【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 昨日から新ぐだぐだイベントが始まりましたね。
 最近は色んなサーヴァント達の育成をしていたために素材が枯渇し始めたので、こうしてイベントが始まるのは嬉しいです。新しいストーリーも楽しめますしね。

 今回は親睦会後半戦ですが、後半からはカリアの話になりますので、実質二話分あります。文字数はなんと約18000文字です。死にそうでした()

 それではどうぞッ!


親睦会超次元サッカー・後半戦

 

『さぁ、休憩時間(ハーフタイム)が終了し、後半戦開始ですッ! 現在、ボールはブルーチームのフォワード、プロフェッサー・Kの下にありますッ!』

 

 

 休憩時間が終了し、始まった後半戦。

 前半戦終了間際にブルーチームがゴールを決めたため、キックオフの権利はそちらに与えられ、現在ボールはブルーチームのキャプテン―――プロフェッサー・Kが蹴っている。

 仲間達にパスを回しながら着々とレッドチームのゴールへと向かっていくプロフェッサー・Kの前に、レッドチームのディフェンダーである虞美人が立ちはだかる。

 

 

「通さないわよ」

「……フッ。元からそのつもりはないさ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「え? な―――ッ!」

 

 

 周囲にチームメイトがいる以上、彼らの内の誰かにボールを回すか、それとも自分を押し切りに来るのか―――と思っていた直後、Kが後方へとボールを蹴った。

 ボールを受け取ったのは、オキタと交替でコートに出てきたフォワード―――謎のモデルΛ(ラムダ)である。

 

 

「私にボールを渡すのね、キャプテン?」

「君なら打てるだろう?」

「えぇ。もちろん」

 

 

 自信満々に、そして自分が相手チームを乱せるという事実に嗜虐的な笑みを深め、ボールを蹴り上げる。

 高く跳躍したラムダがボールに両足を乗せた直後、背後から現れた津波が彼女を流し始める。

 まるでサーファーが如く波を乗りこなしたラムダは、勢いを殺さぬままボールにオーバーヘッドキックを叩きつけた。

 

 

「―――『ツナミブースト』ッ!」

 

 

 激流を纏って一直線にゴールへと迫るボールに虞美人達が動こうとするも、プロフェッサー・K達によってガードされてしまい、ボールを見送る事しか出来ない。

 しかし、それだけでは終わらない。なんと、いつの間に移動していたのか、彼女達の後方にはブルーチームの選手―――アナスタシアがいた。

 なぜディフェンダーである彼女が、そうレッドチームの誰もが思った直後、腕を組んだ彼女がゴールへと狙いを定めた。

 瞬間、彼女を中心に周囲の景色が変わり、舗装されたコートから水色のオーロラが映える白銀の大地へと化す。雪に包まれた大地から放たれる絶対零度の冷気がボールを氷塊へと変え、彼女の前まで来る。

 

 

「凍てつきなさい。―――『ノーザンインパクト』ッ!」

 

 

 一気に駆け出したアナスタシアが、強烈な回し蹴りをボールへと叩き込む。

 ラムダの『ツナミブースト』に、アナスタシアの『ノーザンインパクト』が加わり、より強力な一撃となったシュートが項羽へと迫る。

 

 

「項羽様ッ!」

 

 

 虞美人が叫ぶ。

 彼女の叫びを受けた項羽は、しかして焦りの表情は欠片も見せずに左腕を振り払う。すると、彼の背後に水墨で描かれた山々が並び立つ。その内の一つから、項羽が跳び上がる。

 

 

「―――『大国謳歌』

 

 

 巨大な掌を象ったオーラを背後に、項羽が前足をボールへと叩き下ろす。巨大な質量が叩きつけられた衝撃波が周囲に飛び散り、その中心には、ラムダとアナスタシアのシュートを受け止めた項羽の姿があった。

 

 

『凄まじい攻防ッ! 項羽様、ブルーチームのシュートを容易く受け止めたァッ!』

「……へぇ」

「ゴールを獲らせはしない。ボレアス殿」

「了解した」

 

 

 項羽の投げたボールがボレアスへと渡り、そこからペペロンチーノにパスが回る。ドリブルでブルーチームのコートに入り込んだペペロンチーノに、マスクド・Lことカイニスが立ち塞がった。

 

 

「ボールを寄越しなッ!」

「あら、そうはいかないわよ?」

 

 

 凶悪な笑みに余裕の笑みで返したペペロンチーノが、両足でボールを挟んで宙返りする。着地と同時にボールが跳ねると、なんとボールが三つに分かれてペペロンチーノの周囲を回り始めた。

 

 

「―――『イリュージョンボール』ッ!」

「な―――クソッ!」

 

 

 どれが本物のボールかわからずにカイニスが怯んでいる間に、ペペロンチーノが彼の隣を通り過ぎていく。歯噛みしながらもカイニスが後方から追ってきているのがわかったペペロンチーノは、自分と同じようにブルーチームに上がってきていたチームメイトにボールをパスした。

 

 

『ペペロンチーノ、ボールを味方へパスッ! 受け取ったのは……ルーズですッ!』

 

 

 ペペロンチーノからボールを受け取ったのは、金髪に赤目が映える少女―――ルーズだった。

 彼女は自分にボールを回してくれたペペロンチーノに頷き、前半は出られなかった分活躍してみせるという決意の下、走り出す。

 

 そこへリョーマとオリョウがボールを奪おうと迫るが、ルーズは臆さずに左手を掲げる。

 

 

「無駄です。―――『ヘブンズタイム』

 

 

 パチン、とルーズが指を鳴らした直後、その音が周囲に伝播すると同時に、リョーマとオリョウの動きが止まった。

 石像が如く動かなくなった二人の間をゆっくりと歩いた後、ルーズが再び指鳴らしをすると、固まっていた二人が動き出す。

 

 

「? 消え―――ッ!?」

「なっ、うぉお―――ッ!?」

 

 

 目の前にいたはずのルーズの姿がない事に戸惑う二人の間に、突風が吹き荒れる。

 止まった時間の中をルーズが歩いた事によって空気が動き、そこに空いた穴を周囲の空気が埋めようと働いたためだ。それによって二人が吹き飛ばされたのを感じながら、ルーズは走り出す。

