【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

80 / 152
 
 ドーモ=ミナサン。
 一週間のスペイン旅行を終え、帰ってきましたッ!

 スペイン語が全く喋れない自分でしたが、英語も通用する国だったのでなんとか楽しんできましたッ! ツアーで旅行したので、バルセロナやラ・マンチャ地方など、色々な所に行ってきました。バルセロナではコロンブスの像を見たり、ラ・マンチャ地方ではドン・キホーテが立ち向かったと語られる風車を見たりと、fgoにも登場した彼らと縁のある場所にも行けたので万々歳ですッ!

 そういえば帰ってきてから気付いたのですが、お気に入り登録者がかなり増えていて驚きました。もしかしたら一瞬だけでもランキングに載ったのでしょうか? だとしたら彼らのためにも、もっと頑張らなければなりませんねッ!

 それでは帰国後一発目の本編、どうぞですッ!



交錯

 

 コツ、コツ、と一定のリズムで奏でられる音が反響していく。

 

 ここはニュー・ダーリントン。かつて妖精國に存在し、そしてあの赤い光が招く災害によって滅ぼされた街を新たにしたもの。

 しかし、そこに妖精達の賑わいの声はない。あるのはただの静寂と、時折聞こえてくる実験体(・ ・ ・)達の呻き声だけ。

 光源が松明程度の心細い、そしてどんよりとした雰囲気も相俟って長時間の滞在など考えたくもないその中を、男は鼻歌混じりに歩いている。

 

 『作業』を終えた後なのか、ぬらぬらと鈍く光を反射する赤黒い鮮血に染まったナイフを手元で遊ばせるその男―――ベリル・ガットは、自分の目の前に壁が見えると同時に鼻歌を止め、ナイフについた血をハンカチで拭い取り仕舞う。

 

 ごつごつとした表面を軽く右手で撫でると、壁などまるでなかったかのように霧散していき、地下へと続く階段が現れる。

 ベリルが一つ、また一つと階段を踏み締める度に両脇に備え付けられた照明が光を放ち、彼を包む闇を払っていく。

 

 そうして数分階段を下りていった頃、一つの扉がベリルの前に姿を現した。

 軽く見ただけでも分厚く作られていると理解できるその扉を押し開けると―――

 

 

「うぉっと―――ッ!? ハハ、相変わらずスゲェな……」

「ゥウ……ベリル……ガットォオオオォォ……ッ!!」

 

 

 表情を微かに引きつらせながらも歩を進める先にいる存在は、自身の目の前にいるベリルに牙を剥く。

 

 

「よぉ、領主様(・ ・ ・)……ああいや、今となっては元領主様か? ま、元気そうでなによりだ。あ、リンゴでも食う? ってか、そもそも言葉わかる?」

「アァアアアアァァァアアアア……ッッ!!!! ベリルゥウウウウウゥゥッ!!!」

「あ~……無理だったか」

 

 

 試しに取り出したリンゴをチラつかせてみたが、領主と呼ばれたその妖精は獰猛な雄叫びを挙げてベリルへと襲い掛かろうとする。しかし、天井と床に固定された計十本もの鎖が、彼の行動を制限する。

 そんな彼に落胆してがっくりと肩を落とすも、「ま、そうだよな」と近くの椅子へと腰掛けリンゴを頬張る。

 

 

「そんな状態になってもオレ達の事を思ってくれてるとか、情熱的だねぇ。アンタがべらぼうに美人さんだったらキスしたいところだよ」

 

 

 かつて備えていた礼儀を失い、最早獣そのものと呼んでも差し支えない状態になっても尚己の名を叫ぶ妖精に届くはずのない言葉を投げかけた後、口内に違和感を感じて舌を動かす。

 

 

「―――マッズッ!?」

 

 

 そしてそう叫ぶや否や、口内に残っていたリンゴの欠片を吐き出した。

 まさかと思い右手に持っているリンゴに視線を落とせば、先程までの熟れた赤色は廃れ、食欲など微塵も刺激されない程にどす黒く変色していた。

 

 

「大分抑制してもらってんのに、一気にここまで変化させんのかよ。ったく、折角一番いいやつ買ったってのによ」

 

 

