【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 fgoが8周年を迎え、ディスティニーガチャと福袋ガチャが来ましたが、皆さんは誰が来ましたか?
 私はディスティニーガチャで以前から欲しかったジャンヌ(ルーラー)をゲットし、福袋では水着イリヤと水着伊吹をゲットしましたッ!
 また、石も左程割らずに記念サーヴァントのトネリコもしっかり確保できたので、明日に迫ったサバフェスへの準備は万端ですッ!

 皆さんも欲しいサーヴァントはゲット出来ましたか?

 今回はアンナとルーツの過去についてです。
 それではどうぞッ!



歪んだ大戦

 

 シュレイド王国。

 それは叙事詩“モンスターハンター”に登場する、古代文明の代名詞的存在である王国の名前。

 モンスターが闊歩する地上に出来た唯一の大国であり、栄華を極めたと語られているが、最後には龍達の逆鱗に触れ焦土と化してしまったという、当時の人類の傲慢さと浅はかさを表す国でもある。

 

 

「アンナ・ディストロート……シュレイド?」

 

 

 そして、その王国の名を名乗った女性の登場に、私の頭は混乱と困惑が混ざり合ってぐちゃぐちゃになっていた。

 アンナが私を見ていないかもという事から始まり、影による強襲、そしてベリルに背後から刺されたという事態が一日の内に起きている事によって頭がこんがらがっていた。だというのに、今度は私の知るアンナと瓜二つの姿を持っている女性が目の前に現れ、さらにはかつて栄華を誇っていた大国の名を持っていた。

 正直言って、私の頭はそろそろパンクしそうだった。

 

 

「驚くのも無理はありませんね。貴女にとっては、なにもかもが突然すぎたのですから」

 

 

 それを言われ、私は思わずハッとして、背中に手を回してみる。

 

 

(刺し傷が、ない……?)

 

 

 恐らくベリルに刺されていたであろう箇所に手を回しても、痛みがない。かと言って痛覚が麻痺しているわけではなく、そこに触れていた手に自分の血がついていなかった。まるで刺されていたのが嘘であったかのようだ。

 

 

「ここは謂わば、(わたくし)と貴女の精神世界。私達は異なる者同士故、互いの世界は交わらず、こうした真っ白な空間となっているのです」

 

 

 固有結界……のようなものだろうか。

 人や英霊には、その魂の内側にそれぞれの世界があると聞く。それを外側に出力する事の出来る存在は人間にはまず不可能なものであり、仮に英霊であってもそれを可能とする存在は限られていると、講義で習った記憶がある。

 ここも、在り方としてはそれに近いものなのだろう。

 ただ、こうしてなにもない真っ白な空間だというのは、私と彼女が異なる存在だから―――というわけらしい。

 

 

「精神世界の体だからこそ、現実世界の肉体で受けた傷は影響しない……という事?」

「えぇ。と言いましても、貴女の場合は自我が消失しかかっていましたので、私が急いで治したのですが」

「それは……ありがとうございます。……あっ」

 

 

 そこで私は、思わず「まずい」としてしまった。

 相手はシュレイド王国の王女。仮に同じ時代に生きていたとしたら、敬うべき存在だ。彼女と似た境遇であるアナスタシアとは、彼女からの要望もあり互いにタメ口で話しているが、このアンナとはそういった話をした事はない。

 

 すぐさま謝罪しようとした私を、しかし、アンナはくすくすと笑って止めた。

 

 

「構いませんよ、別に。私は確かに王女ですが、それも今は遠い遠い昔の話。国は滅び、我が家系は途絶え、私もまた死んだ。自己紹介の際に名乗りこそしましたが、あれもほぼ肩書きのようなものです。ですから私は、ただの冠位(グランド)キャスターのアンナと、そう覚えて頂ければ幸いです」

「余計に畏まるべきだと思うのだけど……」

 

 

 さらっと自らのクラスを開示するのは、少し心臓に悪い。

 

 ただのキャスターであれば、まだ平気だった。けれど、その最上位を示す冠位(グランド)を冠するキャスターなど、星の数ほどいる英霊達の中でも五指で数えられる程しかいないのだ。

 

 人類悪に対抗する為に世界が召喚する、真の意味での人理の守護者。それが冠位(グランド)サーヴァント。だが、そのクラスを何気なしに明かしたアンナの態度は、その重みをあまり感じさせない程に柔らかかった。

