【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 新イベントでワンジナが実装され、約一か月前のイベントで出たばかりなのにこんなに早く実装されるとは思わず驚いた作者です。
 今回のイベント面白いですねぇ。ついに聖杯に足が生えたりジェット噴射で逃げたりし始めるとは思いもしませんでした。

 少しずつブリテン編が終わりに近づいています。ミクトランとシュレイド異聞帯での話も少しずつ思い浮かび、合間を縫ってはちょっとずつメモに書き留めています。

 今回はカルデア側がメインです。それでは、どうぞッ!



守護者達

 

「や……やった……」

 

 

 重い疲労と虚脱感。その両方が全身に圧し掛かる中、押し出すように言葉を吐き出す。

 

 トネリコ。

 楽園より派遣された、最初のアヴァロン・ル・フェ。巡礼の旅を終わらせ、己の役目を果たす為に行動し続けた彼女は―――しかし運命に裏切られ、仲間達を殺された、哀しき妖精。

 

 

「ウーサー君……エクター……グリム……ハベトロット……マシュ」

 

 

 誰もいない。かつて苦楽を共にした仲間は、ここにはいない。

 一人は同じ騎士達と共に殺され、他の者達とは別れた。だから、たった一人で、あの巨大な脅威(・ ・ ・ ・ ・)と戦う他なかった。

 

 ―――だと、思っていたのに。

 

 

「貴方は……なぜ、私に力を貸すのですか……。使命を裏切った、この私を……」

「―――」

 

 

 その龍は、己に手を貸してくれた。

 楽園から与えられた使命を放棄し、独りで己の國を作ろうとしている彼女に、龍は付き従った。

 

 “最果ての地”―――内海への道中にあるその地での戦いを通して、両者の間には確かに(えにし)が結ばれた。

 だが、それだけでは納得できない。それだけでは、ここまで力を貸す理由にはならないはずだ。

 

 だが、龍はなにも言わない。ただじっと、自分を見つめてくるだけだ。

 

 妖精眼も万能ではない。トネリコの瞳は嘘を見通すが、相手の内面を読み取る事は出来ない。今目の前にいる龍がなにを思っているのか、トネリコには理解できない。

 

 

「いえ……今は、封印を……」

 

 

 この場所で()を封印するのは、正直なところやりたくなかった。

 ここには彼女が―――マシュ・キリエライトがいる。

 

 妖精歴から女王歴への変換。それによる妖精達の消滅と再構成。それに巻き込まれないように処置したが、彼女の身に宿ったあの力(・ ・ ・)が無ければ、奴を封印できなかった。

 

 

「下がっていてください……。これは、私の役目です。私がやらなくては……ッ!」

 

 

 楽園の龍が下がり、トネリコが前に踏み出す。

 

 杖を振るい、魔術の光が前方の都を包み込む。

 

 マシュ・キリエライトが、女王歴のシェフィールドの事件の後に触れたという原石。それで得た力は、あの存在を封じ込めるのに最も適した力だ。

 

 本当は、奴を殺したい。

 ウーサーと結ばれ、頼れる騎士達と新たな時代を切り拓こうとした矢先に現れた、あの黒き龍。

 瞬く間に妖精達を凶気で操り、暴動を起こさせたあの龍。

 全てが終わりを告げたあの時から、トネリコはあの龍を殺したいと思っていた。

 

 しかし、出来なかった。

 トネリコも、彼女に従う龍も、奴を殺し切る事は出来なかった。凶気によって暴走し、無理矢理身体強化された妖精達による妨害、触れたものを凶気に染め上げる瘴気。それらへ対処しながらの戦闘は、トネリコ達に奴への攻撃を集中させなかった。

 

 

「でも、封印が解けた時には……」

 

 

 ―――必ず殺す。

 

 心の内に秘めた、獰猛な殺意。

 

 これが、後に廃都と呼ばれるようになる都で起きた、誰も知らぬ戦いの結末。

 妖精歴4000年の終わり。その間際の出来事だった。

 

 

 

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「―――っ、これは……」

 

 

 時代は女王歴に戻る。

 “竜骸の沼”での騒動から数日が経ち、その間にも着々と歩を進めた立香達は、遂に妖精國の北部にある廃都、オークニーに到着した。

 

