どうも、皆さん。
いよいよサンブレイクの発売が来週に迫りましたねッ! 私はまだ体験版でメル・ゼナをソロ狩りできていないので、発売までにはそれを達成したいと思い、今日も今日とて太刀か操虫棍を担いで挑んでいます。皆さんはメル・ゼナソロ狩りかマルチ狩りできましたか?
今回は次回に分けてのエリシオ&ジーヴァ回ですッ! それではどうぞッ!
世界には、格差が存在する。
裕福な家庭で生まれ育った人間は、慈愛に満ちた心を以て人生を謳歌するように。
悪辣な家庭で生まれ育ったのならば、より悪辣にして残酷な
意思を持ち、心を持ち、他者という概念を持つ以上、生命体に格差は存在し続ける。
それは、この地球上であらゆる生命の頂点に立った種族―――人類種も例外ではなく、むしろ最もその例に当て嵌まる存在とも言えるだろう。
白人種が己こそが最優であると豪語し、原住民であった黒人種を差別し、迫害していたように。生まれたばかりで未だに正しい常識が備わっていない子どもに対し、間違った思想や偏見をあたかも正しい事のように植え付け、誤った格差を認識させてしまう。
また、宗教の中にもそういった他民族や他宗教への差別や迫害を認めてしまっているものが存在する。ユダヤ教において、唯一神ヤハウェがイスラエル人以外の民族を呪ったように、選民思想を基にしたような宗教も確かに存在している。そして、それを信仰する人々の中には、その思想を本気で正しいと信じ込んで事件を起こしてしまう者も少数ながら存在してしまっている。
上記のように、格差とは個々人が生まれ育った環境の中で決定される事が多い。人間とは他の動物と比べても、一際周囲の影響を受けやすい種族なのだから。
―――ではこれから、とある話をしよう。
これは、あり得ざる歴史の中で誕生した、一つの村の話。そして、偶然にもその村へと至り、その有り様を知ってしまった者達の話である。
Now Loading...
眠りから覚めて数週間。
どこに行くかの当ても無いまま、ただ狩りと休息に時間を費やしてきた。
第二の故郷と呼ぶべき場所を滅ぼされ、家族と呼んでも過言ではない仲間達を喪って。その元凶さえ、既にこの手で殺して。
あれ程までに心中で己を駆り立てていた、復讐を望む激情も鳴りを潜めて。
片手で肉を食む青年―――エリシオは、ただ空虚な時を過ごしていた。
無機質だ。あまりにも、中身がない。
ただ無意味に、狩りをしてしまっている。明確な目標も無いまま、ただ放浪の旅を続けてしまっている。
『辛気臭い顔だな、エリシオ』
視線を動かせば、現在自分の右腕と一体化している龍の顔がこちらに向けられているのが見えた。
水晶のように蒼く透き通った顔は、自分用に焼かれた肉を落とさないようにしながら咀嚼を続けており、その口元が言葉を紡いでいるようには見えない。龍―――ジーヴァが言うところの、『念話』というものを介して話しかけてきているのだろう。
「……ジーヴァ」
『復讐相手もいない。本当に倒すべき相手はどこにいるのかもわからない。これじゃあ、俺様達もお手上げってか? クククッ』
「…………」
凶悪に口角を吊り上げたジーヴァに対し、エリシオはなにも答える事が出来ない。彼の言葉が、あまりにも的を射てしまっていたから。
『俺様が喚ばれた理由はあるが、それを果たすにはまだまだ遠い。お前も、俺様も、なに一つ切っ掛けと言えるものが無い』
「人を護れる―――それが出来るだけいい」
『それも、感謝されないだろう? 大抵は化け物扱いされて終わりだ』
そうなのだ。
これまで、エリシオは何回かモンスターに襲われていた人々やアイルーを護った事があった。
しかし、これまでの一度も、彼らが礼の言葉を言われた事など無い。
エリシオ自身の技術がまだまだな事もあるため、どうしてもジーヴァの力に頼ってしまうからだ。仮にエリシオがジーヴァの補助を受けないまま狩りに出向いたとしても、下手をするとジャギィ数匹が相手でも完敗してしまうだろう。誰かに師事しようにも、頼りになった無銘やレオニダスは既にこの世界から退去し、蘭陵王もいつの間にか消えてしまっていたため、彼らに頼る事も出来ない。
