【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 いよいよ明日に迫ったメリュジーヌPUと、その後に控えるオベロンPUに向けて意識を高めている作者でございます。
 
 遂に2部7章、ナウイ・ミクトランのタイトルが公開されましたねッ!
 ……あれ? もしかしてこの話をここでやるとなったら、下手したら三つ巴どころか五つ巴になるのでしょうか……。アーキタイプアースvsU-オルガマリーvsアンナvsORTvsカルデア?
 ……アーキタイプアースはカルデアに協力してくれそうですが、地球が壊れないよう頑張ります、ハイ。

 最近、友人に誘われてウマ娘を始めてみたのですが、楽しいですねぇ。育成こそ大変で、レースで一着を取れなかった時は本気で悔しいですが、一着を取った時は本当に嬉しくなりましたッ! 皆さんも是非、興味があればプレイしてみてくださいッ!

 今回はボレアス達の話ですッ! 少し短いですが、どうぞですッ!



たとえ、偽りであったとしても

「それじゃあ私達は行くね。ボレアスも頑張ってねぇ〜。バルカンにもよろしくねぇ〜」

「はっ、お気をつけて」

 

 

 恭しく頭を下げたボレアスに手を振りながら、アンナとオフェリアが街に出ていく。

 彼女達の気配が遠退いていくのを確認した後に頭を上げたボレアスは、食堂で食事をしているであろう(バルカン)の元へ向かおうとして、こちらに向かって近付いてくる気配に足を止めた。

 

 

「あ、ボレアスさぁ〜……ん」

(……様付けしようとしたな)

 

 

 振り向いた先で軽やかに着地した妖精……妖精騎士ランスロットことメリュジーヌは、きょろきょろと辺りを見渡し始める。

 

 

「ルーツさ……アンナはどこにいるの?」

「姉上は先程出掛けられた。お戻りになるまでしばらく時間がかかる」

「そう……」

 

 

 しゅんとした様子で肩を落とすメリュジーヌ。そんな彼女から少し視線を外してみると、妖精達が遠巻きにこちらを眺めている事に気付く。

 

 

「……入れ、ここでは目を引いてしまう」

「あ……うん、わかった」

 

 

 流石にこの視線に晒されながら話をするのは酷だろうという考えの元、ボレアスはメリュジーヌを連れてアルム・カンパニー内への入る。

 

 

「おっ、兄貴。それとメリュジーヌじゃねェか」

「あっ」

「む、バルカンか」

 

 

 そこへ、食事を終えたのかバルカンが姿を現した。きょろきょろと辺りを見渡していたのを見るに、恐らく……。

 

 

「なぁ、姉貴はどこ行ったんだよ」

「先程出掛けられた。急ぎの用か?」

「いや、別にそういうわけじゃねェよ。んで?なんでメリュジーヌがここにいるんだ?」

「少し、聞きたい事があって」

 

 

 バルカンからの問いかけに、僅かに顔を俯かせるメリュジーヌ。その様子に、自分達から聞くにはそれなりに勇気が必要な話らしいと気付くも、ボレアス達は目を合わせて頷き合う。

 自分達とは異なる歴史に生まれた同一人物の別人であっても、メリュジーヌ(アルビオン)は敬愛する“祖龍”より生まれた存在。自分達に答えられる事であれば答えようという意思が合致し、二騎は彼女をボレアスのプライベートルームへと連れていく。

 

 こことは別の歴史からの来訪者という事もあってか、プロフェッサー・Kはボレアス達に別々の部屋を用意してくれた。与えられる以上、それ相応の働きは期待されているが、各自がノルマを果たせないわけがなく、今でも提示されたタスクを熟しながら部屋で過ごしている。

 

 今回話し合いの場として使うボレアスの部屋は、アンナの隣に位置している。しかし、ぬいぐるみや化粧品など、グロスターの街から仕入れてきた物品が置かれているアンナのものとは異なって、その内装はシンプルなもの。

 普段から冷静に物事に対処し、これといって求めるものもないボレアスの部屋は、この部屋が彼に与えられた時からなにも変わっていない……ように見える(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

(……? なんだろう、あれ)

 

 

 何気なしに部屋を見渡していたメリュジーヌの視界に、一つの違和感が形となって映り込む。

 クローゼット。扉の大きさからしてウォークイン式のもの。その扉から、なにかがはみ出していた。

 恐らく紐か、それに近しいなにか。注視しなければ気付かないそれにメリュジーヌが首を傾げるも、「こっちだ」とボレアスに話しかけられてすぐにそちらへと意識を向けた。

 

