ドーモ・ミナサン。
いきなり新規サーヴァントでニトクリスオルタが実装され、「カマソッソ先生やりやがったッ!」と思わず立ち上がってしまった作者です。
恐らく日本人のカマソッソへの信仰が爆上がりしている事でしょうね。
そろそろナウイ・ミクトラン後半も始まりますが、それによって今後のストーリーをどう進めていくのか決定していこうと思います。
いやホントどうしましょ……。第七異聞帯の要素が所々ほぼこっちがシュレイド異聞帯で考えていたものだったので……。
それでは、本編どうぞッ!
「では、この資料を衣装部に回してくれるかい? そこまで時間をかける必要は無いという旨も忘れずに伝えてほしい」
「おうよ」
アルム・カンパニー社長室。
簡潔に情報をまとめた資料をプロフェッサー・Kから受け取ったカイニスが、来客用に設置されたテーブルの上に置いていた仮面を装着する。
その刹那、彼の顔が僅かに顰められたのを、プロフェッサー・Kの瞳は見逃さない。
「カイニス……嫌なら外してくれてもいいんだぞ? 君は私のように、アレな理由などないだろうし」
「うっせぇ。これ着けねぇとやる気が出ねぇんだよ。ったく、なんでこのカイニス様が小間使いみたいな事やらされてんだ……」
ほぼ巻き込まれる形で装着する事になった仮面だが、こうでもしなければ自らを神霊と豪語するカイニスは自分で自分を許せなくなりそうだった。
これが戦いなら仕方ない。生前は僭主を務めた経験もある身、先行して状況を把握する大切さも良く分かっている。しかし、今自分がしようとしているのは、それとは全く関係のないもの。それをやらされるというのだから、カイニスとしては是非とも反抗したいところだ。
しかし、今ある立場がこの妖精國で重要なのもよく理解している。だからこそ、この仮面を着けるのだ。
そうすれば自分は、トライデントを振るい敵を屠る神霊カイニスではなく、プロフェッサー・Kの右腕兼ボディーガードのマスクド・Lになる事が出来る―――そう考えれば、多少はこの怒りも収まるというものだ。
それはそれとして少しだけ文句を垂らすのは許してほしい。
そう思いながら、カイニス―――否、マスクド・Lは社長室から出ていく。
彼の後姿が扉で見えなくなるのを見届けた後、さて、と再び作業に戻ろうとしたプロフェッサー・Kだが、直後にデスクの片隅に設置されている石から通信が入った。
女王モルガンの手で編み出された魔術は、石など小さなものを介して、遠方にいる者の姿と声を届ける事が出来る。アルム・カンパニーという会社を立ち上げ、さらにモルガンの娘であるバー・ヴァンシーにも様々なサポートをしているプロフェッサー・Kのそれは、女王からの信頼と感謝の証として、下手をするとウッドワスを始めた氏族長達のものよりも高性能だ。
プロフェッサー・Kがその通信に応えると、彼の前に半透明の人物の姿が映し出された。
『ハロー、K社長?』
「あぁ、ペペロンチーノ……いや、今はペペロン伯爵と言った方がいいかな?」
『ふふっ、どっちでもいいわよ』
手元に手を当てて笑った彼女―――
ペペロンチーノには現在、彼女を主軸に置いたデザイン事業を立ち上げてもらっている。
汎人類史からチェンジリングでやって来たサーヴァント、ミス・クレーンをサポートに置いて働いてもらっているが、やはり汎人類史のファッションは人間を模範して文化を構築していったこの國ではよく受ける。
お陰でこの数カ月の間に、かつて妖精國では最も有名な企業とされていたノッカー・カンパニーを完全に吸収。今はノリッジを拠点に様々な仕事を
そんな彼女が、いったいどういう用件で通信してきたのか。
ペペロン伯爵はその問いに対し、ノリッジで起こった『厄災』と、そこで出会った者達について説明した。
「……なるほど、カルデアはノリッジに来たか」
