ドーモ=ミナサン。
先週土曜日に急性胃腸炎で病院に搬送されるも、なんとか復活を遂げたseven774です。
ワイルズでゴグマジオス実装が決まりましたねッ! 初登場作品の4G……というか4は私が初めて触れたモンハン作品だったので、ワイルズの高画質でまた戦えるのは本当に嬉しいですッ! ストーリーズ3の方も中々面白そうに見えてきたので、こちらも発売が楽しみですね。
今夜はカリアの幕間とプロフィールですッ! ですが同時投稿するとプロフィールだけ読んで幕間を読んでくれないかも……と思いましたので、プロフィールは30分程時間を空けてから投稿しますッ! 文章も約17000文字とかなりの長文になっておりますので、楽しんでいただければ幸いです。
それとプロフィールについてなのですが、9月22日に誤って投稿してしまった事がありました。その後すぐ削除したのですが、もしその時閲覧されていた方がいらっしゃったら申し訳ございませんッ!
それでは幕間、どうぞッ!
駆ける。駆ける。駆ける。
頭上から降り注ぐ矢の雨を掻い潜り、眼前から迫る槍を躱し、得物を振るう。
首が舞い、矢の雨が吹き飛ぶ。頭部と泣き別れとなった胴体から噴き上がる鮮血を浴びて、殺し切れない快感に身を震わせる。
崩れ落ちていく首無しの英雄の腕を掴み、止めていた足を再び動かす。
疾走する自分目掛けて遠方から飛んでくる矢を容易く回避して着実に距離を縮めていくと、射手は距離を取るべく離れようとするが、そうはさせじと首無しの英雄を投げつけた。
凄まじい勢いで投げられた死体をぶつけられた射手が態勢を崩した瞬間、一気に加速して接近。射手が態勢を立て直すよりも先に得物を突き出せば、死体ごと射手の体を串刺しにした。
「―――ハ」
微かな身動ぎを最後に動かなくなった射手と死体から得物―――操虫棍を引き抜いた瞬間、僅かに開かれた口から吐息が漏れ出る。
「ハハハハ―――ハハハハハハハハハッッッ!!!」
漏れ出た吐息は、やがて狂った笑い声となって響く。
彼女の周りにあるのは、これまでの戦いの中で殺してきた者達の亡骸。英雄も反英雄も、怪物も神々も、全てが等しき物言わぬ死体となってゴミのように転がる、血と臓物に塗れた大地。
「もっとだ……もっと戦いたいッ! もっと殺したいなぁ……ハハハハハハハハハッ!!」
深紅に染まった大地で、狩人は笑い続けていた―――。
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―――夢を見た気がする。
血と快楽に塗れた、殺戮の記憶。
見ているだけでも吐き気がするような、そんな夢。
「……ん?」
目の前に、鼻と鼻が触れ合いそうに近い距離に、美しい微笑みがあった。
見ているだけでもくらりとしてしまいそうな、柔らかな笑み。どこまでも受け入れるようでいて、しかし入り込んだら最後、二度と這い上がれない深淵のような微笑。
「ん? んん~~??」
おかしい。
寝るまでの記憶が思い出せない。というか、どうやって自室までやって来たのかさえ思い出せない。
そして、肌に直接触れる掛け布団の感触から、今自分は一糸まとわぬ裸体である事がわかって。目の前にいる彼女……カリアもまた、同じように全裸で―――
「おはよう、マスター。昨晩の君も可愛らしかったが、今の君もとても可愛いじゃないか」
え? 私……一線超えちゃった?
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「……なるほどねぇ。昨夜の記憶が思い出せなくて、気付けば全裸のままカリアと一緒のベッドで寝ていた、と」
「……はい」
二時間後、ぐるぐるとした思考のまま着替えを終え、朝食を食べ終えた私はストーム・ボーダー内にある一室。そこにいるダ・ヴィンチちゃんに今朝の出来事を伝えてみれば、対面に座る彼女は「ん~……」と腕を組んで俯いた後、スッと顔を上げた。
「それ、普通にヤっちゃったんじゃない? 魔力供給」
「いやいやいや、待って待って待って」
思わず腰を下ろしていた椅子から立ち上がってしまうが、ダ・ヴィンチちゃんは「いや、でもさ」と目をぱちくりさせながら返してきた。
「話を聞いてみる限り、もうそうとしか思えないじゃん。お持ち帰りされちゃったんじゃない?」
「そうじゃない証拠が欲しかったんだけどなぁ……ッ!」
真顔で返事してきた彼女に思わず頭を抱える。
サーヴァントと一緒に眠るといった経験は当然あるが、そういう意味で寝た経験はまだない。必要であれば心の準備を終えた後にするだろうが、流石にそれ程の覚悟を決めた時の記憶を忘れるはずがない。それに、初めてというのはもっとこう……大事なものであってほしいというか、ちゃんと記憶に残ってほしいものであってほしいというかッ!
