【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 どうも、皆さん。
 イラストの勉強やバルバトスレイドに参加した結果、危うく22時投稿に遅れかけた作者、seven774でございます。
 今回は前回より大分跳んでの話となります。具体的にはアトランティス最終決戦です。
 難産でしたが、楽しんでいただければと思います。
 それではどうぞッ!


轟け、冥銃槍

 

 ラメールというハンターにとって、海とは己の生涯そのものと思えるものだった。

 物心ついた頃から厳しい訓練を続け、ハンターとなった後、彼女は“モガの村”と呼ばれる場所の専属ハンターとしてギルドより派遣された。

 そこで彼女は『海の民』と呼ばれる、人間と限りなく近い種族達と長年の時を過ごした。

 数あるハンター達の中でも決して多くない、水中戦を可能としていたラメールは、村人達から多くの依頼を受け、そして達成していった。

 迷子になっていた奇面族の子ども達とも絆を結び、共に戦うかけがえのない仲間とした。

 農場を発展させ、“モガハニー”と呼ばれるブランドを立ち上げた事もあった。

 

 気付けばあの村は、ラメールにとって第二の故郷となっていた。

 

 元々は、当時モガの村を悩ませていた地震の原因究明と、村付近にある森の生態調査を目的にしていたが、それらの課題を片付けた後も、彼女はモガの村を拠点として活動していた。

 最高峰のハンターの証である“モンスターハンター”の称号を手に入れてから家を空ける事が増えてしまったが、それでも暇さえあれば村に帰り、多くの災いを共に乗り越えた仲間達と過ごしたものだ。

 

 幼き頃に亡くなった両親から与えられた名がどこかの国で『海』を意味するものだった事も、何らかの因果を感じさせてくれた。

 どこまでも続く海に潜り、地上では決して触れられない生態系を目にして感動する事もあれば、時には地上では遭遇しえない脅威と遭遇して苦戦する事も多くあった。

 ラメールにとって、海とは人生そのもの。自分に幾つもの大切な思い出をくれた、素晴らしいものだったのだ。

 

 だからこそ、惑星(ほし)の断末魔によってこのギリシャ異聞帯に召喚された時、ラメールは己の目を疑った。

 

 一見すれば、自分が生きた時代の海と変わらないそれ。生態系だって、生息する生物こそ違えど、それ以外は大して変わっていないものだとしても、ラメールは自分が記憶している海と、ギリシャ異聞帯の海の決定的な違いを即座に理解した。

 

 

 ―――この海には、『自由』がない。 

 

 

 神々による支配が完了してしまった海は、ラメールの知る海とはかけ離れたものとなってしまっていた。

 そして、(ソラ)に在る女神が島の一つを消し去った様を見て、ラメールはこの(せかい)を消去しなくてはならないと固く決意した。

 

 汎人類史最後の砦であるカルデアと、そこに所属するマスター・藤丸立香と出会い、数々のサーヴァント達を仲間に加え、オデュッセウス率いるオリュンポス船団との決戦に臨んだ時も、ラメールは己に出来得る限りの努力をした。

 

 アトランティスへと続く『虚ろの穴(ビッグホール)』へ向かうにはどうしてもアルテミスを撃ち落さなければならないため、彼女を唯一落とせるオリオンと、彼を護る役目を背負った立香達が辿り着いたネメシス島を、オリュンポス船団から護る為に戦い続けた。

 途中、戦闘の気配を感じた“大巌竜”の乱入もあって混戦状態に陥ったものの、オリュンポス船団に押し付ける事で事なきを得た。

 それも多少の時間稼ぎ程度の効果しかなかったようだが、それが出来ただけでもオリュンポス船団には感謝の念すら湧いてくる。お陰でアルテミスを撃ち落すのに充分な装備を、オリオンに与える事が出来たのだから。

 

 しかし、そのために仲間のサーヴァントの一騎―――マンドリカルドが散ってしまった。

 

 仲間達の為―――否、友人である立香を護る為に、彼自身その時まで気付かなかった幻の宝具を以て、アルテミスの砲撃を相殺したのである。

 偉大なる英雄ヘクトール。ほんの一瞬の召喚であったとしても、その英雄が振るったデュランダルを手にした彼は、絶世の剣で活路を見出してくれた。

 

