【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。『決まったルーティンを過ごしている事に退屈している』という意味を持つ夢を見たので、本日葛西臨海水族園でのんびりした後、ディズニーリゾートラインでディズニーリゾートを一周してきました、seven774でございます。

 水族館はいいですよね。私、あの薄暗い空間の中で魚とかを眺めるのが好きなんですよ。嫌な事とか、不安な事とかを忘れていられますし。
 ディズニーは物心ついた頃から傍にあったものですので、今も昔も大好きですッ!

 今回は立香視点から始まりますッ!
 それではどうぞッ!



再会

 

「見えたッ! あれがグロスターですッ!」

「あれが、グロスター……」

 

 

 馬車の荷台から顔を出した金髪の少女に釣られて顔を出した立香は、遠くに見える街を視界に収めてそう呟いた。

 

 近々自壊すると思われていたブリテン異聞帯から、消滅時に星ごと巻き込む危険性を感じ取ったトリスメギストスの警告を受けてこの異聞帯―――否、妖精國ブリテンに足を踏み入れた立香達は、現地で出会った少女―――アルトリア・キャスターと、汎人類史より召喚されたサーヴァントであるオベロンと共に行動していた。

 

 今回、カルデアに残された猶予は少ない。

 

 近々崩壊すると思われていたブリテン異聞帯が、崩壊した直後にこの星を巻き込む要素を含んでいた事が判明したためである。幸い、ブリテン異聞帯自体が他と比べてかなり不安定な異聞帯である事から内部の時間流は大分なだらかになっている。しかし、それでもたった45日のリミットだ。

 

 この45日というのは、カルデアが異聞帯と汎人類史の移動にしようしているストーム・ボーダーの予備電源が尽きるのが、必要最低限の電力でも50日かかるからだ。それ以降になってしまえばストーム・ボーダーはうんともすんとも言わなくなり、立香達は永遠にこの異聞帯に閉じ込められてしまう事になる。

 

 そうならないために、カルデア現所長であるゴルドルフは45日後をタイムリミットに設定した。

 

 その間に立香達が行う役目は、カルデアで観測された『崩落』の原因の調査。そして、かつてギリシャ異聞帯の空想樹を焼いたロンゴミニアドを保有していると思しきブリテン異聞帯の“王”と接触し、可能であればロンゴミニアドを手に入れる。

 

 この作戦に同行するサーヴァントは、マシュ・キリエライトとダ・ヴィンチ。

 

 人類史を真っ向から否定しているこの異聞帯では、カルデアに在籍しているサーヴァント達を召喚する事が出来ない。『弓が上手い人間』という要素さえあれば召喚可能な程にふわふわなサーヴァントであるロビン・フッドですら召喚出来ない異聞帯だが、二人は正規のサーヴァントではないため、この異聞帯内でも活躍できるのである。

 

 ちなみに彼らは与り知らぬところであるが、なぜアンナのサーヴァントであるボレアスや他のサーヴァント達が行動できるのかというと、ボレアスの権能がこの異聞帯の効果を打ち消しているからである。

 

 ボレアスには、己の判断で自由にあらゆる時間軸・世界線に移動する事が可能であり、その都度移動先の世界に適応する能力がある。これを周囲のサーヴァントに加護に近い形で付与させる事により、能力低下を防いでいるのだ。

 

 また、バーヴァン・シーのサーヴァントであるカリアも同様である。彼女は異聞帯の情報を解析したモルガンが、カリアがその効果を受けないように霊基に細工を施している影響で、この異聞帯内でも当然のように生活出来ている。

 

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 

 ストーム・ボーダーから出立した立香達の旅路は、最初から過酷な道のりであった。

 

 “名なしの森”と呼ばれる、足を踏み入れた者の記憶を奪ってしまう魔境に入ってしまい、記憶を失ってしまった立香。ダ・ヴィンチやマシュともはぐれてしまったがしかし、ただ悪い事だけが起きたわけでもなく、その場所で彼女達はアルトリア・キャスターと出会う事が出来た。

