【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 こんばんわ。
 先日、久しぶりにと劇場版ケロロ軍曹を視聴した際、最新映画でもあれが12年前という事実に打ちのめされた作者でございます。
 自分の歳を考えると、丁度ケロロ軍曹が世代だったので、その分ダメージが大きいんですよね~。皆さんもありませんか? 自分が好きだった作品が10年以上前の作品でダメージを受けた経験。

 そして先日から新イベントが始まりましたねッ! 新規サーヴァントとして黄飛虎や呼延灼、そしてロリエリちゃんが実装されましたが、個人的には呼延灼が一番好きですね。あのクソザコメンタルとか凄い好きですッ!

 それでは本編、どうぞですッ!



幸せの形

 

 その日、オックスフォードの領主、ウッドワスは張り切っていた。

 たった数日待てばいいだけというのに、まるで数カ月、いや、数年以上も待たされたような感覚。遂にこの日が来た、とウッドワスは鏡に映る自分を睨みつけていた。

 

 今日は日曜日。ウッドワスが想いを寄せる妖精、オーロラとの会食の日である。

 ここまでこぎつけるのに、実に長かった。オーロラ自身、自分と同じように領主の仕事があるのもあって中々顔を合わせる事が出来ず、出会う事が出来でもウッドワスが羞恥心に駆られて上手く誘えなかったのだ。

 それを見かねた友人(カリア)が「手助けをしようか」と申し出てくれたのだが、自分だけの力で約束を取り付けたかったウッドワスはこれを拒否。その後、なんとかオーロラと夕食の約束を交わす事が出来たのである。

 

 勇気を振り絞って約束したのだ。ならば、それに相応しい対応で少しでも多くオーロラからの好感度を高める―――そう決意を固めるように緩んでいたネクタイを締め、懐から懐中時計を取り出す。

 

 

(……あと十分か)

 

 

 頭上にある灯りを受け、鋭く光を反射する銀色のそれを仕舞い、襟を正す。

 現在時刻は、オーロラがこのグロスターの街にやって来る十分前。

 

 ウッドワスは元々の戦闘力が妖精國中トップクラスなので、妖精に対して絶対の毒性を有するモースなどに囲まれても、その脚力で即座に逃げ果せる事が出来る。また、別に逃げなくとも周囲の地形を亜鈴百種としての膂力を以て粉砕し、その瓦礫を相手に投げつけて圧し潰す事も出来る。

 あらゆる面において妖精國のトップに君臨する彼であるからこそこのような芸当が出来るわけで、彼の護衛が務められるような者はこの國にはいないし、いたとしてもそれは彼と同格の実力者である妖精騎士達か、その一人の御目付け役である狩人のみだろう。

 自慢の脚力を活かして自らが治めるオックスフォードからウッドワスは、オーロラとも待ち合わせの時間の四十分前にはこの街に足を踏み入れていた。

 そしてかれこれ三十分、鏡の前に立って身だしなみのチェックや自己暗示を続けていた。

 

 

(確かオーロラにはメリュジーヌが護衛についていたはず。彼女ならば、オーロラを予定時刻よりも早めに到着させられるだろう。私もそろそろ向かった方がいいかもしれないな)

 

 

 オーロラの護衛についているメリュジーヌ―――妖精國に広く認知されている名としては妖精騎士ランスロットは、女王モルガンに仕える三人の妖精騎士の中でも最強最速と名高い。

 目にも留まらぬ程の高速移動を行いながら、両腕に備えられた双剣(アロンダイト)から繰り出される連撃は、自分やカリアでさえ最初は苦戦したものだ。自分達はその後にそれぞれの対策案を練って対抗できたが、それはあくまで自分達が彼女と同格の実力者であったからこそ。並みの妖精であれば己が殺された事にも築かずに消えゆくのみだ。

 そんな彼女だからこそ、オーロラを必ず護り抜いてくれるという確証があった。そして、最強の妖精騎士に護られているお陰で、オーロラを乗せた馬車がこの街に来るのもそう遅くはならないという事も。

 

 

「よし……、行くぞウッドワス。お前は強い男だ。排熱大公ライネックの次代(むすこ)たるお前が、一人の女を落とせずしてなんとする。頑張れウッドワス、お前はやれる。そうだ―――」

 

 

 最後の一言を口にする前に、大きく息を吸い込む。

 肺に空気が充填されていく感覚を覚えた後、ウッドワスは静かに、鏡に映る自分に告げた。

 