 ボレアスに促されてソファに腰掛けたメリュジーヌは、自分の前にボレアスとバルカンが座るのを待つ。

 バルカンが先に座り、少し遅れて茶菓子を目の前のテーブルに置いたボレアスが彼の隣に腰を下ろす。

 

 

「……して、どのような話だ? 我々に答えられるものであれば、可能な限り答えよう」

 

 

 テーブルを挟んで問いかけるボレアスに対し、メリュジーヌは思わず固唾を呑む。

 これからする質問は、下手をすれば彼らの―――最悪の場合は“祖龍”の逆鱗に触れかねないものだ。本当に今ここで訊ねてもいいのか、と内なる自分が投げかけてくるが、それをメリュジーヌは伏せかけていた瞼を持ち上げて振り切った。

 

 深呼吸で気持ちを落ち着け、口を開く。

 

 

「失礼を承知で聞きたい。二人は彼女―――オフェリア・ファムルソローネの事、どう思ってるの?」

「「……ッ」」

 

 

 メリュジーヌの問いかけに、ボレアスとバルカンの目が見開かれ、そして細められる。

 一瞬でヒトから龍のものへと切り替わった四つの眼に同時に射抜かれたメリュジーヌが僅かに身震いするが、敢然と二騎の眼を見つめ返す。

 

 数秒か、はたまた数分か。痛いくらいの沈黙が流れた後、折れたのはボレアスの方だった。

 

 

「……わかった、話そう」

「なっ、兄貴ッ!?」

「ここまでの覚悟を見せられたのだ。それに報いなければ、“試練”を司る者としてのプライドが許さん」

 

 

 横目で弟を見ながら返し、視線をメリュジーヌへと戻す。

 自分達に問いかけてきた時の彼女の瞳。あれは、場合によっては剣を抜かれる事も視野に入れていた目だ。

 

 ボレアスは姉弟達の中でも、試練と対峙した者が抱く“覚悟”を最も理解している存在である。そんな彼の前で、自分と弟のプレッシャーに物怖じせずに頑として見つめ返してきたメリュジーヌは、充分な覚悟の持ち主であると認めたのだ。

 

 

「オフェリア・ファムルソローネについてだが……私は、別にどうこうしようという気持ちはない」

 

 

 少し身を乗り出し、両手を組んだ状態で答える。

 それに対し、メリュジーヌは少しだけ目を見開き、口を開く。

 

 

「どうして? だって、彼女は―――」

「わかっている。しかし、彼女はまだ知らないのだ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。ならば、知るまで待つだけの事」

「それじゃあ、バルカンはどう思うの?」

「ん、別にいいんじゃね? 今ンとこ、姉貴とオフェリアってメッチャいい関係じゃん? ならいいだろ。知ろうと知るまいと、関係がこじれないに越した事はねェだろ」

「…………」

 

 

 両手を頭の後ろで組み、背もたれに背を預けたバルカンの回答に、メリュジーヌは黙り込んで俯いた。

 

 

「質問だが、なぜそこまで気にする? こうして我々に訊ねる程に、彼女に引っかかるものでもあるのか?」

「……ボレアス達はなにも思わないの? だって、彼女(・ ・)はかつて僕らや同胞達を……」

「……なるほど。そういう事か」

 

 

 拳を握り締め、怒りの籠った声色でそう告げたメリュジーヌに、ボレアスは顎に指を這わせた。

 確かに、メリュジーヌが彼女(・ ・)に対してそういった感情を抱くのも致し方ない。特に、その身に宿す権能(チカラ)があらゆる竜種の中でも強大なものであり、それ故になるべく人類に見つからぬよう匿われてきたアルビオン(メリュジーヌ)にとっては、その感情はより強いものとなるのも当然だろう。

 しかし―――

 

 

「だが、お前もわかっているはずだ。彼女(・ ・)が選んだ道は、共倒れになりかけていた二つの種族を生き永らえさせた。彼女(・ ・)の存在の有無は、この惑星(ほし)の命運が大きく変わるレベルのもの……所有していた千里眼からして、冠位(グランド)となる可能性もあるのだ。そんな彼女(・ ・)を信用ならないと?」