 溜息を吐いてリンゴを投げ捨てる。

 物陰に消えていくそれをなんとなく見つめていると、そこからぐしゃり、とリンゴが踏み潰される音が聞こえてきた。

 

 

「……誰だ?」

「―――俺さ、ベリル」

 

 

 物陰の奥から僅かに姿を現したその存在に、ベリルは軽く目を見開く。

 

 

「……こいつは驚いた。なんだってアンタがここにいる? ロンディニウムにいるべきじゃねぇのか?」

「今はお互い休んでる。といっても、あんまり時間はないけどね」

 

 

 柱に身を預けた男は横目で拘束された妖精を見やり、「ハッ」と小さく鼻で笑った。

 

 

あいつ(・ ・ ・)の力って、こんなに強いものだったっけ。それとも、素体のポテンシャルが高いとこうなるのか?」

「それはアンタの専門だろ。色々教えてもらってる身としては、是非アンタからその答えを提示してもらいたかったところだね」

「あぁ、それは失敬。心から反省してるよ、いや本当に」

「カァ~ッ、そこまで誠意を感じさせない謝罪は生まれて初めてだぜ」

 

 

 苦虫を嚙み潰したような顔になるベリルは、「ま~でも」と眼鏡をギラリと瞬かせた。

 

 

「受け取っておくよ、表面だけでも謝ってもらえてサンキュー。それに……」

 

 

 瞳を閉じ、脳裏にとある妖精の姿を思い浮かべる。

 

 

「こいつの力を物にするのに、心当たりもあるしな」

 

 

 そう言い終えた彼の口元には、三日月のように歪んでいたのだった。

 

 

 

 Now Loading...

 

 

 

「では、私はこれにて……」

 

 

 会議に参加していた最後の妖精が退席し、扉が閉められる重々しい音が響く。

 

 とりあえずの仕事が終わり、ようやく目障りな存在がいなくなったからか、無意識に軽く息を吐き出す。

 

 

「……私は部屋に戻る。分身を残すので、用事がある場合はそちらに」

「「はっ」」

 

 

 短く言い終えた後、魔力で象った自分の分身を玉座に残して『水鏡』を発動する。

 視界が一瞬だけ青い光に包まれた後、自分の視界に映り込んできたのは、先程までいた謁見の間ではないプライベートルームの光景。

 

 保護の魔術をかけにかけまくった、愛娘から贈られた大量の靴を並べたショーケースの前を通り、ベッドの前に立つ。そのまま一気に倒れ込もうとするが、寸でのところで自分に浮遊の魔術をかけて体を浮遊させる。

 

 

(……危ないところでした。危うく彼女の靴を履いたまま眠るところでした)

 

 

 映像を逆再生するように倒れかけた体を元に戻し、履いていたヒールを脱ぐ。もちろん雑に放る事はなく、きちんと揃えた後、消臭と洗浄の魔術で丁寧に汚れと判断したものを排除してからショーケースに戻す。ついでにヴェールのついた王冠も外してから、モルガンはようやく己の体をベッドへと沈ませた。

 

 

(はぁ、本っ当に疲れた……)

 

 

 ノリッジの鐘が鳴らされてからというものの、どんどん増えていく仕事。配下の妖精達が久方ぶりの娯楽にありつけると張り切った影響で様々な仕事が目の前に転がってきては解決し、転がってきては解決し……という繰り返し。正直なところ、この程度のものなど國を統治し始めた頃に比べれば造作も無い事なのだが、最近は娘のバーヴァン・シーに避けられてしまっている事による精神的ダメージもあってか、いつもよりも肉体的にも精神的にも疲れやすくなっていたようだ。

 なぜ自分は彼女に避けられるようになってしまったのか―――必死に思い出そうにもどうしても思い出せない。

 

 

(どうしましょう。もしこのままバーヴァン・シーに嫌われて……いえ、もう既に嫌われてしまっている……? もしそうであれば、私は……)

 

 

 もし彼女に嫌われてしまったら、これから自分はどうしていけばいいのか。ここまで國を運営し続けてきたのは、汎人類史の自分より植え付けられた願いもあるが、個人的には愛娘の為でもあったのだ。これから先も続いていくであろうこの國を、いつか彼女への恩返しとして玉座を譲る為にここまで頑張ってきたのに、当の本人に嫌われてしまっては、このプレゼントを喜んでもらえないのではないか―――そう考えた直後、モルガンは全身の血の気が引くのが嫌でもよくわかってしまった。

