【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 大学が始まったり就活が激化したりライザのアトリエを購入したりと、毎日が忙しい作者です。
 今回からアイドルイベントですッ! 本当は一話で完結させたかったのですが、今後の展開を考えると二部構成にした方がいいと思い、今回は前半とさせていただきます。
 この話が終わったら、妖精國編は少しずつクライマックスに近づいていきます。その後はいつも通りカリアの幕間とプロフィールを投稿し、シュレイド異聞帯での一幕を投稿したいと思います。
 それからは……正直今でも悩んでおります。トラオム編のラストが原作の今後のストーリーに深く関わってくると考えていますので、なんとかアンナにその情報を持たせたいんですよね。

 それでは本編、どうぞですッ!



アイドルイベント/開催

 

 グロスターの中心に建造されたライブドームは、一度に四千人もの観客を収容する事が出来る。氏族と人間、各々に分けられたスペースがあるため、小柄な妖精や人間が大柄な妖精達の壁によってライブを見れないという事はない。

 

 その中でも特等席は、一般客よりも間近にアイドル達のダンスを楽しむことができ、そこに招待されるのは氏族長や彼らに招かれた賓客達である。

 

 受付の妖精に特別招待状を手渡して特等席に案内された立香達は、そこで小さな妖精に声をかけられた。

 

 

「こちらですよ、皆さん」

「あっ、ムリアンッ!」

 

 

 立香達に手を振っていたのは、この妖精國においてたった一人だけの“翅の氏族”の生き残りであり、そしてグロスターの領主のムリアンだった。

 

 

「今日はありがとね、ムリアン。まさか特等席を用意してくれるなんて」

「いえいえ、あの排熱大公ウッドワスを撃退したのです。個人的な感情でも、彼には少し痛い目に遭ってほしかったので、今回はそのお礼です」

「え、それ、ここで言っていいのッ!?」

 

 

 なんて事のないように言ってのけたムリアンに、アルトリアが顔を真っ青にして周囲を見渡した。

 しかし、まだ周りには他の妖精達の姿は見受けられなかった。

 

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。まだここには私達以外誰もいませんし。オーロラ達は後で来ますけどね。……ほら、噂をすれば」

 

 

 ムリアンが視線を向ければ、先程立香達が来た道を通って二人の妖精が入ってくる。

 やって来たのは、長い金髪と美しい羽根が特徴の、ソールズベリー領主のオーロラと、その側近であるコーラルであった。

 彼女達にはまだ妖精國にやって来たばかりの頃に色々手伝いをしてくれた事や、レッドラ・ビットを用意してくれた事など、

 

 

「あら、ムリアンッ! それに『予言の子』達ッ! ふふっ、久しぶりね」

「……まさか貴女達もいるとは」

「こんばんは、コーラルさん。オーロラさんも」

「ごきげんよう、『予言の子』。ロンディニウムでの勝利、おめでとうございます。……それにしても凄いですね。ロンディニウム勝利は昨日のはずでしたのに、すぐこちらに来られるとは」

「それはまぁ、足が頑張ってくれましたので……」

 

 

 ムリアンからのいきなりの招待を受けたというのに、文句一つ言わずに承諾してくれたレッドラ・ビットには感謝しかない。

 後でなにかお土産でも買っておこうかと一瞬考えたアルトリアであったが、今の自分にはこの流行の街で使える金など持っていない事に気付き、即座に断念した。

 

 

「それはそうとコーラルさん、なんだかソールズベリーにいる時より楽しそうですね? ひょっとして、かなり楽しみにしてました?」

 

 

 そう立香が訊ねてみると、コーラルはわかりやすくハッと目を見開き、ほんのりと頬を赤らめた。

 

 

「いえ、浮かれてなどいません。私はオーロラ様の護衛ですから。『異邦の魔術師』。招待されているからといって、貴女は人間です。今のように軽々(けいけい)に意見を口にしないように。自分の立場を弁えなさい」

「ご忠告どうも。キミはいつも人間を心配してくれているね。今のも、他の妖精に同じような事をしたら大変な目に遭うって注意だろ?」

 

 