 その後、汎人類史の断末魔と共にブリテンに召喚されたサーヴァントであるオベロンを仲間に加え、とある妖精(・ ・ ・ ・ ・)の助けを借りながら、道中ひょんな事があって召喚されていた汎人類史のトリスタンと共に脱出した。

 

 それから場所を“風”の氏族長であるオーロラが治めるソールズベリーに移した立香達は、そこの酒場で働いていたダ・ヴィンチと合流。そして情報の交換や、ソールズベリーで新たに手に入れた情報の整理を行った後、オーロラの側近であるコーラルから、『西の人間牧場に新しく収容された人間がいる』という情報を得た。

 それが未だ再会できずにいるマシュとはわからないが、それでもという僅かな可能性に立香達は賭け、牧場に侵入した。しかし、そこにマシュの姿は無く、代わりに出会ったのはこの國の中でも最強の座に君臨する妖精騎士の一騎、妖精騎士ガウェイン。

 周囲の魔力を喰らい、自身を強化するガウェインによる猛攻に苦しめられるものの、自ら殿を買って出たトリスタンが彼女を妨害している間に辛くも人間牧場から脱出。トリスタンを失うも、オベロンが連れてきた妖精馬レッドラ・ビットが駆る馬車に乗り、そのままグロスターの街へと向かうのだった。

 

 

『バーゲスト―――妖精騎士ガウェイン……。とんでもない難敵と会ったんだね、君達』

 

 

 そして、夜。

 オベロンから「グロスターにマシュと思しき妖精が商品として入荷された」という情報を与えられ、急ぎグロスターへと向かう立香達だったが、如何せんグロスターまでには大分距離がある。レッドラ・ビットの体力の問題もあるので、一先ずは日が昇ってから行動する事にしたのである。

 その後、立香はオベロンに人間牧場で邂逅したガウェインについて話し合っていた。

 

 

『―――バーゲスト?』

『ん? 知らないのかい? てっきり、アルトリアが説明してたと思うんだけど……。……いや、僕が忘れてたのも問題だな』

 

 

 焚火を挟んで立香と向かい合っていたオベロンの視線が、立香の隣ですやすやと眠っているアルトリアに向けられる。 

 彼女がバーゲストについて説明しなかった事、自分もその事について説明し忘れていた事に溜息を吐き、「丁度いい機会だからいいか」と続けた。

 

 

『バーゲストは、妖精騎士ガウェインの本名だ。女王モルガンが彼女達に本名を公開すべきか否かと訊ねた後、彼女が自ら國中に名乗ったそうなんだ。他の妖精騎士達も同様にね。どうしてモルガンがそんな事をしたのかは、今でもわかってないけど』

 

 

 なぜいきなり本名を公開するようにしたのか、について首を傾げるオベロンだが、やがて『ま、いいか』と考えを打ち切った。

 彼からすれば、モルガンがそうした事に対する感情はそれほどないようだ。

 

 

『バーゲストは汎人類史でも語られる妖精の名だ。結構怖い逸話持ちだったと記憶してたけど、あの戦いぶりをみれば納得だよ』

『……うん、そうだね』

 

 

 正直、人間牧場で出会った時に浴びたあの威圧感思い出すだけでも震えてしまいそうになる。 

 ニメートルは超えているであろう、重戦車を思わせる体格と気迫。そして、鎖と大剣を用いて繰り出される猛攻には、彼女が妖精國中最強と称される事にも納得がいくというものだった。

 

 

『でも、用心すべき要素はたくさんある。妖精達の習性とか、立香の消費する魔力量とかもそうだけど、一番はやっぱり……』

『うん。あいつ(・ ・ ・)、だよね』

 

 

 強張った立香の言葉に、ダ・ヴィンチが重々しく頷いた。

 

 思い出すのは、“名なしの森”から脱出すべく行動を起こした時の事。

 

 それまでは楽しく愉快な者達だと思っていた妖精達が、突然立香(にんげん)を独占しようとした時に現れた、あの怪物(・ ・)

 突如地面を打ち破って現れた、どことなくワームに似たそれは、自身の出現と共に打ち上げられた妖精達を丸呑みにし、その花弁のようなアギトを開いて周囲の妖精達を無差別に喰らい始めた。