『えぇ。でも、さっきも言ったけどマシュちゃんは記憶喪失みたいでね。しかも女王の魔術……貴方が言う“水鏡”っていうの? それで“厄災”諸共に消えちゃったから、彼女達が全員揃うのはまだまだ先になりそうね。下手すると、もう二度と揃わないかも……』
不安そうに目を伏せるペペロン伯爵。
かつては同じチームに配属されていた縁もあるからだろうか、彼女なりのマシュ・キリエライトへの友情があるのだろう。
「なに、心配する事はないさ。きっと彼女は戻ってくる。その時、きっとカルデアは今までよりも強くなっているだろう。なんとなくだけど、そう思えるんだ」
『信じてるのね、あの子達を』
「もちろんだとも。彼女達の存在は重要なピースだ。彼女達がいてこそ、全てが廻るのだからね」
ペペロン伯爵によれば、なんでも『厄災』が始まった時、カルデアはその先駆けであるモースの大群と戦ったそうだ。
限定的なものであっても、カルデアのマスターである藤丸立香もサーヴァントを召喚し、モースの撃退に当たってくれたのだとか。さらには、ペペロン伯爵が加勢に向かわせたアシュヴァッターマンが参戦しても即座に作戦を変更し、キャスターのサーヴァントを用いた彼への強化や、自己完結型のスキルを保有しているサーヴァントを用意しての迎撃を行い始めたらしい。
あぁ、なんと素晴らしい事だ。きっとその采配も、戦況を観察する眼も、
仮面の奥にある青い瞳を細めて笑うプロフェッサー・Kに、『……そうね』とペペロン伯爵が笑った。
『伝えたい事はそれだけよ。あっ、でも無理はしないようにね? お肌のケアも忘れちゃダメよ?』
「気遣い、感謝するよ。頑張ってくれ、ペペロン伯爵」
『えぇ。そっちこそ頑張ってね、プロフェッサー・K』
パチン、とウィンクをしたのを最後にペペロン伯爵の姿が掻き消える。
彼女の姿が消え、ふぅ、と一息吐いたプロフェッサー・Kは椅子から立ち上がり、窓を押し開く。
眼下に広がる、騒々しい街。
妖精や人間達の賑やかな声が絶えず聞こえてくる街を見下ろし、一人ごちる。
「……そろそろ、頃合いかな」
窓を閉め、本棚に近づく。
汎人類史から流れ着いた、様々な国の物語が描かれた本の数々。その中でも一際大きな本を軽く押すと、ズズズ……と音を立てながら本棚が左右に分かれ、一つのガラスケースが前にスライドしてくる。
―――ここは流行の街、グロスター。
常に新しいものを求め、発展していく街。それは、かつて自分が求め、そして今も求めている未来と酷く似通っていて好感が持てていた。
しかし、それももう少しで終わる。
汎人類史からこの地へ流れ着いた? 違う。自分達は、一つの目的を抱いてこの地へとやって来た。
全ては、妖精國ブリテンより
その為には―――
「また、君の力を借りるかもしれないね」
厳重に保管されたガラスケースの中で浮遊する、細剣のように細身の、どこか星を象ったような杖に当てはめられた宝石は、夜空を駆ける流星が瞬くようにキラリと輝いた。
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その頃、王都キャメロットの玉座の間では。
「アルトリア……新たにこの地へ現れた、
玉座に腰を下ろしているその女性は、使い魔を通して目の前に映し出した映像を睨んでポツリと呟いた。
少し青色の混じった銀色の長髪に、黒を基調としたドレス。王冠より垂れたフェイスベールで顔を隠しているこの女性こそ―――モルガン。このイギリス異聞帯、否、妖精國ブリテンを支配する女王にして“王”。
そして、かつてはヴィヴィアンという名を持ちながら、救世主トネリコとしてこの妖精國を終焉に導く為に楽園より遣わされた、先代の
