【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 どうも皆さん。
 スカディが欲しくて呼符ジャブを行ったところ、まさかのクリーンヒットを決めてしまった結果、そのツケとしてツングースカ三巨人に令呪三画を奪われたseven774です。
 NPC伊吹童子とマシュの使い方を誤ってしまいました……。
 スカディと太公望、組ませたら面白い事になりそうですよね。バサスロを挟んでもらったらさぞかし気持ちいい事でしょう。
 ニキチッチはオレっ娘巨乳ケモ伴侶大好き属性持ちだったので、是非とも引き当てたいですねぇ。スキルもいい感じにまとまっているという印象でしたし。
 メリュジーヌも欲しいところなんですが、どう運用すればいいのかわからず、当てても腐らせてしまいなのが怖くて……。レイ・ホライゾン、第三再臨から第一再臨に戻せるようにしてほしいです(あと戻ってもNP50チャージ出来るようにしてください)。


煉黒の少女と海の美女

 

「う~ん……もう少し、ってところまで来てはいるんだけどなぁ」

 

 

 自分の数十倍ほどの大きさを誇る巨大な繭から手を離す。

 未だに胎動を続けるように定期的に光を放つそれを見上げ、アンナは顎に手を当てて考え込む。

 

 

「サーヴァントは餌にしてるし、倒された古龍やモンスター達の生命エネルギーも間違いなく流れ込んでる……。それでも、まだ足りないの? もしかして、産まれるのはもっと先だったり?」

 

 

 アンナがこの繭を見つけたのは、このシュレイド異聞帯にしっかりとした根を下ろした後の事だった。

 『異星の神』なる者にこの異聞帯に派遣された後、自らが召喚した弟妹達にこちら側の彼らを討伐させ、その力を取り込ませた。その後に発見したのが、この繭だった。

 果たして、この繭を産み落としたのがどちら( ・ ・ ・ )なのかはわからないが、母親からしてみても、この子が生まれるまでに必要なエネルギーは予想外のものだったろう。

 それとも、自分がこの異聞帯に足を踏み入れる来る前から、既にこの繭は王を育む揺り籠としての役割を担っていた、という事だろうか。

 シュレイド異聞帯に支配者は必要ない。だが、この地を代表する存在は必要だ。

 だからこそ、この繭より生まれ出でる存在は、かつて“古龍の王”となるべく汎人類史に誕生した同種をも超える、いわば、“星の王”と呼称するに相応しい力を蓄えているのではなかろうか。

 となると、産まれてきた後に教えるべきは、やはり龍脈の扱い方だろう。

 龍脈というものは絶対だ。人体にとっての血にも等しき概念であるそれは、この惑星における過去の全てを記録しているし、現在進行形で様々な情報が記録されてもいる。また、この星を護るべく創造されたアンナや、彼女によりこの世に生を受けた竜種の一部は、この龍脈の力を使う事が出来る。

 母なる星の血を使う以上、細心の注意を払わなければならない。下手をすれば、護るべきはずの星を殺してしまう危険性を孕んでいるのだから。

 

 誕生後に取るべき行動はこれで良しとして、その次は誕生を早める方法を模索しなければならない。

 

 王の誕生はなるべく急ぎたいところだ。『異星の神』への対抗策として使えるのもそうだが、それとは別に、アンナにとっては排除したい存在もいる。

 

 それ即ち―――南米に眠る水晶蜘蛛。

 

 宙の果てより来訪した存在。彗星のアルテミット・ワン。他ならぬ()と同格の、最強の生命体。

 蜘蛛が落ちてきた様子はアンナ自身も確認しているが、落下地点を中心に発生した水晶渓谷には最大の警戒を示す他なかった。

 この星の法則が通用しない以上、星の守護者たるアンナは星の力を使えないまま戦う事になる。結論から言えば、まず間違いなく敗北する。 

 

 ならば、それに対抗できる手札を用意しなければならない。

 この繭から誕生する存在を、自分と同じ“星の代表者”として育て上げるしかない。

 

