どうも、皆さん。
いちいちその段階で受けられるクエストを全てクリアしないと気が済まない為、ストーリー進行がままならない作者でございます。
皆さんはサンブレイク買いましたか? 私は今ルナガロンを討伐したところですッ!
太刀が弱体化されたと聞いていたのですが、個人的には使う分にはあまり気にしないほどのものだったため、今でも愛用しております。
今回は色々詰め込み過ぎたとは思いますが、エリシオ&ジーヴァ回ですッ!
それではどうぞッ!
―――最初は、ただの気まぐれでした。
■■を犯した愚かな種族。■■の術を用いて、■■を■■に収めようとした大馬鹿者達。
そんな■■の集落に、■は己が身を旅人と偽って足を踏み入れました。
整った顔立ちに、およそ旅人とは思えぬような外見でしたが、その集落の■■は快く■を受け入れてくれました。
その中にいた、■■■。不思議と■■■■■■■ような感覚を覚えて、■は■と言葉を交わしました。
どうやら、■も同じだったようで、■と■はすっかり■■■なりました。
……最初は、ただの気まぐれでした。
どれだけ、そう、どう言い繕っても、気まぐれでした。
―――気まぐれ、だったはずでした。
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それは、村人達の一人が、ふと空を見上げた事から始まった。
久方ぶりの来訪者に活気づくも、すぐに彼が自分達の望んでいたものとは違う事に気付き、彼の来訪など無かったように過ごしていた彼は、なんとなく空を見上げただけだった。
元より、変化など望んでいない。少々心許ないが、腹を満たせる分の食料は多少残っている。それがあるから、武器を手に取って恐ろしいモンスターに挑む必要もない。
今日は、なにをして過ごすか。これまでと同じ、決められたルーティンに従うのもいいが、たまには普段やらない事をするのもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、何気なしに蒼天を見上げて―――
「―――え?」
緋色の落雷に吞み込まれ、消え去った。
彼の近くにいた人々は、なにが起こったのか理解できなかった。
突然、雲一つないはずの空から落ちてきた雷が一人の男性を滅ぼした。あり得ないはずの出来事が目の前で起こり茫然としている間にも、続いて降り注いだ二本の雷が二人の村人を消滅させた。
流石に三人も落雷によって消えたとなれば、理屈はどうあれ、誰もがあの雷は自分達を狙っている事を理解した。
そこからは阿鼻叫喚の地獄だ。
必死に逃げ惑う村人を、次々と緋色の落雷が焼き尽くしていく。
家の中に隠れて落雷を凌ごうとした人々も、雷はその家屋ごと住人を貫く。木造の家が瞬く間に燃え上がり、その手を地上へと伸ばせば炎はさらに勢いを強めて周囲を赤色で満たしていく。
パチパチと木材が弾ける音、肉が焼ける臭い、そして逃げ惑い、炎に捲かれ、落雷に貫かれる人々の絶叫。先程まで物静かだった村は、今はただの地獄でしかない。
そんな村を、絶望と恐怖に呑まれる人々を、上空から睥睨する者がいた。
「―――」
なにも感じさせない、氷のように冷めた朱い瞳。穢れを感じさせぬ純白の衣をその身に纏い、絹のように滑らかな長髪を風に靡かせる彼女が軽く五指を開けば、そこから放たれた緋色の雷が再び逃げ惑う人々を襲い、灰燼と変えていく。
そして、その瞳が一人の少女を捉える。
人々の絶叫と燃え盛る炎に腰が抜けているのか、その場に座り込んでいる彼女は、今にも泣きだしそうな程に両目を潤ませている。
そんな彼女にさえ、女性―――アンナ・ディストローツは何の感慨も抱く事はなく、そのまま少女に緋雷を落とそうとし―――
「―――オォオッ!!」
「―――ッ!」
どこからともなくやって来た、一人の少年によって阻止された。