 

「―――お前さんなら、できるできるッ!」

 

 

 それは、かつてウッドワスが盟友から教えられた、彼女の生前の仲間がよく激励を送る際に口にしていた言葉だという。その言葉を言われる度に、彼女は自分の身も心も引き締まるような気持ちになったそうだが、なるほど、確かにこの言葉は気付けとしてよく利く。まるで、体の奥から力が湧き出てくるような気持ちだ。

 

 よし、行くぞ―――とダメ押しで自分の頬を叩き、背筋を伸ばして歩き出す。

 

 そうしてしばらくしない内に、ウッドワスはグロスターから外界へ通じる門の一つ―――オーロラが治めるソールズベリーから最も近い門に辿り着くと、丁度メリュジーヌの手を取って馬車から降りていたオーロラが目に入った。

 

 

「オーロラッ!」

「まぁ、ウッドワスッ! お早い到着ですね。約束の時間までまだだったでしょう?」

「君を待たせるような真似はしたくなくてね。少し先にこの街についていたんだ」

「そうでしたの。ふふっ、嬉しいですわ。そこまで私との食事を楽しみにしてくださっていたなんて……」

「そ、そう、だな……。あぁ、本当に、楽しみにしていた」

 

 

 口元に手を当てて微笑むオーロラの美しさに中てられ、心臓がバクバクと脈打つ。周りに聞こえてはいないだろうな、と一瞬考えてしまう程に暴れる己の鼓動に動揺していると、「ウッドワス」とメリュジーヌが声をかけてきた。

 

 

「彼女をここに連れてくるまでは僕の仕事だったけど、ここから先は君の役目だ。頼んだよ、ウッドワス」

「あぁ。ありがとう、メリュジーヌ。ここからは私に任せてくれ」

「うん、それじゃあ僕は歩いてくるね。しばらく来てなかったから、どんなものが流行っているか知りたいんだ」

「わかりました。行ってらっしゃい、メリュジーヌ」

「うん。それじゃあね」

 

 

 オーロラと共に軽く手を振ってメリュジーヌを見送った後、オーロラがウッドワスへと視線を向けてきた。

 

 

「では、私達も行きましょうか」

「あ、あぁ、エスコートはオレに任せてくれ」

 

 

 メリュジーヌがいなくなり、オーロラと二人きり―――周りに妖精はいるが、ウッドワスの眼中に入っていない―――になった現状に思わず声が裏返りそうになるも、すぐに微笑で取り繕って自然な動きで彼女の手を取る。

 すると、「あら」とオーロラが驚いたように目を見開き、ウッドワスを見つめてきた。

 

 

「ど、どうしてんだ? なにか、変な事でも……」

「その、自然に手を取ってくださるのですね。とても嬉しいですわ」

「そ、そうか。よかった」

 

 

 ―――ありがとう、カリアッ!

 

 その時、ウッドワスはこの日の為に女性からモテるエスコートの仕方を付きっ切りで教えてくれた盟友への感謝を心中で叫んだ。今度、彼女の好きな飯を好きなだけ奢ってやろうと決意し、ウッドワスはオーロラと手を繋いで歩き出す。

 

 

「それにしても、この街は本当に活気づいていますね」

「む? あ、あぁ、そうだな。なにしろ流行の街だ。常に流行りのものが変わって、その度に活気づくのが、この街の特徴だからな」

 

 

 周囲を見渡してみれば、多種多様な妖精達が各々のショッピングを楽しんでいる。今ではあまり見なくなってしまったが、少し前には仮面をつけていた妖精達を多く見た覚えがある。あれは確か、プロフェッサー・Kがアルム・カンパニーを立ち上げてしばらくした後、彼が数々の事業を発展させて会社を一大企業に仕上げた頃だったはず。今ではそれが当たり前になっている影響で仮面をつけていない妖精の方が多いが、今でもつけている者達がいるのを見る限り、あの会社がどれだけ愛されているのかがよくわかる。

 

 

「そうですわね。……あら?」

「ん、どうした?」

「あれは……」

 

 

 オーロラの動きが止まり、それを不審に思って訊ねてみると、彼女は細い指先で街灯(がいとう)に貼られたチラシを指差した。

 

 

『歌よ輝け! グレイトフル・ライブ!』

 

 

 ポップなイラストで描かれたそれは、今後この街で始まるらしいライブの広告のようだ。その下には、あのプロフェッサー・Kが経営する会社の名前が記載されている。どうやら、彼はまた新たな事業を展開する気のようだ。

