黎明卿は艦これ世界に夜明けを齎すようです   作:秋乃落葉

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※轟沈描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。


黎明

 南方戦線のとある海域。そこでは、奇妙にも艦娘が作戦中行方不明になる事態が多発していた。初めは深海棲艦との交戦で撃沈されたのではないか、との予想がされていたが、当該海域はそこまで危険性の高い海域ではなく、事案が二度、三度と増えていくにつれて、海域を管轄する鎮守府でも何か異常な事態が起きていると判断し、調査のための艦隊が派遣されることとなった。

 

 

 

「おいおい・・・なんなんだ、この施設は?」

 調査に赴いた艦娘の一人、天龍は、海域に存在する島の一つで発見された人工建造物の前にいた。明らかに海軍の設営した拠点などではない、どこか禍々しさを感じさせる建物だ。

「ほんとに何なのかしら~?以前はこんな建物があるなんて報告はなかったはずよね~?」

 天龍と共に上陸した龍田も、小首をかしげている。この島は海域に数ある、何の変哲もない島の一つであったはずで、木々が茂る以外には特に何もないような島であったことは間違いない。少なくとも、観測機からも確認できるような施設が存在するというような話はなかったはずだ。

「扉は普通に開きそうだが、どうする?」

「どうするって言っても・・・入ってみるしかないんじゃないの~?」

 天龍と龍田は顔を見合わせ、渋々施設の中に足を踏み入れる。中は手入れがされているのか、想像に反して小ぎれいで、古くから放置された廃墟の類ではないことは確かのようだ。いや、そもそもとして電気が通っている。照明がついているのだ。それに外観からは分からなかったが、そこそこの広さがある。雰囲気はどこか軍施設や研究所のようだった。

「ちゃんとした建物だな。やっぱここ最近作られたとしか思えねえ」

「おやおや、御来客でしたか。気が付きませんでした」

 突然の背後からの声に、二人とも得物を抜き放って振り向きざまに構える。そこにいたのは、奇怪な風体をした男――仮面をしているため声でしか判断できないが――だった。パワードスーツのようなものに身を包み、特徴的な仮面は中央部が縦に一筋、発光している。

「なんだお前は!この施設の関係者か!?」

「ええ、私がこの施設の主です」

「私たちは日本海軍の艦娘よ。貴方は一体何者なのかしら?」

 龍田が槍の切っ先を向けたまま男に言った。男はそれを気にする様子もなく、両手を大仰に広げて見せた。

「私はボンドルド。『黎明卿』と、人は呼びます。最も、どうやらこの世界にはアビスは存在しないようですが」

「この世界、だぁ?わけのわかんねえことを言ってんじゃねえよ!異世界から来たとでもいうつもりか?」

「まさしくその通り。ここは私がいた世界とは異なった世界なのでしょう。君たちと同じく、艦娘という者たちと話した限りでは、そう判断せざるを得ませんでした」

 ボンドルドと名乗った男の言葉に、龍田が反応した。

「艦娘と話した、というのは、ここに艦娘が来たということかしら~?」

「ええ、そうですよ。彼女はまだここに滞在しています」

 龍田は横目に天龍を見る。天龍はうなずいて、ボンドルドから視線をそらさないよう、じりじりとその後ろに回り込む。あからさまに敵対心を見せた行動だが、ボンドルドは気にする様子がない。

「私たちは行方不明になった艦娘を捜索しているのよ。その艦娘に合わせてもらえるかしら?」

 天龍に目配せし、怪しい動きがあった時にはすぐさま制圧できるよう、身構える。このボンドルドという男が遭難した艦娘を善意で保護しているような人間なら良いが、どう見てもそうは見えない。状況からして疑うなというほうが不可能であろう。

「勿論、構いませんよ。ここより奥の部屋です。ご案内しましょう」

 しかしボンドルドは変わった様子も見せず、立ちふさがる形の龍田の脇を抜けて、施設の奥へと歩いていく。それに続いて二人も、恐る恐る進んでいる。しばらくまっすぐ進むと、正面に大きく無骨な自動ドアが見えた。ボンドルドがドアのそばにあるパネルを何やら操作し、ドアを開くと、中は真っ暗だった。照明をつけますので、と言ってボンドルドが部屋に入っていった。

