例えば輪廻転生をするとして   作:ハナマツリ

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こういう山も谷もない日常系ファンタジーが好き


ある冬の始まりの日の話

 

1

 

 早朝、まだ太陽も完全に顔を出しきっていない時分、寒さに体が耐えかねたのか緩やかとは言えず、また爽快ともいえない、何とも一日が始まるには相応しくない目覚めにより自分がまだ生きて朝を迎えたことをぼんやりと認識することができた。寝起き特有のことで血が手足の先に回っていないのか、普段より体に熱がない。ひどく寒いためか、薄い毛布を体に縛り付けるようにして小さく体を丸めた。

 

「………さむい。」

 

 冬のもつ特有の刺すようであると同時に深々と体を蝕む様な寒さである。実に俺がこの世界に生まれおちて14回目の冬のはじまりであった。

 

 俺が生まれおちたこの村は、遠い昔に御先祖様方が何らかの鉱石を求めて山間部を切り開いてつくったものであるらしい。しかし、ご先祖様方が思っていたよりも鉱石は取れず、結局は狩猟と細々とした農業と林業的なことを主にしながら村として発展してきたという歴史を持つ。そんな開拓民のような者達が寄り集まりつくられたこの村は決して裕福なものではない。特に目玉となる産業もなければ、何かしらの特産物といったものもなく、旅人が立ち寄るには少々辺鄙なところにあるらしく宿場村としての側面もない。もし旅人が寄ったとしても宿が無いため村長の家に泊まることになるだろう。

 

 そしてここが俺にとって一番の問題となるのだが、正確なことはわからないが村の位置しているところが北にでもあるのか、単に山間部にあるためなのか、一年を通して寒いのだ。厳密に四季があるかはわからないが、夏にあたる季節はまだ少し肌寒いくらいに感じるため日によっては涼しいと表現できるが、冬にあたる季節、てめーは駄目だ。はっきり言って死を覚悟した。あっ、こいつ全力で俺を殺しに来ているな…と錯覚をおこしたほどだ。加えて、もう幾つかの要因が俺をさらに窮地に追い詰めていた。そのなかでは多分これが一番大きなウェイトを占めるのだろう…そう、なんといってもこれだ。俺が生まれて育ったこの家は、この村で一番の貧乏なのだ。この貧乏のせいで俺の家では毎年冬になると生きるための戦いが勃発している。

 

 (あー、そろそろ、起きなきゃいかん時間だ…。)

 

 未だ熱がもどらない体ではあるが頭の方には血が回ってきたのだろうか、意識がはっきりとしてきた。毛布から出たくない、そんなことを考えているがこのままじっとしていても多分死ぬかそれに近い状態になるため全身にありったけの気力を入れながらベッドと呼ぶにはあまりにも粗末なものから起き上がる。どうしてこうなった…、未だ未練がましくも前世であった日本での暮らしを思い出しながら心の中で愚痴を吐く。

 

(あのハゲ、言ったことと違うじゃねーかよ。)

 

 もう何度となるかはわからない、もはや習慣に近いといってもいいかもしれないが、寝起きざまにこの世界に来る前に、最後に遭った頭部が寂しいおっさんの対し完全に一方的な八つ当たりの悪態をついた。

 

 

 思い出す筈のない記憶を取り戻したのは、物心ついてしばらくしてからだった。最初の切っ掛けは家の畑の手伝いをしているときや何気ない風景や人のしぐさに対してなんか古臭いなとか、なんでそんな効率悪いことしてんのかな、といったことを声に出してはいないもののいつも頭のどこかで考えていたことだ。実際に何が古臭いのか、何が効率が悪いのかはわからなかったがその考え自体がおかしいと思ったことは一度もなかった。そして記憶を思い出す決定的な要因になったのは多分父が竈に火を点けるために使っていた魔法を見たことだろう。父親の指先に火が灯っているのを不思議に思い、どこから火を出しているのか、どうやっているのかを尋ねると父は俺を微笑ましそうにみながら言ったのだった。

 

「これはね、火の精霊さんにお願いして出してもらっているんだよ。」

 

 それを聞いた俺は初めて見た魔法に夢中になり、嬉々として父にやり方を教えてもらおうと思いお願いしたのだが、父はそう聞いてくることがわかっていたかのように、俺はまだ魔法を使うには小さすぎるから使うことはできないよ、と興奮おさまらぬ様子の俺を宥めるように諭した。その時はその言葉を聞いて残念だなと思い不貞腐れていただけだったのだが、ことの問題が起こったのはその日の夜、寝るときのことだ。昼間見た魔法が気になり、父に魔法の話をせがむと父は少し困ったような顔をしながら魔法についての御伽噺のようなものを聞かせてくれた。その話を聞いた後に魔法について自分もいつか使えるようになるのかな、などと物語に出てきた大魔法使いのように魔法を使っている自分を思い浮かべていると頭の奥底からある言葉が浮かび上がったのだ。

 

『魔法の世界です』

 

 そんな何の脈絡のない意味不明な言葉を意識した瞬間、記憶が帰ってきたのだ。爆発したが如く、頭の中にここに生まれる前の記憶があふれ出したのだ。愛おしいまでの記憶の奔流、様々な感情が俺の許容量を軽々と突破し溢れ出てきた。その後のことはよく憶えていない、これは母から教えてもらったのだが、三日三晩高熱に魘され死にかけていたらしい。そして目が覚めるとまるで生まれ変わったように、まあ現に生まれ変わっているのだが、頭の中がすっきりしていた。それから完全とは言えないが思い出した記憶をもとにこの過酷な環境にある村でどうにか死なないようにしながら生活をしてきたのだ。そして、今に至る。

 

 