「そ、そうだッ! バイタルチェックッ! 昨晩から今朝までの私のバイタルの確認してよッ! あと私の魔力ッ! それなら色々わかるでしょッ!?」
本来人理を救うはずだったAチームのマスター達が異聞帯の管理者になった以上、汎人類史側に立つマスターは私のみとなっている。私の存在は謂わば汎人類史の生命線と言っても過言ではなく、それもあって私のバイタルは常に管理されている。なにかしら異常が起こればすぐに対処できるようにする為だ。プライバシーなんてものはとうになくなっているが、今となってはもう慣れた。
私の申し出に「それなら……」とダ・ヴィンチちゃんがカタカタとパソコンを弄って、当時の私のバイタルの記録を確認し始める。
多くの数字や文字が書かれているそれらをものの数秒で確認し終えたダ・ヴィンチちゃんは、「結果だけど」と私の方へ視線を戻してきた。
「特に変化はなし、だね。魔力の変動もないから、魔力供給をしたって感じでもない。なにもなかった、ってやつ」
「なにも、なかった」
「うん、なにもなかった」
オウム返しに呟けば、これまたオウム返しされる。
なにもなかった。つまり、昨晩にそういった行為は一切行われておらず、ただお互いに全裸で眠っただけ……。全裸で眠っていたという大きなノイズこそあるものの、今朝のカリアの言葉を思い返してみるに……。
「……もしかして私、揶揄われてた?」
「その可能性はあるかもね。……まぁ、立香ちゃんの意識がない間に食べられちゃった可能性が残ってるけど」
「怖い事言わないで……ッ!」
普通に犯罪じゃんッ! あ、いや、そもそもサーヴァントに法律なんてまず通用しないけど……というかダ・ヴィンチちゃん、もしかして面白がってる?
「あ、バレちゃった? いやぁ、ははは。こんな風に慌てる立香ちゃんは珍しいからね、ついつい悪戯したくなっちゃったんだ♪」
「心臓に悪すぎる……ッ!!」
「まぁ溶岩水泳部だったりティアマトだったり、バレたらまずいサーヴァント達にはバレてないからいいじゃない? ―――で、ちょっと気になったんだけど、聞いてもいいかな」
「な、なに……?」
いきなり真剣な面持ちとなったダ・ヴィンチちゃんに少し動揺しながらも、こちらもすぐに気持ちを切り替える。
私の意識が切り替わったのを確認し終えたダ・ヴィンチちゃんが口を開く。
「君の見た夢についてなんだけど、それについてね。私達は彼女について、叙事詩で語られているぐらいの事しか知らない。召喚した後に軽い質疑応答はしたけれど、あの時はそこまで深く踏み込まなかったからね」
「……そういえばそうだね」
今更ながらに気付く。
ブリテンでの戦いを終えた数日後にバーヴァン・シー達と共に召喚したものの、その後の軽い質疑応答以来、そこまで彼女のプライバシーに踏み込んだ事はなかった。その質疑応答だって、召喚した英雄達が本当に私達と一緒に戦ってくれるのかだったり、触れられたくない逸話などを知る為のものだったので、深くまで踏み込んだものはしていなかったのだ。
そこに今朝の夢となると……少し、本人に聞いてみる必要があるかもしれない。彼女というサーヴァントを改めて理解する為にも。
「凶悪な逸話を残した反英雄のサーヴァントは
「わかった」
そういう事ならと、すぐに監視や護衛に向いたサーヴァント達に連絡してみれば、幸運にも全員が手が空いていたらしく、彼らには気配遮断を行ってもらった上で傍についてもらう。
そして肝心のカリアだが、こちらもすぐに見つかった。
「カリア、少しいいかな」
「マスター? どうかしたのかい?」
ストーム・ボーダー内に数あるシミュレーター室の中で特に戦闘向けな部屋から出てきたカリアに「改めて貴女について聞きたい」と声をかければ、彼女は快く頷いてくれた。
そうしてカリアを伴って私が向かったのは、彼女のマイルーム。理由としては、その方が自然な流れで彼女から話を聞けるし、私のみに集中してくれると思ったからだ。
けれど、何気に初めて彼女の私室に入る事となった私は、その内装を見て「ん?」と首を傾げた。
「なんか……狭い?」
そう。他のサーヴァントの私室は大抵広いものだが、カリアの私室はそこまで広くなく、寧ろ狭いと表現できる程のものだったのだ。
上から見た場合は長方形になるであろうその部屋には、水色のベッドと赤い大きな箱。奥にはハンモックが吊るされているが、大きさから察するに、かつて彼女が雇っていたであろうオトモ達が使っていたものだろうか。床には橙色のカーペットが敷かれており、靴越しにもそれが柔らかい素材で出来ている事がわかる。
そんな彼女の部屋に思わずそう呟いてしまうと、「ははは」とカリアが笑った。
「狭いのも当然さ。なにせ、“我らの団”にいた頃のボクのマイハウスが基なんだ。逆に広かったら落ち着かないよ。さ、立っていないでこっちにおいで。お互い座っている方が話しやすいだろう?」
「ありがとう、カリア」
先にベッドに座っていた彼女に促されるままに、その隣に腰を下ろす。
「さて……改めてボクについて聞きたいとの事だったが、具体的にはどういった話をすればいいのかな? 大まかな事については以前の質疑応答の時に話したと思うが……」
