ドーモ=ミナサン。
クリスマス当日に新章実装という、「お前らどうせクリスマス暇だろ?」みたいな事をしてきた運営に対し「バイトあるヨ」と思ったseven774です。
遂に七章実装ですが、冬木が後に控えてそうなので、まだまだfgoが終わらなさそうでよかったです。この作品も一ヶ月に二話更新ペースなので、この調子だと七章編に入るのは再来年になりそうですし、まだまだfgoを楽しめそうです。自分の予想ですが、ブリテン編は来年の六月あたりまで続きそうですね。それが終わったらツングースカとトラオムは……どうでしょうか、そちらは飛ばして七章に移行するかもしれません。
今回は少し短いです。
それではどうぞッ!
「それにしても遠いなぁ……。いつになったらノリッジに辿り着くのやら」
「仕方ありませんよ。馬車もありませんし、歩くしかありませんから」
少量の明かりで照らされている洞窟―――妖精達からは
あらゆる花嫁の味方であるハベトロットと、その友人であるマシュ・キリエライト。
彼女らは今、災厄の兆しが見受けられていると言われている街―――ノリッジへと向かっていた。
シェフィールドは壊滅し、領主であるボガードも行方不明。多くの領民が突如地面より現れた巨大な蟲のような怪物に呑み込まれた。しかしそれでも、彼女らは足を止めない。
少し前にボガードが語っていた、ノリッジという街。彼の故郷であるその場所では、古くから妖精國に度々起きる『厄災』の予兆が見られているという。
『予言の子』だから、ではない。ただ、救うべきだと判断したから救いに行く。その為に生き残った妖精達を、同じく生き残ったボガードの衛士達に任せ、マシュ達は歩を進めていく。
「それにしても、よくあんなに真っ直ぐ行けるもんだね」
「そうですね。ですが、なぜかはわかりませんが、信頼できます」
そんな会話を交わす二人の前には、白い体毛を持つ狼。
マシュが意識を取り戻してからというもの、ここまで同行してくれた彼からは、自分達を欺こうとするような悪意は微塵も感じられない。そんな彼が迷いなく洞窟内を進んでくれるので、マシュ達も安心してついていく事が出来る。
コツコツと、マシュの足音が一際大きく反響する洞窟の中で、ハベトロットは「ふわぁ……」とあくびする。
ノリッジまでは静脈回廊を通っても一週間以上かかる以上、なにもないと暇だ。退屈凌ぎに次に作る衣装のイメージをするのもいいかもしれないが、それも粗方片付いてしまった。
どうしたものか、とハベトロットがなんとなく視線を彷徨わせていると、隣を歩いているマシュが少し険しい表情をしている事に気付いた。
「ん、どうしたのマシュ。なにか考え事?」
「あ……はい。あの怪物について、少し……」
マシュの返答に対し、「あぁ~……」とハベトロットは洞窟の天井を仰いだ。
「ハベトロットさんは知っていたのですか? あの怪物について……」
「まぁ、昔からいたからね。といっても、そんなに頻繁に出てくるようなものじゃないよ。下手すりゃ、『厄災』以上に出てこないかもだし」
「そうなのですか?」
「うん。記録によれば数百年間出てこなかった事もあったらしい。でも、最近は“名なしの森”で出現したと思ったら、今度はシェフィールドに出てきた。ここまで短いスパンで出現したって記録はないよ」
「どのような理由で行動しているかはわかっていないのですか?」
「そこまではわからない。キャメロットの調査隊ってわけじゃないんだわ」
「あっ……すみません」
「いいよ、別に。……ただ、あいつが出てくる時は、決まって赤い光が地面から漏れ出てくるんだ。もし赤い光を見たら、すぐに逃げよう。モルガンならともかく、僕らじゃ逆立ちしても勝てないから」
「……そうですね」
ハベトロットの言葉に、マシュは拳を握り締める。
確かに、あれ程巨大な存在を相手に、自分達二人がどう立ち向かったとしても返り討ちに遭うのは明白だった。
なにも出来なかった。自分にもっと力があれば、あの怪物に喰われてしまったであろう妖精達を救えたのかもしれないのに―――。
