【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 最近Nintendo Switchのeshopでセールが開催されたので、『ENDER LILIES』と『CRYSTAR』を購入しました。後者はまだプレイ出来ていませんが、前者はクリアに大分近付きました。死にゲーというものはこれまで実況動画で見るだけだったのですが、案外やってみると楽しいものですね。bgmも最高ですので、興味のある方は是非プレイしてみてくださいッ!

 今回は少し短いです。それではどうぞッ!



詐称する者

 

 舞踏会から数日経ち、アイドルイベントのほとぼりも少しずつ鳴りを潜め始める。

 しかし、だからといってアンナ達の存在が忘れ去られたわけではなく、小規模のゲリラライブを行えば、それだけでその周囲は瞬く間に観客で埋め尽くされる。その影響もあってか、今でもアルム・カンパニーの子会社や傘下に入っている会社の展開するグッズショップでは、彼女達とのコラボグッズが飛ぶように売れている。

 

 そんな流行の街の、光が差さぬ路地裏にて。

 

 

「ハハッ、スゲェ。どこに行ってもあいつらの話を聞きやがる」

 

 

 壁に背中を預け、血に塗れたナイフを弄ぶその男―――ベリル・ガットは一人笑う。

 彼の足元には、なんとなしにショートカットしようと思ってこの路地裏に足を踏み入れてしまった、哀れな妖精。

 

 腹部から大量の血を流して倒れ伏す妖精を見下ろし、「それにしても」とベリルは己の右手と、自分が握るナイフを見やる。

 

 

「最初聞いた時にゃ警戒したが、イイモン貰ったもんだ。一般市民とはいえ、妖精をこんな呆気なく殺せるなんてよ」

 

 

 ベリルが右手に力を籠めれば、そこから噴き出た黒い靄(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)が右手を覆い、彼の力を高めていく。

 

 ―――本来、妖精と人間では力量差が違う。

 幻想に住まう者と現実に住まう者の差だろうか。妖精は魔術などというものを介さずとも建物を建てられるし、食事などただの娯楽であり、食事を楽しむのは空腹を満たすためではなく、精々が気力を回復させる程度の物であり、必ず食事を取る必要など彼らにはない。

 人間がその全てを己の力を注ぎ、発展させてきたものを、妖精達は模倣するだけで創造できる。それどころか、純粋な腕力でも、人間は妖精には勝てない。

 

 元より、自分達が最も『楽しい』と思える事を最優先事項とする妖精は、時として人間を襲う事がある。

 あの人間が欲しい。でも抵抗するし、人間は一人だから、大切に分けなくてはならない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)―――そんな考えの下に、まるで年端もいかぬ子どもがアリの巣に水を流し込むように人間の手足を()ぐのだから、妖精とはまこと恐ろしい種族である。

 

 そんな妖精の一人が、人間(ベリル)に為す術なく殺された。

 それは全て、彼が少し前にとある伝手(・ ・ ・ ・ ・)を経由して手に入れた、黒い靄の力だった。

 

 ―――モース。

 この國に住まう妖精にとっての害ある存在。使命を妖精の成れの果て。

 一度はこの國を滅ぼすだろう災厄を起こしたその存在が纏う穢れ。

 

 だが、それだけではない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 彼が手に入れた力は、モースが纏う穢れだけではなかった。それ以外にも、モース毒に匹敵、あるいは凌駕するレベルの厄を、彼はその身に宿した。

 

 それもこれも、あの実験台(・ ・ ・)のお陰だ。

 崩落したシェフィールドの城塞跡地で見つけた、あの()と、ベリルの協力者(・ ・ ・)によって集められた人間達を使った実験の甲斐もあって、ベリルはその力を手に入れた。

 

 だが、前者に関してはもう使い物にならないだろう。

 参考には出来るものの、自分と彼は種族が違う。彼に影響が出なかったからといって、自分も同じとは断言できないからだ。

 

 

(そろそろアイツ(・ ・ ・)に処分させるかねぇ)

 

 

 脳裏に、自分が御目付け役として支えている姫君(・ ・)の姿を思い浮かべていると、自分がいる場所よりもより深い闇に包まれた通路から足音が聞こえてきた。

 見られたらマズイと思い、その場から立ち去ろうとするベリルだったが、次の瞬間に闇から姿を現した存在を視界に収め、ほっと息を吐いた。

 

 

