例えば輪廻転生をするとして   作:ハナマツリ

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 かつてなろうで一世を風靡した使い古されたテンプレでの導入、個人的に割と好きな入り方。世界では大凡1日40万人の人が生まれて、15万人の人が死んでいるらしい。そうだとすればなろう的な転生もこれくらいは事務的になっているのではないかなと思う。ただあまりにも事務的だとそれはそれで寂しいのでこれくらいに落ち着いて欲しい。



例えば輪廻転生をするとして

 

 死後の世界、あるいは自分が死んだ後にどうなるかを考えてみたことがあるだろうか?

 

 

 例えば、日本人が持つ古くからの一般的な死生観では仏教的な思想から、自分が死んだあとには三途の川を渡り、閻魔大王に生前の行いから天国と地獄に分けられるというものがある。これと同じようにヨーロッパなどのキリスト教会圏ではキリスト教の教えに基づく行いにより天国に行けるか、地獄に堕ちるかという考え方が一般的である。有名な話では著名な彫刻家であるロダンが作った、日本では「考える人」で有名な、地獄門という像があるが、あれは自分の足元にある地獄への扉が開くか開かないかを悩んでいる様を表現しているらしい。まあ、これは人伝に聞いた話なので本当なのかはわからないのではあるが…。

 

 さて、話がそこはかとなくそれてしまったが死後の話である。先に挙げた天国と地獄へいく、これ以外で死後どうなるかということを考えてみようと思う。まず出てくるのは自己の何ものも消えてしまい、そこで魂的なものはなくなりその先は何もないという考えである。これはいささか寂しい考え方ではあるが一定数の人がこういった考え方をもっている。次に出てくるものは輪廻転生というものだ。これはもしかしたら幾分仏教的な考えなのかもしれないが、割と受け入れられやすいのではないのだろうか。死んだ後、魂が身体から抜け、輪廻の輪に入り、そして新しい生を受ける。そもそも、あるものが朽ちそこから新しいものが生まれるという話は私達が住んでいるこの星では当たり前のように存在しており、その循環と照らし合せればそれはひどく自然のように感じないわけではない。

 

 前置きが長く、またくどくなってしまっているが本題に入ろうと思う。先に挙げた輪廻転生ではあるが、私個人としてはそのシステムの在り方自体にはあまり疑問を持たない。では、その中にある輪廻の輪の部分はいったいどうなっているのだろか?

 

それこそ先に挙げたような天国や地獄のようなところなのだろうか?それとも某ゲームのような根源の渦やライフストリームのような混沌とした場所なのだろうか?あるいは某戸魂界のようなオサレな死神が運営している場所なのだろうか?なぜ自分がこんなにしつこくも意味もなくこのようなことを考えているのかというと…

 

「ではあらためて、赤ノ午九〇二一二一五ハの番号札の方ですね?そこの椅子に座って楽にしてください、まあ特段長くはかからないとおもいますがね。」

 

「あ、はい、よろしくお願いします。」

 

 自分が死んで今其処にいるらしいからだ。

 

 

 

 

 

 そもそも何故自分がここにいるかはわからないのだ。ボンヤリと眠りから覚めるとスーツを着てここにある長椅子に座っていた。周りを見渡すとどこかの建物の中にある廊下だろうか?随分と広くがらんとしている。また何気なく見渡してみて窓が無かったから若しかしたら地下なのかもしれない。人気の無い、また見覚えのない場所で、自分がどうして此処にいるかもわからない筈なのに何故か妙に冷静な状態でいられた。もしかしたら単に寝呆けているだけかもしれないが…、自分が此処にいるのは仕事の取引かなにかであろうか?もしかしたら面接か何かか?などと先ほどからいまいち考えのまとまらない頭で考え込んでいるとふいに横から声をかけられた。

 

「赤ノ午九〇二一二一五ハの番号札をお持ちの方ですか?」

 

 いつから其処にいたのかはわからないがどことなく冷んやりとした雰囲気をもつ女性が長椅子の傍に立っていた。高い鼻と切れ長の目の美人である。もしかしたらそれが彼女に冷たい印象を与えているのかもしれないな、などと呆けつつ彼女を見ながら考えていると再度彼女から問われた。

 

「赤ノ午九〇二一二一五ハの番号札をお持ちの方ですか?」

 

「えっと、すみません、赤のごの…なんですか?」

 

 急に現れ急に問われて、未だにボンヤリとしている頭を働かせながら、若干焦りを感じつつ彼女に問い返す。

 

