こんばんは、皆さん。
先週購入したポケモン新作が楽しすぎて危うく更新に遅れかけたseven774でございます。
急ピッチで仕上げたものなので誤字脱字が目立つかもしれません、大変申し訳ございません。
それでは本編、どうぞですッ!
城塞都市シェフィールド。
この妖精國ブリテンの首都キャメロットを除いて、唯一の城を抱く街。
城塞造りを
かつては妖精國が誇る戦力の一つであるウッドワスと戦友であった“牙の氏族”の妖精ボガードを領主に戴くこの街は、女王モルガンへの叛意を掲げながらも豊かな場所であった。
街頭には様々な店が並び、和気藹々とした妖精達の声が周囲を埋め尽くす―――街の風景が決まってそういったものであるのは、
城の最奥に安置されている、眩い蒼い光を放つそれは、ボガードが戦役時代に見つけたもの。その美しさと優しさを兼ね備えた光に
後にウッドワスに氏族の長を決める戦いで敗北し、現在のノリッジ領主であるスプリガンからノリッジを追い出されるも、ボガードはその原石だけは手放さなかった。
百年前まで廃墟だったシェフィールドの街を再興し、数多の住人を抱えるようになったボガードは、その光の強さを見て己や住人達の気持ちを把握し、その都度どのように街に変化の風を吹かせるかを考え続けた。それ故だろうか、シェフィールドはブリテンの中でも最高位に属するレベルで過ごしやすい街になり、それに比例してそこに滞在する妖精や人間も増えていき、同時に活気も増していった。
この街では、妖精と人間の間に格差はない。ボガードが、自分がかつて追い出された者であるように、自分の下に集ったのは同じ“追放された仲間”だろうと受け入れたからだ。他の場所の人間は奴隷同然の扱いを受けているが、この街にはそれが無い。妖精の中には、人間の女性にプロポーズしようと考えている者もいるぐらいだ。
もしかすると、このシェフィールドこそが、真の意味での『妖精と人間の共存』を達成している街なのかもしれない。
笑顔が溢れる街―――正しくその呼び名が相応しいシェフィールドだが、しかし、今はとてもそう呼べるような状況ではなかった。
―――城塞都市を包囲するは、数多の軍勢。
三種類の軍旗を夜風に靡かせる彼らは、女王モルガンの軍勢。三騎の妖精騎士達のそれぞれが従える兵士達。
彼らの狙いは、この妖精國を救う存在として語られる『予言の子』。手にする盾が妖精には握れぬ鉄で構築されていたマシュがそう呼ばれていたのを聞きつけたモルガンが、彼らをシェフィールドへと出陣させたのだ。
これに対し、ボガードは徹底抗戦を敢行。彼の下に集った兵士達が奮戦するも、しかしこの國の最高戦力である軍勢の前では多勢に無勢。均衡は成り立たず、さらには城下町の妖精達が自分達を逃がせと暴動を起こす始末。
最早ボガード軍は、まともに女王軍を相手にする事すら出来なくなってしまっていた。
『城壁、城内、共に混乱が収まりませんッ! せめてどちらか一方だけなら……ッ!』
『どうか指示を、ボガード様ッ! 我々はどうすればいいのですかッ!?』
『女王の軍が来ようと凌げると言ったのは貴方だッ! それとも、今から『予言の子』を差し出して―――』
『わかっている、わかっているともッ! 一方を黙らせればいいのだろうッ!』
矢継ぎ早に指示を仰ぐ兵士達に、この街の領主であるボガードがその白銀の
獅子が如きその顔には明らかな焦りが浮かんでおり、今の状況の苛烈さを見る者に思い知らせる。
『魔術の大砲ならこちらにもあるッ! 『予言の子』の力、試してやろうッ!』
激昂したボガードは、天守に取り付けられたとある兵装に走り寄った。
それは、マシュが常に肌身離さず持ち歩いていた
一回撃つのでさえ砲手には絶大な反動がかかるそれを、しかしボガードが知る由もなく、ただ戦況を打破するきっかけになってくれれば、という淡い期待を抱くだけに留まってしまった。
―――それが、シェフィールドの終わりの始まり。
