緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 本日、原宿のスイパラにてibのコラボカフェでコラボメニューを楽しんだ後、明治神宮でおみくじを買ったり家族にお酒を買ったりしました、seven774です。
 コラボカフェは久しぶりに行ったんですが、やはり当たりはずれが激しいですね。その点、今回は当たりでした。コラボグッズのコーヒーパックも買えたので万々歳です。

 イマジナリ・スクランブルがインタールード入りしましたねッ! fgoのストーリーの中でも個人的に好きなイベントストーリーだったので嬉しいですッ! ゴッホちゃんを召喚したいところですが、来月には新イベandアヴァロン・ル・フェガチャが控えているので石を割るか検討中であります。

 それでは本編、どうぞですッ!



小さな巨竜

 

 クリプターの一人、元ロシア異聞帯の管理者―――カドック・ゼムルプスは多忙だった。

 

 オフェリア達と共にアンナに連れられてやってきた、このブリテン異聞帯改め妖精國ブリテン。そこで彼は、ひょんな事からアイドルをする事になった。

 

 自らのサーヴァントであるアナスタシアやプロフェッサー・Kに流されるままアイドル路線に入ってしまったが、引き受けた以上、望まれたもの以上の成果を上げるつもりで練習に励んでいる。

 自分は他のメンバーと比べて凡庸だ。ペペロンチーノのような桁外れな身体能力や、オフェリアや虞美人()のように優秀な頭脳を持っているわけではない。アンナなんかもっとあり得ない。そもそも人と龍の差など歴然なのだから。そう言うと虞美人も精霊なのでそれに当てはまるのだが、彼女からはあまりそういった雰囲気(オーラ)が全く感じられないのだから仕方ない。

 

 とにかく、カドックは自らを卑下するレベルで他と比べて平凡だ。だからこそ、かつて彼は、アンナやキリシュタリア達に置いて行かれないよう、必死に喰らい付き続ける為の胆力と精神力、そして研鑽を続けて、見事主戦力(Aチーム)の一人に数えられた。

 そして今回も、やるべき事は当時と然程変わらない。学ぶ対象が変わっただけで、今の自分にとって必要なのは、観客の披露できるだけのレベルに己の肉体と技術を仕上げるのみだ。

 しかし、やるべき事はそれだけではない。オフェリアはともかく、アイドルをやれると知って浮かれているアンナとは違い、カドックは休憩時間にも作業を行っている。

 

 その作業とは、妖精國の情報集めである。

 

 ロシア異聞帯にいた頃はイヴァン雷帝の宝具であるオプリチニキを使って各地の情報を集めていたが、今の自分にそのような自由に動かせる駒はない。ならば、妖精國の情報を集めるのに最適な新聞や、妖精達から話を聞くだけである。

幸い、ここは流行の街グロスター。常日頃から新しいものに飢えて足繁なく通ってくる、または自分が所属する会社の妖精達からこの國の事は簡単に聞き出せる。

結果、カドックは様々な情報を知り得る事が出来た。

 

 その中で最も重要なものと言えば、妖精騎士達だろう。

 この異聞帯の“王”であり、國の女王として君臨するモルガンに仕える三人の騎士達。それぞれがガウェイン、トリスタン、ランスロットと、アーサー王伝説の中でもメジャーな英霊達の名を持つ彼女達だが、モルガンが汎人類史の三騎を召喚したというわけではないだろう。そもそも、この三騎が妖精という伝説は存在しないのだ。だとするなら、ただの偶然であの三騎士の名がつけられたのか、それともなにかしらの要因があって彼女達が彼らの名を着名したかのどちらかだろう。

 この二つの中でカドックが有力だと考えているのは後者だ。

 ただの偶然で汎人類史に名を刻んだ英雄と同じ名前の妖精がこうも揃うのはおかしい。きっと、なにかしらの理由があるはずだ―――そう考えたからだ。

 それに、彼女達にはそういった肩書きと共に本名も公開されているのもある。

 