 

 

「時間停止……魔法の域の技だぞ……ッ!?」

 

 

 ルーズが行った行動に、カドックが目を見開く。

 これまで見てきた技の中も、常軌を逸したものばかりであった。しかし、時間停止などという技は、流石にこれまでの技のどれにも分類されないものだった。

 だが、呆けてばかりではいられない。ルーズからボールを奪わなくては、とカドックが走り出そうとするが、間に合わない。

 

 ルーズが右腕を振り払う。すると、彼女の頭上に広がる雲間から眩い輝きが漏れ、彼女を包み込んだ。

 右足を大きく引き、ボールに叩き付ける。

 

 

「―――『ヘブンドライブ』ッ!」

 

 

 光り輝く羽根が降り注ぐ中、蹴りつけられたボールは眩い光と黒い稲妻を纏ってゴールへと飛んでいった。

 

 

「おぉ―――これは……」

 

 

 迫り来るシュートに、テスラが感嘆の息を漏らす。

 まるで天の裁き。この妖精國に『神』という概念はなく、あるとすれば人間の真似事をした妖精が建てた大聖堂があるぐらいだろう。だがもし、本当に『神』と呼ばれる者が存在するのなら、彼の者が行う裁きとはこうして下されるのだろう。

 だが、いつまでも見惚れていられるものではない。自分はブルーチームのゴールを護るキーパーなのだ。ならば、それを受け止めるのが務めである。

 

 

「オォオオオオッ!!」

 

 

 雄叫びと共に開いた右手を天に掲げる。

 すると、頭上に赤黒く渦巻く竜巻が発生し、真っ直ぐテスラの右手へと落ちてくる。

 

 

「―――『ディスティニークラウド』ッ!」

 

 

 それを掴み取り、盾のように構える。

 光球と竜巻が衝突し、ボールは目の前の竜巻を吹き飛ばそうとするも、しかし竜巻の威力に圧し負けてしまい、纏う光の全てを奪われてしまう。そしてテスラは、シュートの威力を完全に殺されたボールを容易く掴み取ってしまった。

 

 

『これは凄いッ! テスラ、ルーズの『ヘブンドライブ』を『ディスティニークラウド』で封殺ッ! レッドチーム、得点ならずッ!』

「く……ッ」

「フッ、こちらも簡単に点は獲らせん。行け、ノッブッ!」

「うむッ!」

 

 

 ボールを受け、ノッブが駆け出す。

 華麗なパス回しで巧みにレッドチームの選手を躱していくノッブの前に、蘭陵王が立ちはだかる。

 

 

「行かせはしないッ! ―――『真空魔』ッ!」

 

 

 力を込めた右足を振るった衝撃で蘭陵王とノッブの間の空気が切り裂かれ、一時的に真空状態になる。蹴撃の風圧に吹き飛ばされそうになるも踏み止まったノッブだったが、ボールは元に戻ろうとする空気に流されて蘭陵王の足元に行こうとし―――

 

 

「貰いッ!」

「な……ッ!?」

 

 

 蘭陵王にボールが届く直前、突然割り込んできたカイニスによってカットされてしまった。

 まさか割り込まれるとは思いもしなかった蘭陵王が怯んでいる間に、カイニスは彼の横をすり抜け、ゴールへと前進。ディフェンスが彼を阻もうとするが、カイニスは逆に口元を獰猛に歪めた。

 

 

「見せてやる、これが神霊カイニス様の力だッ!」

 

 

 両腕に青白い稲妻を纏わせたカイニスの前で、ボールが宙に浮きあがる。

 

 

「喰らいやがれッ! こいつが俺様の全力―――『グレートマックスなオレ』ッ!!」

 

 

 赤とオレンジの混ざり合った強烈なオーラがカイニスとボールを包み込んだ直後、カイニスの跳び蹴りがボールへと叩き込まれる。

 強大なエネルギーを纏ったシュートがディフェンス陣を薙ぎ払い、項羽へと向かっていく。

 

 項羽は体を捻り、胸を中心に溢れ出るエネルギーを右拳に纏う。

 『マジン・ザ・ハンド』の予兆か、と誰もが思う中、しかし項羽が選んだ技は違う。

 捻っていた体を戻すと同時、地に向けた右腕から一対の黄金の翼が伸び、一気に突き出す。

 

 

「―――『ゴッドハンドV』ッ!」

 

 

 黄金の翼を生やした右掌が、荒れ狂うエネルギーの嵐を受け止める。

 一瞬拮抗するかに見えた二つのエネルギーだが、しかしそれは数秒の後に崩れ、砕けたのは項羽の技だった。

 

 

『ゴォオオオオルッ! マスクド・Lのシュートが、項羽様の技を制したッ! ブルーチーム、リードですッ!』

「く……ッ」

「そう悔やまないで、項羽。私達が必ず取り返してあげるから」

「かたじけない……」

 

 

 試合再開のホイッスルが鳴り、項羽がボールを投げる。

 それをシグルドがカットしに行くが、それよりも先に動いたボレアスがボールを受け止めた。

 

 

「む……ッ!」

「そう簡単にいくと思うな」

「アシュヴァッターマン、ボレアスを護ってッ! ペペロンチーノ、ぐっちゃんッ!」

「えぇッ!」

「だからぐっちゃんって呼ぶなって……ああもうッ!」

 

 

 アンナがペペロンチーノと虞美人を連れてブルーチームのコートに上がり始め、ボレアスも彼女達にボールを渡すべく動き出す。

 その前にノッブが立ちはだかるが、ボレアスがアシュヴァッターマンにボールをパスした。

 

 

「ボールは渡してもらうぜッ!」

「お前には奪わせねぇよッ! ―――『スプリントワープ』ッ!」

「チィ……ッ!」

 

 

 残像すら残さぬ速さでジグザグに動いたアシュヴァッターマンからボールを奪えるはずもなく、カイニスはそのまま抜かれてしまった。

 

 

「ボレアスッ!」

 

 

 アシュヴァッターマンからパスを回されたボレアスの姿が掻き消される。

 空中へと瞬間転移したボレアスは、赤黒いエネルギーを送り込んだボールを蹴り出した。

 

 

「―――『ディザスターブレイク』

 

 

