【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 昨日から新イベントが始まりましたね。今回のイベントは眼鏡を中心にした話の様ですが、これからどのように展開されていくのか楽しみで仕方ありませんッ!
 それに、今回もイベ礼装が力の入っているものばかりですので、手に入れられるものは手に入れておきたいですねぇ。個人的にはオベロンとマーリンの礼装が一番欲しいですね。後はイナズマイレブン風の礼装があったはずなので、そちらも入手したいところ……。

 今回は一万文字超えましたッ! それではどうぞッ!


紅災/暗帝/蹂躙

 

「ハハハハハッ! どうしたどうしたァッ! それが全力かァ、双神(ディオスクロイ)ッ!」

 

 

 轟音と共に振るわれた大剣を躱したカストロが盾を投擲するが、バルカンは軽く体を伏せる事で回避。そこへ間を入れず背後に回ったポルクスが斬撃を繰り出そうとするも、それを読んでいたようにバルカンは右足で彼女を蹴り飛ばした。

 

 

「貴様―――我が妹を足蹴にするかッ!!」

 

 

 溺愛している妹を蹴り飛ばされた事に青筋を立てたカストロが巧みに盾を操りながら攻撃してくる。

 

 

「なに蹴っただけで怒鳴ってやがる。これはァ、戦争だろうがァッ!!」

「ガ……ッ!」

 

 

 しかし、バルカンは盾による攻撃を難なく弾いた後、大剣を大地に突き立ててカストロの顔面を鷲掴みにし、そのまま地面に叩き付けた。

 兄を助けようとポルクスが光と見紛う速さで動き、バルカンがカストロから離した右手で繰り出した裏拳をジャンプして躱すと同時に、彼の首目掛けて黄金の剣を振るう。

 裏拳を躱された直後に迫る攻撃。これならば届く―――と思ったのも束の間、バルカンの全身から放出された熱風が、双神を吹き飛ばした。

 

 

「その程度で落とせると思ったかァッ! だとしたら甘ェなァッ!」

 

 

 地面に幾十もの亀裂を走らせて跳躍したバルカンが、両手を頭上に掲げる。炎と共に現れたハンマーの柄を握り締めたバルカンが回転し始め、回転力を乗せた強烈な一撃が繰り出される。

 

 振り下ろされた鉄鎚―――“ミラガルズイーラ”の威力は計り知れず、叩きつけられた箇所を中心に、周囲には数キロメートルの規模のクレーターが出来上がり、間一髪それを躱したカストロとポルクスは、直撃と同時に襲い掛かってきた衝撃波に堪らず吹き飛ばされ、遠くのビルに全身を叩きつけられた。

 

 すかさず武器を大剣に持ち替え、一閃。

 

 バルカンの身の丈と同じ大きさの大剣から放たれた灼熱の斬撃は、周囲の大気を焼き焦がしながら双神が叩きつけられたビルを直撃。真っ赤な斬撃痕を残してビルが大爆発を起こすが、その真っ赤な輝きの中から二つの光が飛び出すのを、バルカンは見逃さなかった。

 

 大剣を握っていない左手を強く地面に押し当て、周囲の地形に自身の魔力を巡らせる。

 赤熱化した地上の燃えるような熱さを感じた瞬間、バルカンの左右から焔の帯が飛び出した。

 

 プロミネンス。

 地上を照らす太陽を這う炎の蛇達は、大剣による一閃で齎される以上の熱気を伴って二つの光に喰らいつく。

 

 しかし、相手も伊達に神の称号を背負っているわけではない。光が瞬いたと同時に焔蛇が切り裂かれ、無数の火の粉となって霧散していく。そのまま勢いを殺さず迫ってくる二つの光は、地上に降り立った瞬間にさらに速度を上げ、バルカンを突き飛ばした。

 

 

「ハハ……ッ! 最ッ高ォッ! そう来なくっちゃ面白くねェッ!」

 

 