 妖精騎士ガウェイン―――真名はバーゲスト。

 カドック達がいた汎人類史ではイングランドで語られる、有角赤目の黒犬の姿をした邪悪な妖精と同じ名前。それ故か“牙の氏族”の妖精として誕生した彼女だが、一般的に知られている外見ではその伝承には当てはまらない。もしかしたら、本気を出した際には伝承で語られるような外見になるのかもしれない。死や災厄の前触れとも言われているため、もし戦闘する際には用心すべきだろう。

 

 妖精騎士トリスタン―――真名はバーヴァン・シー。

 汎人類史では、スコットランドの民間伝承で語られる、男を誑かして破滅に追いやる吸血妖精としてその名を知られている。こちらでは女王モルガンの娘として、同時に一大ブランド『Bhan-Sith』のオーナーとしても知られている彼女は、いつか女王モルガンからこの國を受け継ぐ存在として様々な目で見られているらしい。母親が恐怖統治を敷いているため、『彼女にそんな統治はしないでほしい』という希望や、『時々見せる残虐性故に彼女に國を任せられるのか?』という不安が妖精達の主な意見だ。

 能力はフェイルノートという琴に似た武器による音波攻撃。弓矢中とは違い、弦を弾いた衝撃で攻撃を行ってくる故にどこから飛んでくるかわからず、そういう意味では厄介な部類だろう。それに、妖精には不要と言われている魔術を使ってくるのも注意すべきだろう。大抵の妖精が『不要』と断じた魔術を使う妖精など、他の妖精から無駄な努力だと嘲笑するだろうが、元々強力な神秘を有する妖精が魔術を使役してくるのだ。戦闘時には彼女が使う魔術にも注意する必要がありそうだ。

 

 そして、最後の一騎。これが一番の難敵だと、カドックは考えていた。

 

 妖精騎士ランスロット―――真名はメリュジーヌ。

 女王モルガンに仕える妖精騎士最後の一人。汎人類史ではフランスの民間伝承で語られる水妖として知られている。

 妖精騎士の中で最強最速の戦闘能力を誇り、超高速移動と共に繰り出される二振りの刃による攻撃は並みいる敵を瞬く間に切り刻み、叩き伏せるという。まず、純粋な戦闘力が他の二騎を凌駕している時点で要注意だ。こちら側にいるサーヴァントは敏捷ランクが優秀な者達ばかりではない。下手をすれば、彼女の独壇場になってしまう可能性も存在するのだ。

 素で強力な彼女に対抗するには、やはりアンナのサーヴァントであるボレアスとバルカンの力が必要だ。“禁忌のモンスター”として語られる彼らならば、恐らく彼女の速度にも対抗できるだろう。だが、もし彼女との戦闘時に彼らがいなかったら……考えるだけでも恐ろしい。

 そしてそれ以上に気になるのが、彼女が“竜の妖精”と呼ばれているという事だ。竜の妖精など、この國ではまるで聞いた事が無い。となると、彼女一人をそう呼んでいるのかもしれないが、竜種となると、その大本(オリジナル)のアンナがなにか知ってるかもしれない。

 

 

(帰ってきたら聞いてみるか)

 

 

 そう考えながらメリュジーヌについての情報をまとめ終え、カドックは軽く背筋を伸ばす。

 長らく座って作業して体が固まっていたのか、ポキポキと体内から響く音を聞きながら、ふと出入り口を見やる。

 

 そして―――

 

 

「こうしてルーツ様と歩けるなんて、本当に嬉しいです」

「ルーツ様なんて呼ばないでよ~。そっちの名前でも別にいいけど、どうせならアンナって呼んでほしいなぁ」

「ッスゥ~……」

 

 

 アンナやオフェリアと共に会社に入ってきた妖精騎士(メリュジーヌ)に、両手で顔を覆うのだった。

 

 

 

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「え〜紹介します。この子の名前はアルビオン。こっちの歴史にいた『私』の娘です」

『いや待ってッ!?!?』

 

 

 プロフェッサー・Kを始めたメンバー達を集めた後にアンナが平然と口にした言葉に、その場にいたほとんどの者達が叫んだ。

 

 

「え、待って、アンナ。これが? これがあのアルビオン? あのクソデカドラゴンの?」

「それ、母龍(わたし)の前で言う事?」

「いや、馬鹿みたいにデカかったのは事実でしょ」

「まぁそれは認めるけど……」

「認めちゃうのね……」

 