 自らが開けた穴から放たれる赤い光を浴びながら、家屋も木々も全て構わずに妖精を喰らい尽くすその怪物に見つからぬようなんとか逃げ出せたからよかったものの、もしあの時見つかっていたら、今頃自分達はあの怪物の腹の中にいただろう。

 

 オベロンによれば、あれは昔から妖精國に根付いている存在らしい。しかし、数百年出てこない時もあれば、一年の間に何度も出てくるなど、出現頻度はまちまち。しかも、出現するまでその存在の一切を周囲に悟らせないという徹底ぶり。

 だが、常に赤い光を伴って現れる以上、あの怪物の巣だと思しき場所は、それと同じ光を放ち続けるキャメロットの『大穴』だとは考えられている。が、あそこは女王モルガンでさえ迂闊に手を付けられない場所らしく、現在は彼女の“相棒”が燃え盛る氷(・ ・ ・ ・ ・)で封じているのだそう。

 

 

『正直に言うよ、立香。今の君たちじゃ、あれには勝てない。これまでも君や、君が召喚するサーヴァント達の戦いは見てきたけど、それでも無理だ。撤退成功と死亡の確率を比べるなら、2:8って言えるぐらいに。条件が整えば撃退できるだろうけど、それも無茶をしまくって得られる結果さ。だから、もう一度あれと出くわしたら、全速力で逃げよう』

『……うん、そうするよ』

 

 

 オベロンの言う通り、戦っても勝てない相手であっても、避けて通れない存在でないのなら逃げるが勝ちだ。

 

 そうして会話もそこそこに、立香達は見張り番を交代しながら夜を明かし、数時間かけてグロスターに足を踏み入れた。

 

 オークションは夜に行われるため、その間は自由に行動できる。

 オベロンはダ・ヴィンチと共に行ってしまい、レッドラ・ビットは外で野宿。必然的に残ったメンバーは立香とアルトリアになった。

 

 

「グロスターは本当に不思議な街でしてね。遠くにあるものが大きく見えたり、近くにあるものが小さく見えたり、時にはピンク色の雨が降ったり……まぁ色々と、とにかく目まぐるしく流行が変わるのです」

「へぇ……。なんか、まさしく『流行の街』なんだね。となると今は……」

 

 

 その時流行っているものが街に特徴として現れるのなら、と周囲を見渡してみる。

 すると、幾つかの建物の壁に、煌びやかな衣装を纏った妖精達が描かれたポスターがかけられているのが見えた。

 

 その誰もがカルデアで見た事のある顔立ちだ。しかし、赤兎馬と同じ外見を持つレッドラ・ビットという前例があるように、彼彼女らも外見が同じだけの妖精達だろう。そして、彼らの衣装から察するに、今グロスターで流行しているものは―――

 

 

「……アイドル?」

「どうやら今流行っているのは、それのようですね。しかも、あのアルム・カンパニーがプロデュースしてるなんて……」

「アルム・カンパニー?」

「少し前から人気になった会社ですよ。人間が社長をやってる唯一無二の会社でね、色んな事業に手を出してるんです。今回はアイドルのようですね。……あっ、ほら、あそこに」

 

 

 アルトリアが指差した方角を見やれば、こちらに背を向けて妖精達になにやら配っている女性達の姿が見えた。ポスターに描かれているものと似た衣装を着ているのを見る限り、彼女達もアイドルなのだろう。

 

 

「なぁんか、ああいう子達が配ってるのを見ると、ついつい貰っちゃうんだよねぇ~」

「? 立香さんはああいうのが好きなんですか?」

「ああいうのっていうか、かわいいもの全般好きかな。もちろん君もね、アルトリア」

「ひょえッ!? い、いいいきなりなにを言うんですかッ!」

「さ、行こうか」

「あっ……もうッ!」

 

 

 まさかいきなり『かわいい』と言われるとは思わなかったアルトリアが赤面するが、その間に立香は先に行ってしまう。それに憤慨しながらも、アルトリアは彼女についていく。

 

 

「一つ貰いま~す♪」

「あ、ありがとうございます。どう……ぞ……」

「ありが……と、う……?」

 