 だが、時は立香達に哀しむ暇を与えてくれない。

 今度は、アーチャークラスとして召喚されたパリスが、アポロンの権能によってその身を黄金の矢へと変じ、オリオンの力となった。

 

 次々に訪れる別れを経験しても立香達が止まらないのは、流石と言ったところだろう。それほどまでの旅は、彼女達は続けてきたのだと、否応なく理解できる。

 

 だが、哀しいかな。

 どうやら自分もまた、彼女達との別れが近づいてきているようだ。

 

 

「……ッ! 先輩ッ!」

 

 

 息を呑んだマシュの視線を、立香と共に追う。

 

 自分達の視線の先では、オリオンが宝具を放とうとする際に放出された魔力に嗅ぎ付けられたのか、彼に攻撃を仕掛けようとしているラヴィエンテの姿があった。

 

 

 

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 ラメールのようなサーヴァント達とは別口を経由して召喚されたラヴィエンテは、その眼に憤怒の炎を滾らせて、地上にいる者達を見下ろしていた。

 滅ぼすべきギリシャ異聞帯の存在ではないというのにオリオンや周りにいる立香達を狙う理由としては、やはり立香を除く者達がテオス・クリロノミアを投与している事が当てはまるだろう。

 この異聞帯によって生み出された技術の気配を感じたラヴィエンテは、その忌まわしい気配の根源を消そうと開いた顎門に火炎を満たし始める。

 

 

「マシュッ! 宝具展開いけるッ!?」

「はいッ!」

 

 

 立香に頷いたマシュが盾を構え、オリオンを護る為に宝具を発動しようとし始める。

 しかし、それを止める者が一人、彼女達の前に躍り出た。

 

 

「お前がそれを使う必要は無い。あれは、私が倒す」

「ラメールさん……?」

 

 

 マシュ達には視線を向ける事も無く、ただじっと顎門に炎を満たし続けるラヴィエンテを見上げる。

 左腕に持つ銃槍を握る力を強めたラメールは、相も変らぬ冷淡さを感じさせる口調で続ける。

 

 

「あれが放つ極大火球は、下手な宝具以上の威力を持つ。お前の盾ならば防げるだろうが、連続して撃たれてしまえば、その護りもいずれ綻びが出るだろう。ただ護っているだけでは、奴を止める事は出来ない。ここは私に任せてほしい。オリオン」

「なんだ?」

 

 

 矢を番えながら視線だけ寄越してきたオリオンに、ラメールは僅かに口角を上げてみせた。

 

 

「撃ち抜けよ。月女神を堕とすのは、君の専売特許だろう?」

「―――当然ッ!」

 

 

 ニカッと笑ったオリオンは、次の瞬間にはその表情を一変させ、ふざけた気配など微塵も感じさせない、一人の漢の顔となった。

 対してラメールも数歩前に踏み出すと、腰を落として銃槍を構える。

 

 

「マスター」

 

 

 砲口に青い輝きを灯し始めたラメールが、立香に声をかける。

 なに? と立香が返せば、ラメールは横目で彼女を見つめてきた。

 

 

「―――勝て。勝って、人理を取り戻せ。お前には、その力がある。私はここまでの戦いで、それを確信した」

 

 

 ここまで来るのに、多くの戦いがあり、犠牲があった。

 望月千代女は、自身を呪う事で怪物達の母(エキドナ)を暴走させ、活路を見出してくれた。

 艦隊戦で、オデュッセウスに何度も窮地に陥れられた。彼との決着を付ける為に、シャルロット・コルデーが己の命と記憶を代償に相討ちへと持ち込んでくれた。

 バーソロミュー・ロバーツは、アルテミスへの唯一の対抗策であるオリオンを、無事ネメシス島へと送り届けてくれた。

 アキレウスはケイローンを押し留め、彼の宝具に仲間達が晒されるのを防いだ。

 ヘクトールは、たった一度のアルテミスの砲撃を防ぐ為だけに召喚に応えてくれた。

 マンドリカルドは、月女神アルテミスの砲撃から友を護る為に、ヘクトールより託された絶世の儚剣を振るった。

 パリスはオリオンの想いをアルテミスに届かせる為に、己が身を矢へと変えた。

 

 そして今、自分もまた彼らと同じように、仲間達の為に命を捨てる。

 