召喚後に行った質疑応答は本当に軽いものだったため、自分達と共に戦ってくれるかなどについて聞いた程度だ。その他にもカリアの伝説について改めて確認を取ったりするぐらいだった。
―――叙事詩に語られるハンター達の中でも特に秀でた、無双の狩人。
―――“我らの団”と共に世界各地を巡り、行く先々で多くの問題を解決してきた、最強の狩人の一人。
聞くだけでも心強い味方だと思える伝説を持つ彼女だが、今回聞きたいのはそこではなく、彼女がそこに至るまでの道だ。叙事詩では、彼女が砂上船に乗っているところから始まっているのもあって、それより前の彼女がどのような人物だったのかはわからないのだ。
それを伝えてみると、「なるほど」とカリアは納得がいったように頷いた。
「そういう事なら、聞かせてあげるよ。ボクの始まりを―――」
そして、カリアはゆっくりと、昔を懐かしむように語り始めた。
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ボクが生まれたのは、俗に言う王家の末裔……そして、魔術師の家系だった。
といっても、君達が知っているような、根源とやらへの到達を目指して活動するような魔術師一派じゃなかったし、王家の末裔という肩書も、時間と共に世間から忘れ去られる程度のものだった。そんな彼らの目的は、かつて先祖が支配していた王国を滅ぼした龍の討滅だったんだよ。その為の技術を、彼らは長い年月をかけて構築し、次代に受け継ぎ続けていた。
そんな家に生まれた最後の子どもが、このボク―――カリアだった。
『お前は我が一族の最高傑作だ』
『先祖達が積み上げてきた研鑽、その全てがお前の体に注ぎ込まれている』
『ならば産め。さらなる研鑽を重ね、技術を高め、そして託せ』
『我らの使命―――“紅龍”ミラバルカンの討滅を成し遂げる為に』
かつて起こった大戦時、かのシュレイド王国と同盟を結んでいた国を滅ぼした災厄の龍。その討伐を果たす為の道具の一つが、当時のボクの扱いだった。
いつかは優秀なハンターを婿に迎え、子を生み、より強力な戦力に育て上げる―――そんな目的もあって、両親はボクを厳しく育て上げた。肉体面はもちろんだが、精神面はそれを遥かに上回る程に
なにせ、
一族の理念が如何に重要なものであるか。その為にボクがなにをすべきか―――長々と酔い痴れるように言い聞かせてくる両親に対しても、ボクは微塵も興味を抱かなかった。
大の大人でさえ簡単に死ぬような訓練も、ボクからすれば簡単に達成できるし、ならばと両親がより厳しくしても、それでもボクからすれば生温かった。
ただただ一日一日を退屈に過ごしていたが……ここで当時のボクに転機が訪れた。
あくる日の、父母がボクに兎をプレゼントしてくれた。
雪のように白い、ふわふわとした毛並み。庇護欲掻き立てられる愛くるしい見た目。
龍への復讐を掲げる魔術師である両親からプレゼントされたものとは思えない程のその兎がなにを意図してのものだったのか……まぁ、わかり切ってたものだったよ。
それから数日。ボクはその兎と暮らした。
親や使用人から教わった世話も、いつしか自分でやるようになった。けれど、なにかが足りない。いや、満たされない。
そんなある日、家族が出払い、使用人だけが残された頃。兎を撫でていたボクは、何気なしに、兎の首元に手をやってみた。
細い。体毛の量を考えなければ、もっと細いであろうそれの感触。温かい血が通っていて、今膝元にいる兎が生きている事を証明している。
それを確かに感じ取った次の瞬間、ボクは思った。
(……これを止めた時、自分はどう思うのだろうか)
一度そう考えた瞬間、どうしてもその結果を知りたくなった。
満たされぬ心。その隙間を埋める役割をこの兎が担うのなら……やってしまってもいいのではないのかと。
行動は早かった。ボクの膝元には、冷たくなった兎の死骸があった。
思いの外、簡単だった。
ボクは気を抜いてリラックスしている兎の首を締め上げ、あらん限りに力を込めた。
バタつく手足をもう片方の手で掴み、一切の抵抗を許さなかった。
そうして数秒が経過した後、パキリという音と共に、兎は動かなくなった。
そして、理解したのだ。
あぁ、これだと。これこそが、己の求めていたものだと。
それから、私は父母に新たなペットを強請った。兎は逃げてしまったと嘘を吐いて。
ボクの頼みを聞いた両親は「それは大変だったな」と
そしてボクは、そうして用意されたペットを殺し続けた。
首を引き抜いた。水に沈めた。炎で炙った。生きたまま、臓器を引きずり出した。
だが、ある日を境に、ペットが与えられなくなった。
きっと、もう動物やモンスターの幼体ではボクが殺しの技術を学べないと悟ったのだろう。ボクの異常なまでの技術の成長の早さに、両親はさらなる期待を寄せてきた。
恐ろしき“禁忌”の一角への復讐を望むというのなら、ボクのこの猟奇性は使えるものだという事だ。
そこからは定期的に幼体ではなく、成体となったモンスターが調達されてきては、ボクの残虐性を確かめる為の実験台となった。ボクはその度に彼らを殺し続けたが、そんな日々の中で、ふとある疑問に思い至った。
(他に楽しい事って、なんだろう……?)
