【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 こんばんわ、皆さん。
 昨日、遂に我がスマートフォンのデータ残量が底をつき、マンわかコラボイベに参加できなくなってしまった作者でございます。やはりギガ……ギガは全てを解決する……ッ!
 一応5月に入った瞬間に残量が増えるようにしてもらったのですが、それまではfgoはプレイ出来ませんね。その間は次回やイラストの執筆に時間を回しましょうかねぇ。

 今回はいよいよアンナとキリシュタリアの戦いです。それではどうぞッ!



決戦/アンナとキリシュタリア

 

 魔術。

 それは一定の方法論と術式を用いる事で、この世界に存在するあらゆる事象を発生させるもの。

 簡単な例えでは、人々が日常生活において行う『火を起こす行為』を、火器を用いずに発生させる事が出来るというものだ。

 魔術の『魔』の字も知らない一般人からすれば、それは正しく『魔法』として彼らの目に映るだろう。

 

 しかし、現実はそうではない。

 

 魔法は確かに存在する。だが、それと魔術を決して同列に語ってはならない。そうしてしまえば最後、魔術師達の怒りを買う事になるだろう。

 魔術と魔法の違い。それは、『現代科学で実現できるものか否か』である。

 

 先程例に挙げた『火を起こす行為』は、ライターなどを使えば簡単に出来てしまうし、『風を起こす』なら扇風機を使ってしまえばいい。魔術とは、そういった魔術師ではない一般人でも道具さえあれば簡単に成し遂げてしまえるものを総称して言える。

 そして、魔法とはその逆―――現代科学では実現不可能な事象をまとめたものである。

 

 現在、『魔法』として認知されているものは、五つ。まだ誕生しておらず、担い手も同様に存在しない魔法(もの)も入れれば、全てで六つ存在している事になる。

 第一魔法は詳細不明。ただし、これは憶測ではあるものの、ある封印執行者の考察によると『無の否定』ではないかと考えられている。最初にこの魔法に到達した人物はこの世から消滅( ・ ・ )してしまっているが、その正体は時計塔に存在する十二の学部の一つ、“植物科(ユミナ)”の創立者である。一説ではその子孫が今も生きていると言われているらしいが、それはまた、別の話( ・ ・ ・ )になってしまうだろう。

 第二魔法は、魔術世界にその名を轟かせる魔法使いの一人―――“宝石翁”の異名で知られるキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが到達した、『並行世界の運営』。応用すれば分岐した複数の世界への移動も可能であり、彼はこの能力を使い、ある若者達の窮地を救った事もある。

 第三魔法は、物質界において唯一不変の存在である魂を、肉体無しで存続できるよう固定する『魂の物質化』、別名『天の杯(ヘヴンズ・フィール)』。その魔法と最も縁深い家系であるアインツベルン家は、この魔法に到達した魔法使いの弟子が起こした工房である。

 第四魔法は、第一魔法同様に詳細不明。しかし、第一魔法のような手掛かりがあるわけではないが、『存在している』という事は確かなようだ。

 第五魔法は、『魔法・青』と呼ばれている。担い手は、ゼルレッチと同じく魔術世界に名が知られている女性―――青崎橙子の妹、蒼崎青子。詳細は不明であるものの、時間旅行は可能のようだ。

 第六魔法は、第一と第四と同じく詳細は不明であり、また担い手も存在していない。だが、かつてアトラス院の錬金術師が挑み、そして敗れたものではあるらしい。

 

 この六つが、今現在存在している魔法である。

 誰もがこの話を聞けば、なるほど確かに現代科学では再現不可能な御業だと思うだろう。

 

 だが、キリシュタリア・ヴォーダイムが扱う魔術は、この実現不可能な魔法とは似て非なる『不完全な魔法』に匹敵する大魔術である。

 汎人類史の世界で、キリシュタリアはアニムスフィア家に代々伝承されるこの秘術を修めていた。

 しかし、その時はただ『学んだだけ』だった。神々から人の時代に移ってからというもの、世界に満ちていた神秘は次々と暴かれ、かつて魔法と呼ばれていたもの達は次々と魔術へと下落していった。この魔術はそれよりもさらに酷い。なにせ、『机上の空論』とまで呼ばれる程に落ちぶれてしまったのだから。

