【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 どうも皆さん。
 月曜と火曜日を使って草津旅行に行ってきました、seven774です。草津には初めて行ったんですが、いいですねぇ、あそこ。温泉がたくさんあったので、温泉好きの私にとっては最高でしたよ。それに雪が降っていましてね。季節を感じながら温泉に入るのもまた乙なものでした。
 皆さんも機会があれば行ってみてはどうです?

 それでは本編、どうぞッ!


古龍、襲来

 

 頭上から迫り来る蒼き雷霆を、アンナの緋き雷霆が迎え撃つ。その度にアンナの全身には鈍器を叩きつけられたような激痛が走る。

 先程こそ高らかに吼えてみたものの、ギリシャ異聞帯の王であるゼウスが振るう蒼き雷は、未だ力を完全に取り戻せずにいるアンナにとっては、今の段階で出せる全力で迎撃しなければならない威力だ。常に気を張り続け、頭上から絶え間なく降り注ぐ雷霆を一発一発全力で迎撃し続けるのは、アンナをしても苦難の一言に尽きる。

 

 翼を羽ばたかせて飛翔するアンナ目掛けて雷霆が落ちてくるが、彼女は軽く身を捩って回避する。そこへ新たな雷が迫るも、それは後方から飛んできた火山弾が迎撃した。

 

 

「空いた席に収まっただけのガラクタ風情が―――お姉様を傷つけるなァッ!!」

 

 

 “黒龍”の背に残ったミラオスが吼え、背中から上部へと伸びた、活火山を連想させる翼から火山弾を放つ。撃ち出された火山弾は、燃え盛る火炎を纏いながらアンナを狙った雷霆を的確に狙い撃ち、黒煙と共に爆散していく。さらに、そこへ手元に出現させた“鳳凰ガ体現セシ弓矢”に番えた矢による速射で、相殺は出来なくとも、アンナが迎撃しやすいように威力の弱体化を図る。

 イヴェルカーナの背に立つアルバも、その手に“神滅弓アル・カニア”を構え、サーヴァントとなる事で得た神性特攻の効果を付与された矢を放つ。

 

 しかし、彼女達の尽力でアンナに傷一つ付かないかと訊かれれば、それは否と言わざるを得ないだろう。

 

 

「ぐぅ―――ッ!」

 

 

 彼女達の援護を潜り抜けて落ちた雷霆が、アンナの左翼に掠った。

 素肌をバーナーで焙られたような感覚に次いで、脳が焼き切れるような痛みが襲い来る。

 咄嗟に回避行動を取ったとはいえ、掠っただけでさえこの威力。直撃していれば、本来の姿でないこの体では間違いなく死んでいただろう。

 

 

(あの子達の援護もあってなんとか凌ぎ切れているけど、それでもこっちが押し負けるのは時間の問題か……。いっその事、ここで使うべき……?)

 

 

 チラリ、と右手の甲に刻まれた、龍を模した形の令呪を見やる。

 彼女とその弟妹達は、令呪によって縛られた主従関係などではなく、血を分けた家族の絆で結ばれている関係だ。故に彼女は弟妹達に対して絶対に令呪を行使しない。使うのは己自身の瞬間強化のみだ。

 だが、彼女は脳裏に浮かんだその考えを即座に否定する。

 自分が令呪(これ)を使うのは、然るべき時のみだ。ゼウス程度( ・ ・ ・ ・ ・ )に使うのは勿体ない。

 

 ならば、とアンナは胸元に潜ませたもの( ・ ・ )に意識を向け、弟に叫ぶ。

 

 

「ボレアスッ! 私の事は気にしなくていいから、みんなを連れてオリュンポスにッ!」

〔……良いのか?〕

「このままじゃ負けちゃうからねッ! みんなまとめて黒焦げになっちゃうよりはマシでしょ? それに、君達を巻き込みたくはないからねッ!」

〔……了解〕

 

 

 頷くように唸り声を漏らしたミラボレアスが、その雄々しい翼膜に蒼い焔を灯す。汎人類史では終ぞ手に入れる事の無かった権能(チカラ)の一部―――それをスラスターとして運用する。