 

 いやぁ確かにデカかった―――と腕を組んでうんうんと頷いてしまったアンナに、ペペロンチーノが苦笑する。

 

 

「いや、本当にデカかったんだって。あの時代なんかに地上に出たら、間違いなく最強の称号持ち(モンスターハンター)が出張ってくるレベルだよ? この子に任せてた能力が能力だから、狩られるわけにもいかなかったし、基本的には地脈……地下の方で生活させてたんだ」

「でも、時々地上に出してたわよね」

「もちろん。ずっと地脈で過ごさせるなんて可哀想じゃん。だから定期的に外の世界を見せてあげてたよ。観測隊に見られはしたけど、すぐに隠れてもらったから都市伝説扱いになったし」

 

 

 昔話―――それこそカドック達が知る“モンスターハンター”の時代での出来事についてアンナが虞美人と語り合っていると、今まで黙っていたメリュジーヌが歩き出し、二騎のサーヴァントに頭を下げた。

 

 

「ボレアス様、バルカン様。ルーツ様に続き、お二人にまでお会いできて光栄です」

「……息災のようだな、アルビオン」

「あのデケェ姪っ子が、こんなちっこくなるなんてなァ。それにいいツラじゃねぇか。こっちじゃ良い奴(・ ・ ・)と会えたみてェだな」

「…………はい。とても、良い方です」

(あれ……? 今、なにか……)

 

 

 バルカンからの言葉に少し間を置いてからそう返したメリュジーヌに、オフェリアは微かな違和感を覚える。

 彼女の言葉に、嘘はないとは思う。しかし、それ以上の『なにか』を、オフェリアは彼女の言葉に感じた。

 

 

「……それと、私の名前は、出来ればメリュジーヌと呼んで頂ければと思います。アルビオン、という名も私ではありますが、この國では、私はメリュジーヌ、もっと一般的なものでは妖精騎士ランスロットという呼び名で通っておりますので」

「ん、わかった。……それで、メリュジーヌはどうしてこの街に?」

 

 

 言われた通り、彼女の呼び名を変えたアンナからの質問に、メリュジーヌはなぜ自分がこの街に来たのかについて説明し始める。

 

 自分が“風の氏族”の長であるオーロラの護衛である事。

 そのオーロラが“牙の氏族”の長であるウッドワスと食事をするという事なので、その護衛としてこの街に来た事。

 

 それについて説明されると、カドックは眉を顰めて思案し始める。

 

 

「オーロラにウッドワス……二人の氏族長がこの街に……」

「なにを気にしてるんだい、カドック。彼らが君達の事を知ってるはずがないだろう? 第一、私の会社は大きい。新たに十人程度社員が増えたとしても、『人気の高さが故』と納得するさ」

「……そうだな」

 

 

 女王モルガンと直に話し合える立場にある彼らの存在に一瞬危機感を覚えたものの、今の自分達はまだなにも目立った行動は取っていない。それなのに彼らに自分達の存在が気付かれる事を危惧するのはおかしい話だ。

 我ながら気を張りすぎているのかもしれない―――そう片付けた後、一度深呼吸を挟んで気持ちを切り替える。

 それを見計らってか、プロフェッサー・Kは「こほん」とわざとらしく咳払いをすると、カドック達を見渡しながら口を開いた。

 

 

「そういえば、彼らの紹介がまだだったね。メリュジーヌ―――いや、ランスロット卿。彼らは最近我が社に入ってきた社員達だよ」

 

 

 そうして始まる、カドック達による自己紹介。

 プロフェッサー・Kから名を告げられた者から順に自己紹介をしていき、最後の項羽が自己紹介を終えると、メリュジーヌは彼らの名前を再度呟いて脳裏に刻み込んでいく。

 

 