 だが、今のキリシュタリアにはそれが扱えてしまう。

 『異星の神』によるバックアップ、異聞帯そのものを魔術回路として利用する事で、本来ならば完成するはずのないその大魔術を『完成させた』状態で行使できるのである。

 

 その名も、『冠位指定/人理保障天球(グランドオーダー/アニマ・アニムスフィア)』。

 

 人為的に惑星を直列にし、並んだ惑星すらも魔術回路に変えて撃ち放つ、(ソラ)より降り注ぐ隕石による殲滅―――『惑星轟』である。

 

 

「え、え、えッ!? 隕石ッ!? なんで落とせるのぉッ!?」

 

 

 降り注ぐ隕石群。それを前にしたアンナは、最早キリシュタリアへの攻撃など考えられなかった。

 回避も防御も出来ない事は、既に本能が警鐘を鳴らしていたために理解できていた。

 ならば、とアンナは翼を羽ばたかせてキリシュタリアの頭上を通り抜けると、懐の忍ばせていた球状の龍結晶を口に放り込み、飲み込む時間も惜しいとばかりに飲み込んだ。

 瞬間、体内に魔力の渦が暴れる感覚に襲われるも、すぐにそれを抑え込んで制御。流れるような操作で魔力を緋色の雷に変え、全身に纏わせて加速。

 ジェット機も顔負けのスピードで轟音と共に飛び出したアンナは、その身を緋い雷に包み込んでいる影響で、さながら流星のように見える。

 そして、あっという間に隕石との距離を縮めたアンナは、翼を大きく広げるや否や緋雷を拡散。翼のように左右に広がった雷は、アンナが腹の底から響かせた咆哮と共に弾け、隕石と激突。

 

 (ソラ)より降り注ぐ隕石と緋雷が衝突し、巨大な爆発を起こす。

 続々と落ちてくる隕石を前に、噛み締められた口から呻き声が漏れる。それでも、とアンナは緋雷の放出を止めず、遂にほとんどの隕石を破壊したが―――

 

 

「嘘でしょ……」

 

 

 先程自分が粉砕してきた隕石よりも数倍の大きさを誇る隕石が落ちてきているのを見て、思わずそう呟いてしまった。

 

 

「さぁ、どう対処する? アンナ」

「どうって、こんな魔術知らないんだけどッ! いきなり本気にさせないでよねッ!」

 

 

 遥か後方から響く声に叫び返し、今まで周囲に展開されていた緋雷を両手に集め、前に突き出す。

 一つに合わさった緋雷は球体となり、そこから放射された極大光線が巨大隕石目掛けて突き進む。

 

 ―――轟音。

 

 大気圏外から落ちてきた超質量と激突した光線は、隕石が纏う灼熱の衣を食い破り、その奥にある本体へと襲いかかる。

 重力に引かれて落ちてくる隕石を押し留めている光線を止めぬよう、アンナは全力で光線の維持と魔力の操作に精神を集中させる。

 数時間にも思える一瞬の時が流れた瞬間、バキッ、という音がアンナの耳に届く。それが、隕石に亀裂が入った音だと気付いた次の瞬間には、既にアンナは今まで以上の魔力を光線に送り込んでいた。

 一欠片も残さずに注ぎ込まれた魔力は光線をさらに巨大化させ、同時にその威力も数倍に跳ね上げた。

 規模、威力、共に先程のものよりも強力になった光線によって、隕石に刻まれた亀裂はその数を増していき、それはやがて隕石全体を包み込み―――荒れ狂う熱風と衝撃波が、周囲に放出された。

 

 光線に貫かれた事で起きた大爆発は、そのまま熱風と衝撃波となって周囲の空間を蹂躙し、その中にいたアンナさえも飲み込んだ。

 