 エンジンが轟くような音と共に、漆黒の巨体が蒼い軌跡を描いて突き進む。それを神殿から見ているであろうゼウスも、このままでは“黒龍”をオリュンポスに侵入させてしまうと判断したのか、先程よりも雷霆の数を増やしてきた。

 

 雷鳴と共に襲い来る稲妻の群れを、蒼黒の龍が掻い潜っていく。一発一発が、カルデアがアトランティスで撃破したアルテミスの主砲と同等の威力を誇るそれの内、幾つかが“黒龍”の体に掠り、微かに火傷を残す。しかし、それでも“黒龍”は速度を緩めずに突き進んでいく。

 ならば、とゼウスの矛先がミラボレアスの後方に続く古龍達へと向けられる。しかし、彼らを狙って落とされた雷霆は、悉くアンナの緋雷によって防がれた。

 

 

「あの子達は、異聞の『私』の子ども達だけどさ。それでも私は、あの子達の母龍として、あの子達を護る。彼らにとっての祖龍(わたし)を取り込んだ時点で、その覚悟は出来ている。そんな私を信じてくれたあの子達を、貴方なんかに殺させやしない。あの子達は―――“私”が護る」

 

             

『ならば、防いでみせよ』

 

 

 雷鳴が轟く。

 折れ曲がりながら、ほぼ同時にアンナとその弟妹、そして全ての古龍達を覆い尽くす程の数の蒼雷が襲い掛かる。

 一撃でも命中してしまえば、そこから立て続けに追撃を受ける―――絶対的な消滅という名の“死”が、無数の槍となって落ちてくる。

 

 

「あの子達から『私』を奪った責任は、私が取る。“私”が、あの子達に必要とされる限りッ!」

 

 

 胸元から取り出したのは、ビー玉程の大きさの丸い結晶。

 大きさでは掌に軽く収まる程度のものだが、しかしその内部に満ちるエネルギーは、一時的に彼女の本領( ・ ・ ・ ・ ・ )を発揮する事を可能とする程のもの。

 結晶を口に投げ込み、噛み砕く時間すら惜しいとばかりに飲み込む。

 飲み込まれた結晶は、胃袋に落ちる前に形を崩し、魔力の渦となってアンナの体内を駆け巡っていく。

 

 内より溢れた魔力が緋雷となって全身から放出される中、アンナは右腕を高く掲げ、閉じていた瞼を持ち上げる。

 

 そこに在ったのは―――龍の眼。

 かつて、全ての幻想種の頂点に君臨した“祖なる龍”が持つ霊眼。

 

 

()()()()―――補足失敗。汎異権能―――限定励起。魔力量―――臨界」

 

 

 内に広がる心象世界に意識を傾ける。

 

 王亡き玉座を前に広がる、猟の庭。日輪を月輪が喰らった空。廃墟と化したその地に巡らされた鎖が、甲高い音を奏でて砕け散る。

 

 

「かつて星を支配した生命(いのち)の頂点―――幻想の王の力。(ソラ)より来たりし機神達よ、我が緋天に畏れよ。恐れ、怖れ、畏れ、そして跪くがいい」

 

 

 アンナを純白の粒子が包み込み、巨大な龍の形を作り上げる。しかしそこに立つのは、“黒龍”や“煉黒龍”、“煌黒龍”のような実体ではなく、あくまで魔力の粒子で象られた幻影でしかない。だが、その巨体から放たれる威圧感は、この場にいる誰よりも強烈なもの。それこそ、遠目に己の存在を認知している神々さえも無意識に身構えさせる程の。

 

 

「―――運命の創まり、我は天命を齎す龍(フェイト・アンセスター)

 

 

