【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 先週、夏風邪に罹ってしまい三日ほど寝込んでいた作者です。

 夏風邪というか、なにかしらの病気に罹ったのは久しぶりですね。滅茶苦茶気持ち悪かったです。今は完治したので、なにも心配する必要はありませんッ!

 また、先週の金曜日にはマジカルミライに参加しました。今年は初音ミク16周年という素晴らしい年だったのもあり、とても楽しめましたッ!

 今回は長いです。それではどうぞッ!


両者の違い

 

 ソールズベリーの教会、その一室。

 そこではこの街の領主であるオーロラと、妖精騎士ランスロットことメリュジーヌ、そして彼女らの友人であるカリアがお茶会を楽しんでいた。

 

 

「その時のウッドワスったら、とっても慌ててね? フォークを取り落としてしまったの。ふふっ、本当に可愛らしい方ね」

「はは、そうだね。あのライネックの次代(むすこ)でも、君みたいな美しい女性との食事は緊張するらしい」

「まぁ、メリュジーヌったら。褒めてもなにも出ませんよ」

 

 

 楽しく談笑を楽しむメリュジーヌとオーロラを横目に、「フフフ」と笑みを零すカリア。

 

 

「素晴らしい光景だな。妖精國でも一、二を争う美貌を持つ妖精達が優雅に茶会を楽しんでいる。これほど良い光景など見た事がない。あぁ、そこのウェイトレス。紅茶のお代わりを」

「誰がウェイトレスですかッ! 全く……」

「ははは、冗談だとも。……おや、まさか本当に淹れてくれるとは」

「カップが空なのは事実ですから」

 

 

 からかわれた事に憤慨しながらもカリアの差し出したカップに紅茶を注ぐコーラル。ツンとした表情でカリアを一瞥するも、彼女が首を傾げて微笑めば、ほんのりと頬を赤らめてオーロラの背後に下がった。

 

 

「カリア、いくら可愛らしいからって、あまりこの子をからかわないであげて」

「からかっているつもりはないさ。常に不愛想な表情の彼女が、少し気に入らなくてね。たまには笑わせたいものさ。あのオフェリア・ファムルソローネのように、ね」

「……そうね」

 

 

 その時、オーロラの瞳に僅かに昏い感情が灯る。

 それにメリュジーヌが気付いた瞬間、「ところで」とオーロラがカリアに声をかけた。

 

 

「カリア。貴女にとって、オフェリア・ファムルソローネはどう映るかしら」

「どう、とは?」

「なぜかしらね……私はどうしても、あの子がただの人間の女性だとは思えないの。いつかは妖精國に危機を招きそうな、そんな感じがするの。……ねぇ、カリア。もし、貴女が陛下やこの國について想うのなら―――」

「断らせてもらうよ」

「あの人間を……え?」

 

 

 自身の言葉を遮られるとは思わなかったのか、呆けた表情になったオーロラ。しかし、すぐに気持ちを切り替えたのか、即座に表情を変えてカリアに問いかける。

 

 

「どうして? 貴女はこの國の事を考えていないの?」

「考えているとも。しかし、ボクは女王陛下、ひいてはバーヴァン・シーに仕える身だ。彼女らからの命令であれば従うが、君は私の主でも、この國の代表でもないだろう?」

「カリア……」

 

 

 まさかキッパリ断るとは、とメリュジーヌは目を見開いてカリアを見る。

 なに一つ申し訳ないと思っていない、清々しい表情だ。彼女が申し訳なさの欠片もなく、オーロラからの申し出を断ったのがよくわかる。

 

 

「私はソールズベリーの領主で、“風の氏族”の氏族長よ? それでも足りない?」

「足りないとも。君には確かに、他にはない立場がある。しかし、ボクが君の命令に従う理由にはならないね」

「……そう」

 

 

 これ以上は無意味だと判断したのか、オーロラはカリアから視線を外し、メリュジーヌへと移す。

 それにメリュジーヌが身を竦ませた事に気付かないまま、オーロラは口を開く。

 

 

「ねぇ、メリュジーヌ。前にも一度頼んだけれど、もう一度お願いしてもいいかしら」

「…………」

「彼女からこの國を護って? 今はそうじゃなくとも、いつかきっと、彼女はこの國を滅ぼす要因になり得るわ。ねぇ、お願い」

「……僕、は」

 

 

 絡みつくような視線。全身を縛り付けるような声。

 それに喉が、反射的に言葉を返そうとした、その時だった。

 

 