 

 

「この場所と私の話は、これで良いでしょう。たくさんの事が起き、混乱しているでしょうが、次の話題……つまり、現在の貴女の肉体についてお話しましょうか」

「……ッ、そうだ、私……」

 

 

 話題転換と共に、一気に緩んでいた感覚が引き締められる。

 

 ここは精神世界だから、そこに立つ私の体には傷がない。しかし、現実世界にある私の肉体には、変わらずベリルに与えられた刺し傷があるはずだ。こうして精神世界に形を保てている以上、死んではいないだろうが、今の私の本当の肉体はどうなっているのだろうか。

 

 

「心配はいりませんよ。確かに貴女の受けた傷は致命傷のそれですが、貴女は魔術師。貴女の肉体に刻まれた魔術回路が、貴女を再起させようと今尚稼働している事でしょう。ですが、貴女を刺した方の持っていた武器には、複数の特殊な力が込められていました。ルーツが私を召喚しなければ、間違いなく貴女は命を落としていたでしょうね」

 

 

 魔術回路。

 私達魔術師がこの身に刻む、自らが所属する家系の研鑽の結晶。初代より始まり、子々孫々へと代々受け継がれてきたそれに、さらなる磨きをかけた上で根源を目指し、到達出来ないのであればまた次の世代へと託す、一族の呪いであり誇りにも等しい存在だ。

 

 一族の悲願を達成する為に作られている事から、その治癒能力は折り紙付きだ。流石に頭を吹き飛ばされたり、巨大な岩石などに全身を押し潰された場合は不可能だが、頭や心臓を撃ち抜かれた状態ならば、傍に医療の心得がある魔術師がいれば再起を可能とする。

 

 

「その言い方から思うに、私の魔術回路では、私を再起させるのは不可能だった……という事かしら」

「はい。今は私の魔力と貴女の魔術回路を結合、活性化させ、より高い治癒効果を発揮させています。さらに、私を召喚する際、アンナが自らの血を貴女に与えた(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)事もあり、貴女の肉体は急速に回復しているはずです」

「え、アンナが、私に血を……?」

「出血もそうでしたが、なにより、貴女の体内に送り込まれた力の一つは、彼女の力無くして治癒は不可能なものでした。彼女本人も、龍である自らの血を貴女に分け与える事を躊躇していたようですが……結果は今この時が証明しています」

「そう……」

 

 

 アンナが……いや、“祖龍”ミラルーツが、私に血を分けてくれていただなんて。

 私の命を救おうとしてくれた事に思わず感謝の念を抱くが、次いで、ある疑問が思い浮かぶ。

 

 ルーツが私を救おうとした。それは嬉しい。

 ではなぜ、私に自分の血を輸血する事を躊躇ったのか。人間の私に、龍である己の血が適合するのかと疑問に思ったのか。それとも、それとはまた別の要因が、彼女を躊躇わせたのか。

 

 それについて訊ねようとするが、それを遮るようにアンナが口を開く。

 

 

「完治するまで、まだ時間がかかるでしょう。ですのでその間、私の……いえ、私達の昔話について聞いてもらっても良いですか? ルーツがどうして、自らの血を与えてまで貴女を救おうとしているのか。私がなぜ、彼女と同じ姿をしているのか―――それを知って戴きたくて」

 

 

 ルーツとアンナの過去。

 彼女が私を救おうとする理由。

 彼女とアンナが瓜二つの姿を取っている理由。

 

 その言葉は、あまりにも魅力的だった。

 

 それを知りたくて頷くと、アンナは「ありがとうございます」と柔らかな微笑みを返してきた。

 

 

「では、お見せしましょう。私と彼女の世界。惑星(ほし)の全てを巻き込んだ、忌むべき生存競争の時代を」

 

 

 言い終えた瞬間、眩い光が視界を埋め尽くす。

 

 それに思わず瞼を閉じてから数秒後、眩い光が収まったのを感じ、閉じていた瞼を持ち上げる。

 

 そんな私を待っていたかのように、アンナはゆったりとした動作で、ある方向へ人差し指を向けた。

 

 彼女が指差した場所には、堅牢な城塞に囲まれた巨大な国があった。

 遥か上空にいるというのに、そこにいる人々の活気が伝わってくるその国の真ん中に位置する城を見て、私ははっと息を飲んだ。

 