「……そう、だね。ごめん、色々思い詰めてたみたい」

「ま、お前がそう考えるのも仕方ねェだろうよ。……聞きたかった事ってのはそれについてか?」

「うん。でも、区切りがついたよ。ありがとう」

「それか。それならよかった。……あぁ、そうだ。丁度いい機会だ。こちらからも質問させてもらいたい」

「? いいけど、なに?」

 

 

 いったいどのような質問をされるのか、メリュジーヌは知らず知らずのうちに身構えた。

 思い切り踏み込んだ質問をした手前、自分に拒否権は無い。自分が彼らにしたものと同等の質問をされるのだろうと考えていると、ボレアスが口を開いた。

 

 

「お前の肉体について知りたい」

「えっ」

「ちょいちょいちょいちょいッ! なに言ってやがんだ兄貴ッ!」

 

 

 まさかの質問にメリュジーヌが茫然とした直後、バルカンの左手がボレアスの頭を引っ叩いた。

 

 

「なにをする、バルカン」

「それはこっちのセリフだ馬鹿兄貴ッ! なんて事訊いてんだッ!」

「……? 私は彼女の肉体の基になった人物の話を聞きたかっただけなのだが……」

「そう聞きたいのなら初めからそう言えよ……」

 

 

 目元を手で覆い隠したバルカンが溜息を吐く。

 普段は冷静に立ち回り、主であるアンナの傍らで行動するボレアスであるが、時々こうして変に言葉を省略して話す事がある。常にそういう話し方をしないだけマシな部類なのだが、忘れた頃にブッ込んでくるために双子のバルカンも全く予想が出来ない。その悪癖を、まさかメリュジーヌに対して発揮するとは思わなかった。

 

 

「そ、そう……。うん、話す。話すよ。……でも、二人が思っているほど良い話じゃないよ」

「あン? いやいやおかしいだろ。そんな話じゃきゃ、その姿(カタチ)にならねェだろ?」

「僕の場合は、君達とは色々違うんだよ。そもそも、この身体の基になったのは人間じゃないし」

「人間じゃない?」

 

 

 メリュジーヌの言葉に耳を疑う二騎。

 彼らのこれまでの知識、経験の中では該当しない例。まさか、それが異聞帯のアルビオンが該当するとは思わなかったので面食らってしまったのだ。

 そんな彼らに対し、メリュジーヌはポツリポツリと語り始める。

 

 

「僕のこの身体の原型になったのは、オーロラ。知っていると思うけど、この妖精國に存在する“風の氏族”の長だよ。でも、僕は彼女の在り方を決して『善い』とは言えない」

 

 

 そして、メリュジーヌは語る。六氏族の内の一つの長として君臨するオーロラという妖精が、どれほど醜悪で害悪な存在であるかを。

 

 究極的な自己愛と、他者からの称賛のみを求める彼女にとって、自分より強く輝き多くの視線を集める存在は邪魔でしかない。それを本能で理解している彼女は、自らの虚偽も奸計も全てが真実だと認識し、自分より注目されている相手の足を引っ張り続ける。その結果として相手がこの世から消えたとしても、その時の彼女にとっては『何故かはわからないが滅んだ』程度のものでしかなく、その原因が自分にある事に気付く事も無い。

 現に、メリュジーヌは彼女の要望を叶えるべく、かつて“鏡の氏族”と呼ばれていた妖精達を滅ぼし、いざ帰ってみれば『あんないい妖精達を滅ぼす様な奴はこの世で最も穢らわしい存在だ』と口にされた事があった。

 

 そして今でも、オーロラの在り方は微塵も変わっていない。今も彼女の瞳は、無意識的に自分より注目されている『誰か』を捜しており、見つければ最後、あらゆる手を使って排除しようとしている。

 そんな彼女の在り方を、誰が『善』と解釈する事が出来るだろうか。いや、そもそも善悪の概念すら持っていないオーロラを、善か悪かを判断する事など出来ないのかもしれない。

 

 しかし、それでもメリュジーヌは彼女についていく事を決めた。

 

 メリュジーヌが彼女をベースに己を形作ったのは、かつて彼女が、ただ昏い沼の中で漂っていた自分を掬い上げてくれたからだった。

 世界の裏側へと届かず、それでもと本体より切り離された左腕。その細胞片であった自分は、それはもう醜いものであった。しかし、それを意に介する事無く掬ってくれたオーロラに、細胞だった自分は確かに救われたのだ。