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エリシオはその時、なにが起こっているのか理解できなかった。
雲一つない空から緋色の雷が落ちてきたと思ったら、それが的確に村人達を狙って殺し始めたのだ。自然ではまず起こり得ない、それこそ罪人に下される天罰のように一人、また一人と丁寧に殺していく雷撃に絶句するも、すぐに気持ちを切り替えた。
あのような雷が、自然に起こるはずが無い。なにかしらの原因があるはずだ、と視線を彷徨わせ、再び絶句した。
女性だ。外見年齢としては二十代前半頃の純白の女性が、その背から雄々しい翼を生やし、両手から緋色の雷を放出していたのだ。
明らかに、人であって人ではない存在。そして、彼女の存在を視認した瞬間、全身に途轍もないプレッシャーが襲い掛かってきた。
「なんだ……あの人……」
『……おいおい、冗談じゃないぞ……。なんで、なんで“祖龍”がこんなとこにいやがる……ッ!』
「“祖龍”……?」
上空から村の状況を確認すべく滞空していたエリシオが、内側から聞こえてくる龍の声に首を傾げる。
それなりにモンスターに関する本を読んでいた手前、自慢ではないが大抵のモンスターの情報なら把握出来ている。しかし、そこに『“祖龍”』などという存在の記述は一文も見つからなかった。
あの女性がその“祖龍”なのだろかと考えたその時、体が勝手に彼女から離れようと動き始める。
自分の体が勝手に動いているのではない。自分以外にこの体を動かせる存在―――ジーヴァが無理矢理体の主導権を奪って逃げようとしているのだ。
『おい、ジーヴァッ! 勝手に体を動かさないでくれッ!』
「黙れエリシオッ! あいつ……あいつには勝てないッ! あいつは―――
『ば、化け物……?』
全身の主導権を奪われたからか、自分の意識が内側に押し込まれ、代わりに表層に浮かんできたジーヴァの叫びに、エリシオは驚愕する。
エリシオとて、ジーヴァの力量は完全とは言えないまでもある程度は理解している。元がモンスター達の最上位に位置する古龍種に分類される彼の力は、自分など足元にも及ばないレベルのもので、現に自分の体を使って戦った場合、たとえ相手が大型モンスターだろうと圧勝できる。本来、武器を使わずに己の肉体と能力を駆使して戦うため、人間がモンスターに対抗する為に使用する武器を手に戦う事には未だ慣れていないが、それでも圧勝という結果を得られるのだ。
そんな彼でさえ『化け物』と評する彼女に、エリシオは言い知れぬ恐怖を抱いた。
その時だ。
彼女の視線が固定され、掌をその方向へ向けた。彼女に釣られてエリシオがその視線を追えば、そこには彼が先程助けた少女の姿がった。
腰を抜かしている彼女は、上空にいる女性の存在に気付いていない。いや、仮に気付いていたとしても、あの雷撃から逃れられる可能性など皆無だ。大の大人が走っても簡単に殺されたのだ。体力も大きさも負けている彼女が逃げられる要素など、どこにもない。
『ジーヴァッ! あの娘を助けないとッ!』
「無理だッ! 奴に狙われた以上、あいつは助からないッ! 諦めろッ!」
『出来ないッ! もうこれ以上、僕の前で誰も死なせたくないッ!』
「それで俺様達が死んだら元も子もないだろッ! 頼むから諦めてくれッ! 情けない話、俺様は今すぐにここから―――あの女から逃げたいッ!」
あのジーヴァが震える声で懇願するように叫ぶ事に心が揺れそうになるが、それで引いてはならないと、エリシオは自分を奮い立たせる。
かつて自分がいた村は、突如として現れたモンスターによって滅ぼされた。生まれ育った村では妹を目の前で喰われ、第二の故郷となった村も滅ぼされた。自分を愛してくれた人々も、鍛えてくれたレオニダスや無銘もモンスターに殺された。少し前にやってきた蘭陵王も、もしかしたら死んでしまっているかもしれない。
あの時に感じた絶望を、悲嘆を、嘆きを、もう二度と思い出したくない。そして、それを誰にも与えたりしないと誓った。