「……うん、覚えた。チェンジリングでこれだけの数の妖精や人間が迷い込んでくるなんて初めてだったけど、まぁ、これもなにかの運命なんだろう。これからよろしくね」

「あっ、言い忘れてたけどね、メリュジーヌ。私やボレアス達に対して敬語は不要だからね」

「え? で、ですが……」

「考えてみなよ。君はこの國じゃ女王陛下に仕える最高位の騎士の一人なんでしょ? そんな君が、無名の私達相手に敬語を使うなんておかしいでしょ? 変な誤解が生まれても誰も得しないんだし」

「……そうで―――そうだね。うん、じゃあ、この喋り方で」

 

 

 一瞬「そうですね」と答えかけるものの、途中で訂正したメリュジーヌの頭を、「えらいえらい」とアンナが撫でる。

 二人の身長差がかなりあるため、すんなりと頭に置かれた掌にメリュジーヌは一瞬あわあわとするが、その掌に昔懐かしい感覚が呼び起こされ、やがて笑顔を浮かべて彼女に身を委ねるのだった。

 

 

「嬉しそうね、アンナ」

 

 

 そんな光景を眺めていたオフェリアがふとそう零すと、アンナは「もちろんだよ」と微笑みながら答える。

 

 

「汎人類史のアルビオン(あの子)はもういないけど、異聞帯(こっち)じゃ生きてる。この子は私じゃない『私』の娘だけど、それでも嬉しいんだ」

「……ありがとう、アンナ」

「別にいいよ、メリュジーヌ。むしろ、それを言うのは私の方。これは……私の我儘だからさ」

 

 

 最後に僅かに目を伏せ、ポツリと零す。

 それにメリュジーヌがハッと目を見開き、思わず「ルーツ様」と呟き、アンナの背に腕を回して抱き締めた。

 

 

「もう……、そう呼ばなくてもいいのに……」

 

 

 メリュジーヌに抱き締められて一瞬体を強張らせる。しかし、次にはアンナは再び微笑みを浮かべて彼女を抱き締め返した。

 

 それから数秒後、どちらからという事も無く離れると、メリュジーヌはオフェリアの前まで歩いてくる。

 

 

「君はオフェリア……だったよね」

「えぇ、そうよ。その……、私になにか?」

「…………」

「……メリュジーヌ?」

 

 

 自分になにか話したい事でもあるのだろうか―――と思い問いかけても、メリュジーヌはなにか口にする事はなく、ただじっとオフェリアの瞳を見つめてくる。

 じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな、宝石のような輝きを持つ瞳が細められ、オフェリアが身構える。

 

 

「……もしかして、君が(・ ・)彼女(・ ・)なのかい(・ ・ ・ ・)?」

「え……それは―――」

「―――アルビオン」

 

 

 メリュジーヌがポツリと呟いた言葉に疑問を覚え、オフェリアが首を傾げた直後、冷たい声が耳朶を震わせた。

 

 メリュジーヌと共にその声が聞こえた方角に視線を移すと、その根源であるアンナがメリュジーヌを鋭い眼光で射抜きながら首を左右に振っていた。それにメリュジーヌがビクッと体を震わせ、「も、申し訳ございません」と頭を下げる。

 注視しなければわからないが、カタカタと震えているメリュジーヌを見ると、彼女が先程のアンナの一声で恐怖を感じているのがわかる。

 

 

「アンナ」

「……ッ! あっ、ご、ごめん、メリュジーヌッ!」

「い、いえッ! 謝るのは私の方で―――」

 

 

 虞美人に諫められて咄嗟に謝ったアンナに、謝るのは自分の方だと頭を下げたまま答えるメリュジーヌ。

 それからもひたすらに謝り倒す二人を見かねたのか、プロフェッサー・Kが間に立って二人の仲介の役割を果たし、「両方とも反省しているようだからその辺で」と片付けた。

 

 

「ありがとう、K。君がいなかったら、決着が着くまでもう少しかかってたよ」

「なに、これも私の仕事さ。……それはそうと、ランスロット卿?」

「なに?」

「そろそろ時間ではないかい?」

「え? ……あっ!」

 

 

 プロフェッサー・Kが指差した時計を見たメリュジーヌが「まずい」とばかりに目を見開き、踵を返して出入口へと向かう。

 

 

「ごめんね、そろそろオーロラの迎えに行かなきゃッ! それじゃあねッ!」

「うん、わかった。時間が出来たらまた来てね」

「もちろんッ!」

 