 妖精歴4000年に滅ぼされた“雨の氏族”の残滓(なみだ)が雪のように降り積もったその場所は、普段は誰一人寄り付かぬ静かな場所だ。

 

 だが、その光景(・ ・ ・ ・)を目撃した者達の中で、最も目の前の現状を信じられないと固まっていたハベトロットの様子から、今自分達が見ている光景が異常である事を立香達は察した。

 

 

「……ハベトロット。本当に、ここにマシュがいるの……?」

 

 

 ここまで来る道中、同行していたハベトロットからここにマシュ・キリエライトがいると伝えられていた立香は、再度彼女にマシュの存在について訊ねた。

 

 

「……いるよ。いる、はずだ……。でも、こんなのは……」

 

 

 彼女達の目の前に広がる光景。それは、これまで多くの特異点や異聞帯を駆け抜けてきた立香達ですら見た事のないものだった。

 

 至る所に、黒い瘴気が漂っている。

 遠目に見るだけでも身の毛がよだつ邪悪の気配。全てを呑み込み、滅ぼし尽くさんとする意志があるかのようにうねる瘴気は、最早一つの生命体のよう。

 

 一目見ただけで危険な場所であると確信できるその都に、本当に自分の後輩がいるのか―――と顔を顰めた立香だが、それはハベトロットも同様だった。

 

 

「……行こう、立香ちゃん。ここで立ち止まっていても、どうにもなんないよ」

「そう、だね……ん?」

 

 

 歩き出そうとした直後、立香の瞳は黒く染まった廃都からこちらに向かってくる存在を捉えた。

 

 彼女より少し遅れてそれに気付いた者達が身構える中、それはゆっくりと歩いて彼女達の前に姿を現した。

 

 

「これは、狼? すっごいもふもふしてるけど」

 

 

 アルトリア・キャスターの言ったように、彼女達の前に現れたのは白い体毛を持つ狼だった。

 村正の見立てでは神性を帯びているというその白狼を見て、ハベトロットは「まさか」と思い、立香達に背を向けて歩き始めた白狼を追い始めた。

 

 

「ハベトロットッ!?」

「みんな、あいつについていこう。ひょっとしたら、ボクの知り合いがいるかもしれないッ!」

「ハベトロットの、知り合いッ!?」

 

 

 だとしたら、この状況についてなにか情報を得られるかもしれないと、立香達は白狼を追っていく。

 

 道中、立香達の存在に気付いたように周囲の瘴気が彼女達に襲い掛かろうとしたが、白狼を中心に展開された青白い障壁によって阻まれた。

 

 

「これは……」

「瘴気の様子を見るに、恐らくあれに対する特攻があるみたいだ。原理はよくわからないけど、性質が正反対なのはよくわかる……。なんだろう、この光は……」

「言っておくけど、絶対に出ちゃ駄目だよ。一回瘴気に呑まれたら、もう戻れなくなるから」

「うわっ、危ないッ! もっと早く言ってよッ!」

 

 

 興味深いとばかりに障壁越しに瘴気を観察しようとしたダ・ヴィンチだったが、ハベトロットからの忠告を受けて飛び退いた。

 

 それから歩く事数分。白狼が放つものより数倍の広さを誇るドーム状の青白い結界が見えてくる。その中に入った立香達に、焚火の近くに腰かけ、もう一匹の白狼の頭を撫でていた青年が顔を上げた。

 

 

「戻ってきたか、フレキ。なにか労いの品でも渡したいところだが、生憎こんな場所だ。これで許してくれや」

 

 

 そう言って青年は懐から干し肉を取り出し、フレキと呼んだ白狼へと放り投げた。それをジャンプして受け取ったフレキは、特に返事を返すわけでもなく黙々と干し肉を齧り始めた。

 

 

「ありゃあサーヴァントだぞ、立香。汎人類史のサーヴァントがオベロン以外にいやがったのか?」

「いや、あのローブ姿は……」

「ん? おぉ、立香ッ! 随分と遅かったな。もう来ないのかと思ったぜッ!」

「やっぱり、クー・フーリンだッ!」

 

 

 目深に被っていたフードを下ろした男に、立香は見覚えがあった。

 

 まだ人理が焼却されていた頃、最初の特異点であった冬木で最初に出会い、味方となってくれたサーヴァント―――魔術師(キャスター)のクラスで現界したクー・フーリンが、彼女達の目の前にいた。