「……自分を責めるのは、止めた方がいいよ」
目を伏せ、歯噛みしかけたマシュに、ハベトロットの声がかけられる。
「え……?」
「責任を感じるなってわけじゃない。ただ、必要以上に思い詰めてちゃ、どうにもならない。いつかは区切りを付けなきゃいけないんだ。それは、早ければ早いほどいい。そうしないと……何も始まらないんだわ」
そっと優しくマシュの手に触れたハベトロットの瞳は、なにかを思い出しているのか少し揺れていた。
その理由を、マシュは知らない。しかし、彼女が自分の行為を諫めているのはわかり、小さく笑みを使って「はい」と短く答えた。
「……うん、やっぱり君には、笑顔が似合う」
小さくとも、友人が笑顔になってくれた事にハベトロットも笑顔になる。……と、そこでハベトロットの動きが止まる。
「? ハベトロットさん?」
「マシュ、あれ……」
「え? ……ッ! あれは……」
ハベトロットが指差す方向。遠くに見える曲がり角から、眩い光が漏れている。
少し視線を下に下げてみれば、先導している白狼はその光を目指しているのだろうか、少し駆け足になっていた。
咄嗟に早足で続き、曲がり角を曲がる。
瞬間、マシュは視界に飛び込んできた
「これは……ッ!」
そこにあったのは、シェフィールドの城にも置かれていた、あの宝石。しかし、目の前にあるそれは最早原石と呼べるレベルに巨大なものであり、放つオーラも女王軍との戦闘時のような禍々しい漆黒のオーラではなく、あらゆるものを優しく包み込むような、優しい青白い光を放っていた。
「これ、ボガードの城にもあったやつだよね? なんでこんなところに……あっ」
自分達の何倍もの大きさを誇るそれに呆然としていたハベトロットが、自分達の中で最も原石に近い位置にいた白狼が、マシュに近づいているのが見えた。
ハベトロットより少し遅れてそれに気付いたマシュが白狼を見ると、彼は鋭い光を宿す瞳で彼女を見た後、原石へと視線を移した。
触ってみろ、とでも言っているのだろうか、マシュがハベトロットを見ると、ハベトロットも彼女と同じ事を思っていたのか、「触ってごらん」と促してくる。
きっと、白狼が自分達をこの原石に導いたのは、なにか理由があるはずだ―――そう思いながら、マシュは一歩ずつ前に進んでいく。
眩い輝きとオーラを放つ原石の前に立ち、手を伸ばす。
その圧倒的な存在感に一瞬手を引っ込めそうになるが、意を決して触れる。
(……ッ!!? これ、は……ッ!!)
瞬間、原石がより強い輝きを放ち、青白いオーラが一斉にマシュへと押し寄せてきた。
瞬く間に全身を包まれたマシュだったが、しかしボガードが纏っていたものとは違う、温かく柔らかい、まるで巨大な存在に護られているような安心感と頼もしさに、思わず身を委ねてしまう。
そして、しばらくした後、自らを包む温かさが引いていくのを感じ、閉じていた瞼を持ち上げる。
目の前には、変わらずに光を放ち続ける原石。次に、自分の体を見下ろしてみると、自分の体から原石と同じ光が放たれている事に気付く。同時に自分の内側から、巨大な力が溢れてくる感覚を覚えた。
「うぉ、マシュがメッチャ光ってる……ってわぁッ!? なんかこっち来たッ!?」
そんなマシュを呆然と見つめていたハベトロットだったが、マシュから放たれた光のオーラが即座に彼女を包み込んだ。
「ハベトロットさんッ!?」
「うぅ……ん? あれ?」
いきなり全身を包み込まれた事で身構えていたハベトロットだったが、自分の体になにも変化がない事に疑問を覚え、恐る恐る自分の小さな両手を見下ろす。
「お、おぉ……ッ!? なんか……なんか力が漲ってくるんだわぁああああああッ!!」
どうやらハベトロットもマシュと同じ感覚を覚えたのか、彼女は自分が乗っているバッグと共に凄まじい速さで動き始める。
ビュンビュンと何度も周囲を飛び回っていたが、しかし勢い余って「へぶッ!」と壁に激突してしまった。
「ハ、ハベトロットさんッ!? あの……大丈夫ですか?」
