【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 クリスマスイベントでシナリオにぶん殴られ、序盤のアナウンスやマーリンのセリフなどで一気に物語の核心に近づいた事に歓喜したseven774です。

 自分のプレイ時にはマーリンのセリフから冬木に残っているオルタの事は色々考察が頭mに浮かびましたが、アナウンスについては見過ごしていたのですが、Xを見て気付きました。終盤までは『ストーリーのクオリティはこれまでのクリスマスイベントと同じぐらいかな』程度に考えていたのですが、終盤に入ってからは『あ、これはきのこでしか書けないわ』となりました。

 また、最近友人をfateの沼に引きずり込み始めました。現在はsnを視聴させ、次にUBWとHF、その後zeroを見せようかと思っています。サムライレムナントも現在ダウンロード版が25%offなので、私のものをお試しプレイさせながら魅力を語りました。
 これを機にfgoプレイヤーがまた一人増えてくれたら嬉しいですねぇ。

 今回は今年最後の更新、アシュヴァッターマンVSベリルです。

 それではどうぞッ!


守護者となる者

 

 不思議な感覚だ―――戦いの中、アシュヴァッターマンは頭の片隅でぼんやりと考える。

 

 怒りのままに戦う。それはサーヴァントの枠組みに当てられる前から、自分の象徴ともいえるものだった。

 ペペロンチーノの為に戦う。定められた彼の運命に反逆する。

 ―――それは事実だ。疑いようのない事実そのものだ。

 

 けれども、それとは違うなにかが、自分を動かしている。

 

 自分の怒りでも、主の令呪でもない『なにか』。目に見えない大きな力が、自分の体を突き動かしている。

 

 普通なら気味が悪く思うだろう。けれどなぜか、その大きな力には不吉なものを感じず、この体もまた、それに従っている。

 

 これはまるで、世界そのものに動かされているような―――。

 

 

「オォッ!」

「ハァッ!」

 

 

 拳と拳がぶつかり合い、衝撃波を発生させる。

 アシュヴァッターマンの炎と、ベリルの悍ましい靄。それが互いを喰らい合うように拮抗し、やがて反発したように両者を弾き飛ばした。

 

 

「チッ!」

「邪魔するな―――よッ!」

 

 

 開いた掌から放たれた光線が、一直線にアシュヴァッターマンへと向かう。

 避けるのは容易いが、そうしてしまえば背後にいるペペロンチーノ達に光線が行くと判断したアシュヴァッターマンは、チャクラムを振るって光線を弾いた。

 弾かれて霧散していく光線の残滓の奥から迫る影にアシュヴァッターマンが防御しようとするが、それより早く動いたベリルのサマーソルトが彼の顎を捉えた。

 

 

「ガ……ッ!」

 

 

 強力な攻撃に脳を揺さぶられ隙を晒した体に、至近距離から無数の魔力弾を叩き込まれる。

 吹き飛ばされたところにベリルがさらに追撃を加えようと走り出すが、アシュヴァッターマンは咄嗟に両足で円を描くように足払いを行って牽制し、勢いに身を委ねて態勢を立て直した。

 

 

「やるじゃねぇか……その力、どっから引き出しやがった」

「利害の一致ってやつさ。お陰で、お前みたいなサーヴァントともまともにやり合える」

 

 

 軽く拳を握って力を込めれば、ベリルの体から赤黒い魔力の靄が立ち昇る。

 その力にアシュヴァッターマンが不吉な気配を覚えていると、「無駄話はよそう」とベリルが言う。

 

 

「お前にかける時間はないんだ。俺は早くマシュに会いに行きたいんだよ。大人しく引っ込んでろ」

「ハッ、馬鹿が。俺が『はいそうですか』と言うとでも思ってんのか?」

「ククッ……そんなわけねぇだろッ!」

 

 

 靄の勢いを増して突っ込んでくるベリルを、アシュヴァッターマンはチャクラムを消して迎え撃つ。

 チャクラムという武器を消滅させた事で自由になった両腕の内、右腕で突き出された拳を受け流し、左手を胸倉を掴む。

 そのままベリルの勢いを殺さぬまま、彼を勢い良く投げ飛ばした。

 