 

 なんとなしに一番近くにいた女性に声をかけ、振り返った彼女からチラシを受け取った後に顔を見て―――

 

 

「「……え?」」

 

 

 眼帯を外して素顔を曝け出していた女性―――オフェリアと立香の視線が交わるのだった。

 

 

 

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 時間は少しだけ巻き戻る。

 アンナ達が妖精國に足を踏み入れて、早数週間。

 その間にもアンナ達は必死に努力を積み重ね、ステージの上で披露するには充分な実力を手に入れた。

 しかし、いくら大企業アルム・カンパニーがプロデュースするといっても、いきなりライブをするわけではない。いきなりアイドルが出てきても、それを知らなければあまり楽しめないからだ。

 幸い、妖精とは楽しい事が好きな種族だ。大抵の事は快く受け入れ、各々で楽しんでくれる。

 行き過ぎない(・ ・ ・ ・ ・ ・)程度に接すれば、妖精はまぁまぁ安心できる種族だ―――とは、プロフェッサー・Kの言葉である。

 

 というわけで、アンナ達はまずは顔見せとして実際にライブで使用する衣装に着替えたのだが……。

 

 

「ほ、本当にこれで外に出るの……?」

「当然でしょ。アイドルがなに言ってるのよ」

「ちょっと、スカートが……」

 

 

 羞恥心に顔を赤らめ、右手で軽くスカートを押さえる。

 それを見かねた虞美人は「はぁ」と呆れたように溜息を吐いた。

 

 

「下着なら見えないようにしてるんだから、安心しなさいよ」

「それとこれとは話が違うのよ……」

 

 確かに、虞美人やミス・クレーン達がデザインした衣装はそのような作りとなっている。

 ステージ上でダンスする以上、下着は見えてしまうのは当然だが、もちろんそれをプロフェッサー・Kやアンナ達が許すはずもない。世の中には『見せパン』という概念もあるが、流石のプロフェッサー・Kもこの状況でそれを採用する気は無かったようだ。

 横に広がったスカートの中は下着が見えないようにガードされており、代わりにそこからは白のハイソックスに包まれた足が晒されている。

 しかし、普段はタイツを着用しているためにあまり素足を出さないオフェリアにとっては、これでも多少の羞恥心を感じるらしい。

 

 

「これに関してはカドックが羨ましいわ……」

「そう言われても、僕にはどうしようもないぞ」

 

 

 僕に言われても困ると肩を竦めたカドックや、ボレアス達男性陣は、オフェリアとは違って裾の長いズボンを履いている。男性な以上、自分のように足を出す衣装が合わないのはわかるし、自分が彼らと同じズボンを履いては折角作ってくれた衣装が無駄になってしまう。

 

 

「大丈夫よ、オフェリア。恥ずかしいのは最初だけ。少しすればすぐに慣れるわ」

「そうだよ、オフェリアちゃん。こんなにもかわいい衣装を用意してくれたんだから、楽しまなくちゃッ!」

 

 

 そう言ってオフェリアを励ますのは、ペペロンチーノの前でくるくる回って衣装の動きを確かめているアンナだ。

 オフェリアのものとは色違いの赤いアクセサリーがついた衣装を着込んでいるアンナには、羞恥心の欠片も感じられない。この一瞬で順応したのだろうか、その適応力の高さがオフェリアには羨ましく映った。

 ちなみに、カドックの隣に立つアナスタシアの衣装も同様であり、彼女の場合は氷を連想させる水色のアクセサリーが施されているものとなっている。

 

 

「しかし、なんだってこんな日に……。今日はオークションで『予言の子』が売られると聞いたんだが……」

 

 

 だが、カドックは今日活動する事に関してあまり乗り気ではないようだ。

 

 

「『予言の子』……。確か、武装した妖精だったかしら。でもそれを買おうだなんて、鬼畜ね」

「そういうわけじゃない。この妖精國において、『予言の子』の存在は重要なキーだ。出来るならこちら側に引き込みたい」

 

 