「いたたた……あはは、つい調子に乗っちゃったよ……。でも大丈夫。これくらいなんて事ないんだわ」
服についた汚れを軽く叩いて払いながら立ち上がり、バッグに飛び乗る。
その様子から、彼女が本当に無事だと知り、マシュはほっと安堵の息を吐いた。
「それにしても、いったいなんだろうねこれ。不思議と力が湧くし」
「ですが、恐ろしくはないですよね。むしろ、とても温かくて、安心するような……」
「うん。それに、なんだかよりマシュを近くに感じられるんだわ。いや、距離的な話じゃなくて……心の距離ってやつ?」
「……はい。私も、そう思います」
ハベトロットの言う通り、マシュもどこか彼女との距離が縮まったような感覚を覚えていた。
これまでも彼女とはそれなりの時間を過ごしてきたと思っているし、なによりこうして、危険を顧みずについてきてくれている事に感謝している。彼女との間に絆が芽生えるのも当然かと思っていたが、今回の件を機に、より自分達の距離がぐっと縮まったように感じたのだ。
いったいこの原石はなんなのだろうか―――目の前の原石について考え込もうとした直後、いつの間に移動していたのか、傍らに座っていた白狼が一声吠えた。
もうここですべき事は終わった、とでも伝えているのだろうか。確かに、この原石について何らかの知識を持っているわけでもない。これ以上ここにいても無駄に時間を浪費してしまうだけだろう。
「……行きましょう。時間は待ってくれませんから」
「ん、そうだね。いつ『厄災』が動き出すか、わからないからね」
頷き合い、再び歩き出した白狼の後をついていく。
彼女らの背後にある原石は、まるで二人の幸福な結末を祈っているかのように一際強い光を放ち続けるのだった。
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活気溢れるグロスターの街中を、小さな影が走る。
各々の楽しみを求めて行き来する妖精達に気付かれないよう、または気付かれてもすぐに忘れてしまえるよう、平然とした態度で周囲に視線を配り続ける。
注意深く街の様子を観察するその者―――オベロンは、ふと足を止める。
「あれは……」
彼の視線の先にあったのは、以前来た時には見かけなかった巨大なドームだった。これまで建物の影に隠れていて気付かったのだろそれは、今も建設途中なのか、中からは大きなものを運んでいるような音が聞こえてくる。
『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた看板の近くには、このドームが今後行われるアルム・カンパニー主催のライブ会場である事が記載されていた。
恐らく、建築のノウハウがある妖精などを総動員したのだろう。大抵の事象は魔術を介さずとも引き起こせる妖精達にかかれば、なるほどこの規模のドームを作るのは造作もない事だ。
今のオベロンの目的は、妖精國全体の情勢を調査し、オークニーの森で待っている立香達に報せる事だ。
まだモルガンに目を付けられていないとはいえ、彼女らの中には、予言で語られる本物の『予言の子』であるアルトリア・キャスターがいる。そして、約一ヶ月という短いタイムリミットを設けられている彼女らは、
ライブというものをオベロンは詳しく知らないが、アイドルという概念はある程度理解している。あまり時間はかけられないが、軽めの息抜きにはなるかもしれない。目的遂行に動くのはもちろんいいが、適度に休息も取らなければならない。
(―――ま、
だが、そんな事に時間をかけようと思うオベロンではなかった。
彼からすれば、このライブに時間をかけるぐらいなら、アルトリアに『予言の子』としての素質を高め、立香達にモルガンを打倒させる為に時間を使う方がいいのだ。
そうすれば、彼の真の目的を達成できるのだから。
しかし、仕事は仕事。請け負った役目は果たさなくてはならない。あのドームについても報告しよう、そう思った瞬間。
(……ッ!!)