そして、その背後に控えるは、彼女が一度楽園に戻った際に交戦し、今では心を交わした相棒となった古龍種―――“熾凍龍”ディスフィロアの姿がある。
左右に控える書士官達は、なにも口にしない。彼らの場合は、モルガンが必要と判断した時にしか発言を許可していないし、当人達も仕える主君からの言葉が無ければ率先して動かないような存在だ。それ故に、今のモルガンにとって、彼らは基本的に空気のような存在であった。
(それにしても、アルトリア。アルトリアときたか)
その名は、異聞帯の自分にとっては馴染みのないものだが、汎人類史の自分にとっては馴染みのあるものだ。
アルトリア・ペンドラゴン―――汎人類史のブリテンを治めていたという、己を男性と偽って王制を敷いていた騎士達の王。汎人類史の自分が手に入れるはずだった
この感情も知識も、全てはかつて、己に植え付けられた汎人類史の自分によるもの。しかし当時の彼女の気持ちが、今となっては理解できる。
ここまで続いてきた妖精國。真に護りたいものも出来た中で、この時間を終わらせる使命を背負った存在が目の前に現れた。なるほど、これは排除したくなるわけだ。
しかし、自分は彼女とは違う。アルトリア・キャスターが『予言の子』として生きるのなら容赦しないが、そうでないのならどうでもいい。
使命を帯びているとはいえ、彼女は楽園からやって来た妖精―――つまり、モルガンにとっては客人のようなものだ。
問題を起こさない客人を追い出す主人がいないように、自分もまた、彼女が『予言の子』として歩み出さない限りは、彼女を攻撃するつもりはない。
だが、いずれはあの少女も歩み出すだろう。予言に伝わる『異邦の魔術師』であるカルデアのマスターや仲間達と共に、この妖精國を終わらせるべく動き出すのだろう。
そうなったのならば、最早客人として扱う必要は無い。
アルトリア・キャスター。汎人類史の騎士王と同じ名を持つ妖精。彼女という剣を我が槍で叩き折り、この國を継続させる。
(それが私の、このモルガンの役目だ)
無意識の内に拳を握り締めていると、頭上から視線を感じた。
軽く上を見上げてみれば、ディスフィロアがスゥっと細めた眼でこちらを見ていた。
なにを考えているのだろうか。彼の気持ちは、彼女の妖精眼を用いても見透かす事は出来ない。
しかし、長年を共に過ごしている間に、彼が自分に何を伝えようとしているのかはなんとなくだが理解できるようになっている。
「また、
その言葉に、彼は曲げていた両足を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。
全身から立ち昇る熱気と冷気に中てられながら「行きなさい」とモルガンが短く言い放てば、ディスフィロアはその雄々しい翼を広げて吹き抜けから『大穴』目掛け飛び立っていった。
これが、今の彼の仕事だ。『大穴』より現れる真の『厄災』へ対する、炎と氷の防壁。
しかし、ディスフィロアに作らせた蓋も、最近はよく綻びが出るようになってきている。同時に、『大穴』から放たれる赤い光もその勢いを増している。
彼の力が衰えたというのもあるだろう。定期的に分身に仕事を任せ、本体である自分は海を足場に彼と摸擬戦をしてはいるものの、両者共に全力ではない。それがいつしか、彼の力を弱めてしまっているのかもしれない。
しかしそれでも、蓋を維持するだけの力は充分にある。
(ですがそれも、いつまで持つか……)
今はまだ大丈夫。しかし、これから先はわからない。
かつての時代。まだ自分がトネリコとして活動していた頃。
『大穴』の調査へ乗り出した時に見た、あの巨大な神の死骸。そして、その奥から微かに見えていた、あの禍々しい赤い光。
最近では前者の気配が薄れ、代わりに後者の気配がより色濃く感じられるようになっている。それがなにを意味するのか、理解できないモルガンではなかった。