 顎に指を這わせ答えるカドックの瞳は、かつて彼がロシア異聞帯でカルデア討滅を目指して策略を巡らしていた頃と同じもの。その鋭い瞳でまだ見ぬ『予言の子』について口にするカドックに、プロフェッサー・Kがふっと小さく笑みを零した。

 

 

「その点については任せたまえ、カドック。そちらについては私が出向こう。今は亡き“鏡の氏族”の長エインセルが遺した予言に伝わる『予言の子』だ。必ずこちら側に引き込んでみせるよ」

「頼もしい限りだね。頼んだよ、K」

 

 

 任せたまえと頷くプロフェッサー・Kに見送られ、アンナ達は会社を出る。

 固まって行動すると自分達の存在をグロスター全体にアピールできないため、各自で別行動するという話になっていたので、途中でカドック達と分かれた後、アンナとオフェリアは行き交う妖精達にチラシを配り始めた。

 

 そして、今に至るというわけである。

 

 

 

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「あ、ぁ、あ……」

「えっと……オフェリアさん、ですか……?」

 

 

 最初こそ、レッドラ・ビットと同じように、かつて北欧異聞帯で出会ったオフェリアと同じ外見を持つ妖精だと思ったのだが、自分の顔を見るや否やぷるぷると震え始めた彼女を見る限り、「あ、これ本物だ」と心の中の自分が冷静に納得する。

 しかし、オフェリアの方はまさかここで立香と再会するとは思わず、咄嗟に背を向けてしまった。

 

 

「見られた……後輩に見られた……ッ! もう嫁に行けない……ッ!」

「も~なに言ってるの、オフェリアちゃん。お嫁に行けないのなら私が婿に行って―――あっ」

「あっ」

 

 

 今度は顔を覆って俯くオフェリアに近寄ったアンナと、立香の視線が交わる。

 

 

「あぁッ! 立香ちゃんッ! オリュンポス以来だね、久しぶりッ!」

「アンナさん、お久しぶりです」

「そう畏まらなくても大丈夫だよ。気軽にアンナって呼んで? ほら、オフェリアちゃん。彼女達は私に任せて、君はチラシ配りをしてて」

「え、えぇ……ありがとう」

 

 

 流石に一緒に立香達の相手をしては仕事が出来ないので、恥ずかしがっているオフェリアにチラシ配りの仕事を任せ、「さて」とアンナは立香と、その隣に立つアルトリアに視線を向ける。

 

 

「君は初対面だね。名前は?」

「えっと、アルトリア・キャスター……です」

「アルトリア……?」

 

 

 アルトリアが名乗った名前にピクリと眉を動かし、アンナが彼女の顔をじっとのぞき込む。

 

 

「え、あの……」

 

 

 突然自分の顔を凝視され、思わず顔を逸らすアルトリア。それに気付いたアンナは「あぁ、ごめんね」と謝り、彼女の頭を撫でる。

 

 

「良い名前だね。私の知り合いと同じ名前だ。でも……君は彼女とは違う(・ ・ ・ ・ ・ ・)みたいだね」

「…………」

「立香ちゃん」

「なに?」

「お願い、アルトリアと仲良くしてね」

「……? もちろんですけど……」

 

 

 なにを当たり前の事を、と訝し気に思いながらも頷いた立香に頷き返すと、アンナはいきなりアルトリアを抱き寄せた。

 それにアルトリアが反応するより早く、周囲には聞こえない程に小さなアンナの囁きが耳朶を震わせた。

 

 

「―――ごめんね(・ ・ ・ ・)

「……ぁ……」

 

 

 その短い言葉に、アルトリアは大きく目を見開く。

 彼女の言葉に、アルトリアは本能的に察した。

 

 ―――彼女は、自分の()を知っている。

 それを知った上で、自分にそう言ってきたのだ。

 

 そう気付いた途端、アルトリアの心に黒い靄がかかる。だが、すぐにそれを周囲に悟られぬように必死に押し殺し、愛想笑いを浮かべた。

 

 

「なになに? なんの話をしてたの?」

「なんでもないよ。なんとなく、抱き締めたくなっただけ」

「お、もしかしてアンナもかわいいもの好き?」

「ん、まさか君も?」

 

