【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 企業選考が本格的に始まり、本日ギリギリで話を完成させた作者です。

 就活が本当に大変で大変で……。中々執筆が出来ませんでしたので、今日は本当に疲れました、はい。
 ですがこれが無事終われば、後は自由な時間がたくさん手に入るので、運転免許証の獲得などと並行して執筆していきたいと思いますので、よろしくお願いしますッ!

 それでは本編、どうぞですッ!


血狂いの狩人

 

 妖精國ブリテンは、美しい國だ。

 

 穏やかな風に揺られる木々に川のせせらぎは、そこに立つ者に安らぎを与えてくれる。

 森を抜ければ、広がるのは一面の緑。数多の妖精に、動物に踏み締められても、諦めず立ち上がり続ける緑は風に煽られながらもその強靭さを強かに主張し、自然という現象の力強さを感じさせてくれる。

 そこから視線を上に向ければ、陰る事のない満天の夜空の静寂が、何時何時までも優しく包み込んでくれる。時々見える流星なんかには、願い事を一つ掛けてみるのも一興だろう。

 

 

「ハハハハ……ハハハハハハハハッッ!!」

 

 

 そんな(うつくし)い光景を、狂笑が引き裂いていく。

 

 前方から迫りくる銃弾の群れの中を、地面に倒れ込む勢いで疾走していく狩人に、彼女から『獲物』と認識された女性が舌打ちする。

 

 これ以上引き金を引き続けても無駄だと判断したコヤンスカヤが両手で装備したサブマシンガンを消滅させながら上空へ跳び上がり、新たにロケットランチャーを装備する。

 

 瞬時に放たれる弾丸。音の壁を突き破って飛んでいったそれが地面に着弾すると同時、甲高い爆発音と共に熱風が吹き荒れた。

 

 

(命中は……ないですよね)

「ハハッ、逃げないでおくれよビーストッ!」

 

 

 上空へ逃げた獲物を捉えるべく、黒煙を突き破ってきたカリアを、コヤンスカヤはロケットランチャーと入れ替わりで装備したコンバットナイフで迎え撃つ。

 

 ガキンッ、と、耳障りな音が響き渡り、両者の間に何度も火花が散る。

 己の身の丈すらも超える大きさの操虫棍から繰り出される斬撃は重く、そして速い。気を抜けばこの身を両断する勢いで振るわれ続ける連撃を前にして、カリアの振るうそれに比べては玩具のようにしか思えないコンバットナイフで真っ向から迎え撃つなどあまりにも馬鹿げている。

 故にコヤンスカヤは的確に、そして巧みにナイフを扱う事でカリアの攻撃を受け流し、多少でもナイフの耐久力を持続させようとしていた。

 

 しかしそれでも、コヤンスカヤの心に余裕はない。いや、余裕など持てるはずがない。

 

 冷や汗は常に流れ、脳細胞は最初からトップギア。次の瞬間には、自分の命は目の前の狩人に斬り伏せられている……そんな己の死を何度も連想させられる攻撃を捌きながら、必死に思考を加速させていく。

 

 

「……ッ」

 

 

 バギッ、と嫌な音を立てナイフが砕ける。受け流し続ける間に蓄積されたダメージが、遂にナイフの刃に限界を迎えさせたのだ。

 

 

「ハハ―――ッ!」

 

 

 砕けたナイフの破片に、狩人の狂った笑みが映り込む。

 

 何十にも増えた殺意と快楽の混ざり合った眼差しが一斉にコヤンスカヤに注がれる。全身に走る怖気に顔を顰めるも、すぐにコヤンスカヤはカリアの斬撃を紙一重で躱し、彼女の体を蹴って地面に降りる。

 

 頭上から迫る一撃。体を回転させ、コマのように回りながら繰り出される斬撃をバックステップで躱し、頭部から髪の毛を毟り取る。

 

 放られたそれら六本は瞬く間に姿を変え、仮面をつけた巨人となった二本が棍棒を振り下ろす。

 

 轟音。

 地を揺るがし、風を呼ぶ巨人達の攻撃を、しかしカリアは操虫棍を頭上に構える事で防いでいた。その姿に、コヤンスカヤは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

 

 

(アイツ、ナメてやがりますね……)

 

 

 避ける隙などいくらでもあったはず。彼女のスペックならば、カウンターで巨人達の首を刎ねる事だって出来たはず。だが、あえてそれをしなかったとなると、答えは自ずとわかる。