 凶悪なエネルギーを纏ったシュートが、土煙を捲き上げて突き進んでいく。

 

 

「バルカン」

「おうよッ! ―――『マキシマムファイア』ッ!」

 

 

 兄の言葉を受け、バルカンが左足に炎を纏う。

 真っ赤に燃え上がった炎は、その形状を巨大な剣に変え、バルカンはそれを真下からボールに叩き込んだ。

 しかし、それだけでは終わらない。なんと、ボレアスとバルカンのシュートの先には、先程上がっていたアンナ達の姿がある。

 

 

「行くよ、二人共ッ!」

「「おうッ!」」

 

 

 ボールが三人の間に来た直後、三人は円を描くように走り出す。

 三人の間に巨大な竜巻が発生し、その中心にあったボールは周囲の風によって回転力を増していく。

 そして、三人は竜巻の中に身を投じ、真下から同時にボールを蹴り上げた。

 

 

「「「―――『ジェットストリーム』ッ!!」」」

 

 

 強烈な蹴りを受けたボールは、竜巻の風によって威力と速度を倍増。圧倒的なスピードを誇るそのボールを前に、テスラは必殺技の構えすら取れずに吹き飛ばされた。

 

 

『ゴォオオオルッ! レッドチーム、負けじとブルーチームから点をもぎ取ったッ!!』

「決まったわッ!」

「やったぁッ! 合わせてくれてありがとう、二人共ッ!」

「まぁ、仕方ないから」

 

 

 笑顔で喜ぶペペロンチーノとアンナに、虞美人がやれやれといったように返す。しかし、その口角は少し上がっており、彼女なりにこの結果を喜んでいるように思える。

 

 

「すまない……。速度を見誤った……」

「大丈夫さ、テスラ。奪われた分はキッチリ取り返す。なに、私達に任せてくれ」

『さぁ、試合再開です。後半終了まで残り僅か。現在、同点の両チーム。どちらが先にシュートを決めるのでしょうかッ!』

 

 

 テスラがボールを投げる。

 ボールを胸で受け止めたノッブがシグルドにパスを回し、続いてラムダへとボールが回る。

 スライディングでボールをカットしようとするルーズを躱し、そのまま直進。

 

 

「行かせるかッ!」

「ごめんなさい。押し通させてもらうわ」

 

 

 ボールを奪おうと走ってきたアシュヴァッターマンに嗜虐的な笑みを浮かべ、ラムダが右腕を構える。

 どこからともなく現れた水が球体となった後、一本の槍のようにアシュヴァッターマンへと向かう。アシュヴァッターマンがそれを咄嗟に避けるも、数歩先にはラムダがいるので強制的に足を止められてしまう。

 

 

「―――『ジャックナイフ』ッ!」

「ぐぉ―――ッ!?」

 

 

 ラムダが右腕を振り払うと、後方から先程飛んでいった水流がアシュヴァッターマンを弾き飛ばした。

 難なくアシュヴァッターマンの妨害を潜り抜けたラムダが、プロフェッサー・Kにボールを回す。

 ボールを受け止めたプロフェッサー・Kがカドックとオフェリアに目配せをすると、二人は真っ直ぐレッドチームのゴールへと向かい始めた。

 

 

「ディフェンスッ! カドックとオフェリアをッ!」

 

 

 自陣へと攻め込んでくるカドックとオフェリアを見逃さず、彼らの妨害をディフェンスに任せ、ペペロンチーノとアンナはプロフェッサー・Kに向かう。

 しかし、プロフェッサー・Kに二人の相手をするつもりなど毛頭なく、すぐさまボールを頭上に蹴り上げた。

 

 

『ボールを高く蹴り上げたッ! そこにカドックとオフェリアが居合わせるッ!』

「カドックッ!」

「―――ウゥゥゥルルァアッ!!」

 

 

 オフェリアの叫びに、カドックが狼が如く咆哮を轟かせる。周囲の景色がオーロラが舞う氷雪地帯へと変わり、ボールを凍り付かせると同時、カドックを巻き込んで周囲も氷に閉ざされる。それを自ら砕いたカドックが跳び上がり、回し蹴りを叩き込む。

 氷を砕かれて蹴り出されたボールを、オフェリアが追う。

 

 

「これで―――決めてみせるッ!」

 

 

 二回側転し、その遠心力を殺さぬままジャンプ。右足に赤黒いエネルギーを纏い、叩きつける。

 

 

「「―――『氷結のグングニル』ッ!!」」

 

 

 ボールにオフェリアの足が触れた途端に、ボールを氷の結晶が包み込む。その中心を砕き、北欧神話に語られる主神の武器を連想させる氷槍が飛び出し、ゴールへと猛進していく。

 

 

「―――『キャッスルゲート』ッ!」

 

 

 両腕でなにかを持ち上げるような動作をすれば、項羽の背後に巨大な城門が聳え立つ。

 城門の落とし格子がシュートを受け止め、その頑強な護りで弾き飛ばした。

 そのまま反撃を、とレッドチームだったが―――それを、彼ら(・ ・)に阻まれた。

 

 

「行くぞ、カドック、オフェリアッ!」

「あぁッ!」

「えぇッ!」

 

 

 項羽がシュートを阻んでいる間に上がってきていたプロフェッサー・Kが落ちてきたボールを蹴り上げる。再び上空に打ち上がり、蒼い光と紫色に輝く二本の光輪を纏ったボールを、最初に跳び上がったカドックがキック。続いてカドックよりも高くジャンプしたオフェリアが踵落としでボールを地上に落とす。

 そして、プロフェッサー・Kを中心に、左右に着地と同時に走り出したカドックとオフェリアがボールに足を叩きつけた。

 

 

「「「―――『ビッグバン』ッッ!!」」」

 

 

 その名の通り、超新星爆発が如き爆発の輝きと勢いを纏い、ボールがレッドチームへと襲い掛かる。

 

 

「勝つのは我らだ。必ず止めるッ! ハァ―――ッ!」

 

 

 項羽は両手を固く握り締め、胸から巨大な掌を出現させる。真っ赤な稲妻と共に姿を現したその掌は、迫り来るシュートを受け止めるべく動く。

 

 

「―――『タマシイ・ザ・ハンド』ッ!!」

 

 