「……ッ!? これ、は……」

 

 

 突然、脳裏になにかしらの映像が流れ込んできた。

 

 見覚えのある沼。そこから周囲へ逃げるように散っていくモースの群れ。

 それがなにを意味するのか、言葉は無くとも、メリュジーヌには理解できた。

 

 

「……そう。うん、わかった」

 

 

 その言葉のないメッセージに、メリュジーヌは即座に了承の言葉を発した。

 椅子から立ち上がり、部屋の出入り口へと向かっていく彼女に、背後から声がかけられる。

 

 

「どこへ行くのです、メリュジーヌッ! まだオーロラ様の話は終わっていませんよッ!」

「ごめんね、コーラル。でも用事が出来たんだ。至急の、ね」

「至急の用事、ですか? そんなもの―――」

「行かせたまえよ、コーラル」

「カリア様ッ!?」

 

 

 コーラルの言葉を遮った声に、メリュジーヌが振り返る。

 自分を止めようとしていたのだろう、椅子から立ち上がったコーラルの肩を、カリアが抑えていた。

 

 

「彼女の用事に心当たりがあるのですか、カリア様」

「ないね、なにも。しかし、メリュジーヌが反応したのだ。きっと、彼女が出張るべき案件なのでは―――そう思っただけさ」

「……ありがとう、カリア」

「気にするな。早く行きたまえよ」

「うん」

 

 

 頷き、メリュジーヌは、教会から出るや否や飛び立ち、己を呼ぶ何者かの元へと向かうのだった。

 

 

 

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 順調に『巡礼の鐘』を鳴らし、アルトリア・キャスターの強化を行っているカルデア一行。彼女らは現在、湖水地方へと足を踏み入れていた。

 

 オックスフォードの鐘はいつでも鳴らせる事から後回しにし、他に『巡礼の鐘』がある場所として挙げられたオークニーに向かう途中にある湖水地方。

 そこで彼女らは、かつてこの地で繫栄していた“鏡”の氏族の妖精亡主(ナイトコール)、ミラーと出会った。

 他の妖精よりも存在強度が強く、死して尚もその残滓が妖精國に残り続けていた彼女の依頼を受け、一行は湖水地方の一角―――“竜骸の沼”へと向かう。

 

 その道中で遭遇したモースと戦闘している最中、彼女達の前にメリュジーヌが現れる。上空から落ちてくると同時にモースの大群を掃討した彼女を追って沼へと移動した彼女達は、バリケードテープで囲われた巨大な骨を発見した。

 

 

「なんだ、この恥知らずな(くさり)はッ! 僕達の湖に、よくも土足で入り込んだなッ!」

「まぁ。土足だなんてとんでもない。ムリアン様から頂いたドレス、とても気に入っていますので……。失礼ながら、このように上空から回収作業に勤しんでいたところです」

 

 

 苛立ちのままにモースをバリケードテープごと切り裂いたメリュジーヌに、上空にいるコヤンスカヤが難色を示す。

 

 

「とはいえ、眷属にしたばかりのモースでは運び出す事も壊す事も出来ず、あわや不良債権か、と頭を悩ませていたのですが……。もう何の価値もないガラクタでも、痛めつけてみて正解でしたわ。妖精騎士ランスロット、いえ、アルビオンの末裔。待望の本命が、こんなに早く手に入るのですから」

「―――この気配。貴様、(ビースト)の幼体か」

「え、ランスロット、ビースト知ってるのッ!?」

 

 

 まさか異聞帯の妖精であるメリュジーヌがビーストの存在を知っているとは思わなかった立香の叫びに、彼女は仮面の奥で眉を顰めた。

 

 

「君こそビーストがわかるの? ……そう、汎人類史(そっち)はそこまで追い込まれているのか」

「立香ちゃん、メリュジーヌに加勢だッ! コヤンスカヤの目的は不明だけど、どうせ碌なもんじゃないッ! 今度こそあの尾っぽを斬り落として、この異聞帯からお帰り願おうッ!」

「え、なんですかそれ。美女と見れば傾国とばかりの偏見、いかがなものかと。私、今回はバリッバリの慈善事業。人類の皆さんに益のある仕事をしているのですが―――まぁ、あんな厄ネタを見抜けないアナタ方に理性を求めても仕方のない事。優良兵器獲得(せっかく)の機会を邪魔されては苦労も台無しですし……」

 

 

 一度言葉を区切り、コヤンスカヤは満面の笑みで右手を持ち上げる。

 