 全てはこの時の為に。

 若くも逞しき、カルデアのマスターを助ける為に。

 

 

「―――真名、解放」

 

 

 ラメールの言葉に反応するように、足元から放出された青黒い雷が彼女の周囲を覆い始める。

 それは、生前の彼女が打倒した好敵手の力。

 深淵より出で、激流の渦を以て万物を喰らう、冥海の王の力。

 生前は“煉黒龍”の次に苦戦した強敵とすら言える竜種の稲妻を纏ったラメールは、その力を砲身へと注ぎ込む。

 

 そして、オリオンもまた、己が撃ち抜くべき相手に向けて矢を向け始める。

 

 

「我、月の女神アルテミスを真に落とす為、己が冠位をここに返上するッ!」

「―――冥雷よ。冥海よ。深淵より来たりし、冥府の渦よ」

 

 

 青い光は、冥府の稲妻を取り込んで巨大化し、人一人は余裕で飲み込めるほどの大きさになる。

 オリオンはその身を変化させ、よりギリシャの英雄に相応しい逞しき姿と化す。

 

 

「―――ここに我は、汝の力を解き放とう。遍く人の世の為に、その力を振るえ」

「お前は、俺以外の誰にも落とさせない。誰にもだッ!!」

 

 

 島を呑む怪物を殺せるのは、この場にラメールを置いて他になく。

 星を穿つ女神を落とせるのは、オリオンを除いて他になく。

 

 ラメールが星の意志に喚ばれてこの地に現れたのなら、オリオンは自分の意志でこの地に喚ばれた。

 経緯は違えど、互いに為すべき事を定め合った二騎は、己が撃ち、貫くべき存在を見据える。

 

 片や英霊の体を変換して創造された黄金の矢を番え、片や冥海の王の力を宿した銃槍を構え、二騎(ふたり)の狩人は、叫ぶ。

 

 

「轟け、深淵の咆哮―――『超越解放/冥銃槍(モンスターハンター)』ッ!!」

「宝具―――『其は、女神を穿つ狩人(オルテュギュアー・アモーレ・ミオ)』ッ!!」

 

 

 月女神の主砲が発射されるのと、オリオンが矢を放つのはほぼ同時。

 対して、“大巌竜”の極大火球と、ラメールの宝具が放たれるのもほぼ同時だった。

 

 黄金の光が、黄金の砲撃を切り裂いて飛んでいく傍ら、青黒い光線は太陽と見紛う火球を貫いていく。

 そして、二騎の必愛/必殺の技は、己が届かせるべき相手に届いた。

 それはきっと、時間にしてみれば数瞬にも満たないものだろう。

 それでも、立香やマシュ、そしてオリオンとラメールにとっては、数分、数時間にも思えるような時間だった。

 

 オリオンの矢が、アルテミスを救う愛の技であるのなら、ラメールの砲撃は、ラヴィエンテを殺す敵意の技。

 相反する二つの宝具を前に、太古より孤独で在り続けた女神と、星によって招かれた怪物は、その活動を停止させたのだった。

 

 

「……やれた……の?」

「……あぁ、撃ち落とした。そして、俺の出番はここまでだ。お前もだろ? ラメール」

「……あぁ」

 

 

 退去を意味する小さな魔力の光を零しながら、二騎は立香の前に立つ。

 全力で、今の己に出せる全てを出し切った後だからか、立香に視線を向ける二騎の声には覇気がない。

 しかし、それだけだ。彼らの顔色に疲労の気配はまるで感じられず、柔らかい笑顔がそこにはあった。

 

 

「気分はどうだ? オリオン」

「へっ、そいつはもう、最高の気分さ。空はもう、女神(あいつ)のものじゃなくなった。それは寂しい事かもしれないが、正しい事なんだ。立香、お前に心からの感謝を。お前のお陰で、あいつを救う事が出来た。ラメールもありがとな。お前があのモンスターから護ってくれなかったら、俺はアルテミスに想いを伝えられなかった」

「モンスターの脅威から人々を護るのが、ハンター(わたし)の役目。当然の事をしたまでだ。……だが、立香よ」

「なに?」

「一つだけ、忠告を。恥ずかしい話だが―――狩り損ねた( ・ ・ ・ ・ ・ )