 一瞬の隙を突かれたアンナだが、その本能は考えるよりも先に彼女の手を動かし、魔力による障壁を展開する。次の瞬間、アンナは凄まじい風圧と衝撃波によって吹き飛ばされ、先程まで彼女がいたオリュンピア=ドドーナの最上階へと叩きつけられた。

 

 

「アンナッ!」

 

 

 サーヴァント達によって衝撃波から護られたマスターの一人であるオフェリアが、悲痛な叫びをあげてクレーターと見紛う程に陥没した床の中心で倒れるアンナに駆け寄る。

 穢れを知らぬ純白のドレスは、所々が焦げて穴が空いていたり、衝撃波によって千切れてしまっている箇所が多々見られる。その奥に覗く素肌も、重症ではないが火傷になっている所もあった。

 いや、あれ程の熱風と衝撃波を受けてこの程度で済んでいるのは、最早奇跡と呼べるレベルだろう。最悪の場合、五体満足に終わらずに、全身が砕け散っても当然と言えてしまうような規模だった。かなりの距離が空いているにも拘らず、オフェリアやカドック達がその威力に戦慄する程の衝撃を受けたのだから。

 

 

「……大丈夫だよ、オフェリアちゃん」

 

 

 しかし、アンナは立ち上がった。

 やはりダメージが響いたのか、多少ふらつくも、見事にその両足で自身の体を支えてみせたアンナは、自分を見上げる親友の頭を優しく撫で、いつもと変わらない朗らかな笑みを浮かべてみせた。

 

 

「私は、大丈夫だから……ね?」

「アンナ……」

「そんな顔しないの。これは、彼の気持ちの証。それを受け止めるのは、命を懸け合う私の努めだからね。だから、絶対に邪魔しちゃ駄目だよ?」

 

 

 彼女に限ってそれは無いだろうが、万が一の出来事を防ぐ為に言い聞かせた後、アンナはドレスについた汚れを払ってから翼を広げた。

 

 

「……その翼は、なんなの?」

 

 

 この状況には場違いな問いかけ。しかし、どうしても気になってしまったオフェリアの質問に、アンナは苦笑した。

 

 

「後でちゃんと教えてあげるね。どうせこの後、嫌でも明かす事になるだろうし」

 

 

 翼を羽ばたかせて飛び立ったアンナが再びキリシュタリアと同じ高度まで達すると、彼女を待っていたかのようにキリシュタリアが口を開いた。

 

 

「あれは私の全力―――切り札だったんだけどね。なんとなく予想はしてたけど、実際にその姿を見ると心が折れかねない」

「でも、私にここまでのダメージを与えたのは凄いよ?魔力の障壁を張ってなきゃまず間違いなくやられてたし」

 

 

 この時ばかりは、かつて自然界の頂点に君臨し、数多のモンスター達の頂点に立っていた事に安堵した。

 基本表舞台に出る事の無かった彼女だが、あの大戦( ・ ・ )では、一瞬の隙が命取りになる場面が幾度もあった。それになんとか反応出来るように努力した結果、無意識に体が無防備な己を護るべく行動出来るようになったのだ。決して、あの大戦が良いものとは言えないが、それでもこの時だけはあの頃の修行が功を期した。

 

 

「そう言われると、誇らしく思えるね。君の命にさえ届き得る攻撃を繰り出す事が出来たのだから」

「正直、堪ったものじゃないけどね。本気で死にかけたし。……でも、これで終わりじゃないんでしょ?」

「あぁ、もちろんだとも。たかが( ・ ・ ・ )切り札を受け切られた程度で、勝負を諦める私ではない」

「ふふっ……それでもこそ、()が見込んだ男だね」

 

 

 アンナは両手を構え、キリシュタリアは杖を構える。

 先程とは打って変わって、両者の間に流れるのは、静かな沈黙。

 (さなが)ら西部のガンマン達のように、己の相棒に手をかけた状態で相手の出方を窺うような沈黙。

 鋭く細められた眼と瞳が交差した瞬間、オリュンポスで戦っている龍の咆哮が轟いた。

 

 