 

 足早に手を振って会社を出たと思いきや、メリュジーヌは走力を殺さぬまま飛び上がり、そのまま建物の向こうに消えていってしまった。

 

 

「……また来るつもりか?」

「当然でしょ。あの子だって、まだまだ私達と話したい事とかあるみたいだし」

「そう、か……」

 

 

 またメリュジーヌがこの会社に足を運ぶというイベントが確定した事に、カドックは様々な感情が()い交ぜになった表情でそう返した。

 

 

「それに、彼女は仕事としてもこの会社に来るよ。なにせ彼女も―――」

 

 

 すると、プロフェッサー・Kが懐から何かを取り出し始める。

 そして、取り出したそれを、カドック達に見せた。

 

 

「―――彼女も、アイドル(・ ・ ・ ・)だからね」

『―――はぁッ!?』

 

 

 平然と告げられたその言葉に、カドック達は驚愕の叫び声を上げるのだった。

 

 

 

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「我儘、か……」

 

 

 メリュジーヌがいなくなり、数時間が経過した頃。

 ダンスや歌の自主練を終え、乾いた喉をミネラルウォーターで潤したオフェリアは、ふと数時間前の出来事を思い出す。

 

 

 ―――これは……私の我儘だからさ。

 

 

 妖精國に生きるアルビオンの竜ことメリュジーヌは、厳密には彼女の娘ではない。あくまでこの異聞帯に分岐してしまった歴史に生きたアンナ―――“祖龍”ミラルーツの娘である彼女は、汎人類史のアンナにとってはいわば『同一人物の別人』だ。

 それでも、アンナは彼女を『娘』として扱っている。

 

 だが、メリュジーヌは違う。

 彼女はアンナと違い、アンナを自分の母親ではなく、自分の知る彼女とは違う“創造主(かのじょ)”として扱っている。

 

 彼女達の互いに対する認識は、似ているようで似ていないのかもしれない。

 

 であればアンナは、なぜこうなってしまう(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)道を選んでしまったのか。

 彼女の力ならば、汎人類史のアルビオンの竜を無事世界の裏側に送る事が出来ただろう。しかし、彼女は娘を送り届ける事は出来ず、そのままアルビオンの竜は道半ばで朽ち果て、その遺骸はやがて魔術師達の研究材料として扱われるようになってしまった。母親(アンナ)にとって、それは度し難いもののはずだ。

 力不足だった―――言葉にすれば、それだけで簡単に片づけられてしまう。もしかしたら、当時のアンナは“祖龍”としての力を十全に扱えなかった状態だったのかもしれないのだから。

 

 それに、もし送り届ける事が出来たとしてアンナはそのまま世界の裏側に向かったのだろうか。それとも、またこちら側に戻って、世界を見守り続けていたのだろうか。

 

 アルビオンの竜が道半ばで果て、後者の道を選んだのが自分の知るアンナだ。では、なぜ彼女はそのまま裏側に行かず、再び地上に戻ってきたのか……。

 

 

「なんで、彼女はその道を選んだのかしら……」

「さぁ? それは、彼女しか知らない事よ」

 

 

 その時、ふと背後から声をかけられる。

 思わず振り返ると、そこにはなにかしらの作業を終えたらしき虞美人が立っていた。

 

 

「あ、芥……? え、もしかして口に出てた?」

「えぇ、それはもうブツブツと。無視するのもいいけど、あのままじゃ色々垂れ流しそうだったし」

「…………」

 

 

 やってしまった、とばかりに額に手を当てる。

 自分では頭の中だけで完結していたと思っていたが、まさか口に出して話していたとは。もしこれがアンナの前だったら危ないところだったかもしれない。あの冷たい視線で見られてしまっては、それからどう彼女に接すればいいのかわからなくなってしまう。

 当の本人は自分とは別の用事があっていないのが不幸中の幸いだろう。

 

 

「ま、それについては彼女に聞かない限りはわからないでしょう。彼女も聞かれない限りは答えないだろうし」

「……いいのかしら。それって、凄くプライベートな事じゃないの?」

「ほぼ毎日ヤりまくってるアンタ達がそれ言う?」

「そ、それとこれとは話が違うでしょうッ!?」

 