自分のような人間を出さない為に、これまで多くの命をモンスターの脅威から護ってきたのだ。
モンスターと融合し、人ならざる身になってしまっても。助けた相手からは感謝ではなく、恐怖の感情を向けられ続けたとしても。
あの少女だけは。純粋に、自分に感謝してくれた彼女だけは救いたい。
『いいから―――代われッ!!』
「ぐ、ぅ……ッ!? オアアァッ!?」
内側で荒れ狂う感情の渦に圧され、表層に出ていたジーヴァが苦悶の叫びを上げる。
瞬間、なにかが切り替わる感覚と共に、エリシオの人格が表層に浮上した。
視界も、内側から見るものとは違う、しっかりとした目を通してのものとなり、それを理解する前にエリシオは両手に双剣を握り締めた。
『エリシオッ! 貴様―――』
「ごめんッ! でも、僕は……ッ!」
『……。―――ガアァッ! なるようになれクソッ! わかったからお前の好きにしろッ!』
「……ありがとう。―――オォオッ!」
翼を羽ばたかせ、地上から引きずり出した魔力をブースターのように噴射させる事で加速したエリシオが、双剣を振りかぶる。
超速で接近してくるエリシオに気付いた女性の視線が動き、片手を彼に向ける。
そこから発生した魔力の壁がエリシオの攻撃を阻む。勢いを乗せた一撃が容易く受け止められた事に歯を食い縛るが、構わずに防壁を突破しようと右手に握った剣を振りかぶる。
しかし、女性もエリシオの追撃を許すつもりがない。
「な―――ッ!?」
風を切り裂くように振るわれた剣が当たる直前、防壁を消滅させた彼女は、体を回転させてエリシオの攻撃を躱し、そのまま遠心力を殺さずに回し蹴りを繰り出した。
攻撃した直後を狙われたために防御など出来るはずもなく回し蹴りを受けたエリシオは、女性の華奢な足から繰り出されたとは思えぬ絶大な威力を前に蹴り飛ばされ落下。優に50m以上地面を削ってようやく止まったエリシオは、先程受けた一撃の重さに愕然とした。
回し蹴りを受けた背中に、ズキズキと激痛が走る。それを堪えてなんとか立ち上がり、上空を睨み上げる。しかし、そこに女性の姿はない。
どこに、と思ったその瞬間、両足が勝手に動いてエリシオの体をその場から飛び退かせた。その瞬間、背後から重いものが落とされたような音が響く。
「―――やっぱり、これが一番だったみたいだね。待ってたよ」
円形に陥没した地面から、踏み下ろした左足を離した女性は、さも友人に朝の挨拶するような笑顔でエリシオを見つめてくる。
それに尋常ではない威圧感を感じながらも、エリシオは双剣を握る力を緩めずに警戒の姿勢を解かない。
「……何者ですか、貴女は」
「私? ……あぁ、そういえば自己紹介してなかったね。私はアンナ・ディストローツ。でも、君の中にいる
「……“祖龍”」
「あっ、もしかして教えてもらってた? そう。アンナ・ディストローツは人間としての私の名前。龍としての名前はルーツ、またの名を“祖龍”ミラルーツ。よろしくね。それじゃあ、君の名前を教えてもらおうかな?」
「……エリシオ」
「エリシオ……うん、良い名前だね。覚えたよ。じゃあ……はい」
「え……?」
エリシオの名前を口にし、一度頷いた女性―――アンナが手を差し出してくる。
それにエリシオが呆気に取られると、アンナはこれがなにを意味しているのかを相手が理解していないと思ったのか、軽く首を傾げた。
「握手、わからない?」
「いや、わかるけど……」
普通、武器を握って警戒心剝き出しの相手にするだろうか。
その疑問が顔に出ていたのか、「あぁ~……」とアンナは呟き、手を引っ込めた。
「そうだよね。君からすれば、私っていきなり村を攻撃しているよくわからない相手だもんね。でも、ごめんね。これ、私の仕事だから」
「仕事……?」
「そ、仕事。これまでは弟妹や子ども達にお願いしてたんだけど、ある程度力を取り戻せたから、これからは私がしようと思ってね」
