリュンポス船団兼防衛軍に加わっていた半人半馬の英雄、ケイローンが叫ぶ。
ケイローン―――汎人類史では数多の英雄達を教え導いてきたケンタウロスとして伝えられているギリシャ英雄の一人。父に大地と豊穣の神クロノスを、母に女神ピリュラーを持つ、正真正銘の神霊。その最期は、ヘラクレスの誤射によって肉体をヒュドラ毒に侵され、その苦しみから逃れる為に不死の力を失った事に起因する。
しかし、
この場にいる誰よりも優秀だと思える男の声に、オデュッセウスはすぐに態勢を立て直し、自分が率いる船団にラヴィエンテを攻撃するよう指示を飛ばし、カイニスには変わらずカルデアを攻撃するように指示する。
突然現れたラヴィエンテを討伐、ないし撃退を視野に入れざるを得なくなったのは誤算だったが、だからと言ってカルデアを野放しにするつもりはない。
幸い、ここは海上だ。海神ポセイドンの偏愛を受けた彼は、海の上限定であれど、あらゆるダメージを無効化するスキルを保有している。
彼がカルデアの船の中に侵入できれば、それだけでカルデアは全滅させられる。
ならば、とオデュッセウスはモンスターを睨み上げる。
取り囲むように配置させた船団、そしてエキドナに産ませた怪物達の攻撃を受けても尚、ラヴィエンテは煩わしそうに身動ぎする程度。しかし次の瞬間、その全身からなにかを放出させ、それは頭上からゆっくりと降下してくる。
目を細めたオデュッセウスが、頭上を覆うものが粉塵だと気付いた途端、背筋に悪寒が走った。
「ケイローン」
「はい」
「可能な範囲でいい。上空の粉塵を吹き飛ばせ」
「了解しました」
指揮官の指示に従い、ケイローンはまず最初に自分達の乗る船に降り注いでくる粉塵に向かって矢を放つ。
神霊の膂力によって放たれた矢は、上空の粉塵を吹き飛ばし、続いて放った幾本もの矢が、他の船に降り注ぐ粉塵も蹴散らしていく。
しかし、ケイローンをしてもどうしても届かない場所がある。
ラヴィエンテの後方。ラヴィエンテの巨大な体躯が壁になってしまっている事から、その向こうにある仲間達の船を護れないのだ。
歯噛みしたケイローンを嘲笑うかのように、ラヴィエンテがアギトに極大な火球を生成する。
瞬間、その熱気に当てられた粉塵が爆発。
上空が一気に真紅に染まり、爆発が生んだ熱風が彼らの全身に叩きつけられる。
しかし、それでラヴィエンテの攻撃が終わらない事は、誰もが理解していた。
「ビームセイルを張れッ! 水流操作後、全速力で散開せよッ!」
兵士達の応答が聞こえた後、自分達が乗った船を含めた全ての船が散らばる。次の瞬間、上空を覆っていた黒煙を突き破って、無数の極大火球が落ちてきた。
一瞬の間を置いて―――大爆発が起こる。
降り注いできた極大火球の一つ一つが、逃れる船団の内の数十隻をまとめて消し飛ばし、辛うじて直撃を逃れた船さえ、その爆風で木っ端微塵にしてしまった。
火球一発で数十隻の船が跡形もなく消し飛んだ光景に、オデュッセウスは戦慄した。
これが、たった一体の怪物によって引き起こされた事態なのか、と驚愕せずにはいられなかった。
ラヴィエンテの視線が、生き残った船の一隻―――オデュッセウスが乗っている船に向けられる。
瞬間、オデュッセウスは、自分達とその怪物の格の違いを確信した。
力量差だけではない。まず、生物としての格すら、自分達はこの怪物に負けている。下手をすれば、崇高なる神々にも届き得るレベルだろう。
しかし、そう考えた瞬間、オデュッセウスは自分を叱りつけるように、仮面を外して露わになった顔面を殴りつけた。
突然自分の顔を殴ったオデュッセウスに、ケイローンの訝し気な視線が向けられるも、当の本人はその事に気付かない。
それ程までの激情に、彼の心は染まっていたのだ。
「……ふざけるな。あの方々に比肩し得るだと……? あり得るものか……あり得るものかッ!」