 龍が咆哮を轟かせ、その体を霧散させる。瞬間、それまで幻影の龍を構成していた魔力の粒子一つ一つが天雷と化して飛び散り、アンナ達を狙っていた雷霆に喰らいつく。

 しかし、それだけでは終わらない。

 喰らいついた天雷は、そのまま雷霆諸共相殺される事はなく、そのまま雷霆を喰らい尽くして己の色に染め上げる。緋色に染まった雷霆は、その標的をアンナ達から、主であるはずのゼウスがいる神殿へと飛んでいった。

 

 

 

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 星間都市山脈オリュンポス。

 神々によって統治され、現代まで続いてしまったが故に完成した、神代の都。

 その最上部には、この異聞帯を地球に根付かせている空想樹マゼラン―――アトラスの世界樹が存在しており、その直下にはこのオリュンポスの基幹中枢とされる軌道大神殿オリュンピア=ドドーナが存在している。

 普段は今も尚人々の信仰を浴び、畏怖と尊敬の念を集め続ける神々が鎮座し、下方に暮らす人々を見守る場所であるが、今のそこは、最早安全に状況を把握出来る場所ではなくなっていた。

 

 

「むぅ……ッ!!」

 

 

 オリュンピア=ドドーナを直撃した緋色の天雷の余波が、分厚い壁を粉々に粉砕しながら、その場にいた者達を襲う。

 天雷による衝撃波を前に誰もが堪らず吹き飛ばされる中、たった一人―――否、一柱だけ、数歩後退るのみで済ませた者がいた。

 

 青空の彼方を支配し、夜空の彼方を蹂躙した者。銀河、星雲、宇宙さえ砕く大雷霆を振るう者。未来永劫の大主神とさえ謳われた神。

 

 その名を、ゼウス。このギリシャ異聞帯を支配する、神々の王である。

 

 

「ゼウス様ッ!」

「父上ッ!」

「ご無事ですか、父上ッ!?」

 

 

 雷を模した杖を握っていない方の腕をじっと見下ろすゼウスに、吹き飛ばされながらもすぐに立ち上がった女性と兄妹が焦燥と心配の感情が混じった声をかける。

 

 女性の名は、エウロペ―――ヨーロッパ大陸の語源ともなった女性である彼女は、フェニキア王女であると同時に、ゼウスの妃として伝説に語られている。元々は汎人類史側のサーヴァントとして召喚された彼女であるが、現在はゼウスによって女神ヘラの神核を融合させられており、異聞帯側についている。

 

 そして兄妹―――兄をカストロ、妹をポルクスと呼ばれる彼らは、この場にはいないクリプターのリーダー、キリシュタリア・ヴォーダイムが従えるサーヴァントである。

 

 ディオスクロイ―――この名称はカストロとポルクスの二人の名前を合わせ、長母音を省略した読みであると同時に、『ゼウスの息子』という意味も持っている。ローマ神話では『ジェミニ』の名で呼ばれ、ふたご座のモチーフとしても有名な二人である。

 

 

「大丈夫だとも。心配をかけたな」

 

 

 駆け寄ってきた双子を安心させるように柔らかい微笑を浮かべたゼウスは、ごつごつとした掌で彼らの頭を優しく撫でる。

 それに安心したのか、安堵の息を吐いた双子達や神々と共に、ゼウスは正面―――アンナの天雷によって打ち砕かれた壁の奥に見える、緋色の煌めきを見据える。

 

 

「“祖龍”の雷霆―――否、天雷か……。実に、実に懐かしい……」

 

 

 自分達の存在するこの歴史が、異聞帯へと分岐してしまった戦い。どこか違和感こそ感じるものの、あの威力と性質は間違いなく、ゼウスの記憶領域に記録されている彼女のデータと一致する。思えば人類と同じ姿を取って彼女に言い寄った時、懇切丁寧な断り文句に、あの緋色の稲妻と共に華麗なスープレックスを添えられた事があった。あの頃の自分は情けなくも、上半身を地面に埋められ、宛ら一本の棒のような姿にさせられた。

 今思い返してみるとあまりにも情けなく、恥ずかしい記憶ではあるが、それ以上に「こんな事もあったな」と笑いが込み上げてくるような思い出だった。

 

 それが今、絶対的な殺意を伴って襲ってきた。

 