 自分の勢いをそのまま利用された影響で背中を地面に叩きつけられ、肺から酸素を吐き出して喘ぐベリルに馬乗りになり拳で顔面を殴りつける。

 

 火炎を纏った拳による殴打がベリルの頬を絶えず捉えるが、彼もまた全身から靄を放出してアシュヴァッターマンを吹き飛ばし、立ち上がると同時に両手から魔力弾を発射。

 しかしアシュヴァッターマンも徒手空拳で魔力弾を弾き、最後の一発を握り潰した瞬間に走り出す。

 

 

「オラァッ!」

「シャァッ!」

 

 

 アシュヴァッターマンの足とベリルの拳が激突し、間髪入れずに繰り出された攻撃が両者を押し切ろうとし始める。

 

 振り抜かれた拳がアシュヴァッターマンの頬を切り、下から飛んできた足蹴りがベリルの皮を削り取る。至近距離から光線を撃とうとしていた右手を発射寸前で逸らし、その隙に胸に拳を叩き込む。吐き出された息を無理矢理吸い込んだベリルが靄を纏った左足を振るえば、アシュヴァッターマンは片腕で防御の構えを取って受け止められるも、ベリルは攻撃を受け止められた反動を利用して距離を取る。

 開いた距離を縮めようとアシュヴァッターマンが両足のバネを使って動こうとするが、ベリルは迎え撃つという手段は取らず、代わりに左へ跳躍。

 残像すら残さぬ勢いで動いたベリルは、その獅子に近い外見には似合わぬ狼が如き動きで教会内を跳び回り始める。

 

 

「ちょこまかと―――グォッ!?」

「ほらほらどうしたァッ! 英霊サマってのはこんなもんかァッ!?」

 

 

 素早い身のこなしで自分を掴もうとするアシュヴァッターマンの腕を潜り抜けて一閃。鋭い爪が生え揃い、靄による強化を受けた一撃はアシュヴァッターマンの体に深い切り傷を与え、血が噴き出す。

 アシュヴァッターマンも出現させたチャクラムを構えて迎撃するが、加速して威力を上げたベリルの攻撃はチャクラム越しにも彼にダメージを与え、後退させていく。

 

 

「グ、ぁ……ッ!」

 

 

 そして遂に、ベリルの右足がアシュヴァッターマンの鳩尾に突き刺さり、チャクラムを取り落としたアシュヴァッターマンが苦悶の声を上げて崩れ落ちた。

 

 

(獲った―――ッ! これで終いだッ!!)

 

 

 明確な隙。恐ろしいチャクラムも手元から離れており、反撃のリーチも心配する必要はない。仮に反撃してきたとしても、それより早く動ける自分ならば潜り抜けられる。

 

 これまでよりも力を込めての疾走。勝利の確信と共に相手の頭部を粉砕すべくベリルが拳を振り抜くが―――

 

 

「―――ッ!!」

「なッ―――ァアアアアアアァァアァッ!!!?」

 

 

 バキッ、と嫌な音が響き渡り、勝利の笑みを浮かべていたベリルの顔が苦痛に歪んだ。

 

 

「テメェの動き―――覚えたぜッ!」

 

 

 自分の顔面に拳が届く直前に左手で受け止め、一秒の間も開けずに右手で腕の骨を圧し折ったアシュヴァッターマンが立ち上がり、ヘッドバッド。鼻がへしゃげたベリルがくぐもった呻き声を漏らしている間に立ち上がったアシュヴァッターマンが、お返しとばかりに拳を鳩尾へ叩き込んだ。

 

 殴り飛ばされたベリルが頭を振りながら立ち上がったが、顔を上げた彼の前には、チャクラムを振り上げたアシュヴァッターマンの姿があった。

 

 脳天に叩きつけられたチャクラムにベリルの頭が真っ白になり、その隙を突いて繰り出されたチャクラムの追撃で弾き飛ばされた。そして一気に距離を縮めたアシュヴァッターマンが拳を振るうが、ベリルは間一髪で回避。すれ違いざまにアシュヴァッターマンを攻撃しようとするが、彼はベリルの攻撃を受け止め、投げ飛ばした。