「「―――ッ!!」」

 

 

 それが開戦の合図となった。

 アンナの右手から放たれた雷と、キリシュタリアの杖から放たれた光線が激突する。寸分違わぬ動作で繰り出された両者の攻撃は空中で衝突し、爆発音と共に黒煙を作り上げる。それを突き破ってきたのは、キリシュタリアが放った無数の光線である。

 アンナはすかさず上空へ飛んで光線を回避し、切り裂かれた黒煙の奥で僅かに見えたキリシュタリア目掛けて緋雷を落とす。しかし、キリシュタリアもアンナがそうする事を予想していたのか、自身の周囲に満ちる魔力を操作して滑らかな動きで回避し、そのまま飛行を始める。

 

 左肩に掛かったマントを風に靡かせて飛ぶキリシュタリアを、背後から追うアンナの雷撃が襲う。それを杖からの光線で迎撃したキリシュタリアは、左に動きながら連続で光線を撃ち出す。光線を回避したアンナが、続けてキリシュタリアが上空に向けて放った光線が落ちてくるのを見て迎撃する。

 

 

(今のを防ぐか……。やはり油断ならない相手だ)

 

 

 体感的には一秒にも満たない間隔で当たると予想して繰り出した一撃なのに、それに見事に対応してみせたアンナに戦慄する。彼女の危険度を修正したキリシュタリアは、上空に一つの魔力の球体を打ち上げる。

 打ち上げられた球体は花火のように弾け、その一つ一つが高密度の魔力弾になってアンナに降り注ぐ。上空から落ちてくる魔力の雨の間を掻い潜るように飛行するアンナだが、そのルートを把握したキリシュタリアが撃ち出した光線に吹き飛ばされ、続けて上空からの魔力弾による追撃を受けた。

 

 

「ぐっ……やるね、キリシュタリアッ! だったらこっちもッ!」

 

 

 槍状に変化させた雷を掴み、投擲する。

 飢餓に苛まれた猛獣が如き勢いで獲物に喰らい付こうとする槍を、キリシュタリアが光線で迎撃する。槍は光線によって弾け飛んだが、しかしその衝撃までは殺し切れずにキリシュタリアの体は堪らず吹き飛ばされた。

 すぐに体勢を立て直したキリシュタリアが軽く持ち上げた手を振り下ろす。彼の頭上に眩い輝きが煌めいたかと思うと、そこから巨大な光線が放たれた。

 アンナはすぐさまそれを右手の雷撃で相殺し、続いて周囲に作り出した雷槍を射出する。雷槍はすぐに杖からの光線で迎撃されるが、その内の一つは相殺できずにキリシュタリアに急接近していく。

 

 

「ぐぅ―――ッ!?」

 

 

 間一髪で身を捩って直撃は避けられたキリシュタリアだったが、完全に躱す事は出来ずに右腕に激痛が走った。雷槍が掠ったのだろうか、切り裂かれ、微かな焦げ跡がついている衣服の奥に見える肌からは血が流れ出ていると同時に火傷も負っていた。

 

 

「シ―――ッ!」

 

 

 そこへ、アンナが弾丸が如き勢いで一気に距離を詰めてくる。

 キリシュタリアが呻き声を上げて傷を確認している隙を突いて妨害も受けずに彼の元に辿り着いた彼女は、そのまま右手に雷撃を纏わせ―――

 

 

(―――ここだッ!)

「な―――ッ!」

 

 

 キリシュタリアの光線が、アンナの全身を呑み込んだ。

 

 それは、キリシュタリアが隙を作ったと見せかけてアンナを誘い、そこで今の自分が出せる最大火力の攻撃を浴びせるというもの。

 在り来りなこの作戦は、しかし単純が故に生物の心理を突いているものであり、それ故にその効果は凄まじい。

 

 戦いにおいて、敵に明確な隙が生じた上でトドメの一撃を繰り出せる状況になると、誰もが心のどこかに油断を生じさせる。それは人間以外の生物にとっても例外ではなく、倒したと思った相手に逆に殺されてしまうケースも多々存在する。