 コーラルの言葉に隠された意味を即座に見抜いたダ・ヴィンチからの言葉に、彼女はあからさまに目を背けた。

 

 

「……そのような意図はありません。勝手な解釈は不要です。私はオーロラ様とは違います。人間は嫌いですし、対等のものとは考えていません」

「そうかい? 人間を自由に過ごさせているオーロラと、人間を厳しく指導しているキミ。私から見ればキミの方が遥かに人間に優し―――」

「お黙りなさい。どのような氏族、妖精であれ、オーロラ様への中傷は“風の氏族”への侮辱となります。ましてや―――私とオーロラ様を比べるなど、それこそ許されない。『予言の子』を労おうとした私が愚かでした。ここは気品の集う夜会。礼節を学んでから来る事ですね」

「それは失礼。でも最後に一つだけ」

「? なんですか?」

「楽しむ準備は万全みたいだね。一緒に楽しもう♪」

「え……あっ!」

 

 

 ダ・ヴィンチの視線の先。コーラルが持参したバッグには今回のイベントに出演するオフェリア・ファムルソローネのグッズが盛り付けられており、バッグの中からは彼女の応援うちわがこんばんはしていた。

 彼女なりに隠していたつもりなのだろうが、先程立香に訊ねられたように普段よりも明るい雰囲気だったのも相俟ってバレバレであった。

 

 

「あらッ! 貴女、オフェリアのファンなのかしら。ふふっ、氏族長の側近さえも虜にしてしまうだなんて罪な子ねぇ~」

「ふふふ、バレてしまったわね、コーラル。この子ったら、少し前からその人間……えっと、ごめんなさい、名前を忘れてしまったわ……」

「……オフェリア・ファムルソローネさんです……」

「そうそう、そんな名前だったわね。この子は彼女の大ファンなの。私も彼女についての話を何度も聞かされたわ。この前なんて如何に彼女が魅力的なのかを熱弁されて―――」

「オ、オーロラ様ッ! それ以上はやめてくださいッ!」

 

 

 朗らかに笑いながら自分の情報を暴露し始めたオーロラの口を咄嗟に止めにかかるコーラル。

 羞恥に顔を真っ赤に染め上げた彼女の姿は、これまで素っ気ない態度しか見ていなかった立香達には珍しく思え、同時に彼女が本当は人間に対して悪感情を抱いていないのだと思えた。

 

 

「ふふ、ごめんなさい。貴女に何度も説明を受けていると、つい話したくなっちゃうわ。貴女がそれ程夢中になるものなんて、これまでなかったもの。……本当に、ね」

「……ッ!」

 

 

 閉じていた瞼を薄く開けたオーロラに、立香の隣に立っていたアルトリアが息を呑んだ。

 

 

「ん? どうしたの、アルトリア」

「……いえ、なんでもありません」

 

 

 そう答えるアルトリアであったが、極力オーロラから視線を外していた。

 それに気付いたペペロン伯爵が「あら?」と思ったが、自分が踏み込めるものではないと判断し、踵を返す。

 

 

「あれ? 伯爵、どこに?」

「出来るなら一緒に見たいのだけれどね。生憎と仕事があるのよ。また後で会いましょう?」

「そうなんだ。うん、また後でッ!」

 

 

 手を振る立香ににこやかに微笑み、ペペロン伯爵は特等席から離れていった。

 軽やかな足取りで去っていくペペロン伯爵の背中から視線を上に動かせば、続々と観客が席に着き始めていくのが見える。

 その中で立香は、観客席よりもさらに上の場所に、ガラス張りの部屋がある事に気がついた。

 

 

「あそこは?」

「あちらには女王モルガンと、それに近しい者達がいます。可能性など万に一つもありはしないでしょうが、念の為ああいった場所に」

「どれどれ……あぁホントだ。確かにモルガンがいる。隣にはベリル・ガットの姿もあるね。後ろには護衛の近衛兵達もいる」

 

 

 試しに望遠鏡を取り出したダ・ヴィンチが、彼女の姿を目視する。

 傍にこの異聞帯のクリプターであるベリル・ガットを置き、後方に近衛兵を配置しているモルガンは、以前出会った時と同じ、全てに関して冷酷に対処するような氷の女の如き鉄仮面でいた。

