どうも、皆さん。ホワイトデーにガチャでマーリンが来たというのに、それをすっかり忘れて召喚し損ねた挙句、怨敵スギ花粉によって鼻と目を破壊された作者、seven774です。
新しいイベントが始まりましたね。そして、遂にオデュッセウスのマスクが簡易霊衣として実装されましたね。これを機にオデュッセウスを引きましょうかねぇ……。
それでは皆さん、本編をどうぞッ!
破神同盟。
それは多くの仲間達の犠牲を乗り越えてオリュンポスに到達した汎人類史のサーヴァント達と、現代まで続いた神々の治世に異を唱える現地人達によって構成されたグループの名である。
この同盟に参加している現地人―――つまりオリュンポスの住人達は、かつてこの異聞帯でゼウスと彼に賛同する神々と対峙した神々を信仰しており、汎人類史のサーヴァント達がやって来るまでは、その叛逆の意志を表に出せずにいたのだが、サーヴァント達の登場によって、遂に『神の打倒』を胸に立ち上がった。
しかし、それも今ではたった二人の双子を残して壊滅。志を共にした仲間達も、皆デメテルやアフロディーテ、そしてディオスクロイに殺されてしまった。
彼らの死を無駄にしない為にも、双子は遅れてやって来たカルデアと協力し、ゼウスを打倒するに足る強力な戦力となる存在―――
正史であれば、正しくその通りの流れで、カルデアと双子はデメテルとアフロディーテ、ディオスクロイを討ち取っただろう。
だが、そうはいかなかった。これは正史より外れた異なる物語でしかなく、たった一つの生命の誕生によって、この物語は大きく変化した。
「どう、思っているかだって……?」
「そう。ここに来るまで何人か見てきたけど、みんなが神に頼るしか能の無い、取るに足らない
柔らかい笑顔に似合わぬ残虐な思考を持つアンナに、双子―――姉のアデーレと弟のマカリオスは息を呑む。
ゼウスの妻である神妃エウロペの広域放送が流れてすぐに起こった、前代未聞の大災害。このギリシャ異聞帯とは別に存在するシュレイド異聞帯から雪崩れ込んできた古龍軍団によって、星間都市山脈オリュンポスは恐怖と絶望が渦巻く地獄と化した。
ディオスクロイ、デメテル、アフロディーテ―――オリュンポスを支配していた神々は、ゼウスを除いて全て死亡。短時間で神殺しを遂行してみせたサーヴァント達は、今もどこかでオリュンポスの破壊を続けている事だろう。
だが、なによりも注意せねばならないのは、今目の前に立つ女性だろう。
彼女が口にする言葉に、嘘はない。
一片の濁りもなく、彼女は自分の言った事を実行する。彼女がオリュンポスに生きる人々に絶望している事は事実だし、同時にこの会話を最後にオリュンポスを破壊するという言葉も、最早確定事項になってしまっている。
彼女の後方に控えている漆黒のサーヴァントも気掛かりだが、彼の様子から察するに、主からの命令が無い限り行動を起こす事はないだろう。
しかし、彼は今もじっと双子達を見つめ、品定めをするかのように目を細めている。
それに生唾を呑み込みながらも、双子はアンナへと視線を向けた。
「……滅ぼすと決めているのに、なぜ私達と会話しようとするのですか?」
絞り出すように訊ねたアデーレに、アンナは「そうだねぇ」と顎に手を当て、チラリと双子の後方を見やる。
「君達が、あの子達と行動している。それが興味深くてね」
双子の後方―――藤丸立香を始めたカルデアのメンバー達を見る目は、彼女達に対する尊敬と敬意を宿しており、同時に慈母のような包み込むような優しさも感じられた。
きっと、彼女にとってのカルデアとは、こういった事態に際しても決して折れる事はなく、我を貫き通す集団だと認識しているのだろう。それは決して間違いではないと、彼女達と出会って間もない双子も理解できた。