 

「あれこそ、モンスターの脅威に晒されながらも懸命に生き延びた人々が興した国―――シュレイド王国です」

 

 

 アンナが歩き出せば、それに伴って景色も変わっていく。

 人々の笑顔が溢れる商店街の真ん中に現れた私達だが、周りの人々が驚いていないところを見ると、彼らに私達は見えていないようだ。

 

 

「生活範囲も、生命としての完成度もモンスターに劣っていた彼らは、それでも必死にこの厳しい自然界の中で生き残るべく、毎日を逞しく生きていました」

 

 

 少しだけ翳りのある笑顔を浮かべる、身の丈を越える武器を背負う男。

 ペンダントになっている牙を握り、涙を堪えるように裁縫を行う女性。

 家族の手伝いに駆け回る子ども達。

 誰もが、自分達がすべき事を全力でやっている。そんな彼らが、私には自覚のあるなしに関わらず、それが人類の繁栄に繋がるのだと信じているように見えた。

 

 

「けれど、ある日……」

 

 

 アンナの表情に翳りが生じ、場面が移り変わる。

 

 先程の城下町の上に広がる青空が、瞬く間に暗雲が立ち込める。

 遠くで無数の雷が落ちる音が聞こえる中、玉座に腰を下ろした初老の男を前に、片膝をついている男が見える。

 

 

「この国の宰相が、甘言を弄して父を唆しました。突然現れ、瞬く間にその地位を築き上げたその男は、父や多くの貴族に高い評価を受けていました」

 

 

 遊び心など一切感じさせない、引き締められた表情。真にこの国を、この世界に生きる人類を想っているような、引き込まれるような声色。

 

 なにも知らずにいれば、彼の言葉に誰もが惑わされてしまうだろう―――彼に対しそんな評価をしている私の隣で、アンナは瞳に憤怒と侮蔑の炎を灯していた。

 

 

「ですが、この時の彼らはあまりにも様子がおかしかった。男の言葉は受け入れられ、この国は禁断の道へと足を踏み入れました。悔しいですが、当時の私は彼の圧倒的な力を前になにも出来ず、ただ見ている事しか出来ませんでした。家族に期待をかけられていた私には、それを裏切るような真似は出来なかった。それが今は、悔しくて仕方がありません……」

 

 

 歯噛みするアンナを他所に男が国王達に背を向け、場面が移り変わる。

 

 その刹那―――

 

 

『誰か、私を見ているな?』

 

 

 あまりにも小さく、聴き取れるかも怪しい程の小さな声。

 しかし彼―――舌まで黒い漆黒の肌を持ち、知的な印象を抱かせる風貌の美青年は、間違いなくこの場面を視ていた何者か(わたしたち)を認識していた。

 

 そして、場所は変わる。

 玉座から景色が変化し、次に辿り着いたのは地下施設と思しき場所。

 忙しなく動き回る人々の先に、異形の怪物が何体も吊るされていた。

 

 明らかに生来のものではない、継ぎ接ぎの肉体。自然界に発生する事のない特徴を持つそれらに、私は心当たりがあった。

 

 

「竜機兵……」

 

 

 叙事詩“モンスターハンター”に記されていた、シュレイド王国が竜達との戦争に繰り出したという禁忌の兵器の数々が、天井から吊り下げられていた。

 

 

「あの男の進言により、父はあらゆる神秘を駆逐する竜の生産(・ ・)を推し進めました」

 

 

 アンナの見上げた先には、先程も見た、黄金に輝く王冠を被り、髭を蓄えた老人がいた。

 その左右には二人の男女がいる。左には先程の黒い男。しかし、右に立つ女性を見た時、私はまた驚愕に襲われた。

 

 黄色の装飾が施された黒い軍服に覆われた豊満な胸に無数の勲章を付け、帽子を目深に被ったその女性は、ルーツのサーヴァントの一騎である復讐者(アヴェンジャー)と瓜二つの外見をしていたのだ。

 彼女とあのサーヴァントの関係についても知りたくなったが、今はその時ではないだろうと思い、アンナの言葉に耳を傾ける。

 

 

「この国の大臣……いえ、仮初の姿(カタチ)を用いてこの星へ降り立った外神によって捕獲された“禁忌”を基に、多くの技術が構築されていきました」

 

 

 景色が変わり、多くの映像が目の前に映し出される。

 