 

 マイナスな考えが次第に脳内に溢れ始め、頭を抱えようとした直後―――コンコン、と、扉がノックされた音が聞こえた。

 

 

「……誰だ」

 

 

 反射的に飛び起き、衣服に乱れは無いかとチェック。即座に王冠を被り直したモルガンがせめて言葉だけでもと威厳のある声でそう訊ねる。

 

 

「お母様……その、バーヴァン・シー、です。入ってもよろしいでしょうか……?」

「バーヴァン・シー……? えぇ、もちろんですよ」

 

 

 予想していなかった来訪者に少し驚きながら入室を許可すると、ガチャリと扉を開けて、赤色のドレスを着た愛娘が部屋に入ってきた。

 少し表情が強張っているのを見るあたり、緊張しているのだろうか。ベッドに腰かけたモルガンが隣に座るよう促すと、バーヴァン・シーは「はい」と緊張した様子を崩さないまま隣に座ってきた。

 

 

「どうかしましたか? そのような顔をして……」

 

 

 なにが彼女をそうさせてしまっているのか。それをなんとか聞き出そうと、モルガンは愛する娘に訊ねるのだった。

 

 

(……お母様)

 

 

 それに対し、バーヴァン・シーの心は張り詰めていた。

 隣に座るのは、この國の女王にして己の母親のモルガン。普段からこの妖精國の為、数多の妖精達を恐怖で支配してきた偉大なる女王だが、今の彼女は自分の母親であろうと、優しく、そして不安そうに見つめてきている。

 それは嬉しい。自分にその眼差しを向けてくるだけで、彼女の慈愛の心が感じ取れる。

 

 しかしそれが、よりバーヴァン・シーの心を緊張の糸で縛り上げる。

 

 

(でも……)

 

 

 視線を動かし、母の自室を見渡す。

 部屋の隅に置かれたショーケースには、これまで自分が贈ってきた靴が飾られている。汚れが一つもついていないのを見ると、まさか使用していないのではないかと考えてしまうが、それはないと即座に自分の記憶が否定する。

 彼女が自分の贈った靴を履いているのは、最初の靴をプレゼントした日から毎日見てきた。

 

 しかし次の瞬間、数日前の記憶がフラッシュバックしてくる。

 

 

『もう良いのです、バーヴァン・シー。貴女からの贈り物は、もう必要ありません』

 

 

 あの時のモルガンの言葉を思い出すと、それだけで喉元まで出かけた言葉が引っ込んでしまう。

 

 だが、それで止まるわけにはいかないと、今のバーヴァン・シーの心は決心していた。

 ノクナレアとの会話により、今の彼女は、たとえ恐ろしくとも己の気持ちを言葉に乗せるべきだと考えるようになっていたのである。

 

 

「……お母様。以前、貴女は私からのプレゼントを不要と仰いました」

「……ぇ」

 

 

 バーヴァン・シーからの言葉に、モルガンが小さく声を漏らす。

 しかしそれに気付かぬまま、バーヴァン・シーはぽつぽつと、少しずつ振り絞るように言葉を続けていく。

 

 

「私は貴女から、たくさんのものを受け取りました。この地位も霊基も、そして、多くの思い出も。私は少しでもその恩に報いたくて、貴女にプレゼントを贈ってきました」

 

 

 バーヴァン・シーが話している間にも、モルガンの脳裏に様々な考えが浮かんでは消えていく。

 

 

「私の取り柄は、正直言ってほとんどありません。だから、周りから多くのものを学び、身につけてきました。カリアからは戦い方を、貴女やベリルからは魔術の扱い方を。ベリルからは、汎人類史の知識として、靴というものを教わりました。私は戦う事より、それを作る事こそが楽しいと感じ、そうして作った靴を、貴女のプレゼントにしてきました」

 

 

 あの時の態度は、多忙のためと言えども娘へ向けるものではなかったのではないか。

 では、愛娘が自分を避けるようになってしまったのは―――

 

 

