ドーモ=ミナサン。
第一希望に設定している企業が選考を開始し、不安と期待で胸が締め付けられているseven774でございます。
いよいよナウイ・ミクトラン後半が実装されましたねッ! 私はそれ以外にもやる事がいろいろあるため中々進められていないのですが、これから主人公達がどんな冒険をするのか楽しみで仕方ありませんッ!
そしてサンブレイクの方ではイヴェルカーナが復活しましたねッ! ワールドをプレイできていない身として、アイスボーン出身のイヴェルカーナと戦えるのは本当に嬉しいですッ! そして傀異討究クエストでは遂に傀異克服古龍種が登場……腕が鳴りますねッ!
また、最近ガンダムシリーズにハマりました。少し前に水星の魔女とシードを視聴し終え、そこからオリジン、ファーストを経由し、現在はzガンダムを視聴中です。それが終わったら逆シャアを観るつもりです。
それでは本編、どうぞですッ!
「はい、ワン、ツー、スリー、フォーッ!」
インストラクターの指示に従い、体を動かす。
小休憩を挟みながら行われている、五時間にも亘るダンスレッスン。
最初こそ余裕でこなせていた動きも、今となっては己の息を上がらせるに充分なものとなっている。しかしそれでも、
「そこッ! フィニッシュッ!」
「「―――ッ!」」
ダンッ、と強く踏み込んだ事で発生した音が、ダンスルームに大きく反響する。今まで聞こえていた音楽と同時に動きを止めた事で額から振り払われた汗が、照明の明かりを受けて眩しく光る。
荒い息を吐きながらも、最後の決めポーズを取り続けてから数秒経つと、パチパチと拍手の音が耳朶を震わせてくる。
「えぇ、えぇッ! 素晴らしいわ、しっかり覚えてるわねッ!」
閉じていた瞼を持ち上げれば、先程までの真剣な表情を朗らかな笑顔に変えた妖精―――マルガレータの姿が視界に映り込んできた。
それに堪らず、二人の妖精の内の一人は「はぁ~……」と息を吐き出した。緊張していたのだろう、知らず知らずのうちに肺に空気が溜まっていたようだ。
「この調子なら本番でもミスする事はないはずよ。お疲れ様。しっかり休んでね」
「えぇ。ありがとう、マルガレータ」
部屋の片隅に置いてあるタオルで汗を拭い、自分用に割り当てられたドリンクで乾いた喉を潤している彼女の名は、ノクナレア。
妖精國ブリテンに存在する六つの氏族の一つ、“王”の氏族の長を務める妖精である。
現在、ブリテンの新たなる支配者となるべくモルガンの治世を崩そうと画策している彼女が、なぜ自らが治めるエディンバラより遠く離れたグロスターに訪れているのか。それは、彼女もまたアルム・カンパニー主催のアイドルイベントに参加するメンバー、つまりアイドルだからである。
ノクナレアにとっても、アルム・カンパニー主催のアイドルイベントは興味深いものだった。
元より汎人類史へ対する興味があったのもそうだが、妖精國において己こそが美しき妖精であると自負する彼女にとって、自らの存在を存分にアピールできるアイドルイベントは是が非でも参加したいと思っているものだった。
口煩い長老達には、近々モルガンへ攻勢に出るので、その為の政治的アピール、マヴの生まれ変わりとしての泊を付ける、という目的の一環として出演すると言っておけば勝手に納得してくれたが、それを嘘で終わらせる気など彼女には毛頭ない。
最優先事項は自分の美しさ、気高さを知らしめる事だが、同時に自らの存在をより多くの妖精と人間にアピールする―――己の欲望と長老達の要望を混ぜ合わせた行動理念の下に、彼女はこの場所へ足を運んでいた。
また、言葉使いについては自分が世話になる立場であるため、彼女の方から「いつも通りでいい」と要望を出したため、マルガレータを始めたこの会社の社員全てが、余程の事でない限り彼女に畏まった態度を取ったりはしない。
そこで、マルガレータの視線がノクナレアから逸れる。
「貴女もお疲れ様。でも、少し動きがぎこちないわ。もう少し練習する必要があるわね」
「……あぁ」
決して責めるような口調ではないものの、「まだライブに出るには足りない」と遠回しに伝えられた彼女―――バーヴァン・シーは俯きながらそう答えた。