当時のボクにとっての楽しみとは、他者の命を奪う事だけだった。それ以外の楽しみを、この頃のボクは知らなかったのだ。
では、他の快楽はあるのだろうか? 人が食による歓びを持つと同時に、遊びによる喜びを持つように。ボクの場合は殺しによる歓びがあって、その他にはなにがあるのかと。
ふと、何気なしに使用人のメイドに声をかけてみた。
彼女は確か、先日夫を亡くした未亡人だった。まだ二十歳を過ぎて少ししか経たないというのに、常に笑顔を振りまいていた彼女は、夫を亡くしてからというもの、決まってどこかに暗い影を落としていた。
そこでボクは、いつの間にか身についていた話術を応用して、彼女と褥を共にした。
彼女も、最初こそは抵抗していた。けれど、いつしかそれは嬌声へと変わり、ボクを諌めようとしていた口は、ひたすらにボクの名を呼ぶようになった。
徹底的に心も体も堕とし、日中に廊下で声をかけただけでも悩まし気な吐息を漏らさせるようにさせてから、ボクはもう一つの喜びを知れた。
そこから、ボクの生活に新たな楽しみが生まれた。
両親が連れてきたモンスターを殺し、使用人を抱く。殺傷能力を鍛えて多少の疲労を覚えた心を、女性を抱いて癒す。
それから数週間が経った頃、ボクの家にある男が訪れた。
『これはこれは……随分と調整を重ねたようだな。まるで餓えに餓えたイビルジョーではないか』
『貴方の口からそう言ってくれて安心しましたよ、赤衣殿』
応接室から父と共に出てきた男。父が口にしたように真っ赤な装束に身を包んだ青年は、にこやかに己に笑いかける父に「ふん」と欠片の微笑みを見せずに返す。
『なんだね、それは。まるで私が君達の師のようではないか。言っておくが、私の興味は“禁忌”の討伐を掲げた君達の最高傑作のみに向けられているのだ。君達などどうでもいい。むしろ、生まれる前から何度も改造を施していた君達のやり方には嫌悪すら抱いている』
『なんだと……ッ!』
真っ向から断言された父の顔が赤くなっていくのを無視し、赤衣の男は自分達の会話を聞いていたボクに気付いて近づいてきた。
『貴女は……?』
『名乗る程の名前はない。強いて呼ぶのなら、赤衣の男と呼ぶがいい。ここに来た理由は、君のその凄まじい気配を感じたからさ』
『気配……?』
『おや、まさか気付いていなかったのかい? 君のそれは人のものとは隔絶していてね。
植物で構成された右腕をちらりと見つめた赤衣の男は、視線をボクに戻してきた。
『君はこの家にいて、満足かな? ……いや、答えは不要か。その目を見ればわかる』
『…………』
『もし良ければ、私が君を外へ連れ出してあげよう。このような牢獄で飼い殺しにするには、君という存在は勿体なさすぎる』
『ッ!』
『貴様、いい加減にしろッ!!』
ボクが彼からの誘いに目を見開いた瞬間、背後から彼の肩を掴もうとしてくる父だが―――しかし。
『邪魔をするな、愚かな男よ』
『が……ッ!?』
バキバキと音を立てて数十本の蔓へと変化した赤衣の男の右腕が、背後から迫ってきていた父の全身を拘束し、空中へ持ち上げる。
即座に父も魔術で赤衣の男に攻撃しようとするが、その前に彼が右腕を鞭のように動かした事で壁に叩き付けられ、そのまま気絶してしまった。
『あの時代から続けてきたものとはいえ、この程度の研鑽と継続で“禁忌”は倒せんよ。いくら受け継がせても、真の戦いを知らないのであれば、勝負にすらならんさ』
『あ、あの……ッ!』
気絶した父を放り投げた赤衣の男に、思わず声をかける。
『なにかね?』
『その……本当に、連れて行ってくださるの? その、外の世界に……』
『連れていくとも。先こそああ言ったが、君には技術の他に才能もある。改造云々とは違う、君自身が元から持っている狩猟の才覚がな。……一ヶ月後、また来よう。答えはその時に聞かせてくれたまえ』
父の怒号を聞きつけてきた母や使用人達から逃げるように去っていった赤衣の男。
その後、父母は彼や外の世界の人間がこの家に近付けないように結界を張り直し、ボクから彼の記憶を消し去ろうとしてきた。
でも、彼との出会いと会話を経たボクは、彼らの行う記憶への干渉を徹底的に弾き、相手が怒るのなら最高傑作としての力を遺憾なく発揮して黙らせた。
そして一か月後。赤衣の男が再び来ると言った日になると、ボクは今まで潜めていた牙を剥き出しにした。
ボクは最初に手を出したメイドに声をかけ、極上の快楽をチラつかせて操った。これまでの間に支配していた他のメイド達も同様に操り、父母を拘束した。
突然の事態に陥り、『なぜこのような事を』と困惑と憤りを見せる両親に近付き、ボクはそっと告げる。
『ごめんなさい。どうやら、私はこれが楽しくて仕方ないみたいです』
魔術を使う為に必要な手足を圧し折り、喉を潰し、舌を引き抜いた。
芋虫のように這いずるしかできなくなった二人を、ボクは歓喜と共に殺した。
恍惚とした表情のメイド達を寝室に招き、褥を共にした。
一人ひとり、念入りに、丁寧に。天上の世界などというものがあるとは思っていないが、そこへ逝けるように、丹精込めて。
幸せそうに光なき瞳で虚空を眺める彼女達と、壁にまで赤い絨毯がかかった部屋を後にし、家を飛び出す。
『……暴れたものだな。酷い有様じゃないか。答えを聞く必要はなさそうだ』
『
『その話し方……私の真似事かね?』
『さぁ? 堅苦しいお嬢サマより、この話し方の方が気楽だと感じたまでさ』
『なるほど。……では約束通り、君を外の世界に連れて行こうじゃないか』
そうしてボクは、今まで育った環境を捨てて、赤衣の男と共に外の世界に向かっていったのさ―――。
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「―――そこからはまぁ、大して面白くもない話だよ。ボクは赤衣の男から一般的な世界に溶け込む為の教養を教わりながら暮らし、ハンター試験を突破した後は君達の知っている叙事詩の通りさ。これでいいかい、マスター?」
「う、うん……。なんか、色々予想外の展開があったから、驚いちゃった……」
話し終えたカリアに、私は呆然としながらそう答えるしかなかった。
生まれる前から度重なる改造を施された命。実の娘を道具としか認識しない両親。彼女が見せる残虐性の根源。それら全ての情報が一気に叩き付けられたのもあって、脳が上手く働いてくれない。
これまでムニエルらカルデアのスタッフ達から「魔術師は基本人でなし」という話は聞いていたため、カリアの生家が魔術師の家系と聞いた瞬間少し察したものもあったが、彼女の少女時代の話はそれを超える衝撃的なものだったのもあって印象が薄れている。いや、両親のせいでカリアが殺戮衝動に突き動かされる性格になってしまったのはわかってはいる。わかってはいるのだが……ッ!