「なんだ、お前かよ。こいつみてぇにショートカットしようとした奴かと―――おっと」

 

 

 安心した表情のベリルだったが、彼の言葉を遮って放たれたものに驚き、思わずそれを手に取った。

 

 

「こいつは―――へぇ……?」

 

 

 先程自分が手に取ったもの―――写真に視線を落としたベリルの口元が、歪に歪められる。

 

 

「いいのかい? こいつ殺っちまったら(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、アンタにも火の粉が飛ぶんじゃねぇの?」

「火の粉どころか雷が飛んでくるさ。でもな、それでもやらなくちゃならない。彼女(・ ・)相手には、それぐらいの覚悟は決めないといけない。念の為、スケープゴート(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)は用意しているけれどね」

「自分にも害が及ぶのは百も承知ってワケかい。いいねぇそういうの。賭けに出るのも悪くない」

 

 

 写真をしまい、ベリルは呵々と笑う。

 

 

「―――いいぜ。その誘い、乗った。オレもこの力をもっと試してみてぇからな」

 

 

 頼んだよ、と頷き、影は消える。

 そうして一人残されたベリルは、ナイフをホルスターに納め、軽やかな足取りで大通りに出るのだった。

 

 

 

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 私―――オフェリア・ファムルソローネは暇を持て余していた。

 

 今日与えられた仕事は全て終わらせてしまい、明日必要になりそうな資料は予め揃えておいた。カドック達の手伝いも終わらせて、いよいよ手持ち無沙汰になってしまった私は、現在なんとなしに訪れたブレイクルームでコーヒーを飲んでいる。

 

 私がここまで早く仕事を終わらせられたのは、時計塔時代は降霊科(ユリフィス)に在籍していた事もあるだろう。

 下部に英霊召喚に関わる魔術に応用できる魔術系統を持つ召喚科を有するその学科では、完璧な術式の公式が必要であった。

 どれだけ簡単な術式であろうともどこかで間違っていればエラーを起こして正しい結果を導き出せないし、仮にそれをより規模の大きいもので行った場合、自分どころか周囲にさえ悪影響を与えてしまう事もある。

 しかし、その間違った箇所さえ無くしてしまえば自分の望む結果は自ずと得られるし、それまで学んだ知識を応用して式に組み込めば、より良い結果を得られるのも肝だ。

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという今は亡き偉大な先達がいるため自慢できないが、これでも秀才と言われた身。当時はロードだったマリスビリー・アニムスフィアにスカウトされたという実績もあったのもあり、情報を扱うような仕事を熟すのは苦ではなかったし、むしろ楽しかったところもある。

 

 だからこそもう少し仕事をしていたかったのだが、「それ以上やってしまうと他の社員の仕事を奪ってしまう」とプロフェッサー・K直々に言われてしまった。だから、私はここにいる。

 

 ショッピングもいいと思うが、流石にほぼ毎日出掛けていると流石に飽きが出てくる。グロスターは流行の街だが、一日経てばまた新たな流行がやってくるわけではないのだ。流行が廃れ、また生まれるのは時間がかかるのは、汎人類史と変わらない点だろう。

 

 さて、これからどうしたのものか―――と考えていた直後、視界の端に白銀が映り込む。

 咄嗟にそれが見えた方向に視線を向ければ、見慣れた白銀の長髪が曲がり角に消えていくのが見えた。

 

 その長髪の持ち主が誰かなど、私にはわかり切っていた。

 彼女―――アンナと他愛のない話をして時間を潰してしまおう。もし彼女が何か仕事を抱えているのなら、それを一緒に片付けてしまおう―――そう思った私が、彼女が追って曲がり角を曲がろうとした直後―――

 

 

「やぁ、アンナ」

 

 

 突然その先から聞こえてきた声に、私は思わず動きを止めた。

 続いて、アンナの困惑するような声。

 

 

「君は……オベロン? どうしてここに……」

 

 

 ―――オベロン。

 その名前に私は、「あのオベロン?」と心中で呟いた。

 確か、世界的に有名な劇作家であるシェイクスピアが出版した『真夏の夜の夢』に登場する、妖精達の王の名前だったはず。そんな存在がここにいる事に驚いたが、その名の通りであった場合、この國の玉座に就いているのは彼のはずである。しかし、現実に君臨しているのは、オベロンではなくモルガン。