なぜ彼女とノクナレアが同じ場でレッスンを行っているのかというと、それは彼女達が、今後行われるライブでデュエット曲を歌うからだ。今日はその為のダンスレッスンだったのだが、満点を貰ったノクナレアとは違い、バーヴァン・シーの評価はあまりよくなかった。
「それに笑顔も出来ていないわ。なにか嫌な事でもあったの?」
「……うっせぇ」
「あっ、ちょっと……」
マルガレータの制止も効かず、バーヴァン・シーは自分の持ち物を抱えてダンスルームから出て行ってしまった。
それをただ見送る事しか出来なかったマルガレータは肩を落とし、目を伏せる。
「どうしたのかしら、このところずっとあの調子……」
「どうしたのよ、あいつ。私、今日久しぶりにあいつと会ったけど、いつもとかなり様子が違うじゃない」
「わからないのよ。数日前から雰囲気が変わったようだったけど、その時のレッスンはいつも通りに熟せていたから気のせいだと思ったの。でも、今日のレッスンを見て、あれは気のせいじゃないって確信したわ」
「バーヴァン・シーがああなるなんて、余程酷い事があったのね」
ノクナレアにとって、バーヴァン・シーはライバル関係に当たる存在だ。女王モルガンの治世が終わった後に、どちらが真にこの國の頂点に君臨すべき者として競い合う関係にある。
正直言ってしまうと彼女とのデュエットなど御免なのだが、他者の催し物に我儘を言って台無しにする気は無いため、今回だけという事で見逃していた。しかし、その相手となるバーヴァン・シーがあの調子では、本番になっても成功できる確率は限りなく低い。
自分の魅力を伝えられないなど、ノクナレアにとっては耐えがたい屈辱だ。
「ちょっと行ってくるわ。レッスン、ありがとね。あと、そんなに凹んでてもなにも変わらないわよ」
「え、えぇ……」
ひらひらと手を振り、自分もまたダンスルームを出る。
「待ちなさい、バーヴァン・シー」
自分より少し前に出たくせに、背が少し小さく見える程先まで歩いていた彼女を呼び止めようと声をかける。しかし、バーヴァン・シーは返事を返さず、むしろ更に加速していく。
ピキッ、と、ノクナレアの額に青筋が立った。
「バーヴァン・シーッ!」
他に妖精がいるのにも関わらずに叫び、走って彼女の前に立ちはだかる。そうしてようやく、バーヴァン・シーの足が止まった。
「あぁ? んだよ、ノクナレア」
「なんだとはご挨拶ね。この“王”の氏族長であるノクナレア様に向かってその態度も相変わらずだわ。なにをそんなに焦っているの?」
「テメェには関係ねぇだろ」
「いいえ? 全っ然、関係あるわよ?」
通り抜けようとしたバーヴァン・シーの前に体を動かす。
「今度のイベントには、私と貴女のデュエット曲があるのよ? 貴女と組むなんて真っ平ごめんだけど、それでお互いソロでやるなんてつまらないにも程があるわ」
「勝手に言っとけよ。退けよ、オイ」
「退かないわ。というか、顔を上げなさい。それでこの國の後継者を名乗るなんて―――」
「―――触んじゃねぇッ!」
ナメてるの、と彼女の顔を上げさせようと手を伸ばしかけた瞬間、バーヴァン・シーに片手で払い除けられる。
「なんなんだよテメェ……。テメェなんかに、私のなにがわかるってんだ」
見るもの全てを威圧するかのように、鋭い眼光がノクナレアを貫く。
しかし、それに決して気圧される事無く睨み返したノクナレアは、ハッと微かに目を見開いた。
政治に関わる者として、また一つの領地を治める者として、ノクナレアは観察眼に優れている。相手がなにを考えているのか、なにを求めているのかを的確に見抜けなくては、領主としても氏族長としてもこの國を生き残る事は出来ない。
そんなノクナレアの感覚と瞳は、怒りと焦燥に染まったバーヴァン・シーの瞳の奥に、一瞬だけ見えた微かな哀しみの色を見逃さなかった。
では、彼女をこうも急かす原因は何かと言うと、ノクナレアとしては一つしか思い浮かばなかった。
「……もしかして、モルガン?」
「……ッ」
「モルガンが、貴女がそうなった原因?」