 

「ここは今までの因縁ごと、皆さまの命を纏めてポーイ、しちゃいまボアァッ!!?」

 

 

 右手を振り下ろそうとした直後、雷が落ちたかのような轟音と共にコヤンスカヤの姿が掻き消え、巨大な水柱が立ち昇った。

 

 誰もが突然の事態に身動きが取れない。なにが起きたのかさえ、気付けたのはメリュジーヌしかいなかった。

 

 

「あれは―――」

 

 

 メリュジーヌだけは、見えていた。

 ほんの一瞬。上空から残像すら残さず突っ込んできた彼女(・ ・)が、コヤンスカヤを殴り飛ばしたのだ。先程まで満面の笑みだったコヤンスカヤの顔が、瞬く間に変形していく光景がスローモーションのように、彼女の脳裏に刻まれる。

 

 

「チ―――誰ですか、いきなりレディの顔を―――」

 

 

 沼から飛び出したコヤンスカヤが文句を吐こうとした直後、彼女の目の前に緋色の雷と共に一人の女性が現れる。

 

 

「な、アンナ・ディストローツッ!?」

「フ―――ッ!」

 

 

 一息に吐き出された酸素。その勢いを乗せた拳がコヤンスカヤの顎を捉え、上空へ打ち上げる。

 そして、すかさず躍り出る影。

 

 

「オッ()ねやアァッ!!」

 

 

 コヤンスカヤの頭上を取った男―――バルカンの大剣が振り下ろされる。

 咄嗟に魔力の障壁を展開するものの、バルカンの大剣はバターを切るように容易くそれを焼き切り、そのままコヤンスカヤの胴体を切り裂いた。

 

 

「がぁああぁッッ!!?」

 

 

 袈裟斬りにされた箇所から大量の血を噴き出したコヤンスカヤが墜落する。そして、落ちていく先にはアンナの姿があり、再び轟音が轟いたかと思えばコヤンスカヤの姿が沼を飛び越えていく。

 

 

「逃さない……ッ! バルカンッ!」

「おうよォッ!」

 

 

 コヤンスカヤが沼を越えて森の奥へ消えていくのを見たアンナだが、それで満足するわけもなく、(バルカン)を伴って彼女を追っていった。

 

 

「おかあ―――アンナに、バルカン……。どうしてここに……」

 

 

 取り残されたカルデア一行とメリュジーヌ。しかし、カルデアと違ってすぐに我に返ったメリュジーヌは、先程まで動けずにいた自分を恥じ、彼女達を追うべく飛び立った。

 

 

「……今の、アンナさん、だよね。なんであそこまで……」

 

 

 取り残された一行の中、最初に口を開いた立香。彼女の疑問は、隣にいたダ・ヴィンチが「そうか」と零して答えた。

 

 

「アンナ……いや、“祖龍”ミラルーツにとって、全てのドラゴンやワイバーンは自分の子どもも同然だ。既に骨になっているとはいえ、“境界竜”アルビオンに手を出されれば母親(かのじょ)が黙っているわけがないんだ」

 

 

 自分の子どもが何者かに攻撃されたり邪悪な企みに巻き込まれているのなら、それを防ぐのが親として当然の責務。

 たとえ、それが異聞帯の同一人物の別人(自分の子ども)であろうとも、彼ないし彼女がなにかしらの被害を被っているのなら駆けつける―――それが、“祖龍”ミラルーツなのだ。

 

 

「二人共話し合ってないでッ! なにか来るッ!」

 

 

 刹那、アルトリア・キャスターの怒号が二人の意識を切り替えた。

 

 

「ガァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 彼女達の前に出現したのは、どろどろに溶けた液体によって構成された巨大な竜。

 恐らく、コヤンスカヤがアンナに殴られる直前に術式が発動していたのだろう。竜は目の前の存在を抹殺せんと雄叫びを上げ、立香達もまた目の前に現れた敵を打破すべく構えた。

 

 

 

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「よくもあの子の骨に、その汚い足を乗せてくれたな……ッ! 絶対に殺すッ!」

「チ―――ッ!」

 

 

 広げた掌から放たれる雷撃を、コヤンスカヤは咄嗟に展開した障壁で防ぐ。並みの英霊の攻撃であれば簡単に防ぎ切る障壁は、しかし“祖龍”の怒りの雷の前では付け焼き刃でしかなく、瞬く間に全体に亀裂が入った。

 なんとか防げた―――僅かにコヤンスカヤが安堵した直後、目の前に現れたアンナにぎょっと目を見開いた。

 