 

 

「なんだか緊張するなぁ……。この場所、あっちからすればいつでも攻撃できる位置じゃん」

「そう心配する必要はないさ。確かに僕らは立派な叛逆者だけど、それでいきなり攻撃を仕掛けてくる程、彼女も馬鹿じゃない。なにせ、このイベントは彼女の愛娘が活躍する舞台でもあるのだからね」

 

 

 オベロンが手元の出演者一覧に記載された、バーヴァン・シーの名に目を落とし、アルトリアが納得したように頷いた。

 

 

「そうか。バーヴァン・シーって、妖精騎士以外にも、あの『Bhan-Sith(ヴァンシー)』のオーナーの顔もあったんだ。そりゃ陛下も来るかぁ」

「さて……そろそろライブが始まる。今日は精一杯楽しもうか」

 

 

 オベロンの言葉に頷き、立香達はライブ開始まで待つのだった。

 

 

 

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 ライブ会場の照明が落とされる。

 それに伴って観客達が静けさを取り戻していく中、会場に備え付けられたスポットライトが、二人の女性を照らし出した。

 

 一瞬の静けさを瞬時に消し飛ばした観客達の歓声に迎えられて現れたのは、赤い装飾を施された煌びやかな衣装を纏ったアンナ・ディストローツだった。

 

 

「―――真夜中に告ぐ 音の警告 協和音に酔う 午前零時」

 

 

 特徴的な曲調に合わせて、柔らかくも芯のある歌声が観客達の鼓膜を震わせていく。

 歓声が収まり、徐々に静かになっていく観客達。しかし、それは彼女の歌に悪印象を覚えたのではない。むしろその逆で、彼女の歌声に聞き入っているのだ。

 

 

「―――感覚 即 体感 寝静まる夜 二人だけの密」

 

 

 まるで誰かが傍にいるような仕草。その場にいる誰かの存在を観客に伝えるように踊り、徐々に声を溜めていく。

 

 

「―――忘れないでね わたしの声を 画面越しでいい ちゃんと愛して」

 

 

 そして溜めていたものを解放して叫ぶように歌った直後、観客達の歓声が爆発した。

 これまでよりも華麗に、そして激しく動くアンナの姿に、誰もが視線を奪われる。

 

 

「―――覚えていてね わたしの声を あなたがくれた この身すべてを」

 

 

 その歌詞を紡いだ直後、アンナの瞳が一瞬揺れる。

 それに伴って彼女の歌声も一瞬だけ弱まるが、その変化に気付く者は誰一人いない。それ程の熱量を、彼女はこの数十秒で周囲に与えていたのだ。

 

 

「―――悲しみ 怒り 甘心 すべて打ち鳴らす」

「―――into an ugly black i'm gonna run away now」

 

 

 その時、会場にどよめきの声が響く。

 アンナが歌い終えた直後、新たな歌声が会場に響いたからだ。

 

 自らの背後。そこに手を伸ばしたアンナの先には、彼女とは色違いのゴールドイエローの装飾が施された衣装を纏ったオフェリアが立っていた。

 

 予測していないタイミングでの推しの登場に、特等席にいたコーラルが狂喜して両手に握ったペンライトを振り回す。そんな彼女に気付いたのかオフェリアが手を振ると、コーラルは感極まったように膝から崩れ落ちた。

 

 

「―――and never look back i'm gonnna burn my house down」

 

 

 オフェリアが歌っている曲、『ECHO』は、その時間と比べて間奏の時間が長い。その間、観客を飽きさせないように編集で彼女が歌った歌詞を繰り返し流す。その間にオフェリアは階段を下り、自分を迎えるように歩み寄ってきたアンナの前に立つ。

 そして、誰が見ても二人が信頼し合っている事がわかるように笑顔で頷き合うと、二人で観客席へ顔を向けた。

 

 

「―――忘れないでね わたしの声を 画面越しでいい ちゃんと愛して」

 

 