ノクナレアからの問いかけに黙り込むバーヴァン・シー。それが
幸い、自分達以外の妖精の姿は無い。ここなら誰かに聞かれる心配はないと思い、バーヴァン・シーを座らせる。その後に自分も向かい側のソファに座った。
「聞かせなさい。モルガンとなにがあったの?」
「……実は―――」
(あ、話すんだ)
そうして、ぽつぽつと語り出すバーヴァン・シーに、内心驚く。
バーヴァン・シーは厳しさと優しさを併せ持った妖精だ。しかし、優しさを出すのは極稀であり、大抵は厳しさを前面に押し出している。そんな彼女がここまで正直に、しかも王権を簒奪しようと理解しているはずの自分相手に話すとは、それほどまでに彼女の心は追い詰められていたのだろうか。
そして数分かけてバーヴァン・シーからモルガンについての話を聞き終えたノクナレアは―――
「はあああぁぁぁ……」
と、盛大な溜息を吐き出した。
ならさっさと本当の気持ちを伝えに行きなさいよ、と内心ごちるが、モルガンはモルガンで忙しいのだろう。彼女の相棒である龍が『大穴』に施した蓋に綻びが生じるようになってきているのは、ノクナレアも配下から聞いていたのだから。
しかし、仕事にかまけて愛娘の扱いを疎かにするとはなんと情けない。仕事も大事だが、配下も大事に扱わなければ、いつか叛逆される可能性もあるというのに。
「バーヴァン・シー。今日はもう城に戻りなさい。そして、モルガンともう一度話し合いなさい」
「……無理よ。お母様は、もう私の事なんて―――」
「勝手に自己解釈するんじゃないわよ。いい? 確かにモルガンは、貴方に対して酷い事を言ったわ。でも、それが本当に彼女が伝えたかった事だとは限らないでしょう?」
「え……?」
パチリ、と瞬きしたバーヴァン・シーを、ノクナレアは真正面から見据える。
「バーヴァン・シー。貴女がプレゼントを上げた時、モルガンはどんな顔をしてたの?」
「……嬉しそうに笑ってた。本当に、注意しないと気付けないレベルだけど。でも、仕事が終わったら、『ありがとう』って言ってくれた」
「そんな彼女が、いきなり『いらない』って言うはずが無いでしょう?」
「……ッ!」
ノクナレアの言葉に、バーヴァン・シーが目を見開いた。
「いい? バーヴァン・シー。改めて口にさせてもらうけど、もう一度話し合いなさい。今度は腹を割って、真正面から向き合ってね」
「でも、それでお母様から否定されたら……」
「だったら、見返してもらえるようにすればいいじゃない。必要ないって言われて、『はいそうですか』で終わらせるつもり? 冗談じゃないわッ! 私なら『だったら見てなさいッ!』って言って滅茶苦茶努力して、そんな戯言を言ってきた奴を見返させてやるわよッ!」
だから、と、ノクナレアは続ける。
「今はダンスの事は忘れて、モルガンと向き合う事だけを考えなさい。くよくよ悩みながら踊られても迷惑よ」
「……ありがとう、ノクナレア」
感謝の言葉と共に立ち上がり、バーヴァン・シーは部屋から出ていく。恐らく、この街のどこかにいるであろう
パタンとバーヴァン・シーの姿を消した扉を数秒見つめた後、ノクナレアは「なにやってんのかしら、私と」と溜息混じりに呟いた。
あんな事を言ったとしても、自分にとってはなんのメリットもない。下手をすれば二人の仲がより深まり、モルガンの治世がより強固なものへと変わってしまうかもしれない。
しかし、自分の行動を後悔する気は無い。これが自分にとって最善の選択であると、ノクナレアは確信しているからだ。
(私も、随分と優しくなったものね)
元々、ここまでバーヴァン・シーに
(それもこれも、あいつのせいね)
脳裏に浮かべるは、バーヴァン・シーの御目付け役の一人。
もちろん、複雑な気持ちではある。いずれ敵として相対する存在相手に、ここまで心を許していいものかと。しかし、ノクナレアはそれでもいいと片付けた。
後々ぶつかる存在と親交を深めるのは、既に経験済みだ。
アルトリア・キャスター。そして、『異邦の魔術師』。面白集団を引き連れて自分の前に現れた彼女達とは、いずれこの國をかけて決着をつける時が来るだろう。その敵が一人や二人増えるとしても、ノクナレアは良かった。
