「提督・・・、行方不明多発海域に調査に出撃した艦隊が戻りません・・・。恐らく、彼女達も行方不明に・・・」
南方のとある泊地の提督の執務室で、大淀による報告が行われていた。あろうことか、この泊地の近海で多発する作戦中行方不明の調査に赴いた艦隊が、行方不明となったのである。
「またか・・・!これで何度目だ!?」
度重なる艦娘のMIAにより、この鎮守府は窮地に陥っていた。もとより規模の小さい鎮守府であったこともあり、もはや全戦力の半数近くを喪失しているのだ。所属する艦娘達にも、事態の異常性による恐怖が広まっており、その士気は低かった。
「提督、最早我々には余裕がありません・・・。大本営に援軍要請を出すべきです」
大淀は無駄だとわかりながら、提督に進言した。この中年小太りの男が、そのような進言を聞き入れるはずがない。
「馬鹿なことを言うな!そんなことになれば、私の責任が問われるではないか!ただでさえ南方の最前線に飛ばされているというのに、失態があったとなっては、何処に飛ばされたものかわからんわ!そんなこともわからんのか、忌々しい艦娘めが!」
想像通り、提督は罵詈雑言を飛ばしながら進言を突っぱねた。この男には様々なうわさがある。曰く、重要な作戦で大失態を犯した、であるとか。曰く、立場を悪用して艦娘に手を出している、であるとか。いずれにせよ、屑であることに違いはない。此度の事態も、大淀はもっと早い段階で調査を進言していた。それを、多少の損害は織り込み済みだと聞き流していたのは、ほかでもないこの男である。
「いいからさっさと出撃しろ!ドロップ艦を回収したら多少は補填になるだろう!」
「し、しかし・・・仮にこれ以上の戦力の喪失があれば、当鎮守府は機能不全に陥ります!備蓄資源も、多くはないのですよ!」
「そうさせないための出撃だろうが!貴様ら兵器どもが口答えするんじゃない!」
提督は手近にあった書類の束をわしづかみ、大淀に投げつけた。バサバサと床に散らばっていく書類を、大淀は何も言わずに拾っていく。もう何度となくあったことだ。何も感じはしない。ただ、この男のせいで同僚の艦娘達がいなくなっていくことが、酷く悲しかった。
大淀が資料を拾い集めていると、コンコン、と執務室の扉をノックする音が聞こえた。振り返ると、扉を恐る恐る開ける緑髪の少女がいた。
「あの・・・提督・・・」
「なんだ山風!私は忙しいのだぞ!」
「ひっ・・・ごめ、んなさ・・・、でも、お客さんが・・・」
提督に怒鳴られ、びくりと跳ねる山風の後ろから、するりと異様な風体の男が現れ、山風と共に執務室に入ってくる。
「ああ、貴女は山風というのですね。案内してくれてありがとうございました、山風」
黎明卿、ボンドルドである。山風にねぎらいの言葉をかけ、頭をなでる。
「なんだ貴様は!?ま、まさか憲兵か!?」
「いえ、私は憲兵ではありません。探窟家のボンドルドと申します」
ボンドルドは左手を広げ、右手を胸に、恭しく頭を下げる。提督も、大淀も状況がつかめなかった。この男が何者なのか、なぜここにいるのか。
「何を分けのわからんことを・・・!山風!何故こいつをここによこした!?言ってみろ!!」
「え、えっと・・・偉い人は、何処だって・・・聞かれたから・・・」
ドンッと机を強く叩く音に、また山風が怯える。提督は額に青筋を立てて怒鳴り建てた。
「ふざけるなッ!!不審者を司令官のところに案内する奴がどこにいる!?役立たずのガキが!!」
提督の罵倒に、山風は今にも泣きだしそうな表情で、顔を伏せた。
「おやおや、いけません、そのように罵倒しては。貴方の大切な艦娘でしょう?」
ボンドルドは一歩前に出て、提督に言った。提督はボンドルドをにらみつけ、激高からわなわなと震えている。大淀は口をはさむこともできず、ただおろおろと二人を見ている。
「艦娘など所詮兵器と変わらんわ!どう扱おうと私の自由だろう!」
「だめですよ。彼女たちは命を賭して人類の敵と戦っているのですから、敬意と愛情を持ってかかわっていかなくてはいけません。愛ですよ。愛を持って接すれば、必ず彼女達は答えてくれます」
ボンドルドが提督をたしなめるように言う。激高していた提督も、これには困惑を覚え、肩で息をしながら、怪訝な目を向けている。
「貴様、一体何者だ・・・?何をしに来たのだ!?」
「ああ、そうでした。申し訳ございません。本題を申し上げるのがすっかり遅れてしまいました」
ボンドルドがまた頭を下げる。
「本日は、この基地を私にお譲り頂きたく、こちらに伺ったのです」