 英霊を取り込ませ、死した竜種のエネルギーを充填させている分、誕生時から知識は充分に備わっている事だろう。そこから自分達で調整を加え、大蜘蛛討伐の戦力とする。

 異聞の存在とはいえ、自分の子どもにも等しい存在を道具のように扱うのは良い気分ではないが、今回ばかりは割り切るしかない。

 

 取り敢えず方針は固めたので、アンナは繭に背を向けて歩き始める。が、その足は数歩進んだところで止まった。

 

 

「へぇ……? これはまた、随分と珍しいお客様だこと」

「…………」

 

 

 アンナの前に立っていたのは、白衣の上にボロボロのローブを纏う青年。フードを目深に被っているため、顔全体を窺う事は出来ないが、彼から注がれる視線には、こちらを品定めするような意思が見て取れる。

 

 

「ミラオスから聞いたよ。君、ギリシャにいたんだってね。もしかして、他の異聞帯にも顔を出したりしてるのかな。いったいなにをしていたの?」

「答えたところで、どうするつもりだ?」

「なにも。ただ気になった事を聞いてみただけだよ。答えたくないならそれでもいい」

 

 

 アンナのその言葉に、青年は沈黙で答えた。

 アンナは「わかったよ」と笑顔で頷き、手頃な大きさの龍結晶に腰を下ろした。

 

 

「それで? 君がここに来た理由を聞かせてくれるかな? 『カルデアの者』さん?」

「……貴様は、どちら側( ・ ・ ・ ・ )に付くつもりだ?」

 

 

 見定めるような鋭い視線が、アンナを貫く。

 ふざけた答えは決して許さないと無言の圧力がかかるも、アンナは平然とした様子で顎に指を添えてみせる。

 

 

「君が()なのか、それとも別の誰か( ・ ・ ・ ・ )なのか……私にはわからないし、その姿を取っている理由も知らない。でも、もし君が、一度世界を灼き尽くした()ならば、答えはわかり切ってるはずだよね?」

 

 

 目を細めて妖しく笑う。

 蒼く輝く結晶に囲まれたこの地で笑う彼女は、さぞかし絵になる事だろう。けれど、それは青年にとっては、彼女に対する警戒を高めるという結果をもたらすものでしかなかった。

 

 

八番目( ・ ・ ・ )の席には、私が着く。……あくまで予定だけどね。あははっ」

「……やはり貴様は、ここで消しておくべきか」

 

 

 青年がその手に眩い光を灯す。

 しかし次の瞬間、青年はフードの奥にある瞳を見開き、背後に向けて光を放った。

 青年の右手より放たれた光球は、しかし劫炎を纏う剣によって両断され、そのままもう一本の刃が青年の首を斬り捨てんとばかりに迫った。

 青年はすぐさま飛び退くが、空を切った斬撃は真空波となって彼を追い、咄嗟に障壁を張って防いだ。

 

 

「悪いけど、死ぬつもりはないし、殺されるつもりもない。戦わないのなら滞在は許すけど、破るというのなら容赦はしないわ」

 

 

 双剣を携えた狂戦士から視線を動かせば、背後に立つアンナがその手に緋雷を纏わせていた。

 前方には“黒龍”、後方には“祖龍”。幻想種の頂点に君臨する竜種における最強中の最強格である存在に挟まれ、青年は戦意を解く他なかった。

 

 

「もういい。私はお前の答えが聞きたかっただけだ。“試練”に縛られた女よ」

「“試練”は素晴らしいものよ。それがあの子達の為になるのなら、この命だって惜しくはない程に、ね」

「……ふん」

 

 

 アンナの答えを聞き終えた後、青年は青い光に包まれて姿を消した。気配が完全に消えたという事は、この異聞帯から離脱したのだろう。

 

 

「ありがとね、ボレアス」

「マスター……姉上に害する者は排除する。(わたし)にとっては、当然の事だ」

「ふふっ、そう言われちゃうと照れるなぁ。よしよし、偉いねぇ、ボレアス」

「むっ、姉上、このような事は……その……恥ずかしい……」

 

 

 少し頬を朱く染めて離れる弟の様子を微笑ましく思い、もう少し頭を撫でてやりたいと考えるアンナだが、「そういえば」とふと考え込む。

 

 

(ミラオス、ちゃんと仕事してるかな?)