縮地と見紛う速さで、オベロンは建物の影に身を隠した。
他の妖精達とはまるで違う、魂の底までに響くような強い気配。しかし、そう感じるのは自分が
それほどまでに、今彼の前を通り過ぎようとしている
「カドック君はもうちょっと周りを見て踊った方がいいんじゃない? いや、君が周囲に気を配れてないって言ってるわけじゃないからね? えっと、自分が踊り切る事に集中しすぎてるっていうか……」
「わかってるさ。そこも改善する。後でしっかり練習するさ」
「うんうん、それでこそカドック君だよ」
「撫でるな。僕はお前の子どもじゃない」
歩いてきたのは、顎に手を当てて思案するカドックの頭を撫でようとして、伸ばした手を彼に払われたアンナだった。
「あ~ッ! もうっ、少しぐらい撫でてもいいでしょ?」
「駄目に決まってるだろッ! だいたい、頭部は生物の弱点だろ。それを進んで差し出す奴がいるか」
龍のお前なら僕よりその重要性がわかるだろ―――そう横目で言われてしまえば、アンナも「うぅ……っ」と苦虫を嚙み潰したように渋々と引き下がった。
「でもでも、ダンスはしっかり出来てたよね。後は君が言った通りにすればいいだけだし」
「成り行きでもやる事になったんだ。やるからには全力でやらせてもらうさ」
「……好きだなぁ、君のそういうところ」
「やめてくれ……。お前がそう言うとアナスタシアとオフェリアの視線が怖くなる……」
「仕方ないじゃん。好きなんだから。……ん?」
(……ッ!)
カドック以外から注がれる視線に気づいたのか、アンナの視線が動く。
咄嗟に隠れたオベロンだったが、今でもアンナが先程まで自分を見ていた存在を見つけ出そうと目を細めているのが嫌でもわかった。
捕食者に狙われた被食者の気持ちとはこういうものか―――口元を両手で押さえ、欠片の吐息すら漏らさぬようにしたオベロンは、ふとそんな事を考える。
それからしばらくしない内に、「アンナ?」とカドックが彼女の名を呼んだ事により、彼女はオベロンの捜索を打ち切った。
「どうした? なにか気になる事でも……」
「ううん、違うよ。なんか視線を感じたからさ。気のせいだったみたいだけどね」
「そうか。なら、さっさと戻ろう。そろそろ昼食の時間だからな。腹が減って仕方がない」
「あっ、待ってカドック君。私、ちょっとだけ遅れるね。忘れ物しちゃった」
「はぁ……すぐに取って来いよ」
「は~い」
互いに向かうべき場所へ歩き出す。二人の気配が離れるまで息を潜め、そして完全に気配が消えたのを確認した後、オベロンは「ぶはぁっ!」と勢いよく息を吐いた。
「いやぁ、参った参った。危うく鉢合わせるところだった」
アルム・カンパニーについては、カルデアが来る以前から調べてはいた。
突如彗星の如く現れ、その手腕で瞬く間に女王より爵位を賜った上、自らも一大企業の長として今も勢力を拡大し続けているプロフェッサー・K。そして、その側近であるマスクド・L。
見た目こそ、二人揃って仮面を付けている奇妙なものだが、見かけに騙されてはいない。プロフェッサー・Kは絶大なカリスマを有し、マスクド・Lはその強大な膂力であらゆる敵を粉砕する。二人の連携も卓越したもので、もし戦闘するとなったら厄介な事この上ないだろう。
カドック・ゼムルプスの名も、プロフェッサー・Kが立ち上げたアルム・カンパニーについて調べている時に知った。もちろん、彼と同時に入社してきた者達の事も。
特に、アンナ・ディストローツ―――またの名を、“祖龍”ミラルーツ。彼女の事は、他のメンバーよりもとことんまで調べ上げた。
あらゆる龍/竜の祖にして母。古くは神の御業とされていた雷を操る、“禁忌のモンスター”の頂点。
全盛期はとうの昔に終わっているとしても、その力は計り知れない。もしこのブリテンで戦う事になったらどう対処すべきか、必死に考え続けているのだ。対策はもちろん立てているが、もしそれが効かなかったと考えた場合どうするかというと、ぶっちゃけ今になってもまるで思いつかない。