 

 ―――受け止めてみたかったから。

 

 ただの、純粋な好奇心。生前相手取った事のない、しかし別の『カリア』ならば受けた事のあるであろう巨人達による攻撃の重さを受け止めてみたかったからなどという、寒気すら覚えるレベルの好奇心。

 

 

「ほぅ、この衝撃……ディアブロスの突進レベルか。ハハッ、いいな、面白いッ!」

 

 

 操虫棍という防壁を打ち破ろうとしていた棍棒が跳ね上げられる。巨人達が体勢を崩した瞬間、一体を真っ二つに両断しながら上空へ跳び上がったカリアが、右腕をもう一体の巨人に向ける。

 

 

「オオシナトッ!」

 

 

 彼女の右腕に留まっていた紺色の猟虫―――オオシナトが飛び立ち、巨人の全身に突撃していく。

 モンスターにさえダメージを負わせる程に硬い甲殻に守られた猟虫の十回にも亘る突進に巨人が膝を付いた途端、カリアが背後から首を刎ねた。

 

 

「さぁ、他にはなにがあるッ! もっとボクを愉しませて……」

 

 

 噴き上がる血飛沫を全身に受けて赤黒く染まったカリアの叫びを、爆発音が遮る。

 自然溢れる景観をぶち壊す、虎の頭が付けられた戦車が次々と砲弾を発射し、カリアのいる場所に着弾させていく。

 

 しかし次の瞬間、黒煙を切り裂いて飛んできた斬撃が戦車を木っ端微塵に破壊してしまった。

 

 

「……なんだねそれは。先の巨人と比べるとあまりに拙いではないか。これならリオレウスの火球の方がまだいいと思うが?」

 

 

 操虫棍を担いで現れたカリアは、近くに飛んできた戦車の欠片を蹴り飛ばす。

 だが、そこでカリアは「むっ」と切れ長の瞳を細め、周囲を見渡す。

 

 いない。

 先程まで交戦していた獲物(コヤンスカヤ)の姿が、どこにも見えない。

 まるで、自分が先程の巨人と戦車に気を取られている隙に逃げたかのように……逃げた?

 

 

「このボクから逃げるだと……ッ! 獣が、仮にも人類種の敵たるビーストが、冠位ですらないボクから逃げる? ふざけるなッ!」

 

 

 どこだ、どこにいる―――操虫棍が叩きつけられた衝撃で地面に小さくないクレーターが出来上がり、カリアの全身から青黒い粒子が迸る。

 

 今の彼女は、言うなれば餓死寸前の状態で目の前に転がってきたポポの肉を、そこらのバギィに横取りされたティガレックスのような心情であった。

 ようやくありつけた快楽があっという間に消えてなくなった激情に、カリアの怒りの炎が燃え上がる。

 

 

「どこにいるビーストッ! 臆病者め、人類悪を語るくせに一介の狩人に尻尾を巻くとは何事だッ!」

 

 

 怒りのままにカリアが叫んだ、その時。

 

 

 ―――逃げる? ()が逃げるだと? ふ、片腹痛いわ。

 

 

 どこからともなく声が聞こえた途端、カリアの足元が隆起しはじめる。

 ほぼ無意識に飛び退いた直後、彼女がいた地面から三本の尻尾が飛び出した。

 

 

「……ほぅ? それが君の真体か。ハハッ、なるほど、まさに獣ではないか」

〔左様。妾は獣。理不尽な死を前に斃れた獣達が形となったもの。我らを狩る貴様らヒトを弄びたいという愛から発露した、獣である〕

 

 

 着地したカリアの前に現れたのは、白い体毛に包まれた巨大な獣だった。

 日本に伝わる九尾の狐に似た外見だが、それと異なる点を上げるとすれば、彼女の持つ尾の数が九本ではなく五本、と言ったところだろうか。

 

 爛々と輝く禍々しい複数の目がぎょろりと動き、全てを引き裂くように鋭い牙が開かれる。

 それにカリアが先程までの怒りを完全に消し去った直後、コヤンスカヤの全身の体毛が逆立った。

 

 瞬間、赤黒い魔力の波動が噴き上げ、カリア目掛けて殺到していく。

 足元を陥没させる勢いで地を蹴ったカリアは自分に襲い来るそれらを斬り払いながらコヤンスカヤへと接近していく。

 