 場所はこの街でKが買い取った中でも最も大きい土地らしく、今まさに社員達の協力の下、ステージの建設を行っているところらしい。 

 開催予定日は今から一ヶ月後。ウッドワスはライブというものを詳しくは知らないが、『歌』という文字を見る限り、それを主軸に置いたものなのだろう。

 

 と、そこで、ウッドワスは自分が思案に耽っていた事に気付き、なにか話さなければと口を開いた。

 

 

「今度、この街で行われるイベントのようだ。モルガン祭のようなものだろう。……つ、都合が合えばだが、一緒に観に行く、か……?」

「まぁ、なんて嬉しいッ! 是非行きましょうッ!」

(ありがとう、カリアッ!)

 

 

 ここで再び、ウッドワスのカリアに対する好感度が上昇した。

 彼女から教わった意中の相手との距離を縮める方法の中に、『相手が興味を持ったイベントなどには、隙あらば誘え』というものがあった。若干辿々しくなりながらも、なんとかそれを実行に移し、そして成功させた達成感に、ウッドワスの気分が高揚する。

 

 今度彼女には自分が密かに隠し持っている秘蔵の酒をご馳走しよう―――そう、彼女に対する感謝の証をグレードアップさせた後、再びオーロラと共に歩き出す。

 そこからは立ち止まる事もなく、他愛のない世間話や、お互いが担当する領地についての話をしながら街を歩き、次に二人が立ち止まったのは、目的地であるレストランの前だった。

 

 『Restaurant Sun-Tam』。

 

 アルム・カンパニーのフード販売部部長、サンタムがオーナーを務めるこの店は、妖精國の各地で開かれているもので、多少値段は張るものの、それに見合った食事を楽しめるレストランである。

 特にこのグロスターで開かれているこの店は、オーナー直々に料理するため、その味は他の店と比べても別次元。その手腕は、同じくレストランを経営しているウッドワスですら負けを認めた程のもの。

 しかし、オーナーであるサンタムは他者をよく評価する妖精であり、かつての勝負で負けた際には、ウッドワスがどのように調理の仕方を変えればより食材の旨味を引き出す事が出来るのかを教えてくれた。

 勝者からの情けのようでウッドワスはあまり好きではないが、それでも思わず師事したくなってしまうのが、サンタムという男の魅力だろう。そして、そんな彼さえも一社員として抱えているプロフェッサー・Kには最早感嘆する他ない。

 

 初めて見た頃から、ウッドワスは感じていたのだ―――プロフェッサー・Kから放たれる、『王の資質』を。

 その絶大なカリスマに、自ら率先して他者を導く先導力。そして、常に先を見据えて社員達を支援する、優秀な頭脳。

 初めて出会った王がモルガンでなく彼だった場合、自分は間違いなく彼の臣下として活動していたと疑いもなく確信するレベルには、ウッドワスは彼を評価していた。

 

 扉を開け、オーロラを中に通す。心地良いベルの音に誘われて現れた店員に事前に予約していた事を告げ、予約席に案内してもらう。

 グロスターの町並みが良く見える席に二人が座ると、しばらくしない内に一人の妖精がやって来た。

 

 

「ご来店、誠にありがとうございます。私、当店のオーナーを務めさせていただいております、サンタムという者です」

 

 

 恭しく頭を下げてきたのは、この店のオーナー―――サンタムである。

 平時ではニヒルな口調が特徴的な彼だが、今は仕事中。如何にウッドワスという知人がいても、勤務中の態度を変えるような真似はしない。その辺りに、彼の仕事に対する義務感を感じられる。

 顔上部、丁度目元の当たりを黒い布で覆った褐色の肌と白髪を持つ彼に軽い会釈を返し、ウッドワスはオーロラと共に料理を注文し、談笑を始める。

 

 

(あぁ、楽しいな……)

 

 

 自分の店ではないのが悔しい、という気持ちはある。しかし、それがちゃちなものであると思えてしまうぐらい、この場所から見れるグロスターの街は美しかったし、なにより自分の話にころころと表情を変えてくれるオーロラがいるのが本当に嬉しい。

 

 今この時、己は幸せの絶頂にいるのだ―――そう、ウッドワスはしみじみと感じ入るのだった。

 

 

 

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「いやぁ、今日も疲れたね~」

「そうね……。でも、日に日にダンスが上手くなってるのが実感できるのはいいわ」

 