攻城戦を殲滅戦に変えてしまった、きっかけの一撃だった。
砲身より放たれた光の束は想像を絶する一撃となって、女王軍はおろか、その射線上にいたシェフィールドの住民や兵士達をも呑み込んだ。
直撃した者達は蒸発。当たりはしなくとも、近くにいた妖精達は全身から血を噴き出して絶命し、または眠るように死んだ。
妖精騎士の一人である
なるほど、戦況は確かに変わったのだろう。
しかし、それはボガードが望んだ形ではなく、寧ろ悪化させてしまったものだったのが、唯一にして最大の失敗だったのだ。
「ははははははははッ! なんだこれはッ! 凄まじい、凄まじいッ! 見るがいい、兵士達よッ! これが天運でなくてなんだというのだッ!」
それを聞く兵士達などもういないというのに、零れ落ちそうな程に目を見開いてボガードが叫ぶ。
しかし、ボガードがそれに気付く事はない。兵士達の亡骸を目にしながらも、既に彼の心はこの黒き大砲の威力に魅入られてしまい、ただ『これさえあれば勝てる』という確信しかなかった。
「あ、あぁ、あ……」
その光景に、マシュは膝から崩れ落ちた。
これは、自分の罪なのだと。完全な異邦人だった自分を快く受け入れてくれたシェフィールドの住人達が、ゴミのように消されていく。確かな優しさを以て接してくれたボガードが、狂ったように笑いながら砲撃を続ける―――それは全て、自分が招いた事。しかし、彼女が本当に『罪』だと認識していたのは、それとは別のもの。
それは、自分の弱さ。
記憶をなくした事を言い訳に、自分が周囲に与える影響の強さを考えていなかった浅はかさだった。
「次だ、次はどこだッ!? メリュジーヌめ、どこを飛んでいるッ!?」
蒼褪めた表情でいるマシュの視線の先で、ボガードが夜空を睨み上げる。
そこを駆ける、蒼い流星を見つけた直後、再び引き金を引く。照準を固定せずに放たれた砲撃は、しかし流星に当たらない。さらに、
それに苛立ったボガードだったが、たまたま城下町に乗り込もうとしていた女王軍が目に入り、標的を切り替えた後に発射。再び女王軍の妖精達が蒸発した。
「フハハハハッ! 凄い、凄いぞッ! 消えろ……消えてしまえッ! 女王軍も妖精騎士も、全て、全てェッッ!!」
「……っ、ボガード様ッ!」
笑うボガードに、マシュが思わず駆け出す。
自分の罪を認識して茫然としていたが、今は戦闘中であり、そうしていられる余裕などないのだと、数多の戦場を駆けてきた本能が彼女の体を動かしたのだ。
それに、わかってしまうのだ。
狂笑と共にエネルギー砲を撃ち続けるボガードの様子に恐ろしさを感じながらも、彼の体が凄まじい勢いで衰弱していくのが。
多少の怪我は負っているものの、動けない程ではない。せめてあの砲台から離す事が出来ればと組付くが―――
「チィ、邪魔をするなッ!」
「あぐ……っ!」
如何に数多の戦場を駆け抜けてきたとはいえ、盾もなしに妖精の膂力に真っ向から対抗できるわけもなく、為す術なく殴り飛ばされてしまった。
頬を中心に感じる鈍い痛みに顔を顰めるも、すぐに起き上がる。
明らかに様子がおかしい。いつものボガードであれば、このような事は絶対にしなかった。
ただあの砲撃を行っただけではこうならない。なにか別の原因があるはず……そう思って周囲を見渡してみると、とあるものが目に入った。
(あれは……)
それは、かつてボガードが見つけたという巨大な宝石。これまでは美しい青色に輝いていたそれが、今では黒く変色してしまっているのだ。
悍しく恐ろしい、一切の光の存在を許さぬような漆黒の宝石からは絶え間なく黒い瘴気のようなものが溢れ出ており、それは全てボガードへと流れ込んでいた。
「もう駄目だ……ッ! マシュッ!」
「な―――ハベトロットさんッ!?」
絶えず笑いながら引き金を引き続けるボガードに、もう彼は無理だと見切りをつけた妖精がマシュのスカートの裾を引っ張り始める。