 

 

 仕事や自分の好きな事をする以外には基本的に自堕落な生活を送っている妹が、ギリシャでしっかり仕事しているのか、少し気になる姉だった。

 

 

 

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「ふむふむ、カルデアはこっちに来るかぁ。まぁ、そうだもんね。こっちにはサーヴァントも何騎かいるし」

 

 

 爬虫類のそれを連想させる眼を閉じる。

 海賊服に身を包んだ青年が駆る船に乗って、現在ミラオスがいるヘラクレス島に向かってきているカルデアの面々。

 アトランティスに点在する神殿の存在を知ったのか、その中にいる一騎のサーヴァントの魔力が飛躍的に上昇しているのを確認し、うんうんとミラオスは嬉しそうに頷いた。

 神殿に残る技術は、既にこの異聞帯では打ち捨てられたものであるが、それでもギリシャの機神の原動力となる高純度のエネルギーだ。地球外の技術、という点ではミラオス及び“禁忌”にとっては認められた話ではないが、あれぐらいの事をしないと、カルデアはギリシャ異聞帯を攻略できないと理解している以上、渋々といった気持ちで受け入れている。

 渋々受け入れるぐらいなら、ミラオス自身がオリュンポス船団やアルテミスを倒してしまえばいいと考える者がいると思うが、それは彼女の流儀に反するものである。

 ぶっちゃけてしまえば、ミラオスにとってオリュンポス船団など物の数に入らないし、アルテミスなど以ての外だった。

 海の上でしかその真価を発揮できない船団なぞ、海こそホームグラウンドである彼女の権能(チカラ)を以てすれば簡単に全滅に追い込める。

 遥か彼方の宙に浮かぶアルテミスは、大きな動きを取る事すら出来ないだろう。動かない的など、射手からすれば恰好の標的に他ならない。

 流石に弓矢では届かないが、それで駄目なら、本来の姿に戻ってしまえばいい。標的さえ補足してしまえば、彼女の弾は宙にいる機神すら射ち落すだろう。

 

 しかし、彼女はそれをしない。

 ミラオスは妹に“煌黒龍”を持つも、精神年齢は兄弟姉妹の中でも低い部類だ。それでも、彼女はかつて世界を窮地に陥れた“禁忌”の一角だ。

 故に、彼女を含めた“禁忌”の龍達の根底には、人類に対する“試練”としての矜持がある。

 各々がこの星を滅ぼせる実力を備えている以上、人類には自分達という“試練”を乗り越えるに足る技量を備えてもらわなければならない。そうでなければ試練は試練たり得ないからだ。

 彼女がオリュンポス船団及びアルテミスを放置する理由はそれに該当する。

 この二つは、カルデアが己の力で解決すべき課題。達成の為なら、はぐれのサーヴァントや協力的な現地人と協力するのも良しとしよう。だが、“禁忌”は絶対に介入しないし、手助けをするつもりもない。この制約を破る時は、カルデアだけでは本当に対処できない事態が起きた時だけだ。

 カルデアは現時点において、白紙化された汎人類史を護る最後の砦だ。だからこそ、アンナや彼女に付き従う“禁忌”は、彼女達に期待をかける。

 自分達の世界を取り戻す為に、八つの世界の破壊を遂行する事となった、星詠みの集団。彼女達がどのような冒険をし、そして成長していくのか、楽しみで仕方ないのだ。

 