 掌はビッグバンの光を抑え込み、その威力を殺そうと光を握り締める。

 自らの内で暴れ狂う絶大な威力を前に震えながらも、ボールを包み込んだ指の隙間から漏れる光が、徐々にその強さを失っていく。

 

 

「止められたか……ッ!」

「いや……まだだッ!」

 

 

 光が失われていく光景に、自分達の必殺技が止められたのだと歯噛みしかけたカドックを、しかしプロフェッサー・Kが笑顔と共に否定する。

 一瞬消え入りかけた光だが、しかし次の瞬間、指の隙間から凄まじい勢いで光が漏れ出し始める。

 

 シュートの勢いを殺せなかった。ならば―――と項羽が紅い掌を突き破ってきたボールを両手で受け止めるが、それでもボールの勢いは殺せない。

 

 

「ぐああぁあああぁあッッ!!」

 

 

 そして遂に、ボールが項羽という防壁を突破し、ゴールネットへと突き刺さった。

 

 

『ゴールッ!! ブルーチーム、タイムアップ寸前でゴールを制したァッ!』

 

 

 オウショウの実況が響き渡ると同時、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

『ここで試合終了ッ! アルム・カンパニー親睦会超次元サッカーは、ブルーチームの勝利ですッ!』

 

 

 試合終了を告げる声に、歓声が沸き起こる。

 どちらかを卑下する事無く、両チームの健闘を称える声に、敗北したレッドチームのメンバーも、悔しさよりも「楽しかった」という気持ちが強くなった。

 

 

「あ~あ、負けちゃった。悔しいなぁ」

 

 

 そして、最後に互いの健闘を称えるべく並び立った両チームを代表して歩み出たアンナとプロフェッサー・Kの内、アンナが肩を落としてそう零した。

 

 

「でも、楽しかっただろう?」

「まぁね。こんなに楽しかった親睦会はないよ。本当にありがとうね、K」

「こちらこそ。君達とぶつかり合って、君達の強さを知る事が出来た。本当にありがとう、アンナ」

 

 

 勝っても負けても、最後には笑顔だ―――そう言い終えてプロフェッサー・Kが手を差し伸ばし、アンナはそれを強く握った。

 二人の固い握手に、観戦していた妖精達は拍手をする。

 次々と送られる感謝や称賛の言葉に、アンナ達は全員で手を振る。

 

 

「……うん。これなら、申し分ないね」

「ん? なにか言った?」

「アンナ……いや、今日我が社に来てくれた君達―――」

 

 

 レッドチームとして自分とぶつかり合ったアンナ達と、ブルーチームとして自分と共に戦ったカドック達を見渡し、プロフェッサー・Kは告げる。

 

 

「―――アイドルに興味はないかい?」

『―――なんて?』

 

 

 その言葉に、例外なく全員がそう返したのだった。

 

 

 

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「おや、ウッドワス」

「む、カリアか」

 

 

 親睦会が終了した頃、キャメロットでは城門の手前ではカリアと、スーツを着込んだ長身の妖精が鉢合わせしていた。

 長身の妖精の名は、ウッドワス。この妖精國出身の妖精達が所属する氏族の内の一つ、“牙の氏族”をまとめ上げる存在。亜鈴の一人でもある彼は、汎人類史の英雄の力を得ている妖精騎士にも優るとも劣らぬ程の強者であり、この國の女王であるモルガンが心から信頼している妖精でもある。

 

 

「君がここに来たという事は、陛下になにか用かな?」

「いや、今日は陛下にご用があるわけではない。トリスタンに用があって来たのだ」

「ほう、我がマスターに? ……なるほど、彼女(・ ・)か」

 

 

 ウッドワスは己の氏族からすれば不思議な程、礼節を弁えている妖精だ。品行方正を目指し、日頃から好物である肉を控え、短気という自分の短所をしっかり見つめて矯正しようと尽力している―――そんな彼がスーツを着ているのは毎日の事だが、今日はいつにも増して綺麗に整えられている。

 加えてみれば、毛艶も大変よろしい。狼に近い外見の持ち主である彼だが、その毛は見る者全てを魅了する程の美しさを持っている。元がそれなのだから、さらに整えられたその魅力は、カリアが僅かながらに気圧される程のレベルだった。

 そして、彼がこれ程までに気合を入れる理由は一つしかない。

 

 

「相変わらず、隠し事は通じないな」

「君の場合は態度に出やすい。ボクでなくとも簡単に気付けるさ。さぁ、入りたまえ。マスターのところまで案内しよう」

「良いのか? 先程城を出ようとしてただろう?」

「なに。また散歩にでも出かけようと思っていたところだよ。さっきはグロスターに行ってたんたが、会いたくない奴と出くわしてね。気分転換というものだよ。でも、君が来てくれたなら丁度いい。一人で歩くより、友人と談笑しながら歩く方が何倍も楽しい」

 

 

 絢爛豪華な調度品が並ぶ城内を歩きながら話すカリアに、意外な話を聞いた、とウッドワスは心中で呟く。

 

 

「お前が『会いたくない』と語る者がいるとはな。厄介な女にでも好かれたか?」

「まさか。どれだけ厄介でも、ボクが女性を無碍に扱うものか。男だよ。昔から因縁のある、どうもいけ好かない奴さ。向こうもその気だったようで、あのまま同じ場所にいては本気で殴り合っていたところだったから、退散したまでだよ」

 

 

 本気で、という言葉に、ウッドワスが目を見開く。

 ウッドワスは数百年も昔から女王モルガンに仕える身であり、その実力もあって戦争に駆り出される事もあった。その時には大抵彼女も同行したものだが、ウッドワスはこれまで一度も、彼女が本気を出したところを見た事がない。

 

 かつて、ウッドワスはカリアと模擬戦をした事があった。彼女の力を知りたくて戦いを挑んだのだが、しかし、結果は惨敗(・ ・)

 亜鈴としての力を全開にした状態で挑んだというのに、繰り出す攻撃を全ていなされ、的確にカウンターを叩き込まれたのだ。そして、一度向こうに攻勢に出られたら、最早ウッドワスに成す術はない。