「不満を感じているようでしたら、申し訳ございません。ですが最後に、最後にもう一度だけ、聞かせてください。お母様は、私からのプレゼントは、もう不要ですか……?」

 

 

 ―――自分のせいなのではないか。

 

 潤ませた瞳で不安げに見つめてくる愛娘に、モルガンは罪悪感で心が圧し潰されそうになった。

 

 全身が冷や水を浴びせられたように冷たくなる感覚を覚えながらも、モルガンは必死に自分の気持ちを伝えるべく口を開いた。

 

 

「……ふ、不要なはずがありません。貴女からの贈り物は、いつだろうとなんだろうと、私のた……宝物、です。不要だなんて、そんなはずがありません。絶対……そう、絶対にです」

「……ッ! お母様……」

 

 

 潤んだ瞳から、一筋の雫が零れ落ちる。

 それが切っ掛けになったのか、バーヴァン・シーが嗚咽を漏らしながら身を震わせ始める。そんな彼女を抱き寄せ、モルガンは続ける。

 

 

「あの時は申し訳ありませんでした。仕事が忙しく、貴女に取るべきではない態度を取ってしまいました。そのせいで貴女に余計な重荷を背負わせてしまった……私は母親失格です……」

「そ、そんな事ありませんッ! お母様の考えを見抜けなかった、私の責任ですッ!」

「いえ、これは私が……ッ!」

「いえいえ、私の……ッ!」

 

 

 いつの間にか離れていた二人がお互いに頭を下げるが―――

 

 

「「―――ぁ痛ァッ!?」」

 

 

 ほぼ同時に頭を下げたため、二人の頭がぶつかってしまった。

 弾かれるように離れた二人が自分の頭を押さえて呻き声をあげる。そして、ある程度痛みが引いたのでお互いの顔を確認すると、どちらからともなく「ぷっ」と噴き出し、笑い出した。

 

 

「ふふっ、お揃いですね、バーヴァン・シー」

「あははっ、お母様こそ。……大丈夫ですか?」

「えぇ、もちろん。そちらこそ大丈夫ですか?」

「はいッ!」

 

 

 先程までの重苦しい雰囲気があっという間に消え失せ、二人の間には仲の良い母娘の間に流れる温かい雰囲気が満ち始める。

 それをなんとなく感じ取った二人は、先程までとは打って変わって、柔らかい笑みを浮かべて見つめ合う。

 

 

「では、この痛みがお互いの謝罪の証ですね」

「そうですね、お母様」

 

 

 お互いの頭を擦り合いながら笑い合う。

 そこには女王と妖精騎士の仮面を外した、仲睦まじい母娘の姿があった―――。

 

 

 

 Now Loading...

 

 

 

 モルガンとバー・ヴァンシーが仲直りしてから夜は明け、翌日。

 

 星々が煌めく夜空の下に広がる草原に、一人の女性が立っている。

 

 この異聞帯で新調した深緑色のドレスを脱ぎ、いつもの白いスーツに身を包んだ彼女の名は、コヤンスカヤ。

 軍事企業NFFサービスの代表者であり、かつては『異星の神』と協力関係にあったアルターエゴ。そして、いずれ獣として羽化する運命を背負った女性である。

 

 そんな彼女がなぜここにいるのかと言うと、それはこの異聞帯で出来た友人であるムリアンからの依頼であった。

 

 それは、今からそう遠くない時間にこの場所を通る、女王軍の壊滅。

 現在、"牙"の氏族長のウッドワスがノリッジの鐘を鳴らされた失態を帳消しにすべく、『予言の子』やモルガンの治世に叛逆する円卓軍がいるロンディニウムと戦闘をしている。しかし思いの外抵抗されているようで、女王に援軍を求めたそうだ。

 夜遅くに出発したらしく、ムリアンが部下を使って直接確かめたわけではないが、確かに援軍を派遣したとモルガン本人が語っていた。

 

 ならばこれを壊滅させれば、ウッドワスに女王への不信感を植え付け、彼女の治世を崩す力となるのではないか―――そういった考えの下、戦う力を持たないムリアンはコヤンスカヤに依頼したのである。

 

 コヤンスカヤとしても個人的な目的があったためにこれを引き受けたが、しかしどれだけ待っても、女王軍の姿は見えない。

 まさかルートを間違えたのか、それとも別ルートを進んでいるのか―――そんな事を考えていると、遠くに一つの人影を見つけた。

 