アンナが双子に接触したのも、彼らがカルデアと共に行動しているのを見たからだろう。でなければ彼女は、欠片の感情も抱かないままに双子を消していたはずだ。
「さぁ、聞かせてくれる? 君達が、この異聞帯についてどう思っているのか」
軽く周囲を見渡して見つけた瓦礫に腰を下ろし、優雅に足を組んだアンナが二人に問いかける。
二人は一瞬だけ顔を見合わせた後、頷いたマカリオスが先に口を開いた。
「滅びるべき、だと思う」
「……へぇ。どうして、そう思うのかな」
「……オレ達は、明日が欲しいんだ」
「……それはどういう意味で? 滅びるべきと答えながら、なぜ『明日』を求めるの?」
「神々の支配によって、オリュンポスは不変となりました。デメテルが製造するアンブロシアやデメテル・クリロノミアによる病の克服、死の克服……。それによって人々は老いる事も死ぬ事もなくなり、また同時に、誰かと死別するという哀しみからも脱却しました。ですが……私達はそんな世界に対して、『間違っている』と考えています」
生物である以上、生命の終わりを意味する『死』は必ず訪れる。常識であるその事象に対して、忌避感を抱く人間はまずいないだろう。だが、他人の―――それこそ家族や友人といった親しい人間の死となると、誰もが死に対する恐怖や忌避感を抱く。親しい人との死別は、誰の心にも深い傷を刻み付けるものだ。それが神より与えられた果実や力によって解消されたのなら、誰もが喜ぶだろう。愛する人々と、永遠の時を生きていられるのだから。
だがこの二人は、それに対して否定的な意見を述べている。マカリオスに至っては『滅びるべき』とハッキリ口にしているのだ。
アンナから注がれる視線に僅かに好意が混じったのを感じ取りながらも、二人は決して表情を変える事無く、真剣な様子で続ける。
「だからこそ、私達は破神同盟を結成し、神々への叛逆を決意しました。……デメテルとアフロディーテ、ディオスクロイは、貴女のサーヴァントが倒してしまったそうですが」
「別にいいでしょ? 君達にせよ、私達にせよ、どのみち奴らは斃されていた。それに、奴らに回す体力を温存できたんだから、君達にとっては逆に好都合―――あぁ、いや。私達がやっちゃ意味無いかぁ……」
なにかに気付いたように深い溜息を吐き、額に手を当てた。
彼女の様子から察するに、破神同盟を結成した以上、彼らがデメテル達を打倒するのが当然だと考えたのだろうか。彼彼女らを討伐する為に今まで密かに準備を続けてきたであろう双子やカルデア一行には悪い事をした、と思い、アンナは堪らず頭を下げた。
「君達の獲物を横取りしちゃったみたいだね。ごめんなさい」
「……いや。オレ達の目標はゼウスだ。その他の神々は、その過程でぶつかると考えていたんだ。お前が『好都合』って言ったのは、まさしくその通りだ。謝る必要は無い」
「そうなの? はぁ、良かった。なら、問題はないね」
「……疑わないのですね。私達が、神々の打倒に成功すると」
「そりゃそうでしょ。君達の持つそれは、『勇気』と呼ばれるもの。それを持つ者は、たとえ世界を滅ぼす災厄だろうと討ち果たす―――私はそう思ってるからね。もちろん、君達より先にゼウスを倒したいって気持ちはあるよ。こっちの『私』の後釜についたくせに、人類種をここまで堕落させたあのクソジジイをぶっ飛ばしたいってぐらいにはね。君達と出会わなければそのままゼウスの元まで行ってただろうけど……気が変わった。ゼウスとは君達が戦うといい。私は、キリシュタリアと戦うから」
「……キリシュタリア?」
後半の一言にピクリと馬の耳を動かしたのは、今まで静かにアンナと双子の会話を訊いていたカイニスだ。