 咄嗟に体を後方にずらした事でダメージを軽減させたバルカンだが、その全身には無数の切り傷が出来ている。

 地面に大剣を突き立てて吹き飛ばされた体を無理矢理止めたバルカンに、今度は前方と後方からの攻撃が襲い来る。

 前方の頭上から落ちてくる盾を躱しながら大剣で後方の剣を弾き、続いて腰を低く落としてから全方位を薙ぎ払う。

 当たれば両者とも両断できたであろう斬撃を、しかし同時にジャンプして回避してみせた兄妹は、自身の持つ武器に魔力を籠める。

 

 

「「ハアアアアァァァッッ!!」」

 

 

 腹の底から押し出すような叫びと共に振り下ろされる、蒼と黄金の斬撃。

 次の瞬間、周囲を揺るがす衝撃波が飛び、続いて眩い輝きが辺りを照らした。

 

 兄妹の一糸乱れぬ同時攻撃。しかしそれを―――

 

 

「……ハハハハ、ハハハハハハハッ!」

 

 

 バルカンは、両手で構えた大剣で耐え切っていた。

 

 

「今のは危なかったなァ。だが―――防がれちまったら意味ねェよなァッ!!」

「ぐぁッ!」

「きゃあッ!」

 

 

 兄妹が離脱するよりも先に動いた大剣が、業火と共に振るわれる。

 炎の斬撃を受けたカストロとポルクスの体から大量の血が飛び出し、ビチャビチャと地面に血溜まりを作る。

 

 

「ポルクス、大丈夫かッ!?」

「大丈夫……とは言えませんが、まだ戦えます……ッ!」

 

 

 剣を突いて立ち上がったポルクスの衣服は、バルカンによって肌ごと切り裂かれた事で、隠されていた乳房が曝け出されてしまっている。なんとか切り裂かれずに済んだ箇所も、彼女から流れる鮮血によって真っ赤に染まっている。

 対するカストロも、彼女と同じように全身が真っ赤に染まっており、荒く呼吸を繰り返している。

 

 そんな彼らをニタニタと、まるで熟したワインに酔いしれるような笑みで見たバルカンは、ポキポキと首の骨を鳴らして余裕をアピールする。

 

 

「下お兄様~。まだ終わらないの~?」

 

 

 そこへ、この血生臭い戦場には似合わない程気の抜けた声が響いた。

 その声に、ディオスクロイに余裕の笑みを向けていたバルカンが軽い溜息を吐いて肩を落とした。

 

 

「ンだよ。もうおしまいにしろってか? そりゃねェだろッ!」

「こっちはもう退屈してるのッ! 第一、そんな奴らいつだって殺せるでしょ? なんで殺さないのさ。ほら見てよ、あそこ」

「あん?」

 

 

 積み上げられたオリュンポス兵達の死体の山の上に座っているミラオスが指差した方向を見ると、そこには無数の肉塊にハンマーを振り下ろし続けているアルバの姿があった。

 既に原型すら保てていないが、微かに見える鎧の欠片から辛うじてオリュンポス兵の死体と考えられるそれに、ブツブツと怨嗟の声と共にハンマーを叩きつけているアルバの全身には、既に飛び散った血や臓物の欠片などがこびり付いている。

 

 

「好きに行動していいってお姉様に言われたけど、あの調子じゃ死体が消えるまでずっとやり続けるよ。早く焼却してほしいなって」

「それならお前がやればいいじゃねェかよ」

「私だと火力が高すぎるし、テクスチャごと消し飛ばしちゃうのッ! 上お兄様はいないし、アルバはこんな感じでしょ? だったら下お兄様にやってもらおうかなって。だから、早くそいつら殺してよ」

「……はぁ。仕方ねェ。わぁったよ。すぐ終わらせてやっから待ってろ。一分……いや、三十秒で終わらせるからよ」

「ありがと~♪」

 

 

 ニコニコと笑ったミラオスから、ディオスクロイへと視線を外す。

 

 

「ってわけで、悪ィなテメェら。これ以上遊んで( ・ ・ ・ )いられなくなったわ」

「―――遊び? 遊びだと……ッ!」

「おう。なんか変な事言ったか?」

「貴様……ッ! 我らをそこらの玩具と同列に語るかッ!! 許さぬ、許さぬ許さぬ許さぬッ!! 我らを、神を愚弄するかァッ!!」

 

 