 

 立香とアンナはお互いにじっと相手と見つめ合い―――

 

 

「「同志よッ!」」

 

 

 大きく両腕を広げ、相手を強く抱き締めた。

 そんな二人にアルトリアが目を丸くしていると、背後から微かな怒気を感じた。

 振り返ってみると、そこには―――

 

 

「アンナ? どうして藤丸と抱き合ってるの?」

「あ……ま、待って? これにはちゃんとした理由が……あぁっ!」

 

 

 立香と抱き合ったまま冷や汗を流すアンナを、オフェリアがぐいっと立香から引き剝がす。そのまま流れるように彼女の肩を抱き、スッと細めた瞳で立香を見やる。

 

 

「ごめんなさい、藤丸。彼女、スキンシップが激しいから……困ったでしょう?」

「え? べ、別に困っては……ひぃッ!?」

 

 

 困ってはいないと答えようとした途端、立香はオフェリアの細められた瞳に宿る感情の炎に気圧された。

 

 その瞳に宿る感情を、立香は知っている。

 それは、かつてギリシャ異聞帯攻略後に召喚した狩人が、とある龍についての話をした際にした者と同じだった。

 しかし、次の瞬間にはオフェリアが自分の表情に気付いたのか、「あっ」と声を漏らし、頭を下げてきた。

 

 

「……ごめんなさい、先輩として情けない事をしたわ」

「あ、だ、大丈夫ですッ! はい……」

「そう……、ごめんなさい」

 

 

 もう一度謝り、オフェリアは中断してしまったチラシ配りを再開する。

 

 

「そろそろ私も戻らなきゃ。もうちょっと話したかったけど、流石にこれ以上仕事を抜けるわけにもいかないしね」

「あ、ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまって……」

「いいのいいの。君達に会えただけ幸運だよ。……そういえば、マシュちゃんはどうしたの?」

「その、実は―――」

 

 

 ふと疑問に思った事を訊ねてきたアンナに、立香は事情を説明する。

 

 

「……なるほどね。マシュちゃんが『予言の子』としてオークションに出てるかもしれないと……。となると、苦しいかもしれないね」

「苦しい? それはどういう……」

「だって、プロフェッサー・K―――私達の社長もその『予言の子』を欲しがってるんだもん。こう言うのはあれだけど……君達の手持ち金で彼に勝てる?」

「「あ……」」

 

 

 アンナから提示されたあまりにも巨大すぎる壁に、立香とアルトリアの声が重なった。

 

 

 

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「参ったな……。来てほしくないと思ってたけど、来ちゃったかぁ……」

 

 

 時は経ち、夜。

 招待状を片手にオークション会場に入ったオベロンは、立香とアルトリアからもたらされた情報に眉を顰めた。

 

 

「どうしよう。正直言って、こっちの手持ちは心許ない。あそこの社長さんと比べれば、それこそ塵にも等しいレベルだ」

 

 

 自分達から少し離れた場所―――オベロン達と同じく同じVIP席に腰を落ち着けている、星を模った仮面をつけた金髪の男をオベロンが睨む。

 こちらの持ち金は、7000万モルポンド(しかし偽札)。偽札な以上バレると厄介だが、今夜さえバレなければ後はこっちのものなので問題はない。

 問題は並み居る好事家相手にこの金額で競り勝てるかどうかである。大抵の勝負に勝てる資金ではあるが、今回は商品が商品な以上、オークションは荒れに荒れるだろう。最悪の場合ウェールズの森を担保に入れる可能性も出てくる。

 

 

「……あれ?」

 

 

 どうしたのものかとオベロンがうんうんと唸っている頃、仮面の男―――プロフェッサー・Kを見つめていた立香はふと首を傾げた。

 

 

「? どうしましたか、立香」

「いや……なんか、見覚えがあるような……」

 

 

 仮面を付けている事に加え、自分達より前の椅子に座っているために顔を見る事は出来ないが、その後ろ姿から感じる既視感に立香が違和感を感じていると、「やっぱり、君もそう思う?」とダ・ヴィンチが声をかけてきた。

 

 