「赤ノ午九〇二一二一五ハの番号札です、貴方のスーツの右ポケットからでているその赤い札をご確認ください。」

 

 最初より若干冷たい口調でそう言われて、はじめて自分のスーツのポケットから赤い長方形の用紙がはみ出ていることに気付いた。

 

「す、すみませんっ、今すぐに確認します!」

 

 彼女の冷ややかな視線からか、焦りながらポケットから紙を取出し、文面を確認し

 

「あ、はい、午九〇二一二一五ハです。」

 

 と、いまいち見づらい真っ赤な紙面上からその文字を確認しながら答えた。

 

「そうですか、ではこちらに。私の後をついて来て下さい。」

 

 彼女はそう言うと未だ状況が呑み込めていないこちらのことを気にする素振りもみせずに、ヒールを鳴らしながらすたすたと先に行ってしまった。

 

 

 

「あの、随分と歩いたようなんですけど、結構遠いんですね。」

 

「……」

 

 無視である。先ほどからあの手この手と話題をかえ声をかけているのだが彼女は返事をするどころかこちらの方に顔を向けることもない、いっそ清々しいほどのしかとっぷりである。あの後、目を覚ました長椅子から慌てて立ち上がり彼女の後を追いかけてからもうずいぶん経つ、その間にいくつもの角を曲がり、階段を上り下りした。もう自分一人ではあの長椅子がある場所までは戻ることはできないな、と思いながらもグネグネと迷路のような道を彼女の後についていきながら進んでいく。

 

(てか、まだ着かないのか?もう随分と長いこと歩いているぞ…それになんかおかしくないか?さっきから同じような風景だからよくわからんけど、この建物、構造的にめちゃくちゃだろ?)

 

 いつから自分が催眠にかかっていないと錯覚していた?などとくだらないことを一向に霞の晴れない頭で考えながら、視線の先で揺れるタイトスカートに包まれた形の良い尻を眺めていると、ふと、頭の中に今の状況と似たようなシチュエーションを描写した小説があったことを思い出す。

 

(ああ、でも俺は両ポッケいっぱいの小銭も持っていないし、なによりあの上下左右前後不覚になるエレベーターに乗ってもいないしな……いやしかし、もしかしたらこの先で科学者にブレインウォッシュされて脳内世界で一角獣の観察でもするようになるのかもしれないな。)

 

 そうなれば、まずは自分の影を探すところから始めないとな…と、本格的に自分が何処を歩いているのか、本当に自分の足で歩いているのだろうかという実感がなくなってきているうえに、頭はますますボンヤリと、先ほどより深く霧がかってきおり、そのなかでとりとめのない考えが次から次に浮かんでは消えていく。既に自分の視界は周りの廊下の風景を捉えておらず、前を歩く彼女の姿もあやふやに認識することしかできなくなっていた。

 

(あー、たぶん、そろそろとぶな、このかんかくはしってる。あれだ、こうこうのときに、なつのかだいをおわらせるためにやった、ごてつめにはいったときのかんかくとおなじだ、やばいな…)

 

 もうゴールしてもいいよね、と自分の意識が飛ぶことを防ぐために、わざと言い訳じみたことを考えていると、もはや前を歩く彼女のスカートとそれに包まれている尻が左右に揺れていることしか認識できていない視界で、ふいにその尻の揺れが止まった。彼女が、歩くのをやめた。

 

 

 

 最初に彼女が止まった時、うまく彼女が止まったということが認識できず、危うく彼女にぶつかりそうになったが、なんとかそれは回避することができた。それから、彼女との距離をもとに戻しつつ、ゆっくりと周りを見渡してみると、今まで頭にかかっていた霧が少しずつ薄れ、視界や足の感覚ももとに戻ってきた。そうやって何とか倒れることは防げたか、などと安心していると彼女がこちらを向いていた。

 

「あちらに腰かけて、呼ばれるのをお待ちください。呼ばれましたらあちらの扉から入出してください。」

 

 そうやって彼女が手を指している方向へ顔を向けると、はじめに自分が目を覚ました長椅子と同じものが同じような配置で同じような廊下に置かれていた。ただ、一つだけ違っていたことは、長椅子の前の壁に扉があることだ。

 

「……わかりました、ありがとうございます。」

 

 そう言って彼女の横を通り抜け、疲れているのか兎にも角にも早く椅子に座ろうとしていると、そういえば、とふと頭にあることが浮かんだ。そのことを彼女に聞こうとして振り返りながら口をひらいたが───