 激情に震えたカストロの食い縛られた歯が、あまりの怒りによって砕ける。血走っている目はギラギラと輝いており、最早完全に我を忘れている。

 

 

「ポルクスッ! こいつを―――我ら神を愚弄したこいつを、殺すぞッッ!!」

「えぇ、殺しましょう。完膚なきまでに、叩き潰しましょうッ!」

 

 

 汎人類史の彼女であれば、兄の暴走を諫め、幾らか冷静さを取り戻させただろう。だが、この歴史の彼女は違う。最後の最後まで兄を諫め、責める事はなく、ただ兄の言葉に従って行動するのみ。

 

 ―――だからこそ、彼らは目の前に立つ男との力量差に、最期まで気付けなかった。

 

 

「泣いて許しを請え。貴様がこれより目にするのは、究極の―――」

「―――うっせェからさっさと死ねや」

「ひか―――」

 

 

 瞬きもしなかった。それなのに、瞬間移動と勘違いする程の速度で動いたバルカンの大剣が、カストロの頭部に振り下ろされた。

 

 轟音と共に、カストロの背後に数キロに及ぶ斬撃の跡が刻まれる。

 

 

「え―――兄、様……?」

 

 

 なにが起こったからわからない―――思わず隣を見たポルクスの目に映ったのは、左右に両断されて崩れ落ちる兄の姿だった。

 

 

「……ッ!! きさ―――」

 

 

 目の前の状況をようやく理解した脳が、右手の剣を振るわせようとするも、既に後の祭り。

 とうに兄の前にはバルカンの姿はなく、どこへ行ったのかと周囲を見渡そうとした時、不意に視界が反転した。

 

 

「最後に一つだけ言っとくけどよ」

 

 

 あるべきものが乗っていない場所から噴き出す鮮血の奥に、あの男の姿が見える。

 

 

「お前ら、弱すぎるだろ」

 

 

 その表情は、先程までとは打って変わって―――酷く退屈そうなものだった。

 

 

 

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「終わったぜ」

「お疲れ様、下お兄様♪ あいつらの最期の顔、最っ高だったよッ!」

 

 

 その体を構成していた魔力が光の粒となって消えていくディオスクロイを背後に大剣を担いで歩いてくる兄を、ミラオスはパチパチと軽い拍手で出迎えた。

 

 

「これでお姉様の言っていたキリシュタリアのサーヴァントの内、一騎……二騎なのかな? まぁいいや。とにかくそいつらは消滅。残るは……なんだっけ?」

「カイニスとアトラスだろ?」

「あぁ、そうだった。前者はカルデアとの戦闘で海に沈んだようだけど……生きてるね。私達は気付かなかったけど、たぶん私達がここに来て少し経った頃に流れ着いてる。でも、あんなダメージを負ってたから、別段気にしなくてもいいかもね。後者のアトラスの方は―――」

 

 

 死体の山から飛び降りたミラオスが顎に手を当ててバルカンと話していると、なにかが爆発するような音が二騎の鼓膜に響いた。

 思わず音の根源に視線を向ければ、ハンマーを振り下ろした体勢のままでいるアルバの姿が見えた。

 

 

「―――空想樹。アトラスは空想樹にいる」

 

 

 先程の爆発音はトドメの一撃だったのだろうか。彼女の周辺には龍属性の攻撃を使用した痕跡と見られる赤黒い稲妻の姿が確認でき、先程までその足元にあったはずの肉塊は跡形もなく消滅している。

 死体をずっと叩き続けていた時とは打って変わって、その瞳に理性の光を取り戻したアルバは、地面に置いたハンマーを消滅させ、肩から足首まであるマントを翻して振り返った。

 

 

「感じる……。感じるのだ。忌々しい神の気配を……ッ! 嗚呼……そうだ、神だ。この異聞帯にはまだ神がいる……。殺さねば、殺さねばならない……ッ!」

「落ち着いてよ、アルバ。クールに、平静に、ね? 無理に急いでも仕損じるだけだよ。なにより、あの二騎の神霊サーヴァントは殺しちゃ駄目って、お姉様に言われてるでしょ?」

「……はい、下姉上」

 

 