「え、という事はカリアにとっての赤衣さんって……」
「立場上であれば養父という事になるな」
「養父……赤衣さんが、カリアのお父さん……」
衝撃的な事実に頭が混乱するが、しかしある程度まとまったところで想像してみると、不思議と簡単に思い浮かんできた。
書斎が心象世界になる程の彼の事だ。かなりの知識はあるだろうし、それを用いて幼いカリアを育てたのだろうが……。
「? マスター?」
「いや、なんでも……」
たぶん、苦労したんだろうなぁ―――という考えは、そっと胸の奥にしまっておいた。
「……そういえば、叙事詩に書かれている狩りの時も、カリアは楽しんでたの?」
「当然。待ってれば獲物が来ていた家にいた時と違って、自分一人の力で狩りに向かっていたんだ。これが喜ばずにいられるものか。特に“紅龍”との戦いだ。あれはもう本当に……最高の時間だったさ。……終わってみれば、あまり心地の良いものではなかったがな」
「え、そうなの? 叙事詩にも最強のモンスターって書かれてたから、てっきり一番楽しんでたんじゃないかと思ってたんだけど……」
「なんと言えばいいのか……生家の掲げた使命とは違うし、ううむ……」
珍しく苦虫を嚙み潰したような顔で目を閉じ、腕を組んで考え込むカリア。
しばらくうんうんと悩む事十秒程、やがて瞼を持ち上げた彼女はこちらを見つめてきた。
「あれだ、同族嫌悪だ。ボクが殺戮に悦楽を感じるように、奴もまた破壊する事で快楽を得る存在だった。普段はそれを隠しているのも、ボクと同じだった。だからだろうね、一目見た時から思ったよ。『あぁ、こいつだけは絶対に殺してやりたい』ってね。感謝するよ、マスター。ボクをこの世界に招いてくれて。お陰でボクは―――もう一度奴を殺せる」
再び“紅龍”を狩猟する自分を想像しているのだろうか。
遠くを眺めるその瞳には殺意の炎が漲っており、口元はまるで耳まで裂けているのではと思えてしまえる程に三日月型に開かれている。
その表情は、まさしく殺意に取り憑かれた殺人鬼のようだったが……私が傍にいる事を想い出したのか、「おっと」と獰猛な笑みを掻き消した。
「すまないね。想像したら思わず滾ってしまった」
「全然大丈夫だよ。……その事やさっき聞かせてもらった話なんだけど、ダ・ヴィンチちゃん達に伝えてもいいかな? 私だけの内に留めるわけにもいかないからさ」
「もちろんだとも。というより、ボクとしては謝罪したいところだよ。君の様子を見るに、ボクを知る為に大事なものだったのだろう? あの時話さなくて申し訳ない」
「いいよ全然。あの時は本当に軽いものだけだったんだし。―――それじゃあ聞きたい事も聞けたし、私はそろそろ戻るよ。ダ・ヴィンチちゃん達にも報告しなきゃだし」
聞くべき事は聞けた。カリアが戦闘時に見せるあの凶暴性の由来も知れたし、かなりの収穫だ。これならダ・ヴィンチちゃんに報告しても問題はないはずだ。
では早速報告に、と立ち上がりかけた瞬間―――私の手をカリアが掴んできた。
「いけないなぁ、マスター……」
「え、カリ―――」
「ボクの部屋にいるというのに、そんな無防備でいては我慢ならないじゃないか。無防備すぎて思わず……殺してしまいそうになる」
カリアの瞳に消えかけていた殺意の炎が再燃する。熱に浮かされているようでいて、しかしどこまでも冷たい死を連想させられる視線に射抜かれた私が全身を硬直した―――その時。
「―――ッ!!」
私を見つめていたカリアが弾かれたように私から手を離す。
瞬間、先程まで彼女の腕があった場所をナイフが通り過ぎていき、カリアが突然の襲撃者に迎撃態勢を取ろうとすれば、その直前に特徴的な形状をした短刀が彼女の首に添えられた。
「そこまでです、狩人殿」
私とカリアしかいなかった部屋に、二つの影が滲み出る。
一つは闇にそのまま形にしたような外套を羽織り、髑髏の仮面で顔を隠したサーヴァント―――呪腕のハサン。
もう一つは、白髪の奥に氷のように冷徹な光を宿した瞳を持つサーヴァント―――エミヤ・アサシン。
「これはこれは……アサシンのお二方。いったいいつから忍び込んでいたのかな?」
「始めから。貴殿の凶暴性を警戒したダ・ヴィンチ殿から、我らが主の護衛を依頼されましてな。貴殿に彼女への殺意が見えたため、こうして姿を晒したまでの事」
「なるほど、この短刀や銃はそれか……」
己の首筋にひたりと添えられた
「けれど、甘いね。この程度でボクを止められると思っているのだったら……大間違いさッ!」
「ぬぅ……ッ!?」
呪腕さんが突然呻き声を上げる。拘束されたカリアが自由な右足を動かして彼の足を勢い良く踏みつけたのだ。
突然の痛みに呪腕さんが怯んだ隙をついたカリアは、躊躇いなく己の側頭部を撃ち抜こうとしたエミヤ・アサシン―――切嗣さんの右腕を掴み、側頭部から銃口を逸らす。一瞬の出来事の後に発射された銃弾は彼女の額に一文字の傷跡を残すだけに終わるが、切嗣さんは即座に次の行動に移っていた。
残像が生まれる程の速さで動く、彼固有の魔術―――
自身の体内経過時間を早める事で、周囲よりも素早い行動を可能とする技術。サーヴァント化した事で人間時にあった制限がなくなったために自由な切り替えが可能となった彼のナイフがカリアの心臓へと迫るが―――
「なに……ッ!?」
「ハハ―――遅いなァッ!」
容易くそれを掴み取り、握り砕いたカリアが嘲笑にも聞こえる笑い声をあげながら切嗣さんの腹に膝蹴りを叩き込み、彼の体がくの字に曲がれば、今度はアッパーで顔面を殴り飛ばした。