本来ならばキリシュタリアもとい、オリュンポス側のサーヴァントとしてカルデアと敵対関係にある彼だが、今はとある事情によって彼らと行動している。そんな彼がこの場にいる事にはアンナも少し驚いていたのだろうが、彼のマスターであるキリシュタリアの考えによるものだと考え、放置していたのだろう。
「なるほどな。テメェの目的は、始めっからキリシュタリアかよ。そりゃそうか。他の事なんざどうでも良さそうだったもんなぁ」
「酷い言い様だね、カイニス。私だって気にする事はそれなりにあるよ。……神々とか、オリュンポスの石ころについてはその通りだけど」
「ハッ、やっぱその通りじゃねぇかッ! それで? テメェがキリシュタリアに用があるってのは、殺し合いをする為か」
「異聞帯同士が衝突したんだよ? だったら、その担当者である
「……ッ。そう、なんですね……」
平然と自分がキリシュタリアと殺し合いをしに来た、と口にしたアンナに、小さく息を呑むマシュ。
人理焼却前、Aチームに在籍していた彼女は、アンナとキリシュタリアが楽し気に会話したりはしゃいでいた様子を何度も目撃していた。時には自分も巻き込んで色々な事を教えてくれたりもした二人がこれから殺し合うと考え、目を伏せてしまっている。
「君が気にする必要は無いよ、マシュちゃん。私達はクリプター。それぞれの異聞帯の管理者。担当地域がぶつかった以上、戦うのは決定事項なの。……『異星の神』の掌で踊らされてるって考えると、虫唾が走るけどね」
心底嫌そうな表情で吐き捨てるアンナ。『異星の神』が仕掛けた異聞帯同士の戦争には、彼女自身思うところがあるのだろう。しかし、なにもしないでいては自分が管理する異聞帯は滅び、『彼女』から託された子ども達の命も消えてしまう。
アンナが他の異聞帯の侵略に積極的になっている理由としては、『子ども達を護る』という、親であれば誰しもが持つ家族愛によるものだった。その為ならば、この異聞帯で暮らす人々や神々の殲滅にも簡単に踏み切れる。
愛する子ども達の為ならば、如何なる手段をも許容する―――
「……話が逸れたね。とにかく、私は君達とゼウスの戦いを邪魔しない。古龍達やサーヴァント達にも伝えておくよ。『彼らの神聖な戦いを穢してはならない』ってね。……最後に、一つだけ」
立ち上がり、双子の目の前にまで歩いたアンナは、彼らに対し問いかける。
「ゼウスを打倒した先になにがあるか、君達はもうわかっているはず。……どう抗おうと、
「「―――」」
これが最後の問いかけにして試練だと、双子は直感的に理解した。
彼女は、この問いかけに対する答えを以て、自分達の『在り方』を定めるのだろう。それは、ゼウス達神々のような、支配者としてのものではなく、同じこの
だが、二人は確信していた。
彼女は自分達の気持ちを、想いを、父親のように真正面から受け止め、母親のように優しく応えてくれるだろうと。
「神なる力に幾度屈そうとも、『それでも』と叫び続ける事だけが、ちっぽけな私達に出来る事」
「目指す空があまりに遠いのだとしても、それでも―――」
「「―――停滞の永遠よりも、明日を見たい」」
「―――ぁ」
揃ってそう答えた途端、アンナの瞳が大きく見開かれ、全身が僅かに震えた。
限界まで見開かれた瞳には、明確な双子達への称賛と敬意の光が宿っており、そこから一筋の雫が零れ落ちる。
頬を伝って滑り落ちていくそれに気付いたのか、ハッとしたアンナはすぐに指で拭い取り、一言、「素晴らしい」と漏らした。
「まさか、そこまでの覚悟だなんてね。興味本位で訊こうと思った自分が馬鹿らしく思えてきたわ……。……あぁ、君達は本当に、素晴らしい子達ね……」
そう言ってアンナは、双子の頭を優しく撫で始めた。
全てを受け入れ、優しく包み込むような掌の温かさに、双子は今は亡き母親の姿を脳裏に思い浮かべた。
「オリュンポスの双子。君達の名前を聞かせて?」