 炎を纏う大剣。

 雷鳴を轟かす弓。

 激流を巻き起こす槍。

 吹雪を呼ぶ太刀。

 龍をも殺す銃。

 

 異界より齎された知識は、モンスターに生活圏を脅かされていた人々に、彼らと戦う力を与えた。

 

 ―――竜大戦の始まりだ。

 

 そして、その中で最も力を振るったのが、竜機兵。

 捕えた“煌黒龍”をモデルに、彼の龍を超える竜の製造を目指し、科学者達は狂ったように研究し、殺戮者達は笑いながらモンスターを殺し続けた。

 

 誰もが知らず、気付けなかった。気付けたとしても、その男の力はあまりにも凄まじく、声を上げる事も出来なかった。

 当時の“祖龍”達でさえ、(ソラ)から顕れた者が相手である故に迂闊に攻撃を仕掛ける事が出来ず、ただ歯噛みして仲間を助け出す機を窺うしかなかった。

 

 だが、“祖龍”達もただ負けてばかりではなかった。

 仲間を殺され、武器に加工される―――脆弱な人類種がこの過酷な世界を生き延びる為に取ったこの手段は、モンスター達の頂点に君臨する“祖龍”も辛うじて呑み込めた。

 しかし、あの兵器だけは、竜機兵だけは許せなかった。

 

 シュレイド王国の傘下に入った他の国々との戦争中に竜機兵が駆り出されれば、必ず“祖龍”やそれに連なる者達が現れ、望まぬ戦いを強いられている同胞達を眠らせ続けた。そして、それを使役した国々を滅ぼし、竜機兵の製造工場は念入りに破壊した。

 

 それでも、戦争は終わらない。元凶たる外神は未だ健在であり、彼によって蝕まれたシュレイド王国では今尚竜機兵が製造され続ける。

 

 “祖龍”達は迂闊に外神に手を出せない。

 外神はその弱みをついて竜機兵を製造する。

 “祖龍”達はその竜機兵を破壊し、その損失を外神が即座に補う。

 

 地獄だ。

 モンスターが世界中に存在する以上、竜機兵製造の素材は簡単に調達できる。各地のモンスター達がそれに抗おうとしても、“煌黒龍”を解析して作られた武具とそれを扱う殺戮者達に狩られるか、最悪の場合は外神自らが出向いてきてそのまま兵器に改造されてしまう。

 

 このような悲劇が永遠に続いていくのか―――そう私が思った、その時だった。

 

 

『お主、我と共に彼奴(・ ・)の思惑を潰さぬか?』

『え?』

 

 

 それは、アンナがどうやってあの大臣を止めるかと考えていた頃だった。

 

 突如として現れた、黄色のローブを纏った老人は、自らを“旧神”と名乗った。

 

 

「広い目で見れば、彼もまたあの外神と同じ部類。(ソラ)より降り立った侵入者(インベーダー)でした。ですが彼は、本来在るべきこの惑星(ほし)の形を歪めた外神に嫌気が差し、私に協力を申し出てきました」

 

 

 真に嫌うタコ(・・)でこそないものの、自らのいる場所で好き勝手にされては流石にイラつく―――そんな理由で協力を申し出てきた彼を、しかしアンナは受け入れた。

 このままでいては人類種も竜種も、それ以外の種族も、この惑星(ほし)から滅びてしまう。その最悪の未来を変える為なら、どのような手段を使おうとも思っていた。そんな時に起こったあの老人との邂逅は、アンナにとっては僥倖だった。

 

 

「それからは、秘密裏に行動を起こし続けました。外神の暗躍を知りながらも行動に移せない者達に声をかけ、旧神の力を借りて彼らに外神の力が及ばないようにしてもらいました。しかし、それでもまだ足りなかった。人類種(わたくしたち)以外の種族の力も必要でした」

 

 

 人類種の仲間達は着々と増えつつある。しかしそれでも、外神には勝てない。

 ではどうすべきか。そう思った直後だった。

 

 

〔―――どうすればいい。どうすれば勝てる。どうすれば、あの男を殺せる〕

 

 

 それは、彼女が初めて白き龍と共鳴した瞬間だった。

 無意識の内に起こった共鳴。しかしそれはアンナにとって、さらなる転機だった。

 

 そこでアンナが思いついたのが、“祖龍”達の力を借りる事だった。

 

 