 

 ウッドワスとオーロラが食事を始めた頃、アルム・カンパニー本社から出たアンナとオフェリアは、気分転換にと散歩に繰り出していた。

 プロフェッサー・Kによって決められたグループに各々配置された後、二人はアイドルとして活動する為にこの日まで練習を重ねてきた。まだまだ粗削りな箇所はあるものの、来るライブ当日には、多くの観客を湧かせるレベルにはなるだろう―――そうKが評価するぐらいには、彼女達は必死に練習していた。

 元々、アンナは太古の昔から地上で活動していた事、オフェリアはシュレイド異聞帯で培われた身体能力と記憶力もあって、飲み込みはそれなりに早かった。特に身体能力が高いのはアイドルをするのに必要不可欠な要素であったため、『踊りながら歌う』といった体力勝負にも最初から(こな)す事が出来ていたのが幸いしていた。

 この調子なら、足の怪我などといった事態にならない限りは大丈夫。それが二人を見たKや、彼女達にダンスレッスンを行っている妖精の感想である。

 

 

「なにか買い物でもする? Kから貰ったお金がまだ残ってるの。……ねぇ、アンナ」

「なに?」

「その、この異聞帯には、あのアルビオンがいるのよね? 探しに行かないの?」

 

 

 以前、アンナがキリシュタリア・ヴォーダイムの野望を阻止する為に戦争を仕掛けたオリュンポスで訊いた、ベリル・ガットの言葉。

 

 

『今この惑星で一番強いのは、うちの異聞帯の王サマだ。オマケに、極限を超越し、支配した狩人に最果ての龍、そしてアルビオンの竜を抱えるブリテン異聞帯こそが、今一番強い異聞帯さ』

 

 

 あの時、ベリル・ガットが最後に挙げた妖精國ブリテンの勢力。その一つに、『アルビオンの竜』というものがあった。

 

 アルビオンの竜。

 汎人類史ではかつて存在したと呼ばれる巨大竜種の一頭であり、道半ばで世界の裏側に行き損ねたと語られている。その竜の骸は、かつてオフェリア達が在籍していた時計塔の地下に存在しており、時計塔のメンバーからは『霊墓アルビオン』と呼称されている。

 

 そのアルビオンの竜がこの異聞帯にいるとしたら、その母親であるアンナは間違いなく捜索に出るだろうと考えていた。しかしこの数日、彼女や彼女のサーヴァントであるボレアス達にそのような気配は感じられない。それが不思議に思い訊ねてみると、珍しくアンナは表情を曇らせて俯いた。

 

 

「探したい、って気持ちはあるんだよ。でも、この私が会いに行って、いいのかなって……」

「え?」

「オフェリアちゃんはさ、自分の母親とそっくりな外見の人が『私は貴女の母親です』なんて言ってきたら、どう思う?」

「……それは……」

 

 

 その質問に、オフェリアは口ごもってしまう。

 自分が知っている母親と全く同じ外見をした女性にそんな事を言われたとして、その時自分はどう答えるのだろうか。

 ……いや、考えるまでもなく、答えは出ている。しかし、それを家族愛が強い彼女の前で口にするのは憚られた。

 

 

「……そう、だよね。私は、そうなるのが怖いんだ」

「……」

「会いたくないわけじゃないの。あの時、私が裏側(・ ・)に送ってあげられなかったあの子が、この世界では生きている。でも、否定されるんじゃないかって考えると、どうしてもね」

 

 

 俯きながら話す彼女からは、いつもの陽気な雰囲気は感じられない。繋いでいる掌から感じられる力強さも、今では少々心許ない。それ程までに、彼女はアルビオンの竜との再会を恐れているのだろう。

 

 

「……それでも、会えばいいんじゃないかしら」

 

 

 しかし、オフェリアはそんな彼女が見ていられず、思わずそう返してしまった。

 

 

「どうして?」

「怖くても挑まなきゃいけない時も、あると思うわ。……それに、貴女はそうやってうじうじ悩んでいるより、『会いたい』って気持ちを優先して行動するような人だって、私は思うから」

「オフェリアちゃん……」

「もちろん、会う勇気が出なかったら、諦めるのもいいと思うわよ。全ては貴女が決める事。貴女以外、誰にも決められないわ」

「……ありがとう、オフェリアちゃん」

 

 

 少し間を置いて感謝の言葉を紡いだアンナが顔を上げる。その引き締まったような笑顔に、オフェリアもふっと微笑んだ。

 