 本来なら感謝すべき筈のハゲに対して理不尽に愚痴を言い、頭が完全に覚醒してからベッドから飛び起きてその上に立ち上がる。寒さにちぢこもっていたためなのか、体の節々が強張っていた。毎年のことなのではあるが、何度来ても慣れることのないものである。ベッドの上で背伸びをし、そのまま順々に体の筋を伸ばしていく、これをちゃんとしておかないと後々につけを払わなくてはならないことになるため丁寧に行う。この世界、世界というほど外のことは知らないが、特にこの村で生きていくうえで一番の資本となるのは自分の体なのだ。

 

 身体を伸ばし終わると少し体に熱が戻ってきたような気がしたので、意を決してベッドから降りると靴を履き居間に向かう。朝特有の、寒さとはまた違った、締まるような空気を感じながら竈に火を入れるためにランプを取りに行く。貧乏で碌な物もない我が家ではあるが、このランプだけは特別である。ランプの蓋を開けると小さな赤い水晶のようなものが入っており、その石に手をかざし少しだけ魔力をあてる、すると石が仄かに熱と光を帯びてきた。その光が消えないうちに藁を手に取り石に近づける、藁に火が付いたことを確認しランプの蓋を閉め元の場所に戻す。それから竈に火を入れ、火を起こしながらしばらく暖を取りつつ今日のこれからのことを考える。

 

(…まだ、芋はどれくらい残っていたっけな?確か茸は結構あった気がするんだけど。)

 

 今年は雨が多かったのか、それとも単に土が痩せてしまったのかいまいち芋の収穫量がよくなかった。冬は始まったばかりというのにこれでは先が思いやられる。

 

(いかんいかん、前向きに物事を考えねば。)

 

 よしっ、と気合を入れてとりあえず朝食の為にお湯を沸かすことにした。お湯を沸かすために外にある井戸から水をくむべく玄関の戸を開く、戸を開くとともに部屋の中に刺すような冷気が入ってきた。

 

「うおっ!?……あー、こりゃ寒いわけだ。」

 

外では例年に比べても早く、白い雪がはらりはらりと舞っていた。

 

 

 家の敷地内にある小さな井戸から水を汲み、寒さから逃げる様に家に入る。水を鍋に入れて沸かしながら冷えた身体を温めつつ、今日の予定を考える。

 

(まずは干していた芋と茸を倉庫にしまってから、雪が強くなる前に柵の補強をしないとだなあ、いや先に食料の補充をしないとかな、雪が降ると山に入られなくなるし……)

 

 まさかこんなに早く雪が降ってくるとは…、例年よりも一月近く早いのではないだろうか、本来ならもう少し先にやる予定であった作業を急遽前倒しで行う必要が出てきた。この村において、雪とは外部との断絶を意味する。低すぎる気温から、少しでも雪が降ればすぐに積もり、積もった雪は外界との繋がりの一切を隔ててしまうのだ。だからこそ、身動きが取れなくなる前に越冬の準備を完了させなければならない。しかも俺の場合は悲しいかな…

 

「誰も助けてくれねえからなあ………」

 

 重い溜め息と共に現状を嘆くしかなかった。

 

「……よしっ!!しゃーない!やるしかない!」

 

  声を出して気合いを入れる、嘆くことで多少心は軽くなるが結局現実は変わらない。ならばやるしかないのだ。そうして立ち上がって作業に取り掛かる準備をしようとすると、クルルとお腹が鳴った。

 

「まあ、その前に飯だな」

 

 とりあえず今日1番最初にやることが決まった。

 

 

5

 

 湯がいた芋に岩塩を少しだけ溶かしたお湯という粗末に過ぎる朝食を食べ終え、今は亡き父の外套を羽織り外に出ると手早く干していた食料を家の中に入れる。今年は芋が不作であった為に他の食料があるとはいえ少し心許無く感じる。経験上、例年通りの冬の長さであれば節制しさえすれば冬を越すのに足りる量はあるとはいえ、今年は雪も早く降ってきているしもしかすると長く厳しい冬になるかもしれない。であればこそ常よりも過剰に備える必要がある。金と食料と燃料はいくらあったとしても良いのだから。

 

 そうと決まれば山に入らねばならない、本格的に雪が降っていたなら動くことは不可能であるが、この程度の雪ならばまだギリギリで活動できる。山に入る為の準備をしつつ何を狙うかを考える。

 

(今の時期ならギリギリ兎もどきが狙えるか……いつも通りキノコと木の実を集めつつ木の枝を拾って行こう、魚はどうだろうか、いや川まで降りていくのは流石に時間がかかり過ぎるかな…)

 

 出来ればタンパク質が欲しい、長い冬籠において肉があるかは非常に重要な事柄だ。ルフル豆という前世で言うところの大豆の様な物はあるのではあるが、やはり肉、肉なのである。雪に閉ざされ、娯楽に乏しい中で食事は非常に大きな影響を持つ。故に可能であれば兎か魚を確保したいところである。

 

 家宝のランタンを腰にさげ、大きな籠と狩猟用の弓矢を背負う。矢の本数が12本と心許無いがしょうがない。冬の間に内職して作らねばならないなと考えつつ準備を終える。

 

「よし、今日は兎を狙って行こう!魚は明日以降だな!」

 

 今日の目標が明確に決まり、後は家から出るだけというところで思いたつ。

 

「ああ、忘れていた…父さん、母さん、「花咲く地の頭冠」よ今日も健やかに過ごせますように……」

 

 今は亡き父と母、そして父と母が信仰していた神様と序でに心の中で頭の寂しいおっさんに祈りを捧げる。

 

 どうか、どうか今日も生きていられます様にと

 

 

 




多分続かない
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