「ルーツ達の力を借りる……。でも、それは……」

「はい。私が……シュレイド王国の王族が、竜種の頂点と出会うという事。それがどれほど危険な事かなど、誰もが理解していました」

 

 

 “祖龍”に会いに行こうとする彼女を、多くの仲間が止めようとした。

 シュレイド王国を支配する立場にある彼女が“祖龍”の前に姿を現すなど、「殺してくれ」と言っているようなものだと。頼むから考え直してくれ、と。貴女がいなくなったら、我々はどうすれば良いのかと。

 

 それでも、アンナは彼らを説き伏せた。

 どのみち、これしか選択肢はなかったのだ。彼女達と協力しなければ、この惑星(ほし)は滅びる。故にこそ、アンナはたった一人で、“祖龍”のいる山奥へと向かった。

 

 

〔アンナ・ディストロート・シュレイド……シュレイドだと? あの王国の小娘が、(わらわ)に何の用だ〕

 

 

 “黒龍”に“紅龍”、そして“煉黒龍”。

 シュレイド王国に囚われている“煌黒龍”を除き、彼らを含めた四体の“禁忌”に囲まれている状況。

 少しでも彼らの機嫌を損ねれば、その瞬間に魂さえもこの世から消し去られてしまいそうな程の殺気を浴びせられる中、アンナは折れる事なく自らの気持ちを明かした。

 

 

「この時は本当に大変でした。外神に簡単に操られてしまった我が国に落ち度があるとはいえ、彼女の子どもにも等しいモンスター達を兵器に改造してしまったのですから。彼らにとって、その王族の一人である私など、視界に入れる事すら不快でしょうから」

「それでも、ルーツ達は貴女の話を聞いてくれたのね」

「今も昔も、あの時の彼らには感謝しかありません」

 

 

 私達が話している間に、映像のアンナ達も話を終えたのだろうか、今にも彼女を喰らうかのように顔を近付けていたルーツが離れた。

 

 

〔……良かろう。我らも外神の侵入を許してしまったという落ち度もある。これは防衛戦であり、同時に、異邦より来たりし蛆虫を排除する為の逆襲だ〕

 

 

 それから、アンナ達は只管に準備をした。

 戦争を継続せざるを得ないが、それでも外神の注意をそちらに逸らし、水面下で力を蓄え続けた。

 

 その間に多くの苦難が彼女達の前に立ち塞がったが、決して少なくない数の犠牲を出しながらも彼女達は潜り抜けた。

 

 

「多くの出来事がありました。哀しい事も、楽しい事も……その全てを、私はルーツと共有しました」

 

 

 仲間に子どもが生まれた。老齢の個体がその命を終えた。貴族でいては食べられないようなものを食べた。最近、草食モンスターの数が少なくなってきた。

 

 良い事も悪い事も、全てを分かち合った。そうしている内に、アンナは自然と、ルーツという龍がどのような存在かを理解し、ルーツもまたアンナという人間かを学んでいった。

 

 知らず知らずに互いに惹かれ合うようになった彼女達だが、互いが自分達の種族の違いを知っているからこそ、どちらも相手に自分の気持ちを明かすような事はしなかった。

 

 

〔これが楽しいって事なのかな、アンナ〕

『ふふっ、その通りですよ、ルーツ』

〔うん……なんだか、悪くない気分〕

『……以前の口調も好きでしたが、今の貴女のその喋り方の方が、なんだか貴女に合いますね』

〔そう? それじゃあ、この喋り方で〕

 

 

 そもそも、なぜ龍である彼女が人の言葉を理解出来るのか、なんて疑問は思い浮かばなかった。

 そんなものは些細な問題ですらなく、彼女とその系譜に連なる者達が持つ特性なのだろう。簡単に意思疎通出来るなら、それに越した事はない。

 

 普通ならばあり得ない、人と龍の会話。それを交わしながら、来るべきその時までの間の時間を可能な限り共に過ごす事が、一人と一体の密かな楽しみとなっていた。

 

 ―――そして、遂にその時はやって来る。

 

 外神が大臣としての仕事を熟す為に国を離れた直後、“祖龍”達はシュレイド王国を襲った。

 国民を喪う事を是とするという、王女にあるまじき行動。しかし、その罪を背負う覚悟などとうに決めていたアンナは、罪悪感と共にその非道を行った。

 