 

「シ―――ッ!」

 

 

 鋭く、そして短い吐息と共に繰り出された右足が、障壁を粉砕する。砕けた破片の奥から迫る蹴撃を防ごうと、コヤンスカヤは無意識に自身の腕を盾にするが―――

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

 

 メキッ、バギッ、と骨が砕ける嫌な音が腕から響き、コヤンスカヤが唇を噛んで痛みに耐える。

 しかし、骨が砕ける激痛は彼女の防御を緩め、アンナに次の一手を与える時間を許してしまう。

 

 振り抜かれた拳が顔面にめり込み、コヤンスカヤの体がボールのように跳ねる。

 そして、彼女の背後に現れたバルカンが大剣を振るうが、寸でのところでコヤンスカヤの腰から伸びた数本の白い尻尾が彼を弾き飛ばした。

 

 

「よくも殴ってくれやがりましたね……ッ! 容赦しませんッ!!」

 

 

 折れた鼻を直し、切れた唇から流れる血を拭ったコヤンスカヤが、全身からバチバチとエネルギーを弾けさせ、その身を人から獣のものへと変化させていこうとする―――その瞬間だった。

 

 

「ハアアァッ!!」

「ぅ……ッ!!」

 

 

 自らの姿を変化させようとした隙を突いてきた、不可視の一撃が腹部に捻じ込まれる。

 大きく開かれた口から胃液の混じった血液を吐き出し、コヤンスカヤが吹き飛ぶ。

 彼女が巨大な樹の幹に叩き付けられ、その衝撃で折れた巨木が彼女を圧し潰す。その光景を見て「はぁ」と重く息を吐いた妖精―――メリュジーヌに、背後から声がかけられる。

 

 

「アルビオンッ!」

「アンナ、バルカン。貴方達が来てくれて、嬉しい。でもごめん、こいつは僕にやらせてほしい」

「……うん。わかった。でも、私達にも殴らせてね」

 

 

 アンナとバルカン、そしてメリュジーヌが構えた直後、巨木が吹き飛ぶ。

 バラバラと頭上から降り注ぐ破片を気に掛けずに立ち上がったコヤンスカヤが、瞳の色を変えて無言のまま襲い掛かってきた。

 

 咄嗟にアンナとメリュジーヌの前に出たバルカンの大剣と、白い体毛が伸びた腕の先にある鋭く伸びた爪が衝突し、凄まじい衝撃波を飛ばす。

 コヤンスカヤを振り払ったバルカンの肩を踏み台に飛び出したアンナとメリュジーヌの拳がコヤンスカヤに直撃するも、コヤンスカヤは己の腕が砕ける事すら厭わずに防御。尻尾で二人を弾き飛ばすと、すぐさま左手を地面に叩き付ける。

 

 地上から飛び出した呪詛の嵐が二人を呑み込もうとするが、アンナが即座に両腕に握った緋雷の槍を投擲。呪詛の奔流を斬り裂いた槍は着弾と同時に爆発して嵐を吹き飛ばし、次いでメリュジーヌがスラスターを噴射。アンナによって開かれた道を通ったメリュジーヌが両腕を突き出すと、彼女のガントレットから二本の剣が飛び出した。

 

 

「ガ―――ッ!」

 

 

 腹部を貫かれた痛みに苦悶の声を漏らすコヤンスカヤを、そのままメリュジーヌは上空まで連れていく。

 そして空中で剣を引き抜くと、コヤンスカヤの背後にアンナとボレアスが現れる。

 

 

「チッ、トカゲ共がッ!」

「とっとと―――」

 

 

 コヤンスカヤが両手と尻尾の先から魔力による光線を発射。

 その間を潜り抜け、アンナとバルカンが拳を握り締める。

 

 

「「くたばりやがれッ!!」」

 

 

 そして、遂に光線を躱し切り、コヤンスカヤへと肉薄した姉弟が、拳を突き出した。

 振り抜かれた二つの拳はコヤンスカヤの胸部へ炸裂。緋色の雷と灼熱の業火が迸り、ビーストを殴り飛ばす。

 

 激痛による叫びを上げて落ちていくコヤンスカヤ。耐えがたい憤怒の炎を滾らせてなんとか態勢を立て直そうとする彼女の前に、小さな影が出現する。

 

 

「私達の聖地に手を出した罪ッ! その命で償ってもらうぞ、(ビースト)ッ!!」

 

 