 彼女の実力は、この場にいるギリシャの神々全てが承知している。なにを隠そう、他でもない彼女の力によって、この時代があるのだから。

 

 だからこそ、ゼウス達の“祖龍(かのじょ)”に対する警戒心は強い。彼女が真の意味で力を取り戻せば、それこそ()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして視線を凝らしてみれば、古龍群がゼウスが反撃で怯んでいる隙を突き、アンナの後に続いてオリュンポスに迫っている光景が見えた。

 

 

「カストロ、ポルクス。盟友キリシュタリア・ヴォーダイムに代わって命ずる。都市部に下り、彼女らを迎撃せよ」

「「ハッ!」」

「アフロディーテ、デメテル。其方らは戦況を確認し続け、各々の判断で出撃せよ」

 

 

 ゼウスから下された命令にディオスクロイは揃って声を張り上げ、アフロディーテとデメテルは重々しく頷く。

 

 

「我が妃よ。オリュンポス全土に、広域放送を」

「承知しました」

 

 

 頷いたエウロペが瞳を伏せ、大きく張りのある声を出し始める。

 

 

「―――我が愛しきオリュンポス市民よ」

 

「―――軌道大神殿オリュンピア=ドドーナより告げる」

 

「―――神妃エウロペが告げる」

 

「―――神託である」

 

「―――神託である」

 

 

 その声は、オリュンピア=ドドーナはおろか、このオリュンポス全土に響き渡る声。

 この地にいる誰もが動きを止め、エウロペの広域放送に耳を傾ける。

 

 また、カルデアと呼ばれる者達のような侵略者が現れたのでは、と。カルデアを捕らえたのではないのか、と、誰もが言葉にせずに心中でそう考える中、エウロペの声が続く。

 

 

「―――星間都市山脈オリュンポスに、危機が迫っています」

 

「―――カルデアとは異なる、外部からの侵入者です」

 

「―――此方とは異なる、異聞からの侵略者です」

 

「―――シュレイド異聞帯」

 

「―――惑星(ほし)の代行者、古龍種」

 

「―――それらを統べる、“禁忌”の龍達」

 

「―――我らオリュンポスを滅ぼさんとする不届き者」

 

「―――カルデアとは別の、自らこそ真なる世界を主張する敵」

 

「―――市民の皆様、早急に避難を」

 

「―――兵士の皆様、直ちに迎撃を開始してください」

 

「―――これは、戦争です」

 

「―――繰り返します」

 

「―――これは、戦争です」

 

「―――これは、五度目の大戦(マキア)です

 

 

 

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 エウロペによる広域放送が終了した直後、アンナによってゼウスによる迎撃から護られた古龍達がオリュンポスに到達し、それぞれが得意とする属性のブレスを放つ。

 様々な色を持つブレスが一斉に放射され、流星のように空を駆けていく様は一種の美しさすら感じられるが、その実それは、まさしくこのオリュンポスの破滅が始まったと言っても過言ではない。

 

 雷霆が轟いていた事もあって、動揺と不安に駆られていた住民達は、久しく忘れていた『恐怖』の感情を叩き起こされ、我先にと古龍達から逃れようと走り出す。

 

 そんな人々を掻き分けて姿を現したのは、右肩に赤いマントを羽織った、赤と白を基調とした鎧を身につけた兵士―――オリュンポス兵である。

 

 仕事、労働、役職といった概念は、神々の統治によって遥か過去のものとなっていたが、兵士だけは今も、このオリュンポスには存在している。

 一人一人が、英霊と同格の力量を備えた存在。並みのサーヴァントであれば圧倒的な数を前に圧殺されるのは目に見えており、アンナ達よりも先にここに到達していたカルデアも例に漏れず、撤退を選ばざるを得なかった程のもの。

 

 しかし、彼らが迎え撃つ対象が古龍種となると、その力量差は簡単に覆る。

 