「……アデーレ」
「……マカリオス」
「そう……。アデーレ、マカリオス。勇敢なりし
「「……はい」」
ハッキリと頷いた双子に慈愛に満ちた微笑みを返した後、アンナはカルデア一行―――厳密には藤丸立香へと視線を向ける。
「君も頑張りなさい、立香ちゃん。仲間達と共に困難を乗り越える事こそ、貴女が唯一為せる事。“試練”は未だ続く。七つの異聞帯を征した後に、シュレイド異聞帯に来なさい。私、君との対決を楽しみにしてるんだよ? だから……死なないでね」
「は……はい」
スッと細められた視線に込められた感情に僅かに気圧されるも、しっかりと返事を返した立香に、アンナはニッコリと微笑んで頷いた。
「その覚悟を忘れないようにね。―――行くよ、ボレアス」
「了解」
「それじゃあね、アデーレ、マカリオス。君達の勝利を祈っているよ」
淡々とした口調で答えたサーヴァントを従え、アンナはひらひらと手を振りながら去っていった。
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「……良かったのか、姉上」
「うん? なにが?」
古龍達の攻撃によって破壊され、今も尚絶望と恐怖の叫びが木霊する街を歩くアンナに、ボレアスは訊ねる。
「あの双子の事だ。……彼女達は勇気ある人間達だ。彼女達ならば、シュレイド異聞帯に招く事も出来たはず」
「……そうだもんね。君がそう考えるのも当然か」
“禁忌”の称号を戴く龍達の中でも、ボレアスは勇気ある者達に最も敬意を払う傾向がある。
彼が考えている事は、アンナにも理解できる。
あの双子は勇敢な者達だ。それに、他者を慈しむ優しさも持っている。それは軽く見ただけでも理解できた。
二人ならば、カドック達と協力して、よりシュレイド異聞帯の
「……でも、無理だよ。あの子達は、きっと頷いてくれない。ここで終わる事を是とするだろうね」
だからこそ彼女は、敢えて彼女達の勧誘を控えた。
彼女達は、命の終わりをゼウスの打倒とイコールで紐づけている。この異聞帯の支配者の破神を為したその時こそが、二人の命の終わりを意味するのだろう。そこまでの覚悟を決めた双子を引き留めるなど、アンナには出来なかった。
権能を使えば、無理矢理にでも双子達の
「……ごめんね、ボレアス。君の要望は、叶えられないよ」
「……いや。私も、理解していた。彼女達は、ここから離れるつもりはないという事を」
「ホント、惜しいなぁ。……まぁ、仕方ないか。さ、行こうか、ボレアス。目指すはあそこだよッ!」
ビシッと、キリシュタリア・ヴォーダイムが待つであろう軌道大神殿を指差し、アンナはボレアスと共に走り出した。
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「……よし、誰もいないな」
星間都市山脈オリュンポス。
基幹中枢、軌道大神殿オリュンピア=ドドーナ。
アンナが率いる古龍軍団による襲撃によってオリュンポス都市部が火の海に包まれる中、未だにアンナが開けた大穴以外に外傷の無いその神殿の内部に存在する円卓に足を踏み入れた人影の一つ―――カドック・ゼムルプスが周囲を見渡しながら呟く。
アンナ達が盛大に暴れてくれたお陰で、オリュンポスの勢力の視線は彼女達に釘付けになっている。その隙に乗じて乗り込んだ彼らは、誰の邪魔も受けずにこの場所に辿り着けたのである。
「キリシュタリア様はどこにいるのかしら。アルターエゴ達も見かけなかったけれど……」
「大方、今も暴れているアンナちゃん達に目を向けているんじゃない? あの子達、結構暴れ回ってるらしいし」
「そう……」
「僕らにとっては好都合だ。データを漁るなら今しかない」