 

 しかし、喜ぶ立香に対し、クー・フーリンはあからさまに顔を顰めた。

 

 

「おっと。悪いがその名で呼ぶのは止してくれ。霊基の出力がガタ落ちする。ここじゃあ昔っからグリムで通ってンだ。そこんとこよろしくぅ」

「グリムって……そういえば、欧州にはそんな名前の古い妖精がいたけど……」

 

 

 グリムとは、イギリスにおいて、人に利益を齎す黒妖犬の一種であるチャーチグリムを指す。しかし、ダ・ヴィンチはその名に別の意味を見出していた。

 

 以前対峙した、ギリシャ異聞帯。そこを支配していた神々とは別系統の神話。それにおいて最上位に位置する主神の別名を意味しているのだ。

 それがなにを意味するのか、と思考するダ・ヴィンチを他所に、クー・フーリン―――否、賢人グリムはハベトロットに問いかけていた。

 

 

「なんだ、オレの話はしてないのかハベトロット。つれないねぇ、シェフィールドじゃ助けてやったってのに」

「うわ。あの時はドタバタで気がつかなかったけど、グリムがおっさんになってる……」

「おっさんじゃねぇ、お兄さんだろうがッ! 前のオレはどうだったか知らねぇが、二代目はこうなんだよッ! 悪かったなッ! ……いや、今はそんな下らねぇ話してる場合じゃねぇ。道すがら話してやるから、ついてこい」

「え、ちょ、ちょっとッ!?」

 

 

 言うが早いか、立ち上がったグリムが歩き出した。

 それに驚きながらも立香達が後に続くと、彼は振り向かずに口を開いた。

 

 

「まず最初に立香。オレはお前が冬木で契約した、もう一人のオレ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と同じだ。記憶こそ記録になったが、その時の事はしっかりと覚えてる。お前とオルガマリー、今もあそこで踏み止まってるアーサー王の事も、全部な」

 

 

 今も踏み止まっているアーサー王という言葉に立香はその詳細を訊きたくなったが、今はその事を聞いている時じゃないと思い、喉元まで出かけた言葉を呑み込んだ。

 

 

「あの一件が終わった後、オレはこの世界に召喚された。6000年前は神霊オーディン。そして今はオーディンの代理として、一年前からここで寝ずの番ってやつをやっていた」

「神霊……オーディンッ!?」

 

 

 それは、立香でもよく知っている神の名前だった。

 

 オーディン―――言わずと知れた北欧神話における主神。兄弟と共に世界を創造した、神々の父であり支配者。本来は嵐の神であったが、後に軍神や死者の神としても語られるようになる。

 また、叡智を得る為に己の片目を担保にしたり、ルーン文字を考案する為に世界樹ユグドラシルで首を吊った挙句に自分の脇腹を槍で刺したりするなど、とにかく知識に貪欲な神としても知られている。

 

 

「神霊……立香達の言っていた『神様』なんですかッ!? あ、でも……言われてみるとしっくりくるような……なんか、すっごい真面目そうだし」

「いや、それは今の状況が関係してると思うよ。ストーム・ボーダーにいる別の『クー・フーリン()』らはもっと気さくだし。……一人を除いてね」

 

 

 きっと、狂戦士のクラスで召喚された彼は、別の自分と同じ扱いを受けるのは嫌がるだろう。

 

 一方、アルトリアはダ・ヴィンチの『彼ら』という言葉に、目の前にいるグリムと同じ存在が複数人いるという情報に、頭の中で宇宙が広がっていた。

 

 

「で、こうして寝ずの番をしていたが、面倒な事にオレの役目はとにかく複雑でな。まずはその辺りの説明を済ませちまおう」

 

 

 そして、グリムは己に与えられた役目について語り始める。

 

 冬木での一件よりも前、クー・フーリンという英霊は大神から権能を譲渡され、同時に役目も負った。

 魔術と知恵の神である大神は、己が持つ瞳によりカルデアの未来を視た。その結果、冬木とブリテンでの手助け、そしてもう一つの条件が揃わなければカルデアが詰んでしまう事が判明してしまった。

 