 

「あー、すみません、聞きた…い…って、え……!?」

 

 ──もうそこには彼女の姿は何処にも見えず、ただただ長い廊下だけが目の前に在った…。

 

 いったいぜんたい何がどうなって、訳が分からなかった。相変わらずぼやけているものの、ようやく働いてきた頭で考えをめぐらす。そもそも初めからおかしかったのだ、此処がいったい何処で自分は何をしに此処に来たのかもまったく憶えがない。彼女はいったい何者なのか、このドアの先に何があるのか、考えれば考えるほどに頭が痛くなるようなことばかりである。長椅子に沈み込むように座りながら大きく溜息を吐いた。

 

(タバコか何かないものか、飴でもなんでもいい、とにかく気を紛らわせるようなものがあると…ん?)

 

 ポケットの中をまさぐろうと下を向くと、スーツのポケットのから赤い紙がはみ出ているのが見えた。そういえば、あの時は慌てて見たために番号が書いてある部分以外をしっかりと見ていなかったな…と、煙草も飴もポケットに入っていないことを確認した後に改めてその赤い用紙を引っ張りだした。

 

「なんじゃこりゃ…いったい何処の言葉だよ、これ。」

 

 長方形の紙面は相変わらず目に悪い真っ赤な色をしており、そこには黒いインクで簡素に文字だけが書かれていた。午九〇二一二一五ハ、自分で読めたのはここだけである。その下に筆記体、もしくは草書体とでも表現すればいいのか、まあ横書きなので多分筆記体的なものなのだろうが、今までに見たこともない漢字?のような文字で何やら3、4行の文章が書かれていた。

 

「しかも、なんでこんな無駄に達筆に書かれてるんだよ…。」

 

 今度こそ、お手上げだった。唯一この状況を教えてくれるかもしれないものは自分じゃ読むことはできない、案内役の女性は訳の分からないうちに消えてしまう、おまけに勝手に動けば遭難してしまうかもしれない迷路みたいな通路、完全に詰みの状況だ。しょうがないので大人しくドアの向こうから声をかけられるの待つことにした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「どうぞ、お入りください。」

 

 それから少し時間が経ってから、やることが無く、うつらうつらと眠らないようにしながら待っていると、ドアの向こうから自分を呼ぶ声が聞こえた。どうやら漸く先に進めるらしい、沈みかけた意識を立ち直らせ長椅子からのっそりと立ち上がるとドアの取っ手を掴む…そういえば、ふと頭に案内役の女性の姿が思い浮かぶ…。

 

(小説の中での案内役の女性はピンクのスーツとタイトスカートを着たぽっちゃりとした女性だったな…)

 

 当たり前だけど全然違うなと、自分を案内してくれた黒のスーツとタイトスカート、黒のストッキングを履いたスレンダーな女性を思い浮かべ、自分でも何が面白いのか、思わず口元が緩みそうになる。ああ、でも…

 

(お尻の形がいいところは一緒だったな。)

 

 そんなどうでもいいことを考えつつ、緩んだ口元を引き締め扉を開け放った。

 

 

 

「失礼します。」

 

 扉を開けた時、自然にこの言葉が出てきたのは日常的にこの言葉を使っていたのか、もしかしたら単に就職活動中だったのかもしれない。もはや自分の記憶に自信を持てないことに若干の恐怖こそ感じてはいるが疑問とすることはできなくなっている。扉の向こう側は自分が想像していたものと違い、いたって普通の部屋だった。およそ8畳から10畳ほどの広さだろうか?白を基調とした清潔感のある部屋の中には一人のスーツを着た眼鏡をかけている中年の、見る人によっては壮年という人もいるかもしれない、少々生え際の寂しい男性がこちらを向いている机に座り、何やら資料を確認していた。

 

 

(まるで面接だな、こりゃ。)

 

 できるだけ静かに入ってきた扉を閉め、机の前にポツンと置いてある椅子の横までゆっくりと移動し、声をかけられるのを待つ。そうしていると資料から男性が顔をあげた。

 

「少し待たせてしまったようですまないね、これでこちらも忙しくてね…番号札は赤ノ午九〇二一二一五ハだったかな?しかし、なんだ…随分と残ってしまっているね君は、はてさて、どうしたものかな…。」

 