 スラスターを全開。

 一気に風の壁を突き破ったメリュジーヌが剣を前方に突き出し、一本の槍の如く突っ込んでいく。

 

 

「―――今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)ッ!!」

 

 

 蒼き流星がコヤンスカヤに直撃し、そのまま突き進む。

 木々を、空気を、全てを斬り裂いて翔ぶ流星は、やがて“竜骸の沼”へと。

 

 やがて停止したメリュジーヌだが、勢いを突然殺されたコヤンスカヤはそのまま吹き飛び、沼の上を石のように跳ねていき、浅瀬の泥を削りとってようやく停止した。

 

 

「うわっ、なんか飛んできたッ!?」

「……これは」

 

 

 彼女が止まった場所は、丁度彼女によって召喚された竜を撃破した立香達のすぐ前だった。

 

 

「村正、あれは……」

「あぁ、ありゃ致命傷だな。(やっこ)さん、どうやらとんでもねぇ輩を怒らせちまったらしい」

 

 

 遠目に見ても気付ける程の深手を負いながらも立ち上がったコヤンスカヤ。彼女は自らにトドメを刺すべく向かってくるメリュジーヌ達に舌打ちしたかと思えば、辛うじて無事な袖から掌サイズの玉を取り出し、叩きつける。

 

 瞬く間に緑色の煙が彼女を包み込み、アンナが緋色の雷を空から落とすものの、既にそこには彼女の姿は無かった。

 

 

「……逃がしたか。私も、まだ万全じゃないのね」

 

 

 緑色の煙を吐き出した球がモドリ玉だと気付いた瞬間に攻撃したアンナだったが、コヤンスカヤの姿が見当たらない事に気付いて肩を竦める。

 

 

「アンナ……」

「あぁ……アルビオン……」

 

 

 メリュジーヌが駆け寄ってくると、アンナは途端に表情を変えて彼女の頭や体をぺたぺたと触り始める。

 

 

「怪我はない? どこか痛むところはある?」

「だ、大丈夫だから、あまり触らないで。向こうには妖精騎士ランスロットとして伝わってるんだから」

「それでも気になるの。あっ、こら」

 

 

 申し訳なさを抱きながらアンナから離れ、メリュジーヌは立香達を見る。

 

 

「……話しかけてもいい雰囲気かな?」

「いいよ。君達、僕と話したそうにしてたから」

「それは助かるよ。……まずはコヤンスカヤの事だけど、今のは逃げた、と見ていいのかな?」

「…………まぁ、そうかも。潰すのなら心臓じゃなくて、頭にすべきだった。あの(ビースト)、まだ幼体で弱かったけど生命力だけは一人前。この前、カリアから逃げ切ったそうだけど、それも考慮しておくべきだったかも。でも、今ので数日は動けないんじゃないかな」

「そう……。ありがとう、メリュジーヌ。貴女のお陰で、私達は彼女を気にせず戦えた」

 

 

 立香が一歩前に踏み出し、仲間達を代表するように頭を下げた。

 

 

「いいんだよ。僕が彼女を許せなかっただけなんだ。……それは、あの方々もそうみたいだけど」

 

 

 メリュジーヌが振り向いた先、バルカンを労っていたアンナは自分達に視線が向けられている事に気付き、こちら側に向かってきた。

 

 

「なに、どうしたの?」

「……いや、君達があの骨を護りに来てくれた事を話してただけだよ」

「ふふ、ありがとう」

「そうだ。丁度いい機会だから聞かせてもらいたいな。君達の目的はなんだい? 今はいないけど、カドック・ゼムルプスやオフェリア・ファムルソローネ……それ以外のクリプターとサーヴァントを引き連れて、いったいなにを考えているんだい?」

「―――惑星(ほし)を滅ぼす呪いの根絶」

『……ッ!!』

 

 

 アンナから告げられた言葉に、一行の顔色が変わる。

 そして、真っ先にその瞳に希望の色を灯したのが、ダ・ヴィンチだ。

 

 

「だったら、是非私達と協力してほしいッ! “祖龍”である君や、“禁忌のモンスター”である彼の力を借りられたら―――」

「―――お前達程度がこの方々に助力を請うのかッ!!」

 

 

 瞬間、顔を真っ赤にしたメリュジーヌがダ・ヴィンチに詰め寄った。

 なにが彼女の琴線に触れたのかわからないダ・ヴィンチは「え、え、えッ!?」と訳もわからずに驚愕し、思わず両腕を上げた。

 