「ああそうだ。一つ、貴女方に断っておくのを忘れていました――」

 ぱっと照明がつき、部屋を照らす。その部屋には、様々な機械や器具が並んでおり、まるで研究室や、手術室化のようにも見えた。だが、二人の視線を奪ったのは、中央の実験台に転がる、まるで人体模型のような、ソレ。

「申し訳ありません。もう解体してしまいました」

 

 

 

 

 一瞬後、天龍と龍田は同時にボンドルドに切りかかる。状況の理解は追い付かないが、本能は全力で警鐘を鳴らしており、この男は殺すべきだ、と伝えている。陸上とはいえ、艤装を纏った状態の艦娘の膂力は、たやすく人を肉塊に変えることのできるほど。しかし。

「おやおや、何故襲い掛かるのですか?約束通り合わせて差し上げたではありませんか」

 天龍の剣も、龍田の槍も、それぞれ片手で受け止められた。当然ながら、常人にそのような芸当ができるわけがない。二人は咄嗟に飛びのき、間をとる。天龍はギリ、と歯を噛みしめ、ボンドルドをにらみつける。

「てめェ、何でこんなことをした!?」

「艦娘という未知の存在を理解するためです。もう少し早く来ていただければ、息はあったのですが」

「ッ!この、イカれ野郎ッ!」

 天龍は再び飛び掛からんと、剣を振りかぶる。

「天龍ちゃん!下がるわよ!」

 今にも切りかかろうとしていた天龍に、龍田が叫んだ。そのまま龍田は駆け出す。天龍の返答も聞く前に動くのは信頼のためだ。その通り、天龍もすぐに続いてきた道に走り出した。

 施設を飛び出した二人は、そのまま海へと向かう。

「このまま洋上に出るわよ!このまま戦うのは、嫌な予感がするわ!」

「同感だ!待機している連中と合流して艦砲射撃で潰す!」

 砂浜を駆け抜け、海上へ滑り出す。ここまで来れば、まずは一安心だ。海上は艦娘の戦場であり、その能力を最大限活かすことができる。後は陸に残された敵を一方的に叩くだけだ。

 海上に出てすぐ、待機していた部隊の艦娘達が見えてきた。ほっと一息をついた。

 

 

「『明 星 へ 登 る(ギャングウェイ)』」

 

 

 次の瞬間だった。二人の背後から幾度も空中で反射する光の帯が飛来し、待機していた艦娘たちを貫く。彼女たちが回避する間もなく、貫かれた艤装は大きな爆発を起こし、後には何も、残らなかった。後ろを振り返る。そして二人は、目を疑った。

「・・・なんでてめェが、艦娘でも、深海棲艦でもないてめェが!艤装を装備してやがるんだッ!」

 そこには、艦娘が海上を行動するために装備する、『艦娘にしか装備できない』はずの艤装を纏った、ボンドルドがいた。

「カートリッジ、と言ってもわかりませんよね。要するに、私が『装備した艦娘』と艤装を接続することで、艦娘を通して艤装を制御しているのです。少々荒っぽいやり方で操作感も良くはありませんが、もっと研究を進めれば形になるでしょう。いやはや、艦娘とは素晴らしい」

「何を言ってるのかわからないけど、貴方は危険ね。ここで死んでもらうわ」

 龍田が主砲を構え、至近距離で撃った。強靭な装甲を持つ深海棲艦すら一撃に、ボンドルドは。

「『枢 機 へ 還 す 光(スパラグモス)』」

 肘に装備された機械のようなものから撃ちだされた光線により、砲弾は分解され、霧散し、その光線は龍田の胸に風穴をあけた。後ろに力なく倒れた龍田は、そのまま海の底へと沈んでゆく。

「なッ・・・龍田!おい!龍田ァッ!・・・ぐぅッ」

 狼狽する天龍の首を片手で締め上げ、持ち上げるボンドルドは、もう片方の手で、天龍の艤装を破壊した。

「お友達が沈んでしまいましたか。研究のためには一人でも多くの艦娘に協力していただきたいところでしたが、今回は貴女だけで良しとするとしましょう」

 天龍を無力化すると、ボンドルドは天龍を右肩に担いで島へと戻ってゆく。せき込みながら、天龍は叫んだ。

「ごほッ!てめェは・・・てめェは!一体なんなんだッ」

 天龍の叫びに、彼はもう一度名乗る。

 

 

 

「私は黎明卿、ボンドルド。この世界に夜明けを齎す者です」

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