 という事は、彼は私の知るオベロンとは違う……それこそ、この國にたまたまその名を持って誕生した妖精なのか。それとも、本当に彼は『真夏の夜の夢』に登場するオベロンなのだろうか。

 

 

「君と少し離したくてね。その為に侵入させてもらったけど、別にいいよね?」

「いやいや、駄目だって。ちゃんとアポ取ってもらわないと……。でも、今回は特別だからね。次からは正規の手続きしてね?」

「もちろんさ。だけど、本題に入る前に―――」

 

 

 瞬間、私は無意識に息を呑み込んでしまった。

 

 ゾッとするような威圧感。

 背筋が凍り付くような感覚。

 

 いきなり全身を包み込んできた悍ましい感覚に身震いしていると、「え……」とアンナの唖然とした声が聞こえてきた。

 

 

「嘘……オベロン、君は、まさか……」

「さぁ、本題に入ろうか。お互い―――腹を割ってね」

 

 

 いったい、なにを話すのか。

 本当は駄目だとわかっているのに、どうしてか私は、その場から離れる事はせず、彼らの会話に耳を傾ける事にしたのだった……。

 

 

 

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 物陰から様子を窺う事も出来ないまま、オフェリア・ファムルソローネは、ただじっと耳を澄まして、その先にいるアンナとオベロンの会話を聞く。

 

 

「君さ。なんであの子を護ってるの?」

「なんでって……大切な人だから?」

どっちが(・ ・ ・ ・)?」

「……ッ」

 

 

 鋭く突きつけられた問いに、アンナの体が強張る。

 そんな彼女にはお構いなしに、オベロンは続ける。

 

 

「ねぇ、答えなよ“祖龍”。君が本当に大切だって思ってるのは、どっちなんだよ」

 

 

 オベロンが一歩前に踏み出せば、アンナは一歩後退る。

 さらに足を踏み出したオベロンに、アンナが咄嗟に距離を取ろうとする。しかし、それよりも早く彼女との距離を縮めたオベロンが、彼女の手首を摑んだ。

 

 

「ッ、離してッ!」

「忘れ形見のつもりかい? この(カラダ)

「……ッ!」

 

 

 アンナの緋色の瞳が見開かれ、全身が固まる。

 

 

「まぁ、君がそれに執着する理由はわかるさ。彼女(・ ・)は君にとっての特異点だ。宝物を大切にしたい気持ちは、俺にもよくわかる。でも、それを赤の他人に押し付けるのはどうかと思うなぁ?」

「……違う、あの子は―――」

「本当は気付いてるんだろ? 彼女が君をどう思っているのか。君が、どれだけ彼女に慕われているか」

「―――」

 

 

 自分の声を遮って告げられたその言葉に、アンナはオベロンから視線を逸らす。

 

 

「あ~あ、災難だね彼女も。よりによって、君みたいな奴に惚れちゃってさ。彼女が愛した(おまえ)は、|本当は自分の事を見ていないくせに《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》」

(え……? アンナが、私を見ていない……?)

 

 

 まるで、鈍器で頭を殴られたような衝撃に襲われる。

 

 アンナが、私を見ていない。時計塔時代から共に過ごし、カルデアに来てからも、異聞帯の管理者としてカルデアに敵対するようになってからも、変わらずに接してくれたアンナが……私を見ていない?

 

 

「……貴方には、関係のない話よ」

 

 

 混乱する私を他所に、アンナとオベロンの話は続く。

 

 

「あぁ、そうさ。俺にはまるで関係ない。でも、あまりにも可哀想に見えてね。だからこうしてる」

「……黙って見てればよかったのに」

「『いつか話すつもりだった』、とか言うつもりかい? 冗談だろ。お前が自分から真実を話す事はない。『いつか』は永遠に来ない。彼女が死ぬまでずっと黙ってるだけさ」

「そんなわけない。そう遠くない内に―――」

「『話すつもりだ』って? はっ、それこそありえない。君はこういう時、前に出られない。前に出た結果(・ ・)を、君はあの“大戦”で経験してるんだから。だから話さないし、話せない。そうして一生彼女を騙して、騙し続けて、偽の幸福を彼女に味合わせ続けるんだろ?」

 

 

 オフェリアは頭を抱えて蹲る。

 もう聞きたくない。今までの日常が、思い出が、想いが、全て彼女の嘘の上で形作られたものだったなんて、考えたくもない。

 

 次々と溢れ出してくる大切な記憶に、亀裂が入っていく。

 

 

「やめなさい……ッ! いくら貴方でも、それ以上は……ッ!」

 

 

 怒気を孕んだ声に、嘲笑が返される。

 

 

「やめて? 変な事を言うね。俺は真実を口にしてるだけさ」

(お願い、もうなにも言わないで……ッ!)