その妖精の名は、ハベトロット。
汎人類史ではスコットランドに語られる糸紡ぎの妖精。糸紡ぎをする際に糸を咥え続けるので、その影響で一説では唇の腫れた醜い老婆とも言われるが、彼女の場合は愛らしく若々しい少女の姿をしている。また、彼女は小人であるため、身長に至っては50~60cmしかない。
彼女がマシュと出会ったのはこのシェフィールドが初めてであったが、ボガードの花嫁として迎え入れられたマシュの花嫁衣装を作った時や、その後の出来事を含めて、二人の間には確かな友情が芽生えていた。
そんな小さな友人の力程度、マシュの膂力でどうにでも出来てしまうが、しかし彼女はそこに踏み留まれなかった。
「ボガード様……」
「はは、はははは―――アハハハハハハッ!!」
気高くも優しい光を宿していた瞳には、最早凶気しか宿っていない。血のように赤い眼光を迸らせて引き金を引く度、ボガードは何度も笑い、その度に背後にある宝石からは禍々しい漆黒のオーラが放出される。
それが注がれ、発射。再び注がれ、発射―――既にボガードの姿は漆黒のオーラに呑まれ、チラチラと燃える炎の光によって、辛うじてその輪郭を把握出来る程にまでなってしまった。
「マシュッ! 早く行かないと……ッ! ボガードもそうだけど、ヤバいのはあの奥にある宝石だッ! なんだかわからないけど、今のあれはヤバいッ! 下手すると、ボクらにまであのオーラがくっつくかも―――ってうわぁッ! こっち来たぁッ!」
走り出す二人に、宝石からボガードに向けて放たれていたオーラの一部が二人に襲い掛かる。
まるで、二人もボガードと同じようにしようと伸ばされる暗黒の手を前にハベトロットが絶叫するが―――
「っ―――はぁッ!」
ハベトロットを背に立ったマシュが勢いよく手元に出現させた盾を突き立てると、純白に輝く魔力の障壁が出現。盾より放たれる優しくも勇ましい輝きは、所有者とその友に襲い掛かろうとした暗黒を弾き飛ばした。
盾の光から逃れるようにオーラがじりじりと後退していく隙を突き、マシュはハベトロットを片腕で抱き上げて走り出す。
時折襲い来るオーラを盾の光で防ぎながら、マシュはオーラの奥―――そこにいるであろう男を思い浮かべる。
不器用でも確かに他者に対する慈愛の心を持っていた、心優しき領主。愛なんてないと言われながらも、その実、きっと持っていたであろう妖精。共に過ごした時間は数日程度の関係でしかなかったが、時折見せてくれる笑顔が、彼女は好きだった。
彼には笑っていてほしかった。女王モルガンに反旗を翻していたとしても、それぐらいの事は許されるはずだと。
だが―――
「ハハハハハ……ハーハッハッハッハッハッ!!!」
彼女が望まない笑顔をしているだろうボガードの狂笑は、城を出ても尚マシュを苛み続けるのだった……。
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マシュとハベトロットが城から脱出した直後の事、今尚城から外部の女王軍目掛けて砲撃を放ち続けるボガードを殺害する為に乗り込んできた影が二つ。
妖精騎士の一騎にして、女王モルガンの後継者たるバーヴァン・シー。そして、その御目付け役であるベリル・ガットとカリア。
瓦礫と炎で酷い有り様と化していた階段を上っていた直後、先行していたカリアが軽く腕を上げたのを見てバーヴァン・シーとベリルが足を止める。
カリアが少し先にある扉にヘルムの奥にある両目を細め、ハンドサインで背後の二人を後ろに下がらせる。二人が充分な距離を取った事を確認した後、背中に担いでいた操虫棍―――エイムofマジックを右手に携える。
背後からの視線を受けながら扉を押し開け―――
「ハ―――ッ!」
扉の隙間から微かに黒いオーラが漏れ出た瞬間に一閃。
飛び退くと同時に繰り出された、赤黒い稲妻を纏った刃によって、カリア達を包もうとしたオーラは霧散。その隙に室内に入り込んだカリアは、再びオーラが襲い来る前に操虫棍を床に突き立てる。