(ロンゴミニアドの数を増やそうか……城門にはもう設置し切れないので、空にでも設置するか。今よりも出力を上げたいところだが、そうするとこの城が……)
本当ならばより火力を上げ、来る『厄災』に対抗したい。しかしそうしてしまうと、この城にある愛娘の部屋も消し飛ばしてしまいそうだ。彼女の私物がある以上、絶対にあの部屋を破壊するわけにはいかない。彼女の部屋を限定に特級の魔術障壁を張るのもいいだろうが、そうしてしまうとロンゴミニアドに回す魔力が減ってしまう。そうすると『厄災』への対処が―――
「はぁ……。本当に面倒な……」
対処するものがあまりに多く、煩わしい。せめてこの内の一つでも勝手に消えてくれれば大助かりなのだが、そうはいかないのが世の常だ。
モルガンは久しく、面倒臭さと煩わしさから来る怒りに頭を悩ませていた。
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モルガンが頭を悩ませ始める少し前、彼女の愛娘、バーヴァン・シーの部屋では。
「―――チッ、こいつも駄目ね」
十数時間かけて完成させた靴を睨んでいたバーヴァン・シーが、その靴を隅へと放り投げる。しかし、放り投げられた靴は床に落ちる事はなく、寸でで創造主が妖弦を用いた空撃ちによる風圧で浮かび上がり、そのままゆっくりと床に置かれた。
「クソ、これがスランプってやつか? 今回はお母様に渡せると思ったんだけどな……」
フェイルノートを消滅させ、背もたれにもたれかかる。
しばらく体を動かしていなかった影響で、体中からポキポキと小気味のいい音が聞こえてくる。
「なにかもっと、お母様に喜んでもらえそうなものは……」
「―――それなら、俺に任せな。レッドスピネル」
突然背後から声をかけられ、咄嗟に振り返る。
「……ベリル」
「よぉ、姫サマ」
名を呼ばれた男―――ベリル・ガットは気のいい笑顔を浮かべて、先程開けた扉を閉めてバーヴァン・シーへと近づく。
「モルガンに喜んでもらいたいって気持ち、俺もよぉくわかるぜ。その方法の模索、よければ俺に任せてくれないか?」
「でも……これは私がしてこそ価値のあるものだから……」
ベリルからは色々なものを教わった。
魔術はもちろん、汎人類史の人間達が履いている靴についての知識は実に興味深いものだった。だからこそ自分は靴作りを趣味とし、いつしかそれは一大ブランドを立ち上げる程になった。自分が作ったものの中でも最も良い出来栄えだと感じさせるものは、今も昔も母へのプレゼントとして献上してきた。
しかし、それだけでは足りない。マンネリ化、とでも言うべきだろうか。同じものを送り続けても、いつかはあの御方も飽きてしまうかもしれない。
(でも……)
だが、自分が献上した靴を見た時の彼女は、いつも笑顔だった。
ほんの少し口角を上げる程度の、些細なもの。けれど、その表情を僅かでも見せてもらえるだけで、バーヴァン・シーは救われるような気がした。
心優しい女王。冷酷なる女王。
寛大な心を以てこの國を護り、しかしその住人を護るつもりは無い、彼女。
きっと、その心は常に荒んでいる事だろう。例外こそあるものの、他者に依存するだけして、自分からはまるで行動を起こさぬ妖精達を支配するなど、過酷に過ぎる。
そんな彼女の心に、僅かでも安らぎを与えられたら、どれ程素晴らしい事か。
(それなら、このまま……)
顎に指を這わせ目を細めるバーヴァン・シー。
その刹那、ベリルは眼鏡の奥にある瞳に宿る光がギラリと瞬いた。
「―――でもよぉ。陛下は本当に、お前からの贈り物を喜んでいるのかねぇ?」
「―――ッ!!」
ベリルがその言葉を吐いた途端、バーヴァン・シーの心の奥底から不安と焦りが噴き上がってきた。