 その美しい在り方を、せめて形だけでも―――そうして、自分はこの姿(カタチ)を手に入れ、妖精メリュジーヌとして再誕した。

 

 

「―――これが、僕がこの身体になった経緯と、そのベースとなった彼女(オーロラ)の話。言ったでしょ? 良い話じゃないって」

 

 

 長々と話した影響で乾いた喉をお茶で潤す。冷たい液体が喉を通り、全身に行き渡っていくのを感じていると、最初にバルカンが口を開いた。

 

 

「……お前の言う通り、良い話とは到底言えねェな。随分とまぁ、とんでもねェ奴が長なんてやってるもんだ」

「……だが、完全に悪い話と言い切る事は出来ない。お前がその姿(カタチ)を取った……それだけでも良い結果だ。たとえ気まぐれだったとしても、お前を掬い上げてくれたオーロラには、少なからずの感謝を示そう」

「……どう返せばいいのか、わからないや」

 

 

 この話を通して、オーロラの恐ろしさは彼らも理解できたはず。それでも彼女への感謝の念を抱いているボレアスに対し、メリュジーヌはどう返せばいいものかと、嬉しさ半分複雑さ半分で苦笑する。

 

 

「……時間をかけすぎちゃったな。そろそろ戻らないと」

「申し訳ないが、最後に一つだけ聞かせてほしい」

「なに?」

 

 

 立ち上がりかけたところを止められ、改めて座り直す。メリュジーヌに「申し訳ない」と改めて謝ったボレアスは、続けて新たな質問を投げかける。

 

 

「カルデア―――予言に記された異邦の魔術師について、どう考える?」

「異邦の魔術師……」

 

 

 その言葉には覚えがある。自分が滅ぼした“鏡の氏族”の妖精エインセルが遺した予言に伝えられる人物の事だ。汎人類史より現れ、『予言の子』と共に今のブリテンを破壊するという存在。この國の女王、モルガンにとっては大敵となる存在だろう。

 しかし―――

 

 

「別にどうも思わないかな。敵対したら殺す……それだけの事だし」

 

 

 メリュジーヌにとっては、なにか思う程の存在ではない。

 女王モルガンの治世を崩すのなら、彼女に仕える妖精騎士として排除するまでの事。メリュジーヌにとって、異邦の魔術師(藤丸立香)とはその程度の少女だった。

 

 

「あ、でも、あの盾を持ってるデミ・サーヴァントは気になったな。確か、ギャラハッドって名乗ってたけど」

「ギャラハッド……。となると、マシュ・キリエライトか?」

「そこまでは。でも、女の子だった。……聞きたい事はそれだけ?」

「あぁ。止めてしまってすまない。入り口まで送ろう」

 

 

 ランスロットの霊器(なまえ)を着名しているが故の考えか、と一人納得し、立ち上がる。

 

 カルデアの旅は続いている。

 アルム・カンパニー以外にも、妖精國唯一の港町であるノリッジに派遣され、今ではペペロン伯爵として活動しているペペロンチーノからも、彼女達の同行もある程度は摑める。

 

 カルデアは必ずこの妖精國を切除すべく動き出す。その時には目の前にいるメリュジーヌも、彼女らを打倒すべく出撃するだろう。もしかしたら、その時に彼女らによって返り討ちに遭ってしまうかもしれない。

 だが、今だけは……。今だけはせめて、こうして会話をしていたい。

 

 

「気が向いたら、また来るがいい。私達はいつでも、お前を待っている」

「ありがとう、ボレアス」

 

 

 扉に手をかけたボレアスからの言葉に、メリュジーヌはふっと微笑みと共に答える。

 それにボレアスも小さな笑みを返し、先程からどこかへ視線を向けている弟へ呼びかけた。

 

 

「どうした、バルカン。来ないのか?」

「いや、あの紐っぽいのはなんだって思ってな」

「…………」

 

 

 バルカンが指を差す方角。ウォークインクローゼットの扉の隙間から見える、ひらひらとした紐のようなものを視界に収めたボレアスの目が―――死んだ。

 

 

「あ、僕も気になってた。なんなの、あれ」

「……気にするな、さっさと行くぞ。バルカンも来い」

「って言われてもなァ、気になって仕方ねェんだわ」

「ッ、よせ、バルカ……」

 

 