結局、エリシオは現状最もモンスターの撃退または殺害の達成率が高い、ジーヴァの力を使う他ないのだ。
しかし、彼の力を使った場合、姿が龍と人間の中間のようなものになってしまい、その姿は逆に人々にとっては恐怖の対象にしか映らないのである。
元より、モンスターとは恐ろしい存在である。アプトノスやポポといった温厚な草食モンスターもいるのは理解しているが、彼らはあくまでそういった生態を持つモンスターであって、それ以外のモンスターには、基本
スケールこそ負けてはいるが、そんなモンスターらしい存在と混ざり合った外見を持つ人間を、どうして受け入れられようか。次に襲われるのは自分かもしれない、と思い、逃げ出す彼らに非は無いのである。
感謝の言葉など、一つも貰った事が無い。しかし、それでもエリシオは、これから先もこの在り方を変えるつもりは無かった。
「護れるだけでもいいよ。彼らが死ななくて済んだ。それでいいじゃないか」
『偽善者ぶってるな。人間とはそういうものなのか?』
「さぁね。僕だけがそういうものかもしれない」
『……自分で召喚に応じておいてなんだが、変なクジを引かされた気分だ』
「言ってくれるね、ジーヴァ。……さ、行こうか」
気付けば自分もジーヴァも手元の肉を食べ終えており、エリシオは立ち上がる。
焚き木の後始末を終えた後、エリシオがジーヴァに視線を向けると、彼は不承不承といった様子で顔を顰めるも、渋々とその頭部を無数の糸のように解いていき、やがて溶け込むようにエリシオの右腕に消えていこうとして、再び頭部を形成し始めた。
それに首を傾げかけたエリシオだったが、その刹那に遠くから誰かの叫び声が聞こえ、即座に気持ちを切り替えた。
『出番だな、エリシオ』
「小型なら僕が相手する。僕が相手出来ないモンスターだったら……頼む」
『ククッ、了解だ』
ジーヴァの頭部が消失する中、エリシオは駆け出す。
抑止力によってこの世に再び舞い降りた龍と融合した影響か、今のエリシオは常人では決して追い切れぬ速度で疾走する事が出来、かつて無銘やレオニダスに鍛えられていた事によって上達していた身体能力によって、本来なら足を止めてしまうような木々の壁や土の盛り上がりなども、まるで意に介する事無く軽々と掻い潜っていく。
そうしてしばらくしない内に、エリシオの視界は木々の奥に少女の姿を捉えた。
腰を抜かしているのか、酷く震えている彼女の表情は恐怖に染まっており、その瞳からは大粒の涙が零れている。そんな彼女を包囲するように姿を現したのは、青と黒の模様が特徴の小型の鳥竜種―――ランポスである。
しかし、少女の視線は自分を囲むランポス達よりも、その正面に歩み出た、より大きな体躯を誇る存在―――ドスランポスに向けられている。群れの長としての風格を表すかのように朱色の大きなトサカを持つドスランポスが、今にも仲間達に少女を襲わせるべく咆哮を上げようとする。
「やめろッ!」
しかしそれを、彼が許すはずが無い。
超人的な跳躍力で少女の前に降り立ったエリシオは、ジーヴァを媒介に地上に満ちる魔力を集めて作り出された片手剣を装備し、薙ぎ払う。
突然の乱入者に反応できなかったドスランポスとその部下達は為す術なく切り裂かれ、赤黒い血を噴き出した。
存在の濃さという意味では英霊とまではいかないまでも、力量だけならばそれを上回るジーヴァと融合している事から、その威力は絶大の一言に尽きるものであり、薙ぎ払われたドスランポス達は倒れたまま動かなくなった。
ジーヴァに体の主導権を譲るような相手ではなかった事に安堵の息を吐き、武器を消滅させたエリシオは、茫然と自分を見上げる少女に手を差し伸べる。
「君、大丈夫かい?」
「ぁ……う、うん」
小さく頷いた少女がゆっくりと手を取ると、エリシオは優しく彼女を立ち上がらせた。
軽く頭からつま先まで見下ろしてみたが、目立った怪我はしていないようで、エリシオは小さく「よかった」と呟き、彼女と目線を合わせるように片膝をついた。