 

「あら、決めたのね。もう少し悩むものかと思ったのだけど」

「君の言った通り、私はうじうじ悩んでいるより、自分の気持ちを優先する方だしね」

「ふふっ、良い笑顔ね」

「ありがとう。それに、ちょっとした希望もあるからね」

「希望?」

「オフェリアちゃん、どうして私やボレアス達が君達と同じ外見を取ってると思う?」

「……わからないわね」

 

 

 そういえば、とオフェリアは思う。

 シュレイド異聞帯に滞在しており、これまでアンナを通して様々な古龍を見てきたオフェリアだが、これまで一度もアンナ達のような、自分達と同じ人間の姿を取っている存在は見た事はない。ただ、アンナ達はそういうものだと受け止めていただけだった。

 

 

「それなら教えてあげる。どうして私達だけが、この姿を取って……ん?」

「……なにかしら、あれ」

 

 

 アンナが話を始めようとしたその時、ふと二人は、自分達の進行方向に妖精達が集まっているのを見つけた。

 その数の多さ故、彼らがなにを話しているのかはわからないが、どうやら誰かに話しかけているようだ。

 

 

「これじゃあ進めそうにないわね。別のルートを通りましょうか」

「……」

「……アンナ?」

「……ごめん、オフェリアちゃん。ちょっと待って」

 

 

 流石にあの妖精群を突っ切っていくのも気が引けるため、迂回しようとしたオフェリアだが、鋭い眼差しでその集団を見つめるアンナに足を止めた。

 丁度その時、妖精達がぞろぞろとその場が離れ始めた。どうやら、その中心にいた何者かになにか言われたらしい。しかし、暗い表情ではなかったため、なにか悪い事を言われたわけではないようだ。

 そして、その妖精達の中から、一人の小柄な妖精が出てきた。

 

 

(あれ……、あの子、アンナに似てる……?)

 

 

 その姿を見た時、オフェリアは思わず彼女と隣に立つアンナを見比べていた。

 身長差は仕方ないとして、その流れるような銀色の長髪は、どことなくアンナとよく似ていて。色こそ違えど、彼女の青い瞳は、アンナの緋色の瞳をそのまま青く変色させたようなもの。

 それこそ、まるで親子と見紛う程の―――。

 

 

(……親子? 待って、この異聞帯には……)

「……まさか」

 

 

 オフェリアが考え込んでいる最中、アンナははふらふらと覚束ない足取りで、遠くにいる少女へと近づいていく。

 それに気づいたオフェリアが呼び止めようとするが、それより先に、アンナはポツリと零した。

 

 

「―――アルビオン?」

 

 

 明らかに、遠くにいる少女には届かない程の小さな声。しかし次の瞬間、遠くの少女は跳ねるように俯きかけていた顔を上げ、アンナの姿を視界に収めた。

 そして、大きく開かれた大きな青色の瞳が滲んだかと思えば、そこから絶え間なく大粒の涙が溢れ出てきた。

 

 

「……ルーツ、様……。ルーツ様ぁッ!」

「アルビオンッ! あぁ、アルビオン……ッ!」

 

 

 どちらが先という事も無く、ほぼ同時に駆け出した二人は、そのままお互いを強く抱き締めた。

 

 

「ルーツ様……、ルーツ様……ッ! ようやく、ようやく貴女様と会えました……ッ!」

「あぁ、アルビオン……。まさか、ここで君と会えるなんて……」

 

 

 何度もアンナの本当の名を口にし、涙を流すその少女を、アンナも涙を流しながら優しくその背を擦る。

 その光景を前に、オフェリアは少し離れて見る以外出来なくなってしまった。

 

 汎人類史と異聞帯。互いに相容れぬ世界の住人と言えども、まるで本当の母娘のように再会を喜び合う彼女達の姿を見てしまえば、声をかける度胸などなくなってしまった。

 

 ただ、幸せそうに涙を流し、嗚咽を漏らす二人を、オフェリアは心に温かいものが宿る感覚を覚えながら見つめるのだった。

 

 

 

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 初めは、ただの勘違いかと思った。

 

 ベリル・ガット。こことは違う世界からやって来たと語るその男から、微かに感じたその気配(ニオイ)。それが、かつて己を産み、育ててくれた母親(かのじょ)と同じものだったから、思わず問い質してしまった。