 

「こら、アルビオン。彼女の話を止めないで」

「でも、おかあ―――ああいや、ルーツさ―――いや、違う、アンナッ!」

「いいの。お願い、アルビオン。私も、彼女の話を聞きたいの」

「…………わかったよ」

 

 

 渋々といったように引き下がったメリュジーヌを撫で、アンナはダ・ヴィンチに話の続きを促した。

 

 ダ・ヴィンチ達の目的は、この異聞帯のどこかにあるという惑星(ほし)を滅ぼす呪いの根絶と、魔術ロンゴミニアドの術式を回収する事である。

 計算上であればギリシャ異聞帯を滅ぼせる威力を持つロンゴミニアドの魔術式は、今後相対するであろう『異星の神』に対する切り札となる。今後の戦いを有利に進める為にこの術式はなんとしてでも手に入れたいものであり、可能であればこの異聞帯の戦力と結託して呪いを根絶したいとも考えていた。

 しかし、この異聞帯の“王”であるモルガンに汎人類史を救う気などなく、またロンゴミニアドの術式提供も断られた。

 

 こうなっては地道にこの二つの目的を達成するしかないのだが、そんな時にこの沼での出来事があった。

 

 この惑星のアルテミット・ワンである“祖龍”と、そのサーヴァントである“禁忌のモンスター”。そして、彼女が保護下に置いているクリプター達の力も借りれば、より迅速にこの事態に対処できるのではないか、と。

 

 

「君達にとっても、この話は悪くないはずだ。私達は君達と協力して、目的を達成したい。君達も、私達という戦力を獲得できる。……君自身やサーヴァント達の事を考えると、あまり心強い味方とは言えないだろうけど」

「そう謙遜しないで。確かに君達は私達と比べれば弱い。仮にここで戦っても、君達全員を容易く殺し尽くせるぐらいにはね。……ああいや、別にそうする気は無いよ。今ここで君達を殺しても、私に得は無いし。……それに、君達の目的は悪くないし、そうしようとする意気込みは尊敬できる」

「……ッ! それじゃあ―――」

「でも、今は駄目よ」

「え、なんでッ!?」

 

 

 もしや彼女達の助力を得られるのでは―――そう思った直後に言われた言葉に、ダ・ヴィンチが目を見開いた。

 

 

「貴女達はまだ、超えるべき試練を超えていない。それまで、私達は貴女達に協力しないわ」

「試練……」

「えぇ、そう。それを超える事が出来たら、私達は貴女達に協力するわ。共に、惑星(ほし)を蝕む呪いを根絶しましょう?」

「……わかった」

「話は終わり? それなら、早くここから離れた方がいいかも。君達にとって、この沼の近くは毒になるだろうからね」

 

 

 アンナに言われ、立香は「そういえば」と自らの両手を見下ろす。

 

 

「なんかさっきから、体が重いと感じてたんだよね」

「そのようだね。霊基にまで影響を及ぼす毒素だ。生命体であれば遺伝子レベルで変異しかねない。アルビオンの亡骸に興味は尽きないけど、今は他にやる事があるんだし」

「メリュジーヌはどうするの?」

「僕は……少しアンナ達と話したい。ここに残るよ」

「大丈夫なの? 毒素とか」

「僕の本体から漏れ出てるものだよ? フグが自分の毒で死ぬわけないでしょ?」

「そういえばそっか……。それじゃあ、ここでお別れだね」

「ああ、待って、立香ちゃん」

 

 

 踵を返そうとした立香に、アンナが声をかける。

 

 

「ん、なに?」

「ありがとう、アルビオンを護ろうとしてくれて」

「……ううん。感謝される事じゃないよ。私がそうすべきだと判断しただけだからね」

「……やはり、貴女は素晴らしい人間ね。貴女達が試練を超える事、期待しているわ」

「あはは、ありがとう」

 

 

 

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 立香達が木々の奥に姿を消してから数秒。彼女達が見えなくなるまで手を振っていたアンナ―――ルーツは、「さて」とメリュジーヌに振り返った。

 

 

「久しぶりね、アルビオン。アイドルイベント以来かしら」

「……そうだね」

「……どうしたの?」

 

 

 俯き気味に答えたメリュジーヌの前に、ルーツが膝をつく。

 自分を見上げてくる態勢になった彼女に、メリュジーヌは無意識に両手を握り締めていた。

 

 