 しかし流石に一人で援軍とは言えないか、などと考えながら何気なしに近づいてくる人物を見つめていると、やがてその姿が明らかになってきた。

 

 黒と紫に彩られた装備に、背負っているのはそれと同じ色を持つ操虫棍。

 頭部のヘルムを外した状態で歩いてくるその姿には、見覚えがあった。

 

 

「おぉ、貴女は確か、コヤンスカヤといったか。いつものドレスではないが、その姿もなんと麗しい事か……。そして相変わらず美しく可憐な、しかしどことなく危険な香りがするな、君は」

「あら、嬉しい。毎日お肌のケアに力を入れてきただけあります」

 

 

 両腕を広げ、流れるように口説こうとしてくるカリアを軽く受け流しながら、コヤンスカヤは細めた瞳でカリアを見据える。

 

 

「それにしても随分と装備を固めているようで。これから戦いにでも行くつもりですか?」

「あぁ、その通りさ。陛下よりウッドワスへの助力として派遣されたのだよ」

「そうなのですか? それは残念ですね……」

「? なぜかね?」

「友人からはウッドワス様への援軍が行進してくると言われていたのですが、まさか貴女だけとは……。ウッドワス様は女王陛下に見限られた、という事でしょうか?」

「ハハハ、中々どうして、面白い事を言うじゃないか。女王陛下は確かに援軍を送ると仰ったが……援軍だからといって大勢で来るとは誰が言ったのかい?」

 

 

 大袈裟な身振り手振りで笑ってみせたカリアに、コヤンスカヤが眉を顰める。

 

 

「どういう事です? まさか、貴女単騎で援軍だとでも?」

「その通りだが?」

 

 

 なにも当たり前の事を、とでも言いたげに首を傾げるカリア。

 それに対し、コヤンスカヤは目を細めて一歩後退る。

 

 瞬時に理解したのだ。彼女の言葉が噓偽りのない事実そのものであり、彼女が単騎で援軍としての役目を果たすに充分すぎる実力を有している事を。

 

 コヤンスカヤが身構えたと同時、「おや……?」とカリアの瞳に鋭い光が宿る。

 

 

「……あぁ、そうか。なるほど、君がそうか。どうにも嗅ぎ慣れた事のある匂いがすると思っていたんだが、なるほどなるほど、君が……」

「……なんです? 一人納得せずに私にもわかるよう―――」

 

 

 瞬間、コヤンスカヤはほぼ本能に突き動かされるようにその場から飛び退いた。

 軽やかに着地した彼女の視線の先には、いつの間に構えていたのか、操虫棍の刃を向けてきているカリアがいた。

 

 

「おや、避けられてしまった。まぁ、仕方あるまいか」

「……貴女……」

 

 

 チクリ、と首元に痛みを感じて指先を当ててみる。

 目の前にいるカリアへの警戒を怠らぬままに指先を見ると、己の首元から流れているであろう赤い血が付着していた。

 

 なんて速さだ、と思うのも束の間、即座に首元の痛みから意識を逸らし、カリアを睨む。

 

 

「……レディに対して攻撃だなんて、酷い事をなさいますね」

「許してくれたまえ。ボクとて、君のような美しい女性を斬りたくないんだ。だけれど、君―――“獣”だろう?」

「……ッ!」

 

 

 カリアの最後の言葉に、コヤンスカヤの彼女への警戒心が一気に勢いを増す。

 それを直感で感じ取ったのか、カリアの口元が歪み、熱い吐息が漏れ出す。

 

 

「あぁ、やはりそうだったか……ッ! しかし、嗅ぎ慣れた匂いといえども、君のは少し、いや、かなり薄い。もしや幼体かね?」

「嗅ぎ慣れた……? まさか、冠位……ッ!?」

「そのまさか……と、言いたいところだけどね。生憎とボクはそれじゃない。あくまで助太刀として、冠位(かれら)に同行していただけに過ぎない」

 

 

 目の前に立つサーヴァントが冠位(グランド)に位置する存在なのかと危惧したコヤンスカヤに真っ先に否定したカリアは、片手で操虫棍を巧みに弄びながら歩き始める。

 