それに内心ほくそ笑んだベリルは、それに気付いていないような素振りで続ける。
「ま、これは俺個人の考えだから、後はそっちが決める事だぜ? そっちが一人でやりたいって言ったんだからな、その言葉に責任を持てよ?」
「え、えぇ……」
「んじゃ、用事はあるから行ってくる。頑張れよ、レディスピネル?」
声が聞こえなくなった直後、パタンと背後から扉が閉まる音が聞こえる。
コツ、コツと徐々に遠ざかっていく靴音が、酷く頭の中で反響する。
それが、まるで陛下の心が自分から離れていくようで、バーヴァン・シーの不安感をより強くする。
「……行かなきゃ。聞かなきゃ。陛下に……お母様に……」
ふらふらと立ち上がり、歩き出す。
今はとにかく、聞きたかった。この不安を解消してくれるのは、
なんだか、やけに妖精達からの視線を感じる。
そんなに、今の自分は酷い顔をしているのか。
「……んだよ。私の顔に、なにかついてんのか? あ?」
「ひっ! も、申し訳ございませんッ!」
軽く睨みをきかせてやれば、妖精達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。それに微かに清々しながら歩を進める。
そうして辿り着く、玉座の間。
深呼吸をし、二回ほどノックする。
「入れ」
扉の奥からくぐもった声が聞こえ、扉を押し開ける。
普通なら簡単に開くはずの扉が、今は酷く重いように感じる。
しかし、それを決して表に出さず、バーヴァン・シーは部屋へと足を踏み入れた。
(……お母様)
玉座の間には、やはり彼女がいた。
いつもは彼女の背後に控えているディスフィロアの姿はない。きっと、自らがあの『大穴』に施した蓋に綻びを感じ、その修復に向かったのだろう。
書士官はいるものの、彫像のように動かない。臣下達の姿は当然ない。それもそうだろう。モルガン陛下はおろか、あの龍も大抵いるこの部屋に好んで居座る妖精など、この國のどこにもいるはずがない。書記官ならば話は違うだろうが、今のバーヴァン・シーにとっては、彼らの事など心底どうでも良かった。
「どうしましたか、バーヴァン・シー」
玉座に腰を下ろしているモルガンが、目の前に映し出していた幾つもの映像を消滅させて自分を見てくる。
仕事の邪魔をしてしまっただろうか―――申し訳なさを感じつつも、決してそれを悟られないよう気を配りながら、彼女の前まで歩いていく。
「膝をつく必要はありません。書士官の事も気にしなくて結構です。なので今だけは、私を陛下と呼ぶ必要もありませんよ」
膝をつこうとしたところでそう言われ、曲げかけていた足を元に戻す。
「お母様、お尋ねしたい事がございます」
「?」
瞬きをした彼女に、バーヴァン・シーは問いかける。
「お母様は、これからも私の……私からのプレゼントは、欲しいですか?」
心臓が激しく鼓動する。
気恥ずかしいと不安でまともに母親の顔を見れなくて、俯く。
どれだけの時間が経ったのだろう。数秒か、数分か、静寂の中で考えた直後、辛うじて視界に映っていた、モルガンの組まれていた足が解かれるのが見えた。
「バーヴァン・シー。貴女からのプレゼントについてですが―――」
顔を上げられない。
彼女がどんな顔をしているのか、不安で不安で仕方がない。
しかし、不安で顔を上げられないなど、この國の後継者である自分に許されるはずが無い。ここは、たとえ嫌でも顔を上げるしかない。
拳を握り締め、顔を上げようと―――
「―――必要ありません」
(………………え)
なにを言われたのか、理解できなかった。
その間にも、モルガンの言葉は続く。
「もう良いのです、バーヴァン・シー。貴女からの贈り物は、もう必要ありません」
「―――」
なにを、この方は仰った?
もう良い? 必要ない?