 

 

「チィッ、この―――ッ!」

「ハッ、当たるかよッ!」

 

 

 地面を抉り取って走り出したベリルが靄を纏った両拳で殴り掛かろうとするも、アシュヴァッターマンは彼の攻撃全てを回避してカウンターを叩き込んだのだった。

 

 

 

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「す、凄い……。あの人、完全に動きを見切ってる……」

 

 

 炎と靄が何度もぶつかり合い、その度に衝撃波を起こす両者の戦いに、扉の影から覗いていたアルトリアが呆然と見つめている。

 

 

「やっぱり凄いなぁ、アシュヴァッターマン……」

「カルデアにもアシュヴァッターマンさんは召喚されていますが……。なんでしょうか、今の彼にはカルデア側(こちら)の彼にはないようななにかを感じます……」

 

 

 アルトリアの上から覗く形で戦いを見ていた立香も、自分が召喚した彼ではなくとも、アシュヴァッターマンの強さを改めて再認識し、マシュもまた目の前で戦う彼の勇ましさに息を呑んでいた。

 三人とも、戦況が大きく彼に傾いたと確信しており、口元には小さく笑みが浮かんでいる。

 

 

(なにかしら……この感覚)

 

 

 しかし、彼女らと同様に僅かに開けた扉の隙間からアシュヴァッターマンとベリルの戦闘を観察していたペペロンチーノだけは、己の内に渦巻く不安感に眉を顰めていた。

 

 いったいどこでそんな力を身に着けたのか、ベリルは最強の戦士として名高いアシュヴァッターマンと互角に渡り合っている。だが、生前も含め、多くの戦いの経験値を積んだ事もあってか、僅かにだが戦況はアシュヴァッターマンの方に傾いている。

 このまま押し切れれば勝てる―――そう思った矢先に、ペペロンチーノの胸に言い知れぬ不安感が芽生えたのだ。

 

 

「アシュヴァッターマンさん、このまま勝てるでしょうか……」

「勝てるわよ。だけどそうね……。託した手前、こう言うのは憚れるけど……少し難しくなりそうね」

「それはどういう……」

「わからないわ。けど、なにか嫌な予感がするのよね」

 

 

 自分の下から顔を覗かせている立香の疑問に答えながら瞳を細める。

 

 このままいけば間違いなくアシュヴァッターマンは勝利する。だがベリルの戦い方を見るに、まだなにか隠しているような予感がする。

 狡猾な性格の彼の事だ。恐らく、この状況を打破するに足る手札を隠しているに違いない。最悪の場合、アシュヴァッターマンどころか、自分達さえも死ぬ可能性がある程の。

 

 そして、こういう時に感じる不吉な予感は、大抵現実になる。

 

 

「……立香ちゃん。ちょっと手伝ってくれる?」

 

 

 

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 光線を撃つべく開かれた掌を弾き、握り拳を作る。

 

 

「ドォオリャアッ!!」

「ぐぉ……ッ!?」

 

 

 腰溜めに構えた拳が鳩尾に突き刺さり、胃液が混じった唾液を吐き出したベリル。しかし、彼もただ殴られるだけではなく、追撃に振るわれた拳を受け止めて右足でアシュヴァッターマンを蹴り飛ばした。

 空中で態勢を立て直そうとするアシュヴァッターマン目掛け光線を放ち、さらに距離を開かせる。

 

 

「テメェ……ッ!」

 

 

 アシュヴァッターマンの猛攻に耐えかねたのか、跳躍して彼から距離を取ったベリルが拳を掲げる。

 なにをするのかと身構えるアシュヴァッターマンに、突き上げられた拳にどす黒い血のような光を宿したベリルがニタリと笑う。

 

 

「猟奇固有結界・レッド―――」

 

 

 己という魔術師が修める技の中でも最上位にして奥の手を使おうとした、その瞬間だった。

 

 

「―――破ッ!」

 

 

 扉を蹴り破って飛び出してきたペペロンチーノが掌から飛ばした魔術がベリルの行動を阻害し、彼の拳に宿っていた光が霧散する。

 