 ボレアスが制止しようとするも、時既に遅し。

 バルカンは扉から出ていた紐を掴み、軽く引っ張る。瞬間、両手で必死に押し留めていた蛇口の水が溢れ出すように、扉から大小様々な“それら”が雪崩を始める。

 

 

「うぉおッ!?」

 

 

 まさかの出来事に反応できなかったバルカンは、そのまま雪崩に巻き込まれ姿を消した。

 メリュジーヌはなにが起こったのかまるでわからずに硬直し、ボレアスに至っては頭を抱えて「馬鹿者が……」と呟いている。

 

 

「な、なんだァおいッ! 兄貴、こいつ……は……」

 

 

 自分を覆っていた“それら”を吹き飛ばし、反射的に右手で掴んだものを兄に見せて文句を言おうとしたバルカンだが、自分が持っているものに気付いて言葉を止める。

 

 バルカンはそれに見覚えがあった。

 青と白の布で出来たそれ。シュレイド異聞帯の海域に生息している“海竜”ラギアクルスをデフォルメしたぬいぐるみだ。

 

 

「確かこいつ、ミラオスが作ってた奴だよな?」

「……そうだ」

 

 

 もう仕方がないとばかりに認めるボレアス。

 そう、今バルカンが持っているぬいぐるみは、かつてミラオスが“我らの団”のソフィアと共に作製していたモンスターのぬいぐるみの一つだった。モンスターが生態系の頂点に立ち、人類が万物の霊長として君臨できなかった世界に生まれながらもモンスターをこよなく愛しているソフィアが、これまで多くのモンスターを見てきたミラオスに頼んで一緒に作っていたのを見た事がある。

 だが、なぜそれがここにあるのだろうか。

 

 

「ミラオスから『お兄様用にも作ったッ!』と言われ、貰ったのだ。可能ならば肌身離さず持ち歩いていたいのだが、流石にそれ程の大きさではな……」

「……そういえば俺も貰ったなァ」

 

 

 言われて思い出す。自分もミラオスからこのぬいぐるみを貰っていた。

 流石にこの異聞帯には持ってこれないと、シュレイド城にある自室に置いてきたが。

 

 

「って(こた)ァ、あれか。ここにあるの全部、ミラオスからのプレゼントか?」

「なにを馬鹿な事を。今お前の右奥にあるものは、アルバが作ったものだ」

「はァ? ……うぉ、マジだッ! マジでアルバが作ってた奴じゃねェかッ!」

 

 

 言われた方角を見てみれば、確かにミラオスが作ったものとは思えないぬいぐるみが転がっていた。

 ミラオスは細部にもこだわるタイプだが、アルバはあまりそういったタイプではない。生前を自らの能力を制御できずに過ごしたせいで、未だに人間の姿で作業する事に慣れていないのだ。彼女もそれを承知しており、その証拠に、彼女のぬいぐるみはかなり杜撰(ずさん)な作りとなっている。

 

 

「んじゃ、こっちの奴は……」

「姉上のものだ」

 

 

 試しに他の場所にあった“火竜”リオレウスのぬいぐるみを見せれば、ボレアスは即答してみせた。

 

 

「マジかよ……。え、マジ? 兄貴、まさか自分にプレゼントされた奴、全部持ってきてんのか?」

「悪いか?」

「いや、悪かねェけどよ……。一応仕事だぜ? 仕事中にこいつは……なァ?」

「そこで僕に振られても……」

 

 

 突然話を振られたメリュジーヌは咄嗟に両手を前に出して首を横に振った。その最中、メリュジーヌはふと、自分の記憶にあるボレアスについて思い出す。

 

 

(そういえば、ボレアス様はきょうだい(・ ・ ・ ・ ・)愛が強い方だったな……)

 

 

 数多のドラゴン達の祖である“祖龍”ミラルーツが血を分け、己が分身(かぞく)として生み出した“禁忌のモンスター”達。それぞれが大本(オリジナル)から独立した自我を持つ中、“黒龍”ミラボレアスはミラルーツに負けず劣らずのきょうだい(・ ・ ・ ・ ・)愛の持ち主だった。

 それが、まさかこの場で再び見られるとは思わなかった。

 

 

「……なァ、兄貴」

「……なんだ」

「俺もまぁまぁきょうだい(・ ・ ・ ・ ・)愛は強い方だとは思うけどよォ、流石にこれは……」

 

 

 散乱しているぬいぐるみの数々を前に、バルカンは額に手を当てて天を仰いだ。

 