 そのもう一つの条件とは、簡単に言えばリカバリー。6000年前のブリテン異聞帯に召喚されたのはその為であった。

 しかし、それは一度は失敗。最初のアヴァロン・ル・フェは一度楽園に戻るも、そこの番人であった至天の龍を伴って地上に戻り、世界を再編してしまった。

 だからこそ、二度目は成功させなければならない。

 『巡礼の旅』を成功させ、楽園の妖精を、完全な形で楽園に帰す―――その役目を果たす為に、グリムは立香達を待ち続けていたのだ。

 

 それに―――と、グリムは視線を闇に覆われた空に向けた。

 

 

「実は今回のオレの役目は、別の異聞帯の問題にも絡んでる。お前達が最後に挑むであろう、シュレイド異聞帯だ」

 

 

 未だ大まかな情報が掴めていない、南アフリカに存在する異聞帯の名が出され、立香達は目を見開いた。

 

 

「アンナ・ディストローツ―――“祖龍”ミラルーツは、この惑星(ほし)の頂点だ。あいつからこの星の生命の全てが始まったと言ってもいい。眷属を産んで弱体化しているが、それでも格で言えば創世神級、他神話の神々を相手取っても、大抵は叩き伏せられる実力者だ。まぁ、何十億年も内海に帰っていないからか、かなり力は落ちているだろうがな」

 

 

 “祖龍”ミラルーツが地球のアルテミットワンだという事は理解できていたが、それでもかなりの実力者だと感じていた立香達は、グリムの言葉に彼女の強さを再認識させられた。

 

 

「それに、シュレイド異聞帯の“王”の力は未知数だ。あの“祖龍”が誕生前から調整(・ ・)を施し、生まれながらに己と並び立つ最強の存在となるようデザインした以上、お前達が戦う頃にはどんな化け物になってるか想像すら出来ない」

「君を代理としたオーディンはなにか見ていないの? その“王”に対する対抗策とか……」

「残念ながら、見られなかったようだ。だが、間違いなく抑止力は働いている。その影響を受けた相手は、必ずその異聞帯のどこかにいるはずだ。いいか、辿り着いたなら絶対に見つけ出せ。でなければ、汎人類史を取り戻すなんてのは夢のまた夢だ」

 

 

 シュレイド異聞帯の話はここまでだ―――言って、グリムは顔を空から下ろした。

 

 

「……この先の鐘撞き堂。マシュは確かにそこにいるが、その前に戦わなきゃならねぇ連中が―――チッ、いきなりかよッ!?」

 

 

 グリムが話していた途中、鐘撞き堂が一瞬光を放った。直後、身構えたグリム目掛けて、魔力によって編まれた槍が飛んできた。

 

 咄嗟に杖を振るって足元から噴き上がらせた炎の壁で防ぐが、その衝撃は彼の背後にいた立香達にまで伝わり、無意識に後ずらせた。

 

 

「今のはッ!?」

「……ッ、見てッ!」

 

 

 アルトリアが指差した先。そこには鐘撞き堂を護るように、八人の影が立ち塞がっていた。

 その内の一つ、どこかアルトリアと酷似した容姿を持つそれがこちらに掌を向けた直後、その影の周囲に無数の槍が出現し、一斉に射出された。

 

 

「村正、ダ・ヴィンチちゃんッ!」

「あいよッ!」

「うんッ!」

 

 

 立香の掛け声で前に出た村正が刀を振るい、その斬撃を飛ばして槍を迎撃。彼が撃ち漏らした槍を、ダ・ヴィンチが杖から放った魔力弾で迎撃した。

 

 

「グリム、今のは……」

「かつてブリテンを統治すべく立ち上がったお歴々方。ヒトと妖精の垣根を超え、一つのチームとして活動していた連中だ。まさか、こうも早く攻撃してくるとはね」

「それって……おいグリムッ! まさか……」

「そのまさかさ。あいつらは残された力を使って、最後の騎士を護っている。自分が何者か忘れて、自分がなにであったのかさえわからなくて、それでも尚、あいつを護り続けてる」

 

 

 グリムが話し終えた直後、影達がなにかに喘ぐように苦しみだし、自らの頭を抱え始めた。

 発声器官が存在していないのか声は出ないが、それでも彼らが苦しんでいるのが嫌でも理解できてしまう。

 

 しかし、影達は苦しむ様子を見せるもすぐさま態勢を整え、崩れそうになる体を必死に保ちながら、背後にある光り輝くなにか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を護ろうとしている。