 

「は、ペペッ!?」

「立香ちゃんお願いッ!」

「ガンドッ!」

 

 

 不意を突くように繰り出された魔術で奥の手を封じられたベリルに、次いでペペロンチーノに追随する形で出てきた立香が指先から放った呪いの弾丸が、その胸元に着弾した。

 

 

「な、なんだとぉ……ッ!?」

「決めて、アシュヴァッターマンッ!」

「応ッ!」

 

 

 全身が痺れたように動けなくなったベリルに、主からの指示を受けたアシュヴァッターマンが接近し、アッパーカットを繰り出す。

 身動きが取れないために的確に顎に直撃した拳は、自身よりも大きなベリルの体を高く打ち上げ、次いでアシュヴァッターマンはチャクラムを構えて跳躍。

 チャクラムによる追撃でベリルを床に叩きつけ、そのまま回転させる。

 

 

「ぐぉあぁああッ!!?」

「受けやがれ、これが俺のォ―――全力だァアッ!!!」

 

 

 ギャリギャリギャリッッ、と硬質な体表が削り取られる痛みに絶叫するベリルを、チャクラムごと蹴り飛ばす。

 

 

「疾走するがいい―――転輪よ、憤炎を巻き起こせ(スダルシャンチャクラ・ヤムラージ)ッ!!」

 

 

 今の自分が引き出せる最大火力。己を構成する魔力を注ぎ込まれて膨れ上がった炎は、宝具の名を叫んだアシュヴァッターマンが繰り出した拳によって大爆発を起こした。

 

 

(冗談じゃねぇ……こんなところでェエエエッッ!!)

 

 

 声を上げる喉は焼かれ、ただ燃え盛る火炎に悶えるしかできないベリルは、心中でそう叫びながら姿を消すのだった―――。

 

 

 

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 アシュヴァッターマンの宝具の余波によって倒壊した教会。

 崩落に巻き込まれない内に立香達を連れて脱出したペペロンチーノは、遠くに己のサーヴァントの姿を見た。

 

 

「よぉ、マスター」

「アシュヴァッターマン……」

 

 

 瓦礫に背を預けたサーヴァントは、自らを見下ろすマスターを見て笑う。

 

 

「そんな(ツラ)すんなよ。見せ場を奪っちまったのはすまねぇが、マスター(おまえ)を死なせるわけにはいかねぇからな」

「……いいの。だって、貴方はそういう人だもの」

 

 

 どこかで予感していた。

 自分一人であれば、こうはならなかった。誰にも邪魔されず、邪魔させず、この命を使い果たせただろう。その現実も、きっとどこかの世界ではあったはずだ。

 しかし、ここに立つ自分は違った。

 

 自分には、彼がいた。アシュヴァッターマンがいた。

 

 彼は言った。

 マスターを死なせるサーヴァントがどこにいるのだと。

 

 故に彼は奪った。マスターの終着点を。

 故に彼は戦った。マスターの命を護る為に。

 

 彼こそ英雄。彼こそ英霊。

 勇ましき最強の戦士(クシャトリヤ)―――アシュヴァッターマン。

 

 

「ありがとう、アシュヴァッターマン。インドで私の召喚に応えてくれて……私達を護ってくれて……」

「……ハッ、そんなぐしゃぐしゃな顔で言われちゃあ、敵わねぇな」

 

 

 こいつの為なら、また呪いによって3000年、森林を彷徨っても構わない。

 胸がすくような清々しい表情で、アシュヴァッターマンは主を見上げる。

 

 

「じゃあな、ペペロンチーノ。お前は、最高のマスターだったぜ」

「さようなら、アシュヴァッターマン。貴方は私の―――最高の相棒よ」

 

 

 サムズアップし、太陽のように笑った漢は、その身を光へと変えて消えていった。

 なにも言わず、かつて相棒を構成していた光の粒子が空に立ち上っていくのを見つめるペペロンチーノは、最後の一粒が世界に溶け込むように消えるのを見届けると、瞼を閉じて「はぁ」と息を吐いた。

 

 

「あの……ペペロンチーノさん」

「…………あぁ、マシュちゃん」

 