 多くの死が生まれた。

 生まれたばかりの命を潰した。

 

 それでもアンナは、“祖龍”は、殺した。闘った。そうでなければ惑星(ほし)が滅びるのだから。

 

 そして、外神によって歪まされた、人と竜の生存競争は、終結へと向かっていく。

 

 

『素晴らしいだろう■■■■ッ! 私は軽くアドバイスをしただけというのに、矮小な猿共は妄想を現実のものとしたッ! ここまで面白いゲームは中々ないッ!』

『ぬかせ、■■■■■■■■。貴様の声など聞くだけでも反吐が出るわ。我の膝下で、これ以上の遊戯は赦さぬぞ』

 

 

 向かい合う美青年と老人。老人の言葉に、正義感は微塵もない。人々を良からぬ方向へとけしかけた事に対する怒りもない。あるのはただ、自らのいる場所で彼が動いていた事に対する憤怒と侮蔑だった。

 

 

『だがお主を殺すのは我ではない。お主はこの惑星(ほし)の生命が滅ぼす』

『ギャァアアアアアアアアアアアッッッ!!!』

 

 

 老人が消え、解放された“煌黒龍”が現れる。

 仮初の姿を捨てた外神と“煌黒龍”の対決が上空で行われる中、シュレイド王国では―――

 

 

「……ッ、これは……」

 

 

 虐殺。

 “祖龍”達によって引き起こされたものではない。

 地下工房から溢れ出した竜機兵が、視界に入った全てを攻撃していたのだ。

 

 

「竜機兵の暴走です。しかし、それは外神によって引き起こされたものではなかった……」

 

 

 目元を伏せ、拳を握り締めるアンナ。

 歯噛みをして彼女が見上げた先には、狂気に染まり嗤う男―――彼女の父である国王の姿があった。

 

 

『暗黒のファラオ万歳ッ! ■■■■■■■■万歳ッ! くとぅるふ・ふたぐん、■■■■■■■■・つがー、しゃめっしゅしゃめっしゅッ! ハハハハハ滅べ滅べ滅んでしまえッ! 儂の国は永遠じゃ永遠となるんじゃあァハハハハハッ!!』

 

 

 明らかに正気ではない様子。

 両目から血の涙を流し、口元から胃液を吐き出しながら竜機兵を操るその男によって、国民もモンスターも関係なく殺されていく。

 

 “黒龍”によってそれらが焼き尽くされていく中、ルーツはアンナを戦いに巻き込まないように国の外へ逃がしていた。

 

 

〔この國が滅びた後、君には生き残った人達を導く役目がある。だから、今は逃げて〕

「ルーツは、この戦いの後の事を考え、私を逃がそうとしていました。それでも、私は戦いました。彼女の制止を振り切って、彼女の言葉を聞こうとせず、彼女の気持ちから逃げて、国を必要以上に破壊する竜機兵を……父を、斃そうとしました」

 

 

 だが、それが彼女の命運を分けた。

 

 ルーツの制止を聞かずに動いたアンナは、多くの竜機兵を撃破した。そして最後には、自らの父をも打倒した。

 

 斃すべき敵を斃し、戦いが終結に近づいていく―――そんな時だった。

 

 

『逃がさぬ、儂の期待に応えぬ出来損ないめ……。貴様なぞ、死んでしまえばいいのだッ!』

『―――ッ!!』

 

 

 這う這うの体で追って来た国王が、彼女を背後から攻撃したのだ。

 

 完全な不意打ち。数多の戦いで傷付き疲弊したアンナに、それを迎え撃つ余裕はなかった。

 

 

〔アンナッ!!〕

 

 

 アンナの異常を察知したルーツが彼女を見つけた時にはもう遅かった。

 

 国王の最期の悪足搔きは、アンナの魔術回路を完全に破壊し、治癒不可能な致命傷を与えた。

 

 

『ルー、ツ……』

〔お願い、気をしっかり持ってッ! 君は、ここで死んでいい人間じゃないのッ!〕

『ごめん、なさい……。貴女の言葉を、聞いていればよかった……』

〔いいのッ! もういいのッ! 謝罪なんて後で聞くから、今はとにかく生きて……ッ!〕

『ごめんなさい。わかるんです、もう駄目……だって……』

〔そんな……やめてよ、そんな事、言わないでよ……〕

 

 