オフェリアとペペロンチーノとの会話も程々に、八つある席の内、恐らくキリシュタリアが座っていたであろう席に近づくカドック。彼らの背後にはそれぞれのサーヴァントが控えているが、誰もが周囲に注意を向けて奇襲に備えている。流石のアナスタシアも、ことこの状況においては主への悪戯はしない。時々彼の背を見やってうずうずしているのは気のせいだろう。
事細かに書き込まれた情報データがあれば万々歳だが、そう都合よく見つかるはずもないだろう。それに関する会話記録でも見つかればと思いながら、端末を起動させる。
やはりというか、データベースにアクセスするには八文字のパスワードが必要らしい。七文字であれば試しに『CRYPTER』とでも打ち込んでいただろうが、生憎それは七文字。条件には当てはまっていない。
キリシュタリアに関連する、八文字のパスワード―――それはいったいなにかと頭を悩ませるカドックに、ペペロンチーノの声が届く。
「八文字のパスワードね……。そういえば、私達クリプターも全員で八人ね」
「こんな時になにを―――いや、待て」
まさかと思い、試しに『KKOAPBDA』と打ち込んでみる。
すると、ホログラムのモニターのロック画面が解除された。
「……あいつ……なんてパスワードを設定してるんだ」
「キリシュタリア様……ッ!」
口元に手を当てて瞳を輝かせるオフェリアを尻目にペペロンチーノを見ると、彼は小さくウィンクをして答えた。どうやら、この場においてキリシュタリアの性格を一番理解していたのは彼らしい。
なにはともあれ、最初の障害であるパスワードは突破できた。次はファイルの精査、そこから僅かにでも『異星の神』に関連しそうなものをピックアップしていく。
「……ッ! これは……ッ!」
そこで、カドックの表情が喜色に染まった。
彼の背後からモニターを見ていたオフェリアとペペロンチーノも、カドックが見つめているであろうファイル名―――『Secret Film』を見て思わず笑顔になった。
「まさしく、秘密のファイルというわけね。流石キリシュタリア様だわ」
「早速覗いちゃいましょッ!」
「ハハッ、なんだか運が良いな」
そう簡単には見つからないと思っていた矢先にそれらしきものが見つかった事に三人が笑顔になり、早速カドックはそのファイルを開いた。
『あー、あー。……撮れてるかな。え~、私はキリちゅ……噛んでしまった。これは撮り直すとしよう』
音声終了。収録時間―――20秒。
「……次、行きましょうか」
「……あぁ」
「これならどうかしら。『Secret Film 2』。『2』って入ってるんだから、きっと撮り直したのよ。これならちゃんとした情報が得られると思うけど」
「よし。再生するぞ……」
ボイスメモ、再生開始。
『私はキリシュタリア・ヴォーダイム。クリプターのリーダーとして、大西洋異聞帯を担当している。……よし、先程は噛んでしまったが、今度はちゃんと言えたぞ』
「キリシュタリア様……かわいい……」
「オフェリアッ!?」
「しっ! 続いてるんだから、しっかり聴きなさい」
ペペロンチーノに諫められ、大人しくカドックとオフェリアはキリシュタリアのボイスメモに耳を傾ける。
『……はは。マイクに向かって話すとなると、なんだか照れてしまうな。もう一度撮り直そう』
音声終了。収録時間―――一分。
「おい、終わったぞ」
「次行きましょ」
以下、ダイジェスト。
「フォルダ名『E』……。『
「……ッ!!」
「あらヤダッ! これただのエロ画像じゃないのッ!」
「クソッ! なんでこんなものを保存してるんだッ!」
「クソッ! 今度は男のグラビアかッ!」
「そんな……キリシュタリア様……」
「オフェリアッ! 傷は浅いわ。意識をしっかり持ってッ!」
「これよッ! これならきっと『異星の神』に関する情報が―――」