「一人で出歩くのは危ないよ。僕が助けてなかったら、どうなってた事か……」
「ご、ごめんなさい……」
「うん、謝れるのは良い事だ。……さぁ、早く君の村に帰ろう。帰り道はわかる?」
「えっと……あそこの道を、真っ直ぐ進めば……」
「わかった。じゃあ、行こうか。いつまた他のモンスターが来るかわからないからね」
「うん……」
まだモンスターに襲われた事による恐怖が残っているのか、少女の顔色は悪い。しかし、それも村への入口であろう、茂みに隠された洞穴の前まで来るとすっかり無くなっていた。
(この村も、僕達の所と同じか……)
予想通り、というべきか。少女の住む村は外から見てもわかる程に、その周囲を囲むように出来ている自然の壁によって護られていた。無銘やレオニダスが言うに、エリシオがかつて住んでいた村には結界と言われるものが張られており、それによって危険なモンスターが村に侵入してこないようになっているらしい。
ならばなぜ、あの時、村の中心にあの強力なモンスターが出現したのか、という話になるが、残念ながらエリシオはその理由を知らないし、彼と肉体を共有しているジーヴァにもわからなかった。
(……? なんで、松明が消えてるんだろう……)
少女と並んで歩いている時、ふとした違和感に気付く。
村と外界を繋ぐ洞穴には然程距離がないためにまだ目は効くが、それでも外から入る光しかないとなると足元が不安になる。普通ならば、常に壁には一定の間隔で松明が燃えており、いつ外へ向かう時にも安全に洞穴を通っていけるようにしている。
しかし、壁に設置されている松明の炎は既に消えている。少女を待たせてから触ってみると、小さな暖かさすら感じない。ただ指に冷たい感触と共に煤がついただけだった。
「ねぇ、この道って、誰も使ってないの?」
「うん。前に村に来た人達が使ったのが最後。私は手が届かないから……」
「大人達は?狩りには出かけていないの?」
「『かり』……? 『
「え……?」
想像もしなかった答えに思わず間抜けな声が漏れる。少女はなぜエリシオがそのような反応をするのかわからないのか、『かり』とはなにかがわからないのか、あるいはその両方か、首を傾げている。
「お兄ちゃん、『かり』ってなに?」
「……狩りっていうのはね。モンスター達を倒して食べたり、その体を使って色んなものを作る事だよ。ある程度歳を取ったら、武器を持って出掛けるんだ。君達の村じゃやらないの?」
「……わからない。でも、男の人達が村の外に出るところは見た事がない」
「そんな……。それじゃあ、食料―――食べ物はどうしてるの? 狩りに出かけてないのなら、どうやって暮らしているの?」
「モンスターを育ててるの。でも、それだけじゃ足りなくて……外に出たの。木の実とか、採れたらいいなって」
「家族はなにも言わなかったの?」
「すっごい反対された。お母さんが、『外は怖い場所だから行っちゃ駄目』って。だけど私、内緒で出てきちゃった……」
「…………」
「……みんなはね、お腹が空いてるの。育ててるモンスターだけじゃどうしても足りなくて、誰が食べるかでいつも喧嘩してて……。前までは、赤いおじちゃん達がご飯とか渡しに来てくれてたの。でも、この前『これで最後だ』って言って、それっきり来なくなっちゃった……」
声を震わせて俯く少女に、エリシオはなにも言えない。
まさか、大人達が狩りに出ない場所があるとは、思いもしなかったのだ。
エリシオが住んでいた村は、彼が生まれ育った村も含めて、大人やそれに近しい年齢になった男達が揃って狩りに出かける事が普通だった。村内で飼育するモンスターだけでは、どうしても村人全員の腹を満たす事は出来ないからだ。いつかは食料も底をついてしまうから、そうなる前に外に出てモンスターを狩猟し、日々の蓄えにしてきた。
エリシオは、これまで当たり前だと思っていたその日常が、目の前の少女にとって当たり前ではないという事実を前に啞然とする他なかった。
「―――見つけたッ!」