 

「おじ様……ああいや、親戚というわけではないのだがね、同じはぐれ者(・ ・ ・ ・)故、ボクがそう呼んでいるだけだが、“青い星”の(とも)として狩りに出向いた時は、それはそれは愉しめたぞ」

 

 

 だが、と、立ち止まったカリアが横目でコヤンスカヤを見ながら操虫棍を担ぐ。

 

 

「君のような獲物は初めてだ。ぶっちゃけてしまえば、欲求不満でね。ボクではない『ボク達』が獣を狩り続けているのが心底羨ましく、そして憎らしい。フフ……フフフフフ……ッ!」

 

 

 憎々し気に、それこそ長年の怨敵へ恨み言をぶつけるように怨念の籠った言葉を紡いでいたカリアが、突如不気味に笑い出す。

 

 

「ウッドワスへの助太刀に行きたいのだがねぇ……仕方がない。そうだ、仕方がないんだ……ハハハハハハッ!」

 

 

 瞬く間に笑い声を響かせ、顔を片手で覆う。

 

 

「あぁ美しく気高き人類悪ッ! ようやくだ、ようやくこの『ボク』にも、獣を狩るチャンスが来たッ! ボクは、あぁあボクは……ッ!!」

 

 

 操虫棍を構え、両目を零れ落ちそうな程に大きく見開く。

 

 

「君を今すぐ、狩り(ころし)たいんだッ!! ハハハハハ……ハーハッハッハッハッハッ!!!」

 

 

 即座に銃器を手元に展開したコヤンスカヤに、最凶の狩人は全身から青黒い粒子を迸らせ、狂ったように笑いながら襲い掛かるのだった。

 

 




 
・『本編ではウッドワス軍についていたバーヴァン・シーやベリルがいない理由』
 ……バーヴァン・シーはモルガンと腹を割って話し合いたい、ベリルはベリルでやる事があるのでついていかなかった。

・『元領主』
 ……ニュー・ダーリントンにて囚われている妖精。言葉は発せられるが、理性によって口にしているわけではない。ベリルは彼を使ってなにかを企んでいるらしい……。

・『カリアという狩人』
 ……自然との調和を図るのがハンターの役目であるが、彼女個人の感情としては、『ただ目の前の相手を狩猟(ころ)したい』というものが強い。比率で言えば3:7(7が殺したい)。そんな彼女がなぜ最高の称号を獲得したのかと言うと、それは彼女の生前に起きた様々な出来事が関わっているが、それは幕間にて。

・『コヤンスカヤから見たカリア』
 ……完全な天敵。下手をすれば原作でカルデアと彼女が和解したツングースカ・サンクチュアリのストーリーが消える。幼体の段階でカリアを倒せるかと問われれば『不可能』としか言いようがない。しかしあくまで倒せないだけであり、条件さえ整えば撃退は可能。

・『“青い星”』
 ……カリア曰く、「自分と同じはぐれ者」。しかし彼の場合、はぐれ者としての度合いはカリアの何倍も大きく、なんならハンターという職業全体を見渡しても彼と同じ存在がおらず、もしいたとしたら間違いなく“禁忌”が動くレベル。本人としても「自分は化け物」だと思っている模様。現在はシュレイド異聞帯にて、アンナに敗れたエリシオと行動を共にしている。

・『青黒い粒子』
 ……カリアの霊基に刻まれた存在が放つもの。彼女の伝説を語るのに、この存在は不可欠なもの。生前子を成す事の無かった彼女の青春とは、()の龍との青春であった。ぼくの青春はディオとの青春!




 次回はカリアVSコヤンスカヤですッ!
 それが終わったら、そろそろアンナ達のアイドルイベントを始めようと思います。時間があればなにか一枚でもイラストを仕上げたいところですねぇ……。
 イラストといえばですが、現在fgoで開催中のイベントでヨハンナ様が実装されたとのことでしたので描いてみましたッ! どうか見納めください。


【挿絵表示】


 こちらのイラストはpixcivにも投稿しておりますので、良ければ他の作品も見ていただければ幸いです。以下URLを貼っておきます。

https://www.pixiv.net/users/42615441

 それではまた次回ッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。