 コヤンスカヤはカリアの何倍も大きな体を動かして尻尾で薙ぎ払おうとする。それを軽くジャンプして避けてみせたカリアが操虫棍を上段に構えて振り下ろそうとするも、視界の端に白いなにかが映ったのに気づき、即座に真横に武器を動かした。

 

 

「ぐ……ッ!」

 

 

 凄まじい衝撃が全身に走る。

 柔らかいはずの体毛に覆われているというのに、その一本一本がヒトに対する恨みを宿しているかのように鋭くなっているような感覚。まるで一面に棘が生え揃ったような尻尾の一撃にカリアが弾き飛ばされ、地面に叩き付けられる。

 

 

〔潰れるが良い〕

 

 

 淡々とした口調のまま、コヤンスカヤの左前脚が振り下ろされる。

 咄嗟にそれを回避した直後、カリアは右腕からオオシナトを飛ばした。オオシナトは左前脚に体当たりをすると同時に全身に白いオーラを纏い、即座に主人の元へと帰ってくる。

 定位置に戻ったオオシナトが纏っていたオーラがカリアへと移った直後、コヤンスカヤの左前脚や胴体から白い人間の腕のようなものが無数に伸び、彼女を捕らえようとしてくる。

 それらをいなしながらコヤンスカヤから離れたカリアに、再び魔力の波動が襲い掛かるが、彼女も再びジャンプで躱す。

 オオシナトがコヤンスカヤから奪った白エキスの効果で跳躍力が上がったカリアが先程よりも高い場所までジャンプするも、コヤンスカヤも負けじと跳躍し、彼女よりも高い位置に移動した。

 

 

〔墜ちろッ!〕

「ハ―――ッ、墜ちるのは君の方だがねッ!」

 

 

 コヤンスカヤの全身から白い腕が伸ばされる。

 四方八方より迫り来るそれらを弾いたカリアは、丁度真下に来た腕に乗り、駆け出す。

 細い腕の道を一歩も踏み外さず、全方位から襲い来る白腕の群れを斬り捨てていくカリアだが、不意にバランスを崩した。

 

 咄嗟に足元を見やれば、なんと自分が足場にしていた腕から新たな手が伸びており、彼女の足首を掴んでいた。

 そして次の瞬間、カリアの両腕が二本の腕に掴まれた。

 

 

「う、オォ―――ッ!?」

 

 

 なんとか逃れようとするカリアに口角を吊り上げたコヤンスカヤが縦に回転しながら、重力に引かれるまま落下。遠心力によって力を増した腕は、カリアを拘束したまま勢いよく地面に叩き付けられる。

 

 ボールのように跳ねたカリアを、コヤンスカヤはまるで足りないと言わんばかりに何度も地面に叩き付けていく。

 そうして十回ほど叩きつけた後、カリアを上空へ放り投げたコヤンスカヤは、牙が生え揃ったアギトを開き、高出力の魔力弾を放った。

 

 爆発、続いて熱風。

 未だ完成体には至らずとも、人類悪に相応しき能力と実力によって繰り出される一撃は、カリアの霊核に明確なダメージを与えた。

 その証拠に、為す術なく魔力弾の直撃を受けたカリアはなにも出来ずに地面に落下し、その体を覆う鎧は亀裂が入り、晒された素顔には火傷が出来ていた。

 

 

「―――ハ」

 

 

 だが、それでも。

 

 

「―――ハハハハハハハッ!!」

 

 

 この狂人(かりうど)は、止まらない。止まるはずが無い。

 

 

「素晴らしいッ! これがビーストの一撃かッ! ハハハハハハハッ! いや、全身が痛いッ! この感覚は久しぶりだッ!」

〔……狂人め〕

 

 

 今も全身に激痛が走っているはずだというのに、それがどうしたと豪語するように笑うカリアの体には、先程の白いオーラの他に、茶色のオーラも加わっていた。

 いつの間にコヤンスカヤから奪ったのか、防御力を上げる茶色のエキスを獲得していたオオシナトにより、カリアの防御力は普段のものよりも高くなっていたのだ。さらに最初にカリアが獲得した白エキスは跳躍力強化の他にも、別のエキスの効力を増幅させる力があるため、今の彼女の防御力は、ただ茶色エキスを一つだけ獲得している状態よりも強化されていた。

 

 

「だがまだだッ! この程度で終わるものか、終わらせてなるものかッ!」

 

 