 

 いきなりとんでもない事をぶっこんできた虞美人に顔を真っ赤にして抗議する。

 

 

「はぁ……。ま、いいわ。確かにそれとこれとは話が違うものね。まぁ、どうしても知りたいのなら、彼女に直接聞いてみる事ね。アルビオン……メリュジーヌはちょっと不用心だったからああなったけど、ちゃんとした状況であればアンナもあんな反応はしなかっただろうし」

「でも、それはアンナにとって彼女が娘と同じ存在だからでしょう? そういう意味だと完全に部外者な私が聞いたところで―――」

「―――話してくれるわよ、間違いなく」

 

 

 自分のセリフを遮ってそう答えた芥に、オフェリアの口から「え?」という声が漏れる。

 まるで訳がわからない。子どものメリュジーヌでさえ話すのを許さなかったアンナが、なぜオフェリアには話すのだろうか。

 他人が話すのとは違って、自分から話すのならわかる。プライベートな事を語るのなら、当人が語るのが一番だからだ。

 しかし、芥の言葉にはそれとは別のなにかが隠れているように思える。

 

 

「一応言っておくけど、私から語る事なんて無理よ。さっき言った言葉の意味(・ ・)も、私じゃなくてお前が彼女に聞くべき事だし」

 

 

 言葉の裏に隠されたものについて訊ねようとするも、それより早くそう告げた芥はオフェリアの隣を通り過ぎる。

 

 

(いったい、どんな意味が……)

 

 

 訳がわからない気持ちに心を支配され、思わず頭に手を当てる。しかし、それに答えてくれそうな芥はこの様子で、アンナ本人に訊く事など今の自分には出来ない。

 

 心の準備ができるまで、この件については後回しにするか―――オフェリアがそう考えた直後。

 

 

 

「―――アンナ・ディストロート・S(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 突然、背後から聞こえた言葉に、思わず振り返る。

 

 

「芥、今のは……」

「別に。ただの独り言(・ ・ ・)よ。さっさと忘れなさい」

「あっ……」

 

 

 なんとか呼び止めようとするが、芥はスタスタと歩いて廊下の角に消えてしまった。

 あの様子では呼び止めるのは無理そうだと判断し、私は追いかけそうになった足を止める。

 

 

「アンナ・ディストロート・S……」

 

 

 芥が呟いた、恐らく誰かの名前らしき単語を反芻する。

 『アンナ』という単語がある以上、自分の知るアンナとなにかしら関係のある人物の名前なのだろうか。それとも、ただ名前が同じだけの全くの別人? ……いや、あの状況でこの場に全く関係のない名前を口にする程、芥は老耄していないはずだ。なら、これは間違いなく彼女(アンナ)と深く結びつくものであるはずだ。

 でも、どれだけ考えてもその正体などわかるはずもない。

 それもそうだ。なにせ、参考になるような知識がまるでないのだから、わからなくても仕方のない話なのだ。

 

 でも、なぜだろう。初めて聞く言葉のはずなのに。聞いた事の無い単語だったはずなのに……。

 

 

「どうしてこんなに、懐かしく思えるの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)……?」

 

 

 根拠のわからない懐かしさに戸惑うオフェリアに、答えてくれる者はだれもいなかった―――。

 




 
 そういえば先日、ついにゼノブレイド3をクリアしたんですよ。三作続いたゼノブレイドシリーズですが、エンディングを見る限りこれで完結っぽい感じがして寂しいですねぇ。可能ならば4が出てほしいところですが、それで変な付け足し要素が入ったらと思うと怖いんですよねぇ。私はそれでも楽しめるタイプなので全然良いのですが。

 そしてゼノブレイド3をクリアした事により、今までそちらに回していた時間を執筆やイラスト描画に回せられるようになりましたッ! 来月にはポケモンがありますが、それが発売されるまでの間に幾つか仕上げておきたいですね。
 アンナの一枚目のイラストですが、次回までには完成するかもしれないので、楽しみにしていてくださいッ!

 それではまた次回ッ!

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