 兄の家族に対する愛が強いのは昔から知っていた。しかし、まさか彼女ら自作のぬいぐるみを他の異聞帯にまで持ってくるとは思わなかった。どれだけ彼女らの事が好きなのだろうか。今はないが、もしバルカンが彼になにかしらの贈り物をしていれば、彼は間違いなくそれも持ってきていただろう。

 

 

「……手伝え、バルカン」

「……なにを?」

「片付けだ」

「いや自分で片付けろよ」

「兄の言う事は聞くものだぞ弟よ。それに、一つ一つのぬいぐるみについて、どこが良いのかをしっかりと教えてやろう」

「いくら兄貴の言葉でも、流石にそれは聞けねェよッ! ってか、メリュジーヌを送るんだろッ!? まずはそっち優先しようぜ、な?」

「……わかった。だが、一先ず整理させてくれ。こんなに混沌としていては、姉上やミラオス達に申し訳が立たない」

「はァ……わァったよ。それだけは手伝ってやんよ」

「それなら僕も手伝うよ」

「あ? いいのかよ。時間はどうした?」

「別に急用ってわけじゃないから。それに、ミラオス様やアルバ様が作ったぬいぐるみをもっと見たいからさ」

 

 

 転がっているぬいぐるみを立てるべく腰を下ろした双子の隣に腰を下ろし、“雌火竜”リオレイアのぬいぐるみを抱えたメリュジーヌがそう答えると、ボレアスの視線が彼女へと向けられた。

 

 

「そうか、なら、手短にだが教えてやろう。まずはそのリオレイアのぬいぐるみだが、そこの縫い目は―――」

(絶対に手短に終わらせられねェだろ……)

 

 

 早口で語り始めた兄に、バルカンは内心苦笑する。しかし、それを口に出さなかったのは、ぬいぐるみについてメリュジーヌに語るボレアスも、それを聞くメリュジーヌも、とても楽しそうな顔をしていたからだ。

 

 

(ま、いいか。別にこれぐらいなら、な)

(まさか、こうしてアルビオンに語れる時が来るとは……ッ! これを機に色々説明しなければ……ッ!)

(ボレアス様、本当に楽しそう……。なんだか、私も楽しくなってきたな)

 

 

 汎人類史に生まれたボレアスとバルカン。異聞帯に生まれたメリュジーヌ(アルビオン)

 生まれた場所(せかい)は違えど、その身は本体より分かたれたものだとしても、今だけは“祖龍(かのじょ)”から生まれた者同士、笑顔でそれぞれの役割を果たしていくのだった。

 




 
 なんと、嬉しい事に支援絵を頂きましたッ!
 
 
【挿絵表示】


 『Tの決戦兵器※支援絵配り隊』様、ありがとうございますッ!
 まさか支援絵を頂くとは思わなかったので、本当に嬉しいですッ!

 次回もよろしくお願いしますッ!



 質問なのですが、話ごとにその中で出てきた特定の単語や台詞についての捕捉(というよりは解説ですが)は要りますでしょうか。時々、感想欄の方で補足を入れさせていただいているのですが、こちらの方で行った方がよいのではないかと思いました。
 アンケートを用意しましたので、皆さんのご意見をお聞かせください。

 例として、今回の捕捉を入れておきます。


 ・『彼女(・ ・)
  ボレアス達が語り合った人物。汎人類史と異聞帯という、異なる歴史に生まれながらも両方がその人物を記憶しており、メリュジーヌに至っては怒りの感情すら抱いていた存在。この人物が起こした行動は、ボレアスでさえ「彼女はグランドサーヴァントとして召喚されるに足る」と考える程のもの。オフェリア・ファムルソローネからこの人物への話題へと移行したが……。

 ・『ボレアスがメリュジーヌにカルデアについて訊ねた理由』
  冠位(グランド)の竜種として認知されているメリュジーヌ(アルビオン)のカルデアに対する認識が単純に気になったから。結果は『どうも思わない』だったが、それならば本気で彼女らの相手―――つまり“試練”になってくれると知れたので御の字。もしなにか思っていた場合は「全力で、必ず殺す気で相手をしろ」と言うつもりだった。


 今回は上記のものを解説させていただきました。流石にガッツリと掘り下げはしませんが、必要でしょうか。
 アンケートのご回答、よろしくお願いいたします。

 それでは改めまして、次回もよろしくお願いしますッ!
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