 あっという間に防御を崩され、首元に刃を押し当てられて終了だ。

 流石は、かつて地上に存在したという伝説の狩人達の一人。その実力は妖精騎士どころか、女王モルガンにも匹敵すると言われている。その実力というものを、ウッドワスはその時身を以て理解した。

 

 しかし、彼女に本気を出させる事は出来なかったが、彼女に『油断をなくさせる』事は出来た。それ自体は嬉しいが、同時に悔しさも滲み出てくる。

 ウッドワスは日常を過ごす友人として、共に死線を潜り抜けた戦友として、いつかは本気の彼女を見てみたいと考えていた。しかし、それは裏を返せば、彼女が本気にならざるを得ない相手が現れるという事。そう考えると、ウッドワスは複雑な気持ちになってしまう。

 

 

「すまなかったな。思い出したくもない事を思い出させて」

「別に構わないさ。君はその事を知らなかった。ボクはそれを説明しなければならなかった。それだけの話だよ。……そうだ。話題を変えるついでに、君から話を振ってくれたまえよ。このままボクが話を続けてしまうと、口が止まらなくなりそうだ」

「私のか? 常日頃から散歩しているお前からすれば、私の話などつまらないと思うが?」

「退屈なわけがないだろう? 他人の話を聞くのは好きさ。ボクとは違う視点を知る事が出来る。ささっ、早く話しておくれよ」

「ふむ、そうだな……」

 

 

 さて、どのような話をしようか―――ウッドワスは顎に指を這わせて考え込む。

 先程自分が言ったように、常日頃から妖精國中を練り歩いているカリアにとって、一日の大半をデスクワークで終わらせる自分の話など退屈極まりないだろう。

 カリアは住居以外で同じ場所に留まる事はほとんどなく、たとえ何度も訪れている場所であろうとも足を運んでいく。もしかすれば、妖精國についての情報では彼女の方が上かもしれないレベルだ。

 もちろん、彼女自身が言ったように、カリアがデスクワークの話をしても退屈しないのはわかっている。彼女はどのような話であろうと、退屈な気持ちを欠片も抱かずに聞いてくれる。そんな彼女ならばデスクワークの話をしても快く耳を傾けてくれるだろうが、それではウッドワスとしても面白味がない。

 

 そこでふと、ウッドワスは思い付く。そういえば、彼女にはこういう話が効果的かもしれないと。

 

 

「では、一つ怪談話をしてやろう」

「……なに?」

 

 

 ピクリ、とカリアが眉を吊り上げ、一瞬だけ動きが止まった。

 

 

「ふふっ、そう怖がるな。怖い話を聞くと背筋が凍る、などという話はよく聞くが、この話は我々からすれば微風(そよかぜ)程度のもの。意味がわかると少し怖い……そんな話だ」

「……そ、そうか。ならば安心だ。ボクに適した怪談話を頼むよ」

 

 

 一見余裕ぶっているように見えるが、微かにカリアの表情には怯えの色が見て取れる。やはり、彼女は怪談(こういう)系の話は不得手なのだろう。実力は申し分ないのに、なぜこのタイプの話は普通に怖がるのか。

 

 

「あるところに、一人の氏族長がいた。彼は己が率いる氏族の為、ひいてはこの妖精國の為、忙しい毎日を送っていた」

 

 

 その男は、己が忠義を捧げる女王の為に、彼女の負担を少しでも軽くしようとあらゆる作業を熟していた。過度な働きはせず、しかし平均的な働きもしない―――良く言えば有能な働きをしていた。

 そんな彼の仕事の一つに、食材の管理というものがある。

 魔力さえあれば生存できる妖精にとって、食事とは娯楽程度のものでしかない。進んで食事を摂るのは、自ら新しいものを思い付けば創造する人類種を真似てのものである。そんな彼らの為に、その男は食材の管理も徹底していた。

 だが、この話に登場するのは、彼が普段使用している食材の貯蔵庫ではなく、彼しかその場所も、開ける方法も知らない―――秘密の貯蔵庫である。

 

 

「ある日、男はその貯蔵庫の中身を確認しようと思い、一人その場所へと向かった。しかし、そこにはなんと、無惨にも破壊された扉の残骸が……」

「…………」

 

 

 チラリ、とカリアを見てみれば、表情を強張らせてウッドワスを見つめてきていた。心做しか、顔も少し青褪めているように思える。

 

 

「もしや、賊か。そう思って駆け込んだ男の前には、欠片も残さず平らげられた食材達。その奥では黒い人影が、最後に残された、自身の何倍もの大きさの肉に喰らいついていた。それも、肉だけではない。それがついていた骨さえも、その影は噛み砕いていた」

 

 

 それは宛ら、汎人類史では生者の肉を求めて彷徨うゾンビのように。一心不乱に肉を頬張り、骨を噛み砕くその姿に、男は恐怖したという。

 

 

「男は恐れた。その影の恐ろしさは、昔から熟知していた。しかし、これほどまでとは思ってはいなかったのだ。すぐに食事を止めようとした男だったが、影は彼の存在に気付いたのか、ほんの瞬きの末に消えてしまった。まるで、最初からその場にはいなかったように、己が喰らっていた骨付き肉ごと……」

「……?」

「男はそれ以降、影を見る事はなくなった。しかし、男は今でも恐れている。再びその影を見る事を。再び秘密の貯蔵庫の扉が破壊される事を……。男は今でも、恐れている……」

「……ウッドワス」

 

 

 ウッドワスが話し終えた途端、ポンっと彼の肩に掌が乗せられる。

 それにウッドワスは、その掌の持ち主であるカリアへと向く。―――満面の笑み(・ ・ ・ ・ ・)を以て。

 

 

「……少し用事を思い出してね。悪いがここから先は君一人で行ってくれたまえ。マスターはこの階段を登って左側の通路、数えて五番目の部屋にいる。それではさらばだ我が友よ。彼女(・ ・)と上手くやりたま―――」

「お〜お〜、待つのは貴様の方だぞカリア。私が話した怪談の意味がわかったようだなぁ?」

 

 

 伝える事を伝えて踵を返そうとするカリアの肩を掴み、彼女を逃げられなくする。

 

 

「は、放してくれたまえ。緊急の用事なのだ。言い方はあれだが、今は君とこれ以上関わる時間など―――」

「軽く話す程度だ。そう長く時間はかけんよ。さぁ、白状してもらおうか、友よ。先日、お前の為に取っておいた貯蔵庫―――そこで盗み食いをしていた不届き者は、お前だな?」