「覗き魔にはご退室願おうかッ!」
宙返りをするように切嗣さんの体が空中で回転している間に、カリアは背後で態勢を整えかけていた呪腕さんの外套を掴み、切嗣さんへ叩き付ける。
空中に浮かんでいた切嗣さんに呪腕さんの体が触れた瞬間にカリアが外套から手を離せば、二騎は開かれた扉の奥に飛んでいき、彼らが床に落ちた光景を最後に扉がガチャリと閉まった。
「呪腕さん、切嗣さん……ッ!」
「行かせはしないよ、マスター?」
すぐに二騎の様子を確かめに行こうとした矢先、滑るような動作でカリアに回り込まれてしまう。
「ボクを警戒して護衛をつけるのは正しかったよ。だが、あの程度では足止めにすらならないさ。もっと強いサーヴァントを用意するべきだったね。―――でも、それももう意味のない事さ」
「わ……っ!?」
トン、と軽く肩を押され、私の体がベッドに倒れ込む。
すぐに起き上がろうとするが、その前にギシ……と音を立てながらカリアが私の上に覆い被さってきた事によって、阻止されてしまった。
「さっきは殺したくなると言ってしまったが、あれは冗談さ。“紅龍”と再戦できる機会など滅多にないんだ。その為の要石である君を殺すわけがないだろう? でも、それとこれとは話は別さ」
「……ッ!」
カリアの右手が動き、私の頬を撫でる。
先程までの殺意をそのまま劣情に変えた瞳とは裏腹に、驚く程に優しい手つきで触れてくるそれに、無意識に体が震える。
「ボクが自分の家のメイドだけ抱いたと思っていたとしたら、それは間違いだよ? ハンターになってからも多くの女性を抱いたものさ。死んでからも、召喚されてきた先で色んな女性を抱いたよ。小生意気な女子高生に、宝石と体術を繰る高飛車な魔術師。あぁ、聖杯大戦ではサディスティックなマスターをボク好みのマゾに堕とした事もあったね」
懐かしむように、過去自分が抱いてきた女性達の話をするカリア。その声色は恍惚としたものであり、同時に、その者達の中に新たな女性が加わる事に対する歓喜も混じっているのがわかる。
「サーヴァントも抱いたさ。それはもう数え切れない程に。友誼を結んだ相手を絡め取り、この指でマスター共々啼かせたものだよ。どうだい、マスター? ボクは強制はしない。あくまで、君自身の判断で選びたまえ。もしボクを選んでくれたのなら―――」
―――後悔は、させないよ?
ゾクゾクとした快感。耳元で囁かれた甘い吐息は、私の脳髄にまで染み込み、下腹部を切なくさせる。
いつの間にか私は、自分の両腕を彼女の首に回し始めていた。
「……だ……」
「だ?」
スゥッと細められた瞳に、情欲の炎が宿る。獲物を前にした彼女が唇を舐める為に出した舌が、とても煽情的に見える。
唇にそっと触れた親指に「ぁ……」と小さく声を漏らして、私は―――
「おいたはそこまでだ、カリア」
瞬間、ここにはいないはずの男の声が、朧気になっていた私の意識を覚醒させた。
「……邪魔しないでくれるかい、我が養父よ」
いつの間に現れたのか。私を押し倒していたカリアの視線が、自分の肩に手を置いた男―――赤衣さんへと向けられた。
「君に抱かれてしまっては、最早彼女はマスターでいられなくなってしまうだろう? それはいけない。私からの教えの一つを忘れたのか?」
「……『無闇に相手を抱くな。抱くのは少数に留めろ』、か。でも今回は彼女一人だけだよ? それなら別に―――」
「その一人に人理の行く末がかかっているのだ。君が良くても、君の行動で全てが終わってしまう可能性がある事も考えたまえ」
表情こそ平静を保っているが、カリアを諌めるその声から察するに、今の赤衣さんはかなり怒っているようだ。今まで聞いた事もない程のドスの効いた言葉に、ひゅっとカリアが小さく息を呑んだのがわかった。
「……はい」
先程までの調子の良さが消え失せたカリアが、私から体を離す。
彼女から解放された私は起き上がろうとするも、彼女の劣情に煽られたからなのか、上手く力が入らず起き上がれない。そんな私を見かねたのか、「失礼する」と一言断った赤衣さんがそっと私をお姫様抱っこで持ち上げてくれた。
「カリア、欲望に従うのも程々にしたまえ。折角ここまでハンターが揃ってきたのだ。シュレイド異聞帯に向かう前にここで終わってしまえば、私が現界前に契約した王に顔向けできなくなる」
私をお姫様抱っこしたまま、赤衣さんが部屋から出ようとする。
その瞬間、背後からかけられる声。
「立香……その、すまなかった。私も、つい調子に乗ってしまった」
「……ッ!」
振り向かずともわかる。
本当に彼女のものなのかと思ってしまう程に萎れた声。それを発したカリアは、きっと酷く落ち込んだ顔をしているのだろう。もしかすると、赤衣さんが先程口にした言葉に感じるところがあったのかもしれない。
「……大丈夫だよ、カリア。貴女の話、聞かせてくれてありがとね」
「マスター……」
もう抱えなくていいと赤衣さんに伝え、自分の足で立ってカリアの元まで戻り、その手を取る。
「確かにビックリしたけど、それが貴女なんだよね。生前からも、サーヴァントになってからも。……だからさ、あまり自分を責めないで? 全てを受け入れる事は出来ないけど、私も出来る限り、貴女が貴女でいられるように頑張るからさ」
「……ッ!」
目を見開いた彼女を見上げ、小さく笑う。
「改めて、私の召喚に応えてくれてありがとう。これからもよろしくね、カリア」
「…………あぁ。ボクも、君に召喚されてよかったよ」