 キリシュタリアは、この時を待っていたのだ。

 惑星轟を使えない今、自分が繰り出せる攻撃はといえば魔力による光線技しかない。追尾弾も応用すれぱ可能だろうが、それを繰り出したところでアンナに届きはしないだろう。

 だからこそ、直線にしか進まない分、威力も高い巨大光線を選んだ。そしてその最大の一撃は、寸分違わずに標的(アンナ)に喰らいついた。

 

 これならば大ダメージは免れられない―――そう確信していたキリシュタリアだったが、

 

 

「―――まさか、ここまでとはね」

 

 

 光線が消えた先に現れたアンナの姿に、キリシュタリアは頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われた。

 上記のように、先のキリシュタリアの一撃は今の彼が出せる最大火力。倒せはしないまでも形勢をこちら側に持ってくる事は出来る威力を誇る一撃である。

 だが、もしかしたら彼女は、それを防ぐかもしれない。そう思ってはいたのだが―――

 

 

「まさか、無傷とはね……」

 

 

 アンナの全身には、その光線で受けたと思われる傷が見当たらなかった。それどころか、今まで自分が与えた傷すらも跡形もなく消えていた。

 

 そして、彼女の姿にも多少の変化が見受けられた。

 黒く染まった手足に、そこから生える純白の毛。ブレードのようにも思えるそれは、緋色の雷を纏って絶え間なくバチバチと弾けるような音を響かせている。翼も翼爪が青白く染まっており、より神々しさと禍々しさを感じるものとなっている。

 しかし、それ以上に彼の目を引きつけたのは、彼女の頭部だろう。彼女の頭部には、後方に伸びる刀のように青白い鋭利な角が二本生えており、その中心からは二本の角と同様の形状をした角が前方に向かって伸びていた。

 

 キリシュタリアの知らない、彼女の新たな形態。その力の由来は、最早考えるまでもない。

 

 

「私に、『彼女』の力を使わせるとはね。やっぱり、君は凄い人間ね、キリシュタリア」

 

 

 異聞帯の力。かつてその世界に存在していた、彼女自身の力である。

 

 

「……やはり、敵わないなぁ。君には」

「勝てる確率は充分にあったわ。これは……そう、ただの偶然―――まぐれの一つに過ぎないわ」

 

 

 右手に小さく雷を纏わせ、キリシュタリアに近付くアンナ。彼女から距離を取るような行動を起こす気配を欠片も見せないキリシュタリアは、ただじっと彼女を見つめている。

 

 遠くで、なにか巨大なものが破壊されるような音がした。

 

 

「……あれは……」

 

 

 動きを止めて音が聞こえた方角を見やると、空間そのものを砕いて現れたような巨大な目が、こちらを覗き込んでいるのが見えた。

 

 

「……カオスね。まさか、あれもこの異聞帯に残ってたなんて」

 

 

 カオス。

 『混沌』の意味として知られるギリシャの神の一柱。ゼウス達を生み出した存在であり、星の資源を収穫する者。オリュンポス十二機神の源である真の星舟。星間航行用巨大空母たる、最も旧き機神。ギリシャの吟遊詩人オルフェウスは、その存在を『無限』を象徴しているものとさえも語った神の名である。

 

 しかし、そのような存在を目にしても、アンナはカオスに対してなにもしない。

 

 

「行かないかい?」

「行く必要はないわね。あれは私が(こわ)すものじゃない。彼女( ・ ・ )が倒すべき相手よ」

 

 

 そう告げるアンナの視線の先には、カオス目掛けて突き進む船の船首に立つ一人の女剣士の姿があった。

 彼女は腰に差した鞘から引き抜いた二本の刀を構え、カオスに特攻していく。その時の彼女が放つ気配にアンナが思わず目を見開いた瞬間、カオスに巨大な斬撃が刻まれた。

 

 

「……凄い。まさか、『空位』に至ったの……?」

 

 