 彼はどこか困っているような顔をしながらそう言った。言っていることの意味は分からない、手ぶらで、着のみ着のままの俺にいったい何が残っているのだろうか…。もしかしたら今の記憶や思考が定かではない自分の状態のことを言っているのだろうか。

 

「ああ、そんなに不安そうな顔をしなくてもいいよ。そうだな…まずは幾つか質問に答えてくれないかい?簡単なものだよ、自分の名前と年齢、あとは君の人生で一番強く残っている思い出を教えてくれないかい?」

 

 と、彼はペンを持ち手元の資料に何かを書きながら言った。名前と歳と思い出か…、いや、その前にこの状況を説明してほしい、その質問に何の意味があるんだよ、という若干のイラつきにも似た思考をしながらその質問の意味について考える。

 

「……名前は憶えてません。歳は20を超えていて、30歳にはなっていなかったと思います。一番よく憶えていることは高校の時の大会です。」

 

 頭で考えていることとは裏腹に、そう自分でも驚くくらい自然と口から言葉が出てきた。そもそも自分の名前がわからないのはつい先ほどあの赤い紙を読もうとしているときになんとなくは気が付いていたが…。しかし自分で言っておきながらではあるのだが歳はさっぱりだし、大会とは何の大会であったのだろうか…?結果自体はそんなによくなかったのは憶えている…、それでも、誰かがすごく喜んでくれたはずだ、誰だったか…。何かとても大切な記憶だったような気がし、記憶を掘り返して、どうにか思い出そうとしていると男から遮るように声がかけられた。

 

「ありがとう、そうだな…、じゃあ簡単に説明しようか。端的に、君は今死んでいて、ここは君にわかりやすく言えば次の生を受けるために通る関所みたいなところだよ。」

 

 彼はそう、1足す1は2であるとか、氷は冷たいとかいった、まるでごく当たり前のことを言うような気軽さで俺が死んでいるということを告げた。

 

 

 

 死んでいるという経験自体が特殊過ぎて実際はどうなのかはわからないが、本来であるなら自分が死んでいるという事実を突きつけられて、どうしようもなく取り乱したり、はたまた茫然自失になったりするほうが正しいのかもしれない。しかし、俺はというと彼からその言葉を聞いて、ああ、そうかなるほどな…といった感じに、ストンとおさまるべきものがおさまるところにおさまったというか、パズルの最後のピースがピタリとはまったような妙にすっきりとした具合だ。ここまで自分の死という、普通に考えれば、劇的なものをあっけらかんと受け入れているのは、もしかしたらどうしようもないほどに亡くしてしまった記憶のせいなのかもしれないし、今の自分では解る筈もないが、生前からの性格のせいなのかもしれない…。

 

「納得してくれたかな?…それではそろそろはじめようか。」

 

 彼は俺がやっと現状を把握したとわかったのだろう、ペンを机に置きにこやかにそう言った。

 

「ではあらためて、赤い午9021215ハの番号札の方ですね?そこの椅子に座って楽にしてください、まあ特段長くはかからないとおもいますがね。」

 

「あ、はい、よろしくお願いします。」

 

 俺の、次の生の為の説明が始まった。

 

「先ほどの説明でも言ったように、ここは次の生を受けるために必ず通過する場所です。具体的には次の生を受けるための不必要な要素を此処で捨てて、真っ白にした後に新たに次の世界に必要な要素を付加したうえで転生という形になります。」

 

 今までの穏やかな調子から一変して真剣な表情と事務的な言葉使いで説明が始まった。しかし、不必要な要素とは先ほどから思い出そうとしても思い出せない記憶や自分の名前のことだろうか?そういえばさっき随分と残っていると言われたのはこのことなのだろうか…。

 

「そのような不安な表情なされなくとも大丈夫ですよ、もうこれ以上君は何も失うことはありません。次の世界に生まれるうえで、最低限の必要なものは抜け落ちている状態だと先ほどの質問で判断しました。多分ですが、転生後には物心つくまでに少しずつ忘れていくでしょう。もし、憶えていたとしても既視感といった形に落ち着くと思います。これは私見になりますが、多少の誤差があれど来世への糧になることはあっても枷になることは無いはずです。」

 

「…こういう状態でここに来る人はよくいるんですか?」

 

 これ以上は何もなくさないということを聞いて安心からか強張っていた身体から力が抜ける…どんな形であれ自身が消えていくということは恐いものなのだ。その中でふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「そうですね、稀に、といったところでしょうか…全くないわけではありませんが珍しいといえば珍しいですね。君はなにかしらの縁があったのでしょう。」