私が握っていなかった左手が、彼女の右手を握る私の手の上に被せられる。
多くの血に塗れている仮初の手といえども、その手は確かな命の熱を感じる。
この時ようやく私は、彼女と真の意味で仲間になったと感じるのだった。
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「みんな、ありがとう。お陰でカリアから話を聞く事が出来たよ」
護衛を務めてくれたアサシン達と赤衣さんを伴って談話室に移動した後、私は改めて彼らに感謝の言葉を伝えた。
しかし、赤衣さんを除くサーヴァント達の表情は晴れない。
「ですが我々は、貴女をお護りする事が出来ませんでした。もしあの者に害意があったとしたらと思うと……」
「マスター。彼女を召喚したのは間違いだ。自分の欲望を優先し、その後の事など考慮しないお子様なんて、戦力には加えられない」
ものの見事に投げ飛ばされた呪腕さんが顔を俯かせ、切嗣さんが不快さを隠さずに告げてくるが、「でも」と私は返す。
「カリアは、反省していたよ。赤衣さんに叱られた時のあの落ち込み方は、本物だった」
赤衣さんの注意を受けて落ち込んでいたあの姿は、小さい頃の同じ状況に置かれていた自分と全く同じだった。正論を突きつけられ、現実を直視させられ、ただ立ち尽くすしかなくなってしまった、子どもの頃の私だった。
恐らく、物心つく前から異常な環境に身を置かれていたからだろう。本来なら時間をかけて成熟していくはずの精神が、歪な形のまま成長していってしまったのだ。
「赤衣殿。聞けば貴方は、彼女の養父だそうで。こう尋ねるのは申し訳ないのですが……もう少しまともな教育は出来なかったのですか?」
「必要な事は全て教えたさ。だが、生まれる前から殺戮に適する形に改造され続けてきたのだ。ただ殺し続ける機械に、その後の事を考える必要などあるか? つまり、そういう事だ」
「改造、か……」
この世に生を受けた段階から、龍を殺す事を命題として改造され続けた人間。その果てが、殺戮に惑う戦闘マシーン。今後の事など考慮しない機械という要素が、後先考えずに行動してしまう彼女の根本を構成してしまった。
もしそれを変えるとするなら、それこそ人格を初期化して再構築するしかないだろう。
……でも、そうして生まれた彼女は、本当のカリアだと言えるのだろうか。
なら、私達が彼女に出来る事は―――。
「それでも、拒絶しちゃいけないと思う。彼女は私の召喚に応えてくれた。なら私はそのマスターとして、彼女に寄り添うべきだと思うの」
「……君は本当に甘ちゃんだな。その選択の末に、人理が崩壊してしまう可能性もあるんだぞ」
「確かにその可能性もあるけど、あくまで可能性、あり得るかもしれない未来なの。必然の未来じゃない」
「……好きにしろ」
最早かける言葉もなくなったのか、切嗣さんは霊体化して消えていった。
これまでの言葉の数々は、彼なりに人理の守護の為に考えての忠告だという事はわかっている。けど、私はそれでもと意地を張り続けた。切嗣さんには申し訳ないけれど、私はこの考えを捨て切れない。
「呪腕さんも、切嗣さんと同じ意見?」
「……人理を第一に考えるのであれば、私は彼に同意します。ですが……」
髑髏の奥にある双眸を伏せ、呪腕のハサンは恭しく私に頭を下げてきた。
「此度の現界において、私が忠を尽くすのは貴女です。貴女の言葉に従います。……それに、なにより私は、貴女のそういったところに惚れ込んだのです」
「……ありがとう、呪腕さん」
カルデアに数いるハサンのサーヴァントの中でも特に忠義に厚い人格の彼の心から言葉に、私もまた心からの感謝の言葉を返した。
すると、「立香」と、今まで静かに私達の会話を聞いていた赤衣さんに声をかけられた。
「君は、カリアを信じてくれているのだな。切嗣の言葉を聞いても尚……」
「もちろんだよ。仲間を信じないなんて、私には出来ないよ」
「……あぁ。やはり、君が彼女のマスターでよかった。君がマスターであるなら、我が娘も良き在り方で現界していられるだろう。……しかし、それでも用心はするように。もし彼女と行動するなら、私を呼びたまえ。それか……そうだな、静謐のハサンやセミラミス辺りを護衛につけておく方がよかろう」
「どうして?」
「神経毒でも使えば、完全に動きを止められなくとも取り押さえやすくなるからだ」
「失礼ながら、それは実体験ですかな?」
呪腕さんからの質問に、赤衣さんはフッと微笑むのみ。
しかし、私と彼は気付いていた。その微笑みは絶対、生前彼が彼女を育てるのに苦労してきた事が由来のものだと。
「赤衣さん……苦労したんだね」
「これからも苦労するだろうさ。今後、胃薬を用意しておくべきかもしれん。―――まぁ」
苦笑交じりに、しかしどこか柔らかい声色で、彼は続ける。
「それでも、あれは私が育てた
言いつけは破る。叱ったとしても反省の色は特になし。時折反省する事はあるらしいが、それも本当に取り返しのつかない事を仕出かしてしまった場合のみ。
だがそれでも、生前の彼女は彼女なりに人間社会に溶け込もうと努力していたし、サーヴァントになってからも自分の欲望のままに動かず、基本的にはカルデアのルールに従って生活している。
それを知っているからだろう、赤衣さんの顔はどこまでも柔らかく、娘の幸せを喜んでいるように見えた―――。
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ふと、懐かしい記憶を思い出す。