 狂笑を上げて走る出す狩人に気味の悪さを覚えながらも、コヤンスカヤはカリア目掛けて三つの魔力の渦を放つ。

 竜巻が如き勢いで渦を巻いて襲い来る三つの魔力の間をすり抜けたカリアに、続いて白腕が襲い掛かる。視界を埋め尽くす勢いで増えていく白腕を前に、カリアはより笑みを深めて速度を上げていく。

 

 地面に倒れ込む勢いで走るカリアの前に広がる大地に、次々と白腕による壁が建造されていく。それによって自分の行動を制限し、その隙に再び彼女を捕らえるつもりなのだろうか―――そう考えるも、上等とばかりにハッ、と息を吐いた。

 

 両足をより速く動かし、空気の壁を突破する。

 残像すら残さぬ黒い弾丸となって飛び出したカリアは、新たに壁を建造しようとしていた白腕の下を掻い潜り、コヤンスカヤの顎に操虫棍を振るった。

 

 

〔ガ―――ッ!?〕

 

 

 (おとがい)を切り裂かれ、白い体毛を赤い血が染める。ぱっくりと割れた切り傷から噴き出した鮮血を浴びたカリアの瞳が紅く染まり、剥き出された犬歯が鋭くなっていく。

 

 打ち上げられた顔面に、カリアは跳躍すると同時にさらなる追撃を叩き込み、コヤンスカヤの体をひっくり返す。

 さらにその間にオオシナトでコヤンスカヤの顔からエキスを奪ったカリアは、早速それを取り込む。

 

 

「揃った……ッ! ハハハハハハハハッッ!!」

 

 

 夜空を仰いで笑い声を轟かせたカリアに、起き上がり様にコヤンスカヤの放った魔力弾が直撃する。

 常に不敵な笑みを浮かべ続ける狩人に攻撃を仕掛けられた事に彼女の口角が上がりかけるが、しかし次の瞬間、それは驚愕へと変わった。

 

 

「……全く、()も目覚めるとはね。まぁそうか、久方ぶりの強敵だ。摸擬戦だけでは物足りなかったのだろう?」

 

 

 黒煙を払って現れたのは、コヤンスカヤではない誰かに言葉を放つカリア。しかし、その背には先程までなかったとあるもの(・ ・ ・ ・ ・)があった。

 

 翼だ。

 彼女の纏う鎧と同じ色、素材によって象られた翼が、彼女を空中に留まらせている。

 

 

〔その翼は……〕

「ボクの霊基に刻まれた龍の幻影、その一つさ。彼が目覚めるとは正直驚いたが、ハハッ、どうやら彼も君と死合いたいそうだ」

 

 

 それとも、ボクが君如き(・ ・ ・)に殺されるのが癪に障ったか―――。

 死して尚、何度も目の前に現れた運命の相手の気持ちを考え、自嘲的に嗤ったカリアは、操虫棍を軽く回して構える。

 

 

「さぁ、悪いけれど付き合ってくれたまえ。彼の癇癪は、少しばかりキツイぞ?」

 

 

 カリアが首を傾げた直後、彼女の姿が掻き消えた。

 驚愕に目を見開いた瞬間、コヤンスカヤの視界が暗黒に塗り潰され、続いて地面に叩き付けられる痛みが走った。

 

 カリアの背中より伸びる腕と一体化した翼による一撃はコヤンスカヤの瞳を以ても捉えられない速度で彼女に一撃を浴びせ、続いて顔面を殴り飛ばした。

 

 翼脚の拳で殴り飛ばされたコヤンスカヤが立ち上がると全身から魔力を噴き上げてカリアからの追撃を防ぐと、そのまま魔力の渦で彼女を攻撃した。

 

 前方から迫る魔力の渦をカリアが操虫棍を回転させて掻き消している間に、広げられた翼脚が巨大なブレスを放つ。直線状には飛ばず、それぞれがカーブを描きながらコヤンスカヤへと着弾する。それに彼女が僅かに怯んだ隙を突いてカリアが疾走。

 翼脚を折りたたみ、三色のエキスによって強化された身体能力で瞬く間にコヤンスカヤとの距離を縮めていく。

 互いの距離が操虫棍との間合いが入らない内に迎撃しようとコヤンスカヤが白腕を伸ばす。

 それらはこれまで以上の速さで一斉にカリアへと殺到してくる中、彼女は腰に装着していたポーチから取り出したそれ(・ ・)をコヤンスカヤ目掛け放り投げる。

 