 

 

 ウッドワスが僅かに肩を握る力を強める。それに反応するように、彼の体毛が黒から白へと変わっていき、髪の毛も逆立ち始める。

 カリアがそれに目を細め、落ち着かせるようにウッドワスの手に自分の手を重ねる。

 

 

「……あぁ、その通りだよ。ボクが犯人だ。だから落ち着きたまえ、我が盟友」

「うっ、す……すまない」

 

 

 ここで揉め事を起こす気か―――そう言外に告げられ、頷いたウッドワスは素直に彼女の肩から手を離した。

 

 

「申し訳ない。私とした事が……」

「いや、謝るべきはボクの方だ。ボクが発端なのに、君を焚きつけるような事を言ってしまった」

「だが……いや、これ以上続けても意味は無いか」

「……そうだね。では、ここはお互いに相手の要望を一つだけ叶えるとしよう。殴り合いは無しだ。妖精國(ここ)じゃ、一瞬でも暴力を振るっているのが見られれば厄介な事になる」

「そうだな。では、それについては今後話し合うとしよう」

 

 

 互いに謝り続けていては意味が無い。そう判断し、カリアとウッドワスは暴力を伴わない話し合いの下にこの件に決着をつける事とした。

 

 

「話が逸れてしまったな。改めて、マスターのいる部屋を教えようか」

「いや、流石に覚えている。話が逸れたとはいえ、数分前の事など忘れるもの―――」

「―――あら、ウッドワス?」

 

 

 改めてバーヴァン・シーの居場所について教えようとしたカリアにウッドワスが軽く手を挙げて止めようとした瞬間、カリアとは別の女性の声が響いた。

 それを聞いた途端、ウッドワスが姿勢を正し、懐から取り出した手鏡で自分の髪形をチェックし始め、カリアは僅かに目を細めた。

 

 コツ、コツ、と一定のリズムを伴って階段から姿を現したのは、美しい女の妖精だった。

 虹色に輝く羽根に、ウェーブのかかった長髪。凹凸の取れた肉体に、慈愛を宿した瞳。

 

 背丈の小さい、青色の鎧を装備した妖精を護衛に歩く彼女の名は、オーロラ。

 妖精國に存在する六つの氏族の内、“風の氏族”の長であり、ソールズベリーの領主でもある。

 

 そして、彼女の隣に立つ少女騎士の名は、妖精騎士ランスロット。またの名を、メリュジーヌ。

 銀色の髪、水晶の如き黄金の瞳。この國において唯一無二の、竜の妖精。

 同時に、遥か昔にこの歴史に存在していた『彼女』の娘であり、女王モルガンの相棒たる“熾凍龍”の姉でもある。

 

 

「オ、オーロラ……」

 

 

 予想外の人物の登場に狼狽えたウッドワスが僅かに仰け反る。しかし、好いている相手を前にしてただ引くのは彼のプライドが許さないようで、すぐに咳払いして姿勢を正した。

 

 

「き、奇遇だな、オーロラ。まさか、君がこの城に来ていたとは」

「えぇ、知り合いの妖精達とお茶会をしに。陛下からの許可も頂いておりますわ。ウッドワスはどのような要件でこちらに?」

「あ、そ、その、だな……」

 

 

 返答しにくい質問をされ、ウッドワスがたじろぐ。彼がここに来た理由は、オーロラには絶対に知られてはいけないものだった。彼女には秘密のまま、内密に終わらせたかったものだったのだが、どう説明したものか……。

 どのように返答すればよいか迷っていると、それを見かねたカリアが助け舟を出してきた。

 

 

「ボクと話をしに来ただけだよ、オーロラ嬢。普段は妖精騎士トリスタンの御目付役であるボクだが、有事の際には出撃しなければならない。その時の戦略について話し合おう、とね。そうだよな、ウッドワス?」

「あ……あぁ、そうだとも。モルガン陛下により数千年繁栄してきた妖精國だが、未だに災厄を根絶する事は出来ていない。近年では妖精が突如黒いオーラを纏い、凶暴化するという事件も起きている。我々では対処しきれない場合においてのカリアの行動について、話そうと思ってな」

「ちなみに、この話を持ち出してきたのはウッドワスの方でね。流石は勇者ライネックの次代(むすこ)だよ。ボクには思いつかない案が次々と出てくる」

「まぁ、そうなのですか? 流石はウッドワス。妖精國が誇る勇士の名は伊達ではありませんわね」

「そ、そうか? 照れるな……」

 

 

 助け舟に乗せられて嘘を吐いてしまったが、今更嘘だと言えるはずもなく。しかし、もしこの場にカリアがいなかったら、自分はもっと下手な嘘を吐いていたと考えると、彼女がこの場にいてよかったと思う。

 ウッドワスが隣のカリアに視線を向けると、彼女はウィンクをして返してくれた。

 

 

「良ければあなた方もお茶会に、と思っていたのですが、それでは仕方がありませんね。良き案が浮かべばいいですね」

「あぁ。……ところでオーロラ、今度の週末は」

「ふふっ、ちゃんと覚えていますよ。グロスターの街で食事ですよね? 確か、アルム・カンパニーが経営しているという」

「そうだ。前に一度食べたんだが、とても良い出来栄えでな。是非とも君に食べてもらいたくて」

「うふふ、楽しみにしておりますわ。……それでは、私達はこれで。行きましょう、メリュジーヌ」

「……オーロラ、少し待ってほしい」

「? えぇ、構いませんよ」

「ありがとう。……カリア」

「む?」

 

 

 オーロラから離れ、黒い鎧を小突いてきたランスロット―――メリュジーヌに連れられ、カリアはオーロラとウッドワスから離れる。

 

 

「なにか用かな、メリュジーヌ。再戦の申し出なら今は―――」

「―――君からあの方々(・ ・ ・ ・)の匂いがする。会ったの?」

「……なるほど、そちらの方か」

 

 

 匂う、などと言われて一瞬自分の体を嗅ごうとしたカリアだったが、彼女の言葉の意味を理解すると同時、「あぁ、そういう事か」と微かに安堵した。

 そんな彼女の心境など露ほども知らぬメリュジーヌは、ずいっとカリアとの距離を縮めてきた。

 