 アンナを抱えようとしても、その巨大な身体では彼女を圧し潰してしまう。触れようにも触れられない事実に苦しむルーツの心に、アンナの言葉が刻み込まれていく。

 

 

『ですから、ルーツ』

 

 

 仰向けに倒れたアンナは、虚ろな眼差しでルーツを見つめる。

 

 

次の私(・ ・ ・)は、逃がさないでくださいね?』

〔え、それ、は……〕

 

 

 どういう事か、とアンナを見やると、彼女は私を見ずに答える。

 

 

「私の瞳は、数多の未来を視る千里眼。生まれ持ってのものではなく、後天的に獲得したものでしたが、その瞳は、私とは違う『私』が彼女と出会う未来を映し出していました」

「未来を視る千里眼……それが、貴女が冠位(グランド)に選ばれた理由……?」

 

 

 訊ねる私と、それに頷くアンナの前で、一人と一体の会話は続く。

 

 

『今度は、逃がさないでください。次の私は、私じゃないけれど、もし、その人が周りからの期待に潰されそうになっていたら……助けてあげてください』

 

 

 その時は今のような、戦争ではないかもしれないけれど。

 その時の『誰か』に掛けられる期待は、自分みたいに重いものではないかもしれないけれど。

 

 それでも、その『誰か』が、その期待に潰されそうになっていたら、手を差し伸ばしてほしい―――死に際の彼女の願いは、ルーツの魂に拭えぬ傷を与える。

 

 

『ルーツ、私は、貴女が……好き、です……』

〔……ッ!!〕

『あぁ、やっと、言えた……。叶うなら、ずっと前から、貴女に言いたかった。何度も、何度も、貴女に愛を伝えたかった……』

〔やめて……ねぇ、やめてよ……〕

『でも、大丈夫です……。貴女と『私』は、また出会う。こことは違うどこかで、こことは違う、時代で……』

〔お願い、なにも、言わないで……〕

『ごめんなさい……。ありが、と……う…………』

〔…………アンナ? ねぇ、アンナ……? あぁ……あぁああああああああああッ!!〕

 

 

 動かなくなったアンナに、ルーツが顔を近づける。

 

 薄く開かれた瞼は、もう二度と開く事も、閉じる事も無い。二度と動かなくなった彼女の骸を前に、“祖龍”は絶望に染まった雄叫びを挙げる。

 

 

〔嘘……嘘だ噓だ噓だッ! アンナ、アンナッ! お願いだから目を開けてよ……ッ、また、声を聞かせてよぉ……ッ!〕

 

 

 信じたくないと、これは現実ではないと叫ぶルーツ。しかしそれでも、目の前の現実は変わらない。

 

 深紅の眼から流れる涙が枯れた頃、“祖龍”は小さく呟く。

 

 

〔……わかった。わかったよ、アンナ〕

 

 

 それは、彼女より与えられた傷が生んだ呪い。

 

 

〔待っていてね。いつか、また君が生まれた先で、期待に押し潰されそうになったら、周りからの期待に答えようとして閉じ籠もるようになったら……〕

 

 

 彼女との思い出が、彼女から掛けられた言葉の数々が、彼女より与えられた呪いが、“祖龍”というこの惑星(・ ・)の頂点を徹底的に破壊する。

 

 

〔必ず、助けるから。その時は一緒に、どこかへ行こう。海の彼方、空の彼方、果ての果てまで、一緒に〕

 

 

 鱗が剥がれ落ちる。

 翼が消え、尻尾が無くなる。

 

 土埃や血で穢れた純白の巨体が光に包まれ、人間大のサイズになる。

 

 その光の中で、ルーツは……いや、彼女(・ ・)は己という存在が変質した事を知った。

 そして同時に、「これなら」と決意を固めた。

 

 

『―――今度こそ、護る。貴女に貰ったこの腕で。貴女の手を取って、必ず』

 

 

 言葉だけでなく、行動としてもその決意を表すかのように、彼女の姿を得た白き龍は、天空に浮かぶ星を掴むが如く拳を握り締めた。

 

 

「……これが、私達の時代に起きた出来事。その記録です」

 

 

 映像が消え、周りの景色が最初の真っ白な空間のものとなる。

 あまりの情報量。あまりの出来事。それになにも言えずにいる私の耳に、アンナの声が響く。

 

 