だが、今はそれよりも仕事だ。なにせ、妖精國中の情勢を探らなければならないというタイトスケジュールなのだ。アンナの対策を講じるのも大切だが、だからといって本命を蔑ろにするわけにはいかない。
(グロスターの次は……あぁ、キャメロットだ。早く行かないと)
この次に行く街は、このブリテンの王都としてキャメロットだ。女王モルガンのお膝元であって、警戒の目は他の街と比べて段違いな以上、今まで以上に用心して行動する必要が出てくる。
気を引き締め、相棒の蛾であるブランカに乗ろうと振り返って―――
「やぁッ!」
「ぎゃぁあああぁぁあッ!?」
あらゆる気配を遮断し背後に忍び寄っていたアンナに跳び上がるのだった。
「君だね? さっきから私を見てたの。なんの用かな?」
こてん、と首を傾げ、片膝をついてオベロンを見つめてくるアンナ。
それに対し、オベロンは決して自分の心境を知られるわけにはいかないと、見る者に好印象を与えるにこやかな笑顔を作り上げる。
「いや、なんて美人さんなんだと思ってね。ついつい見入ってしまったのさ」
「あら、嬉しい。ありがとね~。でも、あまり凝視されちゃうと困るんだ。これからは気を付けるようにね」
「あぁ、もちろん。不快な思いはさせたくないからね」
「うんうん、その気持ちを大切にしてね。あっ、そういえば君の名前を聞いてなかったね。よければ教えてくれない?」
「もちろん。僕はオベロンっていうんだ。君の事は知っているよ、アンナ・ディストローツだよね? アイドル活動、応援してるよ」
「知ってるんだッ! ありがと~。……ん? オベロン? もしかして、『真夏の夜の夢』の? ……まさか、サーヴァント?」
「サーヴァント? 知らないなぁ、なんだいそれは。同じ名前なだけだと思うけど……」
「へぇ……?」
アンナの瞳が細められ、思わず顔が引きつりそうになるのを堪える。
一瞬、彼女の瞳が人間のものから爬虫類のそれへと変わったが、それも瞬時に元に戻った。
「……うん、そうだよね。同じ名前の妖精がいても不思議じゃない。でも、なんだろうなぁ。まるで本当に物語の中から出てきたみたい……」
「気のせいだって。まっ、僕がそれほどの好青年なだけかもしれないけどねッ!」
「ふふっ、なんだか面白いね、君」
ウインクをしてみせれば、アンナは口元に手を当ててクスリと笑った。
「もう少し話していたいけど、そろそろ行かなきゃ。友達を待たせてるんだ。あっ、良ければライブ見に来てね? とっても楽しい時間にしてあげるからッ!」
「もちろん、君達のライブ、楽しみにしてるよッ!」
「じゃあね~ッ!」
元気に手を振りながら、アンナが妖精達の中に消えていく。
彼女の姿が見えなくなるまで手を振っていたオベロンは、彼女の気配が本当に離れていく感覚に、「はぁ~……ッ!」ととびきり重い溜息を吐き出した。
(な、なんとかやり過ごしたぞ……。いや、本当に焦った……)
まさか、いきなり背後を取られるとは思わなかった。最初から己に割り当てられたクラスの特性をフル稼働していたから良かったものの、もしそうしていなかったらと思うとゾッとする。
額から流れる汗を拭っていると、目の前に相棒のブランカが降りてきた。
「……大丈夫だよ、ブランカ。この程度でへこたれたりなんてしないさ」
心配そうに見つめてくる彼女の頭を撫でる。それにブランカが嬉しそうに翅を羽ばたかせるのを見て小さく笑ったオベロンは、「さ、行こうか」と彼女の背に飛び乗った。
人間の頭程のサイズの大きさを誇るブランカは、小さくなっているとはいえ、自分よりも少しだけ大きいオベロンを乗せても、しかしいつもと変わらぬ速さで飛び立ち、グロスターの街を後にする。
門を超え、風を切って草原を飛翔する。
心地よい風を浴びながらキャメロットへ向かっていると、ふいにオベロンが地面へ視線を向けた。
「ごめん、あの森に向かってくれるかい」