すると、彼女の操虫棍から龍属性の力を宿す稲妻が周囲に放出され、瞬く間に周囲の黒いオーラを押し留め始めた。
床から操虫棍を離して対策を済ませた事を告げると、恐る恐るバーヴァン・シーとベリルが入ってきた。
「おいおい……なんだよ、これ……」
「……これはちょっと、怖ぇな……」
彼らの視界に最初に入ってきたのは、カリアが放った稲妻の壁によって阻まれている黒いオーラ。阻まれながらもなんとか壁を食い破って襲い掛かろうとしているのか、バチバチと周囲からオーラが稲妻によって堰き止められていると思わしき音が聞こえる。
その悍ましさと恐ろしさにバーヴァン・シーが身震いした直後、なにかが稲妻の壁にぶつかってきた。
「―――ッ!? なに……ヒィッ!?」
「オ、オォオオオ……ッ!! 妖精騎士……トリスタンッ!! バー・ヴァンシィィイイイイィイイッ!!!!」
壁に阻まれながらも牙を剥き出してバーヴァン・シーに襲い掛かろうとしたのは、ボガードだ。しかし、今の彼にはかつての平穏な様子は欠片もなく、最早妖精騎士とモルガンへの憎悪しか残っておらず、その双眸に煌めく赤い光は、女王モルガンの後継者であるバーヴァン・シーを射殺さんばかりの眼光となっている。
妖精とは、生まれた時より望みの指向性が決まっている。
『愛されたい』、『憎まれたい』、『護りたい』、『傷つけたい』など、その方向は多岐に亘るが、ボガードの場合は『憎みたい/憎まれたい』というものが当てはまる。元々暴力衝動が強い氏族の出身であるボガードは理性によって抑えつけているが、それを続けている間、彼が本領を発揮する事が出来ない。
だが、今は―――黒き砲台と、漆黒の宝石の影響を受けている今は―――彼に理性など欠片も存在していなかった。
今の彼にあるのは、凶気。遍く平穏を終わらせ、悲劇と絶望で覆い尽くす、昏き激情。
それに支配されたボガードに、最早理性のタガは意味を成さず、また彼自身自分を諫めようという気持ちもない。
「凶気に呑まれたようだね、ボガード。君のそんな姿、ボクは見たくなかっ―――」
「オォアァ……ッ!」
「あっ、マズイ」
カリアが片眉を吊り上げた直後、ボガードは無理矢理龍属性の稲妻の壁を打ち破り、バーヴァン・シーへと襲い掛かる。
邪魔な壁がなくなったボガードは一直線にバーヴァン・シーに迫る。しかし、彼女の顔には多少の焦りはあっても、既に恐怖は無くなっていた。
研ぎ澄まされた瞳でボガードを見据えながら、ノールックで腰元に装備していた妖弦を取り出し、奏でる。
「グォ……ッ!?」
フェイルノートから放たれた音の斬撃がボガードに直撃する。
音による一撃を受けたボガードの体が吹き飛ばされるが、彼はすぐさま立ち上がって唸り声を上げ始める。
「チッ、硬さだけならバーゲスト以上っていうのは本当かよ……」
フェイルノートを構え、ボガードの動きを一つも逃がさぬように彼を見据える。
正直言ってしまえば、バーヴァン・シーの戦闘力は他の妖精騎士の中と比べて低い。彼女にバーゲストのような強固な鎧や
しかし、それだけでは弱いと、彼女も忌々しくも理解していた。
そんな彼女が頼ったのが、母親の手を借りて召喚に成功したカリアである。
妖精國に流れ着いた叙事詩で語られていた最強の狩人の一人である彼女に対し、バーヴァン・シーは自らを鍛えてほしいと申し出た。両者の得物が違うために武器を使った戦い方はあまり教えられなかったものの、あらゆる状況に対してもフェイルノートを使えるように訓練を続けてきた。
結果、まだ精神こそ未熟であるものの、彼女はかつて歴戦の勇士であったボガードでさえも警戒する程の実力者へと成長したのである。
その証拠に、ボガードもバーヴァン・シーが強敵である事を本能で把握したのかすぐに飛びかかろうとはせず、唸り声を上げるも手を出せないでいる。
