【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 fgoがマクドナルドとコラボするという話を聞き、テンションが上がっているseven774です。

 今月はぐだぐだイベント、来月はクリスマスイベントもあり、さらに追加でマクドナルドコラボッ! 楽しみで仕方がありませんッ!
 孫一ちゃんかわいくて好き……。白髪マントキャラが大好きですので、ビジュを見た時は本当に嬉しかったですッ!

 また、オルガマリークエストにリトライ機能が追加されたそうですが、期間限定なのが辛いですね。ORT戦同様、常設してほしいぐらい楽しかったクエストだったので、いつか常設してくれたらと思っています。

 今回は妖精騎士達の話です。
 それではどうぞッ!


異変

 

 妖精騎士とは、女王直々に任命された者達である。

 國を護り、民を護り、女王を護る―――いずれ来る『厄災』にも対処せねばならない地位を持つ彼女達は、それ相応の実力を持たなければならない。

 

 しかし、いつ来るかもわからぬ災厄を待っていても埒が明かない。そして、満足な特訓相手がいなくては実力向上も望めないのだが、そのような相手がいても、必ず國のどこかが荒れ地になってしまう。

 

 ではどうすれば良いか―――かつての女王はそれに頭を悩ませ、そして思いついた。

 

 そうだ。それ専用の部屋(せかい)を作ってしまおうと。

 

 もちろん、本物の世界を作る事など不可能だ。如何に神域の魔術師であろうとも、それを成すには膨大な時間と魔力が必要だった。

 故に彼女が作ったのは、外見は何の変哲もない扉だった。

 だが、もちろんただの扉ではない。

 

 女王によって作られたその扉は、あらゆる環境をシミュレーションし、部屋に投射させるもの。さらに、部屋はモルガンによる空間拡張の魔術によって一つの島に近いレベルまで拡大されており、狭くて戦えないといった文句にも対処。

 追加として、特訓に使用する者が希望すれば、それを部屋に具現化させる。

 そして最後に、その場で起こった事象は、たとえ天変地異にも等しきものであろうとも部屋の中で起こったものとして処理され、戦闘が終了すれば元に戻る。

 

 そして今日、記念すべき使用回数1000回目のその部屋が作り出した世界は、荒野だった。

 

 

「シ―――ッ!」

 

 

 妖弦の調べが響き渡り、不可視の斬撃が空を駆ける。

 大空を翔る小さな標的目掛けて飛んでいく無数の斬撃だが、無数の光が瞬いたと思った瞬間、バーヴァン・シーの放った斬撃は搔き消され、逆に青白い流星が落ちてくる。

 

 

「チッ!」

 

 

 咄嗟に身を翻した直後、先程までバーヴァン・シーがいた地面に二つの斬撃痕が刻まれ、次いで圧倒的な速度で彼女(・ ・)が飛翔した影響で土埃が巻き上がる。

 目に埃が入らぬよう瞼を閉じたバーヴァン・シーだが、次の瞬間にはほぼ無意識に体が動き、自身の背後に向けて妖弦を奏でた。

 

 

「くっ! やはり気付くかッ!」

「デッケェ体だから足音がよく聞こえるぜッ!」

 

 

 大剣を両手で構えて斬撃を防いだ妖精騎士―――バーゲストがそのまま突進してくる。

 身長190cm、体重120kgという、妖精國全体を見ても類を見ない体格と鍛え上げられた筋肉が走る様は、正しく暴走機関車。大地を揺らす勢いで突き進んでくる質量の塊を前に、バーヴァン・シーは正面から迎え撃つのは不可能だと判断するも、迷う事無くバーゲストに向かって走り出した。

 

 

「喰らえッ!」

「喰らうかよ馬鹿ッ!」

 

 

 シールドのように構えた大剣が振るわれる直前、ジャンプしたバーヴァン・シーはそれを回避。さらにバーゲストの鎧を踏み台にして彼女の背後を取ると、がら空きの背中に向けて音波の斬撃を飛ばした。

 

 ガキンッ、と硬質な鎧に斬撃が直撃し、バーゲストがよろける。

 だがバーゲストもやられてばかりではなく、振り向きざまに左手から鎖を伸ばそうとするが、伸ばしかけた腕が途中で止まる。

 

 

「な―――これはッ!?」

「ちょいと空飛んで来いッ!」

「うぉおッ!?」

 

 

 音波を飛ばすと同時にバーゲストに赤い糸を結び付けていたバーヴァン・シーが、強化の魔術をかけた腕力で彼女を振り回し、ハンマー投げの要領で空に投げ飛ばした。

 上空に放り投げられたバーゲストは全身を広げてバランスを整えると、空の向こうから青白い光が迫ってくる事に気付く。

 

 

「っ、メリュジーヌッ!」

「ハァ―――ッ!」

 

 

 スラスターを噴射して速度を上げたメリュジーヌが、両腕に備えたアロンダイトの持ち手でパンチを繰り出した。

 即座に大剣を振るって右から来る持ち手を迎撃し、間を置かずに迫る左持ち手を小手で防ぐ。両腕の攻撃を防がれたメリュジーヌが次の攻撃を繰り出そうとするも、それより早くバーゲストが左手から伸ばした鎖で彼女を拘束した。

 

 拘束から逃れようとメリュジーヌがスラスターで加速し、遠心力でバーゲストを振り払おうとする。

 だがバーゲストも大人しく振り払われるはずがなく、鎖を手繰ってメリュジーヌに接近した。振り向いたメリュジーヌが身を捩るも、鎖で行動が制限されているのもあってバーゲストの攻撃を受けてしまい、両者揃って地面に落ちてくる。

 

 だが空中で攻撃を繰り出した分、鎖を握る力を緩めてしまったバーゲストの隙を突いて拘束から逃れたメリュジーヌが上空に逃げようとするが、逃がさないとばかりにバーゲストが追撃。撃墜されたメリュジーヌがバーゲストと共に態勢を立て直して着地した、次の瞬間―――

 

 

「え―――」

「な―――ッ!?」

 

 

 足元が、爆発した。

 

 あまりの火力と風圧に吹き飛ばされた二騎に、地上に残されていたバーヴァン・シーの攻撃が繰り出された。

 

 

 

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「魔術による地雷ですか。機転を利かせましたね」

「真っ向から戦っては苦戦する相手同士を戦わせ、自身は彼女達にはないスキルで低い攻撃面をカバーする。やるじゃないか」

 

 

 三騎による激闘を遠くで観戦していたモルガンとカリアは、着地したバーゲストとメリュジーヌを襲った爆発を見て感心する。

 

 

「マスターは攻撃力の面では二騎に劣るものの、魔術という知識がある。本来妖精には必要のない要素だが、上手く活用できてる」

「当然です。私が教えたものですから。ですが、初歩的な身体強化の魔術でバーゲストを投げ飛ばすとは……流石はバーヴァン・シー。我が愛しい娘です」

「フフッ、それはそうだろう? 魔術は貴女とベリルが教え、ボクはそれを最も活用できるタイミングを計れるスキルと肉体を鍛え上げた。いわば、汎人類史と異聞帯……いや、特異点のハイブリッドとも言える存在さ」

 

 

 バーゲストがバーヴァン・シーを攻撃するも、彼女はそれを回避しながら不意打ちを仕掛けようとしたメリュジーヌを牽制する。

 攻撃を受けたとしても直撃は避けるように努め、魔術を使用して自身の攻守能力を底上げしている。命をかけたものではない特訓だとしても、必死に頭を回転させて勝利を目指しているその姿は、モルガンの瞳には眩しく見えた。

 妖精騎士に任じられた時よりも圧倒的なフィジカルを獲得するも、今も尚研鑽を忘れぬバーヴァン・シーに、モルガンは誇らしさに胸をいっぱいにしていた。

 

 

 

「バーヴァン・シー……やはり貴女こそ、我が玉座を継ぐに相応しい」

 

 

 

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『そこまでです。戦闘を終了しなさい』

 

 

 妖精騎士達がしばらく戦い続けた後、荒野全体に響き渡るように調整されたモルガンの声が聞こえる。

 三騎が動きを止め、揃ってモルガンの方を見ると、彼女はカリアと共に満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

『お疲れ様でした。今から十分ほど、休息の時間を取ります。その間に体を休ませてください』

 

 

 モルガンが指を振れば三騎の前に椅子とテーブルとスポーツドリンク、そしてタオルが出現した。

 各々は椅子に座り、タオルで汗を拭った後にそれぞれに色分けされたスポーツドリンクに口をつけた。

 

 

「先程の魔術による地雷は驚きましたわ。メリュジーヌと戦っていた際に攻撃してこなかった時はなにかをしていると思ってはいましたが、流石にあれは予想出来ませんでしたわ」

「そりゃそうだ。なんせ今回初めて使ったからな。……ま、躱されたけどよ」

「そこまで卑下する必要はないさ。僕だって驚いたし、反撃されるとも思わなかった。圧勝、出来ると思ってたんだけどなぁ」

「また『僕は強いから』ってか? ハッ、馬鹿かテメェ。絶対テメェとバーゲストを倒して、私が一番になってやる」

「なんですって?」

「へぇ……?」

 

 

 胸を張って宣言したバーヴァン・シーに、バーゲストとメリュジーヌが目を細めた。

 

 

「宣言しましたわね、バーヴァン・シー。いいでしょう、貴女がその気ならばこちらも負けてはいられませんわ。(わたくし)だって、アドニスに誇れるような最強の妖精騎士になりたいのです」

「僕も同じだよ。僕や(ディスフィロア)を護って巨神と戦った、あの御方に自慢する為にもね」

「上等だッ! テメェら全員、次で倒してやんよ」

 

 

 胸に燃える決意に押されるままにバーヴァン・シーが立ち上がろうとし、

 

 

「―――あ?」

 

 

 自分が、椅子から崩れ落ちた事に気付いた。

 

 

「……どうしたの? バーヴァン・シー」

「先程の言葉は嘘ですの?」

「は? ンなわけあるかよ。見てろ、すぐに立ち上がって―――」

 

 

 再び立ち上がろうとして、口が閉ざされる。

 そして、あり得ないものを見るかのように自身の片足を見下ろし、試しにもう一度力を入れる。

 

 

「……立てた」

 

 

 今度は普通に、それこそが当然のようにバーヴァン・シーの右足はしっかりと役割を果たし、左足と共に彼女の体を支え始めた。

 

 

「? そんなの当たり前でしょ」

「いや、さっきも立とうとしたんだけどよ……なんか、立てなかった」

「……疲れている、というわけではなさそうですわね」

 

 

 バーヴァン・シーの異変に言い知れぬものを感じたのか、バーゲストが眉を顰めた。

 

 

「そんな感覚じゃなかった。もっと辛くて、不快な、気持ちの悪い感覚よ。―――カリアッ!」

 

 

 遠くでモルガンと会話していたサーヴァントの名を呼ぶ。

 すぐにこちらに向いたカリアはモルガンに一礼した後、主の前までやってきた。

 

 

「どうかしたのかい、我が親愛なるマスター?」

「なんだか体の様子が変なの。ほら、お母様のところへ連れて行きなさい」

「……まさか、その為にボクを?」

「お前、私の従者(サーヴァント)だろ? だったら(マスター)の命令に従うのは当然だよな?」

「やれやれ。時折思うけど、君は本当にボクの想像を超えてくるよ」

 

 

 渋々といった様子でこちらに背を向け、しゃがむカリア。彼女の背に遠慮なくバーヴァン・シーが乗ると、カリアは主の重さなどないかのような足取りでモルガンの前まで移動する。

 

 

「おかえりなさい、カリア。随分と早い帰還ですね」

「まさか、おぶってもらう為だけにサーヴァントを呼びつけるマスターがいるとは思わなかったよ。ボクは君のお目付け役兼サーヴァントであるけれど、お守りをしているわけではないのだけどね」

「うっせぇ。ほら、さっさと下ろせ」

 

 

 カリアの背から降ろしてもらい、バーヴァン・シーはモルガンの前に立つ。

 

 

「どうかしましたか、バーヴァン・シー」

「先程、体に不調を感じました。疲労とはまた違う感覚でしたので、念の為にお母様に確認して頂きたく……」

「不調、ですか。……バーヴァン・シー、手を」

「はい」

 

 

 片膝をつき、母親に自身の右手を差し出す。

 モルガンは白く細長い指で愛娘の手に触れ、同時に自身の瞳に詠唱を行わずに魔術をかける。

 愛娘の頭からじっくりと確認し始めたモルガンだったが、とある位置で視線を止めた。

 

 

(これは……)

「……その、私の胸になにか……?」

「っ、い、いえ。なんでもありません」

「……そう、ですか」

 

 

 なんでもない―――訳がなかった。

 モルガンの指先は、瞳は、愛する娘の不調の原因を既に探り当てていた。

 最強の狩人の一人であるカリア直々に訓練を受けた娘に、彼女の異変に動揺した気配を悟らせなかったのは、長年この國を維持し続けてきた成果だろう。モルガンは心中でこっそり、ここまでこの國を維持し続けた自分を褒めた。

 

 

「魔力の乱れが生じていますね。休暇を与えますので、しばらくは城の中で過ごして下さい。その間、妖精騎士の役目はカリアに命じます。出来ますね? カリア」

「それは『やれ』と言っているも同義ではないかな?」

「出来るのですか? 出来ないのですか?」

「……仰せのままに、女王陛下」

 

 

 鋭い光を帯びた瞳と共に放たれた威圧感に、狩人は大袈裟な仕草で承諾する。

 

 

「バーヴァン・シー。申し訳ありませんが、本日の訓練はこれで終了です。部屋に戻りなさい。後で私も向かいます」

「お、お母様自らですか? それなら私が……」

「良いのです。貴女に無理はしてほしくありませんからね」

「お母様……」

 

 

 母親の言葉に感激したように、バーヴァン・シーは大きく目を見開き、カリアを傍に置いて歩き出す。

 

 遠くで、新たな剣戟の音が聞こえ始める。

 恐らく、モルガンが残されていたメリュジーヌとバーゲストに訓練の再開を指示したのだろう。ジャラジャラと鎖が擦れる音と、ドンッと空気の壁を突き破る音が絶え間なく聞こえてきている。

 

 

『―――カリア。聞こえますか』

 

 

 主に付き添って歩くカリアの脳内に、背後にいるモルガンの声が響く。

 だが、自分が彼女から念話で声をかけられた事を周囲に悟らせないまま、カリアは心の中で女王に返事を返す。

 

 

『もちろんだよ、陛下。この念話、マスターには聞こえていないのかい?』

『はい。彼女とは別の経路から貴女に話しかけています。それで、話があるのですが……』

『マスターの不調について、だろう?』

『……気付いていましたか』

『マスターとサーヴァントは一蓮托生。主に変化が起きれば、従者であるボクにも伝わるさ。だが、こと魔術に関してボクは不得手でね。良ければご教授願えないだろうか』

『……バーヴァン・シーの魂が、腐り始めています』

「なに……?」

 

 

 そこで初めて、カリアの口から言葉が発せられてしまう。

 

 

「? どうかしたか?」

「あぁいや、なんでもないよ」

 

 

 咄嗟に誤魔化してから歩き出し、念話を再開する。

 

 

『魂が腐りかけているとは、なんともまぁ、恐ろしい話だ。原因は?』

『それに関してはまだなんとも。ですが、まともなものではないでしょう。……まだ体そのものが変化しているわけではありませんが、いずれは全身に魔力が行き渡らなくなり、最後には……』

 

 

 そこから先は想像もしたくないのか、モルガンの念話が途切れる。

 

 

『……なるほど。マスターに敢えて真実を告げなかったのは、それが原因か』

『本当なら、告げるべき内容です。今後の彼女に関わる問題ですから。ですが、私は彼女に辛い思いをさせたくない。未来に、恐怖を覚えさせたくありません……』

『治療は?』

『時間をかければ可能です。ですが、魂とは複雑なものですので、完治させる魔術や薬を構築するとなれば……どれだけ急いでも二週間はかかるでしょう』

 

 

 魂とは高度な情報ネットワークの集合体に近く、肉体を万全に動かす為の動力炉でもある。

 持ち主の全てを記録するもの故に、扱いも細心の注意を払わなければならない。手段や手順を一つでも誤れば、それだけで相手の魂を崩壊させかねない。

 

 まして、相手は自分が心から愛する娘だ。修復するのならば、完全な形にしたい。

 だからこその、二週間。稀代の天才魔術師のモルガンとしても、それ程の時間をかけてしまう程のもの。

 

 

『もちろん、分身にも作業を行わせます。ですが、どうしても娘から離れなければならない時はあります。カリア、その間、娘の様子を見てくれますか?』

『それはもちろんいいが、ベリルはどうする? 彼にもなにか手伝わせるかい?』

『ベリル……ですか』

 

 

 そこで、モルガンの声色が翳る。

 

 

『……あの男は、人間のお目付け役としてバーヴァン・シーに付けましたが、最近動向が掴めない時があります。彼に娘を任せるわけにはいきません』

『わかったよ。では、貴女がいない間、マスターの面倒は私が見よう。マズいと思ったらすぐ報告するので、安心したまえよ』

『ありがとうございます、カリア。……メリュジーヌとバーゲストが同時に相手から一本取りましたね。労いの言葉をかけに行きますので、後は頼みましたよ』

『あぁ、任された』

 

 

 念話が終了し、隣を歩くバーヴァン・シーに気付かれないように小さく息を吐く。

 

 

「……なぁ、カリア」

「ん、なんだい? マスター」

「私、大丈夫よね? これから先も、お母様の役に立てるわよね……?」

 

 

 怯えているような声。

 決してこちらを見ようとはしていないが、軽く握り締められた拳は震えている。カリアはそっと彼女の拳に触れ、主の震えを止める。

 

 

「大丈夫さ、我がマスター。君はまた立ち上がれる、必ずね」

「どうして、断言できるの……?」

 

 

 バーヴァン・シーが視線を動かし、カリアを潤んだ瞳で見つめる。

 

 

「君には、ボクにはないものがある。ボクが最期まで他者に抱かなかったそれ(・ ・)を、君が持っているからさ」

「なによ、それ(・ ・)って」

「それは……」

 

 

 いったい、どんな答えが返ってくるのだろう。

 黙って自分の答えを待つ主だったが、従者に人差し指を唇に押し当てられ、硬直する。

 

 

「ふふっ、秘密さ」

「…………は?」

 

 

 拍子抜けしたバーヴァン・シーより前に数歩踏み出し、両腕を大きく広げる。

 

 

「それは自分で気付くものさッ! 従者に教わる程のものでもないのだから、秘密だッ! ハハハハハッ!」

「―――こ……ンの野郎ッ!」

「う……っ!」

 

 

 バーヴァン・シー渾身のパンチが直撃し、カリアの口から苦悶の声が漏れる。

 

 

「テメェって奴は……ホンット変わんねぇなッ! 普通教えるところだろここはッ!」

「いやいや、本当に私から教わる程のものではないのだがねぇ……」

「あッ!? それがわかんねぇ私はテメェ以下だって言いてぇのかッ!?」

「いや、そういうわけでは……あるねぇッ!」

「なんだその顔ッ! 馬鹿にしやがってッ!」

 

 

 心底から煽るような、人を食った表情のカリアを殴り飛ばす。

 

 

「ったく、私が真剣に悩んでるってのによ……」

「悩むのも大切なのだけどね。それで心を追い詰めすぎるのは頂けない」

 

 

 天井にめり込んだ頭部からくぐもった声が聞こえる。

 

 

「んだよ、テメェみてぇにヘラヘラしてろってか?」

「ボクみたいになれというわけではないさ。寧ろ反面教師として扱ってほしいところだ」

 

 

 両手で天井を押して頭部を引き抜き、バーヴァン・シーの隣に降り立つ。

 

 

「君は陛下から大切にされている。役に立つ立たないに関わらず、ね。ならば、彼女にもう一度笑顔を見せられるように安静にする事こそ、今の君がすべき事だと思うよ」

「カリア……」

 

 

 己のサーヴァントを見上げる。

 女性としては平均よりも大きな自分よりも頭一つ程大きい彼女は、いつもの飄々とした笑みを崩さずにいる。

 召喚した当初から変わらぬその顔は、あらゆる逆境を跳ね退ける自信の表れのよう。

 だがそんな顔をしている彼女だからこそ、バーヴァン・シーは彼女を召喚できてよかったと思っている。

 

 

「……ありがとよ

「どういたしまして、親愛なる主よ」

「そこは聞こえないフリしとけよバカ」

 

 

 脇腹を小突いて歩き出す主を見て、サーヴァントは脇腹を摩りながらもフッと微笑んだ。

 

 

(やはり君は、その顔が一番だよ)

 

 

 この國の姫君が浮かべた笑みを護るべく、従者は女王より与えられた使命を果たそうと決意するのだった。

 

 

 

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 一方その頃、エディンバラでは。

 

 

「お望みの品はこれでよかったかしら?」

「えぇ。むしろちょっと多いくらいよ。いいのかしら、伯爵?」

「ふふふっ、アナタはKのアイドルイベントを盛り上げてくれたのだもの。これぐらいはしなきゃね。……それじゃあ、私達はこれで帰るわね。まだ仕事が残ってるのよ」

「わかったわ。ありがとね」

 

 

 尊大な態度を崩さぬ“王”の氏族の長であるノクナレアに見送られたペペロン伯爵―――ペペロンチーノは、自らのサーヴァントであるアシュヴァッターマンを伴って歩いていた。

 

 

「わざわざ出向く必要、あったか?」

「いいじゃない。今日は休みだったけど、たまには体を動かさないとね。アナタも、慣れない事務作業よりこうして外に出る方がいいでしょ?」

「まぁ嫌ではねぇけどよ」

「あぁ、そういえばインテリ系だったわね。アナタって」

「なんだその顔。俺にインテリは似合わねぇって言いてぇのか?」

「違うわよ。強くて賢い、魅力的な男だと思ってるの」

「ハハッ、嬉しい事言うじゃねぇか」

 

 

 

 衛兵達にも見送られ、外に出る。

 この後は特に用事もないので、ノリッジに戻るか、道中にグロスターによってアンナ達の顔を見に行こうか―――と考えていたその時、ペペロンチーノは遠くに複数の人影がある事に気付いた。

 

 最初こそ先程までの自分達のように、エディンバラに用事がある妖精達だと思っていたのだが、徐々にそれが明確に見えてくるにつれ、眉間に皺が寄っていく。

 

 

「あれは……ベリルに、立香ちゃん達ね。こんなところでなにを―――」

 

 

 遠くに見える無数の人影。

 ペペロンチーノが眉を顰めていると、その影の一つだったベリルがなにかを叫ぶ。瞬間、不吉な気配と共に魔力が解き放たれ、彼の前にいた立香達が瞬く間にその姿を消してしまった。

 

 驚くべき光景に目を見開くペペロンチーノだが、そんな彼女の存在に気付かぬベリルは意気揚々とした様子で、残されたマシュになにかを告げている。

 それに対してマシュがベリルを殴り飛ばそうとするも、彼はその攻撃を軽々と回避するや否や、足元から立ち上った黒い靄に包まれた後に消えた。

 

 

「おい、マスター。今のは……」

「ごめん、少し待って」

 

 

 アシュヴァッターマンの口を止め、顎に指を添えて頭を回転させ始める。

 

 ベリルが持っていた道具は、明らかに現代の魔術師が作れる代物ではなかった。

 詳細まではわからずとも、碌なものではない事は即座に見抜けた。それこそ、使用者にもなにかしらの代償が発生してもおかしくない程のもの。

 しかし、ベリルはそれを使用したにも関わらずにピンピンしていた。

 

 なぜか―――と思うも、ペペロンチーノは既にその仕組みも見抜いていた。

 ベリルの手元にある道具を注視した際に、そこから幾重も連なる魔力の糸が伸びているのが視えたのだ。恐らく、本来自身が支払うはずの魔力を、不特定多数の誰かに肩代わりさせているのだろう。

 

 だが、甘い。

 自分の思惑が上手くいった事で油断したのだろう。彼の向かう先など、その手にある道具から伸びる糸を遡っていけばすぐにわかる。

 

 既に姿を消しているとしても、ペペロンチーノは魔力の糸がどこから伸びていたのかをしっかりと記憶している。

 

 

「アシュヴァッターマン。この先になにがあるかわかる?」

「確かこの先は……あぁ、ニュー・ダーリントンだ」

「ニュー・ダーリントン……。あのきな臭い場所ね」

 

 

 かつて、紅い光と共に現れた巨大な蟲によって滅ぼされたという記録が残っているという廃墟。

 立香達を消滅させたベリルがそこへ向かうのなら、今自分達が取るべき行動は一つだ。

 

 一歩踏み出そうとして―――しかしそこで、己の足が止まった。

 

 なにが、と思い見下ろしてみると、無意識に自分の足が震えていた。

 そして、悟る。なぜ、自分の足が震えているのかを。

 

 なぜ自分が、あの場所に行く事を恐れているのかを。

 

 

(……そう。これが、私の最期(・ ・)ってわけね)

「どうした」

「……いいえ、なんでもないわ。マシュちゃんの所に行きましょ。あの子も連れて行かないとね」

 

 

 生まれた時から知っていたとはいえ、いざそれが近いと感じて恐怖するなんてね―――ペペロンチーノは胸に諦観と、片隅に少量の恐怖を抱いて歩き出した。

 




 
・『モルガンの作った部屋』
 ……カルデアのシミュレーションルームに近い。特訓用にも使えるし、お茶会にも使える優れもの。ハリーポッターの必要の部屋のようなものだと思っていただければ。

・『カリアが特訓に参加しなかった理由』
 ……最初こそ参加するつもりだったが、参加した場合途中で自分を抑えきれなくなると考え直したため辞退。

・『モルガン』
 ……娘が滅茶苦茶努力してて滅茶苦茶嬉しい。それはそれとして魂が腐っている事を知り絶望。分身総動員で治療法を構築中。

・『カリア』
 ……バーヴァン・シーの異変を知り、モルガンがいない間は彼女の介護を務める事となった。この間、バーヴァン・シーが勤めていた妖精騎士としての役割が彼女が担当する。

・『ベリル』
 ……モルガンからの信頼を失うが、本人は気付いていない。原作ではバーヴァン・シーに使わせた『失意の庭』を、ニュー・ダーリントンにいる実験体達に魔力を肩代わりさせて使用した。

・『ペペロンチーノ』
 ……自らの最期を悟る。


 それではまた次回ッ!
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