「うん。初めて見るはずなのに、どこかで会ったような気がするんだよね」

「私もだ。……いったいどういう事だろう。外見こそ同じ妖精ならそれで片付けられるけど……」

 

 

 二人は話し合いながらもう少し彼の姿を記憶に刻み込もうと直視する。

 そんな彼女達の視線に気づいてはいないのか、プロフェッサー・Kはじっと手元のカタログを眺め―――

 

 

「見ろ、Lッ! 『敵地潜入用タイツ』だッ! これはいざという時の為に買いだと思わないかい?」

「ただの真っ白な全身タイツじゃねぇかッ! バレバレにも程があんだろッ!」

 

 

 その一つの商品に目を止めて騒ぎ始めたと思いきや、隣に座る、自分と同じく仮面を装着した女性に頭を引っ叩かれた。

 Lと呼ばれたその女性を立香達は知らないが、その白銀の髪の中から伸びる動物の耳に、二人は見覚えがあった。

 

 

「あれって……カイニス?」

「う~ん、どうだろう。私達の知る彼がああいうのを付けるタイプとは思えないから、別人じゃないかな」

「そうかな……そうかも……」

 

 

 もし、自分が召喚したカイニス()にあれと同じ仮面を付けてほしいと言ったら、間違いなく「馬鹿じゃねぇの」と心底嫌そうな顔で拒否されそうだ。それを彼女は、さも当然のように付けている。となると、彼女はカイニスとは外見こそ瓜二つな妖精なのかもしれない。

 立香達がそう結論付けた直後、アルトリアが立香の袖を引っ張ってきた。

 

 

「アルトリア? どうしたの?」

「その、オベロンが……」

「オベロン?」

 

 

 沈んだ面持ちのアルトリアが指差したオベロンを見ると―――

 

 

「マズイな……。伸縮性、機動性、隠密性……格好こそふざけてるけど、スペックは格別だ。いつかキャメロットに忍び込む時に使えそ―――」

「「オベロンッ!!」」

 

 

 案外乗り気だった妖精王(バカ)の頭に、立香とダ・ヴィンチの平手が炸裂した。

 

 結局のところ、オークションに出品された『予言の子』とは『異星の神』からモルガン抹殺の任を受けるもメリュジーヌとカリア、そして“熾凍龍”に撃退された千子村正であり、マシュではなかった事に立香達は落胆した。

 

 しかし、オベロンの必死の行動によってなんとか村正の救出(こうにゅう)に成功。プロフェッサー・Kは例の『敵地潜入用タイツ』で手持ちを使い果たしてしまい、村正を購入する事は出来なかったのであった。

 

 

 ―――その後、アルム・カンパニー本社から凄まじい轟音と共に空に射出される金色の光が見えたという噂が立ったとも立たなかったともされているが、真実は定かではない。

 




 
 Q,原作ではオークションに参加していたバー・ヴァンシーがいないのはなぜ?

 A,『予言の子』について聞いてはいたが、製作中の靴が最高の出来栄え(つまりモルガンへの贈り物)になりそうだったので参加拒否。ちなみに参加していた場合、カリアの尽力により原作より少しマイルドな性格になっているためにアルトリアとはあまり険悪な雰囲気にはならず、むしろお互いに良い好敵手(ライバル)を見つけた気持ちになっていた模様。


 大変長らくお待たせいたしました、遂にアンナのイラストが完成しましたッ!
 最初に投稿したのと見比べてみると、大分成長したんじゃないかと思いますので、なにかしら感想を送ってくださるとうれしいですッ!
 上が以前に投稿したもので、その下が今回描き上げたものですッ!

 
【挿絵表示】

 
【挿絵表示】


 新しいイラストは読み込ませる為にサイズを縮小させたため荒っぽくなっていると思いますが、ご了承ください。
 次はアンナとオフェリア、ボレアスやバルカン達のイラストも描きたいところですね。最近はNovelAIというものもありますし、なにかしらそれを活用したイラストを製作してみるのもいいかもしれないですねぇ。ポーズや構図の参考にしたりするのもよさそうですし。

 それではまた次回、お会いしましょうッ!

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