 曲は再び、アンナのものへと戻る。

 彼女の『ヒビカセ』とオフェリアの『ECHO』の音声が重なり合い、それに合わせて二人も一瞬の乱れも感じさせないダンスを踊り始める。

 

 

「―――見つめ合う あなたと二人 重ねた息と音を響かせ」

「―――THE TREMBLING FERE IS MORE THAN I CAN TAKE WHEN I'M UP AGAINST ECHO IN THE MIRROR」

 

 

 調和の取れた音調。

 異なる曲を組み合わせながらも決して乱れず踊る二人は、小さな微笑みを浮かべて互いを見やる。

 

 

「―――ECHO IN THE MIRROR」

「―――オトヒビカセ」

 

 

 二人が合わせた手の間に歌詞が表示され、砕け散る。

 これまでと比べてゆっくりなペースで踊る二人に合わせて、少しずつ曲調もゆったりとしていく。

 

 そして最後に二人でポーズを決めると、間髪入れずに次の曲に入る。

 

 観客達に拍手をさせず、そのまま歓声へと変えたのは、新たに現れた男女ペアだった。

 聞き心地のいいソプラノであっという間に会場の空気を塗り替えたのは、煌びやかなドレスを纏う、仮面をつけたアナスタシアだ。

 

 

「―――朝まで踊る夢だけ見せて 時計の鐘が解く魔法」

 

 

 スポットライトに照らし出され、蒼薔薇のプロジェクションマッピングを伴って踊るアナスタシアに、観客達の視線が釘付けになる。

 

 

「―――曖昧な指誘う階段 三段飛ばしに跳ねていく」

 

 

 階段を上ったアナスタシアの視線が横に向けられた途端、彼女の隣に青を基調としたタキシードを羽織い、彼女と似たデザインの仮面と装着したカドックが現れた。

 

 

「―――馬車の中で震えてた みじめな古着 めくり廻れ夜の舞踏」

 

 

 アナスタシアの手を取り、階段を下りていくカドック。

 彼についての記憶がロシア異聞帯の時のものしかない立香は、彼にこんな動きが出来るのかと感嘆する。

 

 

「「―――見知らぬ顔探す 囁くあの声が」」

 

 

 互いに手を伸ばすも、両者の間になにかが立ち塞がっているように引く。

 それでも尚、二人は傍に手を取り合う相手がいない中でも、まるで自分達を阻む空間を超えているかのように踊り続ける。

 

 

「「―――孤児(みなしご)集う城 笑み仮面に描いて 偽りの慈しみさえ 羽で包む熾天使(セラフ)」」

 

 

 サビが歌い終わり、間奏を挟んで二番へと入る。

 二人の背後に巨大な時計が映し出され、その秒針は一つまた一つと12時を指そうと動き始める。

 

 

「―――靴脱ぎ踊るスロープ抜けて 喉まで伸びる指の先で」

「―――すくう雫口付けて 走る衝動 背骨抜けていく刹那」

 

 

 片膝をつき、軽く差し伸べられた手を恭しく取ったカドックが立ち上がり、アナスタシアの仮面に手をかけると、彼女もまた彼の仮面に手を添えた。

 歌唱を続けてすれ違った二人を照らすスポットライトが一瞬消えるが、次についた時には、二人は相手が着けていた仮面を持っていた。

 

 

「「―――鐘は鳴らさないで あなたにひざまずき」」

 

 

 仮面を外し、ようやく素顔を露わにした二人が互いにお辞儀をする。

 まるで、これからが本番だというように、これまで以上にキレの増したダンスで観客を魅了する。

 

 

「―――今も耳にあなたの吐息が 突き刺さるの遠い夢」

「―――ステンドグラスごし光る月が 君にかぶせたベール」

 

 

 それぞれのパートに合わせてスポットライトが集中して二人に中てられ、円を描くように移動し、向き合う。

 

 

「「―――ドレス膝で裂いて ティアラは投げ捨てて 見つめ合う瞳と瞳が 火花を放つ」」

 

 

 ラストに入ってより激しく動きを増していく二人の姿は、まるで炎のよう。

 燃え上がる炎のように苛烈なダンスと、永久凍土に生まれた氷のように美しく透明な声。この二つの特性を補完し合う二人の間には、アンナとオフェリアとはまた別の信頼が見て取れる。