「……私は、本物のアルビオンじゃない。元々そうであった竜の左手、その細胞の一片が、この私」

「…………」

「本当はアンナとバルカンも、私じゃなくて、あの骨を護りたかったんでしょう? 私なんかじゃなくて、あの本物のアルビオンの骨を……」

 

 

 振り向き、沼の真ん中にある骨を見やる。

 あれこそが、本物のアルビオン。既に命を終え、それでも尚コヤンスカヤに狙われてしまう価値を秘めた、かつての世界を生きた“境界竜”。

 ルーツとバルカンが真に護るべきものは、自分ではなく、あの骨であるべきだったのだ。

 

 

「……さっき、君は私達が、あの骨を護りに来たと言っていたね」

 

 

 背後から声が聞こえる。

 

 

「うん。それがなにか……」

「私達はね、確かにあの骨を護った。でも、それ以上に護りたいものがあった」

 

 

 それはなに―――そう問いかけようと振り向いたメリュジーヌの視界が、柔らかい感触と共に暗くなった。

 それが、自分が抱き締められている事に気付いた頃、頭上から優しい声が降り注ぐ。

 

 

「それは貴女よ、アルビオン」

「……っ。でも、僕は……」

「わかってる。でも、貴女はあの子よ。たとえ、それが細胞程度の規模であったとしても、貴女は貴女。欠片であろうとも、貴女はこの歴史の“私”の娘だから」

「……アンナ……」

「ルーツでもいいって……いや、うん、そうだよね。私は“私”じゃない。この歴史の貴女(アルビオン)母龍(ははおや)じゃない」

 

 

 ―――でもね、アルビオン。

 

 柔らかい温もりが離れ、視界が開ける。

 再び片膝をついて自分を見上げてくる形となったルーツは、「それでも」とメリュジーヌの頬を両手で包み込む。

 

 

「それでも私は、貴女を護りたい。この世界の“私”が護り抜いた命である、貴女を」

「……ッ!!」

 

 

 両目が熱くなり、思わず両手で塞ぐ。

 そんな中でも、母親の声が、優しく彼女を包み込む。

 

 

「だから、自分は違うって卑下しないで。貴女はアルビオン。“私”の遺した、大切な愛おしい子どもの一体(ひとり)。バルカン、貴方もそうでしょう?」

「あァ、俺も同じ事思ってンぜ。アルビオン、手前(テメェ)が細胞程度だからってなんだってんだ。テメェはテメェ。それでいいんだ」

「……本当に、ありがとう」

 

 

 溢れ出す涙を堪えず、竜の妖精はただ、何度も「ありがとう」と言い続けるのだった。

 

 

 

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「……私はまだ、自分自身に区切りを付けられない。でもいつか、向き合って、決めたいと思う」

 

 

 涙が止まって数分経った頃。

 アンナ達より離れた、メリュジーヌはそろそろ戻らなければならないと思い、スラスターを点火する。

 

 

「ありがとう、汎人類史のルーツ様に、バルカン様。あなた方のお陰で、私は少し、自分というものがわかった気がします」

「元気でね、アルビオン」

 

 

 頷き、小さく手を振って飛び立つ。

 “竜骸の沼”を離れ、湖水地方より離れ、流星が過ぎ去っていく夜空を駆ける。

 

 オーロラのいるソールズベリーに向かっている途中だったが、ふと脳裏に過った気持ちに動きを止められる。

 

 

(……カリア)

 

 

 己の大元がある湖水地方に向かう前に話した彼女。これまで何度も色々な会話をし、そして模擬戦で戦ってきた存在。

 今回もまた彼女に促される形であの場所に向かったが、そのお陰で汎人類史側の創造主と偉大なる兄と色々話す事が出来た。

 

 そんな事がふと気になり、メリュジーヌは僅かに高度を下げる。

 

 彼女は恐らく、ソールズベリーでの仕事を終えて罪都キャメロットへ向かっているはず。急ぎの用でもない限り、彼女が足早に行動する事などまずないため、そう離れてはいないはず―――そう思いながら地上を見渡していると、左程時間をかけずに目的の人物を発見した。

 

 誰かと話しているのか、自分の側頭部に掌を当てて笑っている。

 そんな彼女の前に降り立つと、「おや」と眉がつり上げられた。

 

 

「これはこれは、メリュジーヌ。用事はもう済んだのかい? すまないが、今は少しマスターと会話中でね。少しだけ待っててくれるかな?」

 

 

 もちろん、と頷けば、「助かるよ」とにこやかに返される。その後数回の会話の後、「それじゃあね」とカリアは側頭部から手を離した。

 