 古龍種は―――一体一体が《《神霊級》 》なのだ。神霊と英霊とでは純粋な力ですら格が違いすぎると言われる程の差があり、加えて古龍種は、それぞれが得意とする攻撃手段を、厳しい自然環境を生き延びる為に徹底的に鍛え上げている。

 謂わば、『究極の一』と呼ばれるものが、古龍の数分存在するのである。

 

 しかし、大勢の古龍種を前にしても、オリュンポス兵達に怯えは無く、寧ろ心中を誇りで満たしていた。

 

 

「これより、迎撃を開始するッ!」

「我らに続け、勇敢なるオリュンポスの兵達よッ!!」

『オオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

 その理由こそ、彼らの前を征く双神(ディオスクロイ)の存在である。

 このギリシャ異聞帯を支配する、至高なる神々の内の二柱―――それも導きの光を表す者達が先導しているという事実が、兵士達の士気を高めているのである。

 

 ディオスクロイを筆頭にオリュンポス兵達が古龍達を迎撃すべく走り出したその時、彼らの前方に巨大な雷が落ちた。

 

 

「―――カストロに、ポルクス。汎人類史のあの子達とは別の、異聞帯のサーヴァントね」

 

 

 後方に四人の男女を引き連れてバチバチと弾ける音と共に現れたのは、アンナだ。

 

 

「貴様がアンナ・ディストローツか。キリシュタリア様より訊いている。とうとうこのオリュンポスを滅ぼしに来たか……ッ!」

「当然。だってそういう条約だもの。接触した以上、こうして攻め込ませてもらったよ。挨拶も兼ねてアトランティスは消させてもらったけど、最高にインパクトのあるものだったでしょ?」

「貴様……ッ!」

 

 

 なんて事もないように話すアンナに歯噛みしたポルクスが、剣を握る手に力を籠める。

 

 

「残念だけど、君達が私と戦う事はないよ。君達がここで消滅する事は確定している。どうしてもっていうなら、まずは彼を倒してからだね。―――バルカンッ!」

「よっしゃァッ! ようやく俺の出番かァッ! 待ちくたびれたぜッ!」

 

 

 アンナに名を呼ばれ前に出たのは、燃えるような赤いワイルドロングが特徴的な男性。顔立ちこそアンナの傍らで静かに立つボレアスと瓜二つだが、その顔には獰猛なまでの笑みが刻まれており、彼が生粋の戦闘狂であり、同時に破壊者である事を初見の相手でも本能的に理解させている。

 

 

「双神ディオスクロイッ! 英霊狩りにはとんと飽きてたんだッ! 退屈させんじゃねェぞォッ!! ギャハハハハハハハッ!!」

 

 

 燃え盛る炎と同時に右手に顕現させた大剣―――“ミラバルカンシア”を担いだバルカンが一瞬で双子との距離を縮めた。瞬きする間もなく距離を詰められた二人が咄嗟に飛び退くも、横薙ぎに振るわれた大剣から飛んだ炎の斬撃が彼らを追う。

 

 カストロは盾で、ポルクスは剣で斬撃を防ぐが、それだけで防げる程バルカンの一撃は甘くなく、衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされていく。

 

 

「アルバ、ミラオス。露払いを。終わったら好きに行動していいよ。一応言っておくけど、カルデアを見つけても攻撃しないようにね。ボレアスは私についてきて」

「「了解」」

「まっかせてお姉様ッ!」

 

 

 ランスを手にアルバが、そして弓を手にミラオスが走り出す。

 彼らがディオスクロイとオリュンポス兵達を相手に戦っている中、アンナは両足を龍のものに変化させて走り出す。

 

 緋色の軌跡を残して走りながら、周囲を観察し、仲間の古龍に攻撃を仕掛けようとしているオリュンポス兵を見つけ次第、雷撃で撃破していく。

 

 

「うおおおおおおおッ!」

 

 

 そこへ、一人のオリュンポス兵が飛びかかってきた。

 側面から振り下ろされてきた斬撃をアンナが飛び退いて躱すと、ボレアスがオリュンポス兵に攻撃しようと両足に力を籠め始める。しかし、敢えてアンナは片手を軽く上げる事でボレアスを制止し、オリュンポス兵を見つめる。