そんなエリシオを再起させたのは、洞穴内に響いた女性の叫び声だった。
咄嗟にその声が聞こえてきた方角へ視線を向ければ、瘦せ細ったシルエットを持つ人影がこちらに向かって走って来ていた。
「ママッ!」
それが自分の母親だと気付いた少女が走り出す。
喜びに満ち溢れた幼い声に、エリシオは一先ず安堵の息を漏らした。
モンスターに襲われていた少女を助け、親元へ返す事が出来た―――その事実に満足しかけたその時、パンッ、と、なにかが叩かれるような音が響いた。
何事かと伏せかけた瞼を持ち上げたエリシオの視界に、再び母娘の姿が映る。
しかし、少女は自分の頬に手を当てており、自分を打ったであろう母親を茫然と見上げている。
「マ、ママ―――」
「ねぇ、なんで私の言う事を聞いてくれなかったの? 言ったわよね。外は怖いから行っちゃいけないって」
およそ、自分の子どもに対して出すような声色ではない。それにビクリと体を震わせた少女は、ただ俯いて母親の言葉を待つ事しか出来ない。
「思えば、貴女はいつもそうだったわね。いつもいつも、私が駄目だって言った事をやり続けて。ようやく言う事を聞いてくれたと思ったら、今度は外に行くなんて……ッ! ねぇ、パパがどうして帰ってこなかったか、忘れたわけじゃないわよね?」
「ご、ごめんなさい……」
「それ、今で何回目? 私が怒る度に謝って、それからしばらくしない内にまた言いつけを破って。……ママは哀しいわ」
「う、うぅ……っ」
「ま、待ってくださいッ! そこまで言う必要はないじゃないですかッ!」
まるで自分の怒りをぶつけるような言い方に遂に耐え切れなくなり、エリシオが二人の間に割り込むように立つ。
母親からすれば、娘しかいなかったはずの暗闇から突然見知らぬ男が出てきたように見えただろう。その瞳に恐怖の色が浮かび、次いで一歩後退った。
娘を護るどころか、自分の安全を優先したような行動―――それが、エリシオの怒りをさらに際立たせる。
「この娘は、貴女達の事を考えて外に出たんですッ! お子さんが無断で外に出てしまった事は確かに怒るべきものです。それでも、まずはこの娘が無事である事を喜ぶべきではないでしょうかッ!」
「な、なによ……なんなのよ。誰なのよ、貴方はッ!」
「……失礼、申し遅れました。僕の名前はエリシオ。こことは別の村から来ました。道中、モンスターに襲われているこの娘を見つけて、ここまで連れてきたんです」
「え……そ、外? 外から来たの……? あの、外から……?」
「……? えぇ、そうですけど」
なぜそこまで聞いてくるのか、と訝しむエリシオを他所に、母親は先程までの警戒の表情を掻き消し、満面の笑みになった。
そのあまりの表情の変化にエリシオが「うっ」と小さく唸ると同時、彼の内側で事の成り行きを見ていたジーヴァも『うげっ』と苦虫を嚙み潰したような声を上げた。
「そう、そうッ! 貴方、外から来たのね? 今度はなにを持ってきてくれたの? この前は一ヶ月分とか言って大量の食材を持ってきたけど、あれじゃ半月も持たなかったわ。今度はちゃんとした量を持ってきてくれたのよね?」
「え、あの、ちょっと……」
「それで? それが積んである竜車はどこにあるの? あぁ、武器なんてものはいらないわよ? 私達、ただ食料が欲しいだけだから。ほら、さっさと教えなさいよ」
「あの、ま、待ってくだ―――」
「こうしちゃいられないわ。早くみんなに伝えないとッ! あっ、私達には多めに頂戴ね? 先に貴方と話したのは私達なんだから」
エリシオが否定の言葉を告げるより先に、母親はそのまま洞穴から出ていってしまった。
遠くで外からの来訪者が来た事を意気揚々と報せ続ける声に呆けていると、「ごめんね……」と少女が小さな声で謝ってきた。
「お母さん、外から来た人にはいつもああなの……。誰よりも先に話しかけたら、たくさんご飯が貰えると思ってるから」
「でも、僕が最初に話したのは君だ」
「そんなの、関係ないよ。お母さんからしたら、私なんて『つごうのいい』子どもだから。前にも、外から来た人がいたらすぐに話しかけるようにって言われたから……」
