バーチャルわしロリおおかみ娘運動不足おじさん   作:アサルトゲーマー

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おじさんとリスナーで学ぶ俗信


5 ブティック天狗の国

 

 

 

 

 

 

「どーもー!おはよーございまーーーーす!知らない間に妻に切り抜き動画を作られてたバーチャルわしロリおおかみ娘運動不足おじさんだぞーーーー!」

『おは草』『草』『あれ作ったのお前の嫁さんやったんか』『アトリームにだって切り抜きがありましたよ…』

 

 あれからすぐの日曜日。すっかり週一の運動の日となってしまった今日も元気な挨拶から始まる。そして悲しいお知らせだ。

 

「えーそれで、その動画がなぜか14万再生に届くほど再生されてしまい、多分それが原因でわしのチャンネル登録者が1500人に届きました…」

 

 そう、島袋さんち登録者数1500オーバー。おっさん声の少女キャラに興味のある人口がこれだけ居ることにかなり衝撃を受けている。

 奈良迦いわく「日本の人口で割ったら0.00002%にも満たないからセーフ!」とか。そう言われると確かに大したことの無いように聞こえるが、いつものコメントを見る限りではとてもそうは思えない。フグ毒は千倍に薄めたところで致命の毒なのだ。

 

『おめ』『14万!?』『おめっと』『千五百人に需要おじさん』『収益化できるやん!』

「収益化?」

 

 コメントの中に気になる単語を見つける。

 収益化。言葉通りに捉えれば何かでお金が稼げるのだろうか。

 

『収益化ってのはおじさんの痴態でお金稼ぎできるってことだゾ☆』

「ふぁ」

『変な声たすかる』『ちょうど切らしてた』『こういうのでいいんだよこういうので』

 

 痴態で金稼ぎとは穏やかではない。ちらりと奈落迦を見る。娘は親指を上に向けて立てていた。

 

 …深く考えるのは止そう。きっとそこは底なしの闇につながっている。

 私はしばらく黙り込み、リングフィットをぽちぽちと操作する。

 

「最近はこれを頑張っているからかな、なんだか体力がついてきたぞ!」

『えらい』『がんばった』『天才』

 

 あからさまな話題転換に乗ってくれるリスナー。いつもこれぐらいだと嬉しいのだが。

 さて、先ほど述べた通り最近は体調もいいし肩こりも僅かだ。健康は富であるとはよく言ったものである。

 ジョギングはあまり息が切れなくなってきたしスクワットも辛くない。そう、痴態を晒す機会が減ったのだ。

 私がそう発言した瞬間、奈落迦は何かを考え始め「ちょっとコントローラー貸して」と手を差し出した。私は言われるがままにそれを差し出す。

 

「このゲームには運動負荷って項目があって、そこらへん自由に調整できるんだよね」

『あっ…』『まさか』『もう一回遊べるドン!』

 

 何かを察し始めるリスナーと、ぽちぽちと操作をする奈良迦。運動負荷という項目の数字が上がっていき、それは1から10へと姿を変えた。

 

「じゃ、運動…続けよっか?」

 

 

 

 

 

「うぎゃああああああっ!ひいいいいいい!」

『絶叫たすかる』『なんか○○が変な感じになってきたのら…』『筋肉が喜んでるね!』『体力が付いたと言ったな。あれは嘘だ』

 

 私の考えが甘かった。

 スクワット4回とかで得意げになったのも、そんな私の鼻を折ったのも、リングフィット。私は彼奴がポップな見た目をしている鬼畜だという事をすっかり忘れていたのである。

 この調子ならクリアできると考えていたところを突き落としてくる様はまさに賽の河原の鬼。まさかこのキャラの名前がリングなのは、ウロボロスやメビウスの帯のような終わりなき道の暗喩なのではなかろうか。

 

『おじさん疲れたときいっつも哲学っぽい事言うよね』『バーチャルわしロリおおかみ娘運動不足哲学者おじさん』『リングくんにそんな誕生秘話が…』『堂天任の人そこまで考えてないと思うよ』『回数増やしたのは娘さんなので鬼=娘さん説あるで』

「わしの娘は魔物であっても天使だから…」

『あ、そこは譲れんのね』

 

 とにかくここのステージを乗り越えられなければ明日はない!私は痛む太ももを叩きながらスクワットを再開するのであった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 最近なにやら洗面台に物が増えている。

 なんらかのクリーム。化粧水。乳液。整髪料。

 置くのはいいがあまり増えてもらっては困る。場所がなくて顔が洗えない。

 

「あ!お父さん!洗面台のやつ見た?」

 

 私が唸っていると仁頼也が声を掛けてきた。その内容から察するに息子が買ってきたもののようだが、はて。

 

「この黒っぽい奴は除毛クリームって言って体の毛を溶かすやつ!こっちのローションが抑毛で、こっちの乳液とかがケア用品」

 

 うん。

 

「じゃあ今から一緒にお風呂入って…つるつるになろ?」

 

 なぜそうなったのか。これが分からない。

 しかし先ほどのリングフィットで体がボロボロの私は抵抗する術を持たず。「今回はとりあえず」の名目で、私は膝から下の毛を失う事が決定した。

 

「女の子の心を学ぶのなら、まずは女の子にならなくちゃ」

 

 その理屈はおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーーもーーーこんばんはーーーー!息子の手によって膝から下の毛を失ったバーチャルわしロリおおかみ娘運動不足おじさんだぞーーーー!」

 

 しょっぱなからのカミングアウトでコメントは盛況だ。『草』やら『笑っちゃうんすよね』やら『ハハァ…』とやら。全体的には笑ってもらえている。中には『何!?女の子の首から下はツルツルではないのか!?』といった危険なものもあるが。

 私の痴態が笑いになる。それは配信者としてとても名誉であり、同時に父として不名誉である。今後このネタを掘り起こされる危険性があったとしても、誰かに言わずにはいられなかったのだ。

 

「昨日リングフィット終わりに息子に風呂に引きずり込まれてな、そのまま…」

『アッー!』『息子×パッパ』『息子ちゃんは男の娘やし実質百合』『キマシバベルを建てたり壊されたりしろ』

「新感覚だ…。わしの毛がなくなってからズボンの違和感がすごいぞ」

『はえ^~』『毛は触角みたいなもんやし。猫様の髭切ったらその場でくるくる回ったり顔ぶつけまくる現象の軽い版』『有識者兄貴タスカル』

 

 『脱毛したら化粧水と乳液忘れんなよ~』と親切なコメントが身に染みる。今現在私の足はなんとかローションでつやつやだ、心配なされるな。

 

「これで問題なければ、そのうち首から下はツルツルになる…予定だそうだぞ」

『おじさん無毛化計画』『名誉女の子』『毛量不足おじさん』

「全身きれいになったら家族みんなでの女装大会も予定されてる。わしはきっと天狗の国にでも連れていかれるんだぞ」

『家 族 全 員 グ ル』『天狗の国は婦人服取扱店だった…?』『血だけではなく心でもつながった家族』『ランジェリー事件が笑えなくなってきましたね…』

 

 天狗とは人を魔道に導く魔物。または不可思議で気まぐれで、時に慈悲深い神。私が連れていかれる天狗の国とは魔のものか、それとも。

 

『魔でしょ』『魔ですね』『魔です』

 

 ……。

 そんなことは分かってる。ただ、ちょっとくらいは希望を見ても良いではないか。




ファンアート貰いました(小声)
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