 驚愕の声も上げずに崩れ行くカオスを見つめ、アンナは一撃で破神を成し遂げた女性に感嘆する。

 『空位』―――虚空を切り裂き、『零』を超えた先にある、剣士が到達すべき最終地点。しかし、どれ程高名な剣豪であろうと、そこに至った者は五指で足りる程の人数しかいない。

 アンナでさえ、『空位』に至った人間は、あの最強の狩人―――“青い星”しか知らないレベルのものだ。

 それを、見た目からして恐らく神代の英雄ではない女性が成し遂げた光景に、啞然と共に感動を覚えた。

 

 ゼウスの姿も見えない以上、彼もまたカルデアによって倒されたのだろう。でなければ、ああして彼女らが無事でいるはずがない。

 

 

「盟友ゼウスも敗北したか……。流石、カルデアだ。決して、誰か一人でも欠けたら勝てなかったであろう戦いに勝つとは」

「あら、そう言う割には嬉しそうじゃない?」

「彼女は私達の後輩にも等しいからね。本当だったら、一緒に世界を救っていたかもしれないマスターの一人だ。誇らしいと思わない方がおかしいよ」

「ふふっ、その通りね」

 

 

 小さな笑いが二人の間に起きる。……だが、それでこの戦いが終わるわけではない。

 

 さて、とキリシュタリアと向き合い、アンナは改めて片手に稲妻を宿し始めた。

 

 

「このオリュンポスでのカルデアの決戦は終わった。それなら、私達の戦いも終わらせるのが筋ってものじゃないかしら?」

「……そう、だね」

 

 

 一瞬瞳を伏せるも、直後に真っ直ぐにアンナを見つめるキリシュタリア。その姿に、戦意は感じられない。

 

 

「諦めるの?」

「切り札は耐え切られ、起死回生の一撃も防がれた。これ以上戦っても、意味は無いと思ってね。君を余計に疲れさせるだけだ」

「それは戦闘を放棄したという事?」

「……悔しいけどね。君に―――貴女に、私の底力を見せたかった。私の覚悟を、貴女に伝えたかった。貴女に勝って、私の想いの強さを……理解してほしかった」

「なんだ、そんな事だったのね」

「嗤うかい? こんな私を」

「まさか、嗤うわけがないわ。貴方の底力も、覚悟も、想いも、全て私に伝わった。その点においては、私は貴方に負けたわ。……でも、だからといって貴方を見逃すわけにはいかない。貴方は、ここで死ななければならないのよ」

「……あぁ、わかってる」

 

 

 彼我の距離が縮まっていく。少しずつ迫ってくる“死”を前にしても、キリシュタリアの顔に恐れはない。それどころか、遠い未来を待ち望むような笑顔を浮かべていた。

 

 

「頼んだよ、アンナ」

 

 

 左胸に当てられる掌。そこからキリシュタリアの体内に送り込まれた稲妻は、その威力を極限まで落とし、彼に必要以上の痛みを与えないまま、彼の鼓動を停止させた。

 

 キリシュタリアの瞳から光が失われ、魔力操作を維持できなくなる。しかし、その体が遥か下方の街に落ちるより先に、アンナが優しく抱き止めた。

 

 

 

「……任せなさい、キリシュタリア」

 

 

 戦いの勝者の呟きは、誰にも聞こえぬまま消えていった。

 




 
 オリュンポス編は長くてもあと三話程で終了ですかね。
 それが終わったらラメールのプロフィール&幕間投稿、そして軽い日常話を何話か入れた後に妖精國編に入る予定です。ここだけの話、妖精國編は日常話が大分入ってくると思います。だってあそこにいる子が、ね?

 アンナVSキリシュタリアですが、fgoのバトル風に例えた場合、キリシュタリアは惑星轟とその後の戦いでアンナのゲージを一本削る事が出来ました。削ったからこそ、アンナは異聞帯の自分の力を使った形態に移行しました。バックアップがあったとはいえ、ただの人間でありながら単独でアンナのゲージを一本削ったキリシュタリアは化け物。

アンナ「君に素晴らしい提案をしよう。君もハンターにならない?」
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