何の事でも無いように周囲の惨状を見渡して説明するアンナに、エリシオの顔が引きつる。
村を滅ぼす事が、そこに住む人々を殺す事を『仕事』と言ったのか、この女性は。
そして、この人は、自分の弟妹や子ども達に、この『仕事』をさせていたのか、と憤った。
「……家族に、やらせていたのか? この
「君がそんな顔をするのも当然だよね。正直、私も良い気持ちじゃなかったよ。これは本来、私が率先して行うべき事だからね」
「……家族にやらせるのはそうだけど、後者はどういう事?」
「……質問を質問で返す形で返しちゃうけど、エリシオ君、“価値”って何だと思う?」
「価値……?」
質問していたのはこちらだというのに、相手に質問し返された事にとやかく言うタイプではないため、エリシオは『価値とは何か』と考え始める。
「……そのものが持っている、なにかに活かせる要素、とか?」
「うん、そうだね。価値とはそういうものだ。なにかに活かせる性質や有用性があるからこそ、それには“価値”が付与される。そこでなんだけど……」
腕を組んで笑顔を消したアンナは、真っ直ぐな眼差しでエリシオを見つめる。
「―――この村に住む人達に、“価値”ってあると思う?」
「……は?」
なにを訊かれたのか、理解できなかった。
その質問の内容の把握に数秒の時間をかけたエリシオの目が見開かれるのを見ながら、アンナは続ける。
「私は、価値とは未来に直結するものだと思う。価値があるからこそ活かされて、それは後に未来を形作る礎となる。そして、その価値は別のものに受け継がれ、また新たな価値となって広がり続ける。それじゃあさ―――」
―――
「―――そんなわけないッ!」
その一言で締め括ったアンナに、エリシオは思わずそう返していた。
「どうして? 無価値なもの―――いらないものは捨てるのが普通でしょう? それのなにがいけないの?」
「貴女がそう言って扱っているのは……人の命だ」
「人じゃないよ。無意味に資源を食い潰して、いざそれが無くなったら他人に当たって、縋れる対象がいれば自分達の全てを任せてしまう―――そんな連中、私は人間とは思えないよ」
「だけど……そんな、人を道具みたいに……」
「道具にも劣る存在だよ。ここに住んでいるのは」
「―――ッ!」
「教えてあげるよ、エリシオ君。全てのものに“価値”が存在する以上、人間にもそれがある。これから先の未来を生きるに値するか、値しないか。残念だけど、この村にいるのは後者に該当している」
哀しそうに目を伏せるアンナ。傍から見れば、こうしなければならない事に対する哀しみや、これから命を奪う者達に対する謝罪といった感情をありありと感じられるが―――
『エリシオ、こいつは……』
「……うん。この人……
エリシオとジーヴァは直感的に理解できた。
彼女がそんな感情など一欠片も抱いておらず、ただ作業をするように人を殺しているという事を。
いや、彼女にとっては先程まで殺していた者達など人間とは思っていない以上、余計に質が悪い。ひょっとすると、彼女からしてみれば本当に仕事―――作業なのかもしれない。
彼女をこれ以上ここで暴れさせるわけにはいかない。そう決意し、攻撃を仕掛けるべく両足に力を入れようとして―――
「―――お兄ちゃん?」
背後からかけられた、小さな声に動きを止めた。
「……君は……」
「お兄ちゃん……ママがね、消えちゃったの……。赤い光にね、消されちゃったの……」
「……ッ!」
今の自分は半ば龍と同化しているような状態だというのに、自分を見つけたその少女は、大粒の涙を零しながらエリシオに近づいてくる。
だが、彼女がこの場に来た時、状況も、時間も、なにもかもが最悪過ぎた。
「そういえば、まだ生き残りがいたね」
「……ッ! 逃げ―――」
逃げて、とエリシオが叫ぼうとした頃には、既にアンナは少女の背後に立っている。
今から走り出そうにも、短いはずの彼我の距離が酷く遠いように感じる。