 

「答えて。あの方々が、この國にいるの? もしかして、あの壁の向こうから?」

「落ち着きたまえ、メリュジーヌ。素が出ているぞ?」

 

 

 詰め寄ってくるメリュジーヌを、軽く両手を上げて制止するカリア。しかし、彼女はその程度で止まるつもりなどなく、「早く答えろ」とばかりにさらに距離を縮めてくる。

 その様子に、なにを言っても意味が無い、と判断したカリアはわざとらしく肩を竦めた。

 

 

「……イエスだ、メリュジーヌ。君の創造主は、この國に来ている。己が血を分けた双子を連れてね」

「―――ッ! なら……」

「おっと、待ちたまえ。それはノーだ」

 

 

 カリアの返答を聞くと同時に飛び出そうとしたメリュジーヌの肩を掴む。メリュジーヌがその手を振り解こうと足掻くが、ただ肩を掴まれているだけなのに、そこから放たれる重圧が彼女の精神を圧迫し、抵抗力を奪っていく。

 

 

「どうして……」

「今はその時ではないからだよ。今度の週末、あそこの二人はグロスターに食事しに行く。君も同行するのだろう? ならば、その時にでも会えばいい」

「でも……ッ!」

「君が彼女達に会いたい気持ちはわかる。だがね、彼女らも今はこの國に慣れる必要がある。現地の妖精との交流中に君のような者が来ては、きっと妖精達は萎縮してしまうだろう。だから、今だけは待つのだ」

「…………わかった」

「すまないね、メリュジーヌ」

「いいの。私も、あの方々には会いたい。でも、それであの方々の邪魔をしてしまっては元も子もない。だから、貴女の言う通りにする」

 

 

 渋々と、だがちゃんとメリュジーヌが頷いてくれた事に安堵し、カリアは彼女を連れてウッドワスとオーロラの元へ戻る。

 自分達が離れている間に何事か話していたようだが、二人はカリア達が戻ってきたのを見るとすぐに会話を止めた。

 

 

「おかえりなさい、メリュジーヌ。どんな話をしていたの?」

「模擬戦についてだよ。僕はこれまで、一度もカリアに勝ててないからね。今度こそ勝ちたいから、その申込みをさせてもらったんだ」

「生憎と、今の私にはやらなければならない事があるので、断らせてもらったがね」

「本当に残念。今度こそその生意気な態度を崩してやりたかったのに……。……待たせてごめんね、オーロラ。そっちの話は大丈夫?」

「えぇ、軽い世間話でしたから。それではウッドワス、カリア様。またいずれ……」

「あぁ。また会おう、オーロラ」

「ウッドワスで不足なら、ボクのところにおいで。決して不快にはさせないよ」

「カリアッ!」

「ハハハッ、冗談さ、我が友よ。親しき仲にも礼儀あり―――君から彼女を奪ったりはしないさ」

「ふふふっ、お二人は本当に仲が良いのですね。羨ましいですわ」

 

 

 カリアの言葉に一瞬激昂しかけたウッドワスと、それに軽く手を振って誤解を解いたカリアの様子にオーロラが笑い、メリュジーヌもクスリと笑う。

 そうして二組は別れ、オーロラとメリュジーヌは城門へ、カリアとウッドワスはバーヴァン・シーのいる部屋へと向かい始める。

 

 

「……ウッドワス」

 

 

 階段を登り、バーヴァン・シーのいる部屋へと続く廊下を歩いている最中、カリアが口を開いた。そんな彼女に、ウッドワスは「またか」と嫌そうに溜息を吐き、答える。

 

 

「何度言っても無駄だ、カリア。私に、彼女を疑うような事は出来ない。本格的なものは無理だが、軽い嘘偽りならば私にも理解できる。それに、彼女は我々に嘘を言うような女性ではない。それに、彼女からはそのような気配を微塵も感じなかった」

「しかしね、ウッドワス。妖精は嘘を吐く。人間と同じようにね。そして、彼らに罪悪感を説くなど不可能だよ。……あぁ、もちろん君達のような例外は除いてね」

「むう……」

 

 

 妖精に罪悪感を説くなど不可能―――その言葉にはウッドワスも否定できない。

 実際、ウッドワスはこれまで何度もそういった面を目の当たりにしてきた。特に、かつて軍を上げて行っていた『予言の子』捜索時に訪れた村など、口引きをしようとした結果村が滅んだという、あの忌々しい事件が印象に残っている。

 

 あの時に対峙した妖精達には、『罪悪感』など欠片も存在しなかった。ただ、『そうしたかっただけ』という、理解し難い感情の下に行動していたのだ。共に同じ時間を過ごしてきた相手を殺す事に対する葛藤が、微塵も感じ取れなかったのだ。

 

 悍ましい―――まさしくその言葉が相応しい妖精の習性に、氏族こそ違えど同じ妖精であるウッドワスは嫌悪を抱いていた。

 

 

「罪悪感のない嘘ほど、見破れないものはない。本人にとっては普通の事を話しているつもりでも、その一言一句が周囲を破滅へと導く。オーロラ嬢がそうとは思えないが、まぁ、用心するに越した事はないよ、ウッドワス」

「う、む……」

「信じられない気持ちはよくわかる。しかし、私は一人の友として、君に忠告をした―――それだけは覚えていてほしい」

 

 

 彼女が自分に対し、真面目に忠告しているのは嫌でもわかる。しかし、今のウッドワスにとっては、その言葉すら真実なのかわからなかった。

 だが、もし、彼女の言葉が真実であって、オーロラが自分を欺こうとしているのであれば、

 

 

(果たして、その時の私は……どうするのだろうか)

 

 

 ……わからない。

 自分の事は自分が一番良くわかっているというが、ウッドワスにとって、その時の自分の心情など予想すら出来なかった。

 ただ、そうあってはほしくない―――そう願うしか、今の彼には出来なかった。

 

 

(……彼には、このくらいでいいだろうか)

 

 

