フェンリルsaid
サカキ博士の研究室
「サカキ博士、いらっしゃいますか?」
とある日の午後、研究室を訪ねてきたのはヒバリだった。
アラガミに関する研究書類を読んでいたサカキは顔をあげる。
「ああ、ヒバリ君かい。どうしたのかな?」
「さっき、偵察部隊の方から、『これをサカキ博士に渡してくれ』と頼まれたのですが」
「ありがとう」
そういって、ヒバリから書類の束を受け取る。
最初はパラパラと流し読みをしていたサカキだが、途中、気になる書類を見つけたのか、手を止めて注目する。
「……ふむ。そうか、やっと見つかったか…。うん、ありがとうヒバリ君。ついでにこれを支部長室に持って行ってくれ」
「わかりました」
そう言ってヒバリが研究室を出て行ったのを確認し、研究所の扉をロック。そして、いつもは使われていていない左のほうのドアを開ける。
サカキの私室、ということになっている部屋には、もう一つ、サカキが入ってきた入り口とは違うドアがある。さらにそのドアを、開ける。
「ゼロ、居るかい?」
「もっちろーん!俺が居なきゃあ誰がいるのさ!」
やたらとテンションの高い声。子供っぽい喋り方。
まるで、自分の妹を思い出させるその雰囲気に、サカキは微笑む。
「で、何の用かな、『兄さん』!」
そこにいたのは、先日入ってきた新人と同じくらいの年の少女。
髪の色がサカキと同じことから、何らかの関係があるようだ。
「うん、ついさっき報告があったんだけどね、『起源種』が一人、見つかったそうなんだ」
「え、ホントに!?」
「うん、間違いない」
「マジかー!いやっほう!これで『友達』が、『仲間』が増えるんだよね!いえーい!」
「ああ、そうだよ」
もう、二年も前の事。
人語を理解できる狼型のアラガミ、『フェンリル』。
サカキが、妹ともに面倒を見てきたアラガミだ。
その存在はフェンリル本部にも認知され、正式に『フェンリル』を人型へと変える実験が行われることになっていた。
はずだった。
『ごめん、兄さん』
妹の、最期の言葉。
実験に失敗して(と報告されたが、実際のところ怪しいものだ)死にかけた妹は、『フェンリル』にその身を喰わせ、オラクル細胞の中で『フェンリル』の一部として生きていくことを願った。
その結果、『フェンリル』は人型のアラガミ『ゼロ』となったのだ。
ほとんど妹の性格を引き継いでいるのか、(一人称は『俺』ではあるけれど)女性の体ではあるけれど、かなりはっちゃけた性格である。
サカキはそういった人型の、人とコミュニケ―ションが取れるであろうアラガミを、人類との共存の『起源』となるように、と願って『起源種』と名付けたのだ。
しかしそんなアラガミは人間と接触することがほとんどなく、二年間、断片的な情報のみで、本体が見つかったことはなかった。
その間、『ゼロ』はひとりぼっちだったのだ。
「そっかー!ってことは俺が会いに行っていいんだよね!どこに居るのかな!」
いまにも部屋を飛び出しそうなゼロを落ち着かせて、『起源種』の出現が報告された場所を告げる。
「『贖罪の街』。『起源種』はそこに居るよ」
それが、ニンゲンとアラガミの共存の『始まり』となることを願って。