自分の動きがスローモーションになっているような錯覚を感じながらも、届かないとわかっていながらも走り出そうとするエリシオの目の前で、アンナは右手に緋色の雷を纏わせて―――
「―――ッ!?」
エリシオの手から放たれた矢によって、その手を弾かれた。
アンナの目が見開かれ、エリシオに向けられる。だが、当のエリシオ本人も呆気に取られていた。
自分の手には、双剣ではなく弓が握られており、なにも持っていない片手は、先程アンナの右手目掛けて射った矢があった事を意味するかのように微かに開かれている。
そして、視界が今まで見ていたものとは打って変わって、箱の内側から見ているようなものとなっている。
それが意味するものとは、つまり。
「……やっちまった」
―――
「やっちまったッ! この俺様がッ! “祖龍”に攻撃を……ッ!」
『ジーヴァ……』
「ああクソッ! 泣きたくなるッ! 勝てない相手になに攻撃してるんだ俺様はッ!」
「……その気配、ジーヴァね。それも……あの大陸の」
「あぁ、そうだッ! こいつの
今にも逃げ出しそうな程に足を震わせながら早口でまくし立てるジーヴァ。エリシオの体を使って叫ぶそんな彼の姿に、「……ふふっ」とアンナは小さく笑った。
「抑止力からの遣いってわけね。
「……ッ」
ジーヴァが大量の冷や汗を流しているのが嫌でもわかる。今は彼が肉体を動かしているが、その肉体は元々エリシオのもの。自分の体の事など、本来の持ち主であるエリシオが一番よく知っている。
心臓の鼓動も恐ろしく早くなっている。このままでは彼女の威圧感に圧し潰されて死ぬのではないかと思ってしまうぐらいだ。
このままではまずい、と判断し、エリシオはジーヴァに主導権を返すように告げる。
「だ、駄目だ……ッ! ここで退いたら、情けなさ過ぎて死にたくなるッ! やってやる……やってやるぞ、俺様はッ!」
「……へぇ、いい度胸だね。まさかそこまでとは思わなかったよ。でもね、ジーヴァ。今の君が抱いているそれは、勇気じゃない。蛮勇だよ。それでも君は、この私に挑む?
「……あぁ、やってやる。正直、俺様にそこのガキを助けるつもりは毛頭ない。ただ……うちの相棒がどうしても助けたいって言うもんだから、助けるだけだ」
理性の何割かを割いて足の震えを抑え込み、鋭い瞳でアンナを睨むジーヴァ。
その眼差しに口元を緩めたアンナが、ジーヴァと真に向き合うべく少女から離れようとして―――
「……てよ」
小さい、本当に小さな声に、両者の視線が動く。
ジーヴァは訝しみの視線で、アンナは「
その体は、ジーヴァとは比べ物にならない程に震えている。
当然だろう。いきなり人々が落雷によって殺された事から始まり、異形の女性にその命を握られていたのだから。
ならばこそ、一秒でも早く助けなくては。
そう、エリシオが考えた時だった。
「―――いいから早く、私を助けてよッ! この
『……え』
なにを言われたのか、まるでわからなかった。
ジーヴァでさえも、彼女が何と言ったのか理解できなかったらしく、目を丸くして唖然としている。
そんな彼らの視線を気にする事なく、少女は彼らがこれまで目にしてきたものとは全く異なる形相で叫び続ける。
「折角この村に連れて来てやったのにッ! 涙まで流してやったっていうのにッ! なんでもっと早くモンスターを狩ってきてくれないのッ!? 私の為だったなら、もっと早く終わらせてよッ! 早く……早くこいつを殺してよッ!!」
叫び喚く事に意識を集中させているためか、大きく見開かれた瞳から大粒の涙が零れ、口元は鼻水や涎でぐちゃぐちゃだ。
しかし、そんな事など知らぬばかりに喚き続ける少女を―――
「黙れ」
「が……ッ!?」
欠片の感情も抱かない表情で、アンナが蹴り飛ばした。
反応できない速度で繰り出された一撃は腹部に命中し、少女は地面を転がっていく。
それにジーヴァの視界が揺らぎ、弓が片手剣に切り替わる。
「ガ……アアァァアッ! やりやがったなぁ……ッ!