相手がどんなに強力であっても、自分の決意が揺らぐ事はない。どんな相手だろうとも捻じ伏せ、この國を手に入れる。それが、彼女の夢なのだから。
―――しかし、それはそれとして。
「貴女も大概ね。盗み聞きなんて真似をするとは思わなかったわ」
「いやぁ、私としてもどうかとは思ったんだけどね」
今まで気配を消していたのだろうか、丁度自分やバーヴァン・シーのいた位置からは死角になっていたソファの影から、スッと一人の男性が姿を現す。
その腕に抱えられている衣を見て、ノクナレアは目を細める。
「なに、それ」
「友人からの贈り物さ。座ってもいいかな?」
「えぇ、もちろん」
深緑色の葉を何枚も重ね合わせたようなデザインの衣を背もたれにかけ、プロフェッサー・Kがノクナレアの前に腰を下ろす。
「先程は申し訳ない事をしてしまった。許してほしい」
「もういいわよ、過ぎた事なんだし。それで? ただ謝る為だけに座ったわけじゃないわよね? ……もしかして」
「あぁ、その『もしかして』さ」
そこで笑みを消し、身を乗り出したプロフェッサー・Kに、自然とノクナレアの表情も仕事モードに移行する。
今ここにいる彼女は、ダンスレッスンに来た『妖精ノクナレア』ではなく、一つの氏族を統べる『氏族長ノクナレア』であった。
「討伐隊の編成は?
「乗り気になってくれているのは嬉しい。しかし、討伐隊を派遣する事は出来ない。如何に貴女の部隊が精鋭揃いであっても、奴には通用しない。ただの妖精に、あれは対処できない。有効な手段も同様だ。たとえ君の支配下にあったとしても、気持ちが移ろいやすい彼らに、奴に対抗する術はない。寧ろ奴の力に
「……本当にムカつくやつね」
淡々と告げられる返答に歯噛みする。
女王との戦争の為に鍛え上げ、連携も取れるよう訓練を重ねさせてきた。しかしそれでも尚超えられない壁に、ノクナレアの苛立ちが募っていく。
「……なら、場所は? 場所さえ教えてくれたなら、後はそこに観測隊を送るわ」
「わかった。奴のいる場所は―――」
ノクナレアの言葉に頷き、プロフェッサー・Kはその存在が眠る場所の名を告げた。
「灰の都、オークニー。そこに、あの黒い靄―――“黒の凶気”の根源がいる」
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龍が、首をもたげる。
それに気付いたモルガンが、映像から彼へと視線を移す。
どうかしたか―――と声をかけようとして、モルガンは開きかけた口を閉じた。
(『予言の子』……遂に鳴らしたか)
どこからともなく響く、鐘の音。
流星が降り注ぐ赤き夜空に鳴り響くそれに、周りにいた妖精達が騒ぎ始める。
「こ、この忌まわしい音は……『巡礼の鐘』が鳴らされたというのかッ!? ノリッジに派遣した兵士はッ!? スプリガン殿はなんと言っているッ!?」
「『予言の子』だッ! あの娘が円卓軍と結託して、ノリッジに攻め込んだんだッ! ウッドワスはなにをしていたのだッ!? オックスフォードにいながら、円卓軍の行軍を見逃したのかッ!?」
口々に騒ぐ。鐘の音から耳を塞ぐように、羽虫のように騒ぎ続ける。
すると、ふつふつと燃え上がる盟友の怒りを感じ取ったのか、ディスフィロアが軽く唸り声を上げて強烈な熱気と冷気を放出し始めた。それに妖精達が瞬く間に怯えの表情を浮かべ、縮こまってしまう。
内心で相棒へ感謝を伝え、モルガンは鐘よりも響く声で告げる。
「巡礼の鐘は鳴った。全ての領主、全ての妖精に伝えよ。これより『予言の子』を、我が臣民とは認めぬ。『予言の子』は妖精國に仇なす外敵。これに
経緯はどのようなものであれ、巡礼の鐘を鳴らされたという事実は変わらない。
彼女がその道を選んだのならば、己はその道を閉ざそう。
「我が妖精國において敵は
なにが『我が妖精國において』だ。昔から、それこそこの島が國になる前から、妖精達はそうやって敵を殺してきた。邪魔だと思った矢先に、潰してきた。
それが嫌で嫌で仕方なかったのに、今では自分が先頭に立ってしまっているだなんて。