 アルバが頷いた瞬間、突如突風が吹き荒れ、三騎の髪や衣装を弄んでいく。

 落ち着きかけていたアルバの瞳がまたもや憎悪と憤怒に染まり始め、犬歯を剥き出しにして唸り始める。ミラオスとバルカンは僅かな苛立ちを孕んだ視線を上空に向けようとした。

 

 

「―――ッッ!!」

「アァ―――ッ!?」

「グ―――ッ!?」

 

 

 瞬間、脳内に不協和音と形容すべき音が流れ始めた。

 上空を見上げようとした三騎は不意打ちを受けた影響で頭を抱える。

 ガンガン、と殴りつけられるような音撃に襲われる彼らを、今度は巨大な影が覆う。

 

 

「「汎異権能―――限定励起ッ!」」

 

 

 なにもしなければ軽く潰されてしまうであろう超巨大な質量を前に、妹を護ろうとバルカンとミラオスが行動を開始する。

 バルカンは周囲から本来ならば存在しないはずのマグマを間欠泉の如く噴出させ、全てを迫り来る『それ』に向かわせる。

 続いて、ミラオスは背中に出現させた翼から火山弾を撃ち出してを迎撃する。

 バルカンとミラオスの咄嗟の迎撃によって、三騎を押し潰そうとしていた『それ』が押し返される。

 

 

『押し返されたわね、デメテル』

『えぇ。ですが、次こそは仕留めます』

 

 

 三騎の見上げた先。そこには二柱の神々が浮かんでいた。

 

 超高層建築にも匹敵する鋼の巨躯。

 翼を持つ異形の巨躯。

 

 これらこそが、星間都市山脈オリュンポスに座す神々の二柱。星の海を渡る舟の内の二機。

 

 大地を司る球体の真体(アリスィア)―――神としての名は、大地と豊穣の女神デメテル。

 名の意味は“母なる大地”。ガイア神の性質を色濃く継いだ大地母神。

 

 美を司る異形の真体(アリスィア)―――神としての名は、美と愛の女神アフロディーテ。

 名の意味は“崇拝”或いは“恩恵”。理想と現実の二面性を以て、人類を導く神。

 

 その二機が今、地上にいる三騎のサーヴァントを睥睨していた。

 

 

『そう。なら、次も手伝ってあげる。―――出力上昇。汚染開始』

 

 

 アフロディーテがそう告げた瞬間、彼女から発せられた魔力が音となり、再びバルカン達を襲った。

 

 

「ガ、アァ……ッ!? クソがァッ! 視界が歪みやがるッ! なんも見えねェッ!」

「ぐ……うぅ……ッ!」

「……ッ! ……ッ!! ……ッ!!!」

 

 

 バルカンが叫び、ミラオスが呻き、アルバが震える。

 

 オリュンポス十二機神の一柱であるアフロディーテの権能は、大規模魔力投射による精神への直接攻撃。

 原理としては、知性体の頭脳に働きかけて認知や感覚、価値観を支配する精神汚染の一種であり、人によっては歌のように聞こえる事もあるようだ。

 カルデアやシュレイドの勢力が到着する前にこの都に到着していた汎人類史のサーヴァント達は、彼女の権能によって狂わされ、同士討ちを強いられ全滅してしまった。

 

 

『さぁ、平伏しなさい。貴方達が前にしているのは、紛れもない―――え……?』

 

 

 頭を押さえて呻くバルカン達に愉悦の混じった声をあげたアフロディーテだが、威厳と傲慢に満ちたその声は、途中から唖然としたものとなった。

 

 地上が、一瞬にして変化したのである。

 古龍達やバルカン達によって破壊されるも、未だに文明の痕跡が残っていた地上が、瞬く間にマグマが煮え立つ火山地帯と見紛うものとなったのだ。さらに、上空に立ち込めた暗雲からは炎の雨が降り出し、氷を纏った雷まで落ち始める。

 

 常識では考えられない自然現象に呆気に取られるデメテルとアフロディーテ。しかし次の瞬間、アフロディーテが自身の機体に違和感を覚えた。

 

 

『え……なによ、これ……。熱い、熱いわ……』

 