「「え……?」」

 

 

 予想もしていなかった衝撃的な忠告に、思わず立香とマシュの視線がラヴィエンテに向けられる。

 ラメールの宝具によって討伐されたかに思われた“大巌竜”は、彼女のように消滅する際の魔力光を放っておらず、ただ死んでいるように沈黙しているのみ。

 

 

「元々、あれは古龍種含めたモンスターの中でも、生命力においては最上位の存在だ。今はあくまで沈黙しているだけで、時間を置けば復活してしまう。あれと同格といえば、“禁忌”の一角……“煉黒龍”だろう」

「“煉黒龍”……ラメールさんの時代から見た古代の世界では、大陸や島を沈めたと語られる古龍種ですか? その龍と“大巌竜”が……生命力では同格……?」

「無論、力量に関しては“煉黒龍”が上だ。奴は強力に過ぎる。もう一度戦っても、勝てるかどうか……。……む、話が逸れた。私が伝えたいのは、会話が終わり次第、すぐにオリュンポスへ向かった方がいいという事だ。テオス・クリロノミアを使っている以上、再起したラヴィエンテが、再びお前達を襲う可能性は高い。話を逸らしてしまった私が言うのもなんだが、なるべく急いだ方がいい」

「……うん、わかった」

「それなら、俺からも一つ忠告だ」

 

 

 頷いたラメールに代わり、今度はオリオンが口を開く。

 

 

「冠位のサーヴァントが召喚されるのには、大抵の場合、きちんとした理由がある。わかるよな? 気を付けろよ、もう助けちゃやれねぇ」

 

 

 オリオンの言葉に、立香とマシュ、そしてこれまでの彼らの会話を聞いていたカルデアのメンバー達が息を呑む。

 アルテミスを撃ち落とす為に捨てたとはいえ、オリオンは冠位(グランド)クラスとしてこの異聞帯に召喚された。

 それはつまり、彼が最善の対抗策として用意されるに足る原因があるという事。

 

 それすなわち―――人類悪。人類が生み出した、七つの災厄のいずれかが、この異聞帯のどこかに存在するという事だ。

 

 気を引き締める立香達に安心したように笑ったオリオンは、「最後に握手だ」と言って、立香と固い握手を交わした。

 そこで立香が瞳に涙を溜めている事に気付き、オリオンは優しく彼女の肩に手を乗せた。

 

 

「うん、泣くなとは言わない。ただ、後ろを振り返り続ける必要はないさ。歴史はその繰り返しで紡がれていく。お前も、いつかドレイクのように誰かにバトンを渡す日が来る。そしてこう思うんだ。『こんなにも誇らしい気持ちなのか』ってな」

「オリオンは……誇らしいって思う?」

「おうとも。お前ではなく、お前を生み出した歴史全てが誇らしい。俺達のバトンを受け継いだお前の奮起が、俺達をここに辿り着かせたのだから。最後まで付き合えなくて悪いな。だが、お前さんとマシュなら何とかなるだろ。さぁ、オリュンポスに行け。俺はアルテミスに、会いに行くよ」

「……ありがとう、トライスター」

 

 

 オリオンはその死後、彼はアルテミスの手により星へと昇った。

 それからというもの、オリオン座を構成する星の中でも一際強く輝く三つの星々は『オリオンのベルト』として認知され、後に『トライスター』と呼ばれるようになった。また、このトライスターは、日本では縁起の良い『将軍星』として広く知られている。

 オリオンを象徴するに相応しい名称を感謝の言葉に添えた立香に一瞬面食らったオリオンだったが、やがて崩れるように笑って彼女の肩を叩いた。

 

 

「ははは、その名前をここで出すか。いいぜ、少し恥ずかしいが受けてやる」

「オリオンさん……」

「後は―――カルデアと“彷徨海”のあんた達」

 

 

 それからオリオンは、ストーム・ボーダーからこちらの様子を窺っているホームズやゴルドルフらに一言ずつ話していく。

 その光景を見ながら、ラメールは己の胸の内が熱くなるのを感じていた。

 

 

(バトンを渡す、か……。私達からバトンを受け取ったオリオンが、こうして次の世代へとバトンを託していく……。これが歴史というものか)

 

 