輝かしい冒険と狩猟の日々の果てに辿り着いてしまった、年老いた自分の記憶を。
かつての時分と比べて、遥かに衰えた体。骨と皮だけとなった腕は最早、壁に立て掛けてあるかつての得物を持ち上げる事すら叶わず、両足も歩くだけで精いっぱいで、かつてのように走る事など出来なくなってしまった。
窓の外を見やる。
そこに広がるのは、“我らの団”を退団した後に居を構えたドンドルマの街並みが一望できる。若い頃の自分が数多の古龍を相手に武器を振るい続けたこの街も、今では我らの後進達が護り続けている。
本来ならばそんな彼らに誇らしさを覚え、この街の未来を託すのが正しいのだろうが……当時のボクにはそんな気持ちなど微塵もなかった。
(恨めしいな……変わって、くれないだろうか……)
馬鹿な考えだとはわかっている。こんな老婆が戦場に立ったところで、満足に動けない体では無様に屍を晒す事になるという事くらい、わかっている。
それでも、どうしても願わずにはいられない。羨ましがらずにはいられない。
若い肉体が欲しい。朽ちぬ体が欲しい。永遠に若いままで在り続けたい。
心の内から湧き上がる、若き命への憎悪から目を逸らすようにベッドに横になって見慣れた天井を見つめていると、コンコンと扉をノックされる音が聞こえてきた。
どうぞ、と一声かけると、軋む音を立てて扉が開き、一人の男性が入ってきた。
「……また老けたな、カリア」
「……赤衣……」
横たわるボクを見下ろす養父。その姿を見て、私は胸の内に隠そうとしていた憎悪が再び顔を出すのを感じた。
「なぜ、お前は……
赤衣の男の顔には、皺ひとつ見当たらない瑞々しいもの。細身ながらも服越しにわかる筋肉も全く変わっておらず、ボクが幼い頃に出会った時と比べても一切の変化がなかった。
若作りをしているとか、そんな次元の話ではない。まるでその体のまま時間を固定されてしまったかのように、彼の体には微塵の変化も起きていなかった。
「私の場合はかなり特殊な事例でね。君ではまず不可能だろう。下手をすれば君の意識そのものが消えてしまう可能性だってある」
「……そうか」
意識の消失も、ボクが老後に恐れるようになったものだった。それを可能性の一つに出されてしまえば、ボクはもう彼から老化しない体の秘密を聞き出そうという気は失せてしまった。
「それに、永遠に若いというのも必ずしもいいという事ではない。周りの時間から置き去りにされるのは、中々に堪えるぞ」
「それでも……こんな、惨めな思いをするのなら……いっその事、黒魔術にでも手を出しておけば……」
「馬鹿な事を言うな。人でなくなるぞ」
「それでも、ボクは……ボクは……」
あぁ、この頃のボクは、なんて醜いのだろう。どこまでも若さに執着し、永遠の若さを持つ養父に嫉妬と憎悪を向けてしまっている。
だが、次に赤衣の男が口にした言葉が、当時のボクに希望を与えてくれた。
「安心したまえ。君はこれまで多大な功績を残し、歴史にもその名を刻まれた。
「条件?」
「永遠の若さを保ちながら戦い続けられる、夢のような世界へのチケットさ」
「……ッ!!」
予想だにしていなかった。まさしく夢のような言葉に目を見開いたボクに、彼は続ける。
「ここより高次の次元に、英霊の座というものがある。そこは古今東西、過去や未来の関係なく、様々な強者が集まる場所だ。君は死後、そこへ招かれるだろう。その後は君の望むまま、終わらぬ戦いに身を投じるがいい」
「……ハハ、ハハハハハハハッ!!」
この時、老婆になってから久しく出さなかった笑い声を、ボクは出していた。
そうだ。それは養父が口にしたように、夢のような世界だった。そのチケットを知らぬ間に手にしておきながら年老いていく体に怯えていた自分が馬鹿みたいに思えてしまうぐらいには。
「そうか……そうか……ッ! また戦えるのか……また、あの頃の体で……ッ!」
溢れ出てきた涙が両目から滝のように流れていくのを感じながら、ボクは歓喜に身を震わせた。
クツクツと泣きながら笑い続けるボクに呆れたように苦笑した養父が口を開く。
「どうやら、怖れはなくなったようだな」
「あぁ……もうなにもないさ。ありがとう、我が養父よ。お陰で早く死にたくなったよ」
「それは喜べんなぁ。ちゃんと寿命で死にたまえ」
「ハハハハハハッ!」
それから程なくして、ボクは老衰で生涯を終えた。
その後は養父の言った通り、ボクは人理を守護する存在として英霊の座に刻まれ、気の向くままに戦場へ身を投じ、多くの命をこの手で奪ってきた。
人間も英雄も、魔物も神々も、時には獣でさえ、この手で屠り続けてきた。
そうだ。殺戮は、ボクにとっての生きがいだ。ひたすらに殺し、ひたすらに切り刻み、ひたすらに捻じ伏せる。気に入った女性を抱くのも含めてのそれこそがボクの喜びであり、死んでからもそれは変わらない。
でも、そうだな。
犯し、殺し続けるのはボクの幸せだが、同時に―――その末に誰かを護るのも、ボクにとっての幸せなのかもしれない。
はい、というわけでカリアの幕間でした。前書きにも書きましたが、かなりの長文になってしまいましたが、読みにくかったら申し訳ございません……。
fgoでは河上彦斎を初め新規サーヴァント達が実装されましたが、バトルグラフィックが良かった事や声が好きなのもあって河上は欲しくなりましたね。ですがPU2のゴリラじゃない黒の剣士も引きたくなってしまったので、少し様子見ですかね……。
この後は22時30分よりカリアのプロフィールを投稿しますので、そちらもどうぞッ!