 

 最初は地上のマグマや降り注ぐ炎の雨の影響による熱気に()てられたのか、と思ったが、この熱さはそれとは全く異なるものだと、アフロディーテは本能的に理解した。理解、してしまったのである。

 

 

『アフロディーテッ!』

『ねぇ、デメテル。なによ、これ。なんで私、燃えてるのよ……? いや、違う、これは―――』

「女神……ッ! 女神女神女神ッッ!! アアアアアアフロディイイイイイテェエエエエエエエエッッッッ!!!!」

 

 

 自分を包む炎に困惑しているアフロディーテに、地上から怨嗟を纏った咆哮が届く。

 

 悶え苦しむバルカンとミラオスを横目に立ち上がったのは、アルバ。その目には精神攻撃による苦しみなど微塵も感じさせず、消えかけていた激情の炎が渦巻いていた。

 

 

「下兄上になにをした下姉上になにをした私になにをしようとした答えろ答えろ答えろッ!! 応えろ、アフロディーテェエエエッ!!」

『ヒ……ッ』

 

 

 アフロディーテが地上を見下ろしてみれば、理性などまるで感じさせない真っ赤に染まった眼と目が合った。

 そこに宿るのは、絶対なる憎悪と憤怒。五体存在する“禁忌”の中でも、特に神への意識が強いが故に、それが宝具にまで昇華した復讐者(アヴェンジャー)の視線に、無意識に恐怖の声が漏れる。

 それと同時に、アフロディーテを包んでいた炎がその勢いを倍増させ、あっという間に全身を呑み込んだ。

 

 

『あああああああッ!? 熱い熱い熱い熱いぃいいッ!!』

『あぁ……ッ! アフロディーテッ!』

 

 

 悶え苦しむ、軋むような悲鳴を上げるアフロディーテを助けようとデメテルが近づこうとするが、人間を模した姿ならいざ知らず、機械の体を持ち出しているせいで、彼女を覆う炎を払えない。もし衝撃波で炎を振り払おうとしても、その衝撃でアフロディーテを傷つけてしまうかもしれない。愛を知っているデメテルだからこそ、その可能性に怖気づいてしまったのだ。

 

 

『デメテルッ! 助けてデメテルッ! このままじゃ、私―――』

『で、ですがそれは……その炎は―――』

「お前も()えろッ! デメテルゥウウウウウッッ!!」

 

 

 瞬間、憎悪の咆哮を受けたデメテルの体もアフロディーテと同じように炎に包まれた。

 

 

『ガ、アァアアアアアッ!?』

 

 

 あまりの熱さに絶叫したデメテルが、堪らず魔力による滞空を中断してしまい、地上に落下する。それからしばらくしない内に、次いでアフロディーテもデメテルの隣に落ちてきた。

 

 

(なんですか、これは……ッ!? ただ熱いだけじゃない……ッ! 消える( ・ ・ ・ )……ッ! 私達の根底から、少しずつ燃やされている……ッ!)

 

 

 激痛と熱さに二柱が再び絶叫した直後、彼女のひび割れた外装から炎が内部に侵入。海中で口を開けた瞬間に雪崩れ込んでくる海水のように入り込んだ炎は、そのまま彼女達の内部を熱し始める。

 

 体外、体内の両方を炎によって焙られている二柱は、最早声にならない叫び声を上げるのみ。

 本来の自分達である真体(アリスィア)を動かして出撃したにも拘わらず、この為体(ていたらく)。『屈辱』という二文字が彼女達の心中に浮かび上がるが、その感情すらも炎によって焼き尽くされ、また絶叫する気力さえも奪われていく。

 しかし、それでも、永い時間の中で培ってきた感情が『絶叫せよ』と訴えかけてくる。それを拒む事も出来ない二柱は、声が擦り切れているにも関わらずに絶叫し続ける。

 

 

「煩い囀るな蛆虫が殺す潰す引き潰す焼き潰す凍て殺す斬り殺す圧し潰す叩き潰す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッッ!!」

 

 

 叫び、悶える続ける二柱に、この現象を引き起こした女性が近づく。

 