「自分が子どもだからって、私が蹴らないと思っているのかしら? 残念だけど、私は君を人間とは思わないし、ましてやその子どもと思ってもいないわ。
「ば、化け物め……ッ!」
「幾らでも言いなさい。どれだけ罵られても、私はなにも思わないし、傷つかない。君達を殺すという結果は、微塵も変わらないわ」
「ヒ……ッ!」
ゆったりとした動作で近寄ってくるアンナに、少女の顔が恐怖で塗り潰される。
「お、おい、お前ッ! 助けに来いよッ! なぁ、なに固まってんだよッ!? お願い、助けて……ッ!」
少女の視線が青年に向けられる。
その表情は一刻も早く目の前にいる脅威から逃れたいという気持ちで彩られており、這いずってでも彼との距離を縮めようとしてくる。
「お前をこの村に連れて来てやったのは誰だよッ! この私だよなッ! それを見殺しにするっていうのかよッ! あッ!?」
「……ッ。う、うぅ……ッ!」
少女の叫びが木霊し、青年が頭を抱えて蹲る。
二人がそうしている間にも、アンナは右手に雷を纏わせ、遂に少女の隣に立った。
「助けて……お願いだから、助けてよぉ……ッ!」
「黙りなさい。それ以上は見苦しいわ。本当、貴女みたいな奴は……」
「お願い、お兄ちゃ―――」
「―――殺すしか、ないわよね」
届かないとわかっていながらも少女が手を伸ばそうとした瞬間、彼女を、その真上に翳されたアンナの右手から発生した緋色の雷が吞み込んだ。
叫び声を上げる事は無い。それを発する余裕も、時間も、なにもかも与えない。まるで、救いを求める事も許さないと告げるように落とされた緋色は、少女の体を瞬く間に焼き尽くした。
「……これで、最後ね」
焼き焦げた足元を見下ろし、淡々とした口調で告げる。
アンナの足元―――丁度少女がいた場所に出来た、這いつくばった人型の焦げ跡が、彼女の墓標となった。
「―――ッ! こ……のぉおおおおおおッ!!!」
ようやく、というべきか。
なにもかもが終わったその時、ようやく青年が動いた。
ジーヴァから無理矢理体の主導権を奪い返し、制止しようとする彼の意識さえも捻じ伏せる為に要した時間こそ、今まで彼が少女を前に固まっていた時間だ。その間に、全てが終わった。
それでも、その視界に少女の最期を見たエリシオは、最早狂化したバーサーカーかの如き勢いで飛び出し、アンナに攻撃を仕掛けた。
「殺す必要までは無かったはずだッ! なんで殺したッ!」
「ここにいる連中が、いつかここに来た人間達の価値を無価値に変えてしまうかもしれないからよ。人の気持ちは、他人に伝播する。それこそ、ウィルスのようにね。こいつらが外に出なくても、逆に他の村からやって来た人間に与える影響を考えたら、これが一番手っ取り早く済むと考えたから、こうしたまでよ」
脳天に振り下ろされた片手剣を、片手で掴んで受け止めたアンナの鋭い視線が、エリシオを貫く。
「彼らは必死だったッ! それなのに、お前は―――ッ!」
「付き合う相手を選べとまでは言わないわ。けれど、なにもかもを背負おうとするのは止めなさい。背負わなくてもいいものまで背負って、他人に酷使された挙句に、その他人の都合で殺されるだけよ。貴方自身が、その重さに押し潰されるかもしれない」
「だとしても―――ッ!」
「……自己犠牲の精神っていうのかしら。私も多少その気はあるけど、流石にそこまでは無いわよ? 本当、人間って不思議ね。―――……? ……ッ!?」
憐みの視線を投げかけていたアンナの表情が困惑に歪み、次に驚愕に彩られる。
その視線は、エリシオの瞳に向けられているが、エリシオ自身には向けられていない。だが、今のエリシオにそれを気にする余裕は微塵も存在していないため、彼女の視線の変化に気付く事は出来なかった。
「まさか……
片手剣を押し返し、エリシオとの距離を離すアンナ。
「ふふっ、そう……そうなのね。だとしたら、なんて事かしら。これも運命って事なのかしら? 貴方の事、もっと見ていたくなったわ。……? なに? どうしたの?」
エリシオを見つめて微笑むアンナだったが、突然あらぬ方向へ視線を向け始める。
その間にもエリシオは攻撃を仕掛けるが、アンナはそれを最低限の動きのみで躱していく。
「え、本当ッ!? わかった、すぐに戻るからッ!」