 といっても、常日頃からカルデアの事を気にかけているわけではない。

 当然と言えば当然の話だが、自分達も自分達でやりたい事はあるし、各々に与えられた役割を果たす仕事もある。

 シュレイド異聞帯にとって毒にしかならないと確定した存在の排斥。数少ない人間のコロニーの観察。抑止力の遣いであるサーヴァント達の監視に、“王”の育成。そして、これから衝突するであろう異聞帯の調査。

 今回ミラオスに与えられた仕事は五番目だ。

 大西洋に異聞帯が出現した時点で、その大部分が海に占められている事を理解していたアンナは、自分達の中で最も海に関連する存在であるミラオスを派遣した。

 偉大なる創造主にして、敬愛すべき家族であるアンナからの頼みを、ミラオスは当然承諾した。

 現に、この海の大半は既に彼女の領域と化している。

 あと少しすれば、この海は完全に彼女のものとなるだろう。それまでの間、彼女は少し自由に過ごすつもりでいた。

 目ぼしいものが無ければこのまま浸食を続けるのも良かったが、この海には彼女( ・ ・ )がいる。

 

 見覚えのない人物に気付いた島民達の訝しげな視線を無視し、とある店の中に入る。

 ミラオスが入ったその店は、お世辞にも活気のあるとは言えないような酒場。普段、酒場という場所は夜に大量の客が流れ込んでくるような所だが、彼女からすれば、酒場とは昼夜問わずに大勢の客で賑わっているイメージが強い。少なくとも、彼女が生きていた時代の酒場は、昼夜問わず大勢の客が騒いでいた。

 いつ死ぬかわからない自然界に、そこに住まう強大なモンスター達。彼らハンター達にしてみれば、毎日が最後の晩餐状態のようなものだ。

 ミラオスも、その光景は美しく尊いものだと捉えている。人類が勇気を振り絞り、数多の障害や試練に立ち向かっていく様は見ていて心地良い気分になる。

 

 褐色の来客に対し、この酒場のオーナーらしき女性が「いらっしゃい」と言ってきたので、ミラオスは軽く手を振って応えた。

 視線を彷徨わせれば、目当ての人物はすぐに見つかった。

 酒を浴びるように飲んだのか、泥酔していびきをかいている金髪の男性から少し離れた所。

 腕を組み、瞳を閉じている女性を見つけ、ミラオスはオーナーに彼女の前の席に座ってもいいかと訊ねる。

 オーナー―――フランシス・ドレイクが彼女―――ラメールにミラオスを相席させてもいいかと訊ねると、ラメールはいつもと変わらぬ抑揚のない声で「構わない」と答えた。

 ドレイクに酒を注文したミラオスがラメールの前の席に腰を下ろすと、ラメールは閉じていた瞳を開け、目の前に座っている宿敵を視界に収めた。

 

 

「久しぶり、ラメール。生前以来だね」

「……“煉黒龍”か。私を殺しに来たのか?」

 

 

 ラメールの口から出た単語に、酒が注がれたジョッキをテーブルに置いたドレイクの肩がピクリと動き、興味深そうにミラオスに視線を向け始めた。

 

 

「こいつは驚いた。まさか、あの“煉黒龍”かい? “偉大なる創造と破壊”って呼ばれる、あの?」

「そんな御大層な異名、いらないんだけどね。精々島を作ったり沈めたりした程度だし」

 

 

 大した事でもないようにとんでもない事を言ってのけたミラオスに、ドレイクは堪らず「はぁ〜〜……」と感嘆したように漏らした。

 

 

「むしろ私からしたら、君の方が凄いよ。“太陽を落とした女”、“星の開拓者”……どれも素晴らしい功績だよ、フランシス・ドレイクさん?」

「ハハッ。あの伝説の“煉黒龍”に褒められるなんて、照れちまうよ」

 

 