 

〔そのようなもの、噛み砕いて―――〕

 

 

 白腕の中を掻い潜って飛んできたそれを噛み砕こうとアギトを開こうとした直後、コヤンスカヤの目が訝し気に細められた。

 

 

〔なんだ、これは―――〕

 

 

 眼前に飛んできたそれは、人間の掌に収まるほど小さな玉だった。

 小型の爆弾か、と銃火器に精通している彼女は考えるが、それはあながち間違っていなかった。

 

 コヤンスカヤに到達する前に破裂したそれは、爆炎を噴き出す代わりに―――

 

 

〔ガ、アァッ!??〕

 

 

 コヤンスカヤが自称する(どうぶつ)が最も苦手とする高周波を至近距離から叩きつけたのだ。

 予想外の攻撃を受け、コヤンスカヤの攻撃が中断される。

 

 耳が痛い。頭が痛い。

 キーンと甲高い音が脳内に反芻し、思考が定まらない。

 そうして頭を振って耳障りな音を掻き消した瞬間、目の前に黒い影が映り込んできた。

 

 

(マズイ―――ッ!!)

 

 

 その存在に気付いたコヤンスカヤが咄嗟に身を翻そうとするが、もう遅い。

 

 

〔グアァ―――ッ!?〕

 

 

 振り下ろされた刃による巨大な斬撃痕がコヤンスカヤの巨躯に刻まれ、大量の血飛沫が迸る。

 

 バシャバシャと噴き出した鮮血が草原を赤黒く染め上げていき、コヤンスカヤに片前足を曲げさせる。

 即座に尻尾による連撃でカリアを吹き飛ばそうとするが、強化された身体能力による彼女はそれを容易く打ち払い、返す刃と翼脚からのブレスでコヤンスカヤを吹き飛ばした。

 

 

「君との戦いは楽しかったよ、ビースト。けれど、これで終わりさ」

 

 

 夥しい量の鮮血を流し、震える足でなんとか立ち上がるコヤンスカヤに近づくカリアは、三色のオーラの他にも新たなオーラを纏っていた。

 

 カリアが戦闘中に獲得していた、赤・白・茶のどれにも属さない紺色のオーラは、彼女が戦闘開始した直後に自らの霊基(うちがわ)に巣食う存在によって与えられるウィルスを克服した証。

 これによって彼女は、三色のエキスが揃った時以上の力を発揮する。

 

 走り出したカリアに、コヤンスカヤは苦し紛れに周囲に展開した魔力弾による弾幕で壁を張る。

 それらによる攻撃を翼脚に護られながら走る彼女は、小さく口ずさむ。

 

 

「―――真名、解放」

 

 

 カリアの言葉に反応するように、全身を覆う四色のオーラの勢いが増していく。オーラはカリアの身体能力を徐々に高めていくだけでなく操虫棍にまで影響を及ぼし、獲物を寄越せと言わんばかりに獰猛な輝きを放ち始める。

 

 

「―――贄を、血を、肉を、魂を。このボクに、その全てを明け渡せ」

 

 

 人間のそれからかけ離れた牙を剥き出し、縦長に伸びた瞳孔が獲物を捉えて離さない。

 蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れなくなったコヤンスカヤの懐に潜り込んだカリアが連撃を叩き込み、その度にコヤンスカヤから大量の血が迸る。

 

 

「―――サぁ、絶叫ヲ、ひメイを、キョうフをッ!! そレこソガ、ボくガのゾム狩猟(サツリク)ノほうシュウなリッ!!」

 

 

 そして地面より一気に飛び上がったカリアが全身のオーラを操虫棍へと注ぎ込み、振り下ろす。

 

 

「―――血狂いの狩人よ、殺戮に惑え(モンスターハンター)ッッ!! ハハハハハハハッッッ!!!」

 

 

 自らに落ちてくる絶死の一撃。

 それが目の前まで迫ってくる中で、ようやくコヤンスカヤが自らを縛る硬直を振り払った。

 

 蒼い光と、無数の光が合わさり混沌とした色が混ざり合う。

 爆弾を爆破した音を何十倍にも増し、そこへさらに二乗した程の音と共に地盤が砕けて隆起する。辛うじて隆起を免れたとしても亀裂が刻み込まれた大地が黒煙に包み込まれる。

 

 

「…………ハァ……」

 

 