 

 

「侵略者め……ッ! 我らが全能神ゼウス様の為、ここで討ち取るッ!」

「へぇ、君、威勢は良いね。でもちょっと待ってくれる? 一つだけ聞かせてほしいんだ」

「問答無用ッ!」

 

 

 駆け出したオリュンポス兵の斬撃を躱し、時に受け流しながら、アンナは問いかけ続ける。

 

 

「ねぇ、君達が戦う理由を教えてほしいな。それか、この世界についてどう思っているのかだけでも教えてほしいんだけど……」

「ハァッ!」

「おっと」

 

 

 首を落とそうと横薙ぎに振るわれた刀身を、上半身を逸らす事で回避する。続いて盾による攻撃が繰り出されるが、それも難なく回避する。

 

 

「ここオリュンポスは、悠久不変の楽園ッ! 神々の寵愛が満ちる場所ッ! それを、貴様らに穢させてなるものかッ!」

「……不変。不変、ねぇ……」

 

 

 不変―――なにも変わらず、ただそのままで在り続けるだけ。

 なにかしらの変化など何一つなく、ただ同じ毎日を、ずっと続けているだけ。

 

 アンナ・ディストローツが、最も唾棄し、嫌悪するもの。

 

 

「不変……価値を無くす、怠惰そのもの。神々の支配がこんな形になるのなら、やっぱり滅ぼすのが正解ね」

「おのれ……至高なる神々の寵愛を、それ以上愚弄するなッ!」

 

 

 淡々と冷たく言葉を紡ぐアンナに激怒したオリュンポス兵が、彼女を切り裂こうと剣を振り下ろす。

 

 

「愚弄? 私はただ、この世界の真実を口にしただけよ。それを『愚弄だ』なんて、片腹痛いわね」

「ぐ―――ッ!?」

 

 

 しかしアンナは、斬撃をひらりと躱した後に兵士の首を掴み上げる。

 

 

「そう……。貴方達は真実に気付けないのね。目を逸らすどころか、真実がある事すら知らない。あまりにも無知。()()()()()()()を失った、ただ神に従うしか能の無い家畜」

「グ、ギ……ッ!」

 

 

 強く締め上げ続けられたせいか、兵士は酸素を求めてなんとかアンナの拘束から逃れようと暴れ始める。しかし、彼女の右手による拘束は彼の膂力を以てしても脱出は不可能であり、少しずつ意識が途絶えていく。

 

 

「もういいわ。貴方達の考えはよくわかった。―――消えなさい」

 

 

 右手から緋雷が迸り、兵士は声にならない断末魔を上げた。

 数秒の後に緋雷が収まると、そこにはもう兵士の姿はなく、ただ彼がそこにいたと考えられる塵が風に吹き飛ばされていくのみだった。

 

 ふぅ、と一息吐きながら右手についた塵を払っていると、どこからかガタリ、と音が聞こえてきた。

 

 

「ん~?」

「ひっ……」

 

 

 アンナがそちらへ視線を向ければ、顔面を真っ青に染めている子ども達の姿が見えた。

 どことなく目元が似ている事から、恐らく双子の姉妹。外見年齢は十歳前後。汎人類史ならばまだ小学校に通っているぐらいの外見だが、なにしろこの異聞帯の子どもだ。百年は軽く生きていても不思議ではないだろう。

 

 

「ねぇねぇ君達、少しいいかな?」

「い、いや、来ないで……」

「……ッ! こっちッ!」

「あっ。もう、逃げちゃ駄目だって」

「ひぃッ!」

 

 

 姉と思われる少女が妹を連れて逃げようとするが、アンナが彼女達の前方に雷を落とした事で動きを止める。

 

 

「君達はさ。この世界についてどう思う?」

「あ、あ……」

「ゼウスを始めた、(ソラ)より降り立った神々に支配されたこの世界。君達なりの、純粋な意見を聞きたいな。ねぇ、お姉さんに教えてくれる?」

 

 