 船乗りとして名を馳せたドレイクにとって、“煉黒龍”の伝説とは馴染み深いものだった。

 自分が産まれるよりも大昔中の大昔に存在したと言われる時代に君臨した、最強の龍の一角。そして、それを討伐した狩人の物語。

 紅き海を舞台に繰り広げられた激闘は、後に数多の男女を魅了する英雄譚として語られる事となった。ドレイクも例に漏れず、それに魅了された男女の一人である。

 そんな彼女が、伝説の住人だと語られたミラオス直々に褒められれば、感無量と言わざるを得ない状態となる他ないだろう。

 嬉しそうに席を離れていくドレイクの背を見送ってから、「さて」とミラオスはラメールに視線を動かした。

 

 

「君の質問に答えるね、ラメール。確かに私は、君との戦いを楽しみにしているけど、今の君を倒しても意味なんてないでしょ? 今はそんな事より、また君に会えた事が、私は嬉しいな♪」

 

 

 頬杖を突いてニコニコと笑うミラオスに対して、ラメールはその仏頂面を変える素振りは見せない。

 ラメールはそれなりに整った顔立ちの、世間一般から見れば間違いなく美女にカテゴライズされる女性だ。笑えばより美しく、可憐な彼女の姿を見れるだろうが、生憎と彼女が笑う事はほとんどない。辛うじて、その身に纏う雰囲気が若干明るくなる程度のものだ。

 向日葵のような明るい笑顔の褐色の少女と、仏頂面の色白の美女。

 生前は命を奪い合った伝説の戦いを繰り広げた両者の内、先に動いたのはミラオスだった。

 

 

「私達が向き合ったのって、ほんの少ししか無かったけどさ。それでも私、結構気に入ってるんだよ? 君の事」

「それは光栄な事だな。()の“禁忌”に認められるとは」

「もう。少しは表情を変えようよ。雰囲気だけ変えても、気付かない人は気付かないよ?」

「気付く者がいるのなら、それでいい。私には、至極どうでも良い事だがな」

「相変わらず冷たい人だこと。……まぁ、そんなところもひっくるめて、私は君の事が好きなんだけどね」

 

 

 席を立ったミラオスがラメールの背後に回り、彼女の体に両腕を回した。

 

 

「氷のように冷たい、その冷徹さも」

 

 

 細い指に首元をなぞられ、ピクリと一瞬ラメールの体が跳ねる。

 

 

「その奥にある、海の底のように深い、他者への慈しみも」

 

 

 首元から下へ動いた指が、鎧越しにラメールの慎ましい胸部を撫でる。

 

 

「全部ぜ~んぶ……私の好み……。あぁ……本当に、なんで敵になっちゃったのかな? 私達。そうじゃなかったら、君をどこまでも愛して、堕としてあげたかったのに……」

「……生憎と、私にその気はない。諦める事だな、“煉黒龍”」

「つれないなぁ。女の子同士だからって拒む必要は無いんだよ? フフフ……ふぅ~」

「……っ。や、めろ……」

 

 

 試しに耳に息を吹きかけてみれば、ラメールは首元をなぞられた時よりも大きな反応を返してきた。

 そんな彼女の姿に、ミラオスはゾクリとした快感と共に、下腹部が疼いたような気がした。

 

 支配したい。この女性の身も心も支配して、自分に従順な下僕に変えてしまいたい。

 どこまで深く愛して、(ねぶ)って、堕として、自分のものにしてしまいたい。

 誰の目にも触れさせず、誰もその視界に入れる事もなく、ただただ、自分という存在に溺れてほしい。

 足を撃ち抜いて、逃げられないようにするのもいいかもしれない。

 己の支配する海に閉じ込めて、小鳥のように愛でるのもいいかもしれない。

 それとも、本来の姿になって彼女を■■い、本当の意味で一つになってしまうのもいいかもしれない。

 

 狂おしい程の劣情が心の底から湧き上がり、ここが酒場だという事も忘れ、今すぐにでも襲い掛かってしまいたくなる。

 柔らかいながらも、確かに鍛え上げられた両腕を押さえて、組み敷いて、唇を奪ってしまおうか。

 慎ましやかな果実を思うままに貪り、嬌声を上げさせてみようか。

 