 そして、思い悩む彼の隣に立つ狩人もまた、友と同様に思い悩む。

 先程、ウッドワスにはああ言っておいたものの、カリアはオーロラの性質(・ ・)を理解していた。

 だが、それを真っ向から告げてしまえば、ウッドワスを傷付けてしまうのではないか―――彼の想いを踏み躙ってしまうのではないかと考えてしまう。

 きっと、本当なら告げてしまうのが一番だろう。しかし、それを言い出せない程の友情が、自分と彼の間にはある。

 

 バーヴァン・シーがいる部屋の扉をノックし、彼女からの許可を得て入っていく彼の姿を見送りながらそう思っていると、ウッドワスと入れ替わりに出てきた人物に目を見開く。

 

 

「おっ、カリアじゃねぇか。もう戻ってきたのか?」

 

 

 その人物―――名を、ベリル・ガット。

 この妖精國ブリテンに現れた、女王モルガンが『夫』と公言している魔術師。汎人類史からやって来た、クリプターと呼ばれる者達の一人。

 

 

「散歩に行くつもりだったが、ウッドワスの頼みでね。彼をマスターの元に送り届けに来ただけだよ」

「へぇ。あいつも姫さんに用があんのか。信頼されてんだねぇ。その割には、さっきメッチャ罵られてたけどな」

「当然だ。モルガン陛下は、彼女をそう在れかしと育てたのだ。多少は悪辣にもなる」

「多少……ね。お前さんがあの娘を変えたのかい? もし、お前がいなかったら、姫さんは今頃もっと恐ろしい奴になってただろ? それこそ、この國の妖精全員に恐れられるぐらいに、な」

「少しは優しくさせた方がいいだろう? 統治の仕方などボクは微塵もわからないが、ただの恐怖による統治など、いつか破綻するに決まってる。―――私が望むのは、平和な世界だからな」

「平和な世界、ねぇ……。そう言う割にはお前―――なんでそんな嫌そうな顔してるんだ?」

 

 

 ギラリ、と眼鏡の奥にある瞳が鋭く光る。

 その視線に対し、カリアは軽く両手を上げて「やれやれ」と零した。

 

 

「なにを言っているのかな、ベリル」

「惚けんなよ、カリア。オレとお前には、似てる部分がある。特に―――隠し切れねぇぐらいにドス黒い性癖(かんじょう)持ちってところがな」

「…………」

「俺はお前達モンスターハンターの事なんざ、本でしか知らねぇけどよ。それにしたってそれ(・ ・)は無いだろ。どうやって『最高』の称号を手に入れたんだよ」

「こんな私にも、命への想いぐらいはあるという事さ」

「どうだか。……ま、そこらへんはどうでもいいか。同じ姫さんの御目付け役とはいえ、オレとアンタはそこまで深く語り合える程の仲じゃないからな」

「そうだね。ボクらは彼女の御目付け役。無益な話はしないのが一番さ」

「ハッ、ヒッデェ奴。……それじゃあ、オレは城下町にでも繰り出しますかね。ずっとここにいても体が(なま)っちまう」

 

 

 カリアの横を通り過ぎ、ベリルが階段を下りていく。

 彼の気配が遠退いていき、やがて城下町に出た頃、カリアは一人口を開く。

 

 

()が動こうとするとはね。なにか、彼が君の気に触れる事でも言ったかい?」

 

 

 今その場には、カリア以外誰もいない。しかし彼女は、まるで目の前に誰かがいるかのように言葉を続けていく。

 

 

「ふふっ、なるほどね。それなら君が怒るのも当然だ。でも、駄目だよ。確かに彼は危険だ。実力が無いなら、言葉で他者を唆そうとする……彼はそういう男だろうからね」

 

 

 踵を返し、歩き始める。

 相変わらず周囲には誰もいないが、構わず彼女の言葉は続く。

 

 

「なに? ……あぁ、そうだとも。君の言葉は正しい。そして、彼の言う事も正しい。本当ならボクは、こうして最高のハンターとして座に刻まれるはずがない。……でも、こうしてこの場に立てているのは、きっとあの人(・ ・ ・)のお陰だろう。なら、ボクは彼の為に、そして、今生のマスターとその母親の為に動くだけさ」

 

 

 近くの窓から外を見渡す。

 真っ白に整えられた、街の景色。女王のお膝元であるその街には、貴族の妖精達が多く住んでおり、各々が自由に過ごしている。

 だが、その街並みも、住人も、彼女の目には映らない。彼女の瞳は、その奥に広がる大地を見据えている。

 

 

「なんともまぁ、厄介な連中(・ ・ ・ ・ ・)に絡まれたものだね、この國も。……でも、いいさ。私はハンターとして、サーヴァントとして、遍く障害を打ち砕くまでだからね」

 

 

 長年連れ添った友人と話すように、「それにしても」と零す。

 

 

絆を侵す(・ ・ ・ ・)凶気(・ ・)”なんて、又聞きでしか知らなかった話だったけど、これは願ってもない機会だ。早く、見つけださないとね」

 

 

 己の胸の中で渦巻く感情を抑え、再び歩き出す。

 その顔に浮かぶ感情を知る者は、この場には誰一人として存在しない。唯一人、この國の支配者である彼女を除いて。

 

 

「嗚呼……早く狩りたい……。本当に、堪らない匂いで誘うものだよ……」

 

 

 狩人は歩く。己が使命を果たす為。

 狩人は征く。己が欲求を満たす為。

 

 影は、そんな彼女を見つめ続ける。

 彼女が纏う黒衣から、彼女の心の深淵から。

 彼女の魂に刻まれた、輝かしい旅路の世界から。

 

 

 ―――影は今も、彼女を見つめている。

 




 
 【突然思いついたイナズマイレブン風次回予告(プロフェッサー・K視点)】
 遂に始まった王立ブリテン高校との決戦。直々に出陣した女王モルガンと妖精騎士達による猛攻に、私達は為す術がない……ッ!
 その時、眩い光と共に一人の少女が現れたッ!
 なんだって? アンナとオフェリアの娘ッ!?
 女性同士の間に子どもなんて―――アンナ? なんで目を逸らすんだ? アンナッ!

 次回、緋雷ノ玉座ッ!

『未来からの応援! 受けろ、未来視と緋雷の合わせ技!』



 ちなみにどちらが父親で母親なのかは考えていません。
 次回もよろしくお願いしますッ!
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