『ジャガイモ 5~6個
にんじん 3本
豚バラ肉 300g
サランラップ
箱ティッシュ 』
「ただの買い物メモじゃないッ!!」
「というかあいつ自炊してたのかッ!?」
「……ッ! 見ろッ! この『異聞帯記録』、1、2、3、5まであるようが、『4』がない。それ以外はただのオリュンポスの散歩記録だったが、きっとここになにかしらの情報があるはず……ッ! ……このフォルダにはないか……?」
「あっ、カドック。ここ、『ibunntaikiroku.4』があるわッ!」
「なんで半角なんだッ! わかりずらいだろッ! せめて統一してくれッ! ……クソッ!! こいつも散歩記録じゃないかッ!」
「『最新版へのショートカット一覧』……これよッ!」
「全部リンク切れじゃないかクソッ!」
「『これを観れば貴方も出来る!? AVのモザイク透視方法!』ッ!? なんなんだあいつッ! いったいなんの力を手に入れようとしてるんだッ!?」
「大丈夫よ、オフェリア。私はまだキリシュタリア様が好き……私はまだキリシュタリア様が好き……」
「そう、そう。落ち着いて。男の子はみんなこういうのが好きなのよ。ね、カドック?」
「僕を巻き込むなッ!」
『この映像を見ている時、オリュンポスは既に滅びかけている頃だろう。その時の為に、この映像記録を残しておく』
「ようやくまともそうな記録を見つけられた……。さて、いったいどんな情報が―――」
『―――とか言ってみたかったんだが、どうだい? ちなみにこの映像を観終わってから一分後、この端末は爆発する』
「ハッ。騙されないぞ。どうせハッタリだ」
「ちょっ、カドックッ!? なんか画面の端っこにタイマーが作動してるんだけどッ!?」
「クソッ! こいつはマジかッ! なんでそこは普通に設定できるんだッ!」
『万が一、誤ってこの記録を再生してしまった場合に備えて、自爆機能の解除コードを設定しておいた。これがその解除コードだ』
「速く打ち込んでッ!」
「……よし、打ち込んだッ! タイマーが止まったぞッ!」
「「やったあああああああッ!!!」」
ダイジェスト終了。
「はぁ……はぁ……。クソッ、まさかこんなにも混沌としたデータベースと格闘するなんて思わなかった……」
「えぇ……。あぁ、キリシュタリア様……」
「オフェリア、時々情緒がバグってたわねぇ。さ、改めて探しましょ。次はちゃんとしたのが見つかるわ」
「……あぁ。そうだな」
もう二度とこれまで開いてきた類のものには引っかかるか、と意気込んで数十秒後、カドックは気になるものを見つけた。
「これは……オフェリアからの定期報告? 時期的には、僕がカルデアに囚われていた頃か。再生するぞ」
「えぇ」
ようやくまともそうなものを見つけた安堵も程々に、なんとなく傍にいるオフェリアに確認を取ってから、音声ファイルを再生する。
やがてホログラムで映し出されたオフェリア(以下、ホログラム・オフェリア)の口から、異聞帯と空想樹の関係についての考察が始まった。
本来ならば汎人類史の生きる地球上では存在し得ない剪定事象の延長である異聞帯と、それを辛うじて地上に繫ぎ止めている空想樹。この二つの存在は強固に結びついており、事実、カルデアによって空想樹を切除されたロシア異聞帯は消滅した事によって、この二つの絶対的な関係性が証明された。
だが、ロシア異聞帯消滅が証明するのは、空想樹の有する特性の一つではない。
異聞帯には、『人類史から排斥され、現在に至るまでの“空白”をどう解釈するか』という巨大な命題が残っていた。この通信は、この命題に関わる報告だと、ホログラム・オフェリアは語った。