 ここにいる者達が生まれた時代は、大きく離れている。だからこそ、自分達の時代から受け継がれてきたバトンは、しっかり現代(いま)へと届いているのだと、ラメールは強く認識できた。

 

 

(オリオン……私はお前が誇らしい。私達からのバトンを受け取ってくれて―――)

「ん? どうした?」

「いや、なんでもない。ただ、嬉しいと思っていただけだ」

「……そうか」

「……そろそろ時間だ。我々はこの地を後にする。後は任せるぞ、カルデア。次に会う時は、呪いもなにもない、本当の私を見せてやろう」

「……うん、ありがとう、ラメール」

「また会いましょう、ラメールさんッ!」

「あぁ」

「じゃあな、お前達。後は任せたッ!」

 

 

 最後に立香とマシュの二人と握手を交わし、ラメールは背を向けて歩き出す。

 足元から少しずつ感覚が消えていく中、自分の名を呼ぶ声が聞こえたので視線を動かしてみると、いつの間にか自分の隣にオリオンが立っていた。

 

 

「そういやお前、さっき笑ってたな」

「そういう時もあるだろう。私とて、笑う時は笑うからな」

「いやぁ~、何度か『笑わねぇかなぁ、こいつ』なんて思ったけどよ、最後にいいもの見れたぜ」

「浮気者だな。アルテミスにどやされるぞ?」

「大丈夫だって。最後にゃアルテミスのところに―――ぁ痛ァッ!?」

 

 

 へらへらと笑っていたオリオンの脳天に岩程の大きさの部品が落ち、オリオンが倒れる。

 それがトドメの一撃になってしまったのか、オリオンの消滅する速度がどんどん早まっていく。

 

 

「すみませんすみませんッ! ほんのちょっぴりッ! ほんのちょっぴり『クールな女の子が笑うのっていいな』って思っただけなんですッ! 俺は今も昔もアルテミス一筋だから許してくださいお願いしますッッ!! いやぁああああ首絞めないでぇえええええええええッッッ!!!」

 

 

 先程までの英雄らしさはどこへやら。情けない叫び声と共に、オリオンはこの異聞帯から退去していった。

 その光景に思わず吹き出してしまったラメールは、肩を震わせて「ふふふふ」と笑った。

 

 生前、独身のまま生涯を終えてしまった身ではあるが、ああいう光景を見ると、自分も伴侶を持つべきだったかと否応なく考えてしまう。

 召喚されても無いのに、肘から先だけ顕現させてオリオンの首を締め上げた腕の持ち主を考えて、生前の自分もあそこまで他人を愛する事も出来たのかもしれないと思った。

 男性から求婚を受けた事は何度かあったが、その度に断ってきたのは自分。今こういった感情を抱く羽目になったのも、全ては自分の責任だ。

 

 

(伴侶、か……。…………いや、ないな)

 

 

 一瞬脳裏に浮かんだ少女の姿を、首を横に振って追い出す。

 自分と彼女は敵同士。定められた宿敵に過ぎない。

 それでも―――

 

 

 ―――少しだけ『いいかもしれない』と思ったのは、否定できなかった。

 

 

 

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 オリオンとラメールとの別れを終えた立香達は、ストーム・ボーダーに戻り次第、すぐにラメールから伝えられた情報を仲間達に告げた。

 

 

「なんだとッ!? あの化け物、モンスターハンターをしても狩り切れなかったのかッ!? ならば早くオリュンポスへ向かうしかないではないかッ!」

 

 

 少し離れたところで横たわるラヴィエンテを、蒼褪めた表情で凝視するゴルドルフ。

 活動を停止しているせいか、光を宿さない眼は今も虚空を見つめているが、あれがいつ光を取り戻すかはわかったものではない。取り合えず、ラヴィエンテが再起する前にこの島から離脱し、至急オリュンポスへ続く『虚ろの穴(ビッグホール)』に向かった方が―――

 

 

 

 

 ―――ギョロ。

 

 

「あっ」

 

 

 一瞬で光を取り戻した眼と、ゴルドルフの目が合った。

 

 

「……おい、あいつ、こっち見てないか?」

 

 

 蛇に睨まれた蛙の如く硬直しているゴルドルフに代わり、震えた声でムニエルが告げた。彼の言葉に反応して「まさか……」といった様子で、二人を除いたその場の全員がラヴィエンテに視線を向け、活動停止状態にあった竜が再起した事に気付いた。