 

 

「「―――これ以上は動けないよ まるで御伽噺(フェアリィテイル)」」

 

 

 最後に一瞬だけ顔を合わせた後、すれ違う二人。

 同時、時計の針が12時を指し、ステージを照らす青色のスポットライトが赤黒く変色するという意味深な演出の後、二人はステージから素早くはけていった。

 

 

 

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「ハハハッ、こいつはスゲェ。あれ、ホントにカドックかよッ!」

 

 

 ステージからカドック達が消え、新たな曲と共に別のアイドルがステージに上がった頃。

 モルガンの隣に立つベリルは、ひゅうと口笛を吹いて拍手していた。

 

 アンナは昔からああいう事をするタイプだったので特になんとも思わなかったが、オフェリアとカドックは別だった。片やこういった事にはてんで不慣れであろう女で、片や周りに喰らいつく為に必死で勉強していた男だ。そんな二人が、序盤であそこまで素晴らしいダンスを披露するとは思っていなかった。

 

 

「凄いだろう? 我が社が誇るアイドル達は」

 

 

 背後からの声に振り返れば、衛兵に見せたであろう通行証を首元にかけ直しているプロフェッサー・Kがいた。

 

 

「おぉ、これはこれは主催者様じゃねぇか。折角のライブだってのに、特等席には行かないのか?」

「是非そうしたいところだけどね。陛下にここまでの感想を聞かせてもらおうかと思って」

 

 

 どうですか、陛下―――と、傍らに移動したプロフェッサー・Kを横目で見やったモルガンは、いつもの鉄仮面を崩さずに答える。

 

 

「まだ序盤故、そう簡単に評価を下せるわけでないが、こうして観賞する分には充分だ。余計な問題を起こそうとする妖精もいないからな」

「それは彼彼女らのお陰でしょうね。日常の中で、オフェリアが歌ったような曲を聴いた場合はいらぬ問題を起こしていたでしょうが、今回は次々と曲が流れていくライブ。歌詞の意味を変に解釈する前に他のものを用意してしまえば、後は勝手に楽しんでくれますからね」

 

 

 妖精國の妖精は、良くも悪くも常に刺激に飢えている存在だ。

 それが善いものであろうとそうでなかろうと、『面白そう』と思えば即座に手を出す。それ故に所持品(・ ・ ・)である人間の腕を面白半分にもいだり殺したりするニュースが、時々舞い込んでくる事もある。

 しかし、彼らが目の前で起きているものに対して深く考える前に別のものに変えてしまえば、後は純粋に楽しんでくれる。

 

 

「へぇ、よく考えてんなぁ」

「これぐらい当然さ、ベリル。折角のライブの後に、そんな下らない問題を起こさせてうちの社員を暗い気持ちにさせないようにするのも、社長兼主催者である私の役目だからね」

「流石だな、プロフェッサー・K。我が娘がブランドを立ち上げる際にも協力してくれたのもあるが、本当にお前には頭が上がらん」

「いえいえ、それはこちらのセリフです。突然この地に現れた私を疑いもせず、爵位を与えてくれた貴女こそ、頭が上がりませんよ」

「……では、そういう事にしておこう」

 

 

 そう言った後、モルガンはプロフェッサー・Kに向けていた視線をステージに戻し、鑑賞を再開する。

 相も変わらずその表情は明るいものではないが、軽く爪先でリズムを刻んでいるところを見るに、彼女もこのライブを楽しんでいるようだ。

 

 それを嬉しく思いながら、プロフェッサー・Kもまたステージへと視線を移すのだった。

 

 

 

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 モルガンとプロフェッサー・Kの会話からしばらく経ち、観客達のボルテージも少しずつ上がっていく。

 特に今最も気分が高揚しているのは、女の妖精や人間達だった。

 

 

「―――鐘よ響け 僕の願いを運んで」

 

 