この世界において唯一にして絶対なる存在とは、偉大なる神々の王―――ゼウスに他ならない。
一瞬でも、あの御方に届き得る格をこの怪物が持つなど思った自分が情けない。情けなさ過ぎて、地獄の業火が如き憤怒の情すら湧いてくる。
何度か深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。そのお陰か、先程まで荒ぶっていた思考が元の冷静さを取り戻し、彼にとっての正しき答えを提示してくる。
なるほど、確かにあの怪物は強力だ。このオリュンポス船団のみで戦いを挑んでは、返り討ちにされるのは間違いないだろう。しかし、だからといって、あの怪物の実力が神々と同等であるはずなどない。あの程度の怪物など、偉大なる主神ゼウス、いや、アフロディーテやデメテルの前では無力に等しき存在だろう。
ならば、彼らと同等の
自分の手元に用意された手札の中でも、最強の力を持つそれは、本来ならばカルデアの殲滅に使いたいところだったが、なにも一回きりのものではない。あの星を穿つ一撃ならば、あの怪物をも灰燼に帰すに違いない。
オデュッセウスがオリュンポス兵に指示を飛ばそうとした刹那―――どこかから大砲を撃つような音が聞こえてきた。
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「チャンスだ。恐らく、あのモンスターの出現は彼らにとっても予想外の出来事だったのだろう。今の内に包囲網を突破する」
海中を進んできたカイニスの襲撃をなんとか凌ぎ切った立香達。
ギリシャ異聞帯到着直後にオデュッセウスとアトランティス防衛軍による待ち伏せを受けた彼女達は、各々が持ち得る技術をフル活用して次々と襲い来る脅威を撃退してきた。しかし、自分達と彼らの圧倒的な戦力差を前にして、このままでは鏖殺されるまで時間の問題かと思われていた。
そんな彼女達にとってラヴィエンテの出現は不幸中の幸いと言うべきものだろう。
これまでの異聞帯で味方として戦ってくれたサーヴァント達と同じような、抑止力の使いとして召喚されたのか、それとも元々この異聞帯に生息していた個体なのかは不明だが、ラヴィエンテの出現によって、オデュッセウス達は自分達の他にも、そちらの対応にも追われる必要が出てきたのだ。
海上にいる限り無敵を誇るカイニスの襲撃こそ最悪の一言に尽きるものだったが、そこも立香とマシュ、そして立香がカルデアから召喚したサーヴァント達の尽力によって耐え切る事が出来た。
「だ、だが大丈夫なのかね? あのモンスター、技術顧問が言うに“大巌竜”なのだろう? 伝説じゃあ、『自らの腹を満たす為だけに島の生命全てを喰らい尽くした』と語られる化け物だろう? そんなモンスターが逃げようとしている我々に気付いたら……」
「こちらに友好的な姿勢は感じられない以上、間違いなく攻撃されますね。仮に狙われなくとも、攻撃の余波で消し飛ぶ可能性もある」
先の極大火球による被害は、立香達も当然見ている。
装甲の強度で言えば、アトランティス防衛軍の船よりこちらの方が断然高いが、だからと言ってあの攻撃を耐えられるかと問われたらノーと言わざるを得ない。余波だけだろうと、必ず艦のどこかが故障する。あの火球はそれほどの威力を持っていると、ホームズは誰よりも早く理解していた。
「では、もし気付かれた場合は……」
「なに。初歩的な事さ、ミス・キリエライト。そう深く考える必要すらない、単純明快な答えだとも。君はわかるかい? ミス・立香」
愚直に戦っては返り討ちに合うのが確定なオリュンポス船団。
火球一発で数十隻の船を焼却し、またその余波で周辺を消し飛ばす“大巌竜”。
前者でさえ対処するのが手一杯だったのに、そこに後者も加わっては溜まったものではない。しかし、今は両者が交戦している状態。だが、もしラヴィエンテがこちらに意識を向けたとしたら……?