 膝をつき、視点を彼女達と同じ位置に調整したアンナは、迷子の子どもを慰めるような優しい笑みを浮かべて首を傾げる。

 

 

「すぐに答えなくてもいいよ。少しは考える時間を与えてあげる。君達は子どもだからね。それぐらいの時間は設けてあげても―――」

「助けて……ゼウス様……」

「―――」

 

 

 瞬間、アンナの笑みが一瞬にして消え、能面のような表情になった。

 その表情の変化に少女達が再び怯えた事にすら反応を示さず、アンナはパチンッ、と指を鳴らした。

 

 間もなくして、巨大な影が彼女の背後に降り立つ。

 

 頭部に悪魔を思わせる、無数の棘が折り重なって出来たようにも見える双角。その背から伸びる翼や前足にも無数の棘が生えているその龍に対し、アンナは目の前にいる姉妹を指差す。

 

 

「―――潰していいよ、これ( ・ ・ )

 

 

 アンナが歩き始めると同時、少女達の悲鳴が響く。しかしその悲鳴は、“滅尽龍”の咆哮と共に聞こえてきた轟音に掻き消されるのだった―――。

 

 

 

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 アンナ達がオリュンポス勢力と交戦し始めた頃。そこから遠く離れた場所の一角の空間が捻じれ、そこから三人の人間と三騎のサーヴァントが姿を現した。

 

 

「ここが、ギリシャ異聞帯……」

 

 

 ボレアスが用いる権能によって、この異聞帯に足を踏み入れたクリプター達の一人―――カドックが、堪らず息を漏らした。

 人理が焼却/漂白される前の汎人類史でよく目にした高層建築物がそこかしらに見受けられ、この異聞帯は自分やオフェリア、ペペロンチーノが担当していた異聞帯とは全く異なる発展を遂げているのだと、否応なしに理解してしまったのである。

 

 

「芥もいてくれれば良かったんだが……」

「仕方ないわよ。アンナとの約束らしいから、私達にはなにも言えないわ」

「でも、あの子もただ旦那さんと一緒に過ごすだけじゃないわ。私達にこんなものまでくれたんだからね」

 

 

 そう言ってペペロンチーノは、自分の腰につけているポーチを指差す。

 カドックとオフェリアの腰にも装備されているそれには、芥ヒナコこと虞美人がシュレイド異聞帯で採集した素材などを調合して作った道具などが入っている。自分の身を護る点に関しては少々心許ないが、道中戦闘に入った場合には心強い味方だ。それを作ってくれた以上、彼女には感謝しなければならない。

 

 

「だが、この大きさのポーチにあの量の道具が入るのはどういう事だ? 空間拡張の術式でも組んでいるのか?」

「術式はなにも組んでいないみたいよ。元からこういうものらしいわ」

「本当にどんな時代だったのかしら、“モンスターハンター”の時代って……」

 

 

 腰に簡単につけられるくせして、明らかに収まり切らない量を完璧に収納してみせるポーチに疑問を抱くカドック達だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

 

「さて、アンナ達が連中を引き付けている間に、僕らも行動を開始しよう」

「えぇ。シグルド、護衛をお願い」

「アシュヴァッターマンもよろしくね」

「了解」

「おうよ、マスター」

「行くぞ、アナスタシア」

「エスコートはしてくれないの? カドック」

「こんな時でも平常運転だな、君は」

 

 

 そんな会話を交わしながら、カドック達も行動を開始した。

 




 
 今回、バルカンが登場した事により、ようやく全ての“禁忌”の人間態を登場させる事が出来ましたッ!
 そこでですが、いつかの感想の中に、“禁忌”達の身長について尋ねられたような記憶があるので記載しておきたいと思います。

 アンナ(長女)……168cm
 ボレアス(長男)……185cm
 バルカン(次男)……182cm
 ミラオス(次女)……154cm
 アルバ(三女)……178cm

 一応記載しておきますと、ボレアスとバルカンは双子です。

 次回はバルカンVSディオスクロイですッ! お楽しみにッ!
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