 彼女達の黄色い歓声を浴びるは、華やかな黒い衣装を纏ったシグルド、ボレアス、バルカンだった。

 アンナ達のような高音ではなく、カドックのような若々しさをあまり感じさせない、歳を重ねた男性の喉だからこそ出せる深みのある声とそれに含まれる色気は、絶え間なく観客席の女性達を魅了していく。

 

 

「「―――ああ いま美しく咲いた 喜び 悲しみ 皆で歌おう」」

 

 

 数歩下がったシグルドに代わって前に出たボレアスとバルカンは、自分達が感じる全てを仲間達と共有するように片手を軽く上げて見つめ合う。

 その頬に刻まれた微笑みは、数多の女性達に狂ったような歓声を上げさせた。

 

 それは、特等席に案内されていた立香達も例外ではなく。

 立香は上気した頬を隠しもせず荒い息を吐き、ダ・ヴィンチはうっとりとした表情でシグルド達の歌に聴き入っている。

 

 

「な、なんでしょうこの動悸は……。なんか、なんか色々込み上げてくるものがあります……ッ!」

 

 

 胸に当てた拳に収まらぬ動悸を感じ取るガレスに、コクコクと何度も頷くアルトリア。近くにいたオベロンが一瞬彼女達から腐臭を嗅ぎ取るも、なにやら嫌な予感がしたために、そっと二人から視線を逸らした。

 

 

「―――眩しく夢に見た 分かち合う愛を どうか僕に 光を導け」

 

 

 鏡合わせのように瓜二つの外見を持つボレアスとバルカンを左右に、前に歩み出たシグルドに、ボレアス達とは別の色のスポットライトが当たる。

 

 

「―――未来(あした)へ」

 

 

 自分を照らすスポットライトの光源に向けてシグルドが手を伸ばし、少しずつライトの光量が落ちていく。

 そして完全に曲が終わると同時にライトの光も消え、観客席から歓声と拍手が巻き起こるのだった。

 

 それからしばらくしない内に再びステージが照らし出されるが、現れたのは用意された椅子に腰掛けているアンナ達。これから始まるのはダンスではなく、アイドルと観客双方の小休止としての役割を持つ、軽めの雑談―――MCだ。

 

 観客達の拍手に迎えられたアンナ達は軽く手を振って彼らに返し、互いに見合う。

 

 

「えっと……うん、なんだろ。なんて言えばいいのかな。変な緊張感があるね」

「仕方ないだろ。これまで軽めのはしてたけど、こんな大きな場所でやるのは初めてなんだから」

 

 

 最初に口火を切ったのはアンナで、その後にカドックが続く。彼に対し「そうね」と答えたのは、アンナの隣に座るオフェリアだ。

 

 

「私達のほとんどは、この國に来るまでこういった経験をした事もなかったから、本当に緊張したわ……」

「そういえば、ライブが始まる前は凄い緊張してたよね。少し不安だったんだけど……ちゃんと歌えてよかった」

「えぇ、本当に」

 

 

 その時の事を思い出したのか、オフェリアが苦笑いを浮かべる。

 緊張していたものの、なんとかこうして順調に事を進め、次に託す事が出来た。それがオフェリアには嬉しかった。

 

 

「前までの君だったら想像できなかったけど、これも経験の為せる業だね。そのお陰にしっかり歌い切る事が出来たし、たくさんのファンも出来た。ほら、そこの特等席にいる子なんて、ずっと君の事見てるよ?」

「え? ……あっ」

「あ……っ」

 

 

 アンナが指差した先に視線を動かしたオフェリアと、特等席にいるコーラルの視線が交わる。

 なんと言おうか迷ったオフェリアは、流石に大勢の前や時間が押している中で色々伝える事が出来ず、なんとか絞り出すように「ライブに来てくれてありがとう」と微笑みと共に伝えると、コーラルはぼっと顔を赤らめて俯いてしまった。

 慌てたオフェリアに、「大丈夫」と言い聞かせるアンナ。それにオフェリアが頷くと、早速アンナは話題を変えた。

 

 