さらに、彼女の傍にはカリアもいる。屈指の実力者である二騎を相手にしては、流石のボガードも分が悪い。
しかし、その程度で止まる程、彼の憎悪と憤怒は甘くない。
「ガァアッ!!」
「ハッ、当たらねぇよッ!」
「グ……ッ!」
飛びかかってきたボガードの体を受け流し、勢いを殺さぬまま回し蹴り。如何に頑丈な身体とはいえ、受け流された上に無防備な背中に蹴りが叩き込まれてしまえば多少のダメージは入る。余分な勢いが加わった事でボガードが体勢を崩した直後、フェイルノートを奏でられる。
優雅な音には似合わぬ強烈な斬撃がボガードの衣服を斬り裂くが、やはり体には傷一つつかない。
振り向いたボガードが拳を握るが、そこへカリアの斬撃が迫っているのに気づき、防御。フェイルノート以上の威力を以て繰り出された斬撃はボガードの腕に傷をつけた。
(カリアでも決定打にはかけるか……。ま、
彼女単騎であればもっとマシなダメージを与えられていたであろう。しかし、それはこの場に自分やベリルがいなかったらという話。自分達を巻き込まないように、カリアも手加減しなければならないのだ。
しかし、ボガードの暴走に止まる気配は感じられない。となると―――
「こいつの使い時だよなァッ!」
「―――ッ!? グ、オォオ……ッ!!」
バーヴァン・シーがフェイルノートを持っていない腕をボガードに向けた瞬間、彼の動きが止まる。
ボガードもなにが起こったかわかっていないのか、歯を食い縛りながら自分の四肢を動かそうとする。しかし、彼の体はその意思に反するように動かず、まるで石のように固まってしまっている。
それは、対象の魂を映し出して似姿を作るおまじない。手元に出現させた対象をコピーした人形に損害を与えれば、本人にも反映されるという魔術。
その名を―――
「おぉっ、フェッチッ! ありがたいねぇ、オレが教えた魔術がこうして実戦で使われるなんて」
「ありがとう、ベリル。これのお陰で、変に疲れずに済むぜ」
「ま、オレにゃあ高度過ぎて使えないやつだからな。宝の持ち腐れってやつ? 妖精であるお前さんなら問題ないと思ってたが、まさか相性バッチリだなんてなッ! いやぁ、ここまでハマるとは思わなかったッ!」
フェッチで身動きが取れないでいるボガードに近づき、試しに指先で体に触れてみる。通常であればそんな事をした時点でベリルの命はないものだが、バーヴァン・シーの魔術に囚われているボガードにはそれすら許されない。
「んじゃ、さっさとこいつ殺しちまうか。
「そうだね。今回のボクらの役目は、陛下へ反旗を翻した彼の殺害だ。マスター、申し訳ないけど、もう少しだけ彼の動きを止めておいてくれるかい?」
「……ねぇ」
操虫棍を片手にボガードの首を刎ねるべく近づくカリアと、余計な血しぶきがかからないようにと移動したベリルの耳に、バーヴァン・シーの声が届く。
何事か、と二人の視線がバーヴァン・シーに向くと、彼女は少しだけ眉を顰めてから問いかけた。
「ここで殺すのは、まだ早いんじゃない?」
「……はぁ?」
その言葉に真っ先に反応したのは、ベリルだ。
「いやいや、待ってくれよレディ・スピネル。これはモルガンからの依頼で、今回のオレ達の役割だろ? それを止めにするってか?」
「そういうわけじゃねぇよ。でも、明らかに様子がおかしいだろ? 例の
昔からこの妖精國で起こる、赤い光による妖精達の凶暴化。今回のボガードがそれに近しいものが原因でこうなったのであれば、女王モルガン直々に彼を検査してもらえれば少しは妖精の凶暴化への知識が得られるかもしれない。
そう思ったバーヴァン・シーの言葉に、しかし「つってもなぁ」とベリルはあまり乗り気ではない。
「それとは関係ないんじゃねぇか? もしそうだったら、こいつ以外にも悪妖精化した奴がいんだろ。だが、ここに来るまでそういった連中は一人もいなかった。その可能性は低いだろ」
「いや、でも―――」
(む……?)