(なんて親だ……。自分の子どもをそう思ってるなんて……)
自分が外から来た人間だと気付いた瞬間に態度を急変させた事もそうだったが、娘に対する扱いが『都合のいい子ども』という許されざるものだというのもあり、エリシオの母親に対する印象は『最悪』の一言に尽きた。
自分の内側で『行きたくないな……』と呟いているジーヴァに決して声は出さないまでも同意するが、せめて誤解は解いておきたいと思い、少女と共に洞穴から出る。
太陽の眩しさに若干目を細めるものの、すぐに光に慣れたエリシオは、まず最初に村の至る所から人が集まり始めている事に気付いた。
否定の言葉を出せぬまま向かわせてしまったあの母親がとにかく報せ続けたのか、誰も彼もがエリシオを『外から物資を運んできた人間』と思い込んでしまっているようだ。
「おぉ……遠路はるばるよくお越しくださいました。もう二度と来ないとは思っておりましたが、まさかもう一度お越しいただけるとは……」
集まってきた村人達の中から、一人の老人が出てくる。
他の者達と比べて、少しだけだが服の模様が違う。恐らく、この村の村長なのだろう。
エリシオがそう訊ねてみると、老人は気のいい笑顔で肯定した。
外見だけ見れば、気持ちのいい好々爺といった印象を受ける老人だ。しかし、先程の母親の様子を見ていた今のエリシオからすれば、それはあくまで来訪者に少しでも良い印象を与えようとする、仮面のように見えて気味が悪かった。
「さぁ、物資はどこにあるのでしょうか。以前より多めに用意してほしいと頼んでいましたので、皆心待ちにしているのです」
「……質問を質問で返す形になり、申し訳ないのですが、一つだけ、お聞かせください」
「はぁ……、我々に答えられる事ならば」
期待していたものをがすぐには貰えないと悟ったのか、村長の顔に僅かに落胆と怒りの色が宿る。しかし、それもすぐに消えてしまった事に、エリシオはより嫌悪感を募らせていく。
「私はその物資を届けてくれた方々の事は存じませんが、物資といっても、食料だけではないと思います。そこには当然、自力で外から資源を採取出来る道具、またはモンスターを狩猟する事の出来る武具などもあったはずです。どこにありますか?」
そう問いかけた瞬間、村長の目の色が変わる。
それにエリシオが言い知れぬ不安に駆られた直後、その不安は見事に的中した。
「そのようなもの、
「な……ッ!?」
サラリと、さも当然のように告げられた答えに思わず絶句してしまう。しかし、すぐに気持ちを切り替え、「いやいや」とエリシオは抗議した。
「なに考えてるんですかッ! 折角生きるのに必要な物資を届けてくれたのに、なんで捨てたりしたんですかッ!」
「必要ないからに決まっとるからじゃッ! モンスターに立ち向かうなど、なんと恐ろしい事を……ッ! 儂らはただ生きていたいだけじゃ。なぜみすみす死にに行く必要があるッ!」
最早外面を保つ必要は無いとばかりに叫ぶ村長と、それに頷く村人達。
モンスターが恐ろしい。それはエリシオも重々承知している事だ。いくらジーヴァの力があるとは言っても、生物という枠組みに入っている彼にとって、自分よりも強大な存在であるモンスター達は今も脅威である事に変わりはない。村長や村人達がモンスターに挑む事を忌避している事は、エリシオにも理解できる。
しかし、それとこれとは話が違う。
彼らに物資を届けてくれた人達が、食料と一緒に武具も持ってきてくれたのなら、それを有効活用してこそ彼らへの恩返しになるだろう。だが、彼らはそれをせずに武具を捨て、強欲にも食料だけを求めてきている。
「確かに狩りには危険が伴います。僕の村でも、それで大怪我を負った人だっていました。けれど、その人はそれでも諦めずにリハビリを続けて、また狩りに出向くようになったんですッ! 危険を恐れないで下さいッ!」
「ええい、うるさいッ! さっさと食料を寄越さんかッ! 竜車はどこにあるッ!」
「……ありません」
「なに?」