「君は彼女の幸せを望んではいるんだろう。けどそれはオフェリアじゃない、“彼女”の為の幸せだ」

 

 

 蹲るオフェリアの脳内で、オベロンの言葉が反芻する。

 

 

「君は最初っから、彼女を見てはいなかった。ただようやく、ようやく出会えた“彼女”を離さないようにしているだけ」

 

 

 反芻した言葉は、オフェリアがどれだけ拒んでも心に刻み込まれていく。

 

 

「本当に笑えるね。君は真の意味で“彼女”を愛しているッ! だから平気で残酷な嘘を吐けるんだ」

 

 

 ―――一緒に買い物をするのは楽しかったかい?

 

 ―――一緒にダンスや歌の練習をするのは楽しかったかい?

 

 ―――一緒に同じ時間を過ごすのは、楽しかったかい?

 

 

「俺も大概だけどさ―――」

 

 

 コツコツという足音に続いて、アンナが息を呑む音。

 どうしてか、オベロンがアンナの耳元で囁いている光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

「―――お前も、相当な詐称者(プリテンダー)だよね」

 

 

 去り際にそう言ったのか、間髪入れずにオベロンの足音が聞こえてくる。

 それにオフェリアが反応するよりも早く、彼女の視界に、白い外套が映り込んだ。

 

 

「おや? ファムルソローネ嬢じゃないか。そんなところで座り込んでどうしたんだい?」

「……ッ」

「声が出せないかい? 喉をやられているのなら、しっかりケアしないと。なにせ君は、アンナが最も愛している(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)女性なんだからね」

 

 

 それじゃあね、と言い残して、オベロンは足早にその場を去っていった。

 未だに感情の整理が出来ていないオフェリアが動けないでいると、続いて「……オフェリアちゃん?」と恐る恐るといったようにアンナが顔を覗かせてきた。

 

 

「………………アンナ」

「そ、その、ね……。オベロンがさっき言ってたのは、その―――」

「本当、なの……?」

「ぇ……?」

「私を、見てないって。私を、誰と重ねてたの……?」

「それ、は……」

 

 

 そこで、アンナは顔を俯かせて黙り込んでしまう。

 その様子からオフェリアは、自らの心がより暗い闇の底へ沈んでいくのを感じた。

 

 

「……話せないのね。それとも、私なんかに話すつもりがないのかしら?」

「ち、違うッ! そんなつもりじゃ―――ま、待って……ッ!」

 

 

 立ち上がって踵を返した直後、腕を掴まれる。

 それに勢いよく振り返ったオフェリアの視界に、死人のように蒼褪めた表情のアンナが映る。

 

 

「お、お願い……行かない、で……っ。また(・ ・)君を喪いたくは(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)……ッ!」

「―――ッ!」

 

 

 最後の彼女の言葉。それに視界が真っ赤に染まり、続いて、パンッ、と乾いた音が響いた。

 

 

「………………ぁ……?」

 

 

 呆然と呟く声は、いったいどちらのものか。

 

 膝から崩れ落ち、左の頬を押さえてオフェリアを見上げているアンナに、オフェリアは一瞬自分がなにをしたのかわからなかった。だが次の瞬間、自分の右掌を中心にジンジンとした痛みが走っている感覚が、先程自分が取った行動に否応なしに気付かされた。

 

 

「オ、オフェリアちゃ―――」

「………………ごめんなさい」

 

 

 アンナの声を遮り、オフェリアは今度こそ踵を返して走り出す。

 

 後ろから呼び止めようとする悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくるが、オフェリアにはそれに耳を傾けられる程落ち着いていなかった。ただ彼女の中には、混乱と憤怒、絶望と悲哀が複雑に絡み合い、形状し難い混沌とした感情の渦が荒れ狂っていた。

 

 ―――これまでのあの日々は。

 ―――時計塔に在籍していた頃のあの日々は。

 ―――カルデアに在籍していた頃のあの日々は。

 ―――クリプターとしてシュレイド異聞帯で過ごした、あの幸せな日々は。

 

 

(―――全部、全部嘘だったの……?)