 一つ思いついてしまえば、そこからさらに派生していく思考に、ミラオスは我知らずに荒い呼吸を繰り返し、僅かに開かれた口元からは悩ましい吐息が漏れ始める。

 

 

「ねぇ、いいよね? これも一種の戦いだから、ね? どこか行こうよ、ラメール。具体的にはベッドにッ! フフフフッ♪」

「……はぁ」

 

 

 急かすように言葉を紡ぐミラオスに、ラメールが溜息を吐く。

 抵抗する気を失ったのか、とミラオスが唇を三日月のように歪めた直後―――

 

 

「フ……ッ!」

「え……ッ!?」

 

 

 瞬時に拘束を振り解いたラメールに驚愕している間に、逆に両手を掴まれてしまうミラオス。完全に油断していた隙を突かれたために抵抗できなかったミラオスは、為す術なくテーブルの上に押し倒されてしまった。

 

 

「形勢逆転、だな。お前は勝利を確信すると、致命的な隙が生まれる。生前(むかし)と変わらないままだ」

「あ、ぅ、ぁ……」

「どうした? お前からすれば、この状況は願ってもない事だろう? ん?」

 

 

 挑発するような口調と視線でミラオスを責め立てるラメールは、お互いの鼻がくっつきそうな程に顔を近づける。

 既に両者の距離は、あと少し顔を前に動かしてしまえば唇が触れてしまいそうになってしまう程度のものでしかない。

 ラメールに対して強い恋愛感情を抱いているミラオスにとっては願ってもないチャンスだが、当の本人は―――

 

 

「や、やめてラメール……。その、か、顔が近い……ッ」

 

 

 顔面を真っ赤に染め上げて、なんとかお互いの間に挟む事に成功した両手で自分の顔を覆っていた。

 

 

「なぜやめる必要がある? 私がお前を襲えば、それは私がお前に堕ちたも同然の事だろう? ならば、受け入れてもいいじゃないか。ほら、さっきまでの威勢はどうした?」

「や、やだ……ッ! お願い……これ以上はもう……ッ!」

「ふふっ、可愛いな、お前は」

「~~~~~ッッッ!!!」

 

 

 『可愛い』と言われた瞬間、遂に我慢の限界を迎えたミラオスはラメールを突き飛ばし、瞬間移動と見紛う動きで酒場の出入り口に走った。

 

 

「こ、これで勝ったと思わないでよねッ! 次こそは……次こそは絶対、ぜ~ったいッ! 私が勝ってやるんだから~~~~ッ!!!」

 

 

 そんな捨て台詞を吐きながら、ミラオスは酒場から姿を消した。

 

 

「うわ~~んッ! お姉様~~~ッ! ラメールが私をイジメてきた~~~ッ!!! 慰めて~~~ッッッ!!!」

 

 

 号泣しているのか、涙ぐんだ叫び声が木霊する。

 圧倒的な攻めの姿勢を見せておきながら、軽く反撃されただけで撃退された紙装甲“禁忌”の姿に、ドレイクは本当に彼女が船乗りの伝説に語られる“偉大なる破壊と創造”の正体なのかと頭を抱えたくなった。

 だが、あれもあれでいいものだ、と思う自分もいて、ドレイクは小さく苦笑した。

 

 

「やれやれ、ようやく帰ったか」

「なんだい、会った回数は少なかったらしいのに、随分と扱い慣れてるじゃないか」

「同僚にああいうタイプがいた。年がら年中、女の尻を追っているような女だ。正直言って、奴の方が手強い。なにせどれだけ反撃しても、暖簾に腕押しに終わるからな」

「同僚っていうと、そいつもモンスターハンターかい?」

「操虫棍の使い手だ。第一席の“青い星”には及ばないが、我々の中でも上位の実力者に入る。私が座に招かれた以上、あの二人も招かれているに違いない。尤も、この異聞帯には召喚されなかったようだが」