 黒煙が晴れていく中で、一人の女性の溜息が吐き出される。

 

 振り下ろした刃の先に、獣の首は無い。あるのは大量の血によって作られた池であり、その持ち主の姿は影も形もなくなっていた。

 

 逃げられた―――そう結論付けたカリアは、しかしコヤンスカヤがビーストとしての姿を現す前のように暴れたりはせず、その場に座り込んだ。

 

 

「逃げられてしまったか。全く、なんと逃げ足の速い」

 

 

 ようやく巡り合えた獣を狩り(ころし)損ねた悔しさを滲ませながらも、彼女の顔は晴れやかであった。

 ふと背後に視線を向けてみれば、先程まで自分の戦いをサポートしていた翼脚も消えていた。どうやら、彼も戦いを終えて内側に引っ込んだようだ。

 

 軽く息を吐いて立ち上がり、操虫棍を消滅させる。続いて視線を下げ、ヒビの入った鎧を見て嘆息する。

 

 

「最高の狩人がなんと情けない。未成熟の獣如きにここまでしてやられるとは……これではウッドワスの援軍にも向かえないではないか」

 

 

 魔力も大分使ってしまったため、このままロンディニウムで戦っているウッドワスに加勢するのは難しい。下手をすると戦闘中に消えかねない。

 それはいけない。自分だけならば死ぬまで相手を殺し続けられればそれでも構わないが、今の自分にはバーヴァン・シーというマスターがいる。数百年連れ添った相手になにも言わずに消えるのは、流石のカリアも心苦しい。

 

 モルガンより与えられた援軍の任務を果たせないのは申し訳ないが、理由を話せばわかってくれるはずだ。普段は強大で妖精達から恐れられるが、あれでも聞き分けはいい方なのだから。

 

 

(では、早速帰るとしよ―――)

『―――なにやってやがったんだカリアァッ!』

「ぃいッ!?」

 

 

 歩いて城に帰ろうとした直後、彼女の脳内に主の叫び声が聞こえてきた。

 

 

「マ、マスター……念話で叫ぶのは止めてくれたまえ……。こちらは戦いが終わった直後で疲れているんだ」

『テメェ、私の事なんか気にせず戦いやがって……しかも宝具まで使いやがったなッ!? お陰でこっちも疲れたわッ!』

「あ~……それはすまない」

『ったく……で? あの犬コロは勝ったの?』

「いや、それとは別口でね。思わぬ妨害者と遭遇してしまったんだ。陛下に報告してほしい」

『妨害者……? えぇ、わかったわ。後でお母様に伝えておくわね』

「あぁ、頼むよ、親愛なるマスター。良ければ魔力供給も是非……」

『激しすぎるから駄目だ。自室で寝てろ』

「ふふっ、恥ずかしがり屋め」

『お母様に言いつけるわよ?』

「それは勘弁」

『……ま、災難だったな。帰りも気を付けろよ』

 

 

 その言葉を最後に、バーヴァン・シーからの念話が終了する。

 親愛なる主からの言葉に従い、カリアはキャメロットへ足を進めていく。

 

 その途中、彼女は足を止めて振り返る。

 

 

(さて、ウッドワスは上手くやってくれているかな?)

 

 

 カリアの視線の先。そこには天へ昇る眩い光があった。

 

 

 

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「ぐぅ……ッ!」

 

 

 カリアが撤退を始めた頃、ウッドワスは痛恨の一撃を受けて膝をついていた。

 

 今受けた一撃は、選定の槍。女王モルガンの治世を崩さんとする円卓軍のリーダーであるパーシヴァルが持つ槍の一撃だ。

 忌まわしき楽園からの(こえ)。罪を犯した妖精達を裁く、眩くも悍ましい光。

 

 亜鈴百種としての力を解放しても尚、この痛み。だが、激痛を受けても尚、ウッドワスは倒れなかった。

 

 それは、この戦いに負けられないという意地ではない。もちろん負けないのが一番であるのだが、今回ばかりはこうしなくてはならない。

 

 

(この気配……。カリアめ、なにと戦ったかは知らんが、撤退したようだな)

 

 

 自らの前にいる者達から目を逸らさないまま気配を探ると、どうやら予想通り援軍としてこちらに向かって来ていたカリアが撤退していくのがわかった。

 