 これこそ、彼女が保有する宝具の一つ―――『神域』による効果。

 生前の時代、“神をも恐れさせる最強の古龍”とまで謳われた彼女の居城は、当時の人々の認知が影響した事で宝具へと昇華した。

 その内容は、『神の消滅( ・ ・ ・ ・ )』。相手が全能だろうが、それに近しい立場であろうが、それが『神』であると世界に認識されているものであれば、この領域の効果から逃れる事は出来ない。

 対魔力による抵抗など意味を成さない。この領域に入った時点で、神性を保有する者は一切の区別なく弱体化させられ、やがて消滅する。

 蟻地獄に落ちた蟻がどうなるか。底なし沼で藻掻く人間がどうなるか―――“神域”に入った神々を待つ最期とは、得てしてそういうものである。

 

 デメテルとアフロディーテが起こした行動は、愚行という他ないだろう。

 だが、時すでに遅し。彼女達は蟻地獄に落ち、底なし沼に足を取られた。

 “神域”に立ち入った以上、彼女達の運命は決定付けられた。

 

 この異常の一言に尽きる自然現象が起こり続ける大地を支配する存在は、“煌黒龍”を除いて他になく。その主を討ち滅ぼすのは、彼女が創る地獄を乗り越えた()を置いて他にない。

 

 

「殺してやる潰してやる消してやる一片も遺さず消去する―――オオォォオアァアアァァァァァァッッッ!!!」

 

 

 足元から発生した、火・雷・水・氷・龍―――彼女が操る全ての属性が混ざった竜巻が全身を包み込み、巨大な龍の姿を作り上げる。

 

 竜巻を吹き飛ばして現れたのは、全身が逆鱗で覆われた、天を衝くように伸びた二本の角を持つ龍。

 その名を“煌黒龍”アルバトリオン。“暗黒の王”、“闇夜に輝く幽冥の星”の異名と共に人々に恐れられた、“禁忌のモンスター”の一角。数多の龍の中でも唯一無二の、全ての属性を司る最強の古龍である。

 

 

〔惨めに死ぬがいい、愚かな機神共。その忌々しい気配を、臭いを、存在を、全て、全て全て全てェエエエエエエエエ……消し去ってやるッッッ!!!〕

 

 

 アルバトリオンが吼え、雷鳴が轟く。

 直後、上空から二柱に向かって炎の雨と氷の雷が殺到し、地上からは激流を纏った獄炎が襲い掛かり、女神達を包み込んだ。

 叫ぶ女神達など意に介さず、アルバトリオンは全身から強烈な熱気と冷気を同時に放出し始める。

 

 

「あっ、不味い」

「クソがァッ! 俺達もお構いなしかよッ!?」

 

 

 アルバのお陰でアフロディーテの精神攻撃が止んだ事で正常な思考能力を取り戻したミラオスとバルカンだったが、これから彼女がなにをしようとしているのかに気付くや否や、踵を返して一気に跳び立つ。

 

 全速力で妹から距離を取る彼らに、今の彼女を止める手段はない。今の彼女は、二柱の女神を殺す事しか眼中にない。無理に止めようとすればこちらも攻撃される。

 (ボレアス)よりも狂戦士(バーサーカー)やってるあの妹を止められるのは、長女にして創造主たるアンナ・ディストローツを置いて他にない。

 

 

〔地獄の灼焔。荒海の怒涛。暗天の雷霆。絶凍の冷気。万象統べし“暗黒の王”が、汝らに裁決を下す〕

 

 

 撃滅対象―――デメテル、アフロディーテ。

 異聞の権能との結合―――確認。

 汎異権能―――最大励起。

 魔力量―――臨界。

 

 宝具発動条件―――クリア。

 

 

〔汝らに与えるは“死”―――『幽冥の暗帝、我は審判を下す龍(エスカトン・ジャッジメント)』〕

 

 

 初めに解き放たれた絶対零度の冷気がデメテルとアフロディーテを覆い、強固な氷の牢獄に閉じ込める。

 既に防御する事すら出来なくなっていた彼女達は瞬く間に閉じ込められてしまい、また周囲の地形すらも瞬時に氷の世界へと変える。

 

 