 

 

「キャプテンッ! 発進準備出来てるッ!?」

「もう出来てるッ! みんな、早く席についてッ! 確認次第すぐに浮上するからッ!」

 

 

 自分達のすぐ近くで響く、巨大なものが動く音を聞きながらもすぐに行動できるのは、立香を始めたメンバー達がこれまでの戦いを通して耐性がついていたからだろう。

 立香達が準備を完了させたのを確認したネモは、すぐさまストーム・ボーダーを発進。

 空中に浮かび上がった白亜の艦はネメシス島から飛び出すが、その頃には既に上体を起こしたラヴィエンテが顎門を開き、火球を生成し始めていた。

 

 

『この魔力量―――ブレスを撃つつもりだッ! それも対城宝具と同等かそれ以上のクラスでッ!』

「寝起きでこの行動力か。日常生活だったらぜひ欲しいくらいだね」

「ふざけてる場合かッ! ええい、早く逃げるのだッ!」

「わかってるッ! けど、このままじゃ……」

 

 

 ラヴィエンテのブレスの射程距離がどこまで届くかわからない以上、とにかく全速力で逃げるしかない。しかし、如何なストーム・ボーダーとはいえ、いきなり最高速度を出せるというわけではないのだ。速度を上げている間に撃たれてしまえば、『虚ろの穴(ビッグホール)』を通り抜ける余裕など無くなってしまう。

 

 

『―――ッ。“大巌竜”がブレスを撃とうとしてるッ! みんな、なにかに掴まってッ!!』

 

 

 ダ・ヴィンチの切羽詰まった叫びに、全員が近くにあるものにしがみつく。

 そんな彼女達の慌てようなど知る由もないラヴィエンテは、そのままストーム・ボーダーにブレスを放とうとして―――

 

 

 

 

 ―――黄金の粒子を伴った、青白い閃光の渦によって阻止された。

 

 

「え……?」

 

 

 突然の出来事に、誰もが絶句する。

 今まさに自分達を攻撃しようとしたラヴィエンテが、何者かの攻撃を受けてブレスの発射を中断した。

 

 

「グォォオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 行き場を失ったブレスが爆発した影響で発生した黒煙が、ラヴィエンテのバインドボイスで蹴散らされる。

 

 まるで、何者かに対して威嚇しているような咆哮。身動ぎもしないまま、じっと海面の一点を睨みつけているラヴィエンテの姿に、立香達も視線を外せない。

 

 これからなにが起こるのか―――そう誰もが思った直後。

 

 

「ガァァアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 海中より現れた白銀の蛇王が、島を呑む竜へと襲い掛かった。

 

 

 

 Now Loading...

 

 

 

 カルデアは試練を乗り越えた。

 虚ろなる海神は既に亡く、智謀の将軍は裏切りに倒れ、女神は彼女を愛した男の愛に撃ち落された。

 

 称賛せねばなるまい。ここまで来るのに、カルデアはアトランティスで味方となった全てのサーヴァントを喪った。喪ったうえで、勝利を掴み取った。

 しかし、彼らの犠牲は決して無駄にはならない。彼らとの別れは、いずれ彼女達の旅を後押しする力となる。ここであった彼らとは違う『彼ら』が、彼女の旅路を護り、導く役割を受け継いでいく事だろう。

 

 そして―――こちらも準備が整った。

 

 

「嗚呼―――」

 

 

 遂に始まる。遂に動き始める。

 果たすべき試練を果たしたのなら、いよいよ後腐れなく行動できるというもの。

 歓喜の吐息を漏らした少女に呼応するように、彼女の足元で遊泳する怪物達の意志が強まっていく。

 

 

「さぁみんな―――蹂躙の時間だよッ!!」

『グォォオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 

 叫べ、轟け、咆哮せよ。

 彼女の加護の下に、煉黒の海を征け。

 

 ―――今こそ、アトランティスを死の海へと変えるのだ。

 




 
 次回、いよいよシュレイド陣営が攻勢に出ますッ!
 また、遂に“禁忌”の一角の宝具が明らかとなりますので、お楽しみにッ!
 それではまた次回お会いしましょうッ!
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