ベリルとバーヴァン・シーがボガードの処遇について話し始めた直後、カリアはボガードの体に黒いオーラが流れ込んでいるのに気づく。
今まで周囲が黒いオーラによって覆われていた事と、バーヴァン・シーとベリルを巻き込まないように注意していた影響で気付かなかったそれの根源を視線で追っていくと、その先にオーラと同じ色を持つ、漆黒の宝石を見つけた。
「あれは……」
その宝石に「やはり」と思いながら歩み寄っていくカリアの耳朶を、ベリルの声が震わせる。
「第一、その悪妖精化する前兆だって言われてる赤い光すら―――……おいおい、マジかよ……」
「? ベリル、どうし―――ッ!?」
「っ、マズイッ!!」
突然の地震に動揺するベリルとバー・ヴァンシーだが、この中で最も早くその異常の正体に気付いたカリアが、咄嗟に操虫棍を消滅させて二人を両脇に抱え込んだ。
「な、カリアッ!?」
「話は後だッ! 今はこの城から……シェフィールドから逃げるッ!!」
「逃げるって、なに言って―――」
バーヴァン・シーの抗議は、しかし彼女自身が留めた。
見えたのだ。自分達を担ぐカリアの足元。凄まじい勢いで亀裂が走っていく床の隙間から、
「赤い光―――ッ!? まさかッ!」
「おいおいマジかよッ! こんな時に来るってかッ!? 冗談にも程があるだろッ!」
「口を閉じたまえ、舌を噛むぞッ!」
カリアの叫びを受け、咄嗟に口を閉じる二人。瞬間、カリアは壁が崩れて吹き抜けになっていた場所からジャンプし、辛うじて形を保っている建物の屋根を伝って移動。その間にも亀裂から覗く赤い光は徐々にその数を増していき、カリアが城壁の焼け跡から街外に出た直後、遂に街の中心が崩壊し、そこから巨大な影が出現した。
「ガァアアアアアアアアッッッ!!!」
白銀の鱗で全身を包み込み赤い光を纏って現れたそれは、花弁のように開いた顎から咆哮を轟かせ、シェフィールドを包囲していた女王軍達に戦慄と恐怖を抱かせた。
「こいつは……ッ!」
「バーゲストッ!」
「ッ! カリアッ!」
「今すぐ軍を引かせたまえッ! ここにいさせては奴の餌にするだけだぞッ!」
「ボガードはどうした?」
「……すまない。それどころではなかったんだ」
「……そうか。わかった、兵を引かせる。―――総員、撤退だッ! 撤退せよッ!! 殿は我々に任せろッ!」
『ハッ!』
バーゲストの指示を受け、シェフィールドを包囲していた女王軍が次々と街から離れていく。その間にも少なくない数の妖精達が巨蟲に喰われていくが、そうはさせじとカリアと三騎の妖精騎士達が注意を引き、一人でも多くの妖精達を逃がしていく。
巨蟲が姿を消したのは、それからしばらくしない内の事だった。充分な妖精を喰って腹を満たしたのか、それとも絶え間なく攻撃を仕掛けてくる狩人と妖精騎士達に嫌気が差したのか、それともその両方かはわからないが、巨蟲はその体躯を出現した大穴に引っ込めていった。
カリア達も注意を引き、赤い光によって作られた障壁に苦戦した影響で体力を消耗したのもあって、追撃はせずにそのまま帰投となった。
翌日、とあるニュースが妖精國中を騒がせた。
妖精騎士達のよるシェフィールドの壊滅。
大穴の巨蟲の出現。
領主ボガードが行方不明。
主にこの三つのニュースが國全体に広がり、しばらくの間妖精達の話題となった。
その後、新たに開けられた大穴には先遣隊が調査に向かったものの―――
「な、お前はまさかッ!」
「陛下からのご命令だッ! 生きて捕縛せよッ! 無理ならば殺しても構わんッ!」
「オ、ォオ、オオオオオアアアアァァァァァァッッッ!!!」
「む、無理だ……。こんなの、殺すどころか、捕まえる事も出来な―――ギャァッ!」
―――そこから生きて帰ってきた者は、誰一人いなかった。
そういえば第二部最終章のナウイ・ミクトランが来月下旬に配信が決定しましたねッ! トラオムをクリアしていなくともプレイできるという話ですが、どのようなストーリーになるのか、楽しみですねッ!
そしてキャストリア復刻ガチャ、皆さんはもう引きましたか? 私はもう持っているので、次のオベロンPUまで石を溜め続けるつもりですッ!
それでは次回もお楽しみにッ!