表情を引き締めたホログラム・オフェリアの口から語られたのは、かつて彼女が担当していた北欧異聞帯の王―――スカサハ=スカディが、汎人類史によって切り捨てられたものであると理解していながら、異聞帯における数千年間の出来事を認識していた、という事。彼女は『ラグナロクが起きてから数千年の出来事』をあり得ないと自覚しながら、『実際にあった数千年間』の上に存在していたのだ。これは、大いなる矛盾である。
彼女の言葉一つで全てを断ずる事は出来ないが、と前置きした後、ホログラム・オフェリアは一つの仮説を提言した。
その仮説とは―――それぞれの空想樹の中では、異聞帯の人類史排斥から現在までの『空白』期間が、それぞれの時間分だけ、
ロシアであれば約500年、北欧であれば約3000年、中国であれば約2200年……といったように運営されていたとすれば、異聞帯の歴史は剪定された時点でゼロであり、そこから現代まで続いた彼らの歴史は、『空想樹』の中で仮想運営されたものであり、その内容によって『証明』され、地球上に出力されたものではないのか。
これは最早、歴史の編纂などではなく、『創造』。
かつて星を支配した主神級の神霊でさえ、現代の地球でここまでの権能を振るう事は出来ない。それを可能とした存在―――『異星の神』とは、いったい何者なのか。
この言葉を最後に、ホログラム・オフェリアによる通信は終了した。
「……『異星の神』、か。アンタも知らなかったんだな、オフェリア」
「……えぇ。面目ないわ」
「それを言うなら僕だって。……いいや、僕らだけじゃなく、誰も知りはしないんだ。『異星の神』の姿も知らないんだからな」
「辛うじて知ってるとすれば、私達を
「あぁ。ただ、ヴォーダイムだけが、直接『異星の神』の目的を聞いている。……ん」
会話をしている最中にもファイルを探っていたカドックは、その中から単独で置かれたテキストファイルを見つけた。恐らくメモ書きであろうそれを纏めていないキリシュタリアに不用心だと毒づきながら、そのファイルを開く。
内容は、空想樹と白紙化についてのものだった。
自分達クリプターとアルターエゴを除けば、『異星の神』が行った地球への干渉手段は空想樹のみ。であるが故に、『空想樹が落下する事で地球の白紙化が行われた』と、誰もが捉えていた。
しかし、キリシュタリアはその点に疑問を抱いていたようで、独自に地表のデータを基に観測と解析をしていたらしい。
結論から言えば、自分達は事実を誤認していた可能性があった。
事実は、『空想樹の落下→地球の白紙化』ではなく、『地球の白紙化→空想樹の落下』だったのだ。それを見たカドック達は、これまで自分が無意識に捉えていた事実が偽りのものであったという事に驚愕した。
「白紙化の後で、空想樹が降りただって? おかしいぞ。それじゃ話が合わない。てっきり、空想樹によって地球は、人類は消滅したかと思ったが……空想樹出現の前に地球を白紙化させているなら、態々空想樹を、異聞帯を作る理由がない」
それどころか、人類を邪魔だと考えているのなら、異聞帯を作る必要すらない。なかったものとして消去されたものとはいえ、異聞帯には必ず人間がいる。崩壊しているとはいえ、仮にも人類史なのだから。
それに、この文面から考えるに、『異星の神』は人類史の様々な姿を見たがっているようにすら見えてきた。
ではなぜ、『異星の神』は地球を白紙化させ、邪魔であるはずの人間がいる異聞帯を創り出したのか。
「……人類史を、学習しようとしている?」
その一言に、カドックはバッと顔を上げた。
「……オフェリア、その考え、ひょっとしたら的を射ているかもしれないぞ」
「え?」
茫然とするオフェリアだが、既にカドックは視線を彼女から外し、ぶつぶつと彼なりの考察を立て始める。