「ハァ―――ッ!!」
ぶつぶつと独り言を呟き、嬉しそうに笑ったアンナに、エリシオが斬りかかる。
しかし、怒りに任せた単純な攻撃をアンナが受けるはずが無い。容易く攻撃を避けると同時に、エリシオの体を緋色の雷で作り出したボールで包み込む。
「な……ッ!? クソッ!」
「ごめんね。もう少し話したかったけど、用事が出来ちゃったの。……さようなら、エリシオ君、そしてジーヴァ。次に会う時、君達がもっと強くなってる事を祈ってるよ」
「……ッ!! アンナ……ディストローツッ! “祖龍”ぅううううううううッ!!!」
憎しみのまま叫ぶ。
絶え間ない憎悪に塗れた叫びを轟かせるエリシオを閉じ込めたボールを、アンナは人差し指で弾く。
それだけで凄まじい勢いで動いたボールは、エリシオを閉じ込めたまま空を飛んでいく。
「絶対に、絶対に許さない―――ッ! 覚えていろ、“祖龍”―――ッ!!!」
彼女の姿が見えなくなっても、エリシオは叫び続ける。
―――その心には、宛ら地獄の業火が如き、激情の焔が渦巻いていた。
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「これは……」
アンナがエリシオをボールに閉じ込めた頃、シュレイド城にて。
留守番を任されたボレアスは、足早に地下に向かっていた。
先程、シュレイド王国地下から周辺へと流れる魔力の流れが活発化し始めた。このような出来事は今までになく、なにかしらの異変が起きている事は明白であり、その原因を突き止めるべく、ボレアスは地下へと走り出した。
「ボレアスッ!」
その時、近くのテラスに降り立ったアンナが合流する。
「状況は?」
「魔力の動きが活発化している。これから確認しに行く」
焦っている姉と違って、平常と変わらぬ淡々とした口調を崩さず簡潔に告げるボレアス。
足早に駆ける二人に首を傾げるカドック達も巻き込み、あっという間に大所帯になったアンナ一行は滑り落ちるように龍結晶によって照らされている階段を下りていき、シュレイド城の最下層へと辿り着く。
「―――ッ! あぁ……ッ!」
最初に声を漏らしたのは、吹き飛ばすように扉を押し開けたアンナだった。
歓喜に彩られた彼女の前には、一体のモンスターなど容易く入れる事が出来る程に巨大な繭。しかし、それは今まで見ていた青白い色ではなく、鮮血のように鮮やかな赤色に変色していた。
しかし、アンナにそれを心配するような様子はない。むしろ、「へぇ、こうなるんだ……ッ!」と笑顔のままに呟き、繭に駆け寄る。
その時、繭の隙間から幾つもの熱線が吐き出され、周囲の龍結晶を破壊し始める。高密度の魔力を伴って放たれたそれは、超高温の熱線となって周囲を溶かし、焼いていく。それにカドック達のサーヴァントが対応しようとするが、彼らでは防げないと悟ったボレアスが咄嗟に彼らの代わりに双剣を振るう事で相殺する。
「……っ、ほぅ……ッ!」
斬撃で相殺した熱線だが、その際に柄を握る手に走った痺れに、思わず喜悦の笑みを浮かべる。
「おい、なにが起こってるんだ?」
「なにが起こっているだと? これを見てわからないのか? これは、
「う、産声……?」
予想していなかった返答に、カドックとオフェリアが目を丸くする。
二人よりも先に状況を把握したペペロンチーノは「なるほどね」と、虞美人は「ようやくね」と肩を竦めて呟いた。
「そうだ、
ボレアス達の視線の先。
熱線によって融解した地面を臆する事無く進み、両腕を広げたアンナは、歌うように口を開く。
「さぁ―――産まれておいで。この世界の“王”……『私』の息子―――ッ!」
繭が破け、そこから巨大な頭部が現れる。
次に首、胴体と、次々とその姿を外界へと現したその龍は、ずるりと繭から落ち、軽い地響きを起こす。
褐赤の鱗に覆われた巨躯。
歪に捻じ曲がった一対の角を持つ頭部。
赤く染まった強大な翼は、まさしく万物の支配者のよう。
―――其は、数多の英霊、古龍のエネルギーを糧に立つ者。
―――
―――“完全なる者”、“古龍の王たる者”。
―――その異名を持つべき、彼の者の名を、かつての人類はこう呼び、畏れた。
「ガァアアアアアアアアッ!!!」
“完全なる霊魂”―――“赤龍”ムフェト・ジーヴァと。