 

 

 もう、なにも聞きたくない。

 もう、なにも考えたくない。

 

 どうすればいいのかわからない。これからどう彼女と接すればいいのかわからない。

 

 なにもかもがぐちゃぐちゃに乱されたオフェリアは、自分がどこに向かっているのかもわからぬまま走り続けた。

 

 

 

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「―――見つけた」

 

 

 グロスターの上空。

 モルガンの盟友による力で黄昏より変化した、禍々しい雰囲気を纏うどんよりとした空模様を背後に滞空していた竜の妖精が、標的をその瞳に定めた。

 

 複数あるグロスターの入り口に配置された守衛達の間を走り去り、そのままその先にある森に向かっている女性が、今回のターゲット。彼女を殺せば、あの妖精は笑ってくれるだろう。その代償に、メリュジーヌという妖精の心を深く傷付けて。

 

 ピクリ、とメリュジーヌの指が無意識の内に動く。

 それは、彼女の弱い心の表れ。今の自分の取る行動が、これから先の自分を決定付ける。

 

 オーロラの事もそうだが、それ以上に恐ろしいのは―――

 

 

(ルーツ様……)

 

 

 妖精(メリュジーヌ)として新生する前。この身がまだ細胞として、まだ体内の一部だった頃の生みの親。

 分け与えられた権能故に、普段は地脈の奥深くに匿われていたが、定期的に外に連れ出しては一緒に大空を飛び回ったり、人の手の及ばぬ卑怯で日向ぼっこをする事があった。

 あの頃は本当に楽しかったし、幸せだった。それこそ、その身を構成していた細胞の欠片である己でも簡単に思い出させてしまえる程に。

 

 そんな彼女が大切にしている女性を、これから自分は殺す。

 それがどんな結末を招くかなんて、わかり切っていた。

 

 ―――消去(・ ・)だ。彼女の逆鱗に触れたのなら、自分という存在を根底から消されかねない。今の彼女にそうするだけの力があるのかどうかはわからないが、少なくとも『死』という結果には変わりない。

 

 自分が再びこの空を駆けられるようにしてくれたオーロラには報いたい。けれど、だからといって自分の命を費やしてまで彼女を殺そうとは思えないし、なによりルーツ様を哀しませたくない……。

 

 

(僕は……私は、どうすれば―――)

 

 

 オーロラも、“祖龍”も大切。

 この二つのどちらを選び取るか、竜の妖精は空中で一人悩み続けるのだった―――。

 





・『ベリル・ガット』
 ……純粋にモース毒と凶気を研究し、とある者の力添えを受けてその二つの力を己の体に宿した。何気にモース毒を体に宿す事に対するデメリットを完全に打ち消しており、純粋な妖精特攻の力に変えている。

・『オベロン(ヴォーティガーン)』
 ……決死の大博打。力ではどうやっても勝てないため、“祖龍”の心を完全に圧し折るべく“彼女”を引き合いに出して動揺させる。ただの妖精王オベロンではアンナの心を揺さぶる事ができないため、より揺さぶる為にプリテンダーの力を解き、自らの正体を明かした。
 アンナの心を大きく乱れさせられただけでも御の字だと思っていたが、オフェリアが聞いていたという偶然が重なり合い、アンナの心をさらに追い詰める事に成功する。その後、海に向かって全裸になって歓喜の雄叫びを轟かせながら舞った。

・『アンナ・ディストローツ』
 ……オベロンに心を揺さぶられた事に加え、オフェリアに拒絶され精神状態がズタボロに。しかし、オベロンの言葉も嘘ではなく、オフェリアに“彼女”を重ねていたという事実は確かに存在しているため、完全な被害者というわけではない。因果応報である。

・『オフェリア・ファムルソローネ』
 ……オベロンとアンナの会話を聞いてしまい、心を乱される。メリュジーヌに並ぶ今回の被害者。アンナが自分を見ていないという事実に惑い、これまでの彼女との日々が瓦解していく感覚に襲われる。

・『メリュジーヌ』
 ……今回の被害者その二。妖精として新生するキッカケをくれたオーロラと、己という生命をこの世に産み出してくれたミラルーツのどちらを取るかに迷う。



 今回は登場しませんでしたが、次回には久しぶりにシグルドを多めに書いていきたいと思います。
 また、久々に戦闘シーンを入れられると思いますので、楽しみにしていてくださいッ!
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