 これから取る行動は、陛下を裏切るものだ。

 陛下からの信頼を裏切るような真似事は、正直やりたくない。

 しかし、やらなければならない事だ。もし彼女の考えている通りだとしたら、陛下のすぐ近くに裏切り者がいる事になる。

 それは許せない。絶対に許せるはずが無い。モルガンへ絶対の忠誠を捧げる身である自分が、その裏切り者を粛清せずしてなんとするというのか。

 

 

(それにしても……)

 

 

 震える足で立ち上がり、自らの前に立ちはだかる影の戦士達を睨む。

 

 剣と盾を装備した男に、身の丈を優に超える銃槍を構えた女。そして、彼らの背後で異形を従えている、赤い衣服をまとった男。

 赤い男を除けば、前衛に立つ二つの影はどことなく友人のカリアと似た気配を感じる。となると、彼らもまたハンターか。

 

 

(フッ、相性が悪いとはこの事か)

 

 

 影でさえも後れを取ってしまった。流石は彼女と同じ時代に生きた猛者達だ。“モンスターハンター”の時代に生きた狩人は化け物かなにかだろうか。

 

 

(……ここが引き際か)

 

 

 選定の槍による一撃を受けた胸部からは絶え間なく血が流れ出している。このままではこの形態を維持できず、いずれ命の火さえも尽きるだろう。

 

 ならば、ここが引き際だ。

 

 

「……流石だな、パーシヴァル。オレが見込んだだけの事はある」

 

 

 朦朧とする意識の中、言葉を紡ぐ。

 

 

「だが、排熱大公の名を継ぐこのオレが人間(きさま)に倒されるのは癪だ……。もし倒されてしまっては、先代に顔向けできん……」

 

 

 ほぼ感覚のみで踵を返し、パーシヴァル達から離れる。

 

 

「ウッドワスが逃げる……ッ! 誰か、追いかけて……ッ!」

 

 

 背後から少女の声が聞こえる。確か、ダ・ヴィンチと呼ばれていたか。小さな体のくせに、小賢しく攻撃してきたのは本当にイラついた。

 だが、彼女も自分との戦いで疲労が溜まっているのだろう。それは他の者達も同じで、異邦の魔術師も例に漏れない。その証拠に、彼女が召喚した狩人達の影も消えていくのがなんとなく感知出来た。

 

 

「ぉ……おお、お―――」

 

 

 だが、一人。たった一人だけ、動ける者がいた。

 

 

「うぉおおおおおおッッッ!!!」

 

 

 背後から迫り来る殺気。

 雄叫びと共に迫るその騎士に、ウッドワスが振り返る。

 

 

「いざ―――オックスフォード公、御免ッ!」

 

 

 槍を構え、今にも転びそうな勢いで走ってくるパーシヴァルがジャンプする。

 

 月光を浴びるその純白の鎧は、土埃や血に汚れながらも美しい。

 自分に残された最後の気力を振り絞って突き出される槍の穂先が、真っ直ぐウッドワスの胸へと突き進んでいく。

 

 

(……あぁ、本当に、強くなったな)

 

 

 もしカリアと出会っていなければ、ただ怒りと恐怖に呑まれて無様な命乞いしか出来なかっただろう。

 しかし、この自分は違う。

 かつて、この男には才覚があると感じ、育てた結果、今こうして、仲間達の力を借りながらも自分を追い込む力を身につけた。

 

 もし、自分が誰にも忠誠を捧げぬ一匹狼であれば、ここで斃されてもいい―――そう思える程にまで、ウッドワスの心は成長していた。

 

 しかし。

 

 

「な―――」

 

 

 ガキンッと、聞こえるはずのない音が響く。

 

 呆けた顔のまま地面に落ちたパーシヴァルが、あり得ないとばかりに見上げてくる。

 

 

「悪いな、パーシヴァル。オレはまだ、死ぬわけにはいかないんだよ」

 

 

 全身を覆う、漆黒のオーラ。

 選定の槍で受けた傷こそ完治しなかったものの、それ以外の傷が瞬時に癒えていく。同時に全身は鋼が如く強固になり、あらゆる攻撃を弾く頑丈さを手に入れる。

 

 

「そういえば、教えていなかったな。これが私の全力の姿―――極限状態だ」

「そん、な……」

 

 

 自分達が与えた攻撃は、いったいなんだったのか……。絶望に打ちひしがれたパーシヴァルの顔から血の気が引き、その瞳から光が失われていく。

 

 

「だが、これは手を抜いていたのではない。お前達は強い。認めたくはないが、このオレの首を獲るに相応しい勇士達だ」

 