「この後、永い、永い年月をかけ、私の魂は転生を果たしました。英霊となったアンナ・ディストロート・シュレイドではない、全く別の生命として、再びこの世に産まれ落ちた」

 

 

 彼女の言葉に、ハッとする。

 まさか、と思ってアンナを見やると、彼女は重々しく頷いた。

 

 

「そうです、オフェリア・ファムルソローネ。貴女こそ、私の転生体。魂は漂白され、全く新しいものとなりましたが、貴女はかつて……アンナ・ディストロート・シュレイドであった者です」

 

 

 その言葉は、今回見聞きした情報の中でも最も大きく、そして重く、私の心に圧し掛かってきたのだった―――。

 

 





・『アンナ・ディストロート・シュレイド』
 ……シュレイド王国の第三王女にしてグランド・キャスターの一騎。ソロモン王、ギルガメッシュ、マーリンと同じく最高位の千里眼を所持している。多くの仲間達と共に、外神の介入によって滅びに向かう人類種と竜種を救った。
 二人の姉がいるが、彼女達は政略結婚により他国へ嫁いだため出番なし。

・『ルーツの輸血』
 ……ベリルに与えられた傷は通常の手段では治療不可能なものであったため、ルーツは苦渋の決断としてこれを行った。
 しかし、アルテミット・ワンである彼女の血が魔術師のオフェリアの体になにも影響を与えないわけが無く、アンナの力によって相殺している状態。しかし……。

・『竜大戦』
 ……太古の時代に起こった、人類対龍の大戦争。惑星全土で行われたこの戦いは苛烈を極め、終結時には両者共に滅亡寸前だったという。

・『■■■■』
 ……赤衣の男が契約した異邦の神格。外神の暗躍によって惑星(ほし)が滅ぶのを危惧し、アンナ達に助力を申し出た。しかし、別に人類を護ろうというわけではなく、彼らが活躍する場を荒らそうとする外神がムカついたから。アンナ達に協力したのは、どうせなら人類種と竜種の雄姿も見たかったという単純な理由。

・『■■■■■■■■』
 ……(ソラ)より降り立った異邦の神格。大臣としてシュレイド王国に侵入、暗躍していた。人類に邪悪な知識を与え、竜大戦を激化させた元凶。矮小な人類が製造する武器など高が知れていると思っていたが、まさか素材に魂を宿した状態で兵器に改造するという、思わぬ収穫に歓喜していた。
 竜大戦終盤、■■■■と邂逅するものの、彼ではなくこの惑星(ほし)に住まう生命によって撃退された。

・『竜機兵』
 ……言わずと知れたイコール・ドラゴン・ウェポン。外神の入れ知恵によって人類が製造した忌まわしき兵器。しかし外神はあくまで『これをこうすればこうできるよ』程度の事しか教えておらず、まさか素材から魂を生み出した後に繋ぎ合わせるとは思わなかった。
 赤衣の男の宝具であるが、彼の宝具がこれだと知った時の黄衣の王は滅茶苦茶嫌そうな顔をしていた。

・『アンナの千里眼』
 ……ソロモン王と同じ、あらゆる未来を見通す瞳。とある事情により、後天的に獲得したものである。しかしソロモン王の千里眼との違いとして、『あらゆる世界の未来の分岐点を見渡し、その内の一つを強制的に正史へと結びつける』という能力がある。宮本武蔵の天眼に近いタイプのものだが、『相手を斬る』事に特化したあちらと違い、こちらはそれ以外の全ての事象に適応される。この千里眼を用いれば、たとえ不死身の超生物であろうともその不死性がない世界のものへと変化させる事が出来る他、全滅が確定している味方陣営を全員生還させる事も可能。
 実はルーツを最期の会話をしている時、アンナは自らの魂が転生する未来と、その転生体とルーツが出会う未来を結び付けており、結果としてルーツはオフェリア・ファムルソローネという女性と出会った。
 しかし、オフェリアがアンナに恋をするかどうかについては自分が決めるものではないとしていた。故に、オフェリアがルーツに恋をする未来は彼女に仕組まれたものではない。



 ちなみに執筆中、外神のcvは勝杏里さんがイメージとなっていました。他のオリキャラの声優は考えていないのに、なぜなんでしょうかねぇ……。

 次回は衝撃の事実を知ったオフェリアがこれから先どうするのか、という要素に焦点を当てたいと思います。
 それではまた次回ッ!
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