「……ありませんよ、そんなもの。第一、僕は貴方方の言う方々とは違います。たまたまモンスターから助けたこの娘を、この村に送り届けようと思っていただけです」
「なんじゃと……? おい、どういう事じゃッ! 貴様、『彼らがまた来てくれた』と言っておったではないかッ!」
「し、知らないわよッ! だってなにも言わなかったんだからッ!」
「それは僕が否定する前に、貴女が飛び出したからですッ! 僕は違うって言おうとしたのに、勝手に勘違いしてッ!」
エリシオの言葉に、少女の母親は愕然とした表情になり、村人達は全員、エリシオが自分達が求めていた者達と違う事に悪態を吐き、ぞろぞろと自分達の家に戻り始めていく。
「……なら、もうお主に用はない。この娘を救ってくれた事には感謝するが、それ以外になにも無いというのなら、さっさと立ち去ってくれ。儂らには、お主にまで回せる程食料があるわけじゃないのじゃ……」
「…………」
村長も、落胆の気持ちを隠しもせずにそう口にし、足早に去っていった。気付けば、少女の母親の姿も見えない。娘を置いて行ってしまったのだろうか、ますます許せない女性だ。
「……ごめんなさい」
「……どうして、君が謝るの?」
「だって、酷いよ……。お兄ちゃん、なにも悪い事していないのに……」
衣服の裾を掴んでボロボロと涙を流す少女。そんな彼女を安心させるように、エリシオは優しく頭を撫でつける。
(この娘だけは……本物だ)
自らに偽りの笑顔を貼りつけ、他者から恵みを施されるのを待ち続ける村長達とは違い、この少女の涙には噓偽りは一切ないと、何故だかそう思えてしまう。
それは、勘と呼べる確証の持てないものである事は、重々承知している。それでもエリシオは、少なくとも彼女の涙だけは拭ってやりたいと考えた。
「……少し、狩りに出かける」
「え?」
「……ここに来るまでに、アプトノスを何頭か見かけた。一頭か二頭ぐらい狩れば、少しだけは彼らを満足させられるかもしれない」
「……いいの? お兄ちゃん、『つごうのいい』人になっちゃうよ……?」
「そうはなりたくないんだけどね……。でも、君みたいな子どもが泣いているのは見過ごせないよ」
彼らの言いように使われてしまう―――それはエリシオとて断固拒否したい。しかし、それが彼らの為ではなく、今こうして涙している純真な少女の為ならば、まだエリシオも前向きになる。
少女をその場に残し、洞穴に向けて歩き出す。罪悪感や哀しみが込められた少女の視線を背に感じていると、ジーヴァが内側から声をかけてきた。
『俺様の了解もなしか? エリシオ』
「それについては本当にごめん。でも、付き合ってほしい」
『あのガキか? もし、あのガキも他の連中と同じようにお前を利用しようとしていたらどうする? それでもやるのか?』
「……大丈夫だよ。なんだか、そう思えるだけだけど」
『信用ならないな』
「ごめんね……」
キッパリと切り捨てられ、肩を落とすエリシオ。そんな彼に呆れたような声を漏らしたジーヴァは『……わかった』と小さく呟いた。
『一頭だけだ。本当なら一頭も渡したくないが、お前の勘を信じてやる』
「……ありがとう、ジーヴァ」
『ハッ、だったらさっさと行くぞ』
「え? うぉおぉッ!?」
完全に気を抜いていた事もあり、あっという間に両足の主導権を奪われたエリシオは、そのままジーヴァに操られて走り出す。
洞穴内に蒼白い炎の痕跡を残して走るも、エリシオは特段ジーヴァを責める気持ちにはならなかった。
妥協したとはいえ、彼は自分の気持ちに応えてくれた。それを少し嬉しく思ったのである。
(でも……)
しかしそこで、エリシオの脳裏に別の考えが浮かぶ。
この狩りを終えた後に食料を届ければ、村長達はすぐに気付くだろう。彼らはその点に関しては目敏い連中である事は、あの短時間でも否応なしに理解できた。
では、もし仮に、自分達がここから去ったとしたら、果たして彼らは生きていく事が出来るのか―――途轍もない不安に襲われ、エリシオは眉を顰めたのだった。
Now Loading...
