ドーモ=ミナサン。
秘境グンマーより帰還しました、seven774です。
帰還して早々に観た『ゴジラ-1.0』、歴代のゴジラシリーズと全く異なるゴジラが描かれたので、本当に面白かったですッ!
来週は『翔んで埼玉』の続編が公開されるので、本当に楽しみですッ!
また、大学生活の終了と就職が迫り、いよいよ一人暮らしの可能性が迫ってきた今日この頃。家賃などの計算で頭が痛いです。就職まではとりあえずバイトのシフトを増やして、可能な限り余裕を持とうと思っています。
一人暮らしをしている人達って、凄いんですね……。
今回はカドック達の話です。
アンナの目的についても少しだけ触れられるので、考察していただければ幸いです。
それではどうぞッ!
グロスターは流行の街。それはこの妖精國に住まう者ならば誰でも知っている常識だ。
新たな流行、面白いものに飢えている者達が未知を求めてやってくるこの街には、妖精國中から集まった選りすぐりの妖精や人間達が経営する店が所狭しと並んでいる。
そんな店の中でも、一際注目されている店舗が一つある。
『Bhan-Sith』。
女王モルガンを護る妖精騎士の一人として知られるバーヴァン・シーがオーナーを務めるこの店には、彼女自ら手掛けた靴が販売されている。
特徴的なのは、全てが彼女のお手製だという事。彼女が趣味で作ったものもあれば、母親にプレゼントしようとするもデザインや完成度の問題から彼女の琴線に触れず、商品として卸されたものもある。
種類はヒールやブーツ、はたまたスニーカーなど多岐に渡り、制作者本人にその気はなくとも、毎日やってくる客のニーズに答え続けている。
モルガンへのプレゼントとして考えられていた靴は、当初の目的もあってかなり高価なものだが、その分完成度は他と比べて次元が違う。それを一足持っているだけでも一種のステータスとなるレベルだ。尤も、羨ましさのあまりにそれを奪おうと画策する妖精達がいる事も忘れてはならないため、もし購入した客は己の命を護る為の用意もしなければならないのだが。
それでも、自分の命を勘定に入れてでも手元に置きたいと思う妖精達が後を絶たないのが、彼女の作る靴がどれだけ魅力的なものかを表している。
「いくわよカドック。
「……あぁ」
そこへ、一人のマスターと一騎のサーヴァントが足を踏み入れようとしていた。
「遂にこれを使う時が来ましたわね。コツコツと働いた甲斐があるものです」
傍らに浮遊するヴィイが差し出したチケットを見て、アナスタシアは微笑む。
お試し券と書かれたそれは、彼女とそのマスターであるカドック・ゼムルプスがアンナ達と共にグロスターに初めて足を踏み入れた時、たまたまこの街に足を運んでいたカリアから受け取ったもの。当時はアルム・カンパニーへ行くのと、そこから流されるままに始まった超次元サッカーなどなど別件が入ってしまったために行けなかったのだが、アイドルイベントも終わった今、彼らの懐はかなり温かくなっている。
彼らがプロフェッサー・Kより受け取った財布の中には、この國の女王であるモルガンの横顔を描いたモルポンドが大量に入っており、妖精騎士達の横顔が刻まれているコインもまた同様に入っている。
これならば大人買いはしなくとも一足や二足当たりは普通に購入できると思いながら、カドックはアナスタシアに連れられて店内に入ろうとした瞬間、背後から「待ちなさい」と声をかけられた。
「私達もいる事、忘れないで頂戴」
「……わかってるさ。項羽に褒められるような靴が欲しいんだろ?」
「わかってるじゃない。あと、項羽じゃなくて項羽様と呼びなさい」
「すみません。突然お邪魔してしまって」
「構いません。二人で行くのもいいけれど、四人で行けばより楽しめそうだわ」
ふんすっ、と鼻を鳴らした虞美人と蘭陵王に、カドックは苦笑する。
彼女達は、カドックがアナスタシアに『Bhan-Sith』に行こうと誘われた時にやってきた。
『やっぱり『Bhan-Sith』ね。いつ出発するの? 私も同行するわ』
『
どこかで聞いたようなやり取りをした後、虞美人に引きずられる形で蘭陵王も同行。合計二人と二騎で『Bhan-Sith』へと向かう事となった。
「ここ以外にも色々靴屋を覗いてみたのだけど、あまり気になるものが見つからなかった以上、最後の望みはここなのよね」
「マスターが求めているのはグルカ*1ですよね。きっと見つかりますよ」
「さ、行きましょう。ずっとここにいても迷惑になるだけよ」
アナスタシアに頷き、カドック達は店内へ。
目付きの厳しい“牙の氏族”のガードマン達の間を通り抜けて入ると、誰もが思わず息を吞んだ。
どれもこれもが、一級品。それぞれが当時の製作者の気持ちを表現しているように己の存在をアピールしていながらも他の靴の存在を押しのけず、共存している。一足一足が渾身の出来であり、モルガンへのプレゼントでも趣味のものであろうと一切妥協せずに作り上げるバーヴァン・シーの生真面目さが一目見るだけでも理解させられる。
まさかここまでとは、と虞美人とアナスタシアが一瞬呆けるも、次の瞬間には目の色を変えて互いにパートナーの手を取って足早に歩き出した。
「カドック、こういうのはどうかしら」
「どうだろうな。あまり君に合うとは思えない」
「そう? ……あら、いい子ねヴィイ」
手に取ったシューズをカドックに見せるも、主にそう言われてしまうアナスタシア。しかしそこへ、両手が塞がっているために軽く体当たりしてきたヴィイからブーツを受け取った彼女は、その靴とカドックを交互に見つめる。
「……ロックが好きって言ってたけど、どうかしら」
「少なくとも、今の君の服装には合わないな」
カドックの好きなものであるロックを中心に選んでくれたのだろう。パンクなデザインのブーツを持ってきたヴィイだが、当の本人からそう言われてしまいがくりと肩を落としてしまう。
「だ、だがっ。これに合う服を着ていれば話は別だ。だからそう落ち込む必要は……」
「ふふっ、必死ねカドック。大丈夫よ、ヴィイもわかってるわ」
使い魔の頭を撫でて慰めているアナスタシアだが、カドックは彼女とその手にあるシューズを見て顎に手を当てた。
(きっと、これに合うデザインの服さえあれば似合うだろう。だが……ずっとここにいるわけじゃない。可能なら、シュレイド異聞帯に戻っても使えるものを買ってほしいんだが)
「あまりこういうのは買ってほしくない、という顔ね」
「っ、すまない……」
「わかっているわ。私達は目的を果たせば、この國から離れる。確かにその通りだけど、今だけは後の事を気にせずに楽しみたいの」
こういう事は、あの世界では出来ないから。
シューズを元の位置に戻すべく、ヴィイに先程のシューズの場所まで連れて行ってもらったアナスタシアに、カドックは眉を顰める。
(そういえば僕は、アンナから目的を聞かされていない。彼女はあの異聞帯を使って、いったいなにをするつもりなんだ……?)
「カドック? どうかした?」
「……あぁ、いや。なんでもない」
……少なくとも、今考えるべき内容のものではないだろう。
そう思って、カドックは手招きするアナスタシアの下へと向かった。
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「高長恭。これはどうかしら」
「えぇ、とても似合っています。では、こちらもどうでしょうか」
「ありがとう」
シューズを脱ぎ、すかさず差し出されたサンダルを受け取って履いてみる。
「……いいわね、これ。流石は高長恭ね」
「恐縮です。それにいたしますか?」
「そうね……」
立ち上がり、軽く歩いてみる。
履き心地は悪くないし、デザインも嫌いではない。
今の自分の服装にも合っているし、他の服を着てもきっと似合うだろう。だが―――
「ごめんなさい。もう少し探したいわ。項羽様へお見せする為のものだもの。もっと考えて買いたいわ」
「承知しました。……マスター、楽しそうですね」
「そりゃそうよ。ここにいられるのも、そう長くはないだろうし。今だけでも楽しむわよ」
「……そう、ですか」
虞美人の言葉に、蘭陵王の手が止まる。
「降りてもいいのよ。彼女の目的が達成されれば、
「……人理を護る英霊としては、彼女の目的は必ず阻止しなければならないものでしょう。シュレイド異聞帯に絶えず顕れるサーヴァント達が、それを示しています」
一部の例外を除くが、異聞帯には必ずと言っていい程、抑止力に遣わされたサーヴァントが存在し、その異聞帯の切除を目指している。
だが、シュレイド異聞帯は他の異聞帯と比べて訳が違う。
これはあり得ない事だ。七つの異聞帯のどれにも適用されなかったそれが、シュレイド異聞帯にのみ適用されている。
蘭陵王もかつて項羽と協力して抑止力のサーヴァントを退去させた事があったが、そのサーヴァントがまた別の場所で召喚されていたと知った時は耳を疑った。
抑止力にそうさせる程の脅威―――それこそアンナ・ディストローツという女性であり、彼女やそのサーヴァント達が育てている古龍だ。
このまま彼女達を自由にさせていれば、文字通り
だが、それでも。
「ですが私は、貴女に忠誠を誓った身です。そして貴女は、アンナさんに協力している。ならば私は、それに従うまでです」
「……ありがとう、高長恭」
「いえ、これは貴女に召喚される前から決めていたことですので」
次の靴を探しに行こうとした瞬間、蘭陵王の足が止まる。
「……マスター」
「えぇ……わかってるわ」
蘭陵王が感じたものに、虞美人もまた気付いていた。
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「カドック」
「あぁ、わかってる」
そして、虞美人達から少し離れた場所にいたカドック達も、それに気付いていた。
シュレイド異聞帯で“我らの団”の護衛を
それは、値踏みするような視線だった。敵意こそ感じないものの、アナスタシアが一足目を試着した時から自分達に注がれていたそれが、より色濃くなったような感覚がした。
虞美人達もまたそれに気付いたのか、遠くからカドック達に視線を寄こしてくる。それに頷いたカドック達は、声を潜めた状態で会話を再開する。
「どうするの、マスター。ここでは戦えないわよ」
「敵意は感じない。この視線の大元も、ここで騒ぎを起こすつもりはないようだ」
「このままやり過ごす? それとも……」
「こっちから打って出る。敵意がないのなら、戦闘にはならないはずだ」
「わかったわ」
視線に敵意が含まれていない以上、なぜ自分達にそれを注ぐのかを知る必要がある。それが原因で状況が悪化する可能性もあるかもしれないが、少なくとも戦闘に派生する事はないはずだ。
意を決して彼らが振り向くと、サングラスの奥で今尚視線を注いでくる女性と目が合った。
視線の主はカドック達がこちらに振り向いたのを見て不敵に笑い、彼らと距離を縮めてくる。
(……あの足取り。只者じゃない)
対獣魔術を扱う家系に生まれ、現在は厳しい自然界が全体を占めるシュレイド異聞帯で生活したカドックは、その足取りに目を見張る。
人混みの中を縫うように歩くも、誰一人としてその体に触れられない。腰まで届く程に長い、風に靡く髪の毛でさえも、有象無象に触れられる事を避けているようだった。
それを彼女は、意識せずに行っている。いったいどんな生活をすれば、自然にあのような動きが出来るのだろうか。
「さっきの靴、似合ってたぜ。私が見てきた中でも上位に入る。けど―――」
数秒もしない内にカドック達の前に辿り着いた少女がサングラスを外し、口元を嘲笑に歪める。
「ハッ、残念。お母様の足元にも及ばねぇよッ!」
「なっ、妖精騎士トリスタン……ッ!? どうしてここに……」
「あ? 自分の経営する店に来ないオーナーがどこにいやがんだ。あと、ここでその名を口にしないで。今の私はトリスタンじゃない、この店のオーナーのバーヴァン・シーだ」
「その通りだとも」
「っ、カリアまで……」
いつの間にか背後に立っていたカリアは、自分に驚くカドック達を見ながら主に手を向ける。
「ここでのマスターは妖精騎士の肩書などなく、ただのバーヴァン・シーとして活動しているのだよ。だからそう警戒しないでくれたまえ。あと、声は出来るだけ控え目に」
切れ長の瞳を細めて唇の前に人差し指を立てるカリア。元々整った中性的な顔色も相まって一瞬だけ見惚れるカドックであったが、即座にアナスタシアに脇腹を小突かれて正気に戻る。
その間に、バーヴァン・シーは「チッ」と舌打ちする。
「テメェのその顔に客共が吸われてんだよッ! 気付けバカッ!」
「なんと……気が付かなかった。ありがとう、マスター。道理で美しき妖精や人間達が私に視線を向けるわけだ」
「わかってるくせに……。……おい、いつまで見てんだ。見せもんじゃねぇぞッ! あっ、出るんじゃねぇッ! ここに入ったってんなら少しは商品見てけッ!」
拳を振り上げて自分達を見る客達を威嚇するも、彼らが店から出そうになるや否やフェイルノートを巧みに操りドアを封鎖。逃げられなくなった客達はバーヴァン・シーに恐怖の感情を抱きながらも言う通りに商品を見始める。
その光景に「はぁ」と額に手を当てたのはカリアだ。
「マスター、今のやり方はいけない。そんな無理矢理なやり方ではこの店の評判に傷がついてしまうよ」
「チッ……おい、後は任せる。どうもこういったのは慣れねぇからな、後は頼んだぜ。あ、それ終わったらあそこにいる二人を連れて来いよ」
「やれやれ、我儘なマスターだ」
肩を持ち上げて苦笑するものの、すぐにカリアは客達の下へ向かっていく。
「おい、お前ら。ちょっと
人差し指を動かして誘ってくるバーヴァン・シーに言われるがまま、カドック達は彼女の後についていく。
一般客が立ち入れる場所を超え、バーヴァン・シーや彼女の許可を受けた者たちしか入れない部屋にやってきたカドック達の前で、彼女は壁際に設置されたガラスケースに近寄る。
「カドック。これは……」
「芥……いや、僕にもなにがなんだか……」
遅れてカリアに連れられてやってきた虞美人とカドックが話していると、バーヴァン・シーがガラスケースを開けた。
店に置かれてるものとはまた別の、完成度もかなり高い靴が並べられているそれらの中から、バーヴァン・シーは「よし、これだ」と幾つか取り出した。
「えっと、名前は……あぁ、アナスタシアと虞美人か。アイドルイベントで会ってたよな、覚えてるぜ。んじゃ、そこの椅子に座って、これ履いてみろ」
椅子に座ったアナスタシアと虞美人の前に、バーヴァン・シーがハイヒールとサンダルを置く。
言われるままにアナスタシアがハイヒールを、虞美人がサンダルを履くと、途端に目を見開いた。
「……凄いわね。これまで履いてきたものとは全然違う」
「そうね。デザインも良いし、履き心地も最高。……どうしてわかったの?」
「一目見りゃわかる。足運びとかもな。それを参考に選んだまでだ」
ここに連れてきたのは、あの店内に二人に合うものがないから―――自分用の椅子に腰かけたバーヴァン・シーに、虞美人が眉を吊り上げた。
「ほんの数分にも満たないあの時間で? ……凄いわね。私はともかく、アナスタシアはロングスカートよ? 足なんてまず見えないけど」
虞美人が隣に座るアナスタシアの足元を見る。
今の彼女の服装はいつものドレスではないが、足元をすっぽり覆い隠す程のロングスカートだ。足なんて、それこそスカートを捲らない限りわかるはずもない。
「あぁ、それか? こいつに叩き込まれた」
心底嫌そうな表情で隣に立つカリアを指差す。
「霧や豪雨、吹雪に熱風……まぁ色んな条件下でも相手の位置を把握できるようにしろって言われたんだ。人型であろうとそうでなかろうと、それが出来なきゃ話にすらならないってな」
「ちなみにその訓練の間、彼女にはずっと目隠しをして生活してもらっていたのだよ。最初こそ酷い有様だったのだが、今ではこの店内にいる客や店員の数と足音、その全てを把握できるようになっている」
「おい、やめろ。あの頃の事を思い出させるんじゃねぇ」
「すまないね、マスター。此度の現界で得た弟子だ。自慢したくなるのも当然だろう?」
「知らねぇよ。―――すまねぇ、話が逸れた。お前ら、靴のメンテナンスの経験は?」
「ないわね。そういうのはその手の専門家に任せていました」
「私も同様ね。そもそも、あまり靴を履く事がなかったし」
「……ちょっと待ってろ。あと靴は脱いどけ」
アナスタシアはともかくとして、虞美人の答えは思ってもみなかったのだろう。
彼女達に背を向け、机と向かい合ったバーヴァン・シーは手元に用意した羊皮紙に、傍に設置されている羽ペンでなにかを書き始める。
数分後、「よし」と小さく呟いて羽ペンを置いたバーヴァン・シーは、カリアに用意させた二枚の袋に一枚ずつ羊皮紙を入れ、次にアナスタシア達から受け取った靴を傷つかないよう丁寧に梱包した上で袋に入れてアナスタシアと虞美人に手渡す。
「いいか? さっきこの中にメンテナンスの手順を書いた羊皮紙を入れた。手順通りにやればいいが、材料とかは自分で買え。わからない事があったら店員か、お前らンとこにいるミス・クレーンにでも聞いとけ」
「貴女、優しいのね。辛辣で在ろうとしているようだけれど、節々に優しさが滲み出ているわよ?」
「ハッ、勘違いすんな。私はお前らを見てピンと来たから、それを渡しただけだ」
雑に扱ったら承知しねぇぞ―――カリアを伴い去っていく彼女の後ろ姿に、カドックは心中で呟く。
(妖精騎士トリスタン、いやバーヴァン・シー……。彼女は残酷な妖精だとは聞いていたが……)
ああして誰かに喜んでもらおうとする姿は、どこにでもいる、普通の少女のようだ―――そう思っていると、彼の肩をアナスタシアがつついた。
「なにを呆けているの? 早く戻りましょう?」
「……あぁ、そうだな」
頷き、カドックもまた踵を返して歩き出すのだった―――。
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「なるほど。そのような事があったのですね」
「えぇ、とても楽しかったです。彼女達に合う靴を見繕って、彼女達が喜ぶ姿を見るのが、本当に楽しくて、幸せで……」
罪都キャメロット。
天高く聳える城の一室では、バーヴァン・シーの話を聞いていたモルガンが微笑んでいた。
「そうですか。良い思い出が出来ましたね。これからはその思い出を大切にしなさい。ですが……」
「わかっています。誰かの役に立つのも程々に、でしょう?」
目元を俯かせるモルガンだったが、バーヴァン・シーはくすくすと笑って返す。
「安心してお母様。私は優しくも残酷なバーヴァン・シー。国民を慈しみ、同時に蔑む次期女王。ただ国民の為に身を削るような女王にはなりません」
「……ならば良いのです。……次のプレゼント、楽しみにしています」
「……っ、はいッ!」
心底から嬉しいように笑ってバーヴァン・シーが出ていき、モルガンは今自分の履いているヒールに触れる。
それは、彼女が初めて自分に贈ってくれたもの。丁寧に処置を施し、一切の汚れが付かないようにしたそれに軽く指を這わせ、思案に耽る。
彼女が笑顔でいてくれる。それは嬉しい。
カリアの影響を受けて真の邪悪に育つ事はなかったものの、それとは別の方向で育った彼女は、これまでの彼女達以上に強くなった。
さらには、彼女は公言しないものの、ライバルに感化されて自分と腹を割って話してくれた。お陰で今では先程のようにお互いに気楽に話せるようになった。
けれど、同時に不安も大きくなる。
この國が崩壊したとしても、バーヴァン・シーだけは護りたい。それは今でも変わらぬ願いであり、決意でもある。
けれど、もし。もし自分が、彼女を護れない立場に置かれていたとしたら。彼女のサーヴァントであるカリアが、彼女を護れないような状況になってしまったら。
いったい誰が、彼女を護ってくれるのか。
そこまで考え、モルガンはテーブルに置いていたチラシに視線を向ける。
(……アルム・カンパニー)
バーヴァン・シーが自分の店を持ち、より自分らしさを出せるようになった会社。
そこを経営する男とは、モルガンも面識がある。
まさしく、他者を導く才能を持った男だった。王者の才覚、と言ってもいいだろう。彼の周りには常に誰かがいて、その誰かは少しずつ数を増やしていく。そうして彼はその類稀なる才能を活用し、彼らを導いていくのだろう。
そんな彼の下に集った者達には、少なくとも悪人は存在しない。誰もが善で、そうでなくとも悪には染まらない者達だ。
(もし、私達が彼女を護れない時。その時には、彼らに……)
暫しの沈黙の後、モルガンは羽ペンを手に取った―――。
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後日、アルム・カンパニーに一つの手紙が届く。
ウッドワスが直々に手渡ししてきたそれを受け取ったプロフェッサー・Kが執務室で封を切り、綺麗な字で構成されている文章を読み込む。
『
バーヴァン・シーの件で話があります。
二日後伺いますので、その日は予定を開けておくように。
』
「カイ―――L。私、なにかしてしまったのかな……?」
「おう、ハデスの野郎によろしくな」
とりあえず二日後の予定は全てキャンセルして、念の為遺書も
・『アナスタシア』
……オシャレの為に来店。カドックやヴィイ達共に選んだ靴は、彼女の宝物となった。この後、時折その靴を履いてはショッピングに繰り出すようになった。
・『虞美人』
……購入後、早速項羽に見せに行った。項羽としては既に演算済みの光景であったのだが、それでも尚美しい虞美人の魅力に惚れ直す。虞美人は爆発した。
アンナの目的を知る数少ない人物の一人。
・『アンナの目的』
……抑止力によって、シュレイド異聞帯に多くのサーヴァントが召喚されるようななにか。虞美人と蘭陵王の会話によれば、彼女の目的が果たされた時、歴史に刻まれた英雄達の存在が消去されるらしい。
・『アルム・カンパニー(プロフェッサー・K)』
……バーヴァン・シーが自分の店を持つ際に協力した。お陰で彼女は妖精國の民達から『邪悪な妖精』のバーヴァン・シーではなく、『邪悪だけれどそれだけではない』バーヴァン・シーとして認識されるようになった。プロフェッサー・Kの人望とカリスマ性もあり、モルガンの評価はかなり高い。
バーヴァン・シーの特訓パートはいつか番外編で書いてみたいですねぇ。
それでは、また次回ッ!