―――本当に、汎人類史の自分には難儀なものを植え付けられたものだ。
「オックスフォード領主、ウッドワスにはロンディニウムへの攻撃を命じる。ノリッジへの進撃を看過した罪状は、戦いの結果を以て定めるものとする。心せよ。このブリテンに最早、『予言の子』を迎える土地は無いと」
モルガンからの宣告に、妖精達が心中で歓喜の声を上げる。
また戦争が始まるぞ、と。また下級妖精達の悲鳴が聞ける、と。『予言の子』と円卓軍に感謝を、と。
それが全て視えているモルガンの心は、さらに侮蔑の色を強めていく。
そんな彼女の感情など知らぬままに、妖精達は我先にと自分達の住処へと駆け足で戻っていく。
そうして最後には、彼女とその相棒、そして二人の書記官が残される。
(巡礼の鐘は鳴り響いた。『予言の子』は我が敵となった。ならば、滅ぼそう。妖精達の為ではない。私の國を、いや、あの子の為に……)
その為には、と膝元に出現させたチェス盤に手を伸ばしたモルガンから、ディスフィロアは視線を外し、『大穴』のある方角へと向ける。
吹き抜けから見える赤い光は、この國に起こる全てを嘲笑うかのように、一瞬だけ強く輝いていた。
Now Loading...
「馬鹿なッ! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!! 巡礼の鐘が鳴らされたというのかァッ!!」
オックスフォードのとあるレストランから、一人の男の怒声が響き渡る。
髪を振り乱し、今まで自分が腰を下ろしていた椅子を、食事が運ばれてくるはずだったテーブルを力任せに叩き潰した彼―――ウッドワスが、憤怒に彩られた絶叫を上げる。
「ウ、ウッドワス様ッ! 落ち着いてくださいッ!」
「ええいうるさいッ!」
「ヒィッ!?」
近くにいた店員がウッドワスを止めようとするが、非力な彼が憤怒に呑まれたウッドワスを制止しようとするなど、無謀にも程がある。
怒りのままに店員の顔を吹き飛ばそうと振るわれた拳は、しかし、一瞬の内に彼の前に現れた女性によって受け止められる。
「落ち着きたまえよ、ウッドワス。クールに、礼儀正しく。自らの氏族にそう課した君が、そんな姿を晒すのはどうかと思うが?」
「……っ、カリア……」
片手で拳を受け止めた友人に告げられた言葉に、ウッドワスの瞳に理性の光が戻る。
素直に拳を引き、店員に「すまなかった」と頭を下げ、懐から取り出した財布を彼に手渡す。
「椅子やテーブルを破壊してしまった詫びだ。少々張り切ってしまった分、このレストランを改築出来るぐらいの金は入っているはずだ。どうか、受け取ってほしい」
「え? し、しかし……」
「返す必要は無い。使ってくれなければ、私の気が済まないのだ。頼む」
「……わかりました。ありがとうございます」
ウッドワスの財布を大事そうに懐に納め、店員が去っていく。
元々貸し切りにしていたので、彼を含めた店員以外の妖精の姿は無い。そして、その彼もこの場を離れ、残されたのはウッドワスとカリアのみとなった。
「感謝するぞ、カリア。また私は、自らの怒りに呑まれ無益な殺生をするところだった」
「構わないさ。……しかし、まさか巡礼の鐘を鳴らされるとはね。しかも方角的に、鳴らされた鐘はノリッジのものだろう」
「くッ……スプリガンめ、なにをしていたのだ……」
「さてね。留めようとしても無駄だったか、寧ろ留めずに進んで鳴らさせたのか。まぁ、こればかりは彼にしかわからないだろうよ」
だが、と、カリアは近くにあった椅子を引き寄せて座った。
「これだけはわかる。オーロラ嬢め、どうやら我々を謀ったようだね」
「なに……? それはどういう事だ?」
「今のこの状況だよ。我々は唐突ながらもオーロラ嬢からオックスフォードのレストランでの食事を持ち掛けられ、これに了承した。しかし、張り切った君が貸切にしたにも関わらず、ここに彼女は来なかった。店員に聞いてみても、『急用が出来たので予約をキャンセルされた』と言われた。だが、彼女は“風”の氏族だ。風に声を乗せられる彼女ならば、我々がいたキャメロットにいる配下に伝言を頼めるはず」