〔消えろ消えろ消えろ……ッ!! 神々(おまえたち)など消えてしまえ……ッ!! この惑星(ほし)は、私達のものだッッッ!!!〕

 

 

 そして間を置かずに、続いてアルバトリオンから獄炎が解き放たれた。

 標的も周囲の地形すらも巻き込んで奔った焔は、凍えた大地を一瞬にして熱風が吹き荒れる地獄へと変え、咆哮を轟かせたアルバトリオンを中心に爆発。

 強大な力を伴って放出された衝撃波が、砕かれた氷の欠片と焔を消し飛ばした。

 

 衝撃波が完全に収まった頃、そこには最早文明の名残など感じさせぬ更地と化しており、アルバトリオンの前に落ちていた二柱の機神達の姿も消えていた。

 

 完膚なきまでに、欠片すら残さずに標的を消し去ったアルバトリオンが憎悪と憤怒に塗れた勝利の咆哮を轟かせ、その身を再び属性の竜巻で覆う。

 

 

「フー……ッ! フー……ッ!」

 

 

 肩で荒い呼吸を繰り返し、剥き出しにした牙の隙間からダラダラと唾液を垂らしたその姿は、凛々しさと美しさを兼ね備えたその美貌には似つかわしい程に獰猛なもの。

 

 

「これはまた、派手にやったね~……」

 

 

 周辺で衝撃波による消滅を免れた炎がチラチラと燃えている更地の奥から現れたのは、なんとかアルバの宝具の射程距離から脱出できたミラオスとバルカンだ。

 

 

「……下姉様、下兄様……」

「あらら、アルバ、涎垂れちゃってるよ」

「……っ! 申し訳ありません……ッ!」

 

 

 兄姉(けいし)にはしたない姿を見せてしまったと気付いたアルバは、すぐに軍服の内ポケットから取り出したハンカチで口元を拭いた。

 恥ずかしかったのか、その頬は若干上気している。

 

 

「危うく巻き込まれるところだったけど、無事に逃げ切れてよかった。ねぇ~下お兄様?」

「これのどこが『無事』だ、クソが」

 

 

 見上げてきたミラオスに悪態を吐くバルカンの額には、衝撃波によって割れたものが飛んできたのだろうか、少し大きめのガラスが刺さっていた。

 

 

「し、下兄様……ッ! すぐに抜きますので―――」

「気にすんじゃねェよ」

 

 

 あわあわとするアルバを他所に額からガラス片を引き抜くバルカン。すぐにそこから少量の血が飛び出すが、その傷は瞬く間に修復されていく。数秒も経てば、傷跡すら残さずに完治していた。

 彼ら龍にとって、頭にガラス片が刺さるなどすぐに治療できる軽傷程度の扱いだ。彼らよりも格下に位置する竜種に分類される“火竜”リオレウスも、ブレスを放った直後に火傷した喉を瞬時に回復させられるのだ。

 数多のモンスター達がハンター達を苦しめてきた理由の一つとして挙げられるのは、この異常な回復速度だろう。幾ら斬りつけても、少し時間が経てば完治してしまうのがモンスター達だ。流石に尻尾を切断されたり、部位を破壊されたりした場合はその限りではない事が多いが、それでも回復能力の高さは、彼らよりも全ての能力で劣っているハンター達を苦しめるには充分すぎる。

 

 

「とにかく、お前のお陰であのクソッタレな女神共を潰せたんだ。感謝するぜェ、アルバ」

「……はい」

 

 

 ガシガシと少々乱暴に帽子の上から頭を撫でられるも、アルバの口元には笑顔が浮かんでいた。

 

 

「ンじゃ、俺達も次行くかァ。適当にぶっ壊しながら、姉貴の呼びかけまで待とうじゃねェかッ!」

「うんうん♪ じゃあ、次はどっちが先に街を潰せるか競争しよっか♪」

「ハハッ! そいつァいいッ! 早速やろうぜェッ! お前も来いよ、アルバ。まだまだ潰すべき連中は沢山いるんだからよォッ!」

「……ハッ!」

 

 

 片膝をついて(こうべ)を垂れたアルバは、走り出した兄姉に続いて走り出した。

 