 

「…ありがとうございます、話を遮ってしまいすみません。続きをお願いします。」

 

「いえ、構いませんよ。わからないことがあれば適宜きいてください。それでは本題に入らせていただきます。君がこれから生きていく世界についてですが…。」

 彼は言葉を切り、こちらをうかがうように見て

 

「魔法の世界です。」

 

 信じられないことを言った。

 

 

 

 魔法の、世界……?そう言われた瞬間彼が何を言っているのかが理解できず、思わずあんた何言ってんだ…と口から出そうになった。今自分が置かれている状況も普通に考えればおかしいのかもしれないが、そのことを棚に上げて言わせてもらえばなんで魔法なんだよ、魔法ってなんだよ、ということである。少なくても自分がいままで生きていた世界には魔法なんてけったいなものは存在していなかった。ということはあれである

 

「は、ははっ、俺は地球に、地球で、生まれかわれるんですよね…?」

 

 当たり前のように、次も地球で生まれ変われると疑いもしていなかった俺は震える声で、今絶賛死んでいる身ではあるのだが、さながら余命を宣告された人のように、縋るように彼に尋ねた。それを聞いた彼は、俺のことをまるで痛ましいものをみるように見た後、静かに首を横に振りながらぽつりと言った。

 

「残念ながら…。」

 

 彼の口から出てきた無慈悲な否定は、俺の中の一縷の希望を一切の容赦なく断ち切った。

 

 

 どうやら実は地球には隠されてはいるが魔法があるんだ…、なんだってー!?というようなことはないらしい。生きていようが死んでいようが現実は厳しいものである。できれば次も日本に生まれたいな、などと考える余裕があった数分前に戻りたい…、いや戻ったところで何も結果は変わらないのだけどな、はは、わろす。唐突なファンタジー世界へのご案内により落ち着きを取り戻していた思考が再度乱れる。…落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。

 

「…ぜっ、絶対に地球には転生できないんでしょうか!?どうにかしてっ、何とかなりませんかっ!?」

 

 彼がいる方に身を乗り出すようにしながら、今にも立ち上がりそうな様で先ほど断ち切られた希望をもう一度繋ごうと必死になって聞いた。これはもう聞いたというよりは縋りついたと言った方がいいのかもしれない。そんな様の俺に対し彼は幾分考え込み、難しい面持ちで口をひらいた。

 

「…可能といえば可能です。」

 

 希望がっ、クモの糸がつながった!やったねっ!!神様は俺のことを見捨てていなかった!!

 

「ただ、今と同じように人として生まれ変わることは無理ですね、虫…よくてネズミか雀というところでしょうか。」

 

 希望なんてなかった!!ダイレクトに蜘蛛なんてもとめてねーよ!!畜生っ!ファッキン・ジーザス、神は死んだ!!いくら呼んでも帰ってこないんだ!!

 

あげてからおとすという高度なテクニックにより、ついに折れた心のうちに浮かんできた罵倒を声に出さずに叫んでいると彼がこちらに声をかけてきた。

 

「どちらになされますか?因みにですが、魔法の世界の方では人としての生が確約されております。」

 

「……魔法の世界でお願いします。」

 

 選択肢はあってないようなものだった、さすがに虫に生まれ変わるかもしれない選択をする勇気は持ち合わせていないのである。

 

「それでは一番大切な話に入りましょう。君が次の世界に生まれ変わるための要素の付加の話です。」

 

 そして最後の話が始まった。

 

 

 

「転生の際に一度その対象、便宜上魂とします、そこから転生に邪魔となるものを綺麗に亡くし、真っ白となった魂に新たに転生する世界に必要な情報を色づけます。そうですね…、まずはお手元の資料をご確認ください。」

 

 例によってさっきまで資料など持っていなかったはずであるのに、そう言われて気づいたら分厚い本のようなものが膝の上に置かれていた。もう何があっても驚かない。若干投げやりになりながら目線を彼に向ける。

 

「そこには君が次に生まれる世界で生きるために必要な要素が記載されています。その中から君の持ち点分の要素を選んでください。」

 

 何のことかはまるで分らないがうだうだしていても先に進むことはできない。ので、さぱっとやろうと手元の資料を適当にひらいたのだが、そこには思いもしないものが書かれていた。

 

『赤の魔法の才能』

 

「え、すみません、これどういうことなんでしょうか。」

 

 頁をめくっても『青の魔法の才能』や『俊敏強化』等が記載されており、ひどいものになると『一度きりの復活』なんてものまである。もしかしておちょくられているのだろうか?