 

 背後から声をかけられて振り向く。

 

 

「助けていただき、ありがとうございます。貴女やアシュヴァッターマンさんがいらっしゃらなければ、今頃私達は……」

「いいのよ。これが今やるべき事だって思っただけだもの」

 

 

 自分達を護って退去したアシュヴァッターマンに感謝の言葉を告げてきたマシュに手を振って返す。

 

 

「さ、早く行きなさい。……あぁ待ってッ! これだけは聞いて」

 

 

 頷いて踵を返そうとした立香達を、ペペロンチーノは慌てて止める。

 

 

「この世界での本当の敵は、モルガンじゃない。アナタ達の本当の敵は、“終わらせよう”としている誰か。ベリルもきっと、その『誰か』と組んでたはずよ。決して忘れないで、肝に銘じておきなさい。最後の最後まで、油断しないでね?」

「私達の、本当の敵……ありがとう、ペペロンチーノさんッ! さぁ、マシュ、アルトリア、行こうッ!」

「……はい。ありがとうございました、ペペロンチーノさんッ!」

 

 

 踵を返し、立香達が歩き出す。

 その背が小さくなるまで静かに見送っていると、唐突に目の前に翼を広げた女性が降り立った。

 

 

「ペペッ!」

「きゃっ、ビックリッ! もう、脅かさないでよアンナ……」

「いったいなにがあったの? さっき立香ちゃん達が見えたけど……。それに、この教会……」

「……そうね。貴女には話した方がいいわね」

 

 

 背後にある教会の残骸を訝し気に見つめているアンナに、ペペロンチーノは話し始める。

 不可思議な魔術品を使ったベリルによって囚われた立香達の事。

 彼女達を救い出した自分達を襲った、ベリルによる卑劣な作戦の事。

 呪いを帯びた憐れな者達を引き受けようとした自分に代わって、アシュヴァッターマンが彼らを倒してくれた事。

 自らの失敗を悟ったベリルが逃げた事。

 呪いによって霊基が崩れたアシュヴァッターマンと最後の会話をし、見送った事。

 

 彼女から話を聞き終えたアンナは「……そっか」と小さく呟き、目元を伏せた。

 

 

「彼は、護ってくれたんだね。君達を……」

 

 

 ペペロンチーノを通り過ぎたアンナは、その場に両膝をついて手を組み合わせ、瞼を閉じた。

 

 既に死した存在。仮初の肉体を与えられた、本体(オリジナル)には程遠い劣化コピー。しかし、確かに彼はそこにいたのだと強く心に刻みつけるかのように黙祷を捧げる彼女の姿は、崩壊した教会も相俟って幻想的であり、美しい。

 

 ―――しかし、だからこそ。

 

 

「アンナ」

 

 

 黙祷を終えた彼女の背に声をかける。

 

 

「私、最初は諦めてたの。『あぁ、ここで私は終わるのね』って。だけど、彼に助けてもらって、その最期は来なかった。……でもきっと、“本当の最期”はいつか必ずやってくる。その時がいつなのかはまだわからないけど……これだけは確実に言えるわ」

 

 

 振り向き、じっと自分を見つめている彼女に、ペペロンチーノは告げる。

 

 

「アンナ。私はいずれ、貴女と敵対するわ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。どんな手段を使ってでも、貴女の目的を潰す。それが、これからの私の目標よ」

 

 

 宣言するペペロンチーノに、アンナは驚愕したように目を見開いた。

 しかし、彼女はすぐに表情を変え、小さく微笑んだ。

 

 

「随分と、ダイレクトな宣言をするのね」

「これは私なりのやり方。貴女には不意打ちより、真正面から言った方がいいと思ったから」

「へぇ。それなら―――ここで殺されても文句は言えないわね」

「―――ッッ!! か、ハ……ッ!?」

 

 

 アンナが瞳を細めた瞬間、胸を貫かれたような感覚がペペロンチーノを襲った。

 

 だがしかし、思わず自分の胸に手を当ててみるも、そこには何の異変も起きていない。

 

 

「これでも、私と敵対するつもりかしら」

 

 