プレゼントは、私からのプレゼントは、もう……。
「他になにか、聞きたい事は?」
「……いえ、もう、大丈夫です」
「そうか」
素っ気ない態度と声をかけた後、モルガンの視線は再び周囲に展開された映像に戻される。
それが、「仕事があるからさっさと出て行け」と言われているようで、バーヴァン・シーは足早に玉座の間から立ち去る。
そして気付けば、彼女はいつの間にか自室へと辿り着いていた。
ここに辿り着くまでの記憶がないなんて、余程ショックを受けていたんだな―――と他人事のように考えながら、いつかこれ以上のものを、と飾っていた靴の間を歩き、ベッドへと倒れ込む。
(そっか、いらないんだ……。お母様は……もう、私からのプレゼントなんて……)
枕に顔を埋めて視界に入ってくる情報をシャットアウトすると、内側で渦巻く暗い気持ちが蛇のように鎌首をもたげる。
恐ろしかった。
哀しかった。
悔しかった。
自分では、もう彼女に笑顔を与える事は出来ないと知った途端、足場が崩れていくような絶望に襲われた。
それが怖くて、怖くて、仕方なくて。
それ以上は心から溢れ出てくる感情の奔流に呑み込まれそうで、堪らず寝返りを打つ。
そうして目に映る、天蓋に貼り付けたポスター。
アルム・カンパニー主催のアイドルイベント。自分も参加するライブの開催時期が記載されている、そのポスター。
前々から考えていた、彼女への最高のプレゼント。
だが果たして、今の彼女にとってのこれは、本当に贈っていいものなのだろうか。
……いや、あんな終わり方は嫌だ。
せめて、せめて最後だけは、笑顔で終わらせたい。
(なら、これを最後にしよう)
これを最後の贈り物にしよう。それで、終わりにしてしまおう。
けれど、もし、もし、彼女にもう一度振り向いてもらえるとしたら―――
「ベリル……」
彼に聞いてみよう。模索してみる、と言っていたが、あの態度からすると、きっと既に見つけているのだろう。ならば、彼の話を聞こう。
そうすれば、もしかしたら、お母様の笑顔がまた見れるかもしれない。
ベッドから下り、窓から夜空を見上げる。
昏い空に瞬く無数の光が美しい。
「あれは……北斗七星だっけ」
視界の中心に見えた星座の名を呟く。
昔、チェンジリングで流れ着いた本で読んだ事がある。確か、おおぐま座の腰と尻尾を構成しているのだとか。
汎人類史は実に不思議だ。ただの星々に動物や道具の形を見出すなんて。
「……あっ。あんなの見てる暇があるんだったら、ベリルを探さないと……」
しかし、途中で首を振り、星座についての考えを頭から振り払う。
そうして、廊下へ飛び出していくバーヴァン・シー。彼女が、北斗七星の横で瞬く、蒼い光を放つ星の存在に気付く事は無かった。
・『ディスフィロアに妖精眼が効かない理由』
……この異聞帯では楽園の番人である彼は、番人であると同時に、使命を終えて戻ってきたアヴァロン・ル・フェが最後に直面する試練としての役目も背負っている。妖精眼持ちには相手の気持ちや心情が理解できるので、使いようによっては相手の気持ちを読み取って行動する事も出来るが、彼の場合はそういった小細工なしの、つまりは完全な実力と技量で戦わなければならない。
そしてこの特性は、彼の生みの親である『彼女』によって与えられたものであり、かつて汎人類史にいた彼にも備わっている。
・『バーヴァン・シーの空撃ち』
……ノールック射撃&靴を傷つけないように手加減を同時に行っている。カリアの戦闘訓練の賜物。
・『モルガンのバーヴァン・シーへの言葉の真意』
……「もう良いのです、バーヴァン・シー。貴女からの贈り物は、(受け取る私としては幸せ過ぎて爆発しそうですし、なんならこの國が埋もれてしまうぐらいの数は欲しいですが、貴女に無理をさせ続けるよう真似は絶対にしたくないので)もう必要ありません」。これまではカリアの影響である程度円滑なコミュニケーションは取れていたが、その時の彼女は『予言の子』案件などで頭を悩ませていたため、原作の妖精國にいた彼女のように、自分の気持ちが相手に伝わる事を疑いもしない言葉使いになってしまった。
・『北斗七星の横で瞬く蒼い星』
……バーヴァン・シーは終ぞその星の存在に気付く事は無かった。それがなにを意味するのかを、今の彼女は知る由もない。
原作でも思いましたけど、なぜ妖精眼というものがありながらモルガンはバーヴァン・シーの心を視なかったんですかね? 臣下達の心も視えて、それに紛れてしまうからでしょうか。
次回もよろしくお願いしますッ!