「それにしても、シグルドとアナスタシアは凄かったね。緊張とか全くしてなかった。やっぱり、そういった経験があったから?」

「肯定。戦が始まる前には、自ら先陣を率いて戦場に飛び込んでいた」

「私はそこまでよ。そういった役割は、基本父や母、それか近衛の役目でしたから」

「あ、そうなんだ。それにしても、やっぱり声綺麗だね。聞いててとても気持ちよかったよ。みんなもそう思うよね?」

 

 

 観客席に向かって問いかけたアンナに、観客席から肯定の声が響く。

 それに満足げに頷いたアンナは、「それなら」と顎に指を添えて正面に座る弟達を見る。

 

 

「ボレアスとバルカンも、よく頑張ってたよね。あの時の歓声、凄かったなぁ……特に女の子の」

「……私にはよくわからなかったが」

「なに言ってんだ兄貴。俺ァわかってたぜェ? おうお前らァッ! 俺達の歌、楽しかったかッ!?」

 

 

 バルカンの問いかけに、今度は女性客からの歓声が響く。それに「ハハハハハッ」と大口を開けて笑うバルカンだったが、「行儀が悪いぞ」と兄にジト目で睨まれ、慌てて口を閉ざす。

 

 

「いいじゃないボレアス。バルカンにもたまには思いっ切り笑わせなきゃ」

「ヘッ、残念だったな兄貴。姉貴はこっちの味方みてェだぜ?」

「……フン」

 

 

 腕を組み、そっぽを向く。その仕草がまるで姉が取られたようでいて、その手のものが好みな観客達に刺さったのを、ボレアスが気付く事はない。

 

 

「さて、時間も押してる事だし、そろそろ終わりにしないとね」

 

 

 手を叩いたアンナに、座っていたオフェリア達が頷く。

 

 

「もっと色々話したかったんだけど、ごめんね。でも大丈夫。その気持ちも全部吹き飛ばしてくれる子達が、この後来てくれるからね」

 

 

 立ち上がったアンナが、観客席を見渡す。

 

 

「それじゃあ、次に歌う子達を紹介しようか。え? 次に歌うのは誰かって? 君達なら誰でも知ってる……でも、この組み合わせは予想できないよね。さぁ、頼んだよ―――ノクナレア、バーヴァン・シーッ!」

 

 

 まさかの組み合わせに巻き起こるどよめきは、瞬く間に会場内に響き始めた前奏に掻き消された。

 

 

 

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 遂に。遂にこの時が来た。

 待ち望んでいた時が来た事に、モルガンは隠しきれない喜びを口元に刻み、背後の兵に声をかける。

 

 

「ビショップ」

「ハッ」

 

 

 モルガンがこの時の為にチェス盤より召喚した騎士ビショップが指を鳴らすと、モルガンを除いた、この場にいる全員の手元にペンライトを出現させる。

 

 

「……はっ?」

 

 

 そして、それはベリルも例外ではなく、彼の両手にもまたペンライトが握られていた。

 

 

「では、始めましょう。我が娘バーヴァン・シーへと捧ぐ、我らの応援を」

 

 

 ハルバードを傍に浮遊させて立ち上がり、肩を軽く回して解す。 

 その姿と、手元のあるペンライトを見下ろし、これからなにをさせられるのかを理解したベリルは、「……マジかよ」と眉をハの字にするのだった。

 

 





・『コーラル』
 ……実はオフェリアの大ファン。ひたむきにミニライブに取り組んでいた彼女を偶然見かけ、それからというもの彼女のファンとしてグッズを集めるようになった。特に用事がない時にはファンクラブの者達と談笑したり、オーロラに布教したりしているぐらいには熱中している。

・『アンナの『ヒビカセ』』
 ……実は幾つかの歌詞が彼女の秘密と少し関わっている。

・『ボレアス』
 ……淡白なようでいて、一番シスコンを拗らせている。大した事のないものであろうとも、姉が相手の味方に付いただけで若干傷つく。


 ifストーリーは随時執筆中です。3000文字程度で終わると考えていたのですが、これが中々文字数が必要な話だと気づきまして、ハイ。ですが必ず投稿しますので、もうしばらくお待ちくださいッ!

 それではまた次回ッ!

キャラごとのアンナ/ルーツの使い分け

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