「まさかオーロラが……彼女がこうなるように仕掛けたとでも言うつもりかッ!?」
「まだそうと決まったわけではない。だが、あまりにもタイミングが不自然すぎる。ボクとしては疑うなと言われる方が難しいところだね」
あくまで僕個人の考えだけどね、と言い終えたカリアに、彼女と同じように近くに椅子に腰を下ろしたウッドワスが顔を顰める。
オーロラが唐突に食事の誘いを入れてきたのは不自然である事は、彼も薄々感じてはいた。しかし、そんなはずがないと、その可能性から目を背けていたのだ。しかし、いざこのような事態が起きた事で、ウッドワスの疑問はその姿を変えつつある。
(いや、しかしあのオーロラが……)
「ところでウッドワス」
頭を抱えて呻こうとした直後に声をかけられ、反射的に顔を上げる。
「こうなってしまった以上、陛下の君に対する評価は下がってしまった可能性がある。近々名誉挽回の機会として、なにかしらの任務に就かされるはずだ。恐らく、それは過酷なものとなるだろう」
「……当然だ。陛下から与えられた任務であるのなら、私は全身全霊を以てそれに当たる」
「頼もしいものだ。ただし、有利に事が進んだからといって油断はしないようにな」
「もちろんだ。たとえ戦闘であろうと、手加減はしない。寧ろ全力で叩き潰してくれるわ」
「戦闘……。あぁ、そうだ。この手があった」
ウッドワスからの返答に目を軽く見開いたカリアが、「ウッドワス」と身を乗り出す。
「なんだ?」
「一つ、話を聞いてもらいたい」
そうしてカリアから持ち出された話に、ウッドワスは驚愕に口を半開きにしてしまった。
「どうかな? 君には少し辛い思いをさせるし、多少の屈辱も味わってもらうが、これが一番手っ取り早い方法なんだが」
「…………わかった。その話に乗ろう」
「あぁ、助かるよ、ウッドワス。それでこそ勇者将軍だ」
複雑な感情を呑み込んで了承の意を示したウッドワスに、カリアは大きく頷いたのだった。
・『マルガレータ』
……マタ・ハリと同じ外見、声を持つ妖精。アルム・カンパニーではアイドル達のダンスレッスンのインストラクターを務めている。
・『ノクナレアとバー・ヴァンシーの関係』
……どちらも自分こそがモルガンの後に妖精國を支配するに相応しいと自負しているため、ライバル関係にある。デュエット曲を披露する事になったのは、どちらがより多くの妖精を魅了できるか競い合う為。
また、この作品においてノクナレアが愛用しているブーツや靴類は、基本バーヴァン・シー作。それは彼女から贈られたものではなく店先で購入したものだが、履き心地、デザイン共にノクナレアのストライクゾーンにクリティカルヒットしたため、大事に扱っている。今回バーヴァン・シーにモルガンとの話し合いを勧めた理由としては、『ライブで変な失敗をされたらこっちの面子が潰れるから』、『敵同士ではあるが、どうせ一緒に踊るのなら全力で踊りたい』、『ここで彼女よりも上手く踊れれば、妖精達にバーヴァン・シーよりも自分の方が素晴らしいと刷り込む事が出来る』といったものが挙げられる。
・『“黒の凶気”』
……モンスターハンターストーリーズに登場する、黒い靄のようなオーラ。このオーラを纏ったモンスターは戦闘力、凶暴性が増し、周囲に途轍も無い被害を齎すようになる。また、このオーラは大型モンスター以外にも、小型モンスターや幼体のアプトノス、果ては植物にさえも影響を及ぼす。
・『隠れ身の装衣』
……プロフェッサー・Kが持っていたもの。アンナからの贈り物であるそれは、通常であればモンスターに気付かれなくなるものであるが、彼女やミス・クレーンによる改良により、装備するだけで気配遮断Aクラスの隠密行動が可能となっている。
これに対しプロフェッサー・Kは嬉しさ半分寂しさ半分といった気持ち。寂しさを構成しているのは、以前彼がオークションで購入したある道具の使いどころが無くなりかけているから。
次回は2月16日ですが、実はその日からスペイン旅行に出発してしまうため、もしかしたら更新できないかもしれませんのでご了承ください。
それではまた次回ッ!