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小鳥が囀る森林地帯。
肉食モンスターも草食モンスターも、悠々自適と過ごすその地域に、一つの球体が落ちてくる。
見ているだけで心が洗われるような清流に落ちたそれは、しかしそれを形作る魔力の量とは比べ物にならない程に軽い衝撃と共に解れ、そこから一人の青年が吐き出される。
「……ここは、どこだ……」
荒み、充血した瞳で周囲を見渡すエリシオは、今自分がいる場所が見知らぬ場所である事を知ると、溜息を吐いて近くの岩に腰かけた。
『落ち着いた……とは言えないな、エリシオ』
「落ち着けるものか……目の前で人が殺されたんだぞッ! 僕がもっと早く動けていれば、あの娘は―――」
『上っ面だけ感謝して、お前を扱き使うだろうな』
「……ッ! く……ッ」
遮って告げられた言葉に、エリシオは押し黙る。
わかっている。わかってはいるのだ。もしあの少女を連れてあの場を切り抜ける事が出来たとしても、自分は彼女に良いように扱われるだけだろう。彼女は、元からそのつもりで自分を頼っていたにすぎないのだから。
その事実は、エリシオの心に深い傷を刻み付けた。これまでのように、初対面で怖がられるならまだいい。しかし、自分を恐れないでいてくれた相手が、本当は自分を利用するつもりでいたという事実は、ただ怖がられるよりも重く圧し掛かってきた。
再び深く溜息を吐き、顔を両手で覆う。
色々な事が起こりすぎて、気持ちの収拾がつかない。アンナ・ディストローツ―――自らを“祖龍”と名乗ったあの女性を捜すのは当然だが、まずは自分の気持ちを落ち着ける事を優先すべきだと考え、なんとなく視線を彷徨わせようとし―――
「ふっ……ふっ……」
「…………誰ッ!?」
いつの間にか自分の隣に立ち、全裸で木の棒で素振りをしている男に気付いた。
「おぉ、ようやく気付きおったか。いつになれば儂に気付くかと思っておったが、まさか最後まで気付かなんだとは。まだまだ青いのぉ、青年」
『ゲェッ!? こ、こいつは……ッ!!』
「む、その気配……“冥灯龍”か? だが明瞭なものではない……融合しておるのか。不思議なもんじゃのぉ、サーヴァントというものは」
カカカと笑うその男は、顔立ちからすれば五十代かそこらの、大分歳を重ねたような
(お、大きい……。まるで山みたいだ……ッ!)
身の丈、なんと三メートル超。およその人ではまずあり得ないような体躯を持つその巨漢は、その体からしてみれば杖の役割にもならない程に短い木の棒を放り、エリシオと同様に近くにあった岩に座った。
どこかで聞いた『着物』という衣服がよく似合いそうな雰囲気を醸し出すその男は、全裸という事が気にならない程に鍛え上げられた肉体をしていた。
見事に割れた腹筋に、見ているだけで圧倒されそうな上腕二頭筋。正直、視界に収めているだけでも暑苦しい気分になってしまうが、それは決して表に出さないでおく。
だがエリシオは、その体に刻まれている
首元、肩口、足の付け根―――計五箇所に見られるそこには、別々のものを縫い付けたような結合痕が残されている。
まるでピッタリとピースがハマったパズルのように、違和感など全く感じられない肉体。だが、その違和感の無さが、余計に悍ましさを感じさせる。
完璧な肉体なはずなのに、それが逆に歪なもののように感じさせられる。
まるで、存在してはならないものが存在しているような―――。
「あ、貴方はいったい……」
「儂か? 儂は―――」
エリシオの問いかけに、壮年の男はスッと目を伏せる。
瞬間、彼を中心に発生した冷気の渦が、周囲を瞬く間に凍り付かせていく。
身も心も凍り付いてしまいそうなその冷気の渦が晴れると、そこには氷の粒のような装飾と涼やかな色合いが特徴的な鎧を身につけた男の姿があった。
「儂の名はスメラギ。『空位』の狩人にして、ただの怪物じゃよ」
フルフェイスの奥にある瞳を細め、最強の狩人は小さく笑うのだった。
申し訳ございません。
本当は今回で幕間的な話は終わりにしたかったのですが、あと一話だけ、妖精國編の導入として投稿しますッ!
それでようやく妖精國編に突入ですので、よろしくお願いしますッ!
それではまた次回ッ!