 

 

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「えッ!? デメテルとアフロディーテをッ!? すっごいよアルバッ! お手柄だよッ! 帰ったらいっぱい御馳走してあげるからね」

『ありがとうございます、姉様』

 

 

 念話で伝えられた報告に思わず驚きの声を漏らしたアンナの称賛の声に、嬉しそうなアルバの声が返される。

 デメテルとアフロディーテ。この二柱が弟妹達の下に向かったと知った時は不安に心が潰れそうになったが、それも杞憂に終わったようだ。

 彼らは、間違いなく生前よりも強化されている。汎人類史の彼らの力だけでは決して叶わなかっただろう。シュレイド異聞帯に生きていた自分達の力を取り込んだが故の成果だった。

 

 

『おい姉貴ッ! だったら俺も褒めてくれるよなァッ! なんたってディオスクロイを殺したんだからよォッ!』

「もちろんだよ。君にもちゃんと御馳走を用意してあげるからね」

『ヨッシャァッ!』

「ミラオスも、ちゃんと用意しておくからね。だから、絶対に下手な真似はしないようにね?」

『もちろんだよお姉様ッ! じゃあ、私達もっといっぱい殺してくるねッ!』

 

 

 ミラオスの声を最後に、ここにはいない弟妹達との念話が終了する。

 さて、と一息つき、アンナの視線が前方に向けられる。

 

 

「デメテルとアフロディーテは、私のサーヴァントが(たお)した。君達の破神計画を派手に壊しちゃったけど、まぁ、別にいいよね? 計画があってもなくても、どっちみち私達が(こわ)すつもりだったし」

「「……」」

 

 

 笑顔で歩くアンナに、彼女の前に立つ二人の男女は息を呑む。

 

 子どものように無邪気な、けれどどこか大人の魅力を感じさせるような雰囲気も感じさせるこの笑顔の持ち主が、自らのサーヴァントに二柱の女神を仕留めさせた。汎人類史のサーヴァント達を全滅させた二柱を相手に、逆に圧勝してみせたと言う彼女のサーヴァントと同等―――否、それ以上の危険性を、彼女からも感じているのだ。

 そしてそれは、彼らの背後にいる赤髪の少女とその仲間達も同様。誰も言葉を話せるものはおらず、ただじっとアンナを見つめる事しか出来ない。

 

 

「黙ってちゃ話にならないでしょ? 私は君達と話をしたいの」

 

 

 そう言ってアンナは、目の前に立つ姉弟に対し、笑顔のまま訊ねた。

 

 

「ねぇ、君達は、この異聞帯(せかい)についてどう思ってる?」

 




 
 ちなみにデメテルとアフロディーテ戦ですが、もしあの場にアルバがいなければバルカンとミラオスは同士討ちさせられてました。アルバの有無が勝敗を分けたんですねぇ。

 “神域”の効果についてですが、さらっと箇条書きさせて頂きます。

 ①神性持ち、またはその血縁者に神がいる者の攻撃力・防御力大幅ダウン。
 ②神性持ち、またはその血縁者に神がいる者に常時特大スリップダメージ(体力が0になった時点で消滅)。
 ③神性持ち、またはその血縁者に神がいる者のスキル・宝具・権能の弱体化及び使用制限(発動時に消費する魔力の倍増)。

 fgoに登場した場合。

 ①神性持ちは解除不可のバスター・クイック・アーツの効果/耐性、攻撃力・防御力の大幅ダウン。
 ③神性持ちは常時3000のスリップダメージ(神性を持っていない場合は1000)。
 ④神性持ちはスキルのクールタイムを二倍、宝具威力の激減(デバフ系は確率の低下/弱体効果を半減)。

 こんな感じですかね。完全なる神性持ちぶっ殺す効果となっております。異聞帯の力を取り込んだアルバはこれを任意で発動できますので、日常生活をずっと“神域”で過ごす、なんて事は基本ありません。彼女がそうしたいと思っていれば話は別ですが。

 そろそろ花粉の時期ですね。皆さん、花粉症対策もそうですが、ウィルス対策もしっかりして頑張っていきましょう。
 それでは皆さん、また次回ッ!
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