オベロンの指示に従い、ブランカは彼が指差した先にある森の中へと入る。
ある程度奥まで進んだ後、彼女の背から飛び降りたオベロンは、元の青年の姿に戻って軽やかに着地する。
純白のマントを翻して周囲を見渡すと、彼の周りで屹立する木々がざわめきだす。それに目を細めたオベロンは、次に足元へ視線を向ける。
「……どうしようね、“祖龍”と会っちゃったよ。流石に昔と比べて弱くなってはいるけど、それでも少しずつ力を取り戻しているみたいだ」
足元に転がる石ころがカタカタと震える。
微かな、それこそ意識しなければ気付けない程の地響きは、その大きさを以て
「ま、そうだよね。でも、それでもやらなくちゃならない。お前なら出来るだろ?」
石ころが跳ねる。それはまるで、オベロンの期待に応えてみせると意気込んでいるようにも思える。
「精々気張れよ。奮戦虚しく死んでも、俺としちゃどうでもいいけど」
揺れが収まる。足元にある巨大な気配が消える。
それに小さく息を吐いたオベロンは、北の方角へと視線を向ける。
「
彼の言葉に対する返答はない。それもそうだ。ここからあの廃墟にいる
なにせ、凶気のままに荒れ狂う怪物だ。ただ使命を果たす為に行動するだけで、その時が来るまでただそこに留まり続ける事しか出来ない。あの廃墟で今も『予言の子』達を待ち続けているであろうあの男に妨害されているのもあるだろうが。
「はぁ……。ホンット、めんどくさいよ」
やるべき事はあまりにも多すぎる。
女王モルガンの討伐は当然として、自分には―――
長い事休んでいられないと、オベロンは歩き出す。
心底嫌そうに、嫌悪するような表情で歩を進める度、彼の周囲に生えていた草木は瞬く間に枯れていく。
枯れた草木から、二色のオーラがオベロンへと向かっていく。草木を浸食し、瞬く間に食い尽くした黒と赤のオーラを取り込みながら、オベロンは歩き続けていく。
・『原石』
……
・『アンナとカドックの関係』
……アンナにとって、常にAチームに喰らいついていこうと努力し続けているカドックは、彼女が考える『人類の理想の姿』に最も近い人間。時計塔時代よりもよりその意識を強めているカドックが、アンナはとても好ましく思っている。願わくば、その探求心が良くない方向に向かないでほしいと、かつてその末に造り出された悍ましき生物兵器を知っている彼女は思っている。
カドックから見たアンナは、時計塔時代から自分の勉強や魔術の訓練を見てくれる気のいいお姉さんのような女性。その正体が地球のアルテミット・ワンだと知った後も、その気持ちに変化はない。いつだって彼にとってのアンナとは、(癪だが)事あるごとに自分を子ども扱いしてくる世話焼きなお姉さんなのである。
・『アンナから見たオベロン』
……アンナはオベロンから感じ取った魔力の質から、彼がサーヴァントだと初見で見抜いている。しかしそれを指摘しなかったのは、オベロンが物語の中で嘘吐きの妖精として語られていたので、その在り方を尊重したから。だが、彼女はオベロンの正体が、自分の息子だという事には気付いていない。いや、気付けなかった。
・『オベロンから見たアンナ』
……自分達の目的を果たす上で最も障害になり得る存在。ある程度の対策は立てているものの、そのプランが崩れた場合、どうすれば彼女という障害を取り除けるのかを必死で模索中。自分の正体を知られては厄介な事になると思い、己のクラスの特性をフル稼働して彼女に自分の正体がバレないようにした。もしフル稼働していなければ、一瞬で彼女に正体を見破られていた。
・『彼』
……ブリテン北部で動き出す時を待ち続けている存在。ボガードを呑み込んだ凶気―――その根源とも言うべき存在。かつて在った白き姿を失い、悍ましき心の闇に染め上げられてしまった、災厄の化身。意志などというものはなく、ただ己の使命を果たさんとする、地底を進む蟲とは別の
次回は新年になってからですね。皆さん、よいお年をッ!