 その様子にグリムは杖を握る力を強め、ハベトロットは苦虫を嚙み潰したように顔を顰めた。

 

 

「俺達が眠らせるんだ。もう、耐える必要は無いと、伝えなきゃなんねぇ。それが、今ここにいる俺達に出来る、せめてもの弔いさ」

「来るッ! みんな、気を付けてッ!」

 

 

 身構える立香達に、影の騎士達が襲い掛かった―――。

 

 

 

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 昏い。

 

 昏い。

 

 昏い。

 

 揺蕩う意識。朦朧とした感覚。

 あの忌まわしき救世主達によって封印されて以来、自らの意識がはっきりとした形が取れない。

 

 ただ、昏い。昏い闇の中。

 だがこれは、封印によって齎されたものではない。

 

 これは、己だ。

 己そのものから溢れ出す不浄の力が、己そのものを包み込んでいる。

 

 誰かが己を封じ続けている。

 何者かが己を疎んじている。

 

 誰だ。

 誰だ。

 

 ……あぁ。そうだ。奴らだ。

 

 絆を結んだ者達だ。絆の力で己を封じた者達だ。

 

 故に誓おう―――復讐を。

 

 故に齎そう―――滅亡を。

 

 

 同胞達に倣い、己もまた動き出そう。

 

 破滅の翼が羽化するのなら、奈落の蟲が暗躍するのなら。

 

 己は齎そう。無明の闇を。

 絆を蝕む昏き闇を。

 

 強靭(つよ)(ひかり)を呑む、凶気の闇を―――。

 

 

 

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「どうしました、我が友よ」

 

 

 王城内。

 玉座に座り業務を行っている最中、背後の気配が身動ぎした事に気付き、モルガンが問いかける。

 

 彼女の盟友たる“熾凍龍”が唸り声を上げれば、それだけで周りにいる妖精達が震え上がる。

 しかし、モルガンは違う。二千年も盟友として己を支え、楽園より帰還した際には共に愚かな妖精達を滅ぼした存在に、今更恐れる必要などあるだろうか。

 

 だが、今回の彼は様子が違う。

 普段は首をもたげて周囲を威圧しているが、今回は首どころかその巨体を持ち上げ、モルガンの真横に顔を近づけてきた。

 

 鋭く細められた眼から彼の意思を感じ取ったモルガンは、しばしの間を置いた後に「いいでしょう」と頷いた。

 

 

「征きなさい、我が盟友。その力を振るい、この國を蝕む凶気を滅ぼすがいい」

「グルォアァアアアアアアッ!!!」

 

 

 轟く咆哮は、王城どころか城下町をも揺らし、それを聞いた妖精達の背筋を凍らせる。

 全身から放出される熱気と冷気がその勢いを増し、それに比例して放たれる魔力量も増大していく。

 

 友の気迫に応えるように、女王が手元に出現させたハルバードの柄頭を床に突き立てる。

 

 コォンと静かに、しかし重い音が響くと、柄頭を中心に四つの紺色の光が伸びていく。それらが部屋の天井に辿り着くと、重々しい音を立てながら周囲の壁が開き始めた。

 

 数秒の後、自らが飛ぶのに充分な広さとなった玉座の間から、炎と氷の龍が走り出す。

 

 一歩、また一歩と踏み込む度に小さく玉座の間を揺らし、龍は遂に夜空へと飛び立つ。

 

 目指すは廃都オークニー。

 打倒すべきは、友の治める國を蝕む凶気。

 

 夜空には、至天の龍の怒りを表すかのように、多くの流星が降り注いでいた―――。

 

 




 
・『影の騎士達』
 ……妖精歴に活躍した者達の残滓。鐘撞き堂にいる最後の騎士を護る守護者達だが、その在り方は凶気に侵され、今にも消えそうな程に脆くなっている。しかし、彼女を守らねばならないという強靭な意志が、彼らの存在を保ち続けている。

・『眠る闇』
 ……妖精歴400年、トネリコ達によってオークニーに封印された存在。凶気の根源にして、妖精國を蝕む厄災の一体。己を打破するはずであった者達を滅ぼし、迎えるはずの終焉を迎えなかった者。正史より外れた、ifからの来訪者。


 次回は“熾凍龍”VS“黒ノ凶気”ですッ!
 それではまた次回ッ!
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