 

「待たせたね。我がマスターにお使いを頼まれてしまった」

「話し相手はバーヴァン・シーだったんだ。……ん、お使い?」

「あぁ、気にする必要は無いよ。頼まれはしたが、すぐに欲しいものではないらしいからね」

「また陛下への靴作り? 本当に、よくやるよ」

「彼女にとっては楽しいのだろうさ。最近はベリルより魔術も教わっているらしい。ボクは魔術とはあまり縁遠い人生だったから、使えれば便利なもの……程度にしか思えないがね」

 

 

 一緒に歩こうと言われ、メリュジーヌは頷く。

 隣り合って歩くメリュジーヌは、先程の会話を続けるべく口を開く。

 

 

「彼女、いつもそんな感じなの?」

「創作に関してなら、いつだって最高のものを作り出せるよう努力している。素晴らしい事だ。これで同じ物作りを趣味にしているような仲間でもいれば万々歳なのだか……まぁ、そう簡単には現れないものさ、そういう相手は」

「努力……僕には縁遠い言葉だね」

「君ならそうだろう。基になった者が者なのだからね」

 

 

 幻想種最高位の存在である竜種、その中でも“禁忌”に近い存在として産み出された“境界竜”の細胞から生まれたメリュジーヌは、努力などしなくとも強い。モルガンを除けば、この妖精國の中でも最強の座に最も近い妖精だろう。

 

 ―――けれど。

 

 

「カリア。僕、努力してみようかと思う」

「―――なんと。これはまた、予想外な事を。君が『努力しようか』と言うなど、思いもしなかった。どういう風の吹き回しかね?」

 

 

 普段から大袈裟な仕草が多いが、今回はそれ以上に素を出した表情になったカリアに、「まぁそうだよね」と心中で呟きながら口を開く。

 

 

「少し、そう考えたくなるような出来事があっただけさ。そしてそれは、君が僕を行かせてくれたから得られたもの―――本当にありがとう、カリア」

「礼には及ばないさ。ボクはただ、そうした方が良いと感じただけだからね」

 

 

 立ち止まったカリアは、不敵な笑みを浮かべてメリュジーヌを見る。

 

 

「だが、君が努力するというのなら、それでいいだろう。努力に悪い事など一つもないのだからね」

「気にならないの? 僕をその気にさせた出来事とか」

「気になるとも。君をその気にさせる程のものなのだから。だが、聞かないでおこう。君は君の思うがまま行動すればいい。……悔いの残らぬように」

「……ありがとう、カリア」

 

 

 踵を返し、カリアに背を向ける。

 そして歩き出そうとしたところで、メリュジーヌの脳裏に疑問が浮かぶ。

 

 

「……君に悔いなんてあるの?」

「あるとも。まぁ、本当に下らないものだけどね」

「なにそれ」

 

 

 自分の事は聞かれなかったくせに、相手にはこうして聞いてしまうのか―――内心そんな事を考えながら訊ねてみると、カリアは文句一つ言わずに答えてくれた。

 

 

「老いに屈し、病に屈し、命を終えた……その程度の悔いだよ」

「―――」

 

 

 果たしてそれは悔いと言えるのだろうか―――と、メリュジーヌは首を傾げるのだった。

 

 




 
・『カリアがオーロラの申し出を断った理由』
 ……彼女が自分が仕えるに値する妖精だと認めていないから。もしオーロラがその条件を達成できていた場合、「さてどうしようか」と考え始める。行動に移すかどうかはオフェリアと國の様子を見極めてからとなる。

・『ルーツとバルカン』
 ……場所がアルビオンの亡骸のある沼の近くだったため、全力が出せなかった。それがコヤンスカヤが彼女らとメリュジーヌを相手になんとか持ちこたえられ、遂には逃げ果せる事が出来た理由となった。

・『ルーツ達への申し出にメリュジーヌが怒った理由』
 ……まだ彼女がアルビオンの竜の一部だった頃。その時のある出来事が、彼女が“祖龍”が頼み事をされる事を極端に嫌うようになった理由である。

・『カリアの死因』
 ……戦いの中で死んだわけではなく、老衰による病死。しかし、多くの難敵を討ち果たしてきた彼女にとって、『老い』という生物における永遠の敵に敗れた挙げ句、病によって生涯を終えたのは地味に悔しいと思っているらしい。


 そろそろまた新たなモンスターを登場させましょうかね。
 それではまた次回、お会いしましょうッ!
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