 返答は、『知らない』。彼に彼女と出会ったという記憶はなく、また嘘を吐いている気配も感じられなかった。となると、彼は本当に会ってはいなかったのだろう。

 そして、自分はこの出来事を、ただ自分が勘違いとして片付けた。ただ、かつての母親恋しさが再燃して、それに近しいニオイで勘違いしてしまったのだと、そう決めつけた。

 

 しかし、それからしばらく経って、少しの間この國から姿を消していたベリルが戻ってきたと思っていたら、またそのニオイをつけていた。それも、最初に嗅いだものよりも濃いそれを。

 

 

『いやいや、待ってくれよホント。オレにそんな奴と会った記憶はねぇってッ!』

『嘘だッ! あの御方は……ルーツ様は生きているのッ!? 汎人類史じゃ、彼女は生きているのッ!? あの巨人に殺されずに……ッ! ねぇ、答えてよ。答えて、答えろッ!!』

『怖ぇってッ! だから、本当に会ってねぇってッ! それにお前、この前勘違いだって言ってたじゃねぇかッ!』

『一度だけだったらそう片付けてたよ。でも、これはもう看過できないッ! さぁ、早くッ! 嘘偽りなく、早く答えてッ!!』

 

 

 あの頃の自分は、本当に暴走していた。騎士としての在り方すら忘れ、ただなんとしても彼から彼女の情報を得ようと詰め寄った。しかし、それを見かねた女王に止められた以上、自分はもう引き下がるしかなく、自分の所業を目撃した妖精達が要らぬ真似をしない為に、二度とそのような事はしないようにと釘を刺されてしまったので、最早ベリルに詰め寄る事は出来なくなってしまった。

 

 しかし、三度目はもう無理だった。

 ある日、この國に彼女の気配が出現した。弟の“熾凍龍”と共に今すぐに馳せ参じたところだったのだが、それでも女王や狩人に妨害されてしまった。

 だが、今日はようやく彼女と会える日だと確信し、オーロラがウッドワスと食事をするのにかこつけて自分もこのグロスターに足を踏み入れた。

 

 本当は弟も連れてきたかった。しかし、あの大穴を塞ぐ役目を担っている弟がそう簡単にあの城から出られないのは自分も彼も重々承知していたので、自分だけでこの街に来たのだ。

 

 妖精騎士の一人として知られる自分が来た事で群がってきた有象無象(ようせいたち)を話術で上手くいなして、そして―――

 

 

「―――アルビオン?」

「……ルーツ、様……。ルーツ様ぁッ!」

 

 

 あぁ、ようやく、会えた。

 

 私を抱き締める、優しい温もり。それは、今は失われてしまったあの輝かしい日々を思い出させるには充分で。しかし同時に、私を庇ってあの白い巨人に殺されてしまった時の絶望を思い出してしまって。

 両目から絶えず流れる涙を止める術なんて模索しないまま、ただ彼女に抱き締められて泣き続けた。

 

 わかっている。

 本当は、わかっているのだ。

 

 彼女と自分は、本当の母娘ではない事も。彼女は、私の知る『彼女』ではない事も。私の『彼女』は、もう二度と私の前には現れないのだと。

 

 でも、嗚呼、我が母よ。どうか、馬鹿なこの(わたし)を赦してほしい。

 私はどうしても、貴女が恋しくて、恋しくて、仕方なくて―――ただ、こうして抱き締めてほしくて。

 自分は、本体から零れ落ちた一欠片でしかなくて。ただ汚らわしい泥でしかなくて。

 

 それでも、今だけ、今だけは―――

 

 

(この温もりを、感じさせてください……)

 

 

 これまでの辛い記憶を、忘れさせてください―――。

 




 
 最初、メリュジーヌにはアンナを「お母さん」と呼ばせようかとも思ったのですが、彼女は彼女でアンナは自分の母親ではないと区切りをつけているため、「ルーツ様」にさせていただきました。


 報告です。
 先日、友人より『ボカロの曲作るから、イラスト描いてくれないか』と誘われ、承諾しました。結果、アンナのイラストやこの小説、長らく放置してしまっているシンフォギア二次小説の執筆、そして密かに考えていたアンナ達のCDジャケット風イラスト描画と並行して行う作業が増えてしまい、もしかしたらこの小説の更新が遅れるかもしれません。
 隙を見て執筆を続け、なるべくこれまでのペースのまま更新していきたいですが、更新できない可能性もあるので、ご了承ください。

 それでは、また次回お会いしましょうッ!
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