「そうだ。『異星の神』は姿を見せないんじゃない。まだ実体を持っていないんだ。だからアルターエゴや僕達クリプターを勧誘し、手足とした。ラスプーチン、リンボ、村正―――アルターエゴになる際に多少のアレンジを加えたとしても、地球由来の英霊を、なぜ『異星』の存在が使う? ……『異星の神』は、過去に地球にあったものしか使えない? いずれ降臨する『異星の神』は、育ち切った空想樹を肉体にする。……その時の肉体は、『異星の神』が僕達を通じて取得した『地球のデータ』を参照して作り上げるのかもしれない。……推測としては悪くないか。現地の生命体が、『異星の神』にとってどうしても必要だとしたら、その出力方法……いや、参照する存在か。それを上手く誘導できれば―――」
「……ッ! ヴィイッ!!」
その時、カドックの危機をいち早く感知したアナスタシアが叫んだ。
所有者の叫びに反応し、即座に彼女に抱かれていた人形―――ヴィイの瞳が輝き、彼女の背後に出現した巨大な影から伸ばされた手が、今まさにカドックを襲おうとしていた『それ』を弾き飛ばした。
「おや、防がれてしまいましたか」
不意打ちが失敗したというのに、まるで気にしていないかのように
「なるほど、なるほど。永遠に考えぬ
黒と緑を中心とした衣に身を包み、鈴の着いた黒白の長髪を靡かせる彼の名は―――蘆屋道満。日本の歴史にその名を残す陰陽師、安倍晴明と双璧をなす闇の陰陽師にして怪人。そして今は、『異星の神』によって召喚された三騎のアルターエゴの一騎である。
「シグルドッ!」
「アシュヴァッターマンッ!」
オフェリアとペペロンチーノが叫ぶも、彼らは既に行動に出ていた。
凄まじい勢いで振り下ろされたシグルドの大剣をひらりと躱した道満にアシュヴァッターマンの巨大な
無数の仕込みスパイクが飛び出すそれに対し、道満は尚も不敵な笑みを崩さずに左手に持った式神を放つ。
一つ目が描かれた無数の式神はアシュヴァッターマンを取り囲んだ瞬間、一つ目から呪詛を放って攻撃する。咄嗟にチャクラムを振るって呪詛諸共式神を蹴散らすアシュヴァッターマンだが、その隙に道満に懐に潜り込まれてしまう。
鋭く尖った爪が伸びる五指を揃えてアシュヴァッターマンの心臓目掛けて突き出そうとした道満だが、そこへ風を切り裂いて無数の短刀が迫り来る。気配でその存在に気付いた道満が、止む無くアシュヴァッターマンへの攻撃を中断し飛び退いた直後、先程まで彼がいた場所を短刀が切り裂いていった。
着地した道満に、今度は絶対零度の冷気が襲い掛かる。着地した一瞬の隙を突かれた影響で回避が遅れた道満の足元が氷塊に包まれ、流石に彼も「ンンッ!?」と焦燥に目を見開いた。
そこへ二本の短刀を構えたシグルドが迫るが、道満は即座に意識を切り替えて右腕を振り上げる。放り投げられた二体の式神が瞬く間に巨大化し、鳥のように主の周りを旋回しながら黒と緑の混ざった雷を落とす。さらにそこへ通常の式神を放ち、雷を潜り抜けてきたシグルドを呪詛で弾き飛ばした。
「ンンンンンンッ! 英霊三騎に、無様にもカルデアに己が異聞帯を破壊されたクリプター三人組ッ! 平時であれば見逃しましょうが、あの御方の在り方に気付きかねない以上、見過ごす事は出来ませぬなぁ。ここで滅ぼして差し上げようッ!」
「そう簡単に死ぬわけにはいかないな。行くぞ、アナスタシア」
「シグルド、敵対サーヴァントを撃破しなさい」
「やっちゃって、アシュヴァッターマンッ!」
マスター達に頷き、三騎の英霊とアルターエゴの戦いが始まった。
キリシュタリア様は間違いなくフォルダ整理が苦手。原作の時点で混沌としてたらしいのですが、そこがまたこのキャラの魅力ですよね。
次回、カドック・オフェリア・ペペロンチーノ陣営VSリンボッ! 乞うご期待ですッ!
オフェアン百合えち回、読みたいですか?
-
読みたい!
-
読みたくない!