 

 片膝をつき、彼の頭に手を伸ばす。

 

 遠くから自分を止める声が聞こえてくるが、そんなものどうでもいい。

 

 パーシヴァルの瞳が閉じられる。頭を潰されると思ったのだろう。硬く瞼を閉じ、悔し涙さえ流している。

 

 それを眺めながら、ウッドワスは彼の頭に手を乗せ―――

 

 

「―――本当に、強くなったな」

 

 

 ゆっくりと、優しく撫でた。

 閉じられていたパーシヴァルの瞳が開かれ、顔を持ち上げる。

 

 なにをされたのかわからない、という表情。それに「ハハハ」と小さく笑い声を漏らし、立ち上がる。

 

 

「この程度で諦めてくれるなよ、パーシヴァル。お前の槍は、いずれこのオレの命に届くだろう。―――勇敢なる騎士パーシヴァルよ、オレを超えてみせろ。オレはいつでも、お前の挑戦を受けよう」

 

 

 パーシヴァルに背を向け、歩き出す。

 それから数秒した後、背後から天に吼える男の叫びが聞こえてくる。

 

 酷い絶望だ。酷い哀しみだ。だがその中に「必ず超えてみせる」という、確かな決意の叫びを、ウッドワスは感じ取った。

 

 そうして、ウッドワスは歩を進めていく。そうして彼らの気配が遠くに感じられるようになった時、彼はそれまで進めていた足を止めて、極限状態を解除する。

 

 選定の槍による傷も、ある程度癒えてきた。

 しかし、彼の心に刻まれた傷は、決して癒えていなかった。

 

 

(あの時、私の前に現れた、あの妖精……)

 

 

 仲間達の窮地に駆けつけた少女騎士を乗せていた、あの妖精。

 レッドラ・ビット。かつて自分がオーロラへと捧げた妖精。かつての同胞。そんな彼が、円卓軍の一員として活動していた。

 

 それは、決定的な証拠として、ウッドワスの心に深い傷を刻み込んだ。

 

 

「君はやはり、私を……妖精國を裏切ったというのか、オーロラ……」

 

 

 深い哀しみと共に夜空に向けて放った言葉は、しかし最も問いかけたい相手に届く事はなく消えていった。

 




 
・『コヤンスカヤのビースト態』
 ……ツングースカでの最終決戦のものではなく、闇のコヤンスカヤの宝具演出時に登場する姿。今回でかなりの痛手を負わされるものの、商売魂に掛けて原作通りに行動し、メリュジーヌに部位破壊(尻尾切断)される。

・『黒い翼脚』
 ……カリアの背より生えたもの。彼女の霊基に刻まれた竜/龍の幻影、その一つ。彼女の霊基には、彼女と最も関わったとあるモンスターの三つの姿が刻まれており、状況に応じてその形を露わにする。しかし、その中の一つは酷く不安定なものであり、もしそれが表面に現れた場合、カリアの凶暴性をそのままに、彼女自体がそれに成ってしまうだろう……。

・『音爆弾』
 ……言わずと知れた、オトモとは別の狩りのお供。ガレアス種やディアブロスなど、音に弱いモンスターに対して絶対的な効力を発揮するアイテム。コヤンスカヤ曰く、自分は兎だという事なので採用。

・『極限化ウッドワス』
 ……モンハン4Gをプレイした事のある者なら誰でもわかるトラウマシステムを搭載したウッドワス。かつてはサンブレイクで言うところの『狂竜症【蝕】』のように狂竜ウィルスを克服した時にこの姿になっていたが、現在では任意で変化できるようになっている。まさしく悪夢。


 さて、そろそろアイドルイベントが近づいてまいりました。久しぶりにアンナを出せそうです……いや、本当に久しぶりだな、主人公なのに……。

 それではまた次回……と行きたいところですが、ここで皆さんにご相談があります。

 実は私、息抜きでif話を考えてまして。ほんの1000~3000文字程度で終わる話なのですが、活動報告か幕間・プロフィールのように上の方に投稿しようかと考えているのですが、皆さんは読みたいですか?
 最初に投稿する予定の話は、「もしアンナがsn序盤のセイバーVSヘラクレスに乱入したら」というものです。

 良ければ、皆さんの意見をお聞かせください。

 それでは、今度こそ終わりです。
 皆さん、また次回お会いしましょうッ!
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