「へぇ、ひょっとしたら、その操虫棍使いって奴は、今も召喚先で女のケツ追っかけてんのかねぇ」

「かもしれないな。もしかしたら、女王かそこらの護衛でも勤めてるんじゃないか? 性格面に問題はあれど、あれはあれで頼りになる」

「なんだかんだで信頼してんじゃないか」

「先程も言ったはずだ。我々の中でも上位の実力者だと。―――む」

 

 

 ふと、視線を出入り口に向けるラメール。突然視線を動かした事に首を傾げるドレイクに、ラメールは背もたれに身を預けて腕を組み始めた。

 

 

「我らが汎人類史の希望の星だ。恐らく、ロバーツ辺りがここの情報を伝えたのだろうが、どうする?」

「希望の星、ねぇ。ポセイドンとドンパチやる前なら承諾しても良かったけど、生憎、こんなナリじゃあねぇ……」

 

 

 やれやれと肩を落として(かぶり)を振るドレイク。

 彼女もラメールと同じく、ポセイドン討伐の際に受けた呪いで海に入る事は出来ない。海に出られない船乗りなど、ただのお荷物にしかならないだろう。

 

 

「あんたみたいにごり押しで飛べたらいいんだけどねぇ。カルバリン砲じゃ他の島に辿り着く前に落ちちまうよ。あたしの分まで頑張ってくれるかい?」

「……まぁ、手伝う他ないだろう。この海をあの戦力で乗り越えられるかどうかは、正直不安だ。だが、私だけというのもアレだ。こいつも連れていく」

 

 

 立ち上がったラメールは、自分から少し離れたテーブルに突っ伏して爆睡しているイアソンの元まで移動し、その頬をぺちぺちと叩く。

 

 

「起きろ、イアソン。活躍時だぞ」

「ぐごごごご……」

「起きろ、イアソン。起きるんだ」

「ぐごご……」

「…………」

 

 

 しかし、いくら頬を叩こうと体を揺すっても、イアソンが起きる気配は無い。余程酒が効いているのだろうか。

 眉を顰めたラメールは、最終手段と言わんばかりにその身に纏う雰囲気を一時的に変貌。過去の死闘を思い返し、その頃に自分が纏っていたであろう殺気をそのままに溢れ出させる。

 

 

「―――起きろ、イアソン

「ヒ……ッ!!」

 

 

 起きなければ殺す、と言わんばかりの威圧感と共に発せられた脅し同然の言葉に、反射的にイアソンが目を覚ました。

 すぐさま自分の傍に立つ存在に気付いて這いずるように逃げようとするが、その手をすぐにラメールによって摑まれてしまった。

 

 

「おはよう、イアソン。いい夢は見れたか」

「見れるわけないし、見る事も出来ないだろッ! っていうか、さっきの声はお前かッ! お前だよなッ!? なんだあの殺気、人間が出していいもんじゃないだろッ!」

「これぐらいの殺気を持たなければ、こちらが狩られる。我々の時代では普通だったぞ?」

「その『普通』は、お前らモンスターハンターにとっての『普通』だろッ! やっぱり化け物だな、ハンターって奴はッ! お前達絶対人間じゃないだろッ!」

「人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。―――それより、イアソン。我々に客人のようだぞ?」

「客ぅ?」

 

 

 訝し気に目を細めたイアソンが、ラメールが顎でしゃくった方角を見やる。

 そこにいた、赤髪の少女を先頭に立つ者達を見て、イアソンは心底嫌そうな表情をするのだった。

 




 
 “煉黒龍”グラン・ミラオス、自分を倒したハンターが好きすぎて貞操を狙うヤベー奴になりました。いいですよね、百合。私は一線超えるのも超えないのも好きです。
 あと百合とは話は別になりますが、攻めはつよつよなのに、いざ反撃されたら即死する受けよわよわ娘は大好きです。今年の夏イベの益獣カーマちゃんとか大好きです。爆死しましたけど。

 次回は2022年ですね。皆さん、良いお年をお迎えください。それではまた来年、お会いしましょうッ! バイバーイッ!
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