 

「それは君が次の世界で生まれ変わった際に、その世界における君の人生の方向性を決めるための一助…、そうですね…走るのが速くなったり、計算が得意になったりと一種の才能や生きていくなかで得意になりやすいものとでも言いましょうか…、まあ、あくまで背中を押す程度のものとでも考えられてください。これを選んだから絶対にそうなるというものではありませんので。資料はなるべく君にわかりやすい形をとられているはずです。あと番号札に数字が書かれていますので、それが君の持ち点ですよ。」

 

 わかったような、わからないような…、そんな説明を聞いてとりあえず何はともあれやってみることにした。ポケットから番号札を取り出すと先ほど読めなかったところの一部が漢数字に変わっていた。この点数内で選ぶのか…なんかゲームみたいだな。

 

「これって、他の人はどういう風に選んでいるんですか?参考までに聞いておきたいんですけど。」

 

「そうですね…、その質問にはまことに残念ながらお答えすることができません。そもそも、本来ならばこのように説明し、ここで選ぶという行為は基本的にありえないのです。ここに来る魂は、その魂の培ってきた、またこれから色づいていくだろう本質に一番近いものを本能的とでも言いましょうか、最初から決めているが如く選びます。そのため君のように要素を選ぶのを迷うということがありません。それが良いことか悪いことかはわかりませんがね。また、先ほども申しましたが、あくまで方向性を示唆するものであってここで選んだものが絶対というわけではありません。そこはご理解ください。」

 

 何となくはぐらかされたような気がしないでもないが、そういわれてしまえばそんなものなんだろうか…。しかし絶対というわけではないのかもしれないが、人生の方向性をある程度示唆するようなものである。もしかしたら今後の人生を実質的に決定づけるかもしれない選択だ…慎重に決めるべきであろう。いかんせん魔法の世界なのだ、俺が知っている魔法の世界といえばその世界の神が全力で世界を滅ぼそうとするものや人間性をささげて最終的には亡者になるもの、とにかく一歩間違えれば、間違えなくても即デッドエンドを迎えるようなところばかりである。個人的にはきゃっきゃうふふなメルヘンで平和な世界に行きたいものだが楽観的に構えていると痛い目を見るに決まっている。慢心駄目、絶対。足が速いだけでは生き残れないのだ…ファッキンファンタジー。そうなると、自ずと選択肢は狭まってくる。

 

(永く、一生使えるものにした方がいいだろう…、そうすると『一度きりの復活』系統は取らない方がいいのか…?)

 

 さすがにこれは才能のような方向性付けだけじゃないだろうとしか言えない非常に魅力的かつ強力な選択肢たちではあるのだが、いかんせん必要とする点数が高い。これでは一つだけしかとることができないうえに、一度使えばそれっきりだ。次の世界に危険があると仮定してやはり攻撃にも使えそうな才能を複数優先してとった方がいいのだろうか。いや、まてよ……

 

(そもそも危険に遭遇しなければいいんじゃないか…?)

 

 ふと、頁を捲っていた時に目についた『危険察知』と『幸運』を見てひらめいた…これに『直観』とか『認識阻害』、『気配遮断』のような系統のどれかをつければ戦わずして勝つことができるんじゃないだろうか、点数的にもギリギリではあるが何とかなる。これはもしかして生まれる前から勝ち組コースに乗れるんじゃないか?やはり天才か…などと考えながら頁を捲っていると先ほどより、より強烈にある項目に目がいく、これは…

 

「どうやら、お決まりになったみたいですね。お聞かせ願いますか?」

 

 彼がこちらをどこか満足げにこちらを見ながら答えを促してきた。これは…いけるのか?いやいや、しかし…これは駄目だろ。うん、大丈夫だ、答えは得た。俺はまだ頑張っていける。これで俺は次の人生における勝ち組になるんだ。迷うんじゃあない!そう、次こそ生まれて一度も危険に遭わず、平和な生活を送る、そして天寿をまっとうするのだ。

そうして、確固たる意志をもって俺は彼の方に顔をあげ、此処にきてからのなかで一番良いであろう笑顔を向けてこう言った。

 

「聖剣を一振り、一番いいやつを頼みます。」

 

 そして俺は意識を失った。

 

 

 

 




そもそも最初から選択肢はなかったというお話
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