「そう……。やっぱり、駄目だったんだね」
「……あぁ。あそこは、もう駄目だ。俺達じゃもう、どうしようもない……」
暗雲渦巻くシュレイド城、その最上階に位置する謁見室において。
玉座に腰を落ち着けたアンナの前には、項垂れた様子で自分達が訪れた村の詳細を伝えてきた、“我らの団”の団長―――ジェリスがいる。
彼がアンナに上げた報告は、とある村への支援の成果。しかし、その結果は決して良いものではなく、寧ろ『最悪』と酷評しても物足りないぐらいのものだった。
注意喚起を入れての五回、支援を行ってきた。そのどれもが、彼らが己の力で村を開拓し、少しずつ生活圏を拓けていけるものだ。食料も、装備を作る為のレシピも、安定した自給を齎す術も全て揃えた。その全てを、彼らは無碍にしたのだろう。
玉座に座るアンナの背後にある壁。そこに飾られた豪華絢爛なステンドグラスが、その奥で瞬いた光を室内に招く。
いつの間にか、シュレイド城の上空には雷が瞬き始めている。
「……ありがとう。君達には、苦労を掛けたね」
「いや……、それはこっちのセリフだ。俺達の為に、あそこまで準備してくれたのに、こんな結果しか出せずに……」
「いいの。君達の責任じゃない。君達は、自分達に出来る事をした。その上で彼らは、君達が差し出した手を払った」
「…………」
アンナが一言告げる度に、ジェリスの顔は曇っていく。それ程までに、罪悪感と己の無力さが憎いのだろう。
「もう、あの村には行かなくていいよ。どれだけ支援したとしても、自ら歩み出る意思を持たなかった者に、手を差し伸べる必要は無い。……ご苦労様、ジェリス。仲間達と一緒に、ゆっくり休んでね」
「……あぁ」
頭を下げ、ジェリスが王室から出て行く。アンナが雇ったアイルーが、彼を連れて廊下へ続く扉を閉めると、重々しい音が王室に響いた。
「……ボレアス」
短く呟くと、アンナの隣に霊体化を解いた漆黒の狂戦士が姿を現す。
彼は何も言わずに、
「いつの時代も、ああいうのっているよね。生活を豊かにできるだけの物資は送ったはずなのに、それをただ
「……」
「ボレアス。彼が話した人間に、果たしてこれから先の時代を生きる
サーヴァントやカドック達と行動しているとはいえ、ジェリス達“我らの団”はよく働いてくれている。閉ざされた集落で生涯を終えるより、外の世界に飛び出した方がいい、という理念の下に行動している彼らには、ボレアスも好印象を抱いている。彼らの存在によって、前に進む決心がついた集落や村があるのも事実だ。
しかし、そんな彼らでも、どうしようもないというものは存在する。それが今回の村の件である。
送った物資が満足できるものだったが故か、その村の住人達は施しを受けるだけ受けて、その見返りは決して行わない。いや、きっと物資の量が少し足りなければ、それだけで罵倒の言葉を投げかけてくるだろう。
あまりにも身勝手。あまりにも自己中心的。ただ、誰かからの施しを待ち続け、自分達からは絶対に動こうとしない存在。
そんな彼らに、価値はあるのか―――答えは決まっていた。
「無論、ない。彼らに未来を生きる価値はない。腫瘍は、巨大化する前に切除するに限る」
「そう、その通り。余分なものは必要ない。余計な重荷は背負う必要は無いものね」
「では……」
「うん―――滅ぼそうか。一片の欠片も、彼らが存在した痕跡を残さず、徹底的に、破壊し尽くそうか」
余計な要素は排除する。人類の進歩の足手纏いになる要素は切除する。その残酷で冷酷な決断を、いつもと変わらぬ、柔らかな微笑みで決定したアンナは、その弟であり子孫でもあるボレアスとて空恐ろしいものを感じさせる。
「では、今回は私が出撃しよう。姉上の手を煩わせる必要は無い」
「いや、今回は私が出るよ。ようやく、大部分の力を取り戻せたもの。これからは、この仕事は私が担当する」
「……姉上」
「……今までは、君達に任せるしかなかったけど、これは私の我儘だからさ。だから、私にやらせてほしいの。それに、気になる子もいるしね」
正直に言えば、アンナはこの
そして、アンナの瞳には今、その村にこの世界で唯一英雄になる可能性を秘めた青年の姿が映っている。いつか顔合わせをしたいとは思ってはいたが、これは好都合だ。上手く運べば、彼をより英雄に相応しい
「留守は任せたよ、ボレアス」
「……あぁ」
玉座から立ち上がったアンナは、頷いたボレアスを置いて数歩前に進み、その身を緋色の稲妻で包み込む。
そして、一瞬眩い光が王室を満たしたかと思えば、彼女の姿は王室から消え失せていた。
シュレイド城の周辺では、緋色の轟雷が降り注いでいた。
次回はアンナ襲来回です。彼女と出会ったエリシオ達がどのような道を辿る事になるのか、楽しみにしていてくださいッ!
妖精國編についてですが、日常回多めと救済措置バッチリを予定していますので、よろしくお願いしますッ! もしかしたら、とある二人が一線を越えちゃうかもしれません。ヒントを提示するのなら、原作キャラ×オリキャラです。越えちゃった場合はその話を執筆してほしいかアンケートを取りますので、よろしくお願いしますッ!
それではまた次回、お会いしましょうッ!