「逃げよう。うん、全速力で」
「その通り。キャプテン・ネモ。ここは逃げの一手だ。大胆かつ慎重に、この場から離脱しようか」
「そんなのわかってるからッ! エンジン、かっ飛ばすからねッ!」
『おうよッ! こんなところで死にたかねぇからなッ!』
「マリーンッ! 索敵よろしくッ!」
「は~いッ! 敵を見つけ次第、魚雷ぶっぱしま~すッ! ―――あれ?」
威勢よく返事したマリーンの一人が、なにかに気付いたのか目を細めた。
どうしたのか、とネモが訊ねると、そのマリーンは「なんか上空にサーヴァント反応があるよ~」と答えた。
上空にいる、という事は翼を持っているか、浮遊に関係する英霊が来たのかと思い、ダ・ヴィンチはシオンが準備してくれた装備の一つである超望遠レンズを使ってみる。
「な、なにあれ……」
「どうしたの? ダ・ヴィンチ?」
「……こんな状況で言う事じゃないけど、面白いものが見えるよ。立香ちゃんも、ほら」
「う、うん」
言われるがままに、立香は望遠レンズを覗き込む。
槍と大砲を合わせたような装備に何度も火を噴かせながらこちらへ飛んでくる、青黒い鎧に身を包んだサーヴァント。
男性か女性か、外見からは判別しにくいが、立香はそれよりも、そのサーヴァントが身につけている鎧と、その手に持つ銃槍に注目した。
重厚なデザインの武器に、なにかしらの竜を連想させる防具。
その外見に、立香は我知らずこう呟いた。
「あれって……ハンター?」
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「……海神殺しか」
カルデアがそれを確認するのと同時に、オデュッセウスもまた上空からやって来るサーヴァントに気付いた。
オデュッセウスはカルデアがやって来る前に、アトランティスに多く点在する霊脈からサーヴァントを召喚し、即座に殺害していた。カルデアがこの地で新たな戦力を獲得するのを防ぐ為だ。
オデュッセウス自身が生かすと決めたとある一騎を除けば、サーヴァント達は問題なく処分できていた。……しかし、そんな中で、唯一彼らによる殺害を免れた者がいた。
それこそが、今上空にいるハンター―――ラメールだ。
砲身と槍が合体したような武器―――偉大なるギリシャの神々がこの星に降り立つ前ではガンランスと呼ばれていたものを担いだ彼女は、召喚されると同時に自身を包囲したオデュッセウス達を即座に敵と判断。“モンスターハンター”の称号に違わぬ実力を以て、オデュッセウスとケイローン、そしてアトランティス兵を蹴散らし、そのままガンランスから砲撃を行ったかと思えば、その衝撃を利用して別の島まで飛んでいってしまったのだ。
砲撃を利用して空を飛ぶなどという出来事には、流石のオデュッセウスも驚愕を通り越して呆れてしまったレベルだ。
すぐに他の島に駐屯させていた兵士達に捜索を命じたのだが、結局彼女の行方は掴めず、オデュッセウスはサーヴァントを取り逃したという屈辱に見舞われた。
そんな彼女に関する新たな情報を掴めたのは、それからしばらく経った頃だった。
オデュッセウス達が気付かぬ間に召喚されていたフランシス・ドレイクや、他のサーヴァント達と結託した彼女は、あろう事か地下に存在するオリュンポスの番人の役割を担っていたポセイドンと交戦し、
その際、彼女はドレイクと共にポセイドンから呪いを受け、今回の現界中は海に入れば死ぬ状態になった。しかし、彼女はドレイクのような、船を駆って海を渡る者ではなかった。
海を駆れないのであれば、空を渡れば良いのだ―――そうラメールは考え、そして実行に移した。
その結果が、これだ。
「ハアアアァァッッ!!」
肺に溜めた全酸素を吐き出すかのように発せられた叫びと共に、ガンランスが振り下ろされる。
巨大なモンスターが自らに迫る狩人に気付くも、時既に遅し。
狙うは、ラヴィエンテの背中から突き出た、人間大のサイズを誇る結晶―――輝結晶である。
狩人の狙い通り、結晶はガンランスの一撃によって亀裂が入り、続いて繰り出した砲撃が、結晶を粉砕した。
「ギャアアアアアアァァァッッッ!?!??」
自らにとっての弱点を破壊されたラヴィエンテが絶叫し、激しく身動ぎする。
超巨大モンスターが激しくのたうち回った事で周辺の海が荒れ、それだけでも幾隻の船が沈んでしまった。
オリュンポス船団団長兼アトランティス防衛軍指揮官を務めるオデュッセウスにとっても、この混乱に乗じて包囲網から脱出しようとしていたカルデアにとっても、ラヴィエンテとこの海の荒れ様は傍迷惑にも程があった。
激痛による身悶えでお互いの船が潰されるなど溜まったものではない。
激しい揺れに襲われる艦内で近くにあるものにしがみついた立香は、揺れが収まると再びレンズを覗き込む。
突如ラヴィエンテに攻撃を仕掛けた狩人の姿は、すぐに見つかった。
黒ずんだ外殻に銃槍を深く突き刺していた狩人は、ラヴィエンテから振り落とされないように必死に柄を握っていた。
だが、あのままでいてはいずれ振り落とされてしまうのも時間の問題だろう。
「みんなッ! あの人、助けられないかなッ!」
「な……ッ! なにを言っているのかね君ィッ!? ラヴィエンテに攻撃したサーヴァント―――君が言うにはハンターらしいが、そいつを助けるという事は、あのモンスターに突撃すると言っているようなものだぞッ!?」
真っ先に拒絶の意を示したのは、現カルデア所長を務めるゴルドルフ。
策略家として知られているオデュッセウスだけでも相手したくないというのに、新たに出現した超巨大モンスターに自ら突っ込んでいくなど、自分が臆病者であると自負しているゴルドルフにとっては考えたくもない事だった。
立香自身も、その事は重々承知している。
今最も優先すべき事は、この場からの離脱を図る事。自分達が敗北してしまえば、汎人類史の奪還という目的は潰えてしまう。
しかし、それでも彼女は、あの狩人の救助を優先してしまうのだ。
「お願いします……ッ! あの人を、見捨てたくないんですッ!」
頭を下げて懇願した立香に、艦内が静寂に包まれる。
自分勝手な判断、説得するに足る理由も無いままに頭を下げた立香は、果たして自分の言葉が届くかと、胸の中が不安で一杯になるが、それでも決して頭を上げたりはしなかった。
しばしの間を置いて「……はぁ」と溜息を吐いて静寂を破ったのは、額に手を当てたゴルドルフだった。
「……わかった。行ってきなさい。ただしッ! こちらが無理だと判断したらすぐに逃げるからなッ!」
「……ッ! ありがとうございますッ! マシュッ!」
「はいッ! マシュ・キリエライト、先輩の護衛を務めさせていただきますッ!」
立香の熱意に根負けしたゴルドルフの許可を受け取り、立香は早速マシュと共に甲板に出る。
数百メートル先にいても尚、その威容を崩さずに存在感を放ち続けるラヴィエンテは、自分の体に張り付いているハンターよりもオリュンポス船団の殲滅を優先したのか、再び火球を発射して十隻以上の船を塵に変えていた。
生き残っている船もバリスタから光の矢のようなものを飛ばしているが、ラヴィエンテはそれを鬱陶しげに受けるだけで、大してダメージを与えられているような雰囲気は感じられない。
しかし、両者の交戦はすぐに幕を閉じた。
「……船団が……」
「退いていきますね……」
突如として船団が方向転換し、蜘蛛の子を散らすようにラヴィエンテから離れ始めたのだ。
オデュッセウスもこれ以上ラヴィエンテの相手をしていては船団が全滅すると思ったのだろう。瞬く間にラヴィエンテから離れていく。
『……嫌な予感がする。ミス・立香、ハンターを助けるのなら、迅速果断に行動すべきだ』
「はいッ!」
立香が答えた直後、ラヴィエンテが咆哮を轟かせる。
オリュンポス船団の撤退を許せないのか、その巨体からは想像できない俊敏な動きで船団を追おうとする。
その時、ラヴィエンテの体から小さな点のようなものが離れた。
『立香~ッ! あれ、きっとハンターだよ~ッ! 振り落とされちゃったんだッ!』
「マシュッ!」
「はいッ!」
「投げてッ!」
「はいッ! ……って、えぇッ!?」
突然とんでもない事を言ってのけた主に、堪らずマシュが素っ頓狂な声を上げた。
しかし、立香の有無を言わさぬ表情に息を呑み、やがて決心したように頷いた。
立香の体を持ち上げ、両腕に力を籠める。
そして―――
「ヤアアアァァァッ!!!」
常人のそれとは比べ物にならぬ膂力を以て、立香を投擲した。
「英霊召喚―――」
全身に風を浴びながら、立香は“彷徨海”に設立されたカルデア本部にいるサーヴァントの一騎に呼びかける。
狩人との距離は少しずつ近づいている。このままでは衝突は避けられないが、あのサーヴァントを受け止めるのは自分の役割ではない。
自分の役割は、少しでもあのサーヴァントとの距離を縮め、即座に救助と離脱が可能な味方を召喚する事。
「―――来て、赤衣さんッ!」
開かれていた掌を握れば、立香の前にカルデアにいるサーヴァントの一騎が出現する。
「ハハハッ!私を喚んだか、マスターよッ!」
「話は後ッ!今はあの人を助けてッ!」
真紅のコートをはためかせて歓喜の声を上げるサーヴァント―――赤衣の男は、主の切羽詰まった叫びに押されて彼女の視線を追い、そこにいる狩人を見た瞬間、「む、なるほど」と納得したように頷き、植物で出来た右腕を向ける。
「来たまえ、竜機兵よッ!」
『ガガガガガガガガガッッッ!!!』
歪められた空間から、金属が軋むような咆哮と共に現れた継ぎ接ぎの幻想種が、接続痕の残る前足でハンターを受け止める。もう片方の前足には、立香は抱えた赤衣の男が降り立った。
「これは……」
「久しいな、モンスターハンター」
「……赤衣か。
自分を載せる前足から、頭上にある頭部を見上げたラメールは、防具の隙間から見える青い瞳で赤衣の男を睨みつける。
「当然だろう? 超古代の人類の遺産だ。私が彼らの代わりに使用している。別の使い魔もいるがね」
「ならば即刻そいつを出せ。でなければ―――
「なに? ……ッ!? しまったッ!」
「え? きゃあッ!?」
なにかに気付いて蒼褪めた表情をした赤衣が立香を抱えたまま飛び降りた直後、竜機兵の全身に無数の風穴が開いた。
何者かによって瞬時に数射を叩き込まれた竜機兵は、一瞬の間を置いて爆散。
続いて飛んできた矢が、今度は赤衣の男目掛けて飛んでくる。
「く―――落とし子よッ!」
苦し紛れに赤衣が出現させた異形が矢を阻む。そこからさらに矢が飛んでくるが、異形は触手を振るって迎撃する。
触手の数本が焼け落ちたが、それでも異形は赤衣の男と立香を護り抜く事に成功し、それ以降は矢による攻撃もなくなった。
代わりに、射手は矢を放つ対象をラメールに向けたようだ。
だが、それに気付いたラメールに焦りの色はなく、逆に困惑しているような表情だった。
「少女よ、君の名は?」
「え? えと、藤丸立香です」
「では、立香よ。私の真名を告げておこう。私はモンスターハンターの一人、ラメール。次に会う島がどこかはわからないが、また会う日を楽しみにしている。さらばだ」
瞬間、彼女目掛けて矢が飛んでくる。
立香がそれを避けるようにと叫ぶも、ラメールはなにも返さずに武器を消滅させる。
そして矢のシャフトを掴み、そのまま飛んでいってしまった。
「え、ええええぇぇぇぇ……???」
予想外の出来事に、最早立香は頭上に
その後、なんとか赤衣の男によってマシュと共に艦内に戻った立香は、そのまま近くの島に避難する事となった。
その次の瞬間、オリュンポス船団を追いかけていたラヴィエンテに天空からの光が降り注いだ。―――が、その光が収まった時、そこにはラヴィエンテの姿は無く、代わりにその巨体がまるまる収まりそうな穴が海底に出来ていた事には、オデュッセウスもカルデアも驚愕せざるを得なかったのだった。
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「……お姉様から聞いてはいたけど、まさか本当に使ってるなんてね」
構えを解き、自らの分身にも等しき武器―――“鳳凰ガ体現セシ弓矢”を消滅させた少女は、心の底から湧き上がる激情を飲み込むように深呼吸を繰り返す。
自分をこの海に派遣した主から話を聞かされてはいたが、こうして実際にその気配を感じれば、嫌でも本当にあの兵器がこの時代に蘇ったのだという事実を突きつけられる。
いつか殺す。あの男共々殺し尽くす―――そう心に誓ってから、別の事を考え始める。
「ええっと、なんだっけ……ポセ……ポセ……あぁ、そうだ。ポセイドンッ! ラメールに呪いをかけるなんて、許せないッ! あの人が海に入っただけで死ぬなんて、そんなの絶対に許さないからッ! まぁ、もう沈んじゃってるから、私が手を下す必要は無くなっちゃったみたいだけど……。まぁいいや。そいつを殺せなかったのはもうどうでもいいとして、早く準備を完了させなくっちゃッ! みんな~ッ!」
パンパンと手を叩けば、目の前の海から無数の気配が感じられた。
主人にして姉であるアンナが、従者にして妹たる彼女―――ミラオスに与えたモンスター達だ。
「暴れたい気持ちはわかるけど、ここはまだ我慢だよ。が・ま・ん♪ 私がこの海を変えたら、好きにしちゃっていいからねッ! それまでは静かにしてて、ね?」
ミラオスの言葉に彼らは返事は返さず、代わりに自分達の気配を消す事で了解の意を示した。
そして最後に、ミラオスはこの場に残った存在に諫めるように人差し指を立てた。
「特に君はね。君が暴れるのは、ラヴィエンテをやっつける時だよ。それまでは本当に大人しくしててね?」
ミラオスの忠告に、
最後は大分駆け足になってしまいましたね……。
ガンランスはライズで空を飛べるって事が証明されたため、こんな感じにしてみました。
ラヴィエンテはゲーム内だと、輝結晶を破壊するとスタンを取れるんですが、それでは面白くないので大ダメージを受けるという設定にしてみました。
しかし、そのせいでゲームよりも強力な個体となってしまいましたが、これぐらいが