 荒い息に肩を激しく上下させ、額からは脂汗が滝のように流れる。

 足がまともに機能せずに、無様にその地に崩れ落ちる。

 

 

(こ、これが……“祖龍”の力の片鱗……。凄まじいわね……っ)

「答えなさい、妙漣寺鴉郎。これでも、この私と戦う?」

「……っ」

 

 

 間違いなく、殺されていた。

 これまでの自分との関係。自分達の間で育まれた絆。その全てを、この一瞬で消し去ってしまえる程の殺気。

 

 ただの殺気ならば、ペペロンチーノには効かない。しかし、アンナの放つそれは並みのものではなかった。

 

 ―――敵対する相手には容赦しない。一切の躊躇なく、殺し尽くす。

 自然界の頂点に君臨する者だからこそ、その摂理から外れない。

 己の為であるならば、あらゆる敵を粉砕し、突き進むのみ。

 

 しかし、それでも―――

 

 

「……えぇ、戦うわ。これが、託された私の役目だもの」

 

 

 その男は、立ち上がった。震える足を奮い立たせて、今にも崩れ落ちそうになりながらも、己の足で大地に立った。

 

 

「そう。それなら……」

 

 

 ゆっくりと近づいてきたアンナに身構えるペペロンチーノだが、彼女が手を差し伸ばしてきたのを見て目を丸くする。

 

 

「その時が来るまで、仲良くしましょう? 貴女はとても素晴らしい人間だわ。いつか敵対するとわかっていても、ここで始末するのは惜しいと思えるくらい」

「……ここで、貴女に反撃するかもしれないのに?」

「なら、それより早く殺すだけよ。私はアルテミット・ワン。この惑星(ほし)において、私は最強なのだから」

 

 

 ただ聞くだけならば傲慢な言葉だが、彼女のそれは自分の実力を確信しているからこその自信の表れ。

 

 しかし、ペペロンチーノの心はそれでも折れない。

 

 

「……貴女って凄い人ね」

「龍だよ、私は。本当に凄いのは、君みたいな人間。だから私は、シュレイド異聞帯をこの惑星(ほし)に定着させるの」

「だったら、それを止めてみせるわ。たとえそれが、人類を救うものであったとしても(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。だから―――」

 

 

 ―――その助けは、いらないわ。

 

 差し出された手を取らず、ペペロンチーノは歩き出す。

 その様子に呆気に取られたものの、彼女は口角を上げ、笑った。

 

 

「素敵ね、妙漣寺君。やはり人間とは、こういうものでなければ」

 

 

 でも、私にも譲れないものはあるのだ―――心で呟き、“祖龍”もまた歩き出した。

 

 





・『アシュヴァッターマン』
 ……令呪や自分の意志とは違う、別のなにかに突き動かされるようにベリルと交戦するも、宝具を使用して消滅した。しかし、彼の尽力によってペペロンチーノは新たな未来を歩む事になる。

・『マシュ』
 ……あまり描写できなかったのでここで補足。ベリルがボガードに似た姿に変化した為驚愕している。同時に、彼がボガードに対してなにかをしたと気付き、静かに怒りの炎を燃やしていた。

・『ベリル』
 ……ボガードの霊核を取り込んで変身し、アシュヴァッターマンと交戦。追い込まれた際に奥の手を使おうとしたがペペロンチーノ達に妨害され、アシュヴァッターマンの宝具を受けた。

・『ペペロンチーノ』
 ……アシュヴァッターマンに救われ、本来ならそこで終わるはずだった運命が続いてしまったが、命を救われたからこそアンナとの決別を決意する。しかし、ブリテンの崩壊を阻止しない限りは彼女との戦いもなにもないので、それが解決するまでは協力するつもり。

・『ルーツ(アンナ)』
 ……ペペロンチーノと敵対するのは正直辛い。が、その時が来たのなら如何なる手段を用いてでも容赦なく殺す。それが、アシュヴァッターマンに与えられるはずのない未来を与えられた彼女に払える、最大限の敬意なのだから。


 今年の投稿はこれで最後です。